雪の花 |
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作家 | 秋吉理香子 |
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出版日 | 2009年09月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 6点 | メルカトル | |
(2015/07/06 21:37登録) いずれもミステリとは言えないが、なかなかの佳作ぞろいの短編集ではないかと。 あとがきにあるように、作者は早稲田の文学部で習作を何度も書いていたり、小説の作法など学んだだけあって、その実力は折り紙付きと言えよう。とにかく分かりやすい文章と、情景が浮かんでくる描写力を兼ね備えた、隠れた筆達者なのかもしれないと個人的には思っている。 どれも及第点は越えていると思うが、中でも『秘蹟』は最も印象深い作品である。キリスト教色が濃いが、特段教義を押し付けるでもなく、人間の奥深いところにある機微を抉りながらも、老人介護などの社会問題や夫婦問題を描く、ある意味社会派ミステリと言えるかもしれない。 書店では見つからない可能性が高いだろうが、目にした際には手に取ってみることをお勧めする。 |
No.1 | 6点 | kanamori | |
(2015/06/04 23:32登録) ヤフー・ジャパン文学賞受賞の表題作に、3つの書下ろし短編を併録したデビュー短編集。バブル崩壊・不景気によるリストラ、会社倒産、離婚、老人介護などを題材に、現代人が抱える心の闇の部分を描いた作品が多いが、のちのイヤミス風の長編に通じる作風のものがある一方で、思わず涙を誘うヒューマン・ドラマもあります。 「女神の微笑」は、リストラと離婚で疲弊した中年男が、中学生になった娘と閉園した遊園地跡で久しぶりに会う話。娘の言動に身につまされる同年代のお父さんも多いのでは。 「秘蹟」は、長年連れ添った老妻の失踪を巡る”ホワイダニット”。キリスト教の教えが重要なモチーフになっているが、真相が明らかになった後に来るラストの衝撃が凄まじい。文句なしに編中のベストに推します。 「たねあかし」は、かつての恋人に宛てた女性の手紙文のみで構成されている作品。女性作家が書くこういう話はリアリティがあって怖い。 表題作の「雪の花」は、事業に失敗した老夫婦が、心中するために生まれ故郷の雪深い廃村に向かう。短編というより掌編に近い枚数ながら、目に浮かぶ美しいラストシーンが印象に残る作品。 |