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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1634件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.414 5点 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/15 22:55
カーのデビュー作ですが、もうこの頃からカーだ。
怪奇・オカルト趣味に溢れている。
野心溢れる作品だが、やはり若書きの荒さが目立つし、なにしろ文章が読みにくい(訳者の筆にも寄るのだろうけど)。
そしてあの最後のサプライズをどう受取るかで評価も分かれるだろう。
私はカーをある程度読んだ後に本作を読んだので、まあカーらしいんじゃない?と思ったが。

No.413 9点 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/14 17:19
カーの作品で何から最初に読もうかと人に面白い本を訊いてみると、恐らくいくつか挙げられる作品の中にこの作品が挙げられると思う。
その時点で読んでも、確かに面白いが、本作はやはりいくつかカーを読んだ後で読む方が断然面白い。
この作品は怪奇・オカルト趣向の本格ミステリを書くカーがこういう作品を書いたという事に最大の驚きがあるからだ。
しかし本作はカーらしからぬ、実に細やかな構成が成されており、後で読んでみても、本格ミステリともホラー両方とも読めるのだ。
で、逆にカーはそれがために多少強引な解釈も入れており、しかも全てを合理的に解決するわけでなく、あえて曖昧に残している記述も見られる。
逆にこれが最後のサプライズに説得力を持たせてくれるわけだ。

ポーを開祖とする本格ミステリ、つまり今まで怪奇現象だと思われていた不可解な出来事が、最後に実に論理的に解明される小説を敢えて本格ミステリの意匠をまとって、再び怪奇の世界に戻すカーのこの傑作はポーに対する敬意を表した返歌であるのかもしれない。

No.412 6点 顔に降りかかる雨- 桐野夏生 2008/12/14 00:26
ミステリを読み慣れた人ならば、この真犯人は容易にわかったのではないか?
私は結構早い段階で解ってしまった。

上手さを感じたのはネクロフィリア及び性倒錯の世界をモチーフにしたアングラパフォーマンスなど、読者の心に揺さぶりを掛ける要素を取り入れた事と失踪人である耀子が行ったベルリンでの取材を物語に盛り込み、膨らみをもたせた事。

ただ1作目ではそれぞれの登場人物がステレオタイプに感じて、さほど魅力を感じなかったなぁ。
特に肝である失踪人宇佐川耀子の存在がもっと魅力的に浮かび上がるかと思ったら、結局訳のわからないコンプレックスの塊のような女性でしかなかったというだけで、陳腐な感じを受けたのが痛かった。

No.411 1点 死の館の謎- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/11 22:34
大味だ、あまりにも大味だ。
作品の構築したトリックが単なる研究成果の発表会と化し、全くの自己満足となっている。

“老いてなお、最新の知識を導入し、斬新な試みに挑む”
とでも云いたかったのだろうか?
しかし、なおざりにされた登場人物の多い事!

No.410 6点 不可能犯罪捜査課- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/10 14:35
収録作10編中、6編がタイトルともなっているスコットランド・ヤードの不可能犯罪捜査課マーチ大佐を主人公にした連作短編集。
このマーチ大佐は基本的に本作でのみ探偵役を務め、他の作品では『剣の八』でもお目見えするが、その作品では他に出てくる探偵達の中に埋没してしまっている。

基本的に、カー特有のガジェット溢れたストーリーテリングと後期カーに見られる歴史を扱ったミステリ短編で構成されているが、ネタ的には小粒。穿った見方をすれば、ネタの小粒さをおどろおどろしい語り口や視点を描ける事で、ごてごてしく飾り立てて、隠そうとしているようにもとれる。

「空中の足跡」は推理クイズでよく取り上げられる足跡トリックだし、「ホット・マネー」の真相には「えっ、それだけ?」と呆気に取られる。
個人的には「銀色のカーテン」、「もう一人の絞殺吏」と「目に見えぬ凶器」が印象に残った。

No.409 10点 ビロードの悪魔- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/09 23:00
今まで読んだカー作品を全て振り返ってみると、この作品が1番面白かったのかもしれない。
カーの歴史ミステリで最初に触れたのが本作。当時山口雅也氏のリクエストで復刊された作品だった。

悪魔に魂を売って17世紀のロンドンにタイムスリップした歴史学教授のニコラス・フェントン氏が、同姓同名の貴族に乗り移り、史上では毒殺された妻の犯人を探るという物。

この最初の設定の突飛さを無理なく受け入れれば、もうそこには目くるめく物語世界が待っている。
一番印象に残っているのは活劇シーン。邸を襲ってくる暴徒どもを迎え撃つ剣戟シーンの迫真性はカーのストーリーテラーぶりが横溢している。

そして最後に驚嘆の真相!これは多分納得の行かない人もいるかもしれないが、よく読み返すとカーがかなり計算高くこの設定を編み出しているのが判る。

アクションに加え、当時の歴史風俗、そして男たちの友情に、サプライズエンディングと、エンタテインメントの醍醐味が詰まった1冊だ。

No.408 7点 ブルータスの心臓−完全犯罪殺人リレー- 東野圭吾 2008/12/08 23:31
普通、倒叙物であれば、作品の主眼というのは完全犯罪を目論む側に不測の事態が起きて、果たして成功するか否かに終始する。
つまりこの作品で云えば死体移動中に事故が起きたり、共犯者がいなかったりと殺人リレーが成立か否かに焦点を当てて、スリルを描く事も出来るのだが、それを東野はそこをさらりと流す。
特に本作では運んだ死体が犯行の主謀者だったというのがミソ。
なんともまあ、物語のツイストが効いていることよ。

これにより、警察側のみならぬ共犯者側でも犯人捜しが重奏的に行われるようになるのだから。
なんでもないように書いて、実はかなり凝った構成の作品である。

ただ真犯人は相変わらず推理して判明するような物ではない。これは単純に物語に身を委ねるのがいいだろう。

No.407 4点 盲目の理髪師- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/07 17:49
大西洋を航行する豪華客船上で起こる事件をフェル博士が安楽椅子探偵で解き明かす本作は、カー随一のスラップスティックコメディミステリとして知られている。
こういうドタバタ劇は作者のギャグや悪ふざけを愉しめるか否かにかかっているが、オイラはどうもダメだった。
カーがやりたかったのは一連のドタバタ劇が実はミスディレクションであり、シンプルな事件を複雑に見せるということだろうが、このドタバタ劇のアクが強すぎて、結局、何がやりたかったのだろうという読後感になってしまっている。
まあ、カーもまだ若かったんだろうね。

No.406 8点 緑のカプセルの謎- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/07 00:49
カー自ら「心理学的推理小説」と銘打った異色の作品。
『皇帝のかぎ煙草入れ』の感想でも書いたが、カーの持論“Seeing is deceiving(目は嘘をつく)”を直球ど真ん中でテーマにした作品。
毒殺というテーマと何度も繰り返される推理のトライアル&エラーからアントニー・バークリーの傑作『毒入りチョコレート事件』へのオマージュだと思うが、明からさま過ぎるのがカーらしい。

それだけに留まれず、なんといってもマーカスが仕掛けた観察実験とそれに関する質問に対する各人の見間違いの指摘がす語ぶる面白い。
文章でしか語られないのに、映像として目に浮かび、しかもそれが錯誤するように実に巧妙に仕掛けられているのが、明解に解るのだ。
これだけでも御飯3杯はイケル!(嘘です)

No.405 5点 連続自殺事件- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/05 20:23
なんとも素っ気無い題名だが、原題は“The Case Of The Constant Suicides”で正確に訳せば『連続自殺事件』となる。
つまり本書では自殺と思われる事件が連続して起こり、それが自殺なのか他殺なのかをフェル博士が解き明かすという趣向。

で、本作は作者カーが大きな勘違いをして、第1の事件の殺人方法は成り立たないと云われている。
まあ、叙述の状況から推測しても、確かにこれはありえないと思う。
でもそれがカーらしいかなぁと思っちゃったりもする。

No.404 10点 皇帝のかぎ煙草入れ- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/03 00:58
カーのケレン味が好きな人は物足りなさを感じるほど、珍しく読みやすい作品だが、実はこの作品ではかなり高度なテクニックが多用されている。
まずこの題名からして、既にミスディレクションとなっているのだ。
あまり詳しい事を書くと興が削がれるので止めておくが、一度読了してから、改めてこの題名に留意してもらいたい。

そして本作の意外な犯人。これについてもかなり高度なミスディレクションが成されており、読者は絶対に犯人を見抜けることが出来ないよう、巧みに作者によって誘導されてしまう。

とにかく整然としすぎて、熱烈なカーファンであればあるほど、この作品を高く評価しないきらいがあるのだが、私は本作はカーのベスト5に選ぶほど好きである。

"Seeing is believing"ならぬ"Seeing is deceiving"のシチュエーションを好んで使ったカーだが、本作はその中でも最高のミスディレクションの蓄積で成り立っている傑作である。

No.403 7点 魔女の隠れ家- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/01 21:47
フェル博士初登場の記念すべきシリーズ1作。
“魔女の隠れ家”と呼ばれる古い監獄跡を先祖代々受け継いでいるスタバース一家は長男が25歳の誕生日になると、たった一人で監獄の長官室で1時間過ごし、そこに置いてある金庫の中に仕舞われている文書を取り出してこなければならない義務があった、などという安手の肝試しゲームにも似た、無駄におどろおどろしい設定が実にカーらしい。
そしてその一家には代々首の骨を折って死ぬという呪われた歴史があったと、畳み掛け、その通りの事件が起きちゃうというわけ。

限られた空間の中で限られた登場人物の中で繰り広げられる不可能犯罪は納得の行く推理で解かれる。
1作目にしては上出来といった佳作。

No.402 4点 雷鳴の中でも- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/30 17:38
シンプルな内容に17年前の事件を絡め、さらにナチスの影も絡ませてと、ガジェットに今回も凝っているが、内容的にはなんともメリハリがなく、退屈この上なかった。
読むのに疲れた上に、カタルシスもなく、正にコレクターズ・アイテム。

No.401 4点 髑髏城- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/30 00:57
確かに犯人は解らなかった。
カー特有の怪奇趣味が横溢してもいる。
秘密の通路も今回は多めに見よう。
が、しかしそれら全てをもってしても、こちらの知的好奇心をそそらなかった。

メイルジャア失踪のトリックの真相は荒唐無稽すぎる。
××は万能じゃないんだぜ。

No.400 7点 喉切り隊長- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/28 22:19
本作はカーのもう1つの貌とも云うべき、歴史ミステリの好編である。

文庫背表紙の梗概には音もなく忍び寄っては兵士を一突きに殺害する通称「喉切り隊長」の正体とは?といった本格ミステリ色豊かに表現されていたためてっきり犯人捜しが主眼だと思われたが、ところが寧ろそっちの方は物語としてはサブ・ストーリーとして流れていき、主眼はアラン・ヘッバーンのフランスにおける諜報活動にあった。
このアランの諜報活動のスリルは『ビロードの悪魔』を髣髴させる出色の出来。

本来ならば8点の評価を与えたいのだが、「喉切り隊長」の正体が強引過ぎる(と思われる)点と、結局「喉切り隊長」の殺害方法の不思議さについてなんら解明がされていない点の2点において1点減点とした。

No.399 8点 レーン最後の事件- エラリイ・クイーン 2008/11/27 18:11
今までの悲劇3作品と違い、本作はシェイクスピアの稀覯本探しと失踪人捜しといった、殺人事件の謎を解く本格ミステリというよりもロスマクなどの私立探偵小説に似たテイストで物語が繰り広げられる。
謎が1つ解けると、また新たな謎が出てきて、さらに捜索を進めると新たなる人物が次々に出てくるので、クイーンの諸作のような趣向で読むと何が謎なのか、焦点がぼやけてしまう。

しかしそれでもやはりクイーン!カタルシスを最後にもたらせてくれた。
特に冒頭の人物の正体を解き明かすロジックは、またこの手かと思ったが、実に論理的で淀みがない。こういう一見推理とは無関係だと思われる情報が実は有効な手掛かりだったというテクニックがクイーンは心憎いほど巧い。

しかしオイラも負けてはいないぞ!本作でサム元警視に預けられた封筒に書かれたあの暗号、見事解き明かしましたぞ!

で、最後の事件に相応しい結末を迎えるのだが、その動機となる隠された謎がちょっと弱いのが難点か。これは家名を重んじる国民だからということで理解するしかないのだろうけど。

たった2年で書かれた4作しかないこのシリーズだが、その探偵の名と作品は今後も残り続けるに違いない。この結末で逆にレーンという人物の謎が深まった、そんな思いをした。

No.398 3点 剣の八- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/25 22:27
カー作品の中でも、あまりいい評判を聞かない作品で、確かに正直何をやりたかったのか、よく解らない。
実は、フェル博士物でありながら、終わってみれば本格ミステリでないというのが最大の特徴だろうか。

しかも本作ではフェル博士以外にも、『不可能犯罪捜査課』のマーチ大佐というもう1人の名探偵も出演しつつ、さらにヒュー・ドノヴァン・シニアという元犯罪研究家、その息子の大学で犯罪学を専攻している刑事の卵、それに加え、スタンディッシュ大佐の出版社お抱えの推理小説作家ヘンリー・モーガンという、まさに探偵のオンパレードなのだ(とくにヘンリー・モーガンのイニシャルがH. Mというのがまた面白い)。
なのに、本格ではないという実に奇妙な作品。

結局やりたかったのは、「船頭多けりゃ、船、山へ登る」っていう趣向だったのかしら?

No.397 4点 アラビアンナイトの殺人- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/24 22:25
1つの事件について、三者三様の証言があり、そのどれもが微妙に違っている。その相矛盾した内容を基にフェル博士が真相を突き止めるという趣向だが、いかんせん長すぎ!
また事件がさほど魅力的でないのもあって、つまらない話を三度も聞かされる苦痛すら感じてしまった。
題名のアラビアンナイトは大して意味がなく、事件の舞台となる博物館にアラビアからの骨董品が展示されており、凶器がアラビア風の短剣であったことに由来する。
あっ、もしかしてこれはカー版国名シリーズ!?

No.396 2点 囁く影- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/23 22:34
いやあ、結局、この物語で語りたかった事は何なのか、よく解らなかった。
不可能状況、不可解状況を作り出すためにわざわざ登場人物達を歪曲したような感が強く、興醒めした。
吸血鬼云々の件も、強引に怪奇色を出しているような、取って付けた感が強いし・・・。
物語に牽引力があれば、もっと面白く読めたのだろうけど。

No.395 7点 コミケ殺人事件- 小森健太朗 2008/11/22 14:34
1994年刊行の本書。当時はまだオタクに対する偏見が強かっただろうからその内容に生理的嫌悪感を示す人も多かったかもしれないが、現在ではその認識も改善されており、逆に今頃に読めば案外一般的なミステリ読者にもすんなりと受け入れられるかもしれない。

本作はメタミステリを得意とする作家らしく、なんと同人誌が丸々作中作として盛り込まれている。
7人の同人誌サークル員が寄稿した『ルナティック・ドリーム』なる美少女戦隊物の最終話を予想したその内容は論文体、ホラー小説、ペダンチック溢れる小栗虫太郎風ミステリ、やおい風味小説と、ヴァラエティに富んでおり、この作者の正に独壇場である。そしてそれらがなかなか面白いのだ。

本作ではどんでん返しも盛り込まれているが、逆に真相が覆るたびに明かされる真相がパワーダウンしてしまうのが瑕か。
私としては一番最初の真相が正にこの作品で扱ったコミケ、オタクの世界をもっとも具体的に現しており、チェスタトン的な狂人論理に通ずる物があり、結構好きなのだが。

一般のミステリ読者でも推理出来るよう、一番ケレン味のない真相が本当の真相になってしまっているが、本作ではあえてコミケという特殊状況ならではのケレン味を大事にした方がよかったのではないかと思った次第。

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