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ミステリの祭典

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おしどり探偵
トミー&タペンス、短編集、別題『二人で探偵を』

作家 アガサ・クリスティー
出版日1960年01月
平均点4.80点
書評数10人

No.10 5点 弾十六
(2022/05/08 03:25登録)
1929年出版。早川クリスティ文庫の新訳(2004)で読了。私もタイトルは『二人で探偵を』が好み。原題は『犯罪(捜査)の相棒、犯行現場の二人』くらいか。
短篇集の章割がちょっと変テコで、出版時には各タイトルの(第◯章)で示したような全23章(当時のサブタイトルを調べると、例えば第4章はThe Affair of the Pink Pearl (continued)という表記だった。昔「承前」を多用していたような作品集があった記憶があるのだが、本作だったのかなあ) 現在のペーパーバックなどは全17章(何故か第5話と第13話だけ途中で割ってサブタイトルも二つ。下では英語で副題を示した。創元文庫はこの章割)。早川クリスティ文庫だと話のまとまりを重視して全15話にまとめています。
連載はお馴染みThe Sketch 1924-9-24〜12-10の12週連続(全12話)、それに数か月前に発表した第13話と連載4年後に発表した第12話の二作を加えて単行本化。
こういう探偵小説のおちょくりのような短篇集は当時でも珍しいと思うのですが、EQの定員には採用されていない。マニア度は薄いのでEQにしてみれば物足りなかったのかも。
初期アガサさんの肩の凝らない楽天的な作品集。発想はSexton Blakeみたいな探偵スリラーだろうか。(某Tubeで当時もののサイレント映画が見られる。子供の助手も出ていて、こういうのが小林少年のルーツか)
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第1話 A Fairy in the Flat (第1章)「アパートの妖精」(初出The Sketch 1924-9-24 as ‘Tommy and Tuppence I. Publicity’ 第2話も同じ): 評価はパス。
物語の序章。コナン・ドイル先生(1859-1930)をからかっている。その態度が無邪気で良い。
p12 斑の豹(The Spotted Leopard)
p16 アルバート♠️『秘密機関』に登場していた探偵小説好きの少年。この頃には子供が普通に働いていた。14歳未満の労働禁止は英国では1933年に法制化。(同じ法律で死刑適用年齢は18歳に引き上げられた)
p18 デイリー・リー(the Daily Leader)♠️本作に登場する新聞名。ここは誤植。
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第2話 A Pot of Tea (第2章)「お茶をどうぞ」(初出は第1話と同じ、雑誌掲載時はひと続きの話だった): 評価5点
無邪気だなあ!そして甘々のロマンチック。
p25 数年来、離婚が激増している◆イングランド&ウェールズの統計だが、1914年577件、1918年1111件、1921年3522件、1923年2667件(なおアガサさん離婚年1928年は4018件で1921年の数字を初めて超えた) なお米国では1920年の離婚が170,505件で桁違いである。(1920年の総人口は英国4千万人、米国1億6百万人)
p25 ボウ・ストリート(Bow Street)…ヴァイン・ストリート(Vine Street)◆訳注が的を外している感じ。どちらも警察にゆかりのある地名。どちらもちょっと古い時代の話だから、次のセリフの(大昔の古き良き)「独身時代(bachelor days)」を思い出してるんじゃないよ!という繋がりなのか。
p26 ここ十年に出版された探偵小説は全部読んでいる(I have read every detective novel that has been published in the last ten years)◆アガサさんもそうだったのかも。
p28 顎といえるほどのものはないにひとしい(practically no chin to speak of)◆ここら辺の描写は「上流階級(toff)」の特徴なのか。
p28 腕利き探偵たち(Brilliant Detectives)
p30 ご老体の時代は終わりました(The day of the Old Men is over)◆ここら辺は当時言われていた文句なのだろう。
p38 ママは何でも知っている(Mother knows best)◆訳注でヤッフェ(シリーズ開始は1952)を挙げているのはびっくり!このタイトルの米国映画(1928)があるらしいが、もちろん本作のずっと後だ。多分、Father knows best(米国コメディ・ドラマ1949-1960)は、この文句のもじりなのだろう。起源を調べたが出てこない。ことわざみたいな文句だと感じた。
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第3話 The Affair of the Pink Pearl (第3章-第4章)「桃色真珠紛失事件」(初出The Sketch 1924-10-1 as ‘Tommy and Tuppence II. The Affair of the Pink Pearl’): 評価5点
まあ、楽しく行きましょうや。
p48 青いバスの切符(blue bus ticket)♣️London Transport Museum Bus Ticket 1920で当時のロンドンのバスの切符を見ることが出来る。
p51 ブローニー(Brownie)♣️1900年販売開始。当時$1(=4470円)ここで言及されているのはNo.2 Brownie(価格$2の後継モデル、幾つかのマイナーチェンジがありModel Fは1919-1924)だろうか。英Wiki “Kodak Brownie”参照。
p51 スモーカーズ・コンパニオン(Smoker’s companion)♣️ここの訳注もちょっとズレている。ソーンダイク・ファンならお馴染み、助手ポルトンが開発した携帯タバコ掃除具に似た七つ道具、錠前破りも楽々のやつ。初登場は“The Funeral Pyre”(初出Pearson’s 1922-9)のようだ。
p54 アメリカ人がいかに称号に弱いか
p55 家事専門の[メイド](housemaid)
p56 切り札もないのに賭けを二倍に(a redoubled no trump hand)♣️ゲームはブリッジだろう。正しい用語になおすと「ノートランプでリダブルがかかっていた時」no trumpは切り札を定めない勝負、redoubleは四倍。ここは旧ハヤカワ文庫(橋本 福夫 訳)も同様の翻訳。
p56 場札と同じ札があるのに… ♣️revokeという反則。旧ハヤカワ文庫を丁寧にパラフレーズしている。
p61 レックス・V・ベイリー事件(the case of Rex v Bailey)♣️「国王対ベイリー事件」英国裁判の表記。旧ハヤカワ文庫ではちゃんと「レックス対ベイリー事件」と訳してるのに!
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第4話 The Adventure of the Sinister Stranger (第5章-第6章)「怪しい来訪者」(初出The Sketch 1924-10-22 as ‘Tommy and Tuppence V. The Case of the Sinister Stranger’): 評価6点
こういう話は明るく能天気にさらっとゆくのが正解。
p86 ワニ足(Clubfoot)♠️これは次との関係で「カニ足」で良いのでは? (旧ハヤカワ文庫は「がにまた」訳注ではオークウッド兄弟のあだ名だと誤解) (2022-5-8追記: Clubfootは一般的に「エビ足」かも。私はすっかりcrabと間違えていました)
p87 オークウッド兄弟(brothers Okewood)♠️Valentine Williams(1883-1946)作のスパイ・スリラーの主人公。Clubfootは彼らの宿敵のあだ名(本名Dr. Adolf Grundt)、長篇4冊(1918-1924)で活躍する。
p98 カール・ピータースン♠️自信なさそうな訳注… 翻訳当時は詳しいWeb情報がなかったのかも、だが。Carl PetersonはDrummond最初の4長篇(1920-1926)の宿敵、変装の名人。
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第5話 Finessing the King (第7章)-The Gentleman Dressed in Newspaper (第8章)「キングを出し抜く」(初出The Sketch 1924-10-8 as ‘Tommy and Tuppence III. Finessing the King’): 評価5点
Kのフィネッスとはブリッジ用語で、味方のAの影をチラつかせ敵のKを出させないようにして、場を自分のQなどで攫うこと。
まあどう考えても無理なトリックがあるが、細かいことは気にせずに…
p109 スリー・アーツ舞踏会(Three Arts Ball)◆架空かと思ったら有名な実在の仮装舞踏会のようだ。British Pathéに当時もの(Royal Albert Hall開催)の映像があった。
p110 ボヘミアン的な食べ物(for bacon and eggs and Welsh rarebits—Bohemian sort of stuff)◆ベーコンエッグやウェルシュ・レアビットはボヘミアン風なのか…
p112 消防隊員の制服一式
p113 おしのびのマッカーティ(McCarty incog.)◆ Isabel Ostrander作(1922)のタイトル。探偵役はex-Roundsman Timothy McCarty(どうやら遺産を相続して警察を辞めたらしい)とその友人Dennis Riordan(職業がcity fireman、なのでp112の小ネタ)のシリーズ代表作のようだ。作者についていろいろ調べているとシリーズ第2作“Twenty-Six Clues”(1919)がヴァンダイン、EQ、そしてJDCばりの複雑なプロットの作品で1910年代米国本格探偵小説の傑作(ただしフェアプレイではない)と某Webに書いてあった。それなら読んでみるしかないっしょ!(読み終えたら結果はこのサイトで発表します…)
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第6話 The Case of the Missing Lady (第9章)「婦人失踪事件」(初出The Sketch 1924-10-15 as ‘Tommy and Tuppence IV. The Case of the Missing Lady’): 評価5点
わざとらしい雰囲気と結末が、この連作らしくて良い。
p146 デイリー・ミラー
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第7話 Blindman’s Buff (第10章)「目隠しごっこ」(初出The Sketch 1924-11-26 as ‘Tommy and Tuppence X. Blind Man’s Buff’): 評価5点
何故ここはマックス・カラドスじゃないのか? 当時はかなりマイナーだったのだろう。なおミステリ史上初の盲人探偵は第5話に出てくる探偵の作者Isabel OstranderのDamon Gauntだったかも、という説があるらしい。
本作は、まあ何となくそうなるよね、という感じ。
登場するThornley Coltonがどんな奴だか知りたくてWebで短篇集第一話(初出People’s Ideal Fiction Magazine 1913-2 as ‘Thornley Colton, Blind Reader of Hearts. I.—The Keyboard of Silence’ 挿絵J. A. Lemon)をちょっとだけ読んでみました。作者Clinton H. Stagg (1888-1916)は米国人でジャーナリスト、作家、初期ハリウッドの脚本も書いています。ずいぶんと若死に。
p165 鍵盤は静まり返ってる(the keyboard of silence)♠️ソーンリー・コールトンの握手は独特で、人差し指で相手の「静かなる鍵盤--手首」の脈に触れ、相手を読み取るのだ!
p165 問題研究家(Problemist)♠️ソーンリーが冗談まじりに自称している肩書き。「問題主義者」という感じかな。socialistとかnationalistとかの用法がイメージにあるのでは?
p165 河の堤で拾われた…♠️ハンサムだが影のように付き従うソーンリーの秘書Sydney
Thamesは、拾われた捨て子で「有名な川と同じ苗字」と作品中で言及されている。なので今回のタペンスは「ミス・ガンジス」
p165 フィーまたの名シュリンプ(the Fee, alias Shrimp)♠️ソーンリーにはニック・カーターに憧れる子供の助手がいて(当時のニック・カーターの名声って侮れませんねえ)、ある殺人事件を解決した結果、ソーンリーが引き取ることになったので「報酬(the Fee)」とテムズに呼ばれている。ソーンリーは「小海老(Shrimp)」と呼んでいるが本名はわからない。この事件、フィーの母親が被害者で、父親が犯人、という実にメロドラマな設定。
p165 ヒェー(Gee)♠️「ちぇっ」が一般的。
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第8話 The Man in the Mist (第11章-第12章)「霧の中の男」(初出The Sketch 1924-12-3 as ‘Tommy and Tuppence XI. The Man in the Mist’): 評価5点
引き合いに出した探偵小説のムードを良く伝えている作品だが、ちょっとズレた感じ。健闘賞。
p190 私はアガサさんが繰り返し頭の空っぽな美人女優の話を書くので、子供の頃、美人というのは馬鹿なのだ、とすっかり思い込んでしまっていました…
p199 赤、白、青◆この原色の色彩感覚はチェスタトンを意識?
p204 緋色の女(Scarlet Woman)
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第9話 The Crackler (第13章-第14章)「パリパリ屋」(初出The Sketch 1924-11-19 as ‘Tommy and Tuppence IX. The Affair of the Forged Notes’): 評価4点
実は犯罪者のやり口が巧妙だと思えないのですが… 全然深い企みは無い、というのが正解?
p223 デイリー・メイル(the Daily Mail)
p223 一ポンド紙幣(one pound note)♣️連載当時のは財務省(Treasury)紙幣、£1 Third Seriesで1917-1933発行、茶色と緑色、サイズ151x84mm。当時の英国銀行券は金と引き換える、という約束(兌換紙幣)だったから、戦争勃発により緊急に金流出を防ぐ目的で、金貨の代わりの小額金券として使えるよう財務省が発行したのだろう。なお緊急発行だったため、初期(First & Second Series)は稚拙な作りで偽造しやすかったようだ。単行本の時には、金本位制が復活しており、英国銀行が発行する紙幣となっている。£1 Series A (1st issue)で1928-1962発行。緑色、サイズは同じ。
p226 つくりぜに(slush)
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第10話 The Sunningdale Mystery (第15章-第16章)「サニングデールの謎」(初出The Sketch 1924-10-29 as ‘Tommy and Tuppence VI. The Sunninghall Mystery’): 評価6点
この作品集の中で、それっぽいパロディとしては最上の出来。楽しげな雰囲気も良い。オルツィさんとアガサさんの資質もよく似ている感じがする。
p248 チーズケーキとミルク♠️ご存じ、隅の老人の大好物。
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第11話 The House of Lurking Death (第17章-第18章)「死のひそむ家」(初出The Sketch 1924-11-5 as ‘Tommy and Tuppence VII. The House of Lurking Death’): 評価5点
こういうシリアスなムードは、このシリーズにはミスマッチである。
アノーはポアロのモデルなので、真似が難しかったのかなあ。全然冴えていない。友人リカード氏が登場しないのも変。(アガサさんはリカードのキャラをちょっとおとなしめにしてサタスウェイト氏を想像したのでは?と実は私は疑っている。『クィン氏』の感想中に詳しく書くつもり)
p274 偉大なコメディアン◆アノーはしばしば「コメディアンの風貌」と描写されている。
p274 浮浪児(the little gutter boy)◆『薔薇荘』で相棒のリカード氏がアノーを評した言葉。国書刊行会の翻訳では「悪たれ小僧」
p275 ミス・ロビンスン◆「訳注 アノーの秘書」何故こんなトンチンカンな注がついているんだろう。
p281 二十一歳◆成人(保護者の同意不要年齢)になったから、ということなのか。
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第12話 The Unbreakable Alibi (第19章)「鉄壁のアリバイ」(初出Holly Leaves 1928-12 挿絵Steven Spurrier): 評価4点
雑誌Holly Leavesは週刊誌Illustrated Sporting and Dramatic Newsのクリスマス特集号。
アガサさんがコリンズ社に鞍替えしたのは1925年。連載以外で追加した二作品はいずれも当時コリンズ社からミステリを出版している作家のもの。クロフツはコリンズ社お抱え、バークリーは出版社をいろいろ変えているが直近の『絹靴下』(1928)はコリンズ社だ。
本作は工夫が足りないので全くつまらない。きっかけもわざとらしい。これを書いた時には、シリーズ連載時のあっけらかんとした明るさはもう残っていなかったのだろう。
p309 スペルが怪しいのは非常にハイレベルの教育を受けた証拠、というのはウッドハウスの描く貴族階級のズボラさを連想させる。
p327 十シリング攻勢(the ten-shilling touch)♣️終わりのほうで書いているが、これは紙幣のようだ。当時の10シリング紙幣は1918-1933発行の10 Shilling 3rd Series Treasury Issue紙幣だろう。緑と茶、サイズ138x78mm。単行本の時代になると英国銀行紙幣の10 Shilling Series A (1st issue)となる。赤茶、サイズは同じ。
p328 半クラウン♣️こちらは銀貨ジョージ五世の肖像、1920-1936鋳造のものは .500 Silver, 14.1g, 直径32mm。
p335 半クラウン♣️情報料やちょっとした謝礼の額を細かく書くところもクロフツ流を真似ているのかも。
p338 ミュージック・ホールのギャク♣️どれも元ネタがありそう。
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第13話 The Clergyman’s Daughter (第20章)-The Red House (第21章)「牧師の娘」(初出The Grand Magazine 1923-12 as ‘The First Wish’ 挿絵Arthur Ferrier): 評価6点
こういう和む話はクリスマス・ストーリーにぴったり。程よい謎でバランスが良い。
雑誌掲載時にはブラント探偵社の大枠はなかった筈だから、どういう設定だったのだろう。私の妄想では「古新聞の…すこし前の広告(advertisement some time ago… an old paper)」というのは昔『秘密機関』の時に二人が出した「若い冒険家、何でもやります!」の個人広告で、かなり古いその広告を見て依頼人がたまたまやって来ちゃった!という設定だったんじゃないか? 冒頭のシェリンガムのくだりは取ってつけた感じで本筋に入ると全く消えている。「赤い館(Red House)」からの遠い連想でシェリンガムが登場することになったのだろうか。
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第14話 The Ambassador’s Boots (第22章)「大使の靴」(初出The Sketch 1924-11-12 as ‘Tommy and Tuppence VIII. The Matter of the Ambassador’s Boots’): 評価4点
突飛すぎて普通人がついてゆけない発想が時々あるのがアガサ流。
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第15話 The Man Who Was No. 16 (第23章)「十六号だった男」(初出The Sketch 1924-12-10 as ‘Tommy and Tuppence XII. The Man Who Was Number Sixteen’): 評価5点
こういう大団円を盛り上げるのが下手なのが初期の作者。なんとか形をつけている。

No.9 4点 レッドキング
(2022/03/29 19:46登録)
アガサ・クリスティー第二短編集。 「トミー&タペンス探偵事務所」てな・・
  「アパートの妖精」 夫婦探偵譚導入。(採点外)※ちょびっーとだけポー「スフィンクス」ネタ
  「お茶をどうぞ」 夫婦探偵開業。(採点外)※サクラ詐欺トリック付き
  「桃色真珠紛失事件」 開けられないノブと手にしたタオルからの真珠盗難解明ロジック。3点
  「怪しい来訪者」 「『怪しい依頼トラップ』へのトラップ返し」のトラップ・への・・・5点
  「キングを出し抜く」 仮装パーティ刺殺事件。死体の手に残された新聞紙片からの犯人Who 3点
  「夫人失踪事件」 二年ぶりに再会予定の婚約者失踪のWhy。妙に説得力があり・・6点
  「目隠しごっこ」 盲人ふり遊びからの秘密諜報アクション。・・2点
  「霧の中の男」 霧の中から現れた男・・チェスタートンと先入観証言ネタ・・4点
  「パリパリ屋」 贋金づくり一味とのトリック合戦。2点
  「サニングデールの謎」 女物ピンでの殺人と人物入代りトリック見事。6点
  「死のひそむ家」 主人階級亡き後に容疑者使用人達だけ残り・・「爺やはイカン」言えず・4点
  「鉄壁のアリバイ」 同人物二か所同時存在トリック・・え!それぇ?・・見事。1点
  「牧師の娘」 トミー&タペンス版「黄金虫」・・3点
  「大使の靴」 双子カバンは何故に下船時に取り違えられたのか・・4点
  「16号だった男」 ロシアスパイ相手の消失トリック付き活劇・・5点 
で、(3+5+3+6+2+4+2+6+4+1+3+4+5)=48÷13=3.692…平均繰上げ全体で、4点。

No.8 5点 虫暮部
(2021/10/12 10:11登録)
 コメディとしてはまぁ面白い。
 ミステリとしての他愛のなさが、時々“ミステリそのものに対する茶目っ気のある批評”に思えなくもない。
 探偵の真似をするだけで探偵が出来てしまうなら“本物”とは何ぞや?
 作者のこんな声が聴こえる――“皆さん、先進的なら偉いってもんじゃありませんよ”
 “探偵事務所の内幕なんてこんな程度かもしれないでしょう?”
 このノリで殺人まで起こってびびる。しかしそれもまた或る種の批評なのである。

 クリスティー文庫版59ページ。“口をつむいでいた” → “つぐむ” と “つむぐ” を混同して活用までするアクロバティックなミス?

No.7 3点 クリスティ再読
(2016/09/05 21:27登録)
本作、初期のクリスティのファンアート的な部分が強く出ていて、要するに探偵ごっこ+夫婦漫才の短編集である。評者こういうの苦手だ...「ビッグ4」ほど破綻してはいないけど、ノリは一緒。
トミー&タペンスだったら評者は中期以降の「NかMか」か「親指のうずき」とか熟年になってからの方がいいや。評者としては苦手感が最初から漂ってた作品集なので、いままでずっと敬遠してきてやっと読んだわけだ。ふう、これでお役御免でほっとしている。

内容的には「死のひそむ家」のトリックって、後の中期ポアロ物のトリックの原型だよね。最初の最初からこの人「毒物の女王」だったわけでね...
あというと、本作は訳題もう少し何とかならんか、と思う1冊。創元版の「二人で探偵を」の方がずっと、いい。

No.6 5点 りゅうぐうのつかい
(2016/08/20 13:22登録)
退屈な日常に飽きて、刺激を求めるタペンス。トミーの上司のカーターの依頼を受けて、二人は探偵業を引き受けることに。
二人の軽妙なやり取りと架空の名探偵気取りで物語は進展してゆき、二人が時には相手を騙したり、協力しながら事件を解決していく。
14の事件からなる短編集だが、際立った出来ばえの作品はなく、何の変哲もないオチだったり、ノックスの十戒に反していたりと、拍子抜けする作品が多い。敢えて挙げると、「怪しい来訪者事件」、「婦人失踪事件」、「大使の靴」が面白い。
ハードボイルド的な場面も多く、とぼけたイメージのトミーが窮地に追い込まれても泰然自若としているのが印象的。

「お茶でも一杯」
失踪した女性を探してほしいという依頼に対して、24時間以内に解決すると大見得を切るタペンス。
「桃色の真珠事件」
真珠の意外な隠し場所。ある事柄に不信感を持ち、犯人に気づいたトミー。読者が推理するのは難しい。
「怪しい来訪者事件」
冒頭のシガレットケースに関するエピソードがうまく活かされている。トミーの機知、タペンスの気づきによって、窮地を逃れる。
「キングに気をつけること」
冒頭の新聞紙に関するエピソードがうまく活かされている。同じ○○を作るよりも、そのまま入れ替えた方が簡単では?
「婦人失踪事件」
探検家から夫人が行方不明になったので、探してほしいとの依頼を受ける二人。失踪の意外な理由が面白い。
「眼隠し遊び」
盲人探偵を気取り、危機一髪の状況に。ちょっとした細工のおかげで命拾いする。暗号は意味不明。
「霧の中の男」
『証拠とは、感覚によって頭に伝えられた印象にすぎない』
トミーは3つの勘違いに気づき、犯人を突きとめる。
「ぱしぱし屋」
警視庁のマリオット警部の要請を受けて、にせ札製造の潜伏調査をすることに。ギャングとの駆け引きの話だが、何の変哲もないオチ。
「サニングデールの謎の事件」
事件を取り巻く状況はなかなか魅力的だが、真相は予測の範囲内。真相通りに推理できない理由は、警察がエヴァンズに被害者の写真を見せていないなんて、ありえないことだと思うからだ。
「死のひそむ家」
タペンスの昔の経験が活きる。推理には、専門的知識が必要。
「鉄壁のアリバイ」
同時に2つの違った場所に居たという女性の謎。そのアリバイを崩す話だが、ひょっとしたら、アレかなと思っていたら、その通りだった。
「牧師の娘」
幽霊騒ぎの調査依頼から、文字謎遊びの問題を解いて、事件解決。日本人読者には推理不可能。
「大使の靴」
税関で間違えて持っていかれて、すぐに戻ってきたカバンの謎。すり替えの理由は予想通りだった。
「16号だった男」
本作品の締め括りの話で、カーター主任から探偵業依頼の際に話のあった、16号の男との対決。
ホテルに入ったタペンスと16号の男が消えてしまうが、意外な二人の居場所をトミーは突きとめる。

No.5 5点 makomako
(2016/01/09 18:03登録)
 ずい分軽いお話でした。連作集で一つの話が短いためすららと読んでしまえるのですが、内容はあまり濃いとは言えませんでした。本格推理だと思ってまじめに読んではいけないよという内容のもあります。
 トミーもタペンスもやたらに冒険好きで、大ピンチになっても全然めげないため、漫画チックで現実感に乏しいですねえ。子供のころテレビで見た少年ジェットやまぼろし探偵みたい(古いなあ。分かった人はかなりの年配の方でしょうね)。
 いろんな探偵小説のパスティーシュになっているようなのですので、当時の推理小説ファンが読めばもっと面白かったとは思いますが、私には本家本元がわからない部分がかなりあったため、充分に楽しめなかったところもあるとは思います。
 

No.4 5点 あびびび
(2012/01/18 14:57登録)
アガサクリスティーはいつも読みやすいと言う印象があるが、これはさらに軽くなった短編集。本を読んでいるというより、テレビの30分番組を見ているといった感じ。

寝付かれない時のために、枕の横に置いていたが、最後まで読まなくてもいいので重宝した。

No.3 4点 江守森江
(2011/01/16 11:03登録)
かなり古いドラマ版をAXNミステリーで昨年放送していた。
ミステリーとしては非常に薄味で「名探偵コナン」のアニメ放送での一話完結(30分番組)レベルな内容を1時間番組に引き伸ばした感じだった。
原作の1エピソードの分量を考えれば作者に罪はない。
ドラマ共々、ミステリー部分以外の夫婦のやり取りやコメディ部分を楽しめば良い作品だろう(だって婦人失踪のネタなんて女性陣には失礼だがギャグにしか思えない)
更に、パロディ部分については半分以上のネタにピンと来なかった。
私がクリスティー好きではなく、ポアロを演じるスーシェ(声は熊倉さん)のファンだとキッチリ認識出来るシリーズの一つ(もう一つはマープル)

No.2 5点 seiryuu
(2011/01/16 10:33登録)
トミー&タペンスシリーズの短編集。
15話もはいっているので、どれもスピード解決です。
トミー&タペンスの軽快なやりとりですらすらっと読めます。
「桃色真珠紛失事件」「婦人失踪事件」「死のひそむ家」「牧師の娘」「大使の靴」がよかったです。

No.1 7点
(2010/07/10 21:38登録)
トミーとタペンスのベレズフォード夫妻が活躍する軽いタッチの連作短編集。1タイトル1ストーリーと決まっていなくて、全体の連続性が強いという構成や、スパイ冒険ものの要素がかなりあるところは、本作の2年前に発表されたポアロもの『ビッグ4』との共通点も感じられます。しかし、こういうタイプならポアロよりこの夫妻の方が似合っていて、出来ばえもこちらの方が上です。
また、二人がミステリ中の名探偵をまねながら事件を解決していくというパロディ作でもあります。ホームズやブラウン神父、隅の老人、フレンチ警部あたりは有名ですが、現代日本ではほとんど知られていない探偵もかなり出てきます。その点、パロディとしては機能していないところもありますが、ミステリ(あるいはサスペンス)としては楽しめます。最後の『16号だった男』で取り上げられるのは、作者自身のポアロ(それも『ビッグ4』を引き合いに出しながら)。

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