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ミステリの祭典

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黙過

作家 下村敦史
出版日2018年04月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 9点 斎藤警部
(2025/02/22 01:36登録)
「”早まったな” と」
「一言だけですか」
「はい」

結末だけではなく、思いがけず話の途中から、大きな反転が攻め入って来る。 それもジャブではない、思い切ったKO狙いの激しいやつ。(と見せて脅かしの寸止めだったりもする。)
こいつ死にゃあいい、と思わせるような人物が実は ・・・ とか。 時に極端な行動を見せるキーマンの、ちょっとした無理矢理感とか。
上述のあたり、各作に共通の要素かも知れない。 医学のディープな問題提起が底に流れる短篇集。 こいつぁちょっと凄い。

優先順位
急患で運び込まれたのは車に轢かれた青年。 肝臓に致命的損傷を負った彼は、臓器提供の意思表示をしていた。 彼への肝臓移植に僅かな望みを託すか、或いは彼の肝臓以外の臓器を他者へ提供の方向で進めるか、二人の准教授が対立する。 主人公は片側の派閥に属する若い医師。 そこへ轢かれた青年の幼なじみだと言う若い女性が登場。 片方の准教授に或る事をお願いしたらしい。 やがて予想外の事象が立て続けに “ミステリの場” を襲い ・・・ 思わず唸る、凄い反転 + 反転返しで連城三紀彦を容易に連想させるド迫力の一篇。 ただ、最後が、割り切れてない振りしてほんとは割り切れ過ぎなのかな。。 そこがどうも微妙だ。

詐病
なにしろタイトルの睥睨力が凄い。 パーキンソン病のため厚生労働省事務次官(!)を退いたとされる男には、しっかり者の長男と風来坊の次男がいる。 次男は十数年ぶりに実家へ帰り、介護に忙殺され荒んだ生活を送る長男と、重い病を得てなお傲岸さの衰えない父親とに再会する。 父親の謎めいた行動には底が見えず(野暮用って。。)、あまつさえ彼は次男にある重大な告白をする。 遺産相続の問題が絡む。 すると予想外の事象が立て続けに “ミステリの場” を襲い ・・・ 熱い熱い反転劇の挙句、こんな○ー○○○ー○○○な結末ってあるか。。。

命の天秤
二つの養豚場と、家畜解放(だけじゃない!)を訴える過激集団。 悩ましくも予想外の事象、不可解に過ぎる事件が立て続けに “ミステリの場” を襲い ・・・ こんなに重く複雑な問題提起をしておきながら、どことなく大味なクロージング。 事件解決と問題提起との噛み合わなさもその一因か。 これだけ激動に躍動を重ねる大逆転のストーリーでありながら、急に割り切って話を終わらせたような。。 それでも胸を打つ。

不正疑惑
妙に大雑把なタイトルにはきっと何か罠が・・?! 娘を心臓の病で亡くした直後、あるメッセージを残して自害した医師。 彼は或る主婦から “娘を殺された” と訴えられていた。 或る汚職的不正行為への疑いも持たれた。 そこに巨木の如き大きな疑惑を感じたのが、彼の古い友人であった研究医。 やがて一人の医療ジャーナリストが合流し、何重ものカーテンに深く覆われた行為と心の真相へ辿り着こうと藻掻く。 最後は、内向きには激しいが、外向きにはやさしい反転で締まる。

うむ、ここまで短篇4作。 どれも相当な高水準には違いないが、どうにもモヤモヤが残った。 まあそういうミステリもまた良しである。


■□■□■  ここから先は、本作の○○に関するネタバレを含みます 真相自体のネタバレには及んでいません それでも、未読の方にはここで STOP する事を強くお勧めします  ■□■□■








“――人間として赦されないことでした。”

やはりこの著者は短篇より長篇の人なのかなあ、なんて思ってたら 。。。。 長篇じゃねえか!!

究極の選択
ってのは、実は長篇小説『黙過』の最終章のタイトルだったのか・・ それは良いとして

・・ ま・さ・か ・・

“横たわっているのはーー”

恩人に迷惑を掛けたくないってか。。 無茶も必要か。。 そんで、まさかの、色んな意味で尊い友情の発露か・・・ 本気なのか・・
思わせぶりで、結局読者に対しては寝返った(?)伏せ字会話のギリギリの。。

「ま、軽く●●●●の歴史を講義しよう」

いやあいやあ、まいりました。 この、めくるめく極彩色てんやわんや反転×反転の大盤振る舞いがまったく大味にならない、凄まじい底力を見せる長く内容に溢れた真相暴露の大海原。
そうか、あのクソ忌々しいチャラファッキンデブのスムゥーズ過ぎる言動が、最高のスリル焚き付けに寄与していやがったのか。。

「告発するしかないねえ」

さあ皆の者、病院へ集合だ!! 皆それぞれの期待を胸深くに収め、人倫審査の栄光あるブライトステージへと押し寄せよ!!!!
本作、長篇としてのオーラスへと向かうサスペンスと見せ場と発熱との伸び具合がまるで幻の様に、行きつく先が見えない。
最終コーナーに至ってもアルティメットブルズアイをヒットするまでは行ったり来たり間をたっぷり取ったスイッチバックで実に愉しい旅路だ。

「父がまた行方不明になりました」

うおおおーーーーー 更に、おーーーい、そっちかよーーーーーーー  いんやいや違う違う違う違う違う、そうじゃな~い~ うおおおおーー!! あまりに熱い、秘密を伴う、”時系列”の自然な目眩しかよーーーー なんだよその、反転まで行くまでもない、シアーでグラビングな現代ならではの逆説はよーーーぉう  いったい何重の嘘の逆説のウェディングケーキ走馬灯がそこに回っているんだよ。 終わりそうでいつまでも終わらない詰将棋のような、焦らすようで実は高速で動いている解決ストリップティーズの最高の臨床体験よ。

謎が解けた後、更に立ちはだかるのが、この小説の大結末の絶壁だ。
倫理問題もあるが、やはりミステリとして怖いくらいの谷底の深さをそこに感知せざるを得ない。

「証拠を押さえたらスクープだよ」

私のような頭のおかしいトンチキ野郎にはその “アレ” が充分に味わい尽くせませんが、まともな倫理感覚を持ち合わせていらっしゃる多くの皆様にとっては、充分におぞましい。。いやいやいや、違いますよそんなんじゃねえ、真相の奥の方まで覗かせていただいたら、おいらにとっても充分に気狂い沙汰でした、流石に ”アレ” は。

「当事者がいきなり現れたら、もう言い逃れできないでしょ」

エピローグが、記事の “下書き” で終わるというのがね、また色々妄想させるわけでしてね。

有栖川有栖氏の、ちょっと圧倒されてる感じの巻末解説には共感しかありません。


ところで本作、最初の4作が本当にただの短篇だったら、採点は
「優先順位」 8点
「詐病」   8点
「命の天秤」 7点
「不正疑惑」 8点
となり、そこ迄の総合で8点になっていた事と思います。

4作それぞれに見られた “微妙な弱さ、もどかしさ” の隙間こそが、実は最後の「究極の選択」でギュギュッと締め上げられて、全体として完璧な形態に成り上がるという構造、素晴らしく熱いです。

連作短篇集の各話が(表あるいは裏で)繋がっていたり、最後の話で収束するといった形式は普通によく見られますが、この本はそういった次元を跳び越えて、遥かな遠くへと飛び去ってしまっています。 ブラボー・・・・

No.1 7点 パメル
(2023/05/31 06:35登録)
タイトルの「黙過」とは、知らないふりをして見逃すの意。移植手術、安楽死、動物愛護など生命の現場を舞台にした5編からなる短編集だが、通して読むと一つの主題が姿を現すような構成となっている。最終章以外は、どこから読んでも構わないが最終章の「究極の選択」は最後に読むようにしてください。
「優先順位」轢き逃げ事故によって病院に運ばれた、肝不全で意識不明の患者が病室から消えてしまう。臓器移植を巡る医局の抗争物語。
「詐病」パーキンソン病で自宅介護を受けていた父親の病気が実は詐病ではないかと疑惑を持つ。安楽死を乞う父親を前に懊悩する家族。
「命の天秤」養豚場である朝、出産を控えた母豚十頭の胎内から、全ての子豚が盗まれる。過激な動物愛護団体が突き付けた狂気な正義。
「不正疑惑」細胞研究所の有名な研究者で学術調査官だった友人の自殺が、ある不正疑惑が原因かもしれないと知った精神神経医療研究センターの副センター長である小野田が、情報をもたらした医療ジャーナリストと共に真相に迫る。
「究極の選択」ここまでの4編は難しい命題が出てきて、それぞれ独立したかたちで結末まで描かれている。しかしこれら4つの作品を繋ぎ合わせるように一つに収束していく。それぞれ全く関係のない話だと思っていたから驚き。ここまでの4編が、読み終わった後もなぜかモヤモヤした感が残り、釈然としなかったが最後の1編で理由がわかってくる。最後に明かされる真実は、温かく包み込まれた感じになる。命の重さについて考えさせられる作品である。

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