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ミステリの祭典

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kanamoriさんの登録情報
平均点:5.89点 書評数:2462件

プロフィール| 書評

No.2282 7点 悪女は自殺しない
ネレ・ノイハウス
(2015/07/03 00:46登録)
上級検事の不可解な自殺事件につづき、飛び降り自殺に偽装された女性の殺害死体が発見される。地元警察の首席警部オリヴァーが率いる捜査班は、7年ぶりに復職したばかりの刑事ピアを加え捜査を始めるが、被害者女性イザベルを巡る複雑な人間関係と、背後に隠された複数の事件に振り回される--------。

オリヴァー首席警部&女性刑事ピア・シリーズの第1作。
本書は、既刊の「深い疵」(第3作)、「白雪姫には死んでもらう」(第4作)の高い評価で、”ドイツ・ミステリの女王”の称号を得たノイハウスが、本国でブレイクする契機となった作品ですが、当初は自費出版だったというエピソードが信じられない完成度です。
馬が専門の動物病院と地元乗馬クラブに関係する人々が容疑の対象となるが、被害者のイザベルがとんでもない裏の顔を持っていたことから、彼女に繋がる誰もが動機があるという状況。しかも、かれらは一筋縄ではいかないヤツばかり。さらに背後に隠されたいくつもの事件が絡み合って、オリヴァーの捜査が紆余曲折しながら、重要容疑者が次々と変転していく展開がやたらと面白い。
オリヴァーとピア、それぞれの配偶者との微妙な関係がシリーズを通した読みどころでもありますが、本書ではそれほど深く語られていない。既刊作品に繋がる2作目の訳出が今から待ち遠しい。


No.2281 5点 なないろ金平糖 いろりの事件帖
伽古屋圭市
(2015/06/30 18:27登録)
日本橋にある金平糖屋「七ツ堂」の看板娘・いろりは、過去や未来を視ることができる千里眼の持ち主。飼い猫のジロを相棒にして、様々な事件に立ち向かう-------。

大正時代の帝都・東京市を舞台にしたライトミステリの第3弾。
小説全体に漂う雰囲気や、手慣れた語り口は好みで相変わらず巧いと思うのですが、前2作と同じタイプのものを期待していたので、ミステリ的な興趣が弱いのが物足りなく感じてしまう。各話で提示される謎にそれほど魅力がありませんし、連作を貫く仕掛けも小粒です。
主人公の少女の特殊能力がかえって足かせになって、謎解き本来の面白さを減じてしまっているような感じを受けました。冒険スリラー寄りのエンタメとしてはまずまずの出来だとは思いますが........。
また、これまでのようなレギュラー・キャラクター間のユーモラスな掛け合いの面白さが希薄な点も残念です。


No.2280 5点 殺人を選んだ7人
ロイ・ヴィカーズ
(2015/06/28 17:20登録)
ロンドン警視庁のレイスン警部が登場する迷宮課シリーズ3編に、単発もの4編を加えた第4短編集。全般的に犯罪ドキュメント風の語りが洗練されてきて、初期作と比べると読みやすくなったと思える反面、ミステリ的な面白さが減退してしまっているという印象をうけた。

タイトルからは、倒叙形式で犯人の内面や動機の部分を深く掘り下げるタイプの作品群を想像していましたが、複雑な家庭関係内での連続毒殺事件を扱った「デイジー家殺人事件」や、自家用船舶上のパーティで多情な女性が殺される「招かれぬ女」など、限られた集団内でのフーダニットが多かったのは意外でした。ただ、謎解きとしてはこれといった工夫は見られず、出来はいずれも平凡です。
そんななかで、ちょっと印象に残った作品は、同居する友人を殺害されたオールドミスが犯人を捜し出す話の「信念に生きる女」で、主人公がラストにとる異様な行動が皮肉的です。
また、夫婦と友人たち男女4人が集う場での毒殺事件を扱った「老嬢の証言」もまずまずで、毒殺トリック(と表現するのは適切かどうか)は、ある意味では前代未聞と言えるかもしれない。


No.2279 6点 脅迫者によろしく
都筑道夫
(2015/06/26 22:54登録)
私立探偵・西連寺剛シリーズの第2短編集。”おれ”こと西連寺は、ボクサー上がりの硬骨漢ながら弱者に対する優しさもある。自宅マンションを探偵事務所にして、主に人探しを専門に請け負う。

本格パズラーから捕物帳、SFファンタジー、ホラー、時代伝奇、クライム・コメディまで、作者が色々なジャンルで創出してきたシリーズ・キャラクターのなかでは、この主人公は常識人で個性は抑え目に感じられる。やや通俗に流れるところがあるものの、内容はわりとシリアスで、正統派のハードボイルドを志向しています。
収録作はハードボイルドの定番である失踪人捜しが中心ですが、小学生が貯金箱を持って依頼に来たり、スナックで隣り合った女が謎めいたメッセージを残して失踪するなど、事件の発端がそれぞれ工夫があり、自然とストーリーに入り込めるようになっているのが良。謎解きの伏線という点では不十分なものが多いものの、結末の意外性はそれなりに担保されています。
6編のなかでは、古い詩集の挿絵画家の行方を追う「表紙のとれた詩集」が、長編にしてもいいぐらいの中身の濃い作品。ラストに現れるある人物の裏の顔には戦慄を覚える。また、「子豚の銀行」と「髭を忘れたサンタクロース」は、子供の健気さと真相の残酷さの対比で、哀切感をより際立たせることに成功していると思う。


No.2278 6点 探偵レオナルド・ダ・ヴィンチ
ダイアン・A・S・スタカート
(2015/06/23 19:05登録)
15世紀イタリア。ミラノ公国の宮廷で宴の余興の”人間チェス”ゲームが催されていたが、休憩の合間に白のビショップの駒を演じていた伯爵が庭園で死体となって発見される。宮廷画家で技師主任のレオナルドは、ミラノ公に命じられ、弟子のディノとともに犯人捜しに乗り出した---------。

若き天才画家にして発明家、レオナルド・ダ・ヴィンチを探偵役に据えた歴史ミステリ・シリーズの第1作。
作者が元々は歴史もののロマンス小説の書き手ということもあってか、正直なところ謎解きミステリとしては”推理”にあまり見るべきところがありません。レオナルドの発明品が捜査の手助けをするという見せ場(=終盤に出てきたアレには驚きましたw)はあるものの、推理の部分にその天才性がいかされていないのです。
とはいっても物語が面白くないわけではありません。語り手でワトソン役になる弟子ディノの抱える秘密を中心にしたエピソード部分は上手いと思わせますし、獅子奮迅の活躍をするディノが主人公の冒険スリラーとしては面白く読めました。
次作はレオナルド・ダ・ヴィンチのもっと名探偵ぶりを読んでみたいですね。


No.2277 4点 藤雪夫探偵小説選Ⅰ
藤雪夫
(2015/06/19 22:32登録)
昭和25年に「宝石」誌の懸賞応募で鮎川哲也、島久平らと賞を競った「渦潮」がメイン。ほかに昭和20年代後半に雑誌掲載された中短編5編が収められています。

「渦潮」は、娘・藤桂子との2作目の合作長編「黒水仙」の原型となる長編ですが、発端の銀行強盗の設定は同じでも、その後の展開やメイントリック、犯人像までが後の改稿作とは異なり、全くの別物のようだったのには驚きました。ただ、菊地警部を中心とする捜査はテンポが悪く、アリバイトリックも面白みに欠け、あまりいい出来とはいえません。この内容だと「ペトロフ事件」や「硝子の家」に軍配を挙げたくなりますね。
中篇の「黒水仙」(=タイトルは同じだが、藤桂子との合作長編とは別作品。ややこしい)は、アリバイ奪取をテーマにした「幻の女」を思わせる(というか換骨奪胎のようなw)作品。”昼の月”からアリバイを崩すアイデアが面白いが、不自然な設定や説明不足と感じるところが多々あり気になった。
残る4つの短編は、内面描写がアンフェアと感じる「指紋」、証拠が専門的すぎてピンとこない「アリバイ」など、どの作品もパッとしない出来栄え。


No.2276 6点 メルトン先生の犯罪学演習
ヘンリー・セシル
(2015/06/15 18:48登録)
法理論の権威メルトン教授は、母校ケンブリッジ大学に迎えられ講義をすることになった。ところが、当日の朝に転倒し頭を打った先生は、いかにして法網の穴をくぐって悪事を働くかという突拍子もない講義を始める--------。

軽妙な法廷ミステリを得意とするヘンリ・セシルのデビュー作。
聴講学生には大受けするも、とんでもない講義内容に慌てた大学当局によって精神病患者の療養施設に入れられるは、逃亡した先々で出会う人々に”講義”を披露するなど、外枠はファルス風の長編ミステリですが、メルトン先生や他の登場人物が披露する話のひとつひとつが独立した短編ミステリとなっていて、こちらのほうが主体と言えます。
法律や裁判の抜け穴を素材にして、詐欺&コンゲーム風のもの、クライム・コメディ、艶笑譚など、内容は多彩で飽きさせず、いずれも軽妙なオチが楽しめます。精神病患者を相手にした”講義”では、話のオチが理解されないというひねくれたオチもありますがw


No.2275 5点 捕獲屋カメレオンの事件簿
滝田務雄
(2015/06/09 18:34登録)
元刑事でフリーライターの浜名は、オカルト雑誌社の社長の紹介で、”オフィス・カメレオン”の女社長とともに”捕獲屋”という裏稼業についた。ふたりは森羅万象あらゆるものの捕獲を請負い、現場で起きた事件の真相も捕獲する-------。

凸凹男女コンビによるユーモア連作ミステリながら、決めるときは意外と端正なロジックも飛び出すという作風は、東川篤哉の一連の作品を思わせます。ちょっと外し気味のユーモア・センスも似ている気がする。
”捕獲屋”という設定が探偵役でもあり、また別の役回りでもあったりで、やや連作としてのコンセプトを掴みづらい面があるけれども、元同僚の女刑事が登場する第3話「ソラマメ銀座の幽霊」などは逆にそんな設定が効いている。なかには頭の中に3Dプリンターを持つ浜名の超空間認識能力が十分活かされていないように思える作品もあって、全体としてはこれぐらいの評価になってしまうかな。なお、強いて個人的ベストを挙げるなら最終話の「前日譚 夜行奇人」あたり。


No.2274 5点 帰ってきたイモジェーヌ
シャルル・エクスブライヤ
(2015/06/07 17:40登録)
海軍省の情報局を定年退職となったイモジェーヌは、スコットランドの故郷の町に帰ってきた。再び死体の山を築く大騒動が起きるのかと、町の人々が戦々恐々となるなか、彼女は歴史教師の殺人事件に巻き込まれ、地元ペンバートン校へ潜入捜査に赴くことに--------。

赤毛の大女イモジェーヌを主人公とするシリーズ第3作(2作目は未訳)です。1作目と同様に彼女の生まれ故郷を舞台にしていますが、今回はスパイもののパロディではなく、なんと大学内の連続殺人に挑むフーダニット・ミステリになっています。
地元警察の巡査部長アーチボルトとタイラー巡査のコンビが、イモジェーヌに引っ掻き回されるドタバタ騒動は相変わらず面白いのですが、大学に舞台を移すまでの前段部分が長く、登場する多くの町の人々が全く本筋に無関係なのが気になりました。
謎解きミステリとしては、犯人に意外性はあるものの、動機の後出し伏線不足の感は否めません。まあ、もともとユーモアが主体で、きっちりとした本格ミステリを期待していたわけではありませんが。


No.2273 6点 雪の花
秋吉理香子
(2015/06/04 23:32登録)
ヤフー・ジャパン文学賞受賞の表題作に、3つの書下ろし短編を併録したデビュー短編集。バブル崩壊・不景気によるリストラ、会社倒産、離婚、老人介護などを題材に、現代人が抱える心の闇の部分を描いた作品が多いが、のちのイヤミス風の長編に通じる作風のものがある一方で、思わず涙を誘うヒューマン・ドラマもあります。

「女神の微笑」は、リストラと離婚で疲弊した中年男が、中学生になった娘と閉園した遊園地跡で久しぶりに会う話。娘の言動に身につまされる同年代のお父さんも多いのでは。
「秘蹟」は、長年連れ添った老妻の失踪を巡る”ホワイダニット”。キリスト教の教えが重要なモチーフになっているが、真相が明らかになった後に来るラストの衝撃が凄まじい。文句なしに編中のベストに推します。
「たねあかし」は、かつての恋人に宛てた女性の手紙文のみで構成されている作品。女性作家が書くこういう話はリアリティがあって怖い。
表題作の「雪の花」は、事業に失敗した老夫婦が、心中するために生まれ故郷の雪深い廃村に向かう。短編というより掌編に近い枚数ながら、目に浮かぶ美しいラストシーンが印象に残る作品。


No.2272 7点 鏡よ、鏡
スタンリイ・エリン
(2015/06/02 18:07登録)
〈わたし〉が自宅の浴室で目にしたものは、拳銃で撃たれて半裸で横たわる”見知らぬ女”だった。しかも部屋の鍵を持っているのは〈わたし〉と息子のニックだけ。精神分析医エルンスト博士と弁護士ゴールドが主導する”あべこべの裁判”での尋問によって、錯綜する過去と現在のエピソードから戦慄の真実が現れる--------。

本書はビル・バリンジャー「歯と爪」などと同様、米ランダムハウス社の初出では、”途中まで読んで面白くなければ代金を返却します”という、結末部分が帯封された返金保証付で出版されました。30年以上前に読んだ時はあまり良い印象はなく、日本で同じことをやっていれば、かなりの返金請求に見舞われたのでは?と思ったものですw が、再読してみると思っていた以上に面白かったです。
出版社に勤める〈わたし〉ピ-トは精神科医にかかっており、いわゆる”信頼のおけない語り手”で、現場の浴室には大勢の人物がいる描写があったり、いきなり状況があいまいな裁判シーンに移行し、その中で精神科医が裁判長になっているなど、書いていることが素直に受け入れられない、読者を困惑させるような前衛的な構成手法はかなり読み手を選ぶことは確かでしょう。
しかし、これらの不可解な謎が一気に氷解する結末はやはり見事です。ネタバレになるけれど、ピートの特殊な嗜好や、ユダヤ系の学校に通う息子、家政婦の謎の伝言などの多くの伏線に加え、読み終えて意味がわかるタイトルが秀逸。ちなみに、本作は殊能将之が選ぶ変態本格ミステリ・ベスト5の一冊でもありますw


No.2271 5点 人類のあけぼの号
内田庶
(2015/05/31 12:44登録)
冷凍冬眠から50年後の未来世界で覚めた発明少年・真琴は、自分が発明したロボット「人類のあけぼの号」が父親を殺したとして、警察から追われる身であることを思い出す。真琴少年は父親殺しの汚名を晴らすため、四次元変換機で50年前の世界に戻る決意をする---------。

「本格ミステリ・フラッシュバック」からのセレクト。
冷凍冬眠や未来都市、タイムトラベル、人型ロボットなど、多くのSFガシェットを盛り込んだジュヴナイルのSFミステリです。
ミステリとしての主題はロボット殺人で、アシモフの”ロボット工学三原則”を踏まえて、なぜロボットが人間を殺すことができたのか?、が中核の謎となっています。真相はわりと単純ながら、伏線が効果的に活かされている点は評価できると思います。
人間に代わるロボットの役割の功罪というテーマが、いかにも当時のジュヴナイルらしいですね。


No.2270 6点 死への疾走
パトリック・クェンティン
(2015/05/29 18:09登録)
妻のアイリスが映画撮影のため帰国し、単身メキシコに残ったピーターは、マヤ遺跡の観光途中に若い女性デボラと知り合う。何かに怯えるデボラを訝っていたさなか、不可解な転落死事件に遭遇、ピーターは謎めいた事件に巻き込まれることに--------。

「巡礼者パズル」につづくダルース夫妻シリーズの第7作。といってもアイリスは終盤に登場するだけで、ほぼピーターひとりを主役にした冒険スリラー風味のサスペンスになっています。アイリス不在中にピーターがトラブルに巻き込まれるのは「悪魔パズル」や「女郎蜘蛛」と同様で、シリーズ後期作の一つのパターンと言えますね。
ユカタン半島のマヤ遺跡やメキシコシティの”死者の日”の風習などを背景にして、観光ミステリ的な側面を持たせつつ、周りの男女の「だれが味方で、だれが敵か」が不明のまま緊迫感を醸成させる手際はさすがで、終盤のサプライズ展開もお見事です。
作中に、クレイグ・ライス「大はずれ殺人事件」のポケットブック版がちょっとした小道具として出てきてニヤリとさせますが、同時代にジャスタス夫妻とダルース夫妻という(全くタイプは違うものの)夫婦モノのミステリを書いていた親近感があったのでしょうか。
本書はダルース夫妻シリーズ最後の未訳長編ながら、どうやら今後も「白銀パズル」「花葬パズル」「愛犬パズル」「新星パズル」を収録した中短編集や、スピンオフの「わが子は殺人者」の改訳版も出そうなので、まだまだ楽しみは続きそうです。


No.2269 6点 古書ミステリー倶楽部
アンソロジー(ミステリー文学資料館編)
(2015/05/26 18:22登録)
古書・古本にまつわるミステリを集めたアンソロジーの第1弾。最初のページに、乱歩がデビュー前に本郷の団子坂(D坂)で2人の弟と営んでいた「三人書房」(=明智小五郎の初登場作「D坂の殺人事件」のモデルとなった古書店)の自筆イラストが配されているのが洒落ている。

いずれも古書を題材にしたミステリということで、切り口が似ているものがあって、(a)古本の中の書き込みや挟まれていた紙片から隠された事件が炙り出される謎解きもの、(b)偏執狂的な蒐集家にまつわる奇譚 という2つがこのビブリオ・ミステリ集の定番かなと思います。
収録作のなかで、松本清張「二冊の同じ本」や甲賀三郎「焦げた聖書」、都筑道夫のキリオン・スレイものの1篇が典型的な(a)のタイプ、戸板康二「はんにん」も日常の謎ながら同じタイプといえます。
一方、(b)に分類されるのは、梶山季之のせどり男爵シリーズの1篇、早見裕司「終夜図書館」や紀田順一郎「展覧会の客」で、とくにラスト近くで異様な展開を見せる「終夜図書館」を本書のベストに推します。
そのほか印象に残ったのは、女性のみの同人誌サークル内の確執が凄まじい石沢英太郎「献本」、子供モノなのに作者らしくない後味の悪さが強烈な仁木悦子「倉の中の実験」あたり。


No.2268 6点 エジンバラの古い柩
アランナ・ナイト
(2015/05/24 14:33登録)
身元不明の男の死体が見つかったエジンバラ城の岩山を捜査していたファロ警部補は、見覚えのあるカメオのブローチを拾う。そのブローチは、巡査だった父親が最後に手掛けていた事件に繋がるもので、さらには、そこから英国史を覆しかねない秘密が浮かび上がる--------。

英国ヴィクトリア朝時代のエジンバラを舞台にした歴史ミステリ、ジェレミー・ファロ警部補シリーズの2作目。
フーダニットが主眼の本格ミステリだった前作とは異なり、今回は英国王室に関わる陰謀もののスリラーになっています。30年前にエジンバラ城の壁の中から見つかった”柩に入った赤ん坊のミイラ”と一対のブローチから、16世紀のメアリー女王を巡る秘密が浮かび上がってくるというもの。
テーマ的には、最初はジョセフィン・テイの「時の娘」などの歴史ミステリを思わせるものの、関係者たちの連続する不審死やファロ警部補の家族が事件に巻き込まれるスリラー要素が前面に出てきていて、歴史の謎は背景に留まっているのがやや消化不良な感じを受けました。
犯人像はおおよそ予想がつく構成になっていますが、最後に明らかになる陰謀のスケールの大きさには驚かされました。シリーズの2作目でこんな局面を迎えて、今後の展開がどうなるのか?という興味がありますね。


No.2267 6点 人面瘡
横溝正史
(2015/05/21 18:37登録)
金田一耕助シリーズの短編集。出来不出来の差が目立った短編集『首』と比べると、本書収録作には捨て作品がなく、横溝ファンなら5編ともそれなりに楽しめる出来栄えという評価。

個人的な好みでいえば、やはり岡山を舞台にした3編が良い。
湖畔の山村で結婚まじかの女性が殺される「湖泥」と、山峡の湯治宿で姉妹の過去の確執から事件が起こる表題作は、ともに戦争の傷跡が事件の遠因という点で「獄門島」などの初期長編に通じるところがあるように思います。作品の舞台背景の書き込みが緻密で力作感のある中編「湖泥」を一等に推しますが、殺害トリックと犯人の意外性という点で見れば表題作も捨てがたいです。
「蜃気楼島の情熱」は、アリバイトリックや犯人側の異常な造形もさることながら、金田一のパトロンである久保銀造の「耕さんはわたしの情人ですからな」という一言に衝撃をうけましたw
残りの「睡れる花嫁」は、いかにも東京編らしい猟奇的でエログロ志向の作品で、複雑な人物関係のなかに作者十八番のトリックを仕込んでサプライズを演出している。「蝙蝠と蛞蝓」は、金田一が住込んだアパートの隣人”おれ”の一人称で語られる異色作。倒叙モノのような発端から意外な方向に展開していくストーリーが楽しめます。


No.2266 7点 蛇は嗤う
スーザン・ギルラス
(2015/05/19 18:30登録)
夫の女性関係に悩むライアンは、北アフリカへ傷心旅行に出るが、モロッコの空港に降り立った早々に嫌な米国人男性に付き纏われたり、ホテルでは怪しげな老嬢に声を掛けられ、彼女の周辺で不穏な雰囲気が漂い出す。やがて、波止場のゴロツキが何者かに殴打される事件につづき、海岸で射殺死体が見つかる----------。

英国女性ライアン・クロフォードと、ヒュー・ゴードン警部のコンビが殺人事件の謎に挑むシリーズ第7作。
本書は、植草甚一『雨降りだからミステリでも勉強しよう』のなかで「蛇はまだ生きている」のタイトルでレビューがあり、「一種独特のひねりかたで、こうも面白くなるのか」と好意的に評価(☆4つ)されていて、シリーズ最終作にも拘らず最初に邦訳された事情も、そういった評判からと推察されます。
中盤までは、異国の地に住み着く西洋人たちの人間関係の説明描写で展開がゆっくり気味と感じるところがあるものの、ゴードン警部が登場してからの、犯行時間の矛盾点を巡る謎解き過程で俄然面白くなります。
”観光地の海岸に横たわる死体”ということで、英国某有名女流作家二人のアレとアレを想起させ、読者によっては仕掛けに気づてしまうかもしれませんが、数々の伏線の回収具合と終盤の2段階のどんでん返し、構図の反転が実に鮮やかです。ぜひシリーズの残りの作品も邦訳してもらいたいものですね。


No.2265 5点 さらば大連
石沢英太郎
(2015/05/17 14:42登録)
短編小説の名手といわれた石沢英太郎の急逝に際して刊行された”満州小説集”。
「つるばあ」「男色」「国旗」「競う」「不思議に生命ながらえて」「賃金について」「九連宝燈」の、全て旧満州を舞台背景にした7編が収録されています。

旧満州の大連に育ち、そこで終戦を迎えた作者の体験を物語の背景に活かしているのが各作品に共通する特徴で、連作ではなく独立した短編集ですが、中国人とロシア人たちの中で暮らす日本人の主人公はいずれも作者の分身と言えるかもしれません。
収録作のなかでは、ソ連管理下の電気工事会社で中国人従業員に混じって働く”僕”が、ビル6階の密室からの人間消失という不可解な事件に遭遇する「つるばあ」が良い。ある人物が呟いたひとことの意味が分かるラストが印象的な作品。
ただ残りの作品は、青春と激動の時代を書き残したいという作者の思いは伝わるものの、ミステリ要素がほとんどなく、作者の思い出を綴った私小説に近いものが並んでいて期待していたものと少し違いました。


No.2264 5点 暗闇の鬼ごっこ
ベイナード・ケンドリック
(2015/05/15 22:22登録)
元夫のブレイクから閉鎖された信託基金ビルに呼び出されたジュリアは、最上階まで吹き抜けになっている8階からブレイクが墜落死するのを目撃する。8階にいた息子のセスに容疑がかかるが、さらに不可解な墜落死が連続して発生する---------。

盲目の私立探偵ダンカン・マクレーン登場のシリーズ第4作。
不可能状況下の連続墜死事件という本格ミステリ要素を中核の謎にして、それに6年前の同じビルで発生した射殺事件の真相が絡むという通俗スリラーになっています。
盲導犬と警察犬の2匹を連れて行動するマクレーンはなかなか魅力的なキャラクターとして描かれていてますが、相棒のスパッドとその妻でマクレーンの秘書レナ、ニューヨーク市警の警視と巡査部長など、レギュラー・キャラを万遍なく登場させながら役割は大したことなく、シリーズものの悪い面が出ているように感じました。
また、現場状況やクライマックスの活劇シーンが読んでいてスッと頭に入りずらく、トリックの説明も何となく想像できる程度の書き様なのでモヤモヤ感が残りました。真相説明の場面で、マクレーンが「殺害方法については、もう語る必要がありませんね?今日の朝刊に図解が山と掲載されてますから」と話していますが、その図解を本書に載せてほしかったですねw


No.2263 5点 あぶない叔父さん
麻耶雄嵩
(2015/05/12 18:39登録)
海と山に囲まれた田舎町で次々と発生する奇妙な殺人事件。お寺の息子で高校生の”俺”は、寺の離れに住む”なんでも屋”の叔父さんのもとに相談をもちこむと、叔父さんは事件の意外な真相を語り始める--------。

タイトルはポースト「アブナー伯父」のもじりのようですが、内容に特に関連性は見当たらず、パロディやオマージュ的なものではないようです。むしろ、叔父さんの風貌は金田一耕助のパロディぽいのですが.........。
本書は、ミステリ小説の中の”探偵役”という装置をいじくり回して、真面目な読者を翻弄させた今年の本格ミステリ大賞受賞作「さよなら神様」に連なる作者らしい趣向が施された連作ミステリ。ひとつだけ例外があるけれども、それも一種のフェイントかもしれない。
とはいっても収録作を個別に見ていくと、発想の転換でアリバイと密室の謎が一気に解かれる「旧友」がまずまずの出来栄えと言えるものの、「最後の海」や「あかずの扉」を代表格に、ほとんどの作品で新人作家が書いたなら袋叩きにあいそうなバカトリックが連発されていて、謎解きものとしてはレベル的にはとても高いとは言えない。叔父さんのどこかぬけぬけとした真相説明が仄かな可笑しみを醸し出してはいるんですが、肝心のトリック部分が残念レベルです。
高校生の”俺”のプライベートを中心とした青春学園ものの要素のほうが印象に残るものの、それも何か中途半端に終わっていて消化不良な読後感でした。

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