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ミステリの祭典

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りゅうさんの登録情報
平均点:6.53点 書評数:163件

プロフィール| 書評

No.23 4点 弁護側の証人
小泉喜美子
(2010/04/15 18:34登録)
(ネタバレあり。注意!)

 最後にドンデン返しがあると聞いていたので、いったいどんなドンデン返しなのだろうと期待しつつ読んだ。「夫妻のどちらが被告なのかわかりにくいな」と思いながら、最後の方になってようやく被告がわかり、これからどういったオチになるのだろうと思っているうちに読み終えてしまった。ドンデン返しはいったいどこに?読み誤ったのかと思って、ネット検索し、トリックの内容を確認した。その正直な感想は、「こんなことで本当に騙される人がいるの?」というものであった(騙された人、ごめんなさい)。トリック以外の部分も大した内容とは思われなかったので、低い評価となった。


No.22 6点 ゼロの焦点
松本清張
(2010/04/12 06:17登録)
 戦後まもない時代の闇の部分に焦点をあてた社会派推理小説。
 文庫本の解説で、平野謙が本作品を犯人あてゲームのテキストとして検討しているのが興味深かった(松本清張は犯人あてを目的としておらず、ストーリーの展開上必要な最低限の人物しか登場させていないので、犯人あてゲームには不向きな作品だが。)
 謎を複雑にしているのは、行方不明となった人物のミステリアスな過去であって、犯人がこれといったトリックを使っているわけではない。
 相手のことを良く知らないまま結婚したり、警察や役場の職員が赤の他人に個人情報を簡単に漏らすなど、現在の常識から考えると不思議な箇所が多々あり、時代性が伺えた。
 小説としてみると、犯人の遺書を添えるなどして、犯人の心情を詳細に描写して終えるべきではなかったかと思う。


No.21 8点 幻の女
ウィリアム・アイリッシュ
(2010/04/05 20:25登録)
(若干のネタバレあり)
 他の方も書かれているが、翻訳にもかかわらず、美しい文章で、芸術的とも言える表現力。登場人物のセリフも決まっている。
 容疑者の親友と恋人が、無罪の証人となる「幻の女」を探し続けるが、あと一歩というところで何度も取り逃してしまうという筋書きが面白い。
 真相は意外だが、設定に無理があり、納得できないものだった。
(特に、死刑執行三日前に、ロンバートがヘンダースンから劇場のプログラムの右上隅を折り曲げたことを聞いて、劇場プログラム買取りの新聞広告を出すくだりがあるが、こんなことをする筈がない。また、ロンバートがカジノ座のプログラムを持ってきた女性を追いかける件もおかしい。)
 真相には不満だが、万人にお薦めできるサスペンスミステリーの古典的名作だと思う。


No.20 10点 不連続殺人事件
坂口安吾
(2010/04/03 09:41登録)
 再読。現時点での私にとってのオールタイムベストの作品であり、フーダニットの傑作。高校生の時に初めて読んだが、巨勢博士が指摘した「心理の足跡」に感心したことを今でも憶えている。このサイトを見て不思議に思ったことの一つが、この作品に対する評価の低さであった。
 登場人物が多過ぎるという指摘はそのとおりで、登場人物一覧表を付けたほうが良かったと思う(フーダニットが目的なので登場人物が多いのは仕方がないことなのだが)。安吾の文体は独特で、人によって好き嫌いが分かれるのであろうが、私にとっては読みやすい文章だ。 謎解きミステリーとしては紛れもなく一級品であり、特に「心理の足跡」に関わる殺人トリックは秀逸だ。
 この時代の作家に差別表現に関する厳格な規律を求めるような人にはお薦めできないが、謎解きを志向する人には絶対のお薦めである。


No.19 6点 異邦の騎士
島田荘司
(2010/03/30 00:14登録)
(ネタバレあり)
 プロットのおもしろさに引き込まれるようにして読んだが、謎解きとしては期待はずれ。
 良子が石岡に接近する過程があまりにも見え透いていて、自然と良子に疑いを持ってしまった。
 真相は意外だが、御都合主義が目立つ。
 (記憶の再生障害があったとしても、その要因以降の病室での記憶までは消去されないと思う。)
 犯行計画は相当大掛かりだが、成功の確実性という点では甚だ心もとない内容だ。石岡に記憶障害があることを考慮しても、石岡の不注意に助けられて成立したような犯罪である。
 (ノートに書いてあることを鵜呑みにして一切自分の目で確認しない、鏡恐怖症で他人の免許証を自分のものと間違えるなど。)
 読者に与えられた材料だけでは真相のすべてにたどり着くことは不可能であり、御手洗潔の超人的推理にはただ平伏するのみであった。


No.18 7点 蝶々殺人事件
横溝正史
(2010/03/27 18:25登録)
 再読。
 本作品について、坂口安吾がエッセー「推理小説について」及び「推理小説論」の中で、問題点を指摘しながらも賞賛しており、興味深い。
 (このエッセーは青空文庫で読むことが出来る。安吾のエッセーは様々な作品の完全ネタバレをしているので、要注意!なお、エッセーの中で、安吾はなぜか犯人の名前を間違えている。)

(以下、完全ネタバレ。要注意!)
 由利先生の説明を読んでもスッキリ納得というわけにはいかなかった。
 以下の疑問を感じた(私の理解が足りないのかもしれないが)。
・ 由利先生の説明によると、犯人はトランクを東京駅に一時預けにし、佐伯淳吉にチッキを頼んだことになっている。一時預けした記録の日時によって、殺人が東京で行われなかったことがばれてしまうと思うのだが?
 (安吾のエッセーでは良心的な解釈をしており、佐伯淳吉がトランクを東京駅に運んだとしている。この方がもちろん良い。)
・ 犯人はトランクを最終的に曙アパートから大阪駅まで運んでいるが、そんな必要があるのだろうか?曙アパートに放置しておけば良かったのではないかと思う。わざわざ、リスクを犯してトランクを大阪駅まで運ぶ意味がわからない。
・ 犯人は曙アパートの外部に置かれていた砂嚢を部屋の中に持ち込んでいるが、そんな必要があるのだろうか?室内に持ち込むことによって、アパートの住民に砂嚢へと意識を向かせることになる(実際にこれが決定的証拠となった)。

 同じく、死体移動を扱った「黒いトランク」と比較すると、完成度では数段落ちると思う。
 いろいろ文句をつけたが、謎解きミステリーとしては非常に良く出来た作品であることは間違いない。


No.17 6点 火刑法廷
ジョン・ディクスン・カー
(2010/03/24 19:29登録)
 カーの最高傑作と言われているので、ずっと読みたいと思っていた作品。しかし、期待ほどではなかった。
 犯行やそれを隠蔽する行為の合理性に疑問を感じた。犯人消失や死体消失のトリックは許容範囲だが、やや肩すかしをくらった感じ。不思議な謎を次から次と提示してくる作者のストーリーテラーぶりはさすがだ。
 最後のどんでん返しには呆気にとられたが、個人的にはこのラストはあまり評価できない。


No.16 5点 僧正殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2010/03/22 18:39登録)
 グリーン家は昔読んだことがあるが、僧正は初読。
 犯人を断定する決定的証拠がないため、探偵ファイロ・ヴァンスは心理作戦で犯人を追い詰める。
 これといったトリックが使われているわけではなく、謎解きとしての妙味は少ない。
 犯行の動機と犯行内容とのつながりに無理があるように思う。
 この作品は、見立て殺人等によるプロットの面白さで評価されているのだろう。
 しかし、それも後の作家が手を変え品を変えて様々な作品を発表した後では色あせてしまうのも仕方がないことだと思う。
 古き良き時代の探偵小説を鑑賞するという意味では一読の価値がある作品だと思う。


No.15 7点 殺戮にいたる病
我孫子武丸
(2010/03/16 18:06登録)
(若干のネタバレあり)
 あらかじめ本作品が叙述ものであることを知っていたが、読み終わるまでどういうオチになるのか全く予測できなかった。この手のトリックに免疫が出来ているためか、真相の衝撃度はそれほど大きくなかった。
 この作品の凄いところは犯人の異常行動や異常心理に関する描写・表現であり、衝撃的な内容だ。青少年や淑女には絶対に読んでほしくない書物である。
 作者の文章力に敬意を表して、7点とした。
 1箇所疑問に思ったところがある。第9章の3で、雅子が夜中に物音を聞いて廊下を覗いたときに、息子が袋様のものを手にして外から戻ってくるのを目撃している。これは何だったのだろうか?


No.14 9点 皇帝のかぎ煙草入れ
ジョン・ディクスン・カー
(2010/03/15 18:24登録)
 再読。秀作である。何といっても心理的盲点を突いたトリックが秀逸。犯人にとっても予想外の出来事が起こり、謎をより一層複雑なものにしている。
 主人公のイヴにとって不利な状況証拠が次々と見つかり、まるで誰かにはめられたかのようにして逮捕されるという筋書きも面白かった。
 表題でもある「皇帝のかぎ煙草入れ」が、探偵役のキンロス博士が犯人を推理するうえでの重要な鍵となっている。


No.13 6点 ロートレック荘事件
筒井康隆
(2010/03/15 18:20登録)
(ネタバレあり)
 この真相であれば、ロートレック荘の平面図で「浜口重樹」と記載している箇所は「浜口」と姓のみの記載にすべきだと思う。
 読者の勘違いを利用したこの手のトリックはあまり好きではなく、犯行自体には特に目を引く要素もないので、ミステリー作品としては物足りなさを感じた。
 ラストには、作者ならではの文学的テイストが添えられている。若い女性への辛口の風刺があり、犯人にとってはこの上ない悲劇の結末となっている。ラストが良かったので、プラス1点とした。


No.12 4点 姑獲鳥の夏
京極夏彦
(2010/03/09 08:19登録)
 文章は軽妙洒脱、ストーリー展開も巧み、ユーモアもあって実に読みやすい作品なのだが・・・・・・。
 真相は実に意外なものである。当たり前だ。このような馬鹿らしい種明かしを作者がするとは誰も考えないだろうから。究極的とも思える馬鹿らしさ!この種明かしをどう見るかによって、評価はガラリと変わるのであろう。
 作品の設定には、この馬鹿らしい種明かしに現実味を持たせる工夫がされてはいるのだが、取って付けたような強引さは拭い去れない。
 知ったかぶりで、言葉を弄んでいるとしか思えない京極堂の講釈にも閉口した。


No.11 5点 ヒッコリー・ロードの殺人
アガサ・クリスティー
(2010/03/05 17:25登録)
 ポアロ登場作品としてはマイナーな作品。
 確かに登場人物が多すぎると思います。巻頭の登場人物一覧表に記載されている寮生だけでも11人(それ以外にも寮生が登場する)。外人の名前は憶えにくいので、頻繁に登場人物一覧表を見返しました。
 雑多な品物の盗難事件、モルヒネの入った瓶の移動、背後にある大きな謎などプロットは結構面白いと思います。しかし、盗難事件の動機、特に電球の盗難理由はいただけません。
 ちょっとしたトリックも使われているのですが、小粒感は否めません。


No.10 6点 ペトロフ事件
鮎川哲也
(2010/02/28 15:56登録)
 犯人とおぼしき人物が3人登場するが、ストーリーの中頃ではほぼ1人に絞られる。その人物のタイムテーブルを作って、時刻表と突合わせることにより、鬼貫警部が途中で披露した推理と同じ結果に容易にたどりついた。しかし、この作品には最後に一ひねりがあった。この一ひねりがあったので評価が上がった。


No.9 7点 すべてがFになる
森博嗣
(2010/02/27 12:25登録)
(ネタバレあり)
 印象的な死体登場シーン。被害者以外は出入り不可能な密室からロボットに載せられて登場した死体は、両手両足が切断されていた。この不可能犯罪を可能にした手法には意表をつかれた。しかし、犯人が天才であるためか、犯行の動機が皆目理解できなかった。また、犯行計画があまりにも大掛かりすぎてリアリティーに乏しく、天才の計画にしては不確実な部分があると思った。


No.8 10点 スイス時計の謎
有栖川有栖
(2010/02/16 13:08登録)
 評価点は、表題作のみによるもの。表題作以外の3作は、短編推理としてみた場合に可もなく、不可もなくといったレベルだと思う。しかし、この4作を平均して評価点数を下げ、表題作のような傑作を埋もれさせてしまうのは勿体ないと思ったので、あえて表題作のみで評価を行った。
 スイス時計を題材に、このような素晴らしいロジックを構築した作者の発想力に感心。論理の積み重ねによって、犯人を特定していく場面には興奮した。
 あえて、重箱の隅をつつくような疑問をあげると、火村が有栖に対して、神坂と三隅の時計の裏蓋にイニシャルが入っているかどうかを確認するよう依頼する場面があるが、このことは推理する上で必ずしも必要な事項ではないと思う。


No.7 4点 動く指
アガサ・クリスティー
(2010/02/14 08:47登録)
 この作品は、ミステリーの要素が希薄だ。登場人物や人間関係の描写が主であり、読んでいる時にはミステリーであることを忘れてしまう程だ。クリスティーは自作のベストテンの中に本作品を選んでいるが、これは登場人物への思い入れの強さによるものであろう。
 物的証拠がないため、最終的にはマープルと警察は犯人に罠を仕掛けて、逮捕する。謎解きの面白さがないため、採点は厳しめとなった。文章は会話が主体であり、非常に読みやすい。
 しかし、なぜ表題が「動く指」なのであろう。読み終えてもわからなかった。謎のままである。


No.6 5点 エジプト十字架の秘密
エラリイ・クイーン
(2010/02/09 20:50登録)
国名シリーズでは最も評価の高い作品のようだが、あまり感心しなかった。最後の犯人追跡の場面はテンポが良く読みやすいが、中盤あたりは単調で退屈だった。
 色々詰め込みすぎていて、ゴチャゴチャした印象。警察の捜査が杜撰。探偵エラリー・クイーンの講釈もあまり説得力のあるものではない。第3の殺人の実現可能性には疑問あり。
 このような遠大な犯罪計画を立てる犯人が存在するとは思えない。


No.5 5点 帽子収集狂事件
ジョン・ディクスン・カー
(2010/02/05 13:37登録)
(若干のネタバレあり)
江戸川乱歩がベストテンに選んでいる作品だが、そこまでの傑作とは思えなかった。
帽子収集狂による帽子盗難騒ぎ、エドガー・アラン・ポーの未発表原稿の盗難、ロンドン塔で発見された殺人事件等を絡めて、真相は結構複雑で面白いものとなっている。しかしながら、与えられた手掛かりのみで、読者が真相を推理するのは到底無理だと思われる。ロンドン塔から被害者の自宅までの移動時間が推理するうえでの肝となるのだが、小説の中ではそのことが本当にさりげなくしか記述されていない。これでは、読者が真相を推理することは難しい。推測の域を出ないとしか思われない推理を断定的な事実のように語るフェル博士には閉口した。


No.4 10点 容疑者Xの献身
東野圭吾
(2009/12/19 21:16登録)
 評判どおり、素晴らしい作品です。無駄と思える箇所がなく、一気に読めました。文章の読みやすさ、構成力、ストーリー展開、登場人物の心理描写、最後に用意されたどんでん返し、どれを取っても文句のつけようがありません。ミステリーとしてだけではなく、文学作品としても優れていると思います。

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