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ことはさん
平均点: 6.34点 書評数: 222件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.202 6点 殺人鬼(角川文庫版)- 横溝正史 2023/10/08 00:06
「百日紅の下にて」が世評が高いのは納得。他3作とあきらかに雰囲気が違う。
他3作は、軽く読めるエンタメ文体で、たしかに楽しく読めるが、強い印象は残さなかった。
「百日紅の下にて」は、開始からじっくりと情景描写して雰囲気を出し、ゆるりゆるりと、昔の事件の質疑に入っていく。これは印象深い。事件の質疑もサスペンスフルで、「ジェミニー・クリケット事件」を思い出させた。(本作のほうが書かれたのは先なので、私が読んでいて思い出させられたというだけですが)
ただ、ミステリ的つくりは、それほど凝っていないと感じた。それより、背景となる人間関係、特に少女を育成するところが、戦前の横溝の耽美な作品を想起させる「妖しい雰囲気」で好み。
「百日紅の下にて」で、ひとつ残念なのは、ある人物の素性を明かすタイミングがなかなか楽しいのに、今の角川文庫のパッケージングでは効果がないことかな。知らずに読んだら、おおっと思うのに。
まあ、その素性がわかっていても、最後の1行はニヤリとさせられるので、ファンへの目配せも効いた、良作です。

No.201 5点 霧に溶ける- 笹沢左保 2023/09/17 17:51
笹沢左保は未読なので、ひとつ読んでみようと、評価が高いものを読んでみた。
まずは、事件が起きるまでの、各登場人物の状況/紹介は楽しめなかった。生々しいというか、醜悪というか、社会派全盛頃の作品の、この手の雰囲気はやはり好みではない。特に1章に登場する男、まったく共感できなかったが、当時の人達はこれに共感できたのかなぁ。
事件が起きてからは、快調に読めたし、なかなか凝った構図が展開されるところは楽しめたが、トリックはどれも小粒。また、演出がいまひとつ好みでないのか、驚きやワクワク感は感じなかった。
世評ほど、私には刺さらなかったな。

No.200 8点 レイトン・コートの謎- アントニイ・バークリー 2023/09/10 03:07
創元推理文庫から文庫版が発売された。
(喜ばしい。帯には「最上階の殺人」も、新訳で文庫発売予定とある。ますます喜ばしい)
単行本発売時に読んだが、超有名作の「あれ」に先駆けて「これ」が書かれていることに驚いた。1984年刊の創元推理文庫「ピカデリーの殺人」の解説で、「今となっては翻訳される可能性は少ないが」と書いているが、いやいや、「”すぐに訳すべし”と激推しすべき作品でしょ!」と思ったものだ。本作を未読の謎解きミステリファンは、今からでも読むべし。
本作を読もうという人が「あれ」を知らないということは考えられないので、「わかるかな?」という心配も、いらないしね。
でも、「その”あれ”を知ってたら、”ああ、あれか”と、なるんじゃないの?」と思われては困る。それ以外にも十分読みどころがある。
例えば、「毒入りチョコレート事件」の多重解決に先駆けるような、仮説の構築と崩壊もあるし、ユーモア小説のような喜劇的展開は、今でも十分楽しめる。その中でも必見なのは、捜査の過程でシェリンガムのある仮説が崩されるところ。謎解きの試行錯誤の課程で、こんなに笑ったことはない。絶対笑うよね?
全体のユーモアが、後期のバークリーとは違い、ブラックなシニカルさが全くないのもいい。ブラックな味も好きだが、この作品には、真っ白とも言える、この明るいユーモアのほうがぴったりだ。

No.199 6点 カモフラージュ- 松井玲奈 2023/09/03 12:59
本サイトにあると思わなかった。ミステリではないよなぁ。言いくるめるとしたら、一部ホラー風味があるので、「ホラーはミステリだよね」と強引に紐づけするくらいかなぁ。
ミステリではないけれども、なかなか楽しかった。シチュエーションとキャラクターとそのリアクションを楽しむ小説。
楽しい言い回しも多い。
例えば「拭っても、拭っても」の冒頭。地下鉄の階段をのぼる可愛らしい女の子を描写し、待ち合わせしていた彼氏とはしゃぐのを見たところで、語り手のひと言。”なんだこの流れ弾に当たったような気分は”。共感できるよ。
「いとうちゃん」は、メイド喫茶て働く女の子が語り手で、(読み手の経験値がないからか)もはや異世界ファンタジーの趣き。
ホラー風味の話もあり、多彩な作風で飽きさせない。すごいな。
元売れっ子アイドルで、大河ドラマにもでる女優で、小説も書く。多才だなぁ。

No.198 5点 首のない女- クレイトン・ロースン 2023/09/02 22:06
読み終わって、本サイトをみたら、虫暮部さんの感想が自分の言いたいことそのままだった。
”そもそもどのような事件が進行しているのか判りづらいし、その判らなさが映えるような構造でもないし、登場人物は多いし、結末直前になって読者には知りようのない裏事情が明かされるし”。その通りだ。
他に書くとしたら、そうだな……。
まえがきで山口雅也が書いている「巧妙極まりない詐術」が、なんのことか分からなかった。「どのような事件が進行しているのか」の部分が、ホワットダニット風だからか? どこを「巧妙極まりない詐術」と思ったのだろう?

No.197 5点 カックー線事件- アンドリュウ・ガーヴ 2023/08/19 18:32
この作品を読んだ後、カーヴはしばらく読まなくなったのだが、ここ数年でたくさん読んだので、読み方が変わるかもと思い、再読。
初読のときは意識できていなかったが、うん、これはかなりクロフツ風だ。
容疑がかけられた人物の潔白を証明するため、家族が捜査をすすめていくのだが、ここがかなりクロフツの味わいだと思った。でも、ここに意外な展開がなく、さらにうまくいきすぎで、それほど面白くないのが残念なところ。
視点人物が場面によって変わって、主人公が明確でないのも、物語に没入できなくしていると思う。
なんでこの作品を文庫化の3番目にしたのかな? ガーヴの中では下の方。初読時の評価は変わらなかった。

No.196 7点 田沢湖殺人事件- 中町信 2023/07/30 00:35
1部の前半はあまり楽しめなかった。「ロール・プレイング・ゲームを、そのままノベライゼーションしたようだ」と思うくらい。「Aは悲しかった」といった無味乾燥な文章で、事件と経過がつづられていくだけなのだ。
これはちょっとつらいかなと思ったが、事件が動き出してからは面白かった。
文章が無味乾燥なのは同じだが、事件が動くこと、動くこと。別の事件が起き、謎があらわれ、謎が解かれ、そしてまた新たな事件が起きる。テーマパークのトラムみたいに、飽きさせない。最後に見えてくる構図も、なかなか魅力的だ。
これは評価が高いのもわかる。
ただ、評価するのは謎解きミステリ好きだけだろうな。文章表現や人物造形にはほとんど魅力がなく、プロット展開のみの魅力だけだから、ミステリ的なプロットに嗜好がない人には、退屈きわまりない作品かもしれない。

No.195 5点 死者はよみがえる- ジョン・ディクスン・カー 2023/07/22 23:44
カーの1つの嗜好である「ナンセンスな状況に説明をつける」系統の作品。
終盤で、フェル博士が12の質問を投げかけていて、ここで本事件の状況のポイントが整理されているが、やっぱり好みから外れているんですよね。熱心に考えようと感じる質問がない。
この質問に「説明をつけたい」と色々考える人が、本作のよい読者なのだと思う。
ストーリー展開もどこかオフビート。
主人公が死体の第一発見者で、「容疑者扱いされるのか?」とサスペンス展開を期待させるのに、すぐ容疑者から外れてしまう。奇妙な状況が見えてくるが、まもなく状況説明されてしまう。意外な事件が起きるが、その犯人もまもなく判明してしまう。
都度、肩すかしされているようで、微妙にのれなかった。ただ、そうした中に、真相を知って読むと伏線とわかるデータを散りばめているのは見事。そこは、さすが、カー。
そして、最後は反則級(いや、反則か?)の大技が炸裂。この大技が楽しめる人は、本作のよい読者だ。私は残念ながら、よい読者ではなかった。よい読者の代表は、「カー問答」で本作を最上位においている、江戸川乱歩でしょう。
いずれにしろ、カーの1つの傾向を代表する作なので、(カーの最初の作品には不可能犯罪がいいとは思うが)カーをもっと読んでみようかと考えている人には、おすすめ。これが楽しめれば、同傾向の作品も楽しめるはずだし、また、この味わいは、ちょっとカー以外ではお目にかからないので、味わってみるのもよいでしょう。

No.194 6点 殺人者と恐喝者- カーター・ディクスン 2023/07/17 17:47
カーにしてはめずらしく、2組のカップルがラブコメ風に描かれて、どちらの展開もなかなか楽しい。他にもH・Mの自伝の話など、楽しい話が取り込まれていて、全体的に読みやすくしあがっている。
それに、催眠術をつかった状況での事件発生の設定は、なかなかサスペンスもある。この辺はかなり好み。
ただ、メイン・トリックは、残念かな。まあ、カーにはこういったxx的なものも多いのだけど。
あの叙述については、それをメインに押し出しているようには読めないので、ファン向けの細かな拾いどころの1つと感じた。なので、フェア/アンフェアについても、重要ではないと思う。私の判断をいえばアンフェアだけど、同程度のアンフェアは、カーは、他作品でも多かった印象がある。個人的には、アンフェアでも全然問題ない。

No.193 5点 九人と死で十人だ- カーター・ディクスン 2023/07/17 17:43
戦時の状況が取り込まれ、カーにしてはめずらしくシリアス。そこに、カーらしい大胆な仕掛けがはいって、めずらしい読み心地だ。
とはいえ、その仕掛けも無理が大きい感じがして、私の琴線にはあまりかからず、指紋の謎にいたっては解決がすこしがっかりな感じがしたので、あまり高得点とはならず。

No.192 4点 かくして殺人へ- カーター・ディクスン 2023/07/17 17:41
やりたいことはわかった気がするが(犯人があれなことでしょうが)、そんなに面白いとは思えなかった。
シーンとしては、映画のセットでの硫酸殺かけのように面白いシーンもあるが、ときどき入れられる撮影シーンがチグハグであったり、第二の事件の付け足し感がいつも以上だったり、全体的には、どうにも失敗作の感が拭えない。
どこまで取材したかわからないが、当時(1940)の映画撮影の雰囲気を楽しむというのは珍味なので、見どころはそれくらいかな。

No.191 8点 世界でいちばん透きとおった物語- 杉井光 2023/07/12 00:08
メインの趣向は、有名作のアレンジなので、それだけでは高い評価はしないが、その趣向の見せ方がうまい。類似の趣向は、あの人とか色々書いてたり、去年もあったりしたけど、見せ方では、これが一番では?
必然性に関する伏線も、きれいにはられていて、感心されられた。
個人的に、ラストページの「透きとおって」みえる言葉は好み。ベタだけど、これはいいなぁ。
他の人も書いているけど、できるだけ前情報無しで読んでほしい。短いのですぐ読めるしね。

No.190 8点 孔雀の羽根- カーター・ディクスン 2023/07/09 01:42
解決編で手がかり索引(xxページ参照)があることからもわかるように、謎解きに注力した作品。
実際、ストーリー展開も、冒頭の殺人以降、関係者の事件までの動向を少しずつ手繰っていくことに費やされて、ドタバタや怪奇趣味やラブコメ要素などのカー好みの展開は、極めて抑えられている。(カー・ファンと思われる評者にとりあげられることが少ない気がするのは、この辺が要因かも)
しかし、退屈なのかというと、そんなことはなく、カーにしては珍しく、捜査の道行きを楽しめる。その中で、「被害者が急に予定を変更したのは、何があったのか?」という点が強調されていたのは、最後に実に効果的に使われる。
(この辺は、好みが分かれるところなのだろう。本サイトでも、「事件の全容が明らかになる展開はサスペンスに満ちている」、「事件に発展性がなく、ひたすら登場人物の供述を聞くだけ」といった真逆の評があって、おもしろい。私は好評価するほうですね)
手がかり索引にある手がかりだが、クイーン的な「推理を紡ぐ元とする手がかり」ではなく、カーらしい「ほら、ここに書いてあったでしょ」といった手がかりだ。真相を知ってから読み返すと、「それがあったから事件が成立したんだ」と思わせる重要な状況説明で、「なるほど」と思わされた。
ネットで評をみてみると、メインのトリックがあまり評判が良くないようなのだが、わたしは、これ、完全に盲点で、解明シーンで「そうか!」と、驚き、かつ、腑に落ちた。ここが驚けないと高い評価はできないだろうが、そんなわけで私は高評価。

No.189 6点 ときどき旅に出るカフェ- 近藤史恵 2023/07/02 23:37
”日本ではあまり知られていない世界のお菓子”を各話でフィーチャーしつつ、居心地のいいカフェを舞台に、カフェの女性オーナーと主人公の交流を軸に、ちょっとした日常の謎を盛り込んで出来上がり、といった職人技がひかる連作短編。うまいなぁ。
登場人物は絞っているが、そのかわりに、登場する人は実にくっきりと造形されている。とくにカフェのオーナーがいい。
まあ、ミステリ成分はほんの少しで、なくてもいいくらい。物語の「結」をつけるために、ちょっと取り入れているといった趣き。
残念なのは7話目から話の構成が変わること。6話目までは上記の通りの話が並ぶのだが、7話から10話は、カフェのオーナーのプライベートな話になっていって、謎の要素はほぼなし。最後まで6話目までのタッチがよかったな。
採点は、ミステリ成分の少なさから、こんなものにしておきます。採点以上に楽しんだけどね。

No.188 5点 禁じられた館- ミシェル・エルベ―ル&ウジェーヌ・ヴィル 2023/07/02 01:33
ネットの評判を読んで期待したほどではなかったなというのが、正直なところ。
まず、キャラクターは区別がつく程度の造形で、面白みはない。全体の展開も単調だ。まあただ、これはネットの評判にもあったので、期待していた点ではないのだけれど。
期待していた部分というと謎解きの部分なのだが、それもどうにも、いまひとつだった。メインの人間消失の謎はなかなかよいのだが、その後の質疑がよろしくない。各人物が、自身の主張をするだけで、根拠や他可能性を論じるディスカッションがあまりないのだ。そのため、いくつかの仮説が順々に提示されるだけで、盛り上がりに欠けるし、さらにその仮説のいくつかは、明らかに根拠薄弱に思えて、興趣を感じさせてくれなかった。最後の真相だけはなかなか好みだったが、それ以外はどうも……。
仮説の提示数が多いという点で共通するクリスチアナ・ブランドの諸作と比べると、かなり見劣りを感じる。個人的には、まったく傑作という気はしない。
あと、事件発生が地の文で語られてしまっているのが残念。このため、(クイーンの国名シリーズの初期などが典型と思うが)捜査の段取りを楽しむことや、少しずつ全体像が見えてくる面白さがない。これ、ミステリを読みすすめるためのフックとして、重要だと思うんだけどな。
とはいえ、読後に読書メーターを拾い読みしてみたが、気に入っている人も多くいて、謎解きミステリ内だけでも、好みのポイントは多種多様なのだと感じた。

No.187 6点 ローズマリーのあまき香り- 島田荘司 2023/06/18 22:31
まあ、解決はだめですね。反則です。
でもね、そこまでは読ませるんですよね。謎の盛り上げはいいし、関係なさそうなエピソードも盛り込み、ファンタジー小説が挟まり、世界近代史から世界情勢まで取り込んで、解決になだれ込む。解決シーンも、映像を思い浮かべれば、実に映える。「アトポス」頃の大作を思い起こさせる、豪快な作品。
さすが豪腕、島田荘司です。70歳を超えて、いまだパワフル。それだけで、期待は満たされたかな。
でも、解決は期待しないでねー。

No.186 8点 アリスマ王の愛した魔物- 小川一水 2023/06/04 02:42
はずれなし。ヴァラエティにとんだSF好短編集。
好きなのは「ろーどそうるず」と表題作「アリスマ王の愛した魔物」。
「ろーどそうるず」は、バイクに搭載されたAIの話。AIの1人称ですすむので、話を広げるのはむずかしいところだが、逆に、視点が絞られることで話の焦点も絞られ、コンパクトな好い話となっている。なける。
「アリスマ王の愛した魔物」は、どこからこんな発想をしたのかと思う、奇譚。計算に取り憑かれた王が、コンピューターらしきものまでつくってしまう、壮大な奇想。奇妙な世界観に、酩酊感を覚えました。
すいません、ミステリではまったくないですね。

No.185 8点 天冥の標Ⅱ 救世群- 小川一水 2023/06/04 02:12
パンデミック小説なので、ミステリ読みでも、楽しめるはず。パンデミック小説として、抜群に面白い。
コロナ前に書かれた作品だが、コロナ時の対応を彷彿とさせる描写がおおく、的確にリサーチされていたんだなと驚く部分も多い。ただまあ、現実のコロナのときのほうが全然ぐたぐだで、作品内の政府の対処が理想に見えてしまう。”残念な現実”には、ため息しか出ない。
本作は、17巻になる壮大なSFシリーズの1作だが、本作だけ読めばSF要素はあまりないので、SFが好きでなくても問題なく読めるはず。それに、本作はシリーズ2作目だけれど、他作との繋がりはうすく、独立して楽しめるので、ぜひ読んでほしい。
(SF的振りが気になった人だけ、1作目からシリーズをよみすすめればよいので)
ただ、パンデミック小説なので、登場人物にはつらく厳しいシーンがある。そういうのが苦手な人にはお勧めしない。あとは、性的なシーンも少しある。これはシリーズ全体で”性”についてもアプローチしているからなのだが、本作だけ読むと、少し浮いて見えるかもしれない。

No.184 6点 そばかすのフィギュア- 菅浩江 2023/06/04 01:56
初期作品ということで、どれも書き込みは深くない。1シチュエーション/1アイディア・ストーリーといった趣き。シチュエーションにきっちりはまる、シンプルなプロットで各編書き上げられている。
シンプルなため、「もっと書き込みが深くて、もっと登場人物に思い入れができれば、もっと面白いのに」と感じた。それでも楽しめるのは、シチュエーションが良いからだろう。シチュエーションのセンスの良さは、後に「博物館惑星」に結実するのだなぁと思う。
また、濃淡はあるけれど、どれも結びの部分に反転を準備しているから、ミステリ的な読み心地がある。連城三紀彦の普通小説よりの作品に近しい感触かな。ミステリ読みも楽しめる、かも。

No.183 7点 プレーグ・コートの殺人- カーター・ディクスン 2023/05/31 00:42
「死と奇術師」を読んだら、カーが読みたくなって、再読。昔読んだときの印象より少し下がった。
良い点と悪い点がはっきりした作品だった。
良い点からいうと、まずはなんといっても密室のメイントリック。「気付けるかよっ!」というところはあるので推理比べには向かないが、これは印象的だよ。やっぱり記憶に残る。プロットも、フェル博士登場で空気感が変わる「チェンジ・オブ・ペース」がいいし、登場してすぐにフェル博士が提示する事件の見方が、意外かつ説得力があって見事。
でも、悪い点もいろいろ目についた。まず、これは、作品そのもののせいではないが、降霊術というのが、いまひとつ。昔読んだときは、もっとドキドキできたのだけど、今はもうのれないなぁ。時代もあると思う。昔はテレビの心霊写真特集なんかを怖がれたけど、今ならもう「加工でしょ?」となってしまう。それと、犯人の経路の件と、あの人の立ち位置は、ちょっとずるいなぁと感じた。
全体的にいえば、雰囲気、トリックの妙、ゴタゴタした展開なども含めて、カーの特徴はよくでているので、代表作にふさわしいと思う。
他、H・Mにしては、コミカルなシーンがないなと考えたとき、ふと、昔どこかのネットで読んだ分析を思い出した。
内容はこんな感じだった。
”初期は、H・Mとフェル博士のキャラの描き分けは少なく、H・Mには怪奇な事件、フェル博士にはとらえどころのない事件をあてている。「三つの棺」から変わる。ここから、描き分けとして、H・Mはコミカルな言動が増え、フェル博士は落ち着いた言動が増える。事件もそれにあった割り振りがされる。”
”なるほど”と思ったのでおぼえている。

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ことはさん
ひとこと
ホームズ生まれの、クイーン育ち。
短編はホームズ、長編は初期クイーンが、私のスタンダードです。
好きな作家
クイーン、島田荘司、法月綸太郎
採点傾向
平均点: 6.34点   採点数: 222件
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