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ミステリの祭典

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ミステリー三昧さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:112件

プロフィール| 書評

No.72 8点 連続殺人事件
ジョン・ディクスン・カー
(2010/05/15 12:14登録)
<創元推理文庫>フェル博士シリーズ13作目です。
第一の転落事件について少し感想を。これが保険金目当ての殺人だとすると当然、密室トリックの謎を解かなければなりません。細かく現場の状況が記載されるp135~p140にかけての箇条書きは読者にやさしい面もあれば、逆に頭を悩ます種にも成りえることで皮肉の利いた演出になっていました。それによって密室の強固性が増し、自殺ならいいのに、という気持ちにさせられる。肝心な手掛かりも少ないですし、私はさっぱり分かりませんでした。
それにしても犬入れケースの中身には驚いたな。種を明かせば実に単純。なんで気付かなかっただろ。きっと、みなさん周知のトリックなので驚きは少ないだろうけど、この簡単なトリックに少しひねりを利かせて一筋縄ではいかないプロットに仕上げていた点は秀逸かも。おそらく一番の読み所はその質の高いプロットにありそう。それが第二の転落事件でも生かされ、第三の事件でも形を変えて登場する訳ですから、カーの余裕と遊び心が窺える。
タイトルが非常に地味で、第一印象で手に取りにくい作品でしょう(まぁそれ以前に絶版本ですが・・・)。事件も他殺なのか?自殺なのか?という面白みのない話題が中心なのが難点。けど、そこにカーの真骨頂である不可能興味・怪奇趣味・ドタバタ要素・ラブロマンスが盛り込まれ、なかなか奥行きの深い作品に仕上がっていた。読んだ後は、贅沢な気分にさせられる意外面の強い作品として好感色でした。私的にはカーの代表作だと胸張って言いたい。


No.71 8点 緑のカプセルの謎
ジョン・ディクスン・カー
(2010/05/15 12:11登録)
<創元推理文庫>フェル博士シリーズ10作目(有名な?)「毒殺講義」を含むカーの代表作
毒入りチョコレート事件というネーミングだけで一冊の小説が書けてしまいそうなほど、インパクト大な序盤の展開。そのテーマをためらいなく3章以降から脇に置いてきぼりにしてしまうカーの余裕とサービス精神が伝わる魅力に溢れた一冊でした。
肝心の真相なのですが、実際、毒入りチョコレート事件の真相は肩透かしでした。序盤の展開はなくても問題ない気がする。それだけに子供が可哀そう。
メインである実演会の実態なのですが、これは「おいおい、ありかよ!!?」といったズル賢さが満載。私としては盲点に引っかかりまくりで何一つ本質を見極められず、ホント頭が下がる思いでした。まぁ、深く考えたわけではないんですけど・・・ここで一つだけ苦言を呈すなら、このトリック「そんなに上手くいくかな?」というのが第一印象。確かに至る所に罠が散りばめられている分、ある突破口を指し示す手掛かりも同時に分散されている訳でアンフェアには成り得ないのですが、素直に納得できない部分が多少あってモヤモヤ気味。ただ、フーダニットはこの人でしかあり得ないという状況作りはかなり巧いですね。実演会で「実際起こったこと」が分かれば、犯人も分かる、毒入りチョコレート事件の真相も分かるという構成には間違いなくなっているので、何とも言えない細かなディティールの利いた傑作でした。


No.70 6点 曲った蝶番
ジョン・ディクスン・カー
(2010/01/13 00:22登録)
<創元推理文庫>フェル博士シリーズの9作目(長編)です。
衆人環視による準密室を扱った作品です。同系の作品として『夜歩く』『魔女の隠れ家』『孔雀の羽根』を読んできましたが本作『曲った蝶番』が一番面白かったです。被害者は「本物or偽物?」で事件全貌をガラリと変えてしまうプロットがまず根底にあり、そこから「自殺or他殺?」を検討していく一連の流れは地味ですけど読み応えがありました。
また、終盤の捨て駒真相からのどんでん返しも予測していなかっただけに、嬉しいサプライズでした。正直、第Ⅲ部までは「4点」レベルです。なので第Ⅳ部の犯人の「独白形式」による驚愕の真相編が今回の高評価の対象になります。ただ、その対象ポイントは被害者が目撃した「犯人の造形」一点のみです。この驚愕度は未だかつてない。たった一つのインパクトだけで「8点」をを献上する結論に至りました。とにかく恐いです。本作はカーの作品の中でも「怪奇趣味」の強い作品と言われていますが、理由はその部分にあると思います。
が、しかしよくよく考えたら・・・
この事件の軸を担っていた「ある人物」の証言がどうしても許せない。そのせいでフーダニットが超難関になってしまっているのでロジックの整合性という面では評価が下がる。故に採点は私的アベレージな6点です。良くも悪くもカーってこのことですか?


No.69 8点 聖女の救済
東野圭吾
(2010/01/09 15:09登録)
※ネタばれあり
<文藝春愁>ガリレオシリーズの4作目(長編)です。 ※『ガリレオの苦悩』と同時刊行
雰囲気がドラマ版に完全シフトしていますね。内海薫が登場した途端に俄然面白くなる。まず、女の直感とやらで(読者に自明な)「真柴綾音が犯人であること」「草薙が犯人に好意を寄せていること」をいきなり言い当てます。『ガリレオの苦悩』と同じく「女性ならではの着眼点」が冴え渡る設定は徹底されている模様。
本作は倒叙形式の本格ミステリになっています。普通の毒殺事件ではありますが、倒叙形式を採用することで「不可能興味」をそそる展開になっている。「遠距離から人を殺すことが果たして可能なのか?」が本作のメインであり、毒の混入経路が終始議題の中心となります。その解答は正直、驚けなかった。けど、その解答が何故「虚数解」なのか?その部分に感心してしまい高評価とする結論になりました。少なくともオリジナリティが高い真相であることは間違いない。
その他、動機を描く徹底さ、二つの異なる捜査がリンクする展開、犯人の趣味にまで伏線を張っていた周到ぶりなど物語全体に無駄がなく「本格ミステリ」として充実していた。






(ここからネタばれ感想)
今回のトリック、驚きよりも感心の方が強い。確かに理論的にはあり得ても、現実的にはあり得ない(普通の犯人なら考えないor実行しない)です。「何もしない」ことが殺害方法。表現上「プロバビリティーの犯罪」と似通った意味合いがあると思う。ただ、最初は「死の確率」を最小限に留めないといけない。「勝手に死ねばいい」という問題ではない。被害者の気持ちが変わるまで「救済し続けなければ・・・」という気持ちがある。愛がある故に殺人に踏み切れないでいる微妙なバランス加減をトリック一本で表現したという部分にオリジナリティを感じました。「タイトル」も巧いですね。愛情と憎しみが混在する渦中だからこそ見守り続けた一年間・・・つらい一年間だったと思う。
ただ、被害者は女の敵だったと思う。被害者の愛人、宏美を庇い続ける綾音の心理状況も読み終わってやっと理解できた。


No.68 7点 パラドックス13
東野圭吾
(2010/01/07 02:59登録)
<毎日新聞社>「P-13現象」というSF要素を取り入れたヒューマンドラマです。
あくまで「P-13現象」は小道具の一部にすぎない。「Pー13現象とは何か?」や「何故13人は生き延びたのか?」が物語の主軸ではなく「これからどう生きるか?」に終始スポットが当てられている。よってミステリ要素は低い。
けど、割と楽しめた。「生」を追求する物語っていいなぁ。。。東野圭吾が描く登場人物には「生」のパワーを感じる。所詮、作中の人物ではあるけど、彼らから学ぶことって一杯ありますね。
「人間は一人では生きてゆけない」みたいなセリフを連発していた点が印象深かった。まぁ、その通りだろうけど現実世界ではどうかな。私的には割と生きていける気がする。現代は「人間」より「物」に頼ることの方が多くなった。それ故に孤独でも「のほほん」と生きれる世の中になってしまったと思う。「生きる意味」を真剣に考えながら生きている人なんて少ないと思う。一人の方が逆に「社会的ルールによる縛り」もなく開放的で清々しい。もちろん一人だから「身分の差」も気にすることなく「何が善と悪か?」なんかも自分で決めてしまえばいい。
ホント自由すぎると思う。いざ「P-13現象」状況下に置かれたらと思うと怖い。私は自制心が保てず、パニックになって自滅する(笑)。


No.67 7点 手紙
東野圭吾
(2010/01/04 00:33登録)
<文春文庫>罪の重さを手紙で綴ったヒューマンドラマです。
生きる上で「強盗殺人犯の弟」というレッテルはあまりにも重荷。もし、自分が「直貴」だったら、こんな懸命に生きてはいないだろう。
結局、直貴は多くの幸せを失ったと思う。「差別は当然のことだ」という社長の言葉は的を射ているが、残酷です。私的には由実子と結婚してハッピーエンドという形で終わりにしてほしかった。・・・が現実は厳しいですね。一生付き纏うのかと思うと気が重くなる。
ラストに正解はないだろう。「現実逃避する」にしても「素直に受け入れる」にしても失うものが大きい。自分の幸せを願うなら、前者が正解か。。。でも、この運命は悲しいなぁ。
ミステリではないけど、どんどん読める。私的には『秘密』や『時生』より断然面白い。物語の「重量感」と「リアリティ」の面で優れている。これは現実世界を生きる上で一つの教訓になる。


No.66 7点 白夜行
東野圭吾
(2009/12/31 12:52登録)
<集英社文庫>代表作として名高い大長編ノワール・ミステリーです。
きっと、この物語の最大の謎は主人公「桐原亮司」「西本雪穂」の存在だろう。主人公ではあるが(二人の視点からではなく)二人を取り囲む第三者の視点によって「二人の人生」が描かれている。それ故に「本当の姿」が掴めない構成になっている。何を思い、何を考え、何を抱えながら生きているのかが(二人を取り囲む登場人物と同様に読者も)全く分からない。リーダビリティーの根源はそのプロットの妙にあるといっても過言ではない。厚さを気にせず読めたのは二人の人生を追う過程だけでも「ミステリー」として成立しているからだと思う。
亮司の不審な行動の根本にあるものは「雪穂」だった考えられる。確かな結論は出ていないが、雪穂の「最愛の人」は亮司だと信じたい。・・・けど、ラストのセリフはあまりにも冷たい。
全く心が読めないのが、怖い。そして、悲しい。


No.65 6点 孔雀の羽根
カーター・ディクスン
(2009/12/25 13:18登録)
<創元推理文庫>H・M卿シリーズの6作目(長編)です。
この作品は<最終章で32個の手掛かりを指摘して、不可能犯罪の真相を解明する>とあるようにロジック重視型の本格ミステリになっています。
普段見受けられる(アンフェアぎりぎりの大技やプロットの妙などの)派手さは一切なく、良い意味ではフェアを徹した堅実なミステリとなっているのですが、私的には逆に小ぢんまりとし過ぎて、味気ない普通なミステリというのが第一印象です。
「衆人環視による準密室」状況下での殺人と「犯人消失」という魅力的な謎が提供されているにも拘らず、焦点は別の方向へ・・・
事件に発展性がなく、ひたすら登場人物の供述を聞くだけで300ページ突破・・・
これは萎えます。正直、どうでもよくなってしまった。しかも「魅力たっぷりのあらすじ」に反して、最終章の大演説は決してクオリティが高いものではないので評価に困る。
フェアを貫くなら、拳銃の仕組みをもう少し詳しく描くべきです。誤発砲によって〇〇することの可能性を察するのは難しいと思います。結局、肝心な部分は伏せている点を考えると微妙。まぁ、その部分を明かしてしまったらトリックが簡単に分かってしまうので仕様がないか。。。


No.64 6点 嘘をもうひとつだけ
東野圭吾
(2009/12/22 23:07登録)
<講談社文庫>加賀恭一郎シリーズの6作目(連作短編)です。
無難なミステリです。特に欠点がなく、5編全てが面白い。加賀恭一郎は論理派の刑事なので、シリーズ物では一番好きなキャラクターです。最近の作品では情をなるべく殺して仕事に徹する姿が印象的。短篇集ですが本格度は高めです。相変らず冴えのある推理で魅せてくれる。それを考慮すると『嘘をもうひとつだけ』がベストです。
また、私的には動機が丹念に描かれていたことにも好感が持てました。一般的に短編の本格ミステリは動機を無視する傾向が強い。ただ、東野圭吾氏の場合は短編集であれリアリティを追求する姿勢は徹底されている。まぁ正直、若干動機が弱めで納得し難い作品もあるけれど、動機があってこその殺人という点では『狂った計算』が印象深い。多分、夫は妻を愛していなかっただろう。絶対こいつは妻を使い勝手の良い道具としか思っていない。あのまま一緒にいても状況は悪くなる一方だったと思う。殺しは良くないけど、同情の余地はある。


No.63 6点 死者はよみがえる
ジョン・ディクスン・カー
(2009/12/17 19:54登録)
※ネタばれあり<創元推理文庫>フェル博士シリーズの8作目(長編)です。
この作品は怪奇趣味・不可能興味を一切排除した分、フーダニットに特化した作品となっています。カーの作風を考えると異色作ともいえそうです。
前の方も書かれている通り、いくつかの真相に対して良い意味でも悪い意味でも「ええっ!?」となったことは認めます。でも、私の中ではバカミスの域には届いていない中途半端な作品に思え高評価ができない。(まだバカミスに対する見極めができていないかもしれませんが・・・)
許容範囲を超えたずっとずっと遥か彼方に(バカミスと称された珍品だけが集える)特別な聖域が存在するわけですが、そこを本職とするミステリ作家はもっとえげつないことをやってくれる気がします。
また、作中には「12個の不可解な謎」が提示されるわけですが、それらに対して要領の得ない解答があったことも評価を下げた原因です。







(ここからネタばれ感想)
ホテルでの殺人事件が「外部からの犯行だった」という真相には驚きました。しかも「4章の見取り図」をヒントにフェアな論理展開がなされていた。そもそも外部からの犯行が事前に否定されていたので、疑いもしなかったです。この抜け道にはやられました。
ただフーダニットに対する意外性の演出が根本にあるため、かなり無理が生じてしまっている。「留置場の秘密の抜け道」は伏線を張っているとはいえ、許せません。
「左腕に麻痺がある」ため凶器としてタオルを使ったこと、トランクを利用したことには納得できましたが、ロドニー殺害の方法はイメージに苦労した。今でも、理解できていない。
犯人の行動が気まぐれ過ぎる。札に「女の死体」と書き残したことも「ドアノブに鍵を差し込んだまま」にしたこともゲイ邸での「狂言」も特に必然性が感じられない。
「ホテルの制服」と「警察の服装」が似ていた点も指摘されていましたが、納得できなかった。
その他いろいろありますが、長くなりそうなのでやめます。


No.62 6点 三つの棺
ジョン・ディクスン・カー
(2009/12/14 12:57登録)
※ネタばれあり<ハヤカワ文庫>フェル博士シリーズの6作目(長編)です。
類に洩れず不可能犯罪の数々が私を楽しませてくれます。けど、少しやり過ぎです。「意外性有り過ぎのフーダニット」と「鉄壁過ぎる不可能状況の演出」が根本にあるため至る所で無理が生じてしまった嫌いがあります。私的には(ご都合主義に対しての)許容範囲を超えてしまったので、高く評価できませんでした。名作と呼ばれていますが、世間の評価は参考意見としか思っていません。ミステリの価値観ってオンリーワンみたいなものですから、名作・駄作・傑作拘わらず読んでみないことにはわからないモノなんですよね。。。
余談ですが、17刷以前には致命的な誤訳があるそうです。私は回避できましたが・・・
また、ネタばれ被害が心配だったので、有名な「密室講義」は読みませんでした。






(ここからネタばれ感想)
「時間の錯誤」に関してですが、鐘の音から「犯行時間に錯誤がある」点を察することは難しい。確かに14章で鐘が鳴っている描写がありますが、それが11時に鳴ったものかどうかは予測できません。また、窓越しに見えた時計が「たまたまズレていた」点はさすがにご都合主義です。それが意外性に満ちたフーダニット演出の根本を担っているだけにズルイです。
また『第二の棺』での殺人も不可能状況を演出するためにご都合主義が見受けられます。被害者は医者の所に向かうため自ら外に出るわけですが、さすがに「血の出具合」が気になります。血の跡から本当の犯行現場が分かってしまう可能性が無視されている点は不可解です。
『第一の棺』で使われたトリック(奇術)は好感が持てました。大博打な気もしますが、仮面の男がレッドへリングとして巧くミスリーディング効果を発揮していました。「ジグ・ソー・ワーズ」にしっかり意味があったことには驚きです。ですが、鏡は大きい割に発見されるのが遅すぎです。共犯者がいた点は察する余地がない点で駄目です。建物は全面雪で覆われていたはずですが、犯人はトリックを用いることなく、足跡を残さず簡単に建物に侵入できている点で肩透かしを感じます。
もしかしたら、理解できていない部分もありそうです。とにかく複雑で読み応え抜群です。


No.61 7点 名探偵の呪縛
東野圭吾
(2009/12/02 02:32登録)
<講談社文庫>天下一大五郎シリーズの2作目(長編)です。
ストレートなアンチミステリ『名探偵の掟』とは対照的に、この作品では少し変化球気味に(しかも前作より重い)メッセージをぶつけてきます。なので読み始めは意図が掴めない状況に陥りやすいかと思います。また、東野圭吾氏の作品を何点か読まないと、このメッセージは読者の胸に深く突き刺さらない。そんな意味で読者を選ぶ作品です。
私は「本格コード」に悪戦苦闘する東野圭吾の姿をこれまでの作品によって谷間見てきたので、思いのほか胸を刺されてしまいました(笑)。本格志向の作品に対しては『ある閉ざされた雪の山荘で』『仮面山荘殺人事件』『悪意』などの!!!!な作品があったけれど、対照的に『卒業』『白馬山荘殺人事件』『魔球』『探偵ガリレオ』などの????な作品もあって不満を感じたこともあります。ただ、作者との「本格に対する距離感」が合ったり合わなかったりとギャップを感じつつも「自分のミステリ観」を探る意味で読書自体は楽しめていたので、従来の本格志向から離れる決断をなされたことは非常に残念です(完全にではないと思いますが・・・)。
まぁ「逃げ」とは思いませんし、さらなる飛躍も期待できそうなので、全然OKです。作者の気持ちに触れる事が出来た。それだけでこの作品は高評価です。


No.60 5点 どちらかが彼女を殺した
東野圭吾
(2009/11/30 20:15登録)
<講談社文庫>加賀恭一郎シリーズの3作目(長編)です。
加賀恭一郎の「察しレベル」は一流の探偵を思わせる。偽装に偽装を重ねた犯行現場から犯人断定に至るまでの過程はロジックに頼ったものなので好感が持てました。
結末の真相部分は全く分かりませんでした。なんか「利き腕」が重要なカギらしいですが、状況が細かくてウンザリしてしまった。
「読者挑戦物」はワクワクしません。解く気も起らないので私的には普通の本格ミステリと変わりません。大変失礼ですが、ちょっと「ネタばれサイト」を確認して終わりにしてしまいました。
なので足跡だけ残します。次回作はスルーします。


No.59 6点 江戸川乱歩全短篇<2>本格推理(2)
江戸川乱歩
(2009/11/30 16:16登録)
※以前読んだ『屋根裏の散歩者』は評価対象外です。
<ちくま文庫>本格推理物に該当する短篇・中篇だけを集めた作品集です。
中篇も読める作品集ですが、中身は短篇と大差がない。正直『江戸川乱歩全短篇』の中で一番つまらなかったです。乱歩氏の作品を「本格推理」小説として読むと書評が書きにくい。正直ネガティブな印象しかありません。『陰獣』でさえも・・・
私的ベスト『何者』・・・第一の(捨て駒)真相では足跡に関する細かな気付きが、第二の真相では「一人〇役」という発想が面白い。総合して、この作品が最も「本格推理小説」らしい。ただ、その分独特の味わいが薄く、乱歩らしさがない。
次点『湖畔亭事件』・・・レンズ狂(変態趣味)と本格推理の融合を試みた作品です。真相が小粒かつ曖昧です。長いくせに締まりがない。
『鬼』『堀越捜査一課長殿』『陰獣』『月と手袋』・・・「変装」トリックが好きではない。「一人〇役」によって「架空の人間を犯人役に仕立て上げる」という発想は好きですが、変装が絡むと評価が下がる。個人に関する証明手段が発達した現代を生きる自分にとっては違和感を感じます。


No.58 9点 赤後家の殺人
カーター・ディクスン
(2009/11/26 20:20登録)
※ネタばれあり<創元推理文庫>H・M郷シリーズの3作目(長編)です。
シリーズ初期の代表作『プレーグコートの殺人』『白い僧院の殺人』を読んできましたが『赤後家の殺人』が一番好きです。読めば読むほどに増していく不可能状況の数々は本格ファンを唸らせること間違いなしです。「部屋が人を殺す」という伝説が醸し出す怪奇な雰囲気も好きです。
第一の殺人は密室状況かつ全員に鉄壁のアリバイがある時点で、毒を利用した〇〇殺人であることが簡単に予想付きそうです。なのでメインは密室トリックではなく「毒殺の方法」になりますが、私的には盲点を突かれた真相だったので高評価です。伏線もフェアに張られ(翻訳文にもよりますが・・・)説得力も高めです。この抜け道を察することさえできれば、犯人も分かるという点も素晴らしい。もちろん意外性に徹したフーダニットだけあって納得し難い部分もありますが「この人」でしかありえないという「状況作り」が秀逸です。
私的には「怪奇性」+「不可能犯罪」+「謎の合理的解決(フーダニットあり、ハウダニットあり)」の融合を見事に成功させた初期の傑作と呼べそうです。


No.57 8点 白い僧院の殺人
カーター・ディクスン
(2009/11/23 00:18登録)
※ネタばれあり<創元推理文庫>H・M卿シリーズの2作目(長編)です。
テーマは「足跡のない殺人」ですね。どうやって犯人は「雪密室」状況下で別館から脱出したのかが最大の謎になります。その謎は18章のラスト一行によって見事に氷解されるわけですが、そこから展開される事件の全貌は予想以上に複雑でした。複雑故に納得できない部分もありますが「〇〇」が創り出した奇跡的な密室状況という点が秀逸です。その全貌に凄みを感じさえすれば、高評価でも良いのでは?
余談ですが、私的には同じく雪密室をテーマとした有栖川有栖の『スウェーデン館の謎』の方が好きです。まぁ雪密室のオリジナル(?)が読めたので満足です。故に採点はかなり甘めです。












(ここからネタばれ感想)
「殺害現場が別だった」という真相には驚きでした。マーシャが別館から本館へ移動したという事実を「暖炉の燃えカス」や長時間ジョンに待たされた彼女の「心理状況」などを伏線として説得力を与えていた点もGOOD。
「マーシャ殺害」・「死体移動」と2人の犯人がいたことも驚きです。ですが突っ込み所が満載です。まず「マーシャ殺害犯」ですが、言い当てることが難し過ぎます。彼の言動にもヒントがあったようですが、存在感なさ過ぎ故に察することが難しい。車の相違点も絶対一読目では気づけない。そこから派生するH・M郷の実験の狙いも見抜くことは無理。読者の方を向いているようで向いていない微妙な伏線に正直何一つカタルシスを感じていません。次に「死体移動」の犯人ですが、彼の心理状況が理解し難い。彼は「奇跡的な密室状況」を創り出すために筆者によってご都合主義に動かされたといっても過言ではない。
一番の驚きは2人の犯人が全くお互いを関与せず自らの意思によって行動していた点です。なので、共犯者と呼べるものは存在しない。しかし、二つの歯車は偶然にも絶妙な噛み合いをみせながら、(マーシャ殺害犯にとっての)不可能状況を形成していく。その全貌を「ご都合主義」の一言で片付けてしまっては面白みがない。この作品では「ご都合主義」は禁句です。


No.56 5点 ガリレオの苦悩
東野圭吾
(2009/11/16 20:24登録)
<文藝春秋>ガリレオシリーズの4作目(連作短編)です。※『聖女の救済』と同時刊行
『探偵ガリレオ』『予知夢』よりも楽しめました。
私的ベスト『落下る』・・・女性刑事「内海薫」の登場によってガリレオシリーズに新しい風が吹きました。女性ならではの観察眼と洞察力で草薙を圧倒する活躍ぶりが印象的です。トリックは相変わらずですが、湯川が「何か」から立ち直るきっかけとなった事件という点で、長編を読むにあたって唯一「予習」になりました。湯川に何があったのか?とても気になります。
今作では湯川と草薙のやり取りが控えめでした。その分、周りの人間(友人や先生)と交わることで湯川の「人間性」に深みが増した気がします。全編に渡ってラストが読み所です。特に『操縦る』の読後感は心地よい。科学者としての「芯の強さ」も強く感じました。


No.55 4点 予知夢
東野圭吾
(2009/11/13 15:59登録)
<文春文庫>ガリレオシリーズの2作目(連作短編)です。
確かに他では類を見ない驚愕ハウダニット系なのですが、私を含め「本格物好き」が望んだものではない。トリックに既出感がなく新鮮なのは、他の本格ミステリ作家が(専門知識を要したトリック創作を)敢えて避けてきただけのことです。専門的な知識を塗し過ぎると読者が付いて来ず「自己満足」に終わる可能性が非常に高い。
その根底を覆し、現在では東野圭吾氏の代表作として人気シリーズにまで発展してしまった。「成功した」作品であることは間違いない。ただ、これだけ人気が出たのは「東野圭吾」というバリューネームと「ドラマ」の影響が非常に強い。
映像を観て、原作を読むと多分ガッカリすると思う。
原作を読んで「東野圭吾って大したことないね」と思われそうで恐い。もっと他を読んでほしい。


No.54 6点 プレーグ・コートの殺人
カーター・ディクスン
(2009/11/11 13:53登録)
※ネタばれあり<ハヤカワ文庫>H・M卿シリーズの1作目(長編)です。
ハウダニットは「傑作」ですね。二重の密室に関してですが、石室の密室トリックは完全にミスリーディングしてました。以前「江戸川乱歩」の作品でトリックに関する「ネタばれ」被害にあっていた。・・・にも拘わらず気付けなかった(笑)。この作品で巡り合うことになるとは微塵も感じていなかった。とにかく短剣ですね。この使い方が巧い。ですが「ネタばれ」の罪は大きい。トリックに「驚けない」のが残念です。(もうひとつの足跡トリックは肩透かしなので触れません。)






(ここからネタばれ感想)
フーダニットが理解し難い。私は「変装」トリックを根本から好きになれない。女性の男装はバレるだろう。「変装していたこと」を読者に察する余地を与えていた点は良いですが・・・「変装」トリックはできるだけ使わないでほしい。
また、共犯者がいた点も気に食わない。それを察する伏線もなかった。
意外性はあったが犯人をロジックで追及することが不可能な点で評価を下げた。


No.53 6点 名探偵の掟
東野圭吾
(2009/11/07 11:00登録)
<講談社文庫>天下一大五郎シリーズの1作目(連作短編)です。
皮肉の利いたパロディですね。古典名作が使い古した定番トリックに対して、ためらいもなく文句をぶつけています。まさにミステリでありながら、ミステリを否定する「アンチミステリ」となっていました。東野圭吾氏の本格に対する素養も感じられました。
私的ベストは『アリバイ宣言』です。アリバイ崩し物を根本から覆す「笑える」ミステリとなっていました。「えへへ」と自慢げにアリバイを語る様が微笑ましい。犯人にとっては「探偵への挑戦状」ですからね。興奮が高鳴るのも分かります。探偵の悩み苦しむ姿を眺めながら、常に自惚れていたいのでしょう。探偵が解くのを諦めた途端、慌てて自ら「ヒント」を出し始める姿が印象的です。オチも利いていました。
解説を読んだ限り、読者が考える「本格」とは敢えて距離を置きつつ「本格」に取り組む姿勢はデビュー当時からあったようですね。少なくとも自らハードルを上げて取り組んでいたに違いない。それを知らずに初期作品を読んでいた自分が悔やまれる。余談ですが『魔球』は完全に読み間違えていました。彼は「ダイイングメッセージに対する考えがズレている。そして本格を分かっていない」とさえ思いました。全くの誤解でしたね。
私は「ド本格なミステリ」or「大人びたシリアスなミステリー」が読みたいのでこの点数ですが、ファンにとっては「10点」でしょう。これからドラマを観させていただきます。

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