海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

ぷちレコードさん
平均点: 6.22点 書評数: 340件

プロフィール | 高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.340 7点 亡国のイージス- 福井晴敏 2026/10/07 23:07
イージスシステムを搭載した最新鋭の護衛艦いそかぜが、北朝鮮の工作員と結託して政府に反旗を翻した。しかも搭載ミサイルの弾頭には東京都民を皆殺しに出来る特殊細菌弾頭を装着している。
艦上という閉鎖空間に舞台を設定したため、緊迫したアクションシーンが展開される。また、如月、仙石、そして反乱の首謀者宮津艦長の三人の視点で描写されるため、内面描写がうまく書き分けられている。舞台立てや文体もさることながら登場人物たちの心情、特に戦う動機が丁寧に描かれているのも見事。北朝鮮工作員の哀しさ、仙石の船乗りの心意気、宮津艦長の父としての叫び。どれもぐっと来るものがある。

No.339 6点 川の深さは- 福井晴敏 2026/10/07 23:00
警察を退職して警備員として無為な日々を送っていた桃山が、わけありの少年少女を匿ったことから、警察や暴力団など様々な組織にマークされるようになり、過激派やカルト教団まで関係する巨大な機密をめぐる争いに巻き込まれていく。
スケールの大きさもさることながら、登場人物同士の不器用な心の交流が読ませる。毎日をなんとなく過ごす主人公、自衛隊、日本の周辺国家、特別に育成された「人間兵器」などのプロットはまさに作者の原点と言える。

No.338 5点 スペース- 加納朋子 2026/09/19 21:26
「スペース」では、駒子が友人に宛てた一連の手紙を瀬尾さんに見せる。作中の半分以上が占めるその手紙は、何の変哲もない近況報告のように見えるのだが、瀬尾さんはその裏に隠された驚くべき真実を看破する。
「バック・スペース」では、「スペース」に登場したまどかの視点で、前作での出来事がもう一度語られる。「スペース」では語られなかった部分が周到に計算されていたことが判明して、納得する。昔ながらの手紙を媒体にしたトリックを仕掛けている面白さがある。

No.337 6点 怒り- 吉田修一 2026/09/19 21:20
その人の過去や素性を知らずに人はどこまで大切な相手のことを信じられるか、という重いテーマを突きつけられる作品。
若い夫婦が八王子の自宅で惨殺され、犯人は逃亡して行方不明。その一年後、東京、千葉の港町、沖縄の離島に、身元不詳の三人の男がそれぞれ現れる。指名手配写真にどこか似ているこの三人の中に犯人はいるのだろうかという感じで、ぐいぐい読ませる。
相手のことを信じられないあまり苦悩し、信じていた相手に裏切られたことで慟哭する人物たちは、ゲイ、発達障害、未成年者など、いわば社会的に弱い存在である。こういったマイノリティの視点から描かれることによって、現代社会の問題がよりいっそう浮き彫りになっている。

No.336 5点 百鬼園事件帖- 三上延 2026/09/02 22:32
甘木は、ちょっとしたきっかけから大学教授で作家の内田先生と近しくなった。偏屈で無愛想な先生の周囲には時々、怪異な出来事が起きるが、やがてそれは深刻な危険へと甘木を引きずり込む。
怪奇幻想の分野においてもマスターの一人である内田百間を実際の怪異体験者として、主人公の名前をはじめさまざまな百閒作品モチーフを散りばめながら夏目漱石、芥川龍之介、長野初ら親しい者たちの死が落とすドッペルゲンガーとの作家的対峙を描いた作家論ホラー。

No.335 6点 雪月夜- 馳星周 2026/09/02 22:19
辺境の街を覆う深い絶望、厳しい自然。その中で露助船頭の息子と蔑まれながら育った幸司、ヤクザの息子ということで、白眼視され続けた祐司。憎しみ合っているが、お互いがお互いを必要としているという皮肉な関係。二人が再会を果たす時、街が狂気に染まっていく。
根室の荒涼とした大地は主人公の内面描写と重なって、作品に一層の厚みを持たせている。北海道の方言で交わされる会話がかえって暴力や残酷さを際立たせる効果を上げている。
信じられるものが何もなく、ただどこか今とは違う場所に、自分の居場所を求め、金を求め、狂奔し、堕ちていく主人公の姿は切ない。

No.334 7点 不夜城- 馳星周 2026/08/17 21:35
日本人と台湾人の混血である主人公・劉健一が、新宿歌舞伎町の混沌とした社会の中で、生き残るために奔走する姿を描いている。
中国マフィア幹部を殺害した元相棒を三日以内に見つけ出さないと、命の保証はないと脅された劉。彼は自分の身を守るため、組織を出し抜き、のし上がるための策略を巡り始める。そんな時に出会った運命の女。混乱する歌舞伎町で、人々の欲望が交錯する。
行間から歌舞伎町のすえた臭いが漂ってきそうな描写も魅力の一つではあるが、本作品の本質は別にある。自分がどこにも所属していないという実感から沸き上がる孤独感、恐怖感。誰とも分かり合えないことから起こる世界との断絶感、絶望。そして果ての無い欲望。人間の原初的な姿が、そこから浮かび上がってくる。

No.333 8点 沈黙の教室- 折原一 2026/07/31 21:50
物語は交通事故で記憶を失った男が、ある中学校の同窓会における殺人計画書を所持していたことから自分との関わりを調べていくくだりと、黒板メモや怪文書を使った陰険ないじめが横行するその中学校の二十年前の出来事が交互に描かれていく。
作者独自の多重構造で現在と過去、複数の人物を巧みに出し入れし引っ張っていく。連続殺人といじめの因果関係を主軸とする人間ドラマの顛末も面白いし、手記や新聞などの多彩な文体を駆使した叙述の仕掛けにも磨きが掛かっている。

No.332 5点 同級生- 東野圭吾 2026/07/31 21:46
野球部でキャプテンの西原荘一は、甲子園予選の前に同級生の宮前由希子が交通事故で死亡してしまう。彼女は西原の子供を身ごもっていた。
由希子の死が謎のメインとなるかと思いきや、それ以後不可解な事件が相次ぎ、サスペンスには事欠かない。作者が仕掛けた謎は察しがつきやすいし、その意味では謎解きの核心はトリックそのものより、物語から浮かび上がってくる複雑な人間関係の構図にあるといっていい。

No.331 6点 聖女の島- 皆川博子 2026/07/14 21:55
絶海の孤島にある更生施設の園長の要請を受けた修道女がその施設に赴くところから物語は始まる。
荒んでいるはずの施設を前に、明るく理想ばかりを語る謎の園長の物言いを追っていくうちに真相が分からなくなってくる。結局真実というものは、その人の信じた幻想に過ぎないのではないかという気にもさせられる。人間の心の奥底に潜む狂気を題材にしたサイコサスペンス。

No.330 7点 ダイナマイト円舞曲(ワルツ)- 小泉喜美子 2026/07/14 21:50
花嫁修業中の「わたし」がパリに入学していた時の親友クレマンティーヌに招待され、ヨーロッパの小国、ロンバルト公国を訪ねる。クレマンティーヌは大公にみそめられ、大公の八人目の妻になる。以前の妻たちは謎の死を遂げており、また王宮内の電話の混線から不可解な暗号を聞いてしまう。
王宮や舞踏会、王族、貴族、執事といったおとぎ話的舞台を設え、そこに魅力的な登場人物を配し、その背後でうごめく陰謀は現実的という状況に物語は広がりを見せる。丁寧な伏線が張られ、あらゆる謎がラストで見事に解き明かされるのは、まさにミステリの醍醐味を感じさせてくれる。

No.329 7点 球形の季節- 恩田陸 2026/06/30 21:11
東北の小都市を舞台に高校生の間で流行る奇妙な噂を調べていく生徒たちの話。
坂井みのりを始め市内数校合同のサークル地歴研のメンバーは噂を調査した結果、その出所が谷津地区にあることを突き止める。一方のみのりは噂だけでなく、金平糖を使った呪いが流行っているのにも気づくが、やがて噂通りに女生徒が失踪を遂げてしまう。
少年少女のナイーブな心理を浮き彫りにした濃やかな筆致で古風な青春小説調の前半もさることながら、超能力少女の苦悩、美少年の陰謀、超自然現象の謎など、オカルト趣向を効かせた中盤のサスペンス演出が素晴らしい。

No.328 6点 ぼくのミステリな日常- 若竹七海 2026/06/30 21:04
冒頭の「桜嫌い」は「ぼく」の同僚がアパートの火事に巻き込まれた一件を描いた謎解きものだが、次の「鬼」は心理サスペンスもの、次の「あっという間に」は再び謎解きものに戻るがこれは暗号もので、次の「箱の虫」は人間消失ものといった具合に、同じ謎解きものでも様々なテーマを用意して味わいを異にしている。残りの作品もホラーあり、叙述トリック者ありと作品ごとに趣向を変えている。
表現豊かな情景描写、多彩な人物設定、生き生きとした会話、二重構造の物語を巧みに生かしたトリックなど、デビュー作とは思えない出来栄え。

No.327 5点 孤独の歌声- 天童荒太 2026/06/15 21:33
多摩川沿いの住宅地で連続発生するコンビニ強盗と女性監禁殺人の行方を、ロック少年と若き女性刑事、サイコキラーの三人の視点から描き出している本書は、青春成長小説とサイコスリラーの要素を巧みに融合させた異色サスペンスである。
コンビニで夜勤をしながら作曲に打ち込む少年と監禁殺人の捜査に執着する女性刑事の交情からは作者独自の持ち味が窺える。その意味では堅実な仕上がりを見せているが、サイコスリラーとしては監禁殺人とその犯人像のディテールにもうひと工夫欲しかった。

No.326 6点 明治殺人法廷- 芦辺拓 2026/06/15 21:25
明治二十一年を舞台に、推理小説的な常識や警察の科学的捜査どころか、司法制度すら曖昧な当時の状況で、いかにして論理的な推理をベースにしたリーガルミステリを描き切るかに挑戦している。
綿密な取材で当時の人間のリアルな反応を活き活きと再現している。加えて現代の諸問題にもそのまま適用できるような鋭い社会的課題への希求も熱い。

No.325 5点 暗獄怪談 或る男の死- 鷲羽大介 2026/05/31 21:44
よくある怪談実話系の体裁であるが、手触りが違う。友人の祖母の遺品を巡る顛末「或る男の死」、この世のものではない不気味なものが襲いかかる「押し入れの中」など、怪談作家の聞き書きで従来の怪談に近いが、全体的に冷めている。怖がらせるというよりは、怪異からの人間の真実を照射しようとする眼差しが強い。
真っ黒い尿がある事実を示す「墨汁のような」、虎と喚起させる深層意識の熱情「美しきランナー」、そこにある死の予感「小鳥にひかれて」など幻想的で象徴的で、何ひとつ説明がないゆえにイメージが脳裏に焼き付く。

No.324 7点 ファラオの密室- 白川尚史 2026/05/31 21:37
背景となる時代は紀元前十四世紀。主人公は変死体となって発見され、ミイラにされた神官のセティ。だが心臓に欠けた個所があったため冥府の裁きを受けられず、ミイラ姿のまま地上に舞い戻ってきた。セティは自分が死んだ事件の真相に辿り着けるのか。
セティの死以外にも、解くべき大きな謎が存在する。先王アクエンアテンの遺体が密室状態のピラミッドから消失した大事件だ。アクエンアテンといえば、太陽神アテンを唯一の神を定め、他の神々への信仰を禁止した異端の王として知られるが、アクエンアテンの死の直後という時期でなければ成立しない点であり、歴史ミステリとして極めて野心的な試みといえる。古代エジプト特有の宗教観と密接に関連した特殊設定も謎解きに不可欠な要素となっており、専門知識をわかりやすく語る筆致も見事である。

No.323 5点 星くずの殺人- 桃野雑派 2026/05/19 21:08
二〇××年、一人三千万円という破格の宇宙旅行が始まった。宇宙ホテル「星くず」では、正式開業を前に六人の参加者によるモニターツアーを企画。しかし開始早々、事件が発生する。無重力のはずの部屋で、首吊り死体が発見されたのだ。開業前胃のイメージ悪化は避けたいが、死体を放置するわけにもいかず、添乗員の土師は苦悩する。
宇宙空間ならではの謎に始まり、通信途絶、船外活動、スペースデブリなど、次々と襲うサスペンスも緊張感たっぷり。曲者ぞろいのツアー参加者たちの背景も徐々に明らかになってゆき、様々な駆け引きを含むサバイバルものでもある。

No.322 6点 半暮刻- 月村了衛 2026/05/19 21:01
会員制クラブに勤める山科翔太と辻井海斗は、女性客を騙して借金まみれにし、風俗店に落としていたが、ある日警察の摘発にあう。だが逮捕され実刑に服したのは翔太だけだった。
児童養護施設で育ち、少年院に入ったことがある翔太と、経産省のキャリア官僚の息子である海斗。第一部では翔太が自らの罪と向き合い、第二部では広告代理店に就職した海斗の罪を捉えていく。ヤクザは暴力団対策法に縛られるが、半グレはカタギの世界に身を置きながら、法の隙間で好き勝手が出来る。代理店勤務のエリート社員でも犯さざるを得ない合法的な犯罪。「日本社会の闇と本物の悪をえぐる」という帯が、ひしひしと迫る社会派サスペンス。

No.321 5点 留萌本線、最後の事件 トンネルの向こうは真っ白- 山本巧次 2026/05/07 22:33
JR北海道、留萌本線は赤字路線の一つだが、その廃止が決定した近未来という設定で書かれている。運命の日が間近に迫った列車を爆発物を手にした男が占拠する。運転手と乗客を人質にとった犯人は、交渉役として廃線に一役買った道議会議員を要求した。
ローカル線とハイテクを駆使した犯罪の取り合わせに意外性があっていい。合理性を追求すれば何かが必ず犠牲になるが、それによって喪われることもあると、作者は警告を発している。

キーワードから探す
ぷちレコードさん
ひとこと
中学生の頃、ミステリにはまった。でも続いたのは3年間ぐらい。今また、ミステリにはまりつつある。やっぱりミステリは最高だ。
好きな作家
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 340件
採点の多い作家(TOP10)
伊坂幸太郎(13)
道尾秀介(10)
東野圭吾(9)
歌野晶午(6)
芦辺拓(6)
米澤穂信(5)
真保裕一(5)
有栖川有栖(5)
島田荘司(4)
鳥飼否宇(4)