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ぷちレコードさん
平均点: 6.24点 書評数: 295件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.235 6点 怪談小説という名の小説怪談- 澤村伊智 2024/10/17 22:59
夜の高速を走る車の中での怪談披露、散歩する親子が遭遇した奇妙な家屋、田舎町の奇妙な風習に、夕暮れの学校で起きる陰惨な事件。現代らしい怪談を語るシチュエーションと、語りに仕込まれた小さな違和感を回収する手際で読ませる。
物語が存在すること、そして語ることの意味を浮かび上がらせる趣向が目立つ。特に筆を折った先輩作家から知らされた、存在も定かではない読んではならない小説を語る「涸れ井戸の声」、ある夏の海辺の出来事を多人数の証言から再構成する「怪談怪談」の2編は、ホラーでもありミステリでもあり、そして物語を論じた小説でもある。

No.234 6点 喜劇悲奇劇- 泡坂妻夫 2024/10/17 22:53
主人公が奇術師であり、奇術趣味を横溢している。だが、それ以上に言葉遊びの趣味の方が勝っており、奇術が見えないもどかしさを感じさせない。回文こそは、まさしく活字でしか表現できない趣向で、作者は小説の制約を逆手に取って遊びに徹している。
表題、小見出しはもとより、書き出しも結びの一行も回文になっている。そして物語は、回文名をもつ芸人ばかりが犠牲者となる奇妙な連続殺人で、回文づくしの趣向も極まった感がある。

No.233 6点 いけないII- 道尾秀介 2024/10/05 22:24
各編の最後に収められた写真によって、それまで記されてきた物語に潜む、表立って語られなかった部分が浮かび上がる。
写真は一枚であっと言わせるような仕組みではなく、写真と本編の文章とを突き合わせて、読者が読み解いていく必要がある。ただし、次章の中で前章の事件について語られて、隠された部分がある程度示されているため、前作に比べると親切な作りになっている。
難易度は下がった一方、個々の人物や背景の描写は前作以上に掘り下げられて、人間関係の歪みと残酷さ、そして悲しみが心に刺さる。

No.232 6点 陽だまりに至る病- 天祢涼 2024/10/05 22:18
「困っている人がいたら何かしてあげなさい」と常日頃、母親からそう言われていた小学五年生の上坂咲陽は、同級生の野原小夜子を家に連れ帰った。小夜子は近所のアパートで父親の虎生と二人暮らしだったが、失業中の虎生がいなくなってしまったからだ。だが帰宅した母親に言いだしかねた咲陽は、小夜子と二階の自室に住まわせる。おりしも町田のラブホテルで若い女性の殺人事件が起きていた。そのニュースを見る小夜子の様子や、彼女を捜しているという刑事の訪問などから、咲陽は虎生が事件に関わっているのではないかと疑問を抱く。
人間として大事な要素を欠落させたまま、無定見な「正義」を肥大させてしまった虎生。貧困によって身を売る女性と、彼女らを買う男たち。コロナ禍によってより鮮明にされた現実が、事件の背後から浮かび上がる。さらに咲陽と小夜子に培われたはずの「友情」の揺らぎと反転が、驚愕と感動を呼ぶ。

No.231 8点 殺人方程式- 綾辻行人 2024/09/23 22:23
トリックや雰囲気よりも論理面やゲーム性に重きをおいて書き上げた作品。
徹頭徹尾、論理的な謎解きを目指したというこの作品は、死体の首がなぜ切断されたのかという命題に解答が与えられることで、あらゆる謎、事象、設定が必然的に結びついていく。試行錯誤の末、残った数枚のピースで一気にパズルが組み上がるような感覚が心地良い。

No.230 7点 奪取- 真保裕一 2024/09/23 22:18
偽札造りをテーマにした軽いタッチの犯罪小説。
三部構成で、第一部は若者二人が銀行ATMを誤作動させる偽札造りに挑む。第二部では本格的になり、偽札造りの達人とその弟子が実物と見分けがつかない偽札を造るべくミツマタの木を植えるところから組み始める。第三部はその先、銀行やヤクザを相手に偽札の換金を行うさまを描いたコン・ゲーム小説。各部それぞれに独特のアイデアが駆使され、痛快な読後感が味わえる。

No.229 6点 ウェディング・ドレス- 黒田研二 2024/09/08 23:01
結婚式の当日、ウェディングドレス姿の花嫁は、家に忘れた結婚指輪を取りに戻るという花婿を送り出した。二十分後に再開するはずだったが。失踪、凌辱、猟奇殺人など様々な事件が主人公たちを襲うのだが、どこかおかしい。
女性視点の描写と男性視点の描写で著しい矛盾がある。しかし、序盤から丹念に張られた伏線を活かし、絵になるトリックの解明とともに、最後には筋を通す。
推理あり、潜入捜査あり、活劇ありという多様性も魅力。最後はタイトルに忠実に恋愛物語として着地する。

No.228 6点 有限と微小のパン- 森博嗣 2024/09/08 22:56
ゲームソフトメーカー、ナノクラフトが長崎で経営するテーマパークに女子大生グループが訪れる。死体消失事件があったばかりのテーマパーク内部で、彼女たちを待ち受けるかのように次々と奇怪な事件が続発。事件の背後には、主人公の女子大生、萌絵と因縁のある美人天才プログラマーがいる。彼女の狙いは一体何か。
萌絵とナノクラフトの若き天才社長が、古式ゆかしい許嫁であったり、萌絵と彼女のゼミを担当する教授、犀川とのあるのかないのかよくわからない恋愛関係、さらに喜怒哀楽を鼻の先を動かす程度にしか表現しない必殺理系ぶり、などサイドストーリーも楽しめるが、本書の焦点はもちろん謎解きにある。その謎についてに、あまりに大掛かりで意表をつかれ、理解を超えていた。

No.227 8点 黒い画集- 松本清張 2024/08/27 22:55
7編からなる中短編集で、どれもよく出来ている。その中から特に気に入った2作品の感想を。

「遭難」北アルプスの空気、雪の感触まで伝わってきて、読んでいるこちらまで登山をしているかのような思いを味わえる。鹿島槍ヶ岳で遭難があり、三人パーティのうち一人が亡くなる。やむを得ない事故に思えたが、生還者の手記をよく読むと。追い詰められていく犯人に感情移入してしまう。エンディングも思いがけないものだった。

「天城越え」アンチ伊豆の踊子小説である。「伊豆の踊子」とは反対のコースで天城越えしようとした少年が、恐ろしい運命と遭遇する物語。何とも巧みな反転。これは「伊豆の踊子」を知った上で読んでほしい。

No.226 7点 私という名の変奏曲- 連城三紀彦 2024/08/27 22:48
洋菓子屋の店員だった娘が交通事故をきっかけに美女に変身、世界的なファッションモデルとして成功するものの、虚飾に満ちた生活にやがて心が蝕まれ、自分が憎む七人の男女ひとりひとりに、自分を殺させようとする。
一人の女を七人が別々に殺すことになるのだが、もちろんそんなことは現実的に不可能。その不可能をどう可能にするのか。セバスチャン・ジャプリゾの「シンデレラの罠」のようなトリッキーな心理ものを髣髴させる作品である。

No.225 6点 キング&クイーン- 柳広司 2024/08/15 22:30
ある出来事がきっかけで警察を退職し、今は六本木のバーで店員兼用心棒として働いている元SP・冬木安奈のもとに、天才チェスプレイヤーのアンディ・ウォーカーの警護依頼が持ち込まれた。依頼人によると、彼は米国大統領から命を狙われているというのだ。
頭脳明晰でタフなヒロインの魅力、その彼女さえも翻弄するアンディ・ウォーカーの一筋縄ではいかない変人ぶりとキャラクター造型は印象的だし、彼らが繰り広げる頭脳戦は、緊迫感と知的スリルに溢れている。洒脱で、特にタイトルの真の意味が明らかになる終盤のどんでん返しは鮮やか。全てのエピソードが、ミステリとしての骨格に有機的に結びついている。

No.224 9点 99%の誘拐- 岡嶋二人 2024/08/15 22:24
犯人の男は、キーボードで身代金を要求する文章を打ち、それを女の声に電子合成する。それを他人のコードレス電話を仲介して送るので逆探知も不可能である。コンピュータに保存された証拠の記録はハッカーして隠蔽するわ、コンピュータの冒険ゲームに見せかけての被害者の少年をおびき出すわ、今や日常的になった機器を使いながらも、その組み合わせが実に鮮やかでアイデアの巧みさに感心する。
本書は、コンピュータ創世期からの歴史や、熾烈な企業間競争に触れていて、それが事件の真相に繋がる。犯罪の背後関係は、ハイテク犯罪の不気味な無表情さとは打って変わって人間臭く、読後は妙にしんみりした。

No.223 6点 カエルの小指- 道尾秀介 2024/08/03 22:39
「カラスの親指」の続編だが、単品でも十分楽しめるように仕上がっている。元詐欺師の武沢竹夫の現在は、その話術を実演販売という健全な仕事で活かして暮らしていた。ある日、彼の実績が山場を迎え、いざ客たちに財布の口を開かせようとした時のこと、一人の中学生が口を挟んできた。口上のリズムは崩れ、その日の商売は散々な結果に終わってしまう。武沢は再び詐欺の世界に回帰してしまう。
詐欺によって生活を破壊された者が、加害者を騙し返して復讐する。大枠はそのような騙し合いの物語である。だが作者らしい様々な捻りが加えられている。誰が誰を騙しているのか、目くるめく展開が実に楽しい。しかもそこに、家族や仲間といった糸が、心強いものも心を削るものも含め織り込まれていて、騙し合いが実に味わい深いものになっている。しかし、前作に比べてしまうと、こじんまりとしているのは否めない。

No.222 5点 虚魚- 新名智 2024/08/03 22:30
人が死ぬ怪談を集める女怪談師と、その実地検証役の同居人が、釣ると死ぬという魚の怪談の発生源を文字通り遡っていく。その調査と推理による追跡行は、怪異の様相が次第に変容し、意外な地点へとたどり着く展開まで含めてミステリ的だが、同時にルポ系怪談の手法そのものである。
なぜ怪談を追い求めるのかというホワイダニットが、怪異の実在を前提とした二重のハウダニットに重なる構図も面白い。

No.221 7点 あと十五秒で死ぬ- 榊林銘 2024/07/20 22:49
撃った犯人と被害者の一瞬の攻防。推理クイズドラマの見逃した短い時間でなぜあんな結末に至ったのか。繰り返される車中の夢の意味。首の着脱が可能な島民が住む地で起きた殺人事件など異様な状況ばかりの作品集。
第十二回ミステリーズ!新人賞佳作の「十五秒」をはじめ、収録された四作全てが、「十五秒で死ぬ」という状況を核にした物語になっている。どれも厳しい制約がある趣向なのに、展開には大きな紆余曲折があり、ニヤリとさせられるオチまでついている。デビュー作とは思えない出来。

No.220 6点 スイッチ 悪意の実験- 潮谷験 2024/07/20 22:43
心理コンサルタント・安楽是清が企画した心理実験、それは「純粋な悪意」をめぐる実験だった。参加者のスマホには「スイッチ」がインストールされ、押しても押さなくても報酬は手に入るが、押せば無関係な家族を破滅に追い込むという。押すメリットのないスイッチだが、実験の終盤で思わぬ事態が発生する。
まるでゼロ年代に流行した思考実験的デスゲームを彷彿させる設定だが、解決編では地に足の着いたロジカルな犯人当てが行われる。そのギャップ自体も本書の持ち味だが、推理の後に判明する犯人の動機、そしてこの実験の裏で起きていたことの真相が秀逸。

No.219 6点 火刑都市- 島田荘司 2024/07/07 22:36
社会派推理の要素が強い重厚な捜査小説だが、社会派にありがちな生硬さがないのは、ヒロインをめぐる叙情的部分もさることながら、極めてトリッキーな奇想に裏打ちされていればこそだろう。
ヒロインの寒子が終章で「私は、東京が怖かったです。いえ、今でも怖いけど」と言うように、そういう哀しく弱い人間を異常な行為に駆り立てたという点で、巨大都市の魔性が炙りだされる仕組みになっている。本書は、一種の東京都市論でもある。

No.218 8点 りら荘事件- 鮎川哲也 2024/07/07 22:31
秩父にある山荘に集まった8人の芸大生グループ。メンバーの間に複雑で厄介な人間関係が渦巻く中、トランプ札とともに男の死体が見つかり、学生たちは連続殺人事件に巻き込まれていく。
探偵の星影龍三が真相を語るや否や、複数の企みが絡み合う事件の構造が浮かび上がり唖然とさせられる。そしてこの物語に奥行きを与えているのが、若者たちの青春とその終焉のドラマだ。男女間の恋愛を巡る駆け引きと、芸術家としてのプライドの衝突。半ば狂乱的な学生たちの日々は、事件の解決とともに虚しい結末を迎える。優れた謎解き小説であると同時に青春小説としても優れている。

No.217 7点 危険な童話- 土屋隆夫 2024/06/26 22:27
地道な捜査活動の合間に童話の詩句が挟まれ、その対比の妙は鮮やかな印象を残す。また童話がトリックと不可分の関係にあり、読者に対して大胆な手掛かりを提示する機能を果たしている。
容疑者は一人だけにもかかわらず、結末の直前まで犯人捜しの魅力を失っていない。これが画期的な点の一つだが、もう一つユニークなのは通常、アリバイ崩しは犯行時のアリバイを主張するのに対し、この作品では犯行後のアリバイが問題になること。その他、凶器消失など多くのトリックが散りばめられていて、そちらに目を奪われているいると、こうした構成上のトリックは見えにくい。

No.216 5点 午前0時の身代金- 京橋史織 2024/06/26 22:19
女子学生を誘拐した犯人が10億円の身代金を要求するという事件を、被害者の法律相談に乗っていた新米弁護士の視点から描いている。
クラウドファンディングでの身代金要求という着想の妙に惹かれるのだが、それを実現するためのIT事業者の葛藤もスリリングに描いており、単に流行の素材を利用しただけで終わっていない。
誘拐事件を軸としつつも、次から次へと事件の様相が変化する展開もいい。最後の問い掛けも深く刺さる。

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ぷちレコードさん
ひとこと
中学生の頃、ミステリにはまった。でも続いたのは3年間ぐらい。今また、ミステリにはまりつつある。やっぱりミステリは最高だ。
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採点傾向
平均点: 6.24点   採点数: 295件
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