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◇・・さん
平均点: 6.03点 書評数: 191件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.131 7点 かくして彼女は宴で語る 明治耽美派推理帖- 宮内悠介 2023/08/08 19:43
本書の着想の土台は、アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズ。
レストランに集まった男たちが、ゲストの話に潜む謎について議論を交わすものの、いつも真相を言い当てるのは、給仕のヘンリーだった、というパターンの短編シリーズ。
この形式の物語を、明治期に実在した芸術家の集まり「牧神の会」を舞台に描いて見せるのが本書である。謎を解き明かすのは女中・あやの、というところも原点を踏襲している。
史実に寄り添った作りだけに、最終章の大胆な飛翔が心に残る。ミステリという枠組みから、明治とその先の時代を、そして美と社会を照らし出している。

No.130 7点 父を撃った12の銃弾- ハンナ・ティンティ 2023/08/08 19:38
犯罪小説と恋愛・家族・青春小説の輝かしい融合。
各地を転々としてきたホーリーと娘のルーが、娘の亡き母親リリーが生まれ育った町に移り住む場面から始まり、二人に会おうとしない母方の祖母との関係にも触れて、過去へと向かう。ホーリーとリリーとの出会いと恋愛、ルーの誕生からの家族物語、ルーの成長と青春模様などが、ホーリーの体に刻まれた被弾の記録とともに情感豊かに捉えられる。鮮やかな風景の中に心情が詩的に投影され、ギャングたちの銃撃戦ですら、時に荘厳な響きをもち、胸を激しく打つ。

No.129 5点 こうして誰もいなくなった- 有栖川有栖 2023/08/08 19:31
互いに見知らぬ男女の心中計画が意外な方向に転がる「劇的な幕切れ」や楽しい乱歩のパロディの「未来人F」などもいいが、やはりもっとも読み応えがあるのは、本書のうち約三分の一を占める表題作。孤島に呼び集められた九人の男女。彼らの過去の罪業を告発し、命を奪うと宣告する招待主の声。そして、九人は次々と何者かによって殺害されてゆくという展開は、クリスティーの「そして誰もいなくなった」をなぞっているかのようだが、原点を知っていても真相を見抜くのは難しいだろうし、、ミスリードも巧妙。中編なので、やや強引に詰め込んだ印象があるのが惜しまれる。

No.128 6点 無縁旅人- 香納諒一 2023/07/19 20:36
西武新宿線下落合駅のほど近いマンションの一室で、十六歳の少女の変死体が発見されるが、彼女はその部屋の住人ではなかった。やがてインターネットのコミュニティ・サイトを通じた男女関係や援助交際、ネットカフェ難民の実態等が明らかになる。デカ長の大河内茂雄をはじめ、捜査にあたる強行犯七係の面々も当初はまごつくが、被害者の義母の遺産を巡るトラブルや被害者と元カレの因縁を手繰っていくうちに、犯罪絡みの背景が浮かび上がってくる。
前作は猟奇殺人の捜査を軸に警察組織の闇まで捉える作品だったが、今回は捻り技を利かせた端正な仕上がり。現代の社会問題をえぐり出す辛口タッチ、悪事を赦さぬ大河内の硬派ぶり等、どれを取っても捜一ものの正統を往く。

No.127 7点 アリスが語らないことは- ピーター・スワンソン 2023/07/19 20:28
父親の死を不審に思った大学生の主人公ハリーとその美しい継母アリスを巡る物語。アリスの過去が次第に明らかになっていくとともに、意外な犯人が浮かび上がってくる。
作者の第四作にあたる長編だが、現在と過去を交互に描くことで生まれるサスペンスやプロットの捻りだけではなく、印象的な土地の風景描写、陰影の深い人物の登場など、これまでにない風格を感じさせられた。

No.126 6点 鷺と雪- 北村薫 2023/07/19 20:23
昭和初期を舞台に、土族令嬢とそのお抱え女性運転手を主人公とするシリーズ第三作。
神隠し、深夜の少年の彷徨、不在の人物が写った写真。不気味で、しかしどこか懐かしい謎の事件が、小気味よく鮮やかに解明される。しかし、合理的な謎解きの後も、人間の心のえもいわれぬ不思議が豊かな余韻を響かせる。
妙齢のお茶目で魅力的な少女が語る現代の「半七捕物長」といった趣もあるし、その裏に戦争に向かう日本近代史の闇を凝らせる巧みさだ。

No.125 6点 真夜中の五分前- 本多孝好 2023/06/29 21:58
小さな広告代理店に勤める「僕」は、六年前の二十歳の時に、恋人の水穂を交通事故で失い、それ以来女性と真剣な付き合いが出来なかった。そんな折にあるプールで、一卵性双生児の片割れのかすみと出会う。「僕」はかすみの相談にのるうちに、次第に彼女に惹かれていく。
という紹介をすれば恋愛小説に思うかもしれない。事実サイドAの最後には、恋愛小説としてのクライマックスがある。しかしサイドBに移り、世界は転調する。約二年後に始まる物語では「僕」の仕事も、脇役の配置もガラリと変わっている。A面で伏せられていたカードを少しずつ明らかにして、何ともスリリングな物語を運んでいく。
恋人を失った男の物語は、ふつう再生へと向かうけれど、この作品はその方向性を取らない。それでも「僕」は少しだけ救われるという形が提示される。静謐な時間に支配された、切なくもエモーショナルな物語。

No.124 6点 希望のかたわれ- メヒティルト・ボルマン 2023/06/29 21:44
看護師のヴァレンティナは事故の際、重度の被曝者を目撃する。事故の影響で、彼女の家庭もまた壊れていく。さらに、彼女の母がナチ時代にドイツに強制連行され、売春までさせられていたことも徐々に判明する。そして、ドイツ留学に夢を託した娘まで行方不明になり。
ヴァレンティナの運命はあまりに酷だが、物語はドイツとウクライナを往還し、ドイツの闇社会も浮かび上がってくる。人道を重んじる国ということで、現在は難民が押し寄せているドイツ。しかし、そんなドイツにも負の側面はあるのだ。
本書のタイトルは、かなり意味深だ。希望を持ち続ければ報われるという単純な構図ではなく、根拠のない希望が判断を狂わせる場面も描かれている。そのうえ、ウクライナの民主化が挫折していく様子も遠景に見えてくると、希望の所在について考えこまされることにもなる。そんななかで、希望を感じたのは警察を停職になりながらも行方不明の捜索に赴くレオニードの姿だった。一人の人間の熱意が、事件解明につながっていく。原発再開への警鐘にもなっている。

No.123 6点 マトリョーシカ・ブラッド- 呉勝浩 2023/06/29 21:32
薬害による死亡事件とその隠蔽。それが話の中心だが、五年の時間を置いた連続殺人事件は、様々な人々の愛情が絡まって複雑に展開する。
警察官という職業は難しい。悪を暴いて世に正義をもたらすというのは大義名分。実際の現場では、権力闘争あり、上の都合でもみ消されるものもあり。この矛盾に直面して、自分が正しいと思うことをどうやって貫くか。
人間に誤りは必ずある。そこから出発すべきなのだ。それを隠そうとするとまた別の誤りを導くことになり、と誤りの入れ子構造になる。その葛藤が良く描かれている。

No.122 4点 死刑宣告- ウィリアム・J・コフリン 2023/06/11 20:42
裁判官として活躍する傍ら十五冊の小説を執筆し、六十歳で急逝した作者の最後の作。
おそらく作者は、法曹界の内幕をリアリスティックに描きたかったのだろうが、サイドストーリーがあまりにも多すぎて、全体的に焦点の定まらない作品になっている。読んでいる側としては、ストーリーがどこに向かっているのか、時としてわからなくなるほどだ。
結局、読み終わってみれば、お忙しい弁護士の奮戦日記といった印象しか残らない。

No.121 6点 女性判事- ナンシー・テイラー・ローゼンバーグ 2023/06/11 20:36
ラーラは、十一年間検事を務めたのち二年前、判事に任命された。正義感の強いラーラは、厳格な判決を下すことで知られていた。刑期はなるべく長く、罪状は出来るだけ重くするという評判であっ学た。学生暴行殺人の控訴取り下げを認めた時から、身辺に次々と異常が起こり始める。
家庭の崩壊、暴力犯罪、幼児虐待、売春、性的倒錯といった米国の病める米国の社会を浮き彫りにするとともに、それを支えるはずの法制度の矛盾や法の執行者の不正という問題にも鋭くメスを入れた意欲作だ。

No.120 6点 殺人容疑- デイヴィッド・グターソン 2023/06/11 20:28
アメリカ・ワシントン州にある人口五千人の小さな島を舞台にした白人と日系人の二世代にわたる愛憎と自然の織り成す妖しい美しさを精緻なタッチで描いた文学作品である。
濃霧の中、一人の屈強な刺し網漁師カールが漁網の底から死体で発見された。死体の頭部には平らなもので強く打たれた形跡が見受けられた。
真珠湾攻撃の後の日系人の悲しい差別の現実を、作者は多数の資料を集め丹念に描いている。戦場で戦い、深い精神的な傷を引きずった登場人物の心理を深く掘り下げて描かれている。最後は偏見を捨てて正義とは何かを据えて行動する勇気は、アメリカの建国精神がまだ健在であることを思わせる。

No.119 6点 ジェイムズ・ジョイス殺人事件- バーソロミュー・ギル 2023/05/15 19:23
ダブリン随一のジョイス学者コイル教授が「ブルームの日」祝賀の催しのあとで殺された。捜査に乗り出すのはダブリン警察殺人課マッガー警部。事件の鍵は「ユリシーズ」にありとコイルの友人たちはほのめかすが、そんな本など読んだこともない警部は独自の捜査を続ける。
十八の挿話で構成される「ユリシーズ」に準じて十八章から成る本書は緻密な推理小説だが、それに加えてジョイス論ベケット論をまくしたてるダブリンに知識人たちの道化じみた言動はなんとも秀逸で、あの都市特有の奔放な知的風土が醸し出す軽妙・皮肉な笑いは痛快極まりない。

No.118 6点 怪談- 小池真理子 2023/05/15 19:16
七編の怪談を集めた短編集。衣服の持ち主を探しているうちに現実感覚を失う「カーディガン」、病死した妻と触れ合う「ぬばたまの」、息子の結婚式で出会った男が誰であるかに気づく「還る」の三作が特に見事。
人も霊もみな温かな感情を抱き、時に歓喜し、時に絶望する姿が切ない。実に怖く悲しく、時になぜか喜ばしい。

No.117 4点 テイクオーバー- スティーヴン・W・フライ 2023/05/15 19:10
本書は、アメリカの現役金融エリートが、その豊富な知識と経験をベースに書き下ろした経済スリラー。専門用語を駆使し、しかもその仕組みをわかりやすく示しあたりは、さすが餅は餅屋というべきか。フリー・メイスンを想起させるハーバード大OBの秘密組織という着想も悪くない。ただ人物造形は類型的。また、あれだけ緻密な計画を推し進めた七人同盟の陰謀が、素人のファルコン一人によって振り回され破産するというのは、いかにも劇画的。
ダイナミズムに、リアリティがついていけない結果となったようだ。

No.116 5点 用心棒- デイヴィッド・ゴードン 2023/04/14 20:37
ニューヨークのストリップクラブの用心棒ジョーは、ハーバード大を中退したインテリ崩れで、元陸軍特殊部隊員。物静かだが腕っぷしはめっぽう強く、もめ事を鮮やかに解決してしまう。そんな出来すぎなタフガイが思いがけない事件に巻き込まれ、手に汗握る冒険活劇が繰り広げられる。
厳重に警護されたお宝を強奪するために様々な特技を持つメンバーが集まったり、敵同士であるFBIの女性捜査官と主人公にロマンスが生まれたり、昼日中のショッピングモールで追跡劇が展開したり。映画か何かで見たことがあるような場面が次々出てくる。
緊張感と脱力感のブレンドがいいさじ加減の痛快エンタメ小説

No.115 5点 ダウン・バイ・ロー- 深町秋生 2023/04/14 20:30
強い者は富み、力を持たない者は見捨てられる、徹底的に弱肉強食を極めた非情な土地で、ぶっきらぼうな物腰の内に獣のような激しい意志を秘めた少女、響子の孤独な冒険が描かれる。とはいえ、次第に明らかになってくる事件の背景は、ほとんど紋切り型と言っていいもので、いつかどこかで読んだことのある物語や、いつかどこかで実際にあった事件を思わせ、必ずしも驚かされるようなのものではない。
だがむしろ、この驚きの欠如こそが、この小説の奇妙な魅力といってもいい。読後に残された既視感こそ、今現在の日本のリアルという気がしてくるのだ。

No.114 4点 埋もれた真実- ジェイムズ・ガブリエル・バーマン 2023/04/14 20:23
超高級住宅地ホータケット・ベイの広大なカーヴァー邸で、一家四人の死体が発見された。最初は無理心中事件と思われたが、半年後、トニー・マクマーンという青年が殺人容疑で逮捕された。
確かに才能のきらめきが随所にみられるが、才気に走りすぎた感もあり、やや薄っぺらい印象。出口が見つからないトニーの心理の迷路と、弁護士バローロとのやり取りが、交互にカットバックされる構成は効果的。少年の切ない恋心が傷ついていく過程は細やかに描写されている。また、真実なんてものはない、あるのは物語だけだと豪語する弁護士バローロの存在も、シニカルな味割で面白い。だが、完成度の点ではいまだしの感がある。

No.113 6点 幻の標的- デイヴィッド・E・フィッシャー 2023/03/25 19:15
かつてCIAや外国の情報機関のために仕事をしてきたウォルター・ナーマンは、引退した現在では、その経験を生かして身辺警護に関するコンサルタント会社を営んでいた。そんな彼のもとを長年の友人であるクラウス・フォアシャーゲが訪れたのがすべての始まりだった。
スパイ小説の魅力の一つは、彼らが垣間見せるテクニックにある。暗殺術や尾行を巻く方法といった具体的なものから、独自の哲学やスパイであることの孤独感までも含めたある種の処世術のようなものに惹かれる。作者はそれをよく理解しているようで、ツボを押さえた安心して読むことが出来る作品に仕上がっている。
現役を引退した初老のスパイであり、強制収容所での経験によって閉所恐怖症になってしまっているナーマン、全身脱毛症のメルニック、妻が浮気をしているのではないかと疑心暗鬼に陥ってしまったヘイガンといったような丁寧に描写された登場人物たちは十分魅力があり、そのことがきわどい話に小説としてのリアリティーを持たせることにもなっている。ラストがいささか弱く、尻すぼみの印象を与えてしまった欠点があるものの、それ以上に読み応えのある作品だ。

No.112 5点 目には見えない何か- パトリシア・ハイスミス 2023/03/25 19:04
あらゆるミステリ作家の中でも心理分析に長けた一人である。作者は人間の心理と行為を可能な限り論理的な連関の中で描き出す。しかし、ぎりぎり最後の瞬間に論理による説明を放棄して、人間の心の底知れぬ不可解さへとジャンプする。その目くるめく飛躍が彼女の小説の醍醐味だ。
ミステリに限らぬ題材の幅広さと、この作者の人間理解を凝縮した形で楽しむことが出来る。冷徹な長編とは異なり、読者の心は温かさに包まれる。

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ひとこと
若い頃に海外の有名古典は、ほとんど読んだ。今現在は、斜め読みというかたちで、再読している。
歴史的価値は、多少考慮しながら採点したいと思いいます。
好きな作家
クリスティー
採点傾向
平均点: 6.03点   採点数: 191件
採点の多い作家(TOP10)
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アガサ・クリスティー(7)
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