皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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zusoさん |
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| 平均点: 6.17点 | 書評数: 284件 |
| No.124 | 7点 | 噂- 荻原浩 | 2022/12/12 22:32 |
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| 口コミを使った香水の販売戦略によって都市伝説化した、ひとつの噂が連続殺人を生み出す。主人公は犯人と戦うと同時に「獣」とも戦うことになる。そして犯人は捕まってもかたちのない「獣」は捕まらない。
この二重性が結末の鮮やかなどんでん返しを支えている。衝撃のラスト一行に驚いた。 |
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| No.123 | 5点 | 遺品- 若竹七海 | 2022/12/12 22:21 |
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| 死せる佳人の妖影たゆたう洋館というゴシック・ロマン本流の設定による怨霊譚かと見せかけて、最後に意想外の真相を用意した構成は、実に鮮やか。ホテルをめぐる人間模様もよく書き込まれている。ただし、エンディングは賛否分かれるかもしれない。 | |||
| No.122 | 7点 | 盤上の夜- 宮内悠介 | 2022/11/27 23:11 |
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| 囲碁や将棋など対局ゲームをテーマにした奇想短編集。
この分野は近年コンピューターによる解析が急激に進んできた。ゲームという機械向きの「演算の山塊」に、生身で立ち向かう人間の苦しみと狂気が色濃く漂う。表題作では、四肢を切断された少女が囲碁棋士となり、碁盤を介して新たな感覚の世界を構築しようとする。 作者は元プログラマーだが、麻雀のプロを目指したこともある。三人の男たちが我欲を混乱させようとする「清められた卓」は、さすがに勝負へのアヤへの洞察力が深く秀逸だ。 |
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| No.121 | 6点 | 夕潮- 日影丈吉 | 2022/11/27 23:02 |
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| 伊豆諸島のくすんだ風光を背景に、二十余年を経て再現される奇怪な水死事件を、内向的な新妻の目を通して描いた異常な心理小説。
ベックリンの絵画から抜け出してきたような女流歌人の妖艶さと不気味さが、読後も忘れ難い印象を残す。 |
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| No.120 | 9点 | 方舟- 夕木春央 | 2022/11/14 22:47 |
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| 猛烈な勢いで浸水が始まっており、脱出のタイムリミットはおよそ一週間。それまでに生贄を決めようとしていた矢先、一人が殺される。一体こんな時になぜ?
タイムリミット付きの密室。それだけでミステリ好きの心をくすぐるのに、事件の謎を解いた先に衝撃が待ち受ける、最凶のエピローグ。 フーダニット、ホワイダニットともに楽しめる。本格ミステリとしてとても優秀。方舟というタイトルには何重にも意味があるのではと考えてしまう。 |
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| No.119 | 5点 | 希望と殺意はレールに乗って アメかぶ探偵の事件簿- 山本巧次 | 2022/11/14 22:39 |
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| 一九五七年、南信州の清田村の村会議員が東京で何者かに殺害され、政治献金を奪われたという事件。
複雑かつ秘密めいた人間関係から情報を引き出せるのは、アメかぶと呼ばれる城之内の遠慮を知らない態度と、旧領主のお嬢様という真優の立場の強さがあればこそ。小さな村の出来事ながら、登場人物が時代の大きな流れと無縁ではなかったことを点描する最終章の余韻が味わい深い。 |
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| No.118 | 5点 | テュポーンの楽園- 梅原克文 | 2022/11/03 22:26 |
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| 織見奈々を中心に、自衛隊や警察がテュポーンと呼ばれる怪物と闘う物語。
舞台となるのは、安須という人口九百人ほどの町。この限られた場所での戦闘を圧倒的な迫力で描きつつ、怪物の成り立ちや存在意義などを徐々に明かしていく手つきは鮮やか。強大な敵と戦うための知恵、さまざまな知識に裏打ちされた知恵でも愉しませてくれる。 |
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| No.117 | 6点 | 護られなかった者たちへ- 中山七里 | 2022/11/03 22:16 |
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| 生活保護受給を中心とした社会福祉の問題点を核として進むストーリー展開に気を取られ、見事に騙された。予想外のラストである人から語られるメッセージが胸に突き刺さり、心から離れない。 | |||
| No.116 | 6点 | 風神の手- 道尾秀介 | 2022/10/17 23:09 |
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| 三つの中編とエピローグ的な短編一つという作品集。
第一話では夜の鮎漁をモチーフに、二十七年前の恋心と殺意、そしてその想定外の顛末が描かれる。続く第二章では小学生コンビの冒険が、さらに第三章ではある脅迫事件が語られる。そしてこの三つの物語を併せ読むことで、巧妙に散りばめられたエピソードの数々が結び付き、それぞれがまた別の意味を持つことを知り、そして一陣の風が多くの人生にどう影響を与えたかが見えてくる。最後の短編も含め、心に刺さる良い物語を読ませてもらった。 |
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| No.115 | 7点 | 義経号、北溟を疾る- 辻真先 | 2022/10/17 23:01 |
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| 明治天皇を乗せた蒸気機関車を巡る冒険小説。
予定に反して夜汽車になってしまったという史実を活かし、そこに新選組の残党や清水次郎長の子分、あるいは狼に育てられた少女を配置して列車襲撃の攻防を描き、さらに不可能犯罪の謎解きを加える。キャラクターもいいし疾走感もいい。北の大地を轟音とともに疾る蒸気機関車の迫力は、ベテラン鉄道マニアの作者ならでは。 |
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| No.114 | 5点 | 不思議絵師 蓮十- かたやま和華 | 2022/10/06 22:18 |
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| 描いた絵が動き出す特殊な能力がある絵師の蓮十を主人公にした連作集。収録作の完成度にバラツキはあるが、蓮十が刺青の下絵を描いた火消しの周囲で放火が連続する「桜褪」は、超常現象が起こることを前提にした謎解きとして高く評価できる。 | |||
| No.113 | 8点 | 新宿鮫- 大沢在昌 | 2022/10/06 22:11 |
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| 拳銃密売犯を追う防犯課の鮫島警察部の捜査活動と、警察官殺害事件を追う捜査本部の活動を、同時進行的に描いていく警察小説。
冒頭からラストまで、目一杯に緊迫感がみなぎっており、ストーリー構成から人物造形に至るまで素晴らしい。 |
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| No.112 | 7点 | 白光- 連城三紀彦 | 2022/09/17 22:40 |
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| 本書が優れているのは、多重解決が解釈ゲームにとどまらず、家族や夫婦における人間関係の空虚さを背景とすることで、推理や解決がそのままキャラクターを際立たせる要素となっている点にある。
推理とは、他者意識とナルシシズムを前提としなければ成り立たないことを、見事に描き切っている。 |
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| No.111 | 6点 | 未完成- 古処誠二 | 2022/09/17 22:36 |
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| 舞台となる島はある種、意識の上でのクローズド・サークルになっている。自衛隊の基地があることによって島の中で思い込まれていることがあり、そういう部分で動機を設定している。
メルヘン的にではなく、ジャーナリスティックな問題設定で、独自の論理が特定地域を支配しているという状況を描き得た点を評価したい。 |
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| No.110 | 7点 | 火蛾- 古泉迦十 | 2022/08/29 22:42 |
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| 第十七回メフィスト賞を受賞した異色作。蠟燭の炎が揺れるテントで物語られる話は、果たして現実なのか幻想なのか。
殺害方法、動機、そして真犯人など、本格ミステリにおけるロジックが、イスラム教などの宗教観念に支配された世界に従属して展開される。そのさまは実にスリリング。 |
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| No.109 | 6点 | 裂けて海峡- 志水辰夫 | 2022/08/29 22:39 |
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| 作者ならではの感傷や抒情といった面はもちろんのこと、日本の小説ではあまりお目にかからない上質なユーモアが作品に散りばめられており、キャラクター造型や見事な文章と相まって、痛快かつ感動的な物語を創り出している。 | |||
| No.108 | 6点 | パレード- 吉田修一 | 2022/08/17 22:47 |
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| 東京都内のマンション。4階の2LDKの部屋に男女の若者たちが暮らしている。最初は4人、途中から5人になる。その住人たちが順々に語り手となって物語は進む。
複数の視点から見る出来事や人物は立体的。一方で、誰も同じ景色を見ていないことに気づく。誰もが「本当の自分」を見せず、出来事や人物の解釈にも、ずれがある。真実はどこか曖昧で、読んでいくうちに真実から遠ざかっていく気さえする。 そんな若者たちが暮らすこの部屋では、上辺だけの付き合い。だからこそ悪意や残虐さがどこかに蓄積され、増幅していくのかもしれない。そして、ある事件をきっかけに、この空間のいびつさがあらわになる。 そして人間のグロテスクさが閃光を浴びるよう一瞬、映し出され日常の奇妙さと底知れぬ怖さが浮かび上がる。 |
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| No.107 | 5点 | 雨と短銃- 伊吹亜門 | 2022/08/17 22:36 |
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| 前作「刀と傘 明治京洛推理帖」の前日譚。
物語の舞台は、幕末の京の都。犬猿の仲である薩摩藩と長州藩に協約を結ばせるため、坂本龍馬が動いていた。だが稲荷神社の境内で、薩摩藩の菊水簾吾郎が、長州藩の小此木鶴羽を斬り、重傷を負わせるという事件が発生。しか簾吾郎は、逃げ場のない鳥居道から、忽然と姿を消した。この件で竜馬が頼ったのが、尾張藩公用人の鹿野師光だ。仕方なく依頼を受けた師光は、簾吾郎の行方を追ううちに、意外な真相にたどり着く。 師光が探偵役となり不可解な事件に立ち向かう。鳥居道での人間消失の真相は、やや肩透かしだが、首なし死体の件の真相は鮮やか。その時代その場所だから成立するトリックに感心させられた。 |
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| No.106 | 6点 | 聖域- 大倉崇裕 | 2022/08/01 22:17 |
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| 異世界のような高山(聖域)には、下界とは異なる空気が流れている。作者が愛情をこめて「山屋」と呼ぶ限られた人間の限られた世界は、それだけでミステリアスだが、その異世界で起きた死も、やはり下界で謎を解いていくしかない。心に傷を持つ主人公が丹念に真相を追っていく過程に引き込まれた。 | |||
| No.105 | 5点 | 東京ダモイ- 鏑木蓮 | 2022/08/01 22:13 |
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| 終戦後のロシアの捕虜収容所内で起きた殺人事件が、現代の日本で解決するという作品だが、凶器トリックのみならず、現代ミステリでは難しい暗号トリックを扱っており、トリックだけが際立つといいうこともなく、無理なく自然にまとめられている。
伏線の扱いもよく、キャラクターもそこそこ描写されており、デビュー作としてはまずまず。 |
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