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ミステリの祭典

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ささやく真実
ベイジル・ウィリングシリーズ

作家 ヘレン・マクロイ
出版日2016年08月
平均点7.00点
書評数9人

No.9 6点 レッドキング
(2023/09/19 22:48登録)
ヘレン・マクロイ第三作。被害者は富豪の超美魔女。海辺の屋敷に集った、と言うより、集わされた容疑者の男女・・ジゴロの如き美形年下夫、夫の元妻、女の会社の支配人、冴えない科学者、ワケあり風の娘・・。殺人事件が起こり、全ての容疑者には、それぞれにもっともな動機があり、タイトでロジカルでスリリングで、しかも情感タップリなWhoダニットミステリ。偶々、殺人現場を「目撃(実は耳撃)」した探偵の摘発したWhoと、その根拠や如何に・・・
※ 時期を逸したロマンは「グロテスクに堕ちる」・・哀れやのう、老いらくの恋・・男女問わず。
※ 「恥(はじ)」と「始(はじ)まる」・・訳者、工夫したなぁ。

No.8 8点 八二一
(2021/01/12 18:54登録)
読み心地の良い的をえた描写、ウィット溢れる会話などのマクロイの特徴はそのままに、飲めば誰でも真実を語ってしまう自白剤という魅力的な小道具を象徴的に用いて、真実と嘘というミステリの本質に正面から挑戦している。

No.7 5点 ボナンザ
(2019/12/13 22:13登録)
最初の展開がまずやばすぎるが、その後は最後まで地味な感じ。

No.6 7点 弾十六
(2019/09/22 00:29登録)
1941年出版。例によってDell Mapbackに鳥瞰図がありますので、Web検索をお勧めします。(あっただし絶対ネタバレは嫌、という人は、どこで事件が起こるかわかっちゃうのでその場面になるまで我慢してくださいね。あー図面が欲しいなあ、と思った時が旬です。) 創元文庫の帯が良い。「2017本格ミステリ ベスト10 第1位 高純度謎解き本格」純米本醸造(詳しくないので適当)みたいな用語が楽しいです。
でも『月明かりの男』で鳥飼さんがせっかく気を使ってくれたのに「登場人物」紹介で大ネタバレ。これはひどいなあ。(私はほぼ「登場人物」を見ないので、今まで気にしたことはありませんが、ネタバレ物件って結構ころがってそうですね。リストアップされてない奴は真犯人じゃない、とか。その表現だと先の展開がミエミエ、とか。リスト見ただけで犯人わかっちゃった、とか。)
冒頭から類い稀なる美女をうまく描写。(髪と目の色からグレタ・ガルボで脳内変換しました…) サスペンスねたをいきなりぶっ込むのも上手。登場人物を次々紹介する手も洒落てます。(ウィリングを巻き込む工夫もも良くできてます。) その後の展開も小ネタを絡めて順調。ありふれた尋問シーンでさえ非常にスリリング。良い設定ですね。どんな証言にも耳をそばだたせてしまいます。とても良く出来た物語なんですが、コレジャナイ感が読後に残りました。探偵としてのウィリングが全く生きていません。愛するものに対する視線も冷めています。ストーリー展開は素晴らしいのに残念、そんな感想を持ちました。
以下トリビア。原文はkindleのサンプル部分を見ただけです。現在価値への換算は米国消費者物価指数基準(1940/2019)で18.33倍、1ドル=1945円。
p9 <アンジェーレ・ニュイ・ド・メ>(Angèle’s Nuit de Mai): フランス語的にはアンジェール(語最後のeはアクサンなしの場合、例外なく「弱いe」ウを弱く抜けた感じで) アンジェール(社?ブランド?)の「五月の夜」という香水。多分架空。
p16 サキによると: こーゆー女性がSakiを読むかな?読むような気もする。(そして的外れな感想を持ちそう。)
p33 ストライキで死者2名: ピケ隊とスト破りの攻防。1941年4月フォード社の写真がWebにありました。GMの工場でUAWによる1936年からのストライキを率いたのはWalter Reuther。
p35 太陽灯で日焼け: ココ・シャネルが1923年にリヴィエラで偶然日焼けして気に入ったのが流行の始まり?(wiki: Sun tanningの頁) 室内で太陽灯を使うのも1920年代からだということです。(wiki: Indoor tanning)
p36 月たった200ドル: 39万円。
p40 四十三歳: ウィリングの年齢。もっと若いと思ってた。
p42 ドロシー・ラムーア: 判事のお気に入り。軽薄な好み、と評されている。
p43 五ドルの罰金: スピード違反の罰金。9726円。
p54 嘘は最後には報いを受ける by アミエル『日記』
p60 サージェントの絵… ボストン図書館の天井に… 描かれた異教の女神アスタルテ: Sargent Astarte Boston Public Libraryで見られます。
p107 シベリウス作曲<悲しきワルツ>: Jean Sibelius, Valse triste (Sad Waltz), Op. 44, No. 1, originally part of the incidental music Arvid Järnefelt's 1903 play Kuolema (Death) (wiki)
p188 サマータイム: DST(Daylight Saving Time) or “fast time” 1918年から施行したが、1919年にはPittsburgh, BostonやNew Yorkなどの都市以外では取りやめ。パールハーバー以降、1942-2-9からWar-Timeとして復活。
p190 ラジオが最新の流行歌を… 軽快なリズムの歌…: 何の曲か知りたくなるのが妄想好き。WebにTop 80 Pop Songs in 1940という便利なのがありました。Glenn Miller, Artie Shaw, Frank Sinatra, Bing Crosby, The Ink Spots… そーゆー時代です。
p192 金曜日: 文脈から考えると事件は次の土曜日に起こったものと思われます。
p194 女か虎か: かなりの有名作だったのですね。初出The Century November 1882 (挿絵なし) "The Lady, or the Tiger?" by Frank R. Stockton
p199 モーリス・ジョべール作曲<灰色のワルツ>: Valse grise, Maurice Jaubert作曲。映画『舞踏会の手帖(Un carnet de bal)』(1937)のテーマ曲。
p216 共産主義にかぶれてる… (というのは)ルーズベルトに投票したという意味: 中程度の資産家の当時の意見。
p217 タクシー… 三年前のモデルのフォード: Ford 1937 taxiで結構画像を発見。
p218 七の和音: Seventh chord? ショーペンハウアーが「人生で真にロマンチックなものは七の和音と青い空と愛のキスだけ」と言っているらしい。調べてません。
p226 あと一週間もすれば牡蠣が食卓に並び: 作中時間は、9月の一週くらい前ということですかね。
p243 映画『カリガリ博士』のセット: Das Cabinet des Doktor Caligari(1920)、『007 カジノ・ロワイヤル』(1967)でも再現されてたようなパースペクティブの狂った歪んだイメージ。

(2019-9-23追記)
コレジャナイ感の正体がやっと分かりました。(後で思いつくタイプです…)
ネタバレになるので詳しく書けませんが、動機と手段のミスマッチです。心理学、精神分析を中心に据えてるはずなのにあのありさまでは台無しなのでは? もう一つはウィリングが最後のシーンで何を期待したのか、という点。実験台をいたぶる性悪さしか伝わってこないのですが… (私は何か誤読してるのでしょうか?)

No.5 7点 蟷螂の斧
(2018/09/15 21:19登録)
序盤での自白剤による暴露合戦や、英語を理解できない執事を雇ったつもりが、英語が喋れたなど、喜劇的要素もあり楽しめました。本作のメイン?のミスディレクションには、完全に翻弄されてしまいました(笑)。ミスディレクションのある事項が、犯人の特定に関係しているところなどは巧いと感心しました。

No.4 8点 あびびび
(2018/02/01 10:22登録)
バリバリの本格。最後に、ちょっとしたどんでん返しがあり、これが案外効いてくる。

しかし、相変わらず美しい文章。今回ベイジル・ウィリング博士は目の前が砂浜という小屋風の家(別荘?)に住んでいる(料理人とともに!)が、夏の朝はひと泳ぎして目を覚ますという羨ましい環境。空と海の色合いの描写は、まるで作者がそんな家に住んでいたかのような(おそらく!)表現でワクワクしてくる。

読めば読むほど味わい深い作家で、また次の作品を読んでいます。

No.3 7点 E-BANKER
(2017/06/12 21:39登録)
1941年発表。
精神科医ベイジル・ウィリング博士シリーズでいうと第三長編に当たる作品。
原題“The Deadly Truth”

~奇抜なパーティーや悪趣味ないたずらで常に周囲に騒動をもたらす美女クローディア。彼女が知人の研究室から盗み出した開発中の新薬は、“真実の血清”なる仮称を持つ強力な自白剤だった。その晩、自宅で主催したパーティーでクローディアは飲み物に薬を混入させ、宴を暴露大会に変えてしまう。そしてついに、悪ふざけが過ぎたのか、彼女は何者かに殺害された! 発見者として事件に関わった精神科医ウィリング博士が意外な手がかりから指摘する真犯人とは?~

ウィリング博士シリーズもそれなりの作品を読んできたけど、その中でも1、2を争う傑作ではないかと思う。
巻末解説の若林氏もご指摘のとおり、フーダニットへの拘りはシリーズ中でも最右翼。
マクロイというと、「暗い鏡の中に」や「幽霊の2/3」といったサスペンス色の強い作品の評価が高いし、私もどちらかというとそういう目線で見ていた作家だった。
ところがどっこい(←古い表現!)、これまた名作と評される「家蝿とカナリア」に負けず劣らずのド本格ミステリーが本作、というわけだ。

ストーリーは序盤から魅力的な展開を見せる。
毒婦クローディアに招待された5名の男女。自白剤により本心の暴露が始まり騒然となるパーティー。そして、ついに起こってしまう殺人事件。当然真犯人はパーティーの参加者のひとりと見られる・・・
冒頭から丹念に撒かれた伏線の数々も旨いし、作中に仕掛けられるレッド・ヘリングも読者を迷わせる。
特に今回は『耳』にスポットライトが当てられるのがポイント。
(ネタバレっぽいけど)てっきり「聞こえない」のが鍵なのかと思いきや、それを見事なまでに反転させるプロットの妙!

若干後出し気味の要素はあるものの、とにかく「端正」で「上品」なミステリーに仕上がっている。
さすがの完成度という評価で良いのではないか。
(サスペンス調より、こういう作品を評価してしまうのは好みかな・・・)

No.2 7点 makomako
(2017/05/14 09:08登録)
マクロイの作品は初めて読みましたが、面白かった。
 飲むと真実を話してしまうという、とんでもない薬が登場するので、これはちょっとと思っていたのですが、お話はなかなか興味深い展開となり、最後はきちんと犯人が指摘されます。
 すっきりとした推理小説で、読後感も悪くはない。はじめは殺された女性のあまりの性格悪さにちょっとげんなりはしていたのですが。


以下少しネタバレです
 翻訳の関係かもしれませんが、ただ単に文章を読んでいると美しい容貌の人はそれなりに分かるのですが、パッとしない人の容貌が浮かんでこない。一応文として書いてはあるのですが。これが結構後で効いてくるので、途中であれそういえばといった感じがしたのが多少の減点です。

No.1 8点 nukkam
(2016/09/14 15:26登録)
(ネタバレなしです) ヘレン・マクロイは1950年代後半から1960年代前半にかけて何作か翻訳紹介されているので日本で不遇だったとは言い切れないかもしれませんが21世紀になって初紹介された作品の中にもなぜこれが今まで紹介されなかったのか不思議で仕方のない傑作がいくつもあり、やはり実力に見合った待遇を受けていなかったのかなと思ったりもしています。1941年発表のベイジル・ウィリングシリーズ第3作の本書もそんな本格派推理小説の傑作です。被害者と容疑者たちとの間のただならぬ緊張感に満ちた序盤から心理的手掛かりと物的手掛かりをバランスよく配合した推理による謎解きまで充実の内容です。互いにかばい合っていた容疑者たちがついに互いを告発し合うというクリスチアナ・ブランド顔負けの展開も凄いです。

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