アイス・コーヒーさんの登録情報 | |
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平均点:6.50点 | 書評数:162件 |
No.142 | 6点 | 災厄 周木律 |
(2014/10/26 12:38登録) 「眼球堂の殺人」でメフィスト賞を受賞した著者の初ノンシリーズ長編。本格の体裁をとった「堂」シリーズの方は未読だが、本作はパニックサスペンスになっている。 本格ミステリ作家らしく、意外な不審死の正体や巧妙な伏線など、秀逸な点が各所に見られ割と面白かった。確かにこれでは日本が壊滅するのも頷け…。 文章も読みやすくスラスラ読み進められた点も好印象。とりあえずサスペンス路線での活躍も期待できそうだ。 ただ、政府が即座に四国での不審死をテロだと主張した理由がよくわからない。著者が再三再四言い訳をしてなんとかこじつけようとしているのは感じられたものの、ここの展開がご都合主義すぎて気になってしまった。 それにあっさり終わらせないラストも少し気に入らない。日本人的な結末ではあるけど、B級サスペンスでそんなこだわりを入れなくてもいいのに…。 とはいいつつも面白かったことには変わりないので、映像化していただきたい一冊だ。 |
No.141 | 8点 | さむけ ロス・マクドナルド |
(2014/10/26 12:26登録) 謎解きに重点が置かれ、本格ミステリファンでも親しみやすいと評判のハードボイルド作家、ロス・マクドナルド。印象的なのはあの意外な犯人だろう。 とはいってもやはり内容はハードボイルドで、個人的に苦手な私にとっては中々なじみにくかった。しかし、私立探偵リュウ・アーチャーが関係者の過去を少しずつ紐解いていくにつれ、人間関係の崩壊が明らかとなる構成は見事だし、すべての誤りの根源となるある一つの差異が発覚した時の「さむけ」は本物だ。 二転三転する推理にも、一筋縄でいかないところがあり感心させられる。また、独特のコマ割りの速さも作品にメリハリをつけていて好感が持てた。 ただ、本作が本格ミステリとして優れているかと問われるとさほどでもないように思う。本作の魅力はあくまで悪意と愛の伝染であって、意外な犯人も謎解きの巧妙さも小道具にすぎないように思えるのだ。 |
No.140 | 4点 | 半導体探偵マキナの未定義な冒険 森川智喜 |
(2014/10/06 11:53登録) 祖父の発明した四体の探偵ロボット。彼らは人間を越える身体能力とロボットならではの捜査能力で事件を解決していく名探偵だが、肝心の祖父の死によって三体にエラーが発生してしまう。残る一体、マキナに協力を要請された俺こと坂巻正行は探偵捜しに奔走する…。 「天才モリカワ」として注目を集める著者の長編ミステリ。本作最大の特徴は「名探偵の行動はどこで間違ったか」というあまり前例のない疑問をテーマにしているところにある。 エラーを起こした探偵ロボットたちが町で引き起こす珍行動の理由を探っていくわけだが、できればもう一工夫くらい欲しかった。ロボットを登場させるならロボット三原則くらい持ち出してネタを掘り下げても良かっただろうし、「ロジックの誤り」の真相も少し安直だ。 また、著者の作風は良くも悪くも新本格初期の香りを漂わせていて本格に対する愛は感じるもののストーリーが適当すぎる。それでいて事件解決のロジックが弱いところも減点対象だ。このやり方で今後勝負していくのは難しいだろう。 はっきりいって一番面白かったのは「INCLUDE」に登場する現金盗難事件で、それ以外の「COFFEE BREAK」は全部二番三番煎じに感じた。 |
No.139 | 6点 | 午前零時のサンドリヨン 相沢沙呼 |
(2014/10/06 11:35登録) 鮎川哲也賞を受賞した日常の謎系学園ミステリ。乙女チックな要素が満載のボーイ・ミーツ・ガールストーリー。 相沢氏は魅力的で洗練された独特の文章が特徴のようだが、個人的には中々クセになる文体だった。迷いつつ、悩みつつも励ましあう須川君と酉乃さんのラブストーリーが読みどころで、特に終盤の展開がかなり気に入った。彼らのその後が気になる。 ただ、選評にもある通りいじめや自殺といった「学園もの」の要素が適当すぎる部分もあり、少し残念だった。このあたりは今後改善していくのだろうか? 正統派日常の謎らしく連作短編の形式で、構成は最初の三篇で伏線を張り、ラスト一編で回収という定番パターン。そのあたりも器用にまとめているあたり優等生らしさがうかがえる。 私的には、本棚の論理から発展させていく「空回りトライアンフ」の謎ときが面白かった。ラスト一編の「あなたのためのワイルド・カード」も見事だが、少しストーリーを詰め込みすぎてる気がする。 もう何作か追っていきたいと思った。 |
No.138 | 8点 | 神様ゲーム 麻耶雄嵩 |
(2014/10/06 11:19登録) ぼく、黒沢芳雄は〈浜田探偵団〉の一員として連続猫殺しの犯人を追っていた。そんな時に出会ったのが鈴木太郎。自らが「神」だと主張する彼とぼくは神様ゲームを始めるが…。 全知全能、唯一無二の神様が登場して事件を解決する麻耶作品の中でもトップクラスの問題作。児童向けのレーベル、ミステリーランドから出版されながらもそのブラックすぎる内容から「子供に読ませたくない児童書」として悪名が高い。 本作では「人間社会の闇」の部分を白日に晒し、純粋な子供に見せつける試みが随所に見える。それ自体はかなり悪趣味な行為で、確かに子供に読ませたくない。 しかし、この本の内容が優れているのもまた事実だ。密室状況の現場やアリバイトリック、解決のロジックに至るまでかなり作りこまれているのは安定の麻耶クオリティ。さらに最初から最後まで(大人でも)驚かされっぱなしの奇抜な展開。凄すぎる。 大人が読んでもかなり衝撃的な内容だが、作中の芳雄や読者の小学生にとっては強烈過ぎる一冊だ。グロテスクな猫殺しの真相もさることながら、神様の天誅や、ロジックの導き出した意外な犯人、そしてあの結末…。 本作の肝は、これを読んだ大人が「子供に読ませたくない!」と感じることにあるのではないだろうか。いくら麻耶氏でも、この本を子供に読ませてトラウマを植え付けるような悪趣味な目的はないだろう。というか、そう願いたい。大人になったかつての子供たちに社会の残忍さを再認識させる一冊なのだとそう解釈しよう。 芳雄がその後どういう人生を送ったのか、気になるところだ。 |
No.137 | 8点 | 異邦の騎士 島田荘司 |
(2014/10/06 10:59登録) 「占星術殺人事件」以前に書かれた著者の実質的な処女作。記憶を失った男の過去を巡る、御手洗潔最初の事件。やはり、御手洗シリーズを何作か読んでからこちらに来るのがお勧め。 「占星術」や「斜め屋敷の犯罪」のような大掛かりなトリックは仕掛けられず、ストーリーを重視した本作だがその面白さはかなりのもの。記憶喪失の男と良子の恋愛、御手洗との友情、そして中盤からのサスペンスと終盤の感動まで、どこか青臭い内容ではあるが私は本作が好きになった。 一方で推理小説としても興味深い点は数多くあり、例の読者に対するサプライズはもちろんのこと、記憶喪失の設定を見事に扱った真相やそこに至るまでの伏線なども十分評価に値する。特に「○○の××が非常に似ている」ことを応用した一連のトリックは流石としかいいようがない。 物語のテンポも心地よいもので、かなり楽しい読書体験となった。 |
No.136 | 8点 | ブラウン神父の童心 G・K・チェスタトン |
(2014/09/21 10:14登録) チェスタトンの代表作にして、逆説的な推理と斬新なトリックが多用されるブラウン神父譚の伝説的な第一短編集。 冴えない神父が推理の分野で驚異的な才能をみせるという「意外な探偵役」の設定や、読者の固定観念を破壊していくトリック、文学的な情景描写など。全く新しい手法で探偵小説界に挑戦したという点で見事だ。 神父初登場の「青い十字架」は神父自身の狂人的な行動に論理的な説明をつける話。他の短編同様、これもその後何度も模倣された内容ではあるが、一見複雑で無秩序に思える神父の行動が単純な真相を指し示しているという発想が凄い。 密室殺人と首切り犯罪を描く「秘密の庭」も実に完成された作品。やはり現代の読者はすぐに見破ってしまうかもしれないが、不可能犯罪のハウダニットと首切りのハウダニット、更にはフーダニットに至るまでの気を抜けない構成には目を見張る。 狂ったミッシングリンクものとしての「イズレイル・ガウの誉れ」は舞台設定と真相のギャップ(というかリンク)が面白いし、「神の鉄槌」は伏線回収や意外な犯人が素晴らしい。さらにそのトリックを応用したうえで複雑化を図った「三つの兇器」もかなりよく出来ている。 他にも、十八番の「木の葉を隠すなら~」を使った「奇妙な足跡」「折れた剣」なども名作だ。トリックは使い古されて多少色あせするが、私的にはかなり楽しく読むことが出来た。 欠点をあげるならば、やはり訳文。和訳自体は問題ないのだが、濃厚な情景描写のうえに絶望的に改行が少なく、ひたすら読みづらい。特に各編冒頭の風景描写のシーンには中々苦労させられた。東京創元社にはそのあたりをどうにかしていただきたい。 |
No.135 | 6点 | 愚者のエンドロール 米澤穂信 |
(2014/09/21 09:37登録) 古典部シリーズ第二作。未完のミステリー映画の真相を求めて、折木や千反田たち、古典部が奔走する。 前作「氷菓」に比べると格段に面白くなっている印象を受ける。「毒チョコ」を題材にした多重解決や、その末にある結末も工夫がなされ、ついでに文体の拒否反応も起きなくなった。 登場する密室トリックはすべて前例があるものだが、オリジナルの改変があったうえ、登場人物たちがそれを推理していく過程が面白かったため特に気にならなかった。無論のことフェアプレーの精神も貫かれ、複線の配置も巧い。 ただ、映画中の事件現場における環視状況や、アリバイの有無が分かりにくかった。図表も見取り図だけで、もう少し細かく描写して欲しいところだが…。 物語としては、折木の探偵としての苦悩を中心に据えているようだ。古典部入部以来、「省エネ」の信条に反しながらも千反田にせがまれて謎解きをやってきた折木の葛藤が描かれている点が最大の見どころだろう。 それにしてもサブタイトルの「Why didn't she ask EBA?」は…。 |
No.134 | 8点 | 叫びと祈り 梓崎優 |
(2014/09/20 22:36登録) 翻訳ミステリを読むと、日本では考えられない理由で犯罪が起きることがある。本作はその「ギャップ」をあえてテーマに据えて書かれた連作短編集だ。あるジャーナリストの青年・斉木が世界各地で遭遇する奇怪な事件が並んでいる。 デビュー作「砂漠を走る船の道」はかなり面白い。砂漠のキャラバンで起こる連続殺人という、特殊なクローズドサークル下での犯人当てとその犯行動機には驚愕させられる。さらにその上にもう一工夫加えてくる執念深さにも感嘆。詩的な情景描写を中心とする独特の文体も一役買って、実に魅力的な一編となっているのでこれだけでも本作を読む価値はある。 スペインの風車に伝わる「消えた兵士」の謎を巡って推理合戦が繰り広げられる「白い巨人」も、衝撃こそ前作に劣るもののかなりよく出来た仕上がりになっている。密室での消失トリックは色々とアレではあるが、儚い恋を描いたこの内容なら不思議と許せてしまう。 南ロシアの決して朽ちない聖人の遺体を巡る「凍れるルーシー」は前二作で慣れた読者にとっては、トリックがわかりやすくなっていて残念だ。しかし、ホワイダニットの伏線回収は見事で結末の衝撃も中々。唯一あの猫のロジックだけは気に入らないが。 「叫び」は南米の未開民族の部落で伝染病が流行る中、突然連続殺人が発生する話。内容としては「砂漠を走る船の道」に近いが、動機はそれよりさらに捻くれてる。(いや、単純化されてるというべきか。) そして、四編の短編が最後の「祈り」で収束する。確かに展開が突然すぎるのは、それまでの連作が面白かっただけに勿体ない気もするが、一つの結末として納得することにしよう。 振り返ってみればまだ不器用ではあるが、かなりの力量を持つ大型新人だ。これからも本格ミステリの新たな地平を開拓していただきたい。 |
No.133 | 6点 | ポアロ登場 アガサ・クリスティー |
(2014/09/20 22:00登録) テレビドラマのポワロシリーズがついにファイナルシーズンに入ったので記念にエルキュール・ポアロ第一短編集を読了。ヘイスティングスとポアロが出会う十四の謎が登場する。 暫く読んでいなかったために忘れていたが、ポアロは本当に鼻につく探偵であることが再確認できた。自惚れやで潔癖症というキャラクター造形は実によく出来ている。(その性格の悪さにクリスティーですら嫌気がさすほどとは…。) 一方、事件の方はあまり捻りがなく地味な内容。「グランド・メトロポリタン」は一種の密室トリックでこれが一番面白かった。伏線を回収しつつ、不可能犯罪を可能にする演出が見事。ただ、目新しい内容ではない。 「〈西洋の星〉盗難事件」や「百万ドル債権盗難事件」、「謎の遺言書」は心理トリックの典型例。 「エジプト墳墓の謎」はポアロたちがミイラの呪いを追ってエジプトまで行く、というスケールの大きい内容だが、これまたトリックは使い古されたものなので純粋にストーリーを楽しむのが賢い読み方だろう。 ポアロ、ベルギー時代の失敗が描かれる「チョコレートの箱」も発想としては面白かった。ドラマ版のように、もう少し過去を掘り下げても良かったとは思うけど…。 |
No.132 | 5点 | 氷菓 米澤穂信 |
(2014/09/13 18:26登録) アニメ化された古典部シリーズの第一作にして著者処女作。省エネで灰色の学園生活を送る折木奉太郎や、好奇心旺盛なお嬢様の千反田えるなど、個性的なキャラクターの登場する学園ミステリだ。 内容は日常の謎が中心でトリックや推理、真相も意外性はない。物語後半からは部誌の「氷菓」を巡ったメインの事件が起こる。「氷菓」誕生の秘密とその題名の意味に関わる謎が提示されるのだが…無難なところに収着した。 この手の話で生命線となる伏線の張り方は所々ぎこちないが、ミステリとしてはとりあえず成立している。また、省エネを気取るキャラクターとか新人らしい文体とかは少し鼻につくものの、ラノベだけに軽く読める一冊だった。 個人的にはガチガチの本格ミステリ「折れた竜骨」の衝撃が大きかっただけに少し残念ではあるが、もう少しシリーズを読みすすめるのも面白そうだ。 |
No.131 | 5点 | カナリヤ殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2014/09/13 17:59登録) 高等遊民で名探偵のファイロ・ヴァンスが登場する長編第二作。相変わらずの心理的探偵法で、今度はポーカーによって容疑者を突き止める。 現場が一種の密室状況であったことと、主要な容疑者のほとんどがアリバイを持っていた事が本作の肝となるが、どちらもかなり古典的な(使い古された)トリック。 ポーカーを使った犯人当ても前衛的ではあるが、微妙で面白いとは云い難い。結局はあの推理も穴だらけだし、少し納得がいかない。まぁヴァンスがそれで犯人に気付いたならそれでいいけど。 客観的な視点から殺人事件を謎解きに昇華させ、様式を成り立たせたという点では興味深いが、これでは「ベンスン殺人事件」の色違いでしかないように思う。 |
No.130 | 6点 | ○○○○○○○○殺人事件 早坂吝 |
(2014/09/06 15:23登録) 第五十回メフィスト賞受賞作。アウトドアという共通の趣味を持ち、あるブログのオフ会に訪れた男女。メンバーの一人が所有する島で例年行われる恒例行事だったが、今年は新顔の乱入もあって波乱の予感。そんな中、失踪事件が起きる。 タイトルの「○○○○○○○○」はあることわざを示す伏字。本作最大のテーマはその「タイトル当て」なのだ。さらに、それだけにとどまらず本編では「仮面の男」やら「針と糸の密室」やら新本格らしい道具立てが揃えられている。そこから導き出される真相もまた驚愕もの。(肝心のタイトル当てもこれはこれで面白い。) 伏線の配置やトリックの組み合わせ方は絶妙で今後が期待できる作家だろう。実にメフィストらしいユニーク(くだらない)な作品なので、深く考えすぎず気軽に読むことをお勧めする。 下ネタ要素なども含めて、「六とん」のようなバカミスの一つといえるだろう。無論、「消失!」のような作品を受け入れられない人は読まない方が良い。これからはこの調子で極北路線を極めるのか、本格を追求していくのか。どちらにせよ次回作が楽しみ。 |
No.129 | 8点 | 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 桜庭一樹 |
(2014/09/04 11:12登録) 中学生の山田なぎさと転入生の海野藻屑のガール・ミーツ・ガール系ライトノベルだが、冒頭から藻屑がバラバラ死体となって発見されることが読者に提示される。ストーリーはなぎさの回想のように展開していくが…。 サスペンスではなく、殺人を中心にしたライトノベルという広義のミステリーに入るだろう。確かに中盤の展開は手に汗にぎらなくもないが、それは本題ではない気がする。 テーマとなるのは山田なぎさの成長に他ならないだろう。社会に出るためには実弾=お金が必要だと考え、それ以外の無意味なもの(砂糖菓子の弾丸)は無視してきた彼女が藻屑に出会ってどう変わったのか。特に終盤の演出は壮絶で読後には強烈な印象が残った。 一見エキセントリックで、自らを人魚だと名乗りミネラルウォーターばかり飲んでいる藻屑も鮮やかに描かれている。父親の暴力を受けつつも、嘘をつき続ける藻屑。「好きって絶望だね」と語る彼女の狂気は物語世界に大きな影を落としている。しかし、それでいて藻屑も一人の少女に過ぎない、と伝えてくるところも器用だ。 残念だったのは、描かれる狂気が不必要なほど存在感を持っていてテーマがブレているところか。200ページ足らずであっさり読める本だが、この読後感はこれからも忘れることが出来ないだろう。 (最初は叙述トリックを疑いまくったがそんなものは無いのでご安心を。) |
No.128 | 6点 | 『ギロチン城』殺人事件 北山猛邦 |
(2014/08/26 14:49登録) 〈城〉シリーズ第四作の舞台となるのは、処刑道具をモチーフにした『ギロチン城』。城主の道桐久一郎は密室の中で首を切断され、現在ではその一族がひっそりと暮らしているらしい。自称探偵のナコと学生の頼科はあるメッセージを受け取って城へ向かうことになるが…。 儀式中に起きた首切り四重密室をはじめとする不可能犯罪の連鎖は実に本シリーズらしい展開で、当然物理トリックも健在。久一郎殺害の密室トリックに関してはある程度予測できたが、四重密室と首切りの理由に関しては流石に驚かされた。国内本格の某名作に似ていなくもないが、実に独創的かつ斬新な手法であることは間違いない。(ただし、いくつかの点で無理があるためバカミスに近い部分もある。これは物理トリックを肥大化させすぎた副作用の一つであり、是非とも次回作で解決していただきたい。) また、フーダニットに仕掛けられた強烈な一撃も印象的だ。見事に世界観を回収したトリックであることは云うまでもなく、(少なくとも文庫版では)伏線もしっかりと張り巡らされている。「『アリス・ミラー城』殺人事件」のアレがパクリだとかアンフェアだとか散々罵った方にも認めていただけるのではないだろうか。 ただ、そのトリックに重きが置かれすぎたために肝心の物語としての魅力が損なわれているという点は残念だ。従来の〈城〉シリーズらしいラブストーリーなども描かれているが、やや消化不良気味。特にラストの怒涛の展開は駆け足過ぎたように思う。 さらに、文庫版解説で霧舎巧氏が「名前が数字でしかないキャラクターもしっかり描かれている」と述べているが、私にはそうとは思えない。はっきり云って三と四あたりの区別も良くわからなかったし、五に至ってはほとんど印象がない。ストーリーとしては〈城〉シリーズの中でも最悪だ。 明らかに進化は見られるものの、まだまだ改善の余地がある作品だった。中々困難なことだろうが、『石球城』でのさらなる進化を期待したい。 |
No.127 | 6点 | 屋根裏の散歩者 江戸川乱歩 |
(2014/08/25 18:54登録) ※乱歩の項目は各社から傑作選、全集が刊行されている影響で主に短編集の分類が混沌としていますが、私は便宜的に光文社文庫の江戸川乱歩全集第一巻「屋根裏の散歩者」の書評を書かせて頂きます。尚、「二銭銅貨」の書評だけは「二銭銅貨」の項目に入れさせていただきました。 独特な幻想的で奇怪な設定と、推理小説らしい論理的な結末が用意された初期短編22編を集めた全集第一巻。中でも気になったのは「恐ろしき錯誤」「赤い部屋」「人間椅子」あたり。どれも奇妙な展開を最後で見事にまとめ上げる力作だ。 「一枚の切符」は純粋な探偵小説となっていて、結末も印象的だが、その面白さは「二銭銅貨」にやや劣る。「恐ろしき錯誤」はプロバビリティの犯罪を登場させたものだが、そのブラックな展開は思いのほか面白かった。 「二廢人」は夢遊病を扱ったトリックで、これをさらに反転させた「夢遊病者の死」とともに楽しめる。「双生児」はその皮肉な結末が見どころだろう。 「D坂の殺人事件」は日本家屋使った密室殺人トリックにして、名探偵明智小五郎の初登場話だ。随所に興味深い謎が配置されている構図はよく出来ているが、そのトリックは割とお粗末。 「心理試験」は犯人を心理学上の実験によって追いつめるという斬新なアイデアだが、結末にさほど驚きがなく残念。「黒手組」も引き続いて明智小五郎が活躍するものの著者自身が語るように確かに内容は地味だ。 「赤い部屋」は作品の狂気を見事に乗りこなして独自の世界観を作り上げた力作で、古典的名作の名にふさわしい一作だろう。 「日記帳」と「算盤が恋を語る話」は純愛ものでほのぼのとしている(嘘)が、それだけにパンチが弱い。「幽霊」や「疑惑」は人間の心理を付いた傑作だが、それだけに尻すぼみの結末がやや残念ではある。 「白昼夢」はほとんど一つのアイデアだけで書かれた作品で、同じ系統のものでも「人間椅子」の方がよっぽど完成度は高い。(「人間椅子」の驚くべき点はメタ的な視点が用意されている点にある。) 「盗難」や「百面相役者」、「指環」などはトリックありきの短編だが、どれも一読の価値はあるだろう。中でも逆説的な「盗難」のトリックは古典的なものだが興味深い。 「屋根裏の散歩者」はその発想が素晴らしく、秀逸だがそれ以上の何かはない。こんな変態がいたら明智じゃなくても分かるよ。。。 「一人二役」や「接吻」も恋愛を題材にしているが全く違った結末を迎えるところに乱歩のあざとさを感じた。 これはほとんどの作品に云えることだが、乱歩の作風の一つである「最後の一撃」の独特な演出がよく出来ている。本格ミステリとしてフェアかフェアでないかは微妙なところではあるが、真相が明かされたあとの驚愕は本物だ。 また、プロバビリティの犯罪が頻出するのも興味深い点だ。完全犯罪という発想に乱歩が強く心を惹かれたようだが…。 |
No.126 | 8点 | 妖魔の森の家 ジョン・ディクスン・カー |
(2014/08/25 18:11登録) 表題作を含む四つの短編と中編「第三の銃弾」を含むカーの短編全集第二弾。フェル博士やH・Mを探偵役に据え、そのほとんどに密室が登場する。 「妖魔の森の家」はそのトリックや伏線の完成度の高さや設定の独自性、結末の意外性の総てにおいてかなりの完成度を保つ傑作だ。教科書的過ぎて面白みに欠ける点はあるが、ミステリファンならば是非とも押さえておきたい。 二転三転とする展開が興味深い「軽率だった夜盗」や、非現実的ではあるが独創的なトリックの「ある密室」なども興味深い作品で、「赤いカツラの手がかり」もユニーク。 「第三の銃弾」は「銃弾のアリバイ」がテーマとなっていてそのトリックもよくつくりこまれている。王道のアリバイものだが、中々楽しめた。最後のオチはいくらなんでも酷いと思うが。 長編のようクセがなく、気軽に読めるあたりに魅力を感じた。カーの長編と相性の悪い自分にとっては嬉しい一冊だった。どれも力作ばかりだ。 |
No.125 | 6点 | 猫柳十一弦の後悔 北山猛邦 |
(2014/08/25 17:16登録) 大学の探偵助手学部の君橋と月々は、偶然にも知名度ゼロの猫柳ゼミに入れられてしまう。猫柳十一弦という大仰な名前のその探偵は、気弱な若い女性だった。彼らは名門雪ノ下ゼミとともに孤島研修に行くこととなるが…。 独特のキャラクター造形と、クローズドサークルの組み合わせでありながら、「城」シリーズとは違った雰囲気を持つ本作。「探偵助手学部」「孤島研修」といった舞台設定はさすがに強引だと思うが、トリックや内容はそれなりによく出来ている。 まず孤島研修開始まもなくに発生する第一の殺人から、過剰すぎるほどの死体装飾が行われている点が興味深い。見立ての真相やその理由なども今までにないもので確かに驚かされた。 また「犯罪を防止する」ことに焦点をあて、主人公である猫柳探偵の健気な奮闘と助手二人のサポートを描いていくあたりも本作の醍醐味の一つで、北山作品らしいキャラの魅力が引き立っている。 ただ、犯人の特定やその動機などはぎこちなく、素直に納得できない部分も多い。このあたりは中途半端な世界観の設定に問題があるように思える。(そういう意味では、元の設定がぶっ飛んでる「ダンガンロンパ霧切」の方が全体の調和が成り立っているといえるかもしれない。) よく出来たところも、歪なところもあるが、今後も彼女を応援したいと思う。 |
No.124 | 6点 | 二銭銅貨 江戸川乱歩 |
(2014/08/18 19:38登録) 乱歩の処女作となる短編。メインとなるのは暗号解読だが、その独創性と結末の意外性が見どころ。現代においては多少色あせるところもあるが、それでも展開の面白さやワクワク感があって楽しい。 なによりも欧米の暗号ものを和風にアレンジしたうえでさらなるスパイスを加えてくるところが乱歩らしい遊び心で、いわば「最後の一撃」として機能している。発表当初の衝撃はかなりのものだったのではないだろうか。 ミステリを語るうえでは外せない一作。 |
No.123 | 6点 | 黒い仏 殊能将之 |
(2014/08/08 10:59登録) 石動シリーズ第二作にして本格ミステリ界を激震させた問題作。「ハサミ男」で掴んだはずのファンを大半失ったのではないかというほどの嫌われようで…。 途中までは仏教をテーマにした真面目な雰囲気で進んでいく。名探偵・石動戯作の助手アントニオも登場して相変わらずコミカルな展開だ。 しかし、ある引用を境に物語は急変し、そのまま驚愕の真相に着陸するのだ。本格ミステリの定義すら揺るがすような問題作であることは間違いないだろう。 …これが世間一般の評価というわけだが、私的には(洒落ではないが)そこまで特殊な内容でもないように思う。もう少し穏便な形で似たような試みをした先行作もあり、全体としてそこまで驚きはなかった。(これは自分が麻耶雄嵩作品で慣れたというのもある。) トリックの完成度は高いが、駄作でもなくまた傑作でもなかった。「美濃牛」と同様怒ったりせずに楽しんで読みましょう。 (以下ネタバレ) 途中、アントニオvs石丸の戦い(未遂)が描かれているのは謎解き前の伏線だと考えるのが妥当。これによってタイムスリップによるアリバイトリックの可能性が示唆されているとも考えられるのだ。 すなわち、本作は異端な「特殊設定」もの本格であり、云ってしまえばそれだけのことである。 |