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ミステリの祭典

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雪の炎

作家 新田次郎
出版日1973年01月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 斎藤警部
(2025/02/18 11:40登録)
「私はあなたの兄さんの普通でない死に方に興味を持ちました」

谷川岳を目指した、男3人女2人のパーティ。 天候と女のわがままに翻弄される中、リーダーの男が凍死する事故(事件?)が起きる。 被害者の妹はこの死に疑惑を抱き、事件(事故?)をきっかけに知り合った男女数名の協力を得、”兄の殺人者”(仮にいたとして)を糾弾すべく、真相究明の旅に乗り出す。 だがその数名の中にこそ ”犯人” が紛れ込んでいるのではないか。

「名菜枝さんは、これがきっかけになって、山から離れられなくなるでしょうね」

凍死トリック?への匂わせには、趣向は異なるが “ホッグ連続殺人” を連想させるものがある。 ○○図を紛失ですと! そして思わぬ物陰から頭をもたげる、空白の××。。。
中盤から不意に登場した、新たな登場人物、こいつがいい具合に場を搔き乱しつつ、手掛かりへの道標にもなってくれそうな予感。 ○○派大反転への腹を衝く予感と、その裏打ちめいた、お山さんにもそぐわぬ、具体的事象。 「◯い」 という被害者最後の言葉の謎。 いくつかの(いくつもの、決して煩くない)恋愛案件。

解決に向けての推理乃至追究のポイントをまとめてくれた箇所があったのはありがたかった。 ところどころ、こそばゆいような、或るものを折半した並び?が見えたのも良かった。
どうしてそこに外国人・・それもドイツと日本のハーフ・・が配置されるのかと思ったら。。そういう物語構成の事情でしたか。 うん、そこから過去に遡り、地に足の着いた感動に繋がる所は美しかったですね。

「見えない頂に立った瞬間、足を滑らせて墜落して死んだ者もいます。そうなりたくはないが、そうなったとしても後悔しないつもりです」

ミステリ興味で引き摺るだけ引き摺って、いよいよ “山の裁判” シーンに入り、思わせぶりな最終章で、アレッと思わす。。 しかし普通文学としての充分な爪痕を残した。 そこに少なからぬミステリの毒素が忍ばせてあったというだけで、ミステリ小説として、私は満足です。

タイトル「雪の炎」、読前はちょっとシャバいんじゃないかと危惧もしたが、決してそんなことはなかった。 自然現象に因んだ、良いタイトルだ。
「名菜枝」が稀に「名探偵」と空目されてしまった事を、最後に添えておこう。


臣さんの評、特に
> 後半になってその人たちの人物像に変化が見られてきて、俄然楽しくなる
> 最終的には、動機や真相を主たる謎とした広義の社会派ミステリーといった感じ
> そんなマイナス点が気にかからない何かがあり
のあたりには大いに共感いたします。


“「雪だわ」 と××が叫んだときがその年の初雪の訪れだった。” 。。。

No.1 7点
(2013/09/10 09:56登録)
山岳小説の大家が書いた数少ない山岳長編ミステリー。
5人からなる登山パーティーのリーダー・華村敏夫は、なぜ一人だけ遭難死したのか。その謎を妹の名菜枝が探る。

序盤の遭難場面は迫力がある。その後は、名菜枝が探偵役となって、身内としての感情をまじえながら当事者たちを対象に聞き込みをする。
ラストでは山で裁判が行われる。

聞き込み場面では前半、当事者たちが名菜枝から見てみな怪しく、油断ならない人物のように描かれている。主人公がこれほど猜疑心を持って人に接するのには、ちょっと奇異な感じがした。被害者の身内なのだから、ある意味、自然な描き方ともいえるのだが。と、疑問を抱きながら読み進んでいくと、後半になってその人たちの人物像に変化が見られてきて、俄然楽しくなる。そのへんに構成の巧みさを感じた。

中途では、企業物の様相も呈してきて、狭義の社会派ミステリーという印象を受けたが、最終的には、動機や真相を主たる謎とした広義の社会派ミステリーといった感じがして、個人的には好ましく思えた。まあ、きわめて俗っぽく、2時間サスペンスになりやすい内容でもあるのだが。
人物描写や最後の詰めの部分にはひっかかる点もあり、推理小説として完成度は高いとはいえないが、そんなマイナス点が気にかからない何かがあり、ミステリー風人間ドラマにおおいに満足した。

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