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レッドキングさん
平均点: 5.25点 書評数: 822件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.282 7点 緋色の記憶- トマス・H・クック 2020/02/16 21:04
敬虔な寒村社会の少年の前に現れた浪漫的な男女の「英雄」。かつて「遥かな国遠い世界」を夢見た少年が、老いさらばえて追想する残酷な事件の顛末。
日本語タイトル「いまを生きる」という、厳格な男子校に現れた型破りな教師と彼に憧れた少年達を描いた映画があったが、その原題は「Dead Poets Society(死せる詩人の会)」だった。この小説で少年が心惹かれたのもまた「詩の仲間たち」・・放浪の女画家とラテン語教師、身寄りのない少女・・
だが結局、少年の偶像達も、たんに情事の苦い結末を噛みしめる不倫男女に過ぎなかった。三島由紀夫「午後の曳航」と同じテーマ・・色褪せたかつての輝かしき英雄への少年の失意。
あらためて読み返すと、厳格な学校校長でもある少年の父親もまた、女教師に内心心惹かれ、彼女も最後に父親の浪漫に気付いていたことが分かる。
そして何より、生涯に三回・・親と夫と少年と・・三回にわたり捨てられた、あの奥さんの死の前の絶望感があまりにも痛ましい。それ故にこの少年には死ぬまで魂の安らぎは許されない。

No.281 3点 幽霊塔- 江戸川乱歩 2020/02/16 17:43
おおおお懐かしい! こんなのあったなあ「幽霊塔」。子供の頃、ラジオドラマでもやってた。痺れた。

No.280 6点 灰姫 鏡の国のスパイ- 打海文三 2020/02/13 18:19
普段はスパイ物なんてまず読まないが、この作者のデビュー作にして「第十三回横溝正史賞優秀作」なので読んでみたら面白かった。外務省くずれの諜報売買企業社員達を中心に、北朝鮮地下組織、その反体制組織、米国CIA等が複雑に入り組んだ暗躍を行う国際スパイミステリであると同時に、組織内闘争のミステリであり、謎の北朝鮮工作員「灰姫」をめぐる歴史ロマンミステリでもある。
が、この作品、何と言っても「灰姫」とは誰なのかのフーダニットミステリであった。「『反体制組織』に偽装した『体制地下組織』」に偽装した「反体制組織」・・合わせ鏡のように無限に反転する正体、結構ミステリしてた。

No.279 7点 石のささやき- トマス・H・クック 2020/02/12 10:36
現人類以前の古代人類には聴こえていたという「声」。偉大な詩人や狂者病者犯罪者の耳に通底して聴こえた「声」。父から姉弟その息子娘へと受け継がれるおぞましい血と「声」。静謐な筆致で描写されて行く絶望感と恐怖。
それでも、一体、何が起こってしまったのか?のホワットダニットの結末は、「声」による救いだった。

No.278 7点 痺れる- 沼田まほかる 2020/02/10 15:14
・「林檎曼陀羅」 半ば呆けた老女の記憶に点滅する、姑と自分と息子に関わる痛ましい真実の映像。
・「レイピスト」 安全な場所から気晴らしだけを女に求めた男と、冷酷な男への怨念を絶望的に諦念する女。
・「ヤモリ」 気まぐれに迷い込んだ館での気晴らしの果てに、館主の中年女に「命ごと」所有されてしまう若い男。
・「沼毛虫」 主家の幼女に献身的に使えた召使男の残酷で痛ましい童話。
・「テンガロンハット」 静かな日常に普通に侵入してきた男とのナンセンスなバトルの顛末。
・「TAKO」 冴えない不愛想な女と、映画館で隣席した痴漢「タコ男」のエロチックでナンセンスな小噺。
・「普通じゃない」 ウザいだけで特に恨みもない老人の殺害計画を練る女のブラックコメディ。
・「クモキリソウ」 一人暮らしの若い女と、料理だけは上手いが不器用で冴えない中年女の切ないファンタジー。
・「エトワール」 「別れた妻」への男の追想に振り回される女の日常的なサスペンス。  

この短編集をミステリというジャンルで括るのは正しくないのかもしれない。内容のほとんどは犯罪・・殺人から迷惑防止条例に至るまで幅広いが・・に関わっているし、謎の解明の趣きもあるのだが、趣旨は表現自体の方にあり、日常ホラー、日常サスペンス、ミステリアスホラー、不思議ショート・・て言った方がよいのか。だが、単に「文学」て言っても、もちろんミステリと呼んでも全然構わない。

No.277 6点 猫と鼠の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2020/02/09 18:16
2回射殺された金持ち色男と容疑者の非情裁判官と目撃者の娘。アリバイ時間トリックの解釈を持ちカードに、娘の証言をサイ目にして、自白心理戦ポーカーを争う探偵二人と容疑者。女の資産が目当ての、いかにもなジゴロ風に見せかけて、実は骨のあるなかなかの資産家だったという被害者人物像返しと、アリバイトリックがちょっと面白い。

No.276 6点 殺人者と恐喝者- カーター・ディクスン 2020/02/07 23:16
左手でトリックを仕込む際には、右手に観客を惹きつけるってのが手品の鉄則と知ってるが、目を凝らして読んでても騙される。あの緊迫の場面での来客闖入が手品の目くらましとは分かるが、ネタバラしには茫然。トリック、〇〇ο〇ハ〇〇って・・・嗚呼!! もう一個の手品の方はオーソドクスにして地味に見事。
ヘンリ・メリヴェール卿の自伝口述に無茶苦茶爆笑。

No.275 4点 満潮に乗って- アガサ・クリスティー 2020/02/04 23:01
アガサ・クリスティー十八番の二大トリック。
➀人間関係トリック・・・「あなたは人間関係に関心をもたれているわけですね?」「さよう・・・私の関心は、つねに、人間関係に向けられております」・・ポアロのセリフに暗示されているトリック。
➁キャラ一捻りトリック・・・プロット上、一番怪しい立場の人物のアクを一旦読者に印象付けて、その後にそれを薄めるか逆に誇張して幻惑させることで陰に隠してしまうトリック。
その十八番が、このいかにもな人々の遺産相続をめぐるいかにもな犯罪のミステリにも見事に展開。

No.274 7点 メルカトルかく語りき- 麻耶雄嵩 2020/02/04 22:00
・「死人を起こす」 ある異常な恐怖症を根拠とした「殺人」のロジック。実は犯人候補が無限大状態である事を隠したとんでもない犯人指摘。5点
・「九州旅行」 殺人者によるアリバイトリック作成中の現場に友人を放り出すとんでもない探偵の話。6点(あの後、美袋どうなったんだ?) 
・「収束」 高さと位置のロジックから、三つの正解候補を挙げて、結論を出さないまま作品のみならず読者も「シュレーディンガーの猫」状態に放り出すとんでもないミステリ。7点
・「答えのない絵本」 閉ざされた舞台で起きた殺人。容疑者は20人。だがメルカトルのロジック(「Aを行った」のは「Bという状況」を利用する為で、その「Bという状況」を知るには「Cという状態」が必要で、「C状態という条件」を満たす人物Xとは・・)の行き着いた果ては・・ああ、げにとんでもない結論。エッシャーの騙し絵の三次元移植の無意味さにも似た・・これやっぱり採点不能
・「密室荘」 密室状態の家に他殺死体と二人の人物AとB。「殺人が行われた」「犯人はAかB以外にあり得ない」「AもBも犯人ではない」「犯人は存在しない」「ゆえに殺人は存在しない」「したがって死体はあってはならない」・・・受け入れるか拒否するしかない、究極のアンチミステリ・・・これも採点不能
※以前「答えのない絵本」単体で採点しましたが、削除して、作品集全体・・平均ではなく・・として採点。7点。

No.273 5点 蠟人形館の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2020/01/29 18:17
バンコランシリーズ第四弾。ミステリには「蝋人形館」「お化け屋敷」「廃墟」「ゲテモノ展示館」等のケレン味は欠かせない。かといってタイトル自体に「蝋人形館」「爬虫類館」謳っちゃうとねえ、ちと鼻白んじゃうかなと。話は面白いんだから、これに不可能犯罪が一つでもあったら満足できたかな。

No.272 5点 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー 2020/01/14 08:54
天才ディクスン・カーの記念すべき長編第二弾! アンリ・バンコランいいなあ。惜しいことに滑稽味には欠けるが。

No.271 7点 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー 2020/01/14 08:47
わがジョン・ディクスン・カーの記念すべき長編デビュー。当然に点数にはオマケが付く。
「真の恐怖は~滑稽とは無縁でなく・・」カーの方法論は既にこの作で確立していた。

No.270 6点 死との約束- アガサ・クリスティー 2020/01/12 18:44
コブラの心を持つ毒蜘蛛大ガマ女、知性感性卓越な女精神科医、剛腕女政治家、太鼓持ち饒舌女、赤毛の狂少女・・・怪物女たちのメルヘン。
「殺されて当然」て以上に「殺されなければ読者の気が済まない」て程のヒールの被害者出しちゃうと、犯人摘発自体に否定的感情がかかる。こうなると読者にとって探偵は悪役でしかなく、おい、ポアロ、どうすんだ?もう一回「オリエント」やるか?・・と思ってたら一人だけいたわ、「処罰されるのに相応しい加害者」てのが・・見事!

追記。三谷幸喜ドラマ見た。野村萬斎ポアロ(すぐろ!)なかなか。ただ、毒グモ女役は故野村サッチーとかがよく・・

No.269 6点 友達以上探偵未満- 麻耶雄嵩 2020/01/09 21:31
女高生探偵物なので「夏と冬の奏鳴曲」「痾」のヒロイン:舞奈桐璃を期待したが、その魅力はなかった。が、表紙イラストから危惧した劣化ラノベミステリではなく、麻耶はあくまで麻耶であった。麻耶ではあったが作品集全体としては3~4点。
だが、「世界は、観察者である探偵と、観察される群衆と、ワトソン役でできている。」・・この言葉、探偵が己の孤独を癒す媚薬としての「ワトソン君」ではなく、「第一人称」「第三人称」による完結幻想を批判する他者=「第二人称」としてのワトソン役を要請した麻耶雄嵩の「ミステリ哲学」と過大評価して、2~3点オマケ付けちゃう。

No.268 7点 メルカトルと美袋のための殺人- 麻耶雄嵩 2020/01/06 21:38
・「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聴こえる」 虚偽の欠片もない「明晰」な記憶。一点の曇りもない誠心誠意の愛情。第一人称の証言者の「まごころ」がどんなに真剣なものであろうと、情け容赦もなくそのカラクリを暴き立てて行くシニカル極まりない探偵。7点

・「ノスタルジア」  ➀二重密室のロジック・・外壁のみの密室内に凶器が残っていれば自殺が疑われ、残っていなければ壁内にいたAに疑いがかかる。が、外壁の中に内壁もあり、Aがその外にいた場合には、他の何者かによる密室偽装の可能性が生じて、外壁内・内壁外にいたAへの疑いは相対化する・・眩暈を誘うようなロジック。 ➁「翼ある闇」「夏と冬の奏鳴曲」と併せて麻耶三大バカミストリック。いやそれ以上に「衣裳戸棚の女」「くたばれ健康法」にも比すべき素晴らしいトンデモトリック。 ➂メルカトル曰く「A=C、A'=B、B≠C、よってA≠A'・・」「すなわち、『自殺したA』と『自殺させたA'』は別人であり、これは自殺ではなく殺人である・・」作中作とは言え驚くべきトンデモロジックに脱帽(かつ脱力)。あまりに贅沢な伏線と叙述トリックまで有効に決まって・・9~10点

・「シベリア急行西へ」 ニセ手掛かりのロジック・・「『容疑を避ける為のニセ手掛かりを仕掛けるA』の偽装に見せかける為のニセ手掛かりを仕掛けるB」・・眩暈を越えて卒倒を誘うようなロジック。狂言にまで昇りつめたナンセンスに至る程のロジック。この極端さこそ麻耶雄嵩の醍醐味。7点

その他 「化粧した男の冒険」4点 「小人閑居為不善」4点 「水難」3点 「彷徨える美袋」3点
※以前、「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聴こえる」だけを単独で採点しましたが、削除し、皆さんに倣って作品集としてあらためて登録しました。全体・・平均ではなく・・で7点。

No.267 5点 あぶない叔父さん- 麻耶雄嵩 2020/01/04 17:15
「化石少女」もこれも、「麻耶、劣化してるのか?」という危惧とともに、「もしかしたら、あとで振り返ってみれば『後期麻耶雄嵩』の領域が始まってるのかもしれん」という期待も持たせてくれる(かな?)。

No.266 7点 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 2019/12/31 14:51
健気で努力家の女探偵ヒロインと彼女をダミーに乗り越える貴族探偵(実際には彼の使用人達)のロジック対決。
・「白きを見れば」 諸事象から犯人を指摘するロジックとその瑕疵を訂正するロジックの応酬。(亀井=仮名!)
・「色に出にけり」 アリバイから犯人を指摘するロジックと「より確からしい」訂正ロジックの応酬。
・「むべ山風を」  手掛かりとニセ手掛かりの眩暈のするような錯綜。クイーン「シャム双生児」思い出す。
・「幣もとりあえず」 作中人物を騙しながら読者には真相を告げる「こうもり」同様の捻った叙述トリック。
・「なほあまりある」 証人口封じのための殺人が、他の証人を欺くための偽装を呼び、その偽装が更にもう一つの口封じ殺人を呼び寄せてしまう。
「貴族探偵」では非人間的なまでに超人的だった貴族探偵及び使用人探偵達に、やや人間的な顔が窺えて、最終話では「ん?女探偵やったね!」と思わせといて絶妙なオチ。全体で7点。

No.265 7点 貴族探偵- 麻耶雄嵩 2019/12/29 10:36
捜査のみならず推理さえ行わない究極の安楽椅子探偵。「どうしてこの私が、推理などという面倒なことをしなければいけないんだ・・」あっぱれなセリフ。ずんぐり執事、可憐メイド、巨漢運転手、使用人探偵トリオがよい。

・「ウィーンの森の物語」 密室作成目的のロジック・・➀自殺偽装 ➁「侵入可能なA」への冤罪擦り付け ➂「『侵入可能なA』へ冤罪擦り付けするB」の仕業に見せかける偽装・・眩暈を誘うほどの密室ロジック。「目的➀」及び発覚時の保険としての「目的➂」の為の密室が、ささいな事故から➀のみならず➂の意図さえも見抜かれてしまう。
・「トリッチ・トラッチ・ポルカ」 バラバラ肢体を利用したアリバイトリックと血と雨のロジックによるトリック見破り。
・「こうもり」 作中人物達を欺きながら、読者には始めから「正解を告げる」という、一捻りした叙述トリック。
・「加速度円舞曲」 殺害現場隠蔽の為の死体移動、死体移動隠蔽の為の家具移動、家具移動隠蔽のための・・・ 何重にも連鎖する因果ロジック。
・「春の声」 「AがBに殺され、BがCに殺され、CがAに殺され」ってエッシャーの騙し絵みたいなこういうの好きだ。「隻眼の少女」でも重要な要素だった「右側左側のロジック」がここでも利いている。

※以前「春の声」単体で採点しましたが削除して、皆さんに倣い短編集として登録し直しました。全体で7点。

No.264 5点 読者よ欺かるるなかれ- カーター・ディクスン 2019/12/25 18:41
念力殺人を公言しながら法的無実を主張する超能力者とヘンリ・メリヴェール卿(なんたら総裁というモノモノしい肩書と禿頭巨漢のギャップが良い)の対決。仲間由紀恵「トリック」を連想し、超能力のハウダニットばかりに頭が行ってフーダニット決着に驚く。すっかり「作者に欺かれた」よ「warned=警告された」のに。
でも超能力トリック自体は飛鳥部勝則「レオナルドの沈黙」の方がずっといいな。

No.263 6点 髑髏城- ジョン・ディクスン・カー 2019/12/19 23:54
怪探偵対決・・かたや「サリーちゃんパパ」魔王風貌アンリ・バンコラン、こなたナチと言うよりファシスト党隠れ幹部風ジークムント・フォン・アルンハイム男爵(実にいいなあ、この名前)
ライン河岸に聳えるドクロまんまの古城、髑髏城。伝説の魔術師の怪死、奇怪な名優の焼殺事件。隠し扉に抜け道、怪しさ満載の容疑者たち。ホラーとドタバタ、ロマンスとマザーグース童謡のごった煮。映画絵画超えて蝋人形館紙芝居レベルの高さにまで達したケレン味。これこそジョン・ディクスン・カーの・・・と言うよりミステリ本来の醍醐味。
惜しいことに、カーにとって最も大事な不可能犯罪がないけど大目に見ちゃう。

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レッドキングさん
ひとこと
ミステリは戦前の乱歩の様に 子供が親に隠れてコッソリ読むような、恥ずかしい存在でありたい。 ミステリ書きという驚異的な作業に神経を減らし 結果報われることの無いミステリ作家たちに心から崇敬を捧げます。 ...
好きな作家
ジョン・ディクスン・カー  PD・ジェイムズ  トマスH・クック  沼田まほかる
採点傾向
平均点: 5.25点   採点数: 822件
採点の多い作家(TOP10)
アガサ・クリスティー(88)
ジョン・ディクスン・カー(55)
エラリイ・クイーン(51)
F・W・クロフツ(33)
二階堂黎人(27)
カーター・ディクスン(25)
アーサー・コナン・ドイル(23)
トマス・H・クック(23)
麻耶雄嵩(21)
ジェフリー・ディーヴァー(19)