home

ミステリの祭典

login
さらば大連

作家 石沢英太郎
出版日1988年08月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 kanamori
(2015/05/17 14:42登録)
短編小説の名手といわれた石沢英太郎の急逝に際して刊行された”満州小説集”。
「つるばあ」「男色」「国旗」「競う」「不思議に生命ながらえて」「賃金について」「九連宝燈」の、全て旧満州を舞台背景にした7編が収録されています。

旧満州の大連に育ち、そこで終戦を迎えた作者の体験を物語の背景に活かしているのが各作品に共通する特徴で、連作ではなく独立した短編集ですが、中国人とロシア人たちの中で暮らす日本人の主人公はいずれも作者の分身と言えるかもしれません。
収録作のなかでは、ソ連管理下の電気工事会社で中国人従業員に混じって働く”僕”が、ビル6階の密室からの人間消失という不可解な事件に遭遇する「つるばあ」が良い。ある人物が呟いたひとことの意味が分かるラストが印象的な作品。
ただ残りの作品は、青春と激動の時代を書き残したいという作者の思いは伝わるものの、ミステリ要素がほとんどなく、作者の思い出を綴った私小説に近いものが並んでいて期待していたものと少し違いました。

1レコード表示中です 書評