皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
sophiaさん |
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平均点: 6.94点 | 書評数: 370件 |
No.210 | 9点 | 奇術探偵 曾我佳城全集- 泡坂妻夫 | 2019/05/30 19:41 |
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単行本を読みました。タイトルから想像していたのとは違ってHowよりもWhyが柱になった作品が多い印象です。全22話玉石混交ではあるんですが、奇術という著者ならではのテーマでこれだけの作品を取りそろえたところは評価に値します。白眉は「ビルチューブ」です。他には「シンブルの味」「消える銃弾」「花火と銃声」「真珠夫人」も出来がいい。佳城の推理は冴えていますが、伝説の奇術師の手並みを見せてくれる話がもっと欲しかったところです。ラストはどう評価したものか。伏線となったあるエピソードもねえ。「湖底のまつり」然り、この方の叙述トリックはあざとくてどうも苦手なんですよね。 |
No.209 | 6点 | 盤上の向日葵- 柚月裕子 | 2019/05/18 00:43 |
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刑事の佐野・石破パートと容疑者のプロ棋士・上条桂介パートが交互に進行していく形ですが、途中から後者の比重が圧倒的に大きくなって、佐野・石破は桂介の足跡をなぞるだけになってしまっています。しかもその桂介も東明に振り回されているだけにしか思えなかったです。佐野のプロ棋士になれなかったコンプレックスや石破の型破りなキャラクターをもっと活かしてほしかったですし、何より桂介をもっとしっかりと話の中心に据えてほしかったです。終わってみれば真剣師の東明という男の生き様が面白かっただけの作品になってしまいました。終わり方も好きじゃないですねえ。救いがないですよ。 |
No.208 | 9点 | 魔眼の匣の殺人- 今村昌弘 | 2019/05/08 19:43 |
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前作と同じくクローズド・サークルものの傑作ですが、今回の話は論理クイズのようでちょっと難しかったです。この作品の良さは初めて読んだときよりも再読したときの方が分かるかもしれません。
中盤までオカルト話ばかりで、人為的な殺人事件はいつ起こるのかと気を揉んでおりましたが、後半に差し掛かってついに起きた事件以降伏線のオンパレードで一気にスピードアップ。そして解決編後、最終盤のもうひとひねりは三津田信三の某作を思い出しました。手記に隠された伏線が見事。 一番に死ぬだろうなと思った人がやはり一番に死んだのは少し笑えました。 |
No.207 | 7点 | 日曜の夜は出たくない- 倉知淳 | 2019/04/16 00:21 |
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このシリーズは長編の「過ぎ行く風はみどり色」しか読んだことがありませんでしたが、創元推理文庫の新版が出たのを機に、短編集にも手を出してみました。泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズのような描き方ですかね。島田荘司ばりの大技物理トリックもあり、センチメンタルな話もあり、昔話の謎解きもあり、バリエーション豊富で飽きさせません。中でも「一六三人の目撃者」が秀逸でした。そして最後のサプライズ。あの話やあの話で感じた違和感はこのためだったのかと感じさせられました。残りの短編集も読むのが楽しみです。あ、「海に棲む河童」の最後の標準語訳は不要だったと思います。あれは冷めました(笑) |
No.206 | 5点 | 赤い指- 東野圭吾 | 2019/04/06 00:53 |
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これはちょっとオチが読めましたかねえ。氏の作品を多く読んでいる人ほど分かってしまうのでは。氏の名作はこの類のものが本当に多いですからね。しかし加賀恭一郎シリーズってシリーズにする必然性があまりない気がします。刑事が主役だから加賀恭一郎にするか、みたいな。そう感じるのはこれまでの作品で加賀恭一郎という人物につかみどころがあまりなかったからですが、この作品では家庭環境を描いたりして人間味を演出しています。これもシリーズを続けていくための布石なのでしょうね。 |
No.205 | 10点 | ベルリンは晴れているか- 深緑野分 | 2019/03/23 17:16 |
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ネタバレあり
「戦場のコックたち」で圧倒された緻密な描写はこの作品でも健在です。さらに「戦場のコックたち」は兵隊目線でしたが、今回は市民目線での戦争+ミステリー小説です。日本人がこれを書けるのは本当にすごい。しかもこういう雰囲気の作品にこの手のトリックを仕込んでくるとは。 現在パートと過去パートが最後につながって終わりますが、その交点の置き方もいい。ラストシーンは希望を感じさせるものでしたが、そこは現在パートではなく過去パートであることを強く意識しなければなりません。現在パートである人物に指摘されたアウグステの「老人のような目」が俄然意味を持ってくるからです。それは戦争というものの深い罪を表すにこの上なく効果的でしょう。本屋大賞にノミネートされていますが、ミステリー好きのみならず多くの人に読まれることを願います。 |
No.204 | 4点 | 叙述トリック短編集- 似鳥鶏 | 2019/03/14 02:06 |
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●ちゃんと流す神様 6点・・・終わってみれば最初の話が一番マシという実に萎えるパターン。
●背中合わせの恋人 5点・・・勘違いの経緯に工夫がない。本当にただの思い込み。そして話が無駄に長い。 ●閉じられた三人と二人 3点・・・これは酷い。 ●なんとなく買った本の結末 4点・・・いや、通話記録は?作中作の作者の力量不足のせいにして逃げないで。 ●貧乏荘の怪事件 4点・・・途中で呼び名が変わるから違和感しかない。倒れた酒瓶の論理もおかしい。 ●ニッポンを背負うこけし 5点・・・ここまでの各章の人物描写でもっと丁寧に伏線を張っていないと驚けないです。微かな違和感を感じさせて来ないと。 ●あとがき 採点不能 こんなタイトルの本を出されて叙述トリック好きとしては読まないわけにいかない、そう思って手を出したのですが失敗でした。冒頭の「読者への挑戦状」で上げに上げたハードルを全く越えられていません。ほとんどの話が酷いですし、伏線が足りていないため「やられた」と思えません。全編通して仕掛けられている叙述トリックに関して特にそう思います。主要人物の人物描写をあまりしていないのは敢えてのことだと思われますが、それは揚げ足取りを避けるための逃げの手段。攻めの姿勢を見せて欲しかった。「あとがき」による解説も野暮なような。結局、叙述トリックというものは宣言してから仕掛ける物ではないなと再認識しただけのことでありました。 |
No.203 | 9点 | ボッコちゃん- 星新一 | 2019/03/07 00:04 |
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著者の作品には従前より興味はあったものの、作品の数が多いためどれを読めばいいのか分からずにいましたが、最近読んだ米澤穂信「本と鍵の季節」に星新一の代表作のような触れ込みで本書のタイトルが出てきたので読んでみました。とても50年近く前の作品とは思えません。ショートショートというジャンルを少し軽く見ていました。ただし前半に比べると後半はキレが落ちた気がします。「ボッコちゃん」「包囲」「不眠症」「生活維持省」「鏡」「人類愛」「ゆきとどいた生活」「妖精」「おみやげ」が特にお気に入り。最後に「ボッコちゃん」あるあるを。博士の家に強盗入り過ぎ。金庫開けようとしすぎ。 |
No.202 | 6点 | 沈黙のパレード- 東野圭吾 | 2019/03/02 18:43 |
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ミステリーランキングで高評価なのでかなり期待して読んだんですが、意外と大したことない?多くの人を巻き込んだせいで、犯行の工程が無駄に細かくなっています。アリバイトリックはあれで成立しているんですかねえ。その気になれば別のところからも調達できるような物をフェイクに使うことが有効なのか。歌手の卵の凋落の経緯は陳腐ですし、登場人物のキャラ造形も類型的で没個性。こういうところは初期の作品の頃から変わってないですよね。終盤の囚人のジレンマ的なところは少し面白かったです。まあそこだけですかね。 |
No.201 | 7点 | 本と鍵の季節- 米澤穂信 | 2019/02/25 19:23 |
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図書委員の男子高校生二人の友情(?)物語。謎解きは基本的に松倉君が主導権を握っているのですが、堀川君の方も単なるワトソン役には収まらず、後半の話では松倉君を上回る冴えを見せます。地味ではありますが、日常の謎という括りで見ればどの話も高い水準にあって楽しめると思います。 |
No.200 | 7点 | ホワイトラビット- 伊坂幸太郎 | 2019/02/05 21:59 |
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ギミックを成立させるために行った二つの場面の時間軸の微妙なずらしが見事。「レ・ミゼラブル」へのオマージュであろう作者の視点からの注意書きが要所で挿入されるのも最初は鬱陶しかったですが、時間軸のずれたこの作品を読みやすくするのに効果を上げています。なかなか新しい趣向で楽しめました。 |
No.199 | 4点 | オーパーツ 死を招く至宝- 蒼井碧 | 2019/01/31 00:21 |
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●第一章「十三髑髏の謎」
事件発覚後にアリバイと動機ばかりを論じていますが、密室にした方法も論じるべきでした。特に鍵がどこにあったのかを強調しておかないと。それをしなかったばかりに真相が明かされた時の驚きが半減してしまっている。まあその辺りをきちんとやったところで、下らないトリックであることに変わりはありませんが。 ●第二章「浮遊」 現場に黄金シャトルがいくつあったのかをはっきり書いてくれませんかねえ。私はひとつだと思っていたので真相を読んで混乱しましたよ。しかも密室トリックが「○○を持ってました」って・・・多分一番酷いでしょう、この話。 ●第三章「恐竜に狙われた男」 第二章を超えないでくれ・・・。 ●第四章「ストーンヘンジの双子」 そんなバランス悪そうな物は風で倒れるでしょう。それから死体発見時の描写が下手です。誰がどこで死んでたのか分かり難くて混乱します。 総評。つっこみどころ満載。終わってみれば第一章が一番マシだったという。各話少し長めの推理クイズという感じで、小説を読んだという気分になりませんでした。第三章はやや趣向が変わって期待したのですが、肝心のトリックが一番酷い。そもそもミステリーとしてどうこう以前に小説家として未熟です。描写力が乏しいため情景が頭に浮かびにくい。状況説明も雑で分かり難いところがしばしばあります。ここで一行空ける意味はあるのか、とか。この作品の読みどころはオーパーツに関する薀蓄部分だけです。よく出版しましたよねこれ。今後ミステリー作家を続けるのであれば色々修業し直した方がいいと思うのですが。 |
No.198 | 9点 | 戦場のコックたち- 深緑野分 | 2019/01/24 18:20 |
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まず作者の世界の歴史や軍事への造詣の深さに参りました。タイトルやあらすじからもっとコミカルなものを想像していましたが、どの事件も陰惨ですね。そりゃそうですよね、戦争小説ですから。その戦争小説がミステリーと上手く融合しています。解かれた謎が次の戦場へと繋がって物語を構築していき、読者は次第に引き込まれていく。感受性豊かながらも弱さや醜さを抱える主人公の、仲間たちに支えられての成長物語でもあります。「コック」という設定はそれほど関係ありませんでしたが。 |
No.197 | 7点 | AX- 伊坂幸太郎 | 2019/01/19 17:05 |
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3編目までのほのぼのっぷりにどうしたことかと心配になりましたが、4編目からこのシリーズ本来の殺伐とした感じが出てきて一気に面白くなりました。3編目までは言わばフリのようなものかもしれません。そう考えると連作短編集という体裁は採っていますが、実質的に一つの長編かと思います。第4編のある仕事の下りが本編から浮いていたのは伏線だったからなんですね。最後に余談ですが、伊坂幸太郎ほどの作家が「いつぶり」などというおかしな言葉を使っていることに驚きました。 |
No.196 | 7点 | マリアビートル- 伊坂幸太郎 | 2019/01/11 19:01 |
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人物やトランクの複雑な動きをよく考えて物語が作られてあり、読者は頭の中に常に列車の見取り図を描いて展開を追うことになります。終盤に視点人物のバトンタッチが行われるのは、アイラ・レヴィン「死の接吻」を思わせる構成でワクワクしたのですが、そこがこの作品のピークになってしまった気がします。なお、この作品を読む前に「グラスホッパー」を再読していて正解でした。読んでいないと面白さが半減とまでは言いませんが、2割減ぐらいはします。 |
No.195 | 7点 | グラスホッパー- 伊坂幸太郎 | 2019/01/08 00:33 |
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「マリアビートル」や「AX」を読む前に、殺し屋シリーズ第1作を復習がてら十数年ぶりに再読。だいぶ忘れてました。スピーディーな展開で読者を引き込む手腕はさすが。3人の視点人物の切り替えも効果的。ただしあまり中身のない血腥い話であり、伊坂版「パルプ・フィクション」といったところでしょうか。なお鈴木と蝉については分かりますが、鯨の行動の動機付けがいまいち分かりませんでした。最後の決着もあっさりとしたものでした。 |
No.194 | 6点 | この闇と光- 服部まゆみ | 2018/12/17 17:41 |
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全て「レイア」視点の物語であり、「父」の方の素顔があまり明らかになりません。ああいうことを行うに至った明確な動機が存在してほしかった。そこに期待して読んだので残念な結果になりました。この作品は中盤で明かされる物語の舞台に驚けないとアウトかもしれません。でもそれは序盤に分かり易い伏線がひとつありましたからねえ。文字に関するところですが。 |
No.193 | 5点 | リカーシブル- 米澤穂信 | 2018/11/30 00:19 |
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正直なところタイトルもピンと来ませんし、あらすじを読んでもあまり興味を引かれなかったのですが、私の好きな米澤作品でなおかつこのミス上位に入っていたので読んでみました。結果、やっぱり期待はずれでした。半分読んでも3分の2読んでも面白くならない。情景描写や回想が多いですし、伏線も次々に出てくる割に途中で回収されることがなくストレスが溜まりました。最後まで読んでしまわないと何も分からないタイプの作品で、「さよなら妖精」並みに読むのに根気が要りました。それで肝心の真相ですが、ちょっと無理があると思います。いつの時代なのかと。しかも結局何一つ解決してないですよね。 |
No.192 | 6点 | 許されようとは思いません- 芦沢央 | 2018/11/15 17:56 |
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●許されようとは思いません 8点・・・表題作だけのことはあります。
●目撃者はいなかった 7点・・・「死刑台のエレベーター」ですね。でもこれは結局のところ真実を証言してやる義理はないのではないですか?その後の駆け引き次第でしょうかね。 ●ありがとう、ばあば 7点・・・これはミスディレクションが上手かった。動機はそっちの方ですか。 ●姉のように 5点・・・単純な叙述トリックですが、ネット掲示板の書き込みの「人間、自分が育てられたようにしか育てられないからね。」云々の部分がアンフェアだと思うのですが。 ●絵の中の男 6点・・・悪くないプロットですが、独白というスタイルを採ったことがあまり成功していない気がしました。 全体的に米澤穂信っぽい毒だと思いました。しかしながら米澤作品と比べると何か物足りない(表題作除く)。ストーリーテリングの差でしょうか。オチ以外印象に残らない話が多いですからね。それとタイトルの付け方がどうも上手くない気がするんですよね。後でタイトルを聞いて中身を思い出せるのは「ありがとう、ばあば」だけだろうなと思います。 |
No.191 | 7点 | リバーサイド・チルドレン- 梓崎優 | 2018/10/25 23:59 |
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ホワイダニットに重点を置いた作品。著者の短編「叫び」に近いものがあります。ミステリーというよりは文学作品として読むべき小説であり、「スタンド・バイ・ミー」のようなほろ苦さがあります。哲学的でやや難しいですが。一点気になったんですが、医者の所に乗り込むときに舟に置き去りにした墓守の少年のこと忘れてませんか? |