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ALFAさん
平均点: 6.67点 書評数: 190件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.14 6点 歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理- 三津田信三 2024/07/06 09:04
刀城言耶シリーズのスピンオフ短編集。
刀城の助手である天弓馬人が無類の怖がりで、持ち込まれる怪異話に必死に合理的な解決を見い出すという趣向。

正編のような緻密なミステリーとホラーのハイブリッドを期待してはいけない。気楽にスピンオフを楽しむのがいい。作者お得意の妙な人名、地名の当て漢字も笑える。
中では表題作がホラーファンタジーとしていい。黄昏の「亡者道」を思い浮かべると納涼になる。

No.13 5点 水魑の如き沈むもの- 三津田信三 2024/04/21 08:29
ホラーとミステリーのハイブリッドが謳い文句の刀城シリーズ。
人気作「首無」や「忌名」は凍るようなホラーと緻密な謎解きが融合した傑作で、このサイトでもすでにレジェンド。

長編第5作となる本作品はホラー描写がややマイルド。起こる怪異も、霊感の強い人物による幻視幻聴とも読める。一方のミステリー部分は犯行実現性(フィジビリティ)が弱い。
導入部が刀城とお仲間キャラの怪異談義というのもツカミとしてはぬるい。
一方、主人公たち母子家族の放浪物語は読みごたえがある。
エンディングもいい。大洪水のあとにまるで虹が掛かるようなエピローグは神話的。
ところでこの方言、何だか違和感があるんだが。

No.12 5点 赫衣の闇- 三津田信三 2023/08/03 14:58
第二章まではプロローグ。終戦直後の闇市を描いて読みごたえがある。
その数年後を描く第三章からが本編。
ミステリーとホラーのハイブリッドが作者の真骨頂だが、この作品では肝心のミステリー部分が継ぎはぎで弱い。
シリーズ第一作のような重厚な本格謎解きが欲しかった。この動機と時代背景なら深い作品になり得たのに残念。

同年に出版された別作品は、ミステリーとホラーを見事に融合させた傑作である。そちらのシリーズの探偵らしき若者がチラッと登場するのは面白い。

No.11 6点 白魔の塔- 三津田信三 2023/07/27 08:03
シリーズ第2作。
今回ははじめから怪異続き。しかもイレコ構造なのでほぼ同じ話が繰り返される。
テンションが変わらないため怖さに慣れてしまう、というかそもそもあまり怖くない。

終盤のタネ明かしはホラーのロジック。しかしとてもパーソナルな「事情」とでも言うべき真相なので、むしろファンタジーとして読むのがいいかもしれない。

それにしても同一シリーズで第一作はガチの本格、第二作はホラーファンタジーというのはどうなんだろう。
終戦直後の混乱と猥雑、地に足のついたストイックな主人公というシリーズキャラを生かして、言揶シリーズとは違うホラー風味本格ミステリーを続けてほしいなあ・・・
さてこれから読む第3作はどうなるかな。

No.10 8点 黒面の狐- 三津田信三 2023/07/26 08:14
満州帰りの青年物理波矢多は筑豊の小駅にあてもなく降り立つ。汽車の黒煙越しに見える茜色の夕焼。まるで映画のような書き出しである。

前半三分の一は事件も怪異も起きない。坑夫として働く主人公や周辺の人々、過酷で猥雑な炭鉱町が生き生きと描き出される。短いセンテンスによる情景描写や人物造形は清張さながら。考証にもとづく戦中戦後の炭鉱事情はとても詳細だが、言耶シリーズでの民俗学の蘊蓄ほど煩わしくはない。巧みに物語に織り込まれている。
そして落盤事故をきっかけに事態は急変する。
以下少々ネタバレ


作者らしい緻密な伏線が張られている。ただ最も重要な伏線は、読者が受ける「印象」としか言いようのない感覚的なものである。
最後の反転もいい。
時おり感じる雨月物語のようなストイシズムとよく響きあう。

メイントリックの強引さを芳醇な物語が補って余りある名作。


No.9 7点 作者不詳 ミステリ作家の読む本- 三津田信三 2023/07/13 09:53
なんだか乱歩風味で楽しい。

作中作の「迷宮草子」は純然たるミステリー短編集。ところがそれを読む者は怪異に襲われ、ミステリーの謎を解くと無事救われるという仕掛け。
作者らしいミステリーとホラーのハイブリッド構成になっている。
ミステリーのキッチュ感と襲われる怪異のベタさ加減が乱歩風味を出しているのか・・・
作中作のなかでは「朱雀の化物」が作者の某有名長編を思わせる叙述で読みごたえがある。

無限地獄を思わせるエンディングは余計だったかも。

No.8 7点 生霊の如き重るもの- 三津田信三 2023/06/26 09:30
「魔偶」「密室」を含め刀城言耶シリーズの短編はどれもホラー風味のミステリーとして気軽に楽しめる。ただこれはという傑作には行き当たらなかった。この作者の世界観で刃のように鋭い短編を読みたいものだ。

中編「顔無」はなかなかの読みごたえだが、この真相は無理がある。これはむしろダミーの捨て解として使った上で、ある想定外の人物を犯人にしたら面白いと思うが・・・

No.7 7点 密室の如き籠るもの- 三津田信三 2023/06/20 10:07
短編三作はホラー風味に合理的な解決をつけるお馴染みのパターンだが、なかでは「迷家」が楽しめる。行商の風俗描写も時代感が味わえて面白い。

長編ともいえる表題作は重厚。精緻な伏線とその回収がダミー解決のために使われるとは何とも贅沢というべきかもったいないというべきか。
先妻の変死や開かずの箱などのおどろおどろしいトピックが回収されないままというのが何とも残尿感に・・・

No.6 7点 魔偶の如き齎すもの- 三津田信三 2023/06/15 08:48
シリーズ長編ほどのねっとりとした重厚感や緻密さはないけど、ホラー風味の謎解きが楽しめる。ただ、本格視点で読むと少し物足りないかも・・・
横溝や清張を思わせる独特の昭和感もよく出ている。
その昭和感についてイチャモンをひとつ。「敗戦」「敗戦後」というワードはあの時代にそぐわない。『終戦』、そして敗戦後でも終戦後でもなくただの『戦後』こそがあの時代の固有名詞なのだ。

No.5 4点 凶鳥の如き忌むもの - 三津田信三 2023/01/17 15:08
トリックが強烈なだけに、それを支える土台つまり「お話」がしっかりしていないとリアリティが出ない。
名作「首無」や「忌名」に比べるとこの作品は動機、人物描写、時代感といったお話部分が物足りない。

たとえば時代感。ここは横溝流の濃い昭和感が欲しいところだが、真知子巻きをわざわざ現代人向きに解説したり、Gパンがジーンズになってたりと平成感が丸出しになっている。
「とある昭和の卯月」の手記のはずが、平成の視点になっていて興ざめ。 
ディテールに神が宿っていないのだ。

余談だけどファッションアイテム名って時代性がよく出るよね。
昭和のGパン、平成のジーンズ、令和ではデニム。チョッキ、ベストまあジレは特殊かな。
ズボン、スラックス、パンツ等々。
「今日はスカートをやめてパンツで街に出た・・・」なんてことのない文だが、昭和の記述ならとんでもないことに・・・

No.4 6点 厭魅の如き憑くもの - 三津田信三 2022/07/15 10:18
「首無」や「忌名」といった名作を先に読んでいるため、どうしても辛口になる。
シリーズの第一作だが、作者が創りたい世界観が早くも現れている。
この世界観や構成上の個性は最新作「忌名」に至るまで変わらない。

文体はまだ生硬で、一人称三人称ともに説明的。同じ世界観を持つ横溝正史の饒舌にして滑らか、芳醇な文体には及ばない。

叙述の「視点」による違いは非常に面白い。



No.3 10点 忌名の如き贄るもの- 三津田信三 2022/03/24 14:39
シンプルなプロット、逆説に満ちた禍々しい動機、意外過ぎる犯人。世評高い「首無の如き祟るもの」をしのぐオールタイム級の名作だろう。

少しネタバレします。



本格ミステリーであったはずが、最後の一行でホラーのロジックが通ってしまい、それにあわせて冒頭第三章までの怪異体験がきれいに回収されるという構造は見事。
あえての難は殺人手法と凶器の隠滅に偶然性が残ること。ここが確実で強烈なものであったら文句なしだった。
ところで「先輩」の二度目の結婚はなぜ可能になったのだろう。事情が判明した今回は母親は猛反対したはず。本筋と関係無いようだが、この意識がすべての発端だから何らかの補足は欲しいところ。

初期の作品に比べて文体は格段に読みやすい。なお、民俗学の蘊蓄はいささか詳しすぎて読み飛ばしたが、ここは好きずき。周辺キャラのドタバタはもうやめたらどうだろう。せっかくの世界観を損なっているように思えるのだが。

文庫化にあたっては例によって地図をつけてほしい。

No.2 7点 山魔の如き嗤うもの- 三津田信三 2022/03/21 11:39
前作に比べて文章は格段に読みやすくなっている。
ネタバレします。




数多い目撃証言が、語る人物によってあいまいだったり恣意的だったりするのは当然で、それを裏読みしながら謎を解くのがミステリーの醍醐味だから問題はない。ただ冒頭に置かれた刀城言耶の「はじめに」にアンフェアぎりぎりの記述があるのはあまりにセコいミスリードで好ましくない。

まずは一家消失の大トリックが痛快。これにもダミーの解釈がつくのは楽しい。
一方、真犯人については、お約束の反転そのものは意外性があっていいが、動機が「金鉱狙い」から「個人的仕返し」へと卑小になってしまうのは残念。何より犯行の幇助者(消極的な共犯)を必要とすることで、ミステリーとして弱くなってしまう。

登場人物のキャラ立ちや、メタ部分を含めた反転の衝撃度は前作「首無の如き祟るもの」ほどではないが、読み応えのある長編です。

No.1 10点 首無の如き祟るもの- 三津田信三 2022/01/26 11:20
ある一つのたくらみを知ることで、レース編みのように展開された伏線が一斉に回収される快感は、まさにミステリの醍醐味。と、ここまではホラーテイストの本格ミステリ。
ところが最後のメタミス部分を含めると、本格ミステリを内包する現代ホラーにもなる。どちらにしても読み応え十分。
ただ私のようにシンプルなトリックと大胆に反転するプロットが好きな読者にとってはいささか要素が多すぎる感が・・・

そこで、私好みの改変を…
1. 最後の怒涛の反転のうち、斧高の分をカット。
2. 本筋に関係ない刑事による連続殺人をカット。
3. 第23章の読者投稿による推理と刀城の出現部分を大幅圧縮。 
4. 因縁話のうち淡媛を残し、お淡をカット

これで、本格ミステリを含んだ現代ホラーに。
さらに、最後のメタミス部分をすべてカットし、淡媛の謎解きで〆ると、ホラーテイストを残した本格ミステリになると思うが如何?
作者には失礼ながら、個人的には最後の改変を横溝御大の筆で読めれば最高だが。


(少しネタバレ)
この作品、人物のキャラ付けがなかなか楽しい。それぞれの人物に焦点を当てると物語はまた別の様相を見せる。

1.斧高のシンデレラストーリーとして
使用人から旧家の跡取りに、そして没落の気配を感じると脱出して新進作家へ転身。刀城は「祟りからは逃れられるんだろうか…」と言っているが、ナニ心配はいらない。「御堂の中には首がある」というタイトルで新人賞をとったのだから、むしろ祟りに護られているようなもの。そのうち「生首の如き・・・・」なんていう連作で人気作家にのし上がる予感も・・・・

2.蔵田カネ vs 一枝刀自の呪術合戦
当主富堂をしのぐラスボス感をただよわせる二人の婆様。十三夜参りでは、孫を操って一守家の跡継ぎを抹殺した一枝刀自の勝ち。二十三夜参りのあとは、隠し玉斧高をくり出した蔵田カネの勝ち。しかし結局両家ともに没落するのだから、共倒れか・・・


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ALFAさん
ひとこと
物理的な合理性、心理的な整合性、生き生きとした情景描写などがバランスした作品が好きです。
好きな作家
アガサ クリスティー、クリスティアナ ブランド、連城三紀彦、G.K.チェスタトン
採点傾向
平均点: 6.67点   採点数: 190件
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