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26803. | アガサさんデビュー100周年記念! 早川さんはいつやるの? 弾十六 2020/02/03 02:03 [雑談/足跡] |
皆さま、おばんでした。 クリスティ再読さまの『テスト氏』には完璧にやられた… こちらが向こうを張ってポオやチェスタトンの評を書いても、悠々と天空を駆けるその発想と筆致… 全く勝てる気がしません。(←そもそも勝負じゃない。) さて愚痴はともかく、本題です。 今年はアガサ・クリスティのデビュー100周年。そんな事とっくの昔に知ってるよ、と言うあなた。ではデビューした月はいつでしょうか? 英WikiのThe Mysterious Affair at Stylesの項には、冒頭に出版年月が書かれています。アガサさんが原稿を書いたのが1916年で、米国でJohn Laneが1920年10月に、英国ではThe Bodley Head(John Laneが設立)が1921年1月21日に出版。初出が項目のあとの方で明記されています。 The novel received its first true publication as an eighteen-part serialisation in The Times newspaper's Colonial Edition (aka The Weekly Times) from 27 February (Issue 2252) to 26 June 1920 (Issue 2269). なお、アガサさんの第2作The Secret Adversaryも同じくThe Time Weekly Editionの1921-8-12(Issue 2328)から1921-12-2(Issue 2343)までの17回連載が初出です。 いずれも省略などのない、完全版で連載されたようです。 さてThe TimesのColonial Editionとありますが、これではヒットせず、良く調べるとThe Times Weekly Editionが正式名。 たまたま、私は1920年8月27日号(Issue 2278)を持ってるので、この号をもとにして、由緒ある英国日刊紙ザ・タイムズの週刊版がどのようなものであったかを紹介し、アガサさんデビュー100周年の記念といたしましょう。 全世界で販売していたようで、最終ページに各国での代理店がずらり。フランス、イタリア、スイス、スペイン、オランダ、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、ルーマニア、マルタ、キプロス、エジプト、パレスチナ、シリア、トルコ、アデン、インド、シンガポール、インドネシア、中国、日本、ハワイ、カナダ、米国、トリニダード、ジャマイカ、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリア、南アフリカ、シエラレオネ、ナイロビ。(あれ?ドイツが無い…) 日本ではMaruzen K.K., Nihonbashi, Tokyoを筆頭にOsaka, Kyoto, Fukuoka, Sendaiの丸善が取り扱っています。 値段は1部6ペンス。英国消費者物価指数基準1920/2020で44.99倍、1ポンド=6343円で換算すると6ペンス=159円。英国内では年契約で23シリング(=7294円)11.5%引き、海外だと年間30シリング(=9514円)です。 紙面を見ると8月24日(火曜日)までのニュースが掲載されているようです。25日(水曜日)に印刷して各地に送付するという仕組みでしょうか。 サイズは470x310mm、構成は、表紙(The Times Weekly Edition [改行] Illustratedと書かれています)の表裏4ページがやや厚い赤っぽい紙で、1ページ目は広告、2-3ページ目は先週分の補足ニュース、4ページ目にはチェスのコーナーもあります。 本文(普通の新聞用紙)は20ページ。加えてやや上質紙で16ページの写真ページが付いています。 本文1ページ目はロンドンのニュース、2-5は重要ニュース、6は議会関係、7はパリ・ファッション、8は物価、9は投書、10は私信、11はその他のニュース、12-13は小説のページ(この号にはMuriel HineのThe Breathless Momentの第10章(承前)〜第11章(続く)までを掲載)、14は国内ニュースを短く、15は海外ニュースを短く、16-17はスポーツ、18は経済、19は雑多なニュース、20は切手欄と広告。 写真ページにはニュースの決定的瞬間やセレブやファッションやスポーツや映画や演劇など100枚以上の写真(かなり鮮明)が掲載されています。 というわけで、アガサさんはこの紙面で1920年2月に全世界デビューを飾ったのでした。(この欄に掲載された小説にはH. G. WellsのLove and Mr Lewisham (1899-1900)やArnold BennettのDenry the Audacious(1910)があるという。小説の連載は1920年代初め頃まで続いたようです。) このThe Times週刊版、英国を知るにはかなり便利で良いものだと思うので、日本にも結構入ってきていたのではないか、と思います。(日本に届くまでどれくらいかかったんだろう?) 当時、誰かが連載を読んで『スタイルズ荘』の感想を書いたのが発掘されたら面白いですね… ところで、この紙面に第1作、第2作ともに掲載されたというのは、どういう経緯なんだろう。よっぽど期待の新人だったのかなあ。 クリスティ自伝によると、The Weekly Timesの連載権は50ポンドで、その半分の25ポンド(=16万円)がアガサさんに渡された。(『スタイルズ荘』自体は英国で2000部近く売れたが届かず、契約条件により印税は入らなかったらしい。) 「わたしのためにたいへんいいことだ、とジョン・レーンがいった。若い作家にとって、《ウィークリー・タイムズ》が作品の連載をしてくれるのは有望なことだった。」(『クリスティ自伝』より) さて、そろそろ『秘密組織』を読んで感想をアップしなくては… |