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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.159 4点 鬼首村の殺人
篠田秀幸
(2009/12/21 22:31登録)
弥生原探偵シリーズの第6作目。
本作はタイトルから分かるとおり、横溝「悪魔の手毬唄」のオマージュとなっていますが、もう1つ、帝銀事件と並ぶ戦後の未解決事件である「下山事件」についても独自の解決を試みるという斬新な設定です。
「悪魔の手毬唄」を彷彿させる本筋の童謡連続殺人事件よりも、「下山事件」についての考察や解説に割いている部分が多いような気がして、本筋は全く薄っぺらな印象しか残りません。
本筋の中では、最後の”密室から密室への死体移動”のトリックが読み所なんでしょうが、全然腑に落ちない解決です。(動機も相当薄っぺら)
作者のこだわりは分からなくもないですが、まさに「二兎追うものは一兎も得ず」としか言いようがありません。


No.158 5点 生首に聞いてみろ
法月綸太郎
(2009/12/17 18:32登録)
何年か前の「このミス」第1位作品ですが、正直「ホンマかいな?」という感想です。
以前に一度読んでましたが、内容をあまり覚えてなかったため今回再読しました。
例の「母子像」彫刻についての”首”の問題はこだわりすぎじゃないですかね? 
(文庫版で)200頁を過ぎても誰も殺されないんで、もしかして本作って「彫刻の首切り落とし事件」の話なのかと思ってしまいました。
確かに「小説」としてはグレードの高い作品だと思いますが、氏の悪い部分がやや目に付く一作でした。(長いですし・・・)


No.157 6点 女王蜂
横溝正史
(2009/12/17 18:20登録)
一連の金田一耕助ものとしては、何度もドラマ化されていて比較的有名な作品の1つでしょう。
ドロドロ&オドロオドロシイ展開がつきものの横溝作品の中では、割合スッキリというか薄味な印象は残ります。
特別凝ったトリックやギミックはなくて、真犯人も「まぁそうだろうな・・・」という気がしました。
ただ、決してつまらないというレベルではなくて、過去の密室殺人や謎の人物など本格物の要素は十分詰まっていますし、「さすが」という感じです。
いつの時代も男って「絶世の美女」には弱いんですね・・・


No.156 6点 殺人ダイヤルを捜せ
島田荘司
(2009/12/17 18:11登録)
初期のシリーズ外作品。
まだ携帯電話が普及する前の年代を舞台に、島田氏の十八番の1つ、「東京=都市の恐ろしさ」を感じさせる一作になってます。
「電話」に着目した作品は、確か別の短編(短編集「展望塔の殺人」の収録作でしたか?)でも書いてましたが、使いようによってはこういう気の利いたサスペンスになるんですね。
途中ハラハラさせておいて、ラストで「実は・・・でした」というオチは、定番とはいえ初期作らしい切れ味を持っています。
重厚さはありませんが、水準以上の作品でしょう。


No.155 8点 りら荘事件
鮎川哲也
(2009/12/10 23:05登録)
星影龍三シリーズ。
まさにフーダニットの代表作とでも言うべき一作ですし、さすがの面白さです。
秀逸なのは、殺人現場に残される「トランプ」の仕掛けでしょう。単にストーリーを盛り上げる小道具的扱いではなく、○○○○トリックと絡めての仕掛けは素晴らしい発想です。
確かに動機の弱さは感じますし(特に第4の殺人以降)、最初の事件はちょっと偶然性が強すぎる気はします。
ですが、それは本作の作風からすれば、あまり重要視しなくても良い部分でしょう。
作品中に散りばめれた伏線にどれだけ気付けるかという、「謎解き」の醍醐味が味わえる傑作という評価です。


No.154 7点 不祥事
池井戸潤
(2009/12/10 22:51登録)
こちらも氏の連作短編集。
某銀行事務部臨店班に所属する美貌の女性銀行員、花咲舞が主人公の”痛快?銀行ミステリー”。
出世欲や組織の理論に毒された幹部行員の悪行に対して、主人公が正論を振りかざし、まさに「メッタ斬り」にしていきます。
全8編の中では、大百貨店の御曹司を悪人に据えた「腐魚」と「不祥事」が最も痛快です。
他にもアナグラムが面白い「荒磯の子」も捻りが効いててなかなかの良作。


No.153 7点 悪魔の手毬唄
横溝正史
(2009/12/10 22:36登録)
言わずと知れた金田一耕助シリーズ。
横溝作品でいえば中期の代表作的存在。
本作のキーは当然ながら鬼首村に伝わる手毬唄どおりに殺人が起こる、いわゆる「見立て殺人」ですが、正直、作品の雰囲気作りが主眼で必然性は感じません。
その他にも、氏の作品ではお馴染みの「顔のない(焼かれた)死体」や「被害者の出生に関する秘密」といったギミックがたっぷり出てきており、金田一シリーズの総決算といった趣きすら感じます。
もちろん「名作」には違いないですし、一読する価値は十分でしょう。


No.152 4点 行方不明者
折原一
(2009/12/05 23:11登録)
「~者」シリーズ。
よく続いてます。本シリーズ。
ですが、前作「沈黙者」くらいから明らかにパワーダウン気味なのが否めません。
ラスト前で「僕」の正体が明かされますが、それまでに何の材料も与えられてなかった名前であり、「だれ?」という感じです。
氏の作品は、「狂気」とか「訳のわからなさ」という”味”が強ければこそだと思いますが、ちょっと今回は薄味すぎです。
オチもとってつけた感が残りました。


No.151 4点 軽井沢殺人事件
内田康夫
(2009/12/05 22:59登録)
浅見光彦と信濃のコロンボ「竹村警部」の競演が”ウリ”の作品。
ですが、読み所はそれだけという印象。
あくまでも主役は浅見であって、竹村警部が完全に脇役扱いなのが”竹村好き”にとっては不満が残ります。
作者自身が軽井沢在住のせいか、軽井沢の歴史や名所関連の話はなかなか面白いのですが、肝心のミステリー部分はどうもいけません。
ラストも消化不良気味・・・


No.150 8点 異邦の騎士
島田荘司
(2009/12/05 22:49登録)
150冊目の書評は本作で。
今回、改訂完全版で久々に再読しました。
「あとがき」で島田氏も書いてますが、まさに本作が「大作家・島田荘司」の原点とも言える作品なんでしょう。
改訂版のため、文章的なアラはなくなってますが、その分ちょっと若々しさには欠けるような印象は残りました。
本作は、ピュアな「ラブストーリー」ですね。ミステリー的な技巧云々というのとは全然別物で、恋愛にも人生にも不器用な男の心の動きが哀愁を誘います。
しかし、これは本当にあの石岡君と同一人物なんでしょうか。ラストで御手洗の前で号泣する場面では、こちらの心も震えました。
この後の作品に登場する何とも小市民的な石岡君とはどうしてもイメージが一致しない感じです。


No.149 7点 龍神池の殺人
篠田秀幸
(2009/12/01 23:09登録)
弥生原探偵譚の第8作目。
氏の作品は必ず既作品のオマージュとなっていますが、本作はヴァン・ダインの「ドラゴン殺人事件」と横溝「迷路荘の惨劇」、そして松谷みよ子の「龍の子太郎」の3つが下敷きになっています・・・(すごいですね)
例によって、本格物の要素を詰め込みすぎるほど詰め込んでいますが、今回は久々に水準以上の出来といった印象。
アリバイトリックはよくできているものと、甚だ怪しいものが混在していますが、まぁ許容範囲でしょう。
あまりにも人が殺されていくため、「読者への挑戦」の段階ではおおよそ犯人は推定されますし、現実的な動機を持つ者があまりにも明確なのはいかがなものかとは思いました。


No.148 6点 悪魔のラビリンス
二階堂黎人
(2009/12/01 22:54登録)
二階堂蘭子と「ラビリンス」の対決シリーズ第1弾。
本作は中編2作と、次回作へのつなぎ的な最終章の3部構成です。
最初の「寝台特急『あさかぜ』の神秘」は、氏得意の奇術的演出を利かせたトリックが光ります。密室からの犯人脱出&密室への被害者出現方法が図解付きで解説されていて、たいへん分かりやすい配慮振りです。
2つめの「ガラスの家の秘密」は本筋の事件よりは、むしろ「府中市内の西洋館の地下室」が今後の本シリーズにとってのキーになり重要でしょう。
本作中では、蘭子とラビリンスの直接対面はなく、ラビリンスという存在についても謎のまま終わってしまいます。
その後、「魔術王事件」→「双面獣事件」と進展するとともに徐々にラビリンスの謎は明らかになりますが、逆に作品の質はやや下降気味に・・・


No.147 4点 最後のディナー
島田荘司
(2009/12/01 22:27登録)
石岡和己と犬坊里美を主役に据えた短編集。
正直なところ、本作はミステリーではなく「ちょっといい話」的な”読み物”というだけの印象。
「龍臥亭事件」からの流れを知っている読者にとっては、2人のその後的な競演は楽しい演出かもしれませんが、それだけと言ってしまえばそれまででしょう。
ただ、これからのクリスマスシーズンにはぴったりかもしれません。心が温まります。
「大根奇聞」はよく分かりません。面白くないことはないですけど・・・


No.146 7点 朱の絶筆
鮎川哲也
(2009/11/28 22:41登録)
星影龍三シリーズ。
ちょっと軽いタッチですが、典型的な「犯人当て=フーダニット」物という印象。
やっぱり、第1の殺人の「○○」を使った仕掛け=偽装アリバイが秀逸でしょうね。ちょっとした盲点というか、思い込みを突いたトリックで、鮎川氏らしさがよく出てます。
第2~4の殺人はどうですかねぇ。ちょっと必然性が弱いような感じですが・・・まぁ、あくまでも最初の事件あっての、という意味合いで、特に珈琲による毒殺は蛇足のような気はしました。
タイトルがいいですね。気が利いています。


No.145 6点 蒼茫の大地、滅ぶ
西村寿行
(2009/11/28 22:19登録)
寿行氏お得意の動物&パニック物の1つ。
名作「滅びの笛」は”鼠”が東京をパニックに陥れますが、本作の主役は”バッタ”。空を覆いつくすほどの大群の”バッタ”・・・
バッタの大群のおかげで、東北地方の穀倉地帯は全滅させられ、東北地方は青森県知事のリーダーシップのもと、独立を決意する・・・という粗筋です。
ストーリー的にはかなりハチャメチャな感じはしますが、全盛期の作者の力というか、読ませるパワーというものを味わえる一作でしょう。


No.144 8点 二の悲劇
法月綸太郎
(2009/11/28 21:58登録)
「・・・の悲劇」第2弾。
ある意味名作ではないかと思います。
真相が三層構造になっていると言ったらいいのか、ラストで2度ほどひっくり返されます。
何といっても途中の「日記」部分が秀逸です。かなりのページ数を割いているとおり、この「日記」の謎にどれだけ気付けるかという部分で読み手の力量も試されてる気がしました。
ただ、「2人称」に関する仕掛けは反則ギリギリでしょうね。まぁ伏線は確かに張られてますが・・・
ユーミンの「卒業写真」の歌詞もいいスパイスになってます。


No.143 5点 Yの構図
島田荘司
(2009/11/23 14:47登録)
吉敷刑事シリーズ。
出版当時、社会的事件であった「いじめ」問題が取り上げられ、事件の重要なエッセンスになっています。
真犯人はやや意外性を感じますが(まぁ、「Yの…」とくれば、おのずと分かりますけど)、驚くような「仕掛け」もなく、島田氏としてはかなり地味な作品といっていいでしょう。
当時の大人が「いじめ事件」に対して受けた感想というのが、まさに吉敷の台詞や心情に表れていて興味深いです。
余談ですが、本作発表のきっかけとなった「中野○○○中学校」の近くに住んでいた時期があり、校舎を見て「ここがあの中学校かぁ・・・」と感慨に耽ったことがあります。


No.142 6点 模倣の殺意
中町信
(2009/11/23 14:24登録)
旧作名「新人賞殺人事件」を創元推理文庫にて復刻させた作品。
いわゆる「叙述トリックもの」です。
まずは構成が面白いですね。冒頭1つの事件(殺人または自殺)が起こり、それを被害者の関係者である2人が別々に捜査していき真相に近づいていきますが、導かれる結論はなぜか食い違う・・・という展開。
当然そこに「仕掛け」があります。
ただ、この「仕掛け」はどうですかねぇ・・・一応伏線は張られていて、読み手が気づくことも可能ですし、確かに被害者に対する形容詞が引っ掛かり続けるんですけど・・・
叙述トリックに慣れた身にとっては、どうしてもサプライズは小さめですね。


No.141 7点 フレンチ警部最大の事件
F・W・クロフツ
(2009/11/23 14:01登録)
フレンチ警部が初登場する記念すべき作品。
タイトルは「最大の…」となっていますが、作者も当初はフレンチ警部を本作だけの探偵役と考えていたためで、「最大」というほどのインパクトはありません。
ただ、クロフツらしい一作なのは間違いなく、細かな手掛かりや考えをもとに、フレンチ警部が丹念に捜査を進めていきます。
特に、真犯人を指摘するラストの場面がいいですね。フレンチ警部を翻弄した犯人とその理由が気持ちよく頭に入ってきます。
ちょっと途中がモタモタしますが、それはそれでクロフツの特徴ですから・・・


No.140 8点 走らなあかん夜明けまで
大沢在昌
(2009/11/22 00:24登録)
ちょっとヘタレの普通のサラリーマン坂田を主人公にした、作者としては珍しいシリーズ。
「新宿鮫シリーズ」のような震えるような緊張感こそありません。が、逆に言えば、主人公が単なる一市民になったことで、読者がスムーズに感情移入できるようになっています。
追い詰められて、弱気な自分を奮い立たせて頑張る主人公の姿に、いつの間にか自身を重ね合わせてる自分がいます。
舞台が「大阪」というのも本作に何ともいえない”味わい”をプラスしてますね。憎むべき敵である「や○ざ」もやっぱり大阪だとなんか雰囲気が和らぐというか・・・
やっぱりうまい作家です。

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