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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.67点 書評数:541件

プロフィール| 書評

No.181 4点 首断ち六地蔵
霞流一
(2015/07/30 20:13登録)
徹底的に多重解決にこだわった連作短編集。
荒唐無稽な物理トリックの多用やリアリティの欠如は作風として理解。
ただ、各短編とも最低4回以上の“解決”を盛り込んでいるため、やむを得ないとはいうものの、ロジックは至ってルーズで、個々の解決の完成度は低水準。
連作短編としてのどんでん返しは、章立てから十分に予測可能なうえ、その内容も「これだとつまらないけど…」という予測どおりの古典的なもの。
意欲・密度を買ってもこの評価


No.180 9点 夏と冬の奏鳴曲
麻耶雄嵩
(2015/07/28 18:05登録)
(以下、ネタバレを含みます)
一般にミステリは、提示された謎が解決されることが暗黙の前提となっているところ、本作は「その長大な本編がまるごとダミーの謎と解決に充てられており、真の謎の解決は随所に伏線として散りばめられているだけで明示されない」という点において、他に類を見ない徹底的なアンチ・ミステリである。
主題は孤島の連続殺人であるが、これ自体が著者が仕掛けた罠(ダミーの謎)でしかない。
「犯行とその解明が遅々として進行しない」「犯行の全体像は異様な舞台設定とは裏腹に底が浅い」「荒唐無稽を極める雪上密室トリック」「地震の頻発や真夏の降雪といった異常現象に全く説明が付けられない」など、不可解な点が散見されるが、これもひとえにダミーの謎であることを示唆する一種のヒントではないかと思われる。
真の謎は最終盤に浮かび上がってくるが、本編が終了したあとに突如登場するメルカトル鮎の一言がすべてを解決する。
ただし、その解決はあくまでも主人公に対するもので、読者に対しては明示されないまま、一見するとさらに謎が拡散したような印象さえ残しつつ閉幕する。
しかし、随所に配された伏線を手掛かりに解釈すれば、人によってはある程度合理的な“真相”に到達することが可能となっている(はず)。
この異様とも言える奇想の徹底、巧緻極まるテクニック、絶妙なバランス感覚には、ただただ脱帽せざるを得ない。
毀誉褒貶が激しく、解説で巽昌章氏に「本格推理小説への許しがたい裏切りとみなされることのある問題作」と評されるのも当然であろう。
しかし、アンチ・ミステリとして1つの頂点を極めた金字塔的作品であることもまた間違いない


No.179 1点 黒死館殺人事件
小栗虫太郎
(2015/07/24 20:35登録)
ミステリとは「提示された謎に対して解決が与えられる作品群」を指すと解するところ、本作は謎が提示され、その解決が与えられている点において、ミステリであると理解。
従って、私が本作の真価の片鱗さえも理解していないであろうこと、著者が既存のミステリの枠組みなど意識していないであろうことを前提としつつ、あくまでもミステリとして以下のとおり評価。
まず、解明プロセスは、殺人事件の発生にもかかわらず、探偵がひたすらゲーテの「ファウスト」はじめ中世ヨーロッパの衒学を披露し、容疑者への心理戦に終始するという異様なもの。
衒学が難解なのはやむを得ないとしても、その量があまりにも膨大過ぎるため、確信犯的に説明不足に陥り、読者の理解を拒絶するものにならざるを得ない。
こうした合理性・論理性のないアプローチを続け、実証的な捜査を全く進めない間に、殺人事件が続発し、しかも手口がエスカレートしていくにもかかわらず、捜査方針を一向に変更せず、登場人物がほぼ死に絶えた最終盤に至って唐突に真犯人が指名される。
膨大な衒学を除去して一連の犯行を俯瞰するなら、合理性・フィージビリティを無視した、荒唐無稽というべき物理トリックを一貫して使用し、それを登場人物の特異体質というご都合主義で支えた楼閣でしかない。
また、恐らく意図的に登場人物の詳細な描写を避け、ロボットのように描く作風を選択した結果、これだけ凶悪な連続殺人事件にもかかわらず、サスペンス的な盛りあがりに欠け、犯行動機も十分に説明される訳ではない。
こうした点はすべて本作の強烈な個性であり、意図的にそのように書かれたであろうことは百も承知。
ただ問題なのは、面白くないのである。
著者の博識は手放し・無条件で認めるが、衒学を詰め込めば面白い作品になる訳ではない。
本作の場合は、あまりにも膨大な衒学が却って犯行の全体像やプロセスの理解を妨げており、主客転倒していると言わざるを得ない。
いわばミステリの骨格を持った難解極まるファンタジー小説であり、ミステリ読みにとっては、何とか読み切ったという徒労感だけが残る作品。
繰り返しになるが、本作の強烈な個性とその存在意義は認め、敬意を払うものの、面白い作品とは断じて言えず、この評価が相応しいと判断


No.178 7点 新参者
東野圭吾
(2015/07/21 17:51登録)
ミステリとしての核は小さいものの、舞台設定も含めた構想力の高さと、ストーリーテリングの妙が際立っている。
後半の短編はやや見劣りするが、作品全体として高水準を維持しているのは間違いない。
しかし、著者の力量の高さを認めるが故に、グリグリの本格で勝負してもらいたい気持ちは強い。


No.177 5点 少女
湊かなえ
(2015/07/16 18:59登録)
一人称中心のスタイルをふまえて評価しても、描写が表層的で浅く、前作より大きく見劣りすると言わざるを得ない。
フィクションである以上、ご都合主義的な偶然の多発はある程度受け入れるのだが、あまりにもキレイにまとめすぎて、作品の余白や余韻に乏しく、認知症・自殺・援助交際といった題材の既視感と相まって安っぽい印象が拭えない。
4点にすることも考えたが、それほど批判的スタンスに立つべき作品でもないと再考しこの評価


No.176 4点 奇偶
山口雅也
(2015/07/15 15:02登録)
あまりにも強烈な偶然が続発する中、落とし処を危ぶみながら読んでいたが、量子力学・心理学で衒学まみれにしておいて笑止千万の結論。
立ち位置としてはバカミスというべきで、期待されるアンチミステリの領域には達していない。
であれば、こんなにやたら思わせぶりな大長編にするのではなく、もっと簡潔にキレ味よく結論に達するべき。
ミステリとしてはさらに低い評価が相応しいが、結論に至るプロセスと読み応えを買ってこの評価


No.175 6点 告白
湊かなえ
(2015/07/13 16:45登録)
日本語がこなれていない箇所が散見されるが、構想力の高さは確かで、第2章以降の存在により作品に深みが増しているとの意見には同感。
一方、主人公の境遇には同情するものの、その報復の仕方には到底共感できるところがなく、読後感は至って悪い


No.174 8点 あした天気にしておくれ
岡嶋二人
(2015/07/09 14:41登録)
誘拐事件と相性のよい倒叙形式を採用しつつ、事件に捻りを加えてフーダニットに仕立てあげたプロットが実に巧妙。
そのうえ、誘拐モノの最大の急所である身代金の奪取を巡るメイントリックが強烈。
ある仕掛けを利用し、かつ全額の回収を諦めることによって、2つの絶対的な不確実性を排除した奇想は、その合理性と完璧なフィージビリティの点で素晴らしくエレガント。
私はコアな競馬ファンであるため、途中で仕掛けの大半を看破したが、それでも執筆当時のシステム上の欠陥を利用したディテールはさすがに見抜くことができず。
“人さらいの岡嶋”の評価に相応しい傑作


No.173 6点 陰獣
江戸川乱歩
(2015/07/07 16:34登録)
独特の世界観が高評価の理由であろうが、犯行の非合理性やフィージビリティの低さを犯行動機だけで説明しようとする論理性の低さが強く引っ掛かる。
著者の作風が自分にあっていないということだと理解


No.172 6点 放課後はミステリーとともに
東川篤哉
(2015/07/07 16:33登録)
「ディナー」以上にエキセントリックなユーモアが暴走気味で、本格度の高い作風とのギャップを感じる。
キャラクター造形にしても、探偵が固定されていない不安定さもあり、「ディナー」の2人には遠く及ばない。
ベストは「霧ヶ峰涼の逆襲」で断然。
僅かな仕掛けから意外性あふれる真相を導き出しており、極めてレベルの高いパズラー。
準ベストは「霧ヶ峰涼の屈辱」。
それ以外はトリックこそ大胆であるものの、偶然の産物やフィージビリティに難がある作品ばかりで、前2作とのレベル差が大きく、この評価


No.171 6点 江神二郎の洞察
有栖川有栖
(2015/07/02 18:40登録)
“日常の謎”を取りあげたコンパクトな作品でありながら、強固な先入観を打破し鮮やかな真相に導いた「ハードロック・ラバーズ・オンリー」のカタルシスが断然。
「除夜を歩く」は作品部分よりも評論部分の方がはるかに秀逸で、トリックに関する悪魔の証明問題が非常に含蓄に富んでいる。
ただ、この2作を除けばミステリとしてはやや小粒と言わざるを得ず、この評価


No.170 6点 花の棺
山村美紗
(2015/06/30 17:13登録)
みなさんのご指摘に同感。
シンプルで美しいトリックには見所があるのだが、必然性やフィージビリティに見逃しがたい難があり、犯行の不合理性を犯行動機のみで説明しようとしているため、プロットが納得感に乏しい。
アイデア先行のミステリパズル・クイズと言うべきで、作品の完成度は低い


No.169 5点 貴族探偵対女探偵
麻耶雄嵩
(2015/06/25 16:22登録)
本作は着想の時点で失敗だろう。
探偵同士の推理合戦が見所であるため、パズラーであるにもかかわらず、ダミー(女探偵)の推理には穴を空けておかざるを得ない。
そのうえ、女探偵に「必ず貴族探偵を犯人に指名する」という厳しいハードルを課しているため、その推理に不自然や無理が強く発生。
結果、各作品とも著者の実力を大きく下回る水準となっている。
その中で、「幣もとりあへず」は著者らしさを発揮した問題作で、インパクトは大きいのだが、ロジカルに真相に辿り着けない致命的な弱点が存在するように思われる。
短編集の締めくくりも美しい着地ではあるものの、予定調和的でインパクトには乏しい。
以上、作品のクオリティは4点相当だが、著者の個性とチャレンジ・スピリットを評価して1点加点


No.168 7点 赤い指
東野圭吾
(2015/06/24 17:15登録)
得意(たぶん)の倒叙形式で、犯行とその後の隠蔽工作を通じて、教育の崩壊、家族の孤立化、介護といった現代社会の闇を赤裸々に描き切った。
真相解明にあたっては、細かな伏線を回収しつつ、最後は人情味あふれるアプローチで見事な締めくくり。
重量感とスピード感が絶妙にバランスされたストーリーテリングも円熟の域。
相変わらず達者、素晴らしく達者なのだが、メイントリックはXのバリエーションだし、著者の実力を考えれば、プロットさえ思いつけばいくらでも書けるレベルの作品。
作品のデキとしては文句ないのだが、読者としては「良質な量産品」の域を超える「勝負がかった本格」を書いてもらいたい


No.167 6点 虚無への供物
中井英夫
(2015/06/24 17:13登録)
ペダンティズムによる重武装を解除して見るなら、本格ミステリとしての骨格は脆弱。
提示されている謎の不可解性とは裏腹に、その真相やトリックの衝撃度、謎解きの論理性は至って弱い。
アンチミステリたるラストは、現代に繋がる先鞭を付けた点も含め評価。
読了後に改めて俯瞰するなら、作品全体がラストのための壮大な伏線であったと解するべきかもしれない。
以上を総合すると、発表当時はともかく、現時点では「三大奇書」との触れ込みによる評判先行と言わざるを得ず、世評に相応しい得点を献上する訳にはいかない。
ただ本作を読破することで、ミステリ界の確かな前進を実感できた点で、逆説的ではあるが価値ある読書であった。
各作品の歴史的な価値を考慮せず、同時代的に見る立場からは、この評価


No.166 7点 奪取
真保裕一
(2015/06/16 18:29登録)
多くの方が指摘されているとおり、主人公がスーパースターすぎる、偽札製造に必要な材料が都合よく入手できてしまうなどのご都合主義が散見。
また主人公は、偽札製造には細心の注意を払いながら、対帝都・東建において一貫して不用意・軽率な行動が散見され、その合理性は大いに疑問。
しかし、こうしたディテール以上に、主人公の行動原理(作品の主題とも言える)に大義がない点は重く見たい。
エンタテインメントとしては満点に近い評価だが、以上の点をふまえて7点の下位


No.165 6点 富豪刑事
筒井康隆
(2015/06/08 16:11登録)
刑事が富豪だったらというワンアイデアでありながら、エンタテインメントとしてさすがの完成度。
伝統的なミステリを揶揄するかのような作風、変幻自在のプロット、適度なボリュームで読者を飽きさせない展開は見事


No.164 3点 デッド・ロブスター
霞流一
(2015/06/08 16:10登録)
犯人特定に至るロジックの鮮やかさは評価。
一方、トリックはフィージビリティに難があるのはいいとしても、手がかり・証拠に乏しく、合理的な推論の域を出ない。
見立ては犯人にとっての必然性、エンタテインメントとしての面白さ、双方で弱い。
例によってストーリーテリングも上手いとは言えない


No.163 2点 『クロック城』殺人事件
北山猛邦
(2015/05/27 13:52登録)
「ゲシュタルトの欠片」「真夜中の鍵」「スキップマン」「SEEM」「11人委員会」「ドール家の遺伝子」など、風呂敷を拡げるだけ拡げた本作。
これらの謎が、ことごとく作品の急所を隠蔽するためだけに使われ、プロット・トリック・真相と関わることなく、きちんと説明されないまま終幕を迎える点が致命的。
メイントリック(上記の謎の前ではもはやメインとさえ言えないが)は、こうした壮大すぎる謎に比して如何にもチープであり、しかも上記意図にもかかわらず真相が見えやすくなっている。
メイントリックが解き明かされた後の、どんでん返しの連続や首切りの理由も、緊迫感はあるものの合理性・論理性に乏しく、ファンタジーの域を脱しない。
小さな急所を隠すためにさらけだした巨大な急所。
小さな謎の解決から生み出された小さなカタルシスと、放り出された山ほどの巨大な謎のために残る巨大な消化不良。
自ずと厳しい評価を下さざるを得ない


No.162 7点 女王国の城
有栖川有栖
(2015/05/21 19:05登録)
前作からの15年間の歳月の中で、ストーリーテリングの腕前は格段に上がっており、エンタテイメントとしてはシリーズ最高のデキだろう。
クローズド・サークルが形成された(警察への通報を頑なに拒んだ)理由、江神が訪れた理由、犯行動機の合理性のいずれも、非常に堅固で完成度は高い。
しかし、いかんせんボリュームに比してミステリの核が小さすぎる。
凶器に着目したシンプルで鮮やかなロジックは面目躍如たるところだが、逆に言えばそれだけの作品。
第一の犯行で残された痕跡から、作品の急所が見えやすくなっているのも残念なところ。
前段の加点要素でかろうじて7点には届いたが、ミステリとしてのスケール感において、「双頭の悪魔」「孤島パズル」に遠く及んでおらず、本シリーズに求める高いハードルを華麗に超えたとは言い難い

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