nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2865件 |
No.1265 | 5点 | ココナッツ殺人 パトリシア・モイーズ |
(2016/06/02 16:39登録) (ネタバレなしです) 1977年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第13作は本格派推理小説でなく犯罪スリラー系統の作品ですが、非常に巧妙な謎解きも織り込まれています。カリブ海に浮かぶセント・マシューズ島が舞台で、過去作品に登場しているタンピカが近代化が進むのと対照にのんびりした土地ですがここでアメリカの上院議員が殺され、原住民が逮捕される事件が起きてティベット主任警視が早期解決のために呼ばれます。人種問題が取り上げられ中盤には悲惨な出来事も起きますが、雰囲気が暗くならず他の作品同様軽い読み物に仕上がっているのはモイーズならです。考えようによってはモイーズの作風には似合わないテーマとも言えるかもしれませんが所詮フィクションと割り切るべきでしょう。これまでの作品で存在感のなかったレナルズ部長刑事が頑張っているのも特徴です。 |
No.1264 | 5点 | ゴーテ警部罠にかかる H・R・F・キーティング |
(2016/06/01 11:37登録) (ネタバレなしです) 1967年発表のゴーテ警部シリーズ第3作は最後にちょっと推理しているとはいえ本格派推理小説でなく冒険スリラーに分類される作品です。このシリーズ、自分の思うように事が進まずゴーテ警部がきりきり舞いするパターンがよく見られますが、冒険スリラーの方がこのパターンを使いやすいと作者は考えたのかもしれません。相変わらずインドという舞台を上手く利用しています。余談ですが作中で核問題に触れていますがその後のインドが1974年、1998年と核実験を行ったという史実を考えると(内容的にはフィクションとはいえ)どこか暗示めいたものを感じるといったら考えすぎでしょうか? |
No.1263 | 5点 | ヴァレンタイン・デイの殺人 キャロリン・G・ハート |
(2016/06/01 11:27登録) (ネタバレなしです) 1990年発表のデス・オン・ディマンドシリーズ第6作です。前作「ミステリ講座の殺人」(1989年)ではその行動が好きになれなかったローレルですが、本書では結構見直しました。その分アニーの方が神経質過ぎるようにも感じてしまいましたけれど。誰もが犯人らしく見えるようにするというのは本格派推理小説としての常套手段ではありますが今回はアニーの推理が余りにも粗く、真相を知ってもなお誰が犯人でも同じだったのではという思いが残ってしまいました。 |
No.1262 | 5点 | フレンチ警部と漂う死体 F・W・クロフツ |
(2016/06/01 11:20登録) (ネタバレなしです) 1937年発表のフレンチシリーズ第16作です。前半は登場人物間の関係を中心に描き、中盤でメインの事件を起こし、後半は船上での探偵活動というプロットが同年に発表されたアガサ・クリスティーの名作「ナイルに死す」と同じなのは興味深いところです。もっとも舞台背景や人物の個性といった外面的要素で比較すると地味な作風のクロフツの不利は避けられないところです。第10章「幕間」では船や船員の様子が丁寧に描写されていますが、これがちっとも面白くないのがクロフツらしいです(笑)。まあフレンチとフレンチ夫人の会話なんかではユーモアを交えたりと頑張ってはいますけど。本格派推理小説としてはうまく伏線を張っているところもありますが、論創社版の巻末解説で紹介されているように謎解き手掛かりが解決前に十分提示しきれていないのは残念です。 |
No.1261 | 5点 | 光る指先 E・S・ガードナー |
(2016/06/01 11:12登録) (ネタバレなしです) 1951年発表のペリイ・メイスンシリーズ第37作です。今回のメイスンはかなり慎重な態度で対応しているのですがそれにも関わらずどんどん不利になっていく展開がサスペンス豊かで、宿敵ハミルトン・バーガーもこれまでにないほど自信満々です。そこまではいいのですがここでいつものように法廷で見事な逆転劇が見られるかと思いきや、意外にも決着は法廷外へとなだれ込みます。推理も若干はしていますがかなり強引な手法で解決へと導いており、しかも後味の悪い結果が気になります。デラの、「結局この方がよかったかもしれない」発言には個人的には賛同できません。 |
No.1260 | 5点 | バンガローの事件 キャロリン・キーン |
(2016/06/01 11:04登録) (ネタバレなしです) 1930年発表のナンシー・ドルーシリーズ第3作ですが、このシリーズの生みの親の1人ともいえるエドワード・ストラッテメイヤー(1862-1930)が製作に関わった最後の作品でもあります。本書はかなり冒険色が強くてスリリングです。ただこういう書き方すると考えが古いとか差別的だと批判されるかもしれませんが、少女探偵もので主人公が痛い目に会う場面を用意してあるのは個人的にはあまり好きではないですね。まあそこからのナンシーは頭脳の冴えも行動力も快調で、すっきりできるのですが。 |
No.1259 | 5点 | 芝居がかった死 ロバート・バーナード |
(2016/05/31 18:26登録) (ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説で、探偵役は「不肖の息子」(1978年)以来10年ぶりの登場となるメレディス主任警部ですがシリーズ探偵と紹介するのがためらわれるほど個性の乏しいキャラクターです。kanamoriさんやminiさんのご講評の通りだと思います。バーナードはクリスティーの影響を引き合いに出されますが、なるほど本書の真相は確かにクリスティーのいくつかの作品と共通しているところがあります。ただ残念ながらクリスティーと比べると謎の盛り上げ方はうまくありません(本格派でこれは大事なポイントだと思います)。そのためそれなりに意外性はあると思うのですが、うまく騙されたという気分が味わえませんでした。 |
No.1258 | 5点 | 眺めのいいヘマ ジル・チャーチル |
(2016/05/31 17:36登録) (ネタバレなしです) E・M・フォスターの「眺めのいい部屋」(1908年)のタイトルを借用した1999年発表のジェーン・ジェフリイシリーズ第11作です。今回は結婚式の準備という舞台背景ですが(ジェーンが結婚するわけではありませんよ)、意外と祝祭的な雰囲気はなくこのシリーズとしてはユーモアも低調です。ではサスペンス豊かかといえばそうでもなく、第16章でジェーンがコメントしているように「ちゃんとした動機のある容疑者」が絞り込めない状況が長々と続くので謎解きプロットもどこかもやもや感を伴っています。最後は大胆などんでん返しがありますけど、驚きよりは唐突感の方が強かったです。 |
No.1257 | 5点 | グルメ探偵と幻のスパイス ピーター・キング |
(2016/05/31 17:33登録) (ネタバレなしです) 何百年も前に絶滅したとされるスパイス(と主人公は確信します)の盗難、続いて起きる殺人事件を扱った1997年発表のグルメ探偵シリーズ第2作です。謎解きプロットは、登場人物が次々に増えてはそれほど強力な根拠もないのにいつの間にか容疑者になっているという印象を受けました。一応犯人を特定する手掛かりもあるのですが解決前にフェアに読者に提示されてるわけではないのも本格派好き読者としては不満点です。魅力的なの何といっても料理描写で、世界各国の料理が登場します(残念ながら日本料理はほとんど出番なし)。しかも欧米料理や中華料理以上に南米やアフリカの料理の描写に力がこもっているのがユニークで、まさにグルメ探偵にふさわしい雰囲気が楽しめます。 |
No.1256 | 7点 | 人形遣いと絞首台 アラン・ブラッドリー |
(2016/05/31 17:13登録) (ネタバレなしです) 2010年発表のフレーヴィア・ド・ルースシリーズ第2作です。どうも私には主人公のフレーヴィアがまだ理解できず、冒頭でなぜ墓地で死んで(?)いたのか最後までわかりませんでした。家族関係も相変わらず良好とはほど遠いですし。ただキャラクター描写に終始した感のある前作と比べて謎解きは格段に進歩しており、フレーヴィアの推理説明が多少強引に感じられる部分はあるものの、良質の本格派推理小説を堪能したという満足感を得ることができました。 |
No.1255 | 6点 | メリー殺しマス コリン・ホルト・ソーヤー |
(2016/05/31 17:10登録) (ネタバレなしです) 1995年発表の「海の上のカムデン」シリーズ第6作のコージー派の本格派推理小説です。登場人物が非常に多く、このシリーズを読み慣れた読者なら誰がシリーズ準レギュラーで(当然犯人ではない)、誰が容疑者なのかを区分けするのもそう大変ではないでしょうけど、もしこのシリーズを本書で初めて読んだならかなり雑然とした印象を受けると思います。前半は人物整理だけで手一杯の感じですが中盤以降は調子が上向きになり、最後は1930年代の某アメリカ本格派推理小説の傑作を髣髴させる珍しい真相と、クリスマスらしい決着で締めくくられます。 |
No.1254 | 4点 | 病める狐 ミネット・ウォルターズ |
(2016/05/30 21:44登録) (ネタバレなしです) 2002年発表のミステリー第9作で、「鉄の枷」(1994年)に続く2度目のCWA(英国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞受賞作となりました。私の好きな本格派推理小説でなくサスペンス小説の系列だったのが個人的には残念ですが、それはともかく犯人にしろ主人公にしろこれまでの作品に比べると鋭く強烈な心理描写は随分と抑えられているように思えます。そのためか本書は上下巻にまたがる大作にもかかわらずウォルターズとしては平明な印象を受けました。ただ犯人当てミステリーではないとはいえ、いくつかの謎を謎のままで終わらせてしまっているのは不満ですが。 |
No.1253 | 7点 | 幼き子らよ、我がもとへ ピーター・トレメイン |
(2016/05/30 21:40登録) (ネタバレなしです) 1995年発表の修道女フィデルマシリーズ第3作の本格派推理小説ですが、過去2作はアイルランド国外でのフィデルマの活躍を描いており本書が彼女のアイルランドデビューということになります。モアン王国の修道院で隣国ラーハンの著名な神学者が殺され、その代償としてモアン王国はラーハンから領土割譲の圧力を掛けられます。単なる犯人当て謎解きだけでなく国家間の紛争という大きな課題をどう解決するのかも見所の一つで、白熱の法廷シーンまで用意されています。語り口は明快で歯切れ良く、人物もきっちり描き分けられていて創元推理文庫版で上下巻の大作ながらよどみなく読めました。問題があるとすれば第16章から第17章にかけての衝撃的な出来事で、読者によってはここまで過激にやらなくてもと感じるかもしれません。 |
No.1252 | 5点 | 真実の問題 C・W・グラフトン |
(2016/05/30 21:33登録) (ネタバレなしです) C・W・グラフトン(1909-1982)は中国生まれの米国人作家で、女性探偵キンジー・ミルホーンシリーズで有名なハードボイルド作家スー・グラフトンの父親としても知られます。もっとも彼自身のミステリー作品はわずか3冊で(他に非ミステリー作品が1冊)、作家よりも弁護士が本業だったため知名度ではスー・グラフトンには遠く及びません。1950年発表の本書は彼の最後のミステリー作品ですが、過去の2作品が本格派推理小説らしいのに対して本書は犯罪小説に属する作品です。通常の犯罪小説は犯罪に至るまでを長々と描くか、逮捕されるかうまく逃げ切るかの警察や探偵とのかけひきをスリリングに描くか、この2つのパターンが多いと思います。ところが本書の場合は逮捕されてから以降をメインにしているのがユニークです。この種の作品を楽しめるかは犯人である主人公に共感できるかどうかが重要だと思うのですが、微妙に心理描写をぼかしたようなところがあって好き嫌いが分かれそうです。なお国書刊行会版の巻末解説は非常に充実していますが、「いかにして無実を勝ち得るかというハウダニット」と謎解き要素をアピールしているのはかなりの拡大解釈で、読者として謎解きに参加できたという実感は湧きませんでした。 |
No.1251 | 4点 | 死者との対話 レジナルド・ヒル |
(2016/05/30 21:20登録) (ネタバレなしです) 2001年発表のダルジール警視シリーズ第17作で、ハヤカワポケットブック版の巻末に作者のコメントが寄せられていますがかなりの自信作であることが伺えます。スリラー小説だったシリーズ前作「武器と女たち」(2000年)から犯人当て本格派推理小説路線に戻ったのはいいのですが、前作の容疑者を本書でまた容疑者として再登場させているやり方には感心しません。本格派といっても結末は相当型破りな手法が採られており、また最後の一行を疑問文で締めくくっているなどもやもや感を残す幕切れになっています。これはこれで強力な効果を上げているのですが、今までの作品中でも特に重厚長大なボリュームと相まってヒル初心者には勧められない作品です。 |
No.1250 | 5点 | 他言は無用 リチャード・ハル |
(2016/05/30 21:04登録) (ネタバレなしです) 1935年発表のミステリー第2作ですがジャンル特定に悩む作品です。一応本格派風なところもありますが、中盤に犯人自身の視点で描かれた章が挿入されて犯人の正体は読者に判るので犯人当てを楽しむ作品ではありません。作中人物が推理で犯人に到達する、倒叙推理小説的な要素もありますが推理や探偵活動よりも犯人も含めた様々な人物の思惑と、その思惑通りにいかない皮肉な事態に多くのページを割いている作品で、そもそもミステリーらしくないと感じる読者もいるかもしれません。 |
No.1249 | 5点 | シュガークッキーが凍えている ジョアン・フルーク |
(2016/05/29 17:31登録) (ネタバレなしです) クリスマス・パーティーでハンナの母ドロレスがパーティー用に提供してくれたアンティークのケーキナイフが会場から消えてしまい、ナイフを探すハンナが死体を発見する2004年発表のハンナ・スウェンセンシリーズ第6作です。本書のヴィレッジブック版は400ページ程度ですが小説部分は300ページほどで残りの100ページはというとみんな料理レシピです。レシピを見たら作ってみたくなる料理好き読者にはたまらない作品でしょう。コージー派ミステリーのシリーズなので軽い内容なのは承知してますが本書はその中でも軽く、短編ミステリー的な謎解きが推理もほとんどしないで場当たり的に解決されてしまいます。まあクリスマス用の特別編として読む分にはOK?(笑) |
No.1248 | 4点 | シナの鸚鵡 E・D・ビガーズ |
(2016/05/29 17:21登録) (ネタバレなしです) なぜかチャーリー・チャンが宝石をニューヨークへ(後に目的地は変わります)運ぶことになるという不思議なプロットの、1926年発表のチャーリー・チャンシリーズ第2作ですが推理もあるとはいえこれは本格派推理小説というよりスリラー小説ではないでしょうか。スリラー小説といっても次々に事件が起きるのではなく、むしろその反対。おうむ事件以外に明確な形で事件らしきものがなかなか起きず、事件が既に発生しているのかそれともこれから発生するのかさえはっきりしない、もやもやした状態が続きます。チャンも身分を隠しての行動なので描写がとても地味です。書きようによっては意外な真相を演出できたかもしれませんが、読者が謎解きに参加しにくいストーリーのためか唐突感の方が強いです。またE・S・ガードナーの「偽証するおうむ」(1939年)を読んだ読者なら本書でのおうむの能力には不自然さを感じると思います。 |
No.1247 | 4点 | クッキング・ママの検屍書 ダイアン・デヴィッドソン |
(2016/05/29 17:10登録) (ネタバレなしです) 1996年発表のゴルディシリーズ第6作です。このシリーズはゴルディが自分自身や家族のために事件に首を突っ込んでいくパターンが多いのですが、本書の前半はやや他人事の雰囲気でいまひとつ盛り上がりません。しかし11章あたりからえらいことになります。今回は親友マーラを助けようとするのですが、「彼女が犯人であるはずがない」という思い込みだけであそこまでやるとは、ゴルディ恐るべし(笑)。というわけで冒険スリラー的に読むなら本書はなかなかの出来です。しかし犯人当て本格派推理小説と読むとあまりに説明不足の解決で物足りません。 |
No.1246 | 5点 | のどを切られた死体 クリストファー・ブッシュ |
(2016/05/29 16:56登録) (ネタバレなしです) 不可解なメッセージと共に送られたバスケットを開けると中から死体が出てくる、1932年発表のルドヴィック・トラヴァースシリーズ第7作の本格派推理小説です。得意のアリバイ・トリックはシンプルゆえに印象に残るし、第10章終わりでトラヴァースに起こったハプニングは非常に面白く読めたのですが、それ以外の部分は進展しない捜査描写が延々と続いて記憶に残っていません。いつものブッシュらしい地味さといえばらしいのですが。 |