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レッドキングさん
平均点: 5.26点 書評数: 827件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.467 7点 疑惑の影- ジョン・ディクスン・カー 2021/06/07 20:00
「密室」に毒殺被害者と二人だけでいた容疑者の女。毒物容器の指紋は被害者と容疑者の二種だけで、他に犯行可能な者はいなかった・・・圧倒的に不利な状況から、「密室」を破り、無罪を勝ち取る弁護士バトラー。だが、一人の女の「無罪」は、別の毒殺事件に絡んだ、もう一人の容疑者の女を作り出してしまい・・・弁護士の分際で、血沸き肉躍るスーパーアクション繰り広げる熱血バトラー。フェル、メリヴェールには逆立ちしても不可能なアグレッシブなハードボイルド展開実に楽しく、点数オマケつき。

No.466 3点 さらば愛しき女よ- レイモンド・チャンドラー 2021/06/04 09:46
「愛しき人(My Lovely)」とは、ヴェルマでもグレイル夫人でもなく、巨漢ぬりかべ男:マロイのことであろう。偶然に彼と出会い、一目惚れして追い求め、そして「さらば(Farewell)」を告げた「眠りホモ」フィリップ・マーロウ。彼の「無自覚の同性愛」が、対女関係の隠喩で、ドライに切なく描かれるハードボイルド浪漫。
※古代ギリシアでは「戦士の雄姿」として公然と驕られた同性愛。我が国近世においては乱歩三島等の「禁色の耽美文学」として表現を得られたが、禁欲ピューリタニズム米国では「ハードボイルド」という無意識の表現領域とならざるを得ず・・・ジェイムズ・エルロイ「ビッグ・ノーウェア」に至ってこのテーマの窮極に至り・・・

No.465 2点 大いなる眠り- レイモンド・チャンドラー 2021/06/03 07:28
世界で二番目に有名な探偵、フィリップ・マーロウ第一弾。老富豪から娘の恐喝者と話をつける仕事を引き受け、乗り込んだエロ本屋のオカマ店主が殺され、富豪のお抱え運転手は死体で見つかり、恐喝屋の蜘蛛男が現前で殺され、店主の美形稚児、賭博元締の白イタチ男、情報屋の小男、さらには峰不二子級のエロい女が三人四人跋扈して、筋だけ追うとまるでハードボイルド・・・ん? が、春樹チャンドラーの、修飾過剰な一人称語りとキザに凝り過ぎたセリフが、疾走感にブレーキかけて、「ブンガク(全然やぶさかではないが)」してしまうのね。
※「Go ○○○○ Yourself!(テメえで××××しな!) 」・・・当時はモザイクだったのね、あの四文字言葉。

No.464 6点 墓場貸します- カーター・ディクスン 2021/05/30 21:18
プール水中からの人物消失トリック・・・短編ネタレベルなんだろが、やはり見事。
「野球場の土埃の匂いは、コカインの様に人を酔わせる」か、英国人以前に、米国ヤンキーだったなあ、カーさん。

No.463 5点 時計の中の骸骨- カーター・ディクスン 2021/05/27 22:02
タイトルがいい。舞台装置も素晴らしい・・廃墟刑務所の死刑部屋、移動見世物小屋、鏡の迷路・・ミステリ大道具はかくありたい。ホラーとドタバタの結合、グロテスクな滑稽風味、実によい。犯人像もなかなか。ただ、転落殺人トリックは・・この作より20年前の「孤島の鬼」や10年前の「曲がった蝶番」に半歩劣るかなあ・・刺殺時間トリックは、もっとショボいかなと。 ※メリヴェール卿と伯爵未亡人のバトル大爆笑に、1~2点おまけ付けちゃう。

No.462 4点 煽動者- ジェフリー・ディーヴァー 2021/05/24 18:12
ダンスシリーズ第四弾。言葉とトリックで群衆パニックを引起こし、凄惨な事故に至らせる美形男。犯人の内面サイコ描写からして、お馴染みのメンヘラ殺人鬼キャラのダミー設定で、さて、今回はどんなツイスト?て思っていたら・・あらら、特に捻りという捻りもなく終わってしまい・・まあ、それが肩透かしツイストだったりして。むしろ、ダンス自身の、捜査官として母として女としてのツイスト展開・・ちと、ご都合よろしすぎるが・・の物語が魅力かと。
原題の「Solitude Creek」=「孤独の小川」、主筋の流れから離れた、日系移民の強制収容所エピソードに関する言葉で、何でこれがタイトルに?て思った。 ディーヴァー、日本マーケットでも意識してんのかな?

No.461 4点 シャドウ・ストーカー- ジェフリー・ディーヴァー 2021/05/20 19:22
ダンスシリーズ第三弾。天才シンガーソングライターと彼女に付きまとう超絶ストーカー。歌詞見立て連続殺人?と思わせて、いつものツイスト・・と陽動して、十八番の二重返し・・で終わるはずが、何と今回、驚きの「三重」返し。が、そんだけ、面白いかというと、うーん・・そうでもないんだなあ、ダンスの「透視力」全然冴えないし。
「犯人の名前書いてあんの?」「ジョン ポール ジョージ リンゴてある」・・笑った。 ※ライムトリオがゲスト出演。

No.460 5点 ロードサイド・クロス- ジェフリー・ディーヴァー 2021/05/17 22:59
ダンスシリーズ第二弾。人気ブログのレス書込みでサイコ殺人鬼に仕立られ、逃亡しながら復讐を繰返すオタク少年。「ロードサイド・クロス」て題、何かカーチェイスみたいの連想したが、道路沿いの手作り十字架・・我が国なら路肩の地蔵か野仏・・の事で、犯人のサイコキラー性宣伝の象徴だった。貧困家庭に育ち、スクールカーストでも最下層のニキビ面少年のヒール風味は、「エンプティ・チェア」の「昆虫少年」焼直しで、当然ツイスト展開はミエミエだが、十八番の二重どんでん返しに、ヒロイン母殺人犯疑惑ネタのオマケも付き、期待通りの面白さ。ただ、ダンス「透視力」の必殺具合がいまいち・・・ケムラーともかくベムラーに効かないスペシウム光線て如何なものか・・

No.459 5点 スリーピング・ドール- ジェフリー・ディーヴァー 2021/05/13 17:45
キャサリン・ダンスシリーズ第一弾。脱獄したカルトファミリーのカリスマと手助けする信者の女。対するは、仕草や表情から相手の本性を見抜く「人間噓発見器」のヒロイン捜査官。手に汗握る追いつ追われつのサスペンスで、奥のある人間ドラマもなかなか。でも、ライム物期待しちゃうとねえ。目的‐手段‐主体‐対象の全体性としての物語それ自体を、多重に捻って楽しませてくれるライム「物証分析」推理に比べて、ダンスの「キネシクス」推理、せいぜい、Who(犯人誰?でなく、この人の本性は?)ネタとWhyネタにこじんまり纏まってしまうかな。一つ二つ、模範的古典的な人物トリックあるんだけどね。

No.458 4点 複数の時計- アガサ・クリスティー 2021/05/09 07:34
仕事の依頼を受けて、盲婦人の家を訪れた派遣秘書が発見したものは、刺殺死体とあるはずのない複数の時計だった。婦人の家と両隣り・向い及び斜め両向い、都合六家の位置関係と人物描写から、「赤毛連盟」発展系期待したが、中途半端に・・ポアロの言う「極めて」て程ではない・・単純な真相だった。

No.457 5点 鳩のなかの猫- アガサ・クリスティー 2021/05/07 05:21
卓越した知性感性意志を持ち、冷静な判断力と強かな営業力政治力までも兼ね備えた、スーパーウーマン校長が運営する超高級女子校。女教師連続殺人が、遠いアラブでの宝石紛失事件と絡めて語られる。連続殺人は、犯人が○○となると推理難しいなあ。まして舞台が、屋敷の一族でなく学園にまで広がっちゃうとねえ。
※オリヴァて女作家が作者の「自虐自画像」ならば、あのバルストロードていう女校長、「理想自画像」てとこかな。

てことで、アガサ・クリスティー50年代の長編ミステリ全12作の採点修了したので
私的「50年代アガサ・クリスティー」ベスト3
   第一位:「予告殺人」
   第二位:「葬儀を終えて」
   第三位:「マギンティ夫人は死んだ」

No.456 6点 死者のあやまち- アガサ・クリスティー 2021/05/02 23:40
地方の古豪邸で催された「殺人事件ゲーム」の最中、被害者役の少女が絞殺死体で発見され、館主の妻の幼女の如き女が失踪する。何故に誰に少女は殺されたのか。真相の多重入れ替りネタ、なかなかに良い。トリックのリュック使用方法がカー「妖魔の森の家」方向だったらなお良く。※女作家オリヴァの「アガサ自虐ネタ」風味、相変わらずGood。

No.455 4点 死への旅- アガサ・クリスティー 2021/05/01 12:09
今は昔、まだ共産主義が、楽園幻想と恐怖対象の相半ばの存在だった50年代。失踪する科学者達の謎解明の駒として、西側スパイに仕立てられた自殺志願女。流れ着いた先は砂漠の巨大医療施設・・怪しげな組織とキャラ達・・起と承のミステリアス感は良い。が、転と結が・・・。美味しいがオードブルとスープで終りのフルコースてとこかな。

No.454 6点 エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件- ジョン・ディクスン・カー 2021/04/26 17:18
英国にとって「プロテスタントvsカトリック」てのが、信仰の問題ではなく、権力闘争の問題だと言うのは分かるが、この小説でミステリなのは「何故に、単なる一判事の死が政治利用され得る程に、民衆レベルの熱狂を得られたのか」ダニットにとどめを刺す。(英国は、ナチスドイツのユダヤアレルギー程は極端なカトリックアレルギー発作に至らず、幸運だった。)  歴史事件に正面から立ち向かったアイデアに敬意を表し2~3点加点。
でもやはり、英国歴史ミステリ言うんなら、「Who was Jack the Ripper?」の方に興味が行く。

※法的手続きと証拠証人の「論証」で進められる近代西洋法廷。一見、理性的客観的に見える有罪無罪審判も、こういう(クイーン「フォックス家」「ガラスの村」等含め)の読まされた後では、わが江戸奉行「カンと見込み」捕物と比べ、さして良い物とは思えず、それどころか、「大岡裁き」「遠山金さん裁き」の方がまだマシにさえ見え・・・

No.453 4点 魔術の殺人- アガサ・クリスティー 2021/04/25 17:27
少年院を運営する富豪一族に起きる連続殺人。またも出ました、アガサ・クリスティー必殺技「人間関係トリック」!「十八番」超えて、もはや「伝家の宝刀」と言うべきにあらずや? ちと抜き過ぎだが・・

No.452 5点 バグダッドの秘密- アガサ・クリスティー 2021/04/23 19:29
操りとラスボスWho(見え見えだが)、およびWhatダニットのミステリが、まるでジェフリー・ディーヴァーツイストの源流の様な明るいオプチミズムで泳着する。本来3~4点だろうが、奔放にして聡明なヒロインのエネルギッシュな魅力と、見事なる異邦イラク描写に加点したく。

No.451 4点 仮面荘の怪事件- カーター・ディクスン 2021/04/21 21:29
莫大な資産価値ある名画を飾った屋敷。忍び込み瀕死の重症を負った怪盗の正体は、屋敷の主人だった。当然に保険金目当ての狂言盗難疑惑呼ぶが、絵画に保険は掛けられておらず、主人の経済状態も悪くなかった。Why自分の絵画狙った? Who主人に暴行働いた? いったいWhat起きた? 
※ギデオン・フェル博士とヘンリー・メリヴェール卿の違い。クスりとさせるのフェル、爆笑させるのメリヴェール。

No.450 4点 震えない男- ジョン・ディクスン・カー 2021/04/18 16:19
「幽霊屋敷」を購入した裕福な男が催す幽霊パーティー。「見えない手」がシャンデリアを揺らし、女の足首を掴み、壁に掛かった銃を宙に浮かして殺人を起こす。「それをやっちゃあ、おしめえよ(これ使っちゃあ、どんな「密室殺人」もありだ)」て位のスーパー機械トリック出しちゃって、本来3点だが、操りネタも面白いんで1点加点。

No.449 3点 N・Aの扉- 飛鳥部勝則 2021/04/16 15:00
フェデリコ・フェリーニ「8 1/2」や三島由紀夫「鏡子の家:創作日記」みたいに、「芸術する芸術家(要するにこの俺様)」テーマに半フィクション拵えちゃうと、どんな「手厳しい」自己批判・自己嫌悪も、所詮、自己陶酔・自虐的感傷の垂れ流しになる。ましてや、新人賞後翌年にこんなもん書いちゃあねえ。

 数年・・十年になるか・・待ってはみたが、もう「電撃復活」ないと見限って、
 私的、飛鳥部勝則ベスト3(4)
     第一位:「殉教カテリナ車輪」
     第二位:「誰のための綾織」
     第三位:「ヴェロニカの鍵」
     同三位:「レオナルドの沈黙」

No.448 7点 予告殺人- アガサ・クリスティー 2021/04/14 20:43
悪ふざけとしか思えない「殺人お知らせ」に興味津々釣られ集まる近隣者達。お知らせ時間通りに現前で生じてしまった殺人劇は、事故か自殺で処理されるべきところ、遺産相続をめぐる第二第三の連続殺人へと発展して・・・。
第一殺人のトリック解明や第三殺人のサスペンス展開もなかなかだが、読ませどころは第二殺人の「愛憎悲劇」。
「自分の過去を覚えていてくれる最後の人間がいなくなると、人はひとりっきりになるんです。・・・私の少女時代を覚えている人は、もう誰もいません・・もう、誰も・・・」

※1950年発表作品なので、時代的に、明確には書かれてないが、ヒンチクリフとマーガトロイドって、間違いなくレズビアンのパートナーだよね。この主題、第二殺人にも無意識的に働いていて、クイーン「最後の女」でのこの手のテーマの扱い方よりも遥かに素晴らしい。

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レッドキングさん
ひとこと
ミステリは戦前の乱歩の様に 子供が親に隠れてコッソリ読むような、恥ずかしい存在でありたい。 ミステリ書きという驚異的な作業に神経を減らし 結果報われることの無いミステリ作家たちに心から崇敬を捧げます。 ...
好きな作家
ジョン・ディクスン・カー  PD・ジェイムズ  トマスH・クック  沼田まほかる
採点傾向
平均点: 5.26点   採点数: 827件
採点の多い作家(TOP10)
アガサ・クリスティー(88)
ジョン・ディクスン・カー(55)
エラリイ・クイーン(51)
F・W・クロフツ(33)
二階堂黎人(27)
カーター・ディクスン(25)
アーサー・コナン・ドイル(23)
トマス・H・クック(23)
麻耶雄嵩(21)
ジェフリー・ディーヴァー(19)