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ことはさん
平均点: 6.20点 書評数: 288件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.208 7点 殺人展示室- P・D・ジェイムズ 2023/11/13 00:38
出だしの第1部では、例によって、事件発生前の関係者が、だいたいひとり1章かけて、じっくりと描かれる。濃密な描写でひとりずつキャラを立てていくのは、いつものジェイムズ節だ。
事件発生後の第2部では、事件関係者のひとりひとりを、ダルグリッシュ・チームのメンバーが訪ね歩く。ここは私立探偵小説のようで、なかなか楽しい。関係者が一堂に会する設定ではないので、ロンドンの街を訪ね歩くのだが、その街がそれぞれ個性があり、ロンドン探訪記の趣なのもよい。
ただ、前作までより、いくつかの点で、描写に緊密感がなくなっていると感じた。(ジェイムズの濃密な描写が苦手な人には、かえって読みやすいかもしれないが)
1つは、関係者を訪ね歩くときの日時が、明確でないこと。何人もの元を訪ねるのだが、同一日なのか、翌日なのか、昼か夜か、曖昧なところがおおい。また、登場人物の背景描写も、いつもより薄い。例えば、ベントン・スミスは今回が初登場だが、初登場のチーム・メンバーならば、いつもなら、どんな経歴かを数ページにわたって書いていたのに、今回はない。外見描写くらいだ。(まあ、ここは、描写が普通の作家並みになっただけだが)
今回、後半になって、ミステリ的興趣が強くなって、面白かった。2つめの事件の絡み方がジェイムズらしくなく劇的だし、ほぼ最終章で明かされる事件の経過には、犯人特定のロジックがさらりと書かれている。それも、クイーンならば、「なぜ逃げなかったのでしょうか?」と劇的にプレゼンテーションしそうなもので、ここは、かなり好み。
他、著者82歳のときの作品とのことだが、背景のクラブの話はそんな年齢を感じさせないもので、なんかすごいなと思う。しかも、これが「特別班に要請がきた背景と絡む」というのが終盤で明かされるのは、ちょっとした皮肉がきいていて、楽しい。
それにしても、思ったより、ダルグリッシュのプライベートの話がなかった。ほんの数シーンしかないぞ。もっとがっつりあることを期待していたのに。他レギュラー・メンバーについても、ミスキン警部も含めて、見せ場は少なめ。心理描写も、いつもより少ないのは、ちょっと残念。そういえば、「死の味」でいい味を出していたコンラッド・アクロイドが本作には顔を出すのは、ファン向けのサービスでしょう。

No.207 6点 神学校の死- P・D・ジェイムズ 2023/11/13 00:14
ここ数作、いつも書いているが、ジェイムズ作は作を追うごとに読みやすくなっている。章立ても細かく、ポケミスで10ページを超える章があまりないくらいで、もはや、重厚という感じはなく、描写が濃いというレベルだ。これなら、アンドリュー・ヴァクスのほうが、よほど読みづらいぞ。
他に、ダルグリッシュ視点の章がかなりおおくなっているのも、読みやすい要因だろう。6割ほどがダルグリッシュ視点ではないか?
ダルグリッシュ以外の視点の章も、捜査側視点の章と、事件関係者視点の章が半々で、ジェイムズ作品としては驚くほど捜査側視点で物語がすすむ。いままでは、事件の捜査と、関係者の群像劇が、半々といった作品が多かったが、本作は、すっかり警察小説の味わいだ。
事件関係者視点の章でも、いままでどおりに人物がみっちりと描写はされるのだが、(いままでのように事件とあまり関係ない心理的葛藤ではなく)事件をふまえての心理描写なので、ミステリ的興趣が濃い。捜査の展開としても、後半のある事実が判明するところは「おっ!」と思ったし、全体としてそうとう面白い警察小説になっている。
途中までは、「これは、ジェイムズ作でいちばん好きかも」と思ったが、最後がだめだった。警察小説だとしても、これはミステリとしての興趣がなさすぎる。これで少し減点。
他に特徴をあげると、本作ではダルグリッシュの視点がおおいだけでなく、ダルグリッシュについても、今までになく筆が費やされている。いくつか上げてみると、ダルグリッシュの自宅が紹介されたり、舞台がダルグリッシュが学生時代を過ごした場所だったり、そのためダルグリッシュの過去の回想シーンが(!)あったり、ダルグリッシュの詩があったりする。前作をふまえてのダルグリッシュの思いや、ダルグリッシュがチームのメンバーに思いをはせたりなど、心理描写もおおい。
本作以降の情報にふれてみても、本作以降もダルグリッシュの私生活は重要要素のようで、きっと、作者が80歳をむかえて、ダルグリッシュについて書きたくなったのだろうと感じた。
しかし、それにしても、本作のラストのダルグリッシュの行動は、唐突感がおおきい。交流シーンは、ほんの数回しかないぞ。
ひるがえって、ミスキン警部は、残念ながら出番が少ない。それでも、エピローグ前のメイン・ストーリーの最終シーンで見せ場があるのは、ファン向けのサービスかな。

No.206 5点 婚活中毒- 秋吉理香子 2023/10/21 19:04
婚活を絡めて、きっちりキャラクターをたてて、最後にはきれいに反転を決める。よくできた短編集。なのに、何故かあまり刺さらなかった。
ということで、刺さらなかった要因を自己分析してみた。
まず、キャラクターについて刺さらなかったのは、作品をコメディ・タッチにしようとして、キャラクターも少し戯画的になっているためだったと思う。「日常の謎」には好きな作品も多いが、私の場合は、それはキャラクターに共感できてこそだが、本作は戯画的になっているので、共感というより、一歩引いて眺めるようになっていたからだと思う。
反転については、新本格以降の「どんでん返し」というより、ヘンリー・スレッサー風の「ラストを気の利いた反転で締める」とというものだったからだと思う。ヘンリー・スレッサー風は、そんなに好きではないんですよね。
(もう、ヘンリー・スレッサーがわかるのも、年寄しかいませんね。違いをもう少し補足すると、新本格以降の「どんでん返し」は、伏線を丁寧に張り「これしかない」感を強く出し、物語全体のイメージを変更するものという感じ。ヘンリー・スレッサー風といったのは、そこまで伏線が強くなく、物語全体のイメージは変わるほどではないが、「あ、そういうことか」と物語がきれいに収束するといったところ)
私には刺さらなかったが、キャラクター/ストーリーとも、刺さる人には刺さると思うので、気になる人は読んでください。あと、リーダビリティは抜群です。

No.205 5点 シャーロック・ホームズの蒐集- 北原尚彦 2023/10/21 19:02
ホームズ・パスティーシュ。
よくできているんだけど、オリジナルの「冒険」から「帰還」までの話とは、何かが違う。なんだろう。テンポ? 会話?
「最後の挨拶」、「事件簿」と比べると、違和感はないかな。
作中では「詮索好きな老婦人の事件」がよかった。

No.204 5点 三つ首塔- 横溝正史 2023/10/15 20:38
まあ、まずは扇情的。事件がつぎづきと起こり、ひとつひとつが派手なので、細かいことを気にしないで読んでいるぶんには飽きさせない。乱歩のジュブナイルを、さらに扇情的にしたような読み心地。
しかし、ちょっと考えると、犯人が優秀すぎ、もしくは、都合が良すぎで、「これ、どうなの?」と感じてしまうので、全体を通しての構築感はない。横溝正史の有名作は、とても構築感があるので、ここはかなり違うところ。
また、トリックや意外性などもあまりないので、有名作と比べるとかなり評価が下がる。
(いま本サイトをみると、評価数の多い6作が、評価順でも上位6作で(評価数が少ないものは対象外としてだが)、この6作が代表作というのが世評なのだな。納得)
多分一番版が新しいと思われる角川文庫版で読んだが、本作品の巻末には、よくある「不当・不適切と思われる語句や表現が……」というのがあるが、語句や表現だけでなく、ストーリー展開やキャラクタなど、いまの新作では出版は駄目だろうと思われる部分も多い。ヒロインにあたる語り手がxxされるのなんて、ちょっとまずいよなあ。
なお、巻末の文は、「……一部を編集部の責任において改めるにとどめました」となっているので、手直しが入っているようだ。どれくらいの修正量かはわからないが、気になる方は、古い版にあたったほうがいいかも。

No.203 5点 赤毛のストレーガ- アンドリュー・ヴァクス 2023/10/08 00:08
プロットは極めてシンプル。普通の書き込みなら、200ページにも満たないんじゃないかな。ここまで長いのは、すべてのシーンをじっくりと書き込み、さらにプロットになくてもいいエピソードや日常描写も、たくさん書き込んでいるからだ。
本作を楽しむには、この濃密な描写を楽しめる必要があるが、私はよい読者ではなかったな。まあ、それだけではなく、読むタイミングも良くなかったなと思う。
原作が1987年に書かれているためだろう。作中の「強大な悪」と「虐げられる人」という社会構図が、かなりシンプル。同時代ならば、この濃密な描写から強い迫真性を感じたのかもしれないが、現代のもっと複雑な社会構図から照らしてみると、どこか現実感のない異世界のようにも思えるのだ。もっと早く読むべきだったな。

No.202 6点 殺人鬼(角川文庫版)- 横溝正史 2023/10/08 00:06
「百日紅の下にて」が世評が高いのは納得。他3作とあきらかに雰囲気が違う。
他3作は、軽く読めるエンタメ文体で、たしかに楽しく読めるが、強い印象は残さなかった。
「百日紅の下にて」は、開始からじっくりと情景描写して雰囲気を出し、ゆるりゆるりと、昔の事件の質疑に入っていく。これは印象深い。事件の質疑もサスペンスフルで、「ジェミニー・クリケット事件」を思い出させた。(本作のほうが書かれたのは先なので、私が読んでいて思い出させられたというだけですが)
ただ、ミステリ的つくりは、それほど凝っていないと感じた。それより、背景となる人間関係、特に少女を育成するところが、戦前の横溝の耽美な作品を想起させる「妖しい雰囲気」で好み。
「百日紅の下にて」で、ひとつ残念なのは、ある人物の素性を明かすタイミングがなかなか楽しいのに、今の角川文庫のパッケージングでは効果がないことかな。知らずに読んだら、おおっと思うのに。
まあ、その素性がわかっていても、最後の1行はニヤリとさせられるので、ファンへの目配せも効いた、良作です。

No.201 5点 霧に溶ける- 笹沢左保 2023/09/17 17:51
笹沢左保は未読なので、ひとつ読んでみようと、評価が高いものを読んでみた。
まずは、事件が起きるまでの、各登場人物の状況/紹介は楽しめなかった。生々しいというか、醜悪というか、社会派全盛頃の作品の、この手の雰囲気はやはり好みではない。特に1章に登場する男、まったく共感できなかったが、当時の人達はこれに共感できたのかなぁ。
事件が起きてからは、快調に読めたし、なかなか凝った構図が展開されるところは楽しめたが、トリックはどれも小粒。また、演出がいまひとつ好みでないのか、驚きやワクワク感は感じなかった。
世評ほど、私には刺さらなかったな。

No.200 8点 レイトン・コートの謎- アントニイ・バークリー 2023/09/10 03:07
創元推理文庫から文庫版が発売された。
(喜ばしい。帯には「最上階の殺人」も、新訳で文庫発売予定とある。ますます喜ばしい)
単行本発売時に読んだが、超有名作の「あれ」に先駆けて「これ」が書かれていることに驚いた。1984年刊の創元推理文庫「ピカデリーの殺人」の解説で、「今となっては翻訳される可能性は少ないが」と書いているが、いやいや、「”すぐに訳すべし”と激推しすべき作品でしょ!」と思ったものだ。本作を未読の謎解きミステリファンは、今からでも読むべし。
本作を読もうという人が「あれ」を知らないということは考えられないので、「わかるかな?」という心配も、いらないしね。
でも、「その”あれ”を知ってたら、”ああ、あれか”と、なるんじゃないの?」と思われては困る。それ以外にも十分読みどころがある。
例えば、「毒入りチョコレート事件」の多重解決に先駆けるような、仮説の構築と崩壊もあるし、ユーモア小説のような喜劇的展開は、今でも十分楽しめる。その中でも必見なのは、捜査の過程でシェリンガムのある仮説が崩されるところ。謎解きの試行錯誤の課程で、こんなに笑ったことはない。絶対笑うよね?
全体のユーモアが、後期のバークリーとは違い、ブラックなシニカルさが全くないのもいい。ブラックな味も好きだが、この作品には、真っ白とも言える、この明るいユーモアのほうがぴったりだ。

No.199 6点 カモフラージュ- 松井玲奈 2023/09/03 12:59
本サイトにあると思わなかった。ミステリではないよなぁ。言いくるめるとしたら、一部ホラー風味があるので、「ホラーはミステリだよね」と強引に紐づけするくらいかなぁ。
ミステリではないけれども、なかなか楽しかった。シチュエーションとキャラクターとそのリアクションを楽しむ小説。
楽しい言い回しも多い。
例えば「拭っても、拭っても」の冒頭。地下鉄の階段をのぼる可愛らしい女の子を描写し、待ち合わせしていた彼氏とはしゃぐのを見たところで、語り手のひと言。”なんだこの流れ弾に当たったような気分は”。共感できるよ。
「いとうちゃん」は、メイド喫茶て働く女の子が語り手で、(読み手の経験値がないからか)もはや異世界ファンタジーの趣き。
ホラー風味の話もあり、多彩な作風で飽きさせない。すごいな。
元売れっ子アイドルで、大河ドラマにもでる女優で、小説も書く。多才だなぁ。

No.198 5点 首のない女- クレイトン・ロースン 2023/09/02 22:06
読み終わって、本サイトをみたら、虫暮部さんの感想が自分の言いたいことそのままだった。
”そもそもどのような事件が進行しているのか判りづらいし、その判らなさが映えるような構造でもないし、登場人物は多いし、結末直前になって読者には知りようのない裏事情が明かされるし”。その通りだ。
他に書くとしたら、そうだな……。
まえがきで山口雅也が書いている「巧妙極まりない詐術」が、なんのことか分からなかった。「どのような事件が進行しているのか」の部分が、ホワットダニット風だからか? どこを「巧妙極まりない詐術」と思ったのだろう?

No.197 5点 カックー線事件- アンドリュウ・ガーヴ 2023/08/19 18:32
この作品を読んだ後、カーヴはしばらく読まなくなったのだが、ここ数年でたくさん読んだので、読み方が変わるかもと思い、再読。
初読のときは意識できていなかったが、うん、これはかなりクロフツ風だ。
容疑がかけられた人物の潔白を証明するため、家族が捜査をすすめていくのだが、ここがかなりクロフツの味わいだと思った。でも、ここに意外な展開がなく、さらにうまくいきすぎで、それほど面白くないのが残念なところ。
視点人物が場面によって変わって、主人公が明確でないのも、物語に没入できなくしていると思う。
なんでこの作品を文庫化の3番目にしたのかな? ガーヴの中では下の方。初読時の評価は変わらなかった。

No.196 7点 田沢湖殺人事件- 中町信 2023/07/30 00:35
1部の前半はあまり楽しめなかった。「ロール・プレイング・ゲームを、そのままノベライゼーションしたようだ」と思うくらい。「Aは悲しかった」といった無味乾燥な文章で、事件と経過がつづられていくだけなのだ。
これはちょっとつらいかなと思ったが、事件が動き出してからは面白かった。
文章が無味乾燥なのは同じだが、事件が動くこと、動くこと。別の事件が起き、謎があらわれ、謎が解かれ、そしてまた新たな事件が起きる。テーマパークのトラムみたいに、飽きさせない。最後に見えてくる構図も、なかなか魅力的だ。
これは評価が高いのもわかる。
ただ、評価するのは謎解きミステリ好きだけだろうな。文章表現や人物造形にはほとんど魅力がなく、プロット展開のみの魅力だけだから、ミステリ的なプロットに嗜好がない人には、退屈きわまりない作品かもしれない。

No.195 5点 死者はよみがえる- ジョン・ディクスン・カー 2023/07/22 23:44
カーの1つの嗜好である「ナンセンスな状況に説明をつける」系統の作品。
終盤で、フェル博士が12の質問を投げかけていて、ここで本事件の状況のポイントが整理されているが、やっぱり好みから外れているんですよね。熱心に考えようと感じる質問がない。
この質問に「説明をつけたい」と色々考える人が、本作のよい読者なのだと思う。
ストーリー展開もどこかオフビート。
主人公が死体の第一発見者で、「容疑者扱いされるのか?」とサスペンス展開を期待させるのに、すぐ容疑者から外れてしまう。奇妙な状況が見えてくるが、まもなく状況説明されてしまう。意外な事件が起きるが、その犯人もまもなく判明してしまう。
都度、肩すかしされているようで、微妙にのれなかった。ただ、そうした中に、真相を知って読むと伏線とわかるデータを散りばめているのは見事。そこは、さすが、カー。
そして、最後は反則級(いや、反則か?)の大技が炸裂。この大技が楽しめる人は、本作のよい読者だ。私は残念ながら、よい読者ではなかった。よい読者の代表は、「カー問答」で本作を最上位においている、江戸川乱歩でしょう。
いずれにしろ、カーの1つの傾向を代表する作なので、(カーの最初の作品には不可能犯罪がいいとは思うが)カーをもっと読んでみようかと考えている人には、おすすめ。これが楽しめれば、同傾向の作品も楽しめるはずだし、また、この味わいは、ちょっとカー以外ではお目にかからないので、味わってみるのもよいでしょう。

No.194 6点 殺人者と恐喝者- カーター・ディクスン 2023/07/17 17:47
カーにしてはめずらしく、2組のカップルがラブコメ風に描かれて、どちらの展開もなかなか楽しい。他にもH・Mの自伝の話など、楽しい話が取り込まれていて、全体的に読みやすくしあがっている。
それに、催眠術をつかった状況での事件発生の設定は、なかなかサスペンスもある。この辺はかなり好み。
ただ、メイン・トリックは、残念かな。まあ、カーにはこういったxx的なものも多いのだけど。
あの叙述については、それをメインに押し出しているようには読めないので、ファン向けの細かな拾いどころの1つと感じた。なので、フェア/アンフェアについても、重要ではないと思う。私の判断をいえばアンフェアだけど、同程度のアンフェアは、カーは、他作品でも多かった印象がある。個人的には、アンフェアでも全然問題ない。

No.193 5点 九人と死で十人だ- カーター・ディクスン 2023/07/17 17:43
戦時の状況が取り込まれ、カーにしてはめずらしくシリアス。そこに、カーらしい大胆な仕掛けがはいって、めずらしい読み心地だ。
とはいえ、その仕掛けも無理が大きい感じがして、私の琴線にはあまりかからず、指紋の謎にいたっては解決がすこしがっかりな感じがしたので、あまり高得点とはならず。

No.192 4点 かくして殺人へ- カーター・ディクスン 2023/07/17 17:41
やりたいことはわかった気がするが(犯人があれなことでしょうが)、そんなに面白いとは思えなかった。
シーンとしては、映画のセットでの硫酸殺かけのように面白いシーンもあるが、ときどき入れられる撮影シーンがチグハグであったり、第二の事件の付け足し感がいつも以上だったり、全体的には、どうにも失敗作の感が拭えない。
どこまで取材したかわからないが、当時(1940)の映画撮影の雰囲気を楽しむというのは珍味なので、見どころはそれくらいかな。

No.191 8点 世界でいちばん透きとおった物語- 杉井光 2023/07/12 00:08
メインの趣向は、有名作のアレンジなので、それだけでは高い評価はしないが、その趣向の見せ方がうまい。類似の趣向は、あの人とか色々書いてたり、去年もあったりしたけど、見せ方では、これが一番では?
必然性に関する伏線も、きれいにはられていて、感心されられた。
個人的に、ラストページの「透きとおって」みえる言葉は好み。ベタだけど、これはいいなぁ。
他の人も書いているけど、できるだけ前情報無しで読んでほしい。短いのですぐ読めるしね。

No.190 8点 孔雀の羽根- カーター・ディクスン 2023/07/09 01:42
解決編で手がかり索引(xxページ参照)があることからもわかるように、謎解きに注力した作品。
実際、ストーリー展開も、冒頭の殺人以降、関係者の事件までの動向を少しずつ手繰っていくことに費やされて、ドタバタや怪奇趣味やラブコメ要素などのカー好みの展開は、極めて抑えられている。(カー・ファンと思われる評者にとりあげられることが少ない気がするのは、この辺が要因かも)
しかし、退屈なのかというと、そんなことはなく、カーにしては珍しく、捜査の道行きを楽しめる。その中で、「被害者が急に予定を変更したのは、何があったのか?」という点が強調されていたのは、最後に実に効果的に使われる。
(この辺は、好みが分かれるところなのだろう。本サイトでも、「事件の全容が明らかになる展開はサスペンスに満ちている」、「事件に発展性がなく、ひたすら登場人物の供述を聞くだけ」といった真逆の評があって、おもしろい。私は好評価するほうですね)
手がかり索引にある手がかりだが、クイーン的な「推理を紡ぐ元とする手がかり」ではなく、カーらしい「ほら、ここに書いてあったでしょ」といった手がかりだ。真相を知ってから読み返すと、「それがあったから事件が成立したんだ」と思わせる重要な状況説明で、「なるほど」と思わされた。
ネットで評をみてみると、メインのトリックがあまり評判が良くないようなのだが、わたしは、これ、完全に盲点で、解明シーンで「そうか!」と、驚き、かつ、腑に落ちた。ここが驚けないと高い評価はできないだろうが、そんなわけで私は高評価。

No.189 6点 ときどき旅に出るカフェ- 近藤史恵 2023/07/02 23:37
”日本ではあまり知られていない世界のお菓子”を各話でフィーチャーしつつ、居心地のいいカフェを舞台に、カフェの女性オーナーと主人公の交流を軸に、ちょっとした日常の謎を盛り込んで出来上がり、といった職人技がひかる連作短編。うまいなぁ。
登場人物は絞っているが、そのかわりに、登場する人は実にくっきりと造形されている。とくにカフェのオーナーがいい。
まあ、ミステリ成分はほんの少しで、なくてもいいくらい。物語の「結」をつけるために、ちょっと取り入れているといった趣き。
残念なのは7話目から話の構成が変わること。6話目までは上記の通りの話が並ぶのだが、7話から10話は、カフェのオーナーのプライベートな話になっていって、謎の要素はほぼなし。最後まで6話目までのタッチがよかったな。
採点は、ミステリ成分の少なさから、こんなものにしておきます。採点以上に楽しんだけどね。

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ことはさん
ひとこと
ホームズ生まれの、クイーン育ち。
短編はホームズ、長編は初期クイーンが、私のスタンダードです。
好きな作家
クイーン、島田荘司、法月綸太郎
採点傾向
平均点: 6.20点   採点数: 288件
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