皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
sophiaさん |
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平均点: 6.92点 | 書評数: 384件 |
No.224 | 8点 | Iの悲劇- 米澤穂信 | 2019/11/04 23:06 |
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山間部の廃村に人を呼び戻すプロジェクトに携わる公務員たちの話。雑誌掲載したものを軸にした連作短編集ですが、書き下ろしを挿入したり順番を変えたりして一つの壮大な作品に再構築しています。雑誌掲載分を読んでいた人たちは、まさかこんな話だったとは思っていなかったんじゃないでしょうか。考えさせられる一冊でした。 |
No.223 | 8点 | 夜市- 恒川光太郎 | 2019/10/03 22:28 |
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表題作ほか1編を収録。日常のすぐそばに存在する異世界というコンセプトでしょうか。ホラーというジャンルではありますが人情話でもあり、おどろおどろしさはそれほど強くありません。2作とも大切な物を取り戻す旅です。どちらの話の異世界にも主人公の先達と言える存在があり、物語の重要なカギを握っています。結末に関しては「夜市」はどちらかと言えばハッピーエンド、「風の古道」はどちらかと言えばバッドエンドでしょうか。しかしどちらの話も一概にそうとは言えない温かい寂寥感を残して終わります。「白昼夢の森の少女」では「銀の船」が一番よかった私にとりましては、なかなか楽しめる世界観の2編でありました。 |
No.222 | 4点 | いけない- 道尾秀介 | 2019/09/29 18:40 |
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これは近年稀に見る期待外れ。帯やらメディアやらで絶賛してハードル上げ過ぎですよ。各章最後に地図やら写真やらを載せてさも思わせぶりに謎解きを投げかけていますが、いずれも大した解答ではありません。いや、そもそも問題にするところを間違えてないですか?さらに読者の想像に任せている部分が多すぎて、読後のカタルシスがありません。東野圭吾の「どちらかが彼女を殺した」「私が彼を殺した」もそうでしたが、やはりクイズの体裁をとった作品で傑作は難しいと再認識いたしました。
追記 文庫版は画像の画質が粗いので出来れば単行本で読むことをお勧めします(その代わり第1章の地図の範囲を狭めたりといった改善も見られますが)。 |
No.221 | 8点 | 火の粉- 雫井脩介 | 2019/09/25 00:23 |
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設定が既に面白いので面白くなる予感しかしませんでした。最後まで読むと過去の犯行の一部始終が具体性を持って読者の頭に浮かんで来るのがこの作品の肝。隣人に信頼を寄せている人物、不審感を持っている人物、板挟みで動けずにいる人物、家族それぞれの視点から隣人が描かれ、正体が浮き彫りになっていく手法が採られています。メインの視点人物は雪見ですが、もう少し勲の視点で読みたかったかなと思います。馬鹿息子には辟易しておりましたが、最後の最後に男っぷりを見せてくれて溜飲が下がりました。しかし、赤の他人の男に義母の介護を手伝わせるというのはあり得なすぎます。 |
No.220 | 7点 | 白昼夢の森の少女- 恒川光太郎 | 2019/09/18 23:21 |
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著者の作品を読むのはこれが初めてです。「変身」「再生」「永遠」といったテーマを持っていると思われる前半の話が面白かったです。中でも「銀の船」は突出して素晴らしい。後半の話になると趣はガラッと変わりますが、どうもオチがいまいちな話が多いです。あとがきで著者も書いている通り、寄せ集めの短編集なので仕方がないかもしれません。しかしながら、他の著書も読んでみようという気にさせるには十分な一冊でありました。 |
No.219 | 6点 | 猫丸先輩の空論 超絶仮想事件簿- 倉知淳 | 2019/09/11 21:09 |
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●水のそとの何か 6点・・・作中の小説を元ネタにされてもいまいちピンと来ず
●とむらい自動車 7点・・・タクシー運転手たちの口論長すぎませんか(笑) ●子ねこを救え 6点・・・猫モノなら「失踪当時の肉球は」の方が好き ●な、なつのこ 7点・・・アレとアレとでは重量がだいぶ違うのですぐ気付きそうなものですが ●魚か肉か食い物 6点・・・これはちょっと論理の飛躍。レンゲに持ち替えるのなんかも自然な動作であり、伏線として機能しているのかどうか。旧友に気を遣ってプラマイ0にしようとした、の方が綺麗だった気がしますが。 ●夜の猫丸 5点・・・何だこりゃ 全体的にまったり(ダラダラとも言う)としており、「幻獣遁走曲」のテイストに近いのかなあと思います。前作「猫丸先輩の推測」の完成度には遠く及ばない感じです。「超絶仮想事件簿」というサブタイトルの意味も全く分かりませんし。 |
No.218 | 7点 | 犬はどこだ- 米澤穂信 | 2019/09/03 00:27 |
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二つの依頼に共通点があることは早い段階で読者には分かっているのですが、いかんせん報連相のなっていない二人の調査員たちは気付きません。しかしながら二つの依頼がどう絡み合うのかまでは終盤まで読者にも分からないという構成。絡み合ってからは急加速で面白くなりました。ネットから現実世界に移った鬼ごっこの構図の反転が鮮やか。しかし、最後あっさりしすぎでは?更なる高評価もあり得た作品だと思うのでちょっともったいなかったですね。あと、主人公がなぜ犬捜しを専門にしたいのかがよく分かりませんでした。タイトルに「犬」を入れる程であれば語って欲しかったです。語ってましたっけ?
余談。「鎌手」は「構ってちゃん」ってことかと思ってました(笑)それと「2ちゃんねる(今は5ちゃんねるですが)」という言葉が小説にはっきり出てくるのは新鮮でした。 |
No.217 | 8点 | 猫丸先輩の推測- 倉知淳 | 2019/08/24 23:35 |
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●夜届く 8点・・・銭湯のエピソードがヒントにもなり、煙幕にもなっています。
●桜の森の七分咲きの下 8点・・・私を含め、もうひとつの可能性の方を考えた読者が多いことと思います。裏切られました。 ●失踪当時の肉球は 8点・・・最後の分かるような分からないような歯医者の例えが印象的。 ●たわしと真夏とスパイ 8点・・・冷えてないことに気付かなかったのか?という瑕疵はありますが。 ●カラスの動物園 7点・・・「桜の森の七分咲きの下」同様の裏切り。 ●クリスマスの猫丸 7点・・・何てことはない真相を魅力的な謎に仕立てるのが上手い。 「日常の謎」としてはかなりハイレベルな短編集ではないでしょうか。毎回変わる視点人物も個性的。特に探偵さんはよかった。各タイトルは全部何かの文学作品に因んでいるんですね。「たわしと真夏とスパイ」と「カラスの動物園」は無理やり合わせにいった感じがしますけど(笑) なお、本作の猫丸先輩の行いは「推理」ではなくタイトルにあるように「推測」であると言われますが、物的証拠はなくとも状況証拠を元にしているので「推理」と言っていい気がします。ただし確認を取っていないという点で「推測」なのかなと。であれば「たわしと真夏とスパイ」は犯人の自白を取っているので「推測」には終わっていないと言えるのではないでしょうか。このようなことまで考えさせられる、なかなかに奥の深い一冊でありました。 |
No.216 | 7点 | 怪物の木こり- 倉井眉介 | 2019/08/04 21:19 |
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主人公が襲撃の被害者であると同時にリベンジャーであり、警察に真実を隠すことから事態が複雑に展開していき、読み応えがあります。終盤に訳が分からなくなり戸惑っていたら、時系列をずらしたんですね。これは結末に向けて効果的だったと思います。ただ、人物造形の浅さが気になります。例えば、主人公は邪魔者を何人も殺してきたサイコパス弁護士という設定ですが、弁護士としての仕事ぶりも、邪魔者をどう殺してきたのかも具体的に描かれていません。作品のキーワードになっている「脳チップ」も、ネーミングが何とも安っぽいのでもうちょっと考えて欲しかったところです。 |
No.215 | 6点 | 幻獣遁走曲 猫丸先輩のアルバイト探偵ノート- 倉知淳 | 2019/07/30 22:54 |
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●猫の日の事件 5点
●寝ていてください 5点 ●幻獣遁走曲 7点 ●たたかえ、よりきり仮面 7点 ●トレジャーハント・トラップ・トリップ 6点 初めの2話をその後の3話で取り返した感じです。「日曜の夜は出たくない」は割と硬派な本格ミステリー短編集でしたが、本作は誰も死にませんしプロットも複雑なものはなく、ライトな味わいの短編集となっています。アメトークの読書芸人の回でとある芸人さんが本作をお薦めしたそうですが、そういう観点からだと思われます。まあ時にはこういうのも悪くないんじゃないでしょうか。余談ですが、創元推理文庫新版のあとがきによりますと、本作のジャンルは日常の謎ではなく「非日常の謎」なのだそうです。何はともあれ、次作「猫丸先輩の推測」に期待しておきます。 |
No.214 | 8点 | 殺戮にいたる病- 我孫子武丸 | 2019/07/21 23:35 |
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十数年ぶりの再読です。タネが分かっていると再読にはあまり堪えないですかねえ。点数は初読時の衝撃に対する点数です。娘の名前は軽いミスディレクションですよね?しかし岡村孝子はこんな内容の作品に散々引用されて迷惑じゃなかったんでしょうか(笑) |
No.213 | 8点 | 大誘拐- 天藤真 | 2019/06/19 21:21 |
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「皆殺しパーティ」を読んだのを機会に再読。オチだけは覚えていましたが、途中の経過など完全に忘れていました。これ要は刀自の人脈が凄いという話に落ち着きます。犯人グループと警察とマスコミの三者の攻防は微に入り細に入り、読むのがなかなか大変です。通好みの作品になるのではないでしょうか。 |
No.212 | 7点 | 皆殺しパーティ- 天藤真 | 2019/06/11 03:28 |
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ネタバレあり
○○殺人をテーマにしたプロットは悪くないですし、事件が次々と起きて飽きさせない構成力もさすがです。しかし問題点もいくつかあります。登場人物のほとんどが途中退場することで、最終的に誰が犯人なのかは自動的に見当が付いてしまいましたし、誰が裏切ってもおかしくない状況でしたので、犯人の意外性も薄れてしまいました。さらに誰と誰が実はできていたということが続き過ぎですし、特に英吾と○○がというのは話が上手すぎます。英吾という人物が便利に使われ過ぎているんですね。この辺りを考慮すると7点ぐらいの評価が限度になります。 |
No.211 | 7点 | 鏡の中は日曜日- 殊能将之 | 2019/06/05 23:08 |
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綾辻行人の館シリーズへのオマージュのようですが、特に水車館と迷路館の影響が濃く感じられます。構成が非常に凝っており、一気に読ませる力があります。殺人事件の方は何てことないんですが、メインテーマは別のところにあり、そこをどう評価するかといったところでしょうか。私が新本格に傾倒していた十数年前にこの作品を読んでいればもう少し高い評価をしたかもしれません。お寺の場所を尋ねられるくだりの漢字表記がちょっと引っかかりますかね。タイトルの由来は何となく分かるような気もしますが、作中で言及が欲しかったところです。 |
No.210 | 9点 | 奇術探偵 曾我佳城全集- 泡坂妻夫 | 2019/05/30 19:41 |
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単行本を読みました。タイトルから想像していたのとは違ってHowよりもWhyが柱になった作品が多い印象です。全22話玉石混交ではあるんですが、奇術という著者ならではのテーマでこれだけの作品を取りそろえたところは評価に値します。白眉は「ビルチューブ」です。他には「シンブルの味」「消える銃弾」「花火と銃声」「真珠夫人」も出来がいい。佳城の推理は冴えていますが、伝説の奇術師の手並みを見せてくれる話がもっと欲しかったところです。ラストはどう評価したものか。伏線となったあるエピソードもねえ。「湖底のまつり」然り、この方の叙述トリックはあざとくてどうも苦手なんですよね。 |
No.209 | 6点 | 盤上の向日葵- 柚月裕子 | 2019/05/18 00:43 |
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刑事の佐野・石破パートと容疑者のプロ棋士・上条桂介パートが交互に進行していく形ですが、途中から後者の比重が圧倒的に大きくなって、佐野・石破は桂介の足跡をなぞるだけになってしまっています。しかもその桂介も東明に振り回されているだけにしか思えなかったです。佐野のプロ棋士になれなかったコンプレックスや石破の型破りなキャラクターをもっと活かしてほしかったですし、何より桂介をもっとしっかりと話の中心に据えてほしかったです。終わってみれば真剣師の東明という男の生き様が面白かっただけの作品になってしまいました。終わり方も好きじゃないですねえ。救いがないですよ。 |
No.208 | 9点 | 魔眼の匣の殺人- 今村昌弘 | 2019/05/08 19:43 |
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前作と同じくクローズド・サークルものの傑作ですが、今回の話は論理クイズのようでちょっと難しかったです。この作品の良さは初めて読んだときよりも再読したときの方が分かるかもしれません。
中盤までオカルト話ばかりで、人為的な殺人事件はいつ起こるのかと気を揉んでおりましたが、後半に差し掛かってついに起きた事件以降伏線のオンパレードで一気にスピードアップ。そして解決編後、最終盤のもうひとひねりは三津田信三の某作を思い出しました。手記に隠された伏線が見事。 一番に死ぬだろうなと思った人がやはり一番に死んだのは少し笑えました。 |
No.207 | 7点 | 日曜の夜は出たくない- 倉知淳 | 2019/04/16 00:21 |
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このシリーズは長編の「過ぎ行く風はみどり色」しか読んだことがありませんでしたが、創元推理文庫の新版が出たのを機に、短編集にも手を出してみました。泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズのような描き方ですかね。島田荘司ばりの大技物理トリックもあり、センチメンタルな話もあり、昔話の謎解きもあり、バリエーション豊富で飽きさせません。中でも「一六三人の目撃者」が秀逸でした。そして最後のサプライズ。あの話やあの話で感じた違和感はこのためだったのかと感じさせられました。残りの短編集も読むのが楽しみです。あ、「海に棲む河童」の最後の標準語訳は不要だったと思います。あれは冷めました(笑) |
No.206 | 5点 | 赤い指- 東野圭吾 | 2019/04/06 00:53 |
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これはちょっとオチが読めましたかねえ。氏の作品を多く読んでいる人ほど分かってしまうのでは。氏の名作はこの類のものが本当に多いですからね。しかし加賀恭一郎シリーズってシリーズにする必然性があまりない気がします。刑事が主役だから加賀恭一郎にするか、みたいな。そう感じるのはこれまでの作品で加賀恭一郎という人物につかみどころがあまりなかったからですが、この作品では家庭環境を描いたりして人間味を演出しています。これもシリーズを続けていくための布石なのでしょうね。 |
No.205 | 10点 | ベルリンは晴れているか- 深緑野分 | 2019/03/23 17:16 |
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ネタバレあり
「戦場のコックたち」で圧倒された緻密な描写はこの作品でも健在です。さらに「戦場のコックたち」は兵隊目線でしたが、今回は市民目線での戦争+ミステリー小説です。日本人がこれを書けるのは本当にすごい。しかもこういう雰囲気の作品にこの手のトリックを仕込んでくるとは。 現在パートと過去パートが最後につながって終わりますが、その交点の置き方もいい。ラストシーンは希望を感じさせるものでしたが、そこは現在パートではなく過去パートであることを強く意識しなければなりません。現在パートである人物に指摘されたアウグステの「老人のような目」が俄然意味を持ってくるからです。それは戦争というものの深い罪を表すにこの上なく効果的でしょう。本屋大賞にノミネートされていますが、ミステリー好きのみならず多くの人に読まれることを願います。 |