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ミステリの祭典

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黙過

作家 下村敦史
出版日2018年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 パメル
(2023/05/31 06:35登録)
タイトルの「黙過」とは、知らないふりをして見逃すの意。移植手術、安楽死、動物愛護など生命の現場を舞台にした5編からなる短編集だが、通して読むと一つの主題が姿を現すような構成となっている。最終章以外は、どこから読んでも構わないが最終章の「究極の選択」は最後に読むようにしてください。
「優先順位」轢き逃げ事故によって病院に運ばれた、肝不全で意識不明の患者が病室から消えてしまう。臓器移植を巡る医局の抗争物語。
「詐病」パーキンソン病で自宅介護を受けていた父親の病気が実は詐病ではないかと疑惑を持つ。安楽死を乞う父親を前に懊悩する家族。
「命の天秤」養豚場である朝、出産を控えた母豚十頭の胎内から、全ての子豚が盗まれる。過激な動物愛護団体が突き付けた狂気な正義。
「不正疑惑」細胞研究所の有名な研究者で学術調査官だった友人の自殺が、ある不正疑惑が原因かもしれないと知った精神神経医療研究センターの副センター長である小野田が、情報をもたらした医療ジャーナリストと共に真相に迫る。
「究極の選択」ここまでの4編は難しい命題が出てきて、それぞれ独立したかたちで結末まで描かれている。しかしこれら4つの作品を繋ぎ合わせるように一つに収束していく。それぞれ全く関係のない話だと思っていたから驚き。ここまでの4編が、読み終わった後もなぜかモヤモヤした感が残り、釈然としなかったが最後の1編で理由がわかってくる。最後に明かされる真実は、温かく包み込まれた感じになる。命の重さについて考えさせられる作品である。

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