皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
ALFAさん |
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平均点: 6.67点 | 書評数: 190件 |
No.14 | 7点 | 前夜祭- 連城三紀彦 | 2023/07/22 08:54 |
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ミステリー(不思議)はいつも犯罪を伴うとは限らない。人の心、その動きそのものが大いなるミステリーだから。クリスティはウェストマコット名義で名作を残したが、連城は筆名を変えることなく愛憎のミステリーを多く残している。
「前夜祭」は夫婦や家族間の謎を描いた8編からなる心のミステリー短編集。 お気に入りは表題作のほか「それぞれの女が」「薄紅の糸」。かなりアクロバティックなプロットが荒唐無稽に堕ちないのは登場人物の造形が確かだからか。 |
No.13 | 7点 | 黒真珠 恋愛推理レアコレクション- 連城三紀彦 | 2023/03/07 08:37 |
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数か月前に出たばかりの、連城最後の新刊と銘打たれた単行本未発表の拾遺集。短編6編とショートショート8編。どれも連城らしいというか連城しか発想できないような作品ばかり。
お気に入りは恋愛ミステリ「黒真珠」と、ミステリ風味の「ひとつ蘭」。 「黒真珠」は真相が明かされると、それまでのセリフの一つ一つが一瞬にして色合いを変える、連城お得意の反転もの。 「ひとつ蘭」はあるきっかけでOLから旅館の若女将に転身した女の「恋愛根性ものミステリ風味」。昭和の人気ドラマ「細腕繁盛記」を連想する。と思ったら、掲載時の副題が「新・細うで繁盛記」だった。長編のような読みごたえ。 続く「紙の別れ」はその7年後を描く続編で面白い趣向だが、まあ余計かな。 ところで短編とショートショートでは小説作法が違うことに気づいた。 いい短編は起承転結あるいは起承結が手際よくまとまっているのに対し、いいショートショートは起承転としてあとは余韻となっているように思う。短歌と俳句の違いみたいなもんか。 ショートショートではあえてオチらしきもののない「花のない葉」が面白い。 どれも連城ファンなら読んで損はない。 |
No.12 | 5点 | 小さな異邦人- 連城三紀彦 | 2023/03/04 17:36 |
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表題作を含む8編の短編集。
どれも連城らしい短編だが、本画ではなく習作を見るような感じがする。 着想に比べて話の展開がいまいち切れ味に欠ける。 中でも表題作はとても面白いアイデアなのだが、プロットが説明的になってしまっているのが残念。 いつもの流麗な文体と大胆な構成で読みたかったなあ・・・ |
No.11 | 5点 | 運命の八分休符- 連城三紀彦 | 2021/08/02 08:34 |
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それぞれ「ショウ子」と音読みできる女性を主人公にした5編の連作短編。コミカルな造形の素人探偵軍平が活躍する。
いずれも作者らしい反転の利いた本格構成で、その部分では楽しめます。 個人的には軍平のキャラ付けがわざとらしく、軽妙さが感じられない。むしろシリアスな造形の方が味わい深いミステリーになったはず。コミックはこの作者の柄ではないと改めて思いました。 |
No.10 | 6点 | 瓦斯灯- 連城三紀彦 | 2018/04/23 10:07 |
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表題作を含め5編からなる短編集。
恋愛小説と評されるが、私は恋愛仕立ての犯罪のないミステリとして楽しめた。 時間のトリックや若すぎる柄の着物など、具体的な要素がある分、ウェストマコットよりクリスティに寄っている。 フェイバリットは「花衣の客」。これに過去の犯罪の要素を加えたら面白い本格ミステリになるなあと考えながら読むと楽しい。 それにしても「親愛なるエス君へ」は異質。「夕萩心中」の中の「陽だまり課事件簿」もそうだったが、統一されたトーンを持つ短編集に全く異質なものを入れる出版社の神経がわからない。 版権の問題もあるのだろうが、短編集はそれ自体が一つの作品であるとの意識をもって編んでほしい。 |
No.9 | 6点 | 美女- 連城三紀彦 | 2018/04/04 14:48 |
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連城三紀彦らしい反転が楽しめる8編からなる短編集。
共通するテーマは人間の外側と中身(?)の乖離とでもいうか・・・ フェイバリットは「夜の二乗」。もう少し長い尺で主人公の虚無感を丁寧に描いたら「戻り川心中」のような読みごたえのある中編になっただろう。 「美女」は男女の心の綾はとても味わい深いのだが最後のオチが物足りない。 「喜劇女優」は作者らしい技巧の粋を尽くした作品だが、ストーリーがトリックの説明となってしまっているため、読み疲れする。「幻戯」を連想したが中井英夫ならこのテーマで魅力的なダークファンタジーに仕立てただろう。 以上の3編と「夜の右側」が評点8から7。他の4編が評点5から4。 |
No.8 | 7点 | 顔のない肖像画- 連城三紀彦 | 2017/03/25 16:16 |
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七編の短編集。どれも反転に次ぐ反転で連城ワールド満載。表題作以外は短いがどれも最後の反転に向かって精緻に組み立てられている。余分なドラマ性はない分読みやすい。
その点で「夜よ鼠たちのために」より洗練されている。 フェイバリットは「顔のない肖像画」。 もう少し現実的にして長編にしたらきっと面白いだろう。 |
No.7 | 7点 | 落日の門- 連城三紀彦 | 2017/03/13 18:11 |
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未遂に終わった架空の2・26事件を背景に、将校たちやその関係者を主人公にした五編の物語。
話はそれぞれ完結しているので短編集ではあるが、人物は相関があり因果もつながっているのでむしろ長編として読むべきか。 ただ五編すべて、そのオチが人間関係の反転なので、少々飽きる。 中では、「家路」がやや異質。時間軸のひずみもあるので、ミステリというよりは中井英夫風の幻想小説として読んだほうが無理がない。 短編としてのフェイバリットは「落日の門」。 |
No.6 | 9点 | 宵待草夜情- 連城三紀彦 | 2017/03/07 15:57 |
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表題作を含めた5編からなる短編集。
明治から昭和(戦後)までを舞台にしている点で「花葬」シリーズにも比べられるが肌合いは少し違う。 評点は「能師の妻」7、「野辺の露」6、「宵待草夜情」7、「花虐の賦」10 、「未完の盛装」8 表題作はミステリ風味の恋愛小説。殺人については「殺したのは**であろう。」の一文のみで終わっている。 マイベストは、構えの大きさ反転の鮮やかさからも「花虐の賦」。 名作「戻り川心中」同様、肥大化した自我を持つ人物がキーになるが、真相が明かされてもあれほどストンとは腑に落ちない。この人物が現世的な成功者、つまり「リア充」そのものだからだ。 この人物の心がもっと危うい均衡の上に成り立っていたら、そしてそれがプライドとともに崩れ去ったとしたら「戻り川心中」と並ぶ名作になっていただろう。 それにしてもこの作者、重厚な主題を惜しげもなく短編にまとめるのはすごい! 「花虐の賦」や「能師の妻」など長編で書いてくれれば谷崎のような読みごたえがあっただろう。短編でも十分ずっしりしているが。 |
No.5 | 6点 | 夜よ鼠たちのために- 連城三紀彦 | 2017/03/06 15:55 |
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アクロバティックな反転を駆使した9編。
ここまでくるとリアリティは横において論理の曲芸を楽しみたい。 評点は「二つの顔」「過去からの声」が7、「奇妙な依頼」「夜よ鼠たちのために」「代役」が6、他は5。 表題作は長編にしてもおかしくない構成と大きな反転は見事だが、犯罪のもとになる行為が陰惨で後味が悪い。 フェイバリットは「過去からの声」。後味すっきりというほどでもないが。 |
No.4 | 5点 | 夕萩心中- 連城三紀彦 | 2017/03/06 10:49 |
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(若干のネタバレ注意)
花葬シリーズの3編とコメディタッチのミステリ1編で、短編集としてのまとまりはない。 評点は「花緋文字」5、「夕萩心中」6、「菊の塵」4、「陽だまり課事件簿」5。 「夕萩心中」はこのシリーズらしい抒情的で重厚な作品。構図の反転も申し分ないのだが基本的なところで腑に落ちない。 心中というのは魂の純化の行為である。そこにこんな大きい不純物(不純な動機を持った嫌悪すべき人間)を伴うことはあり得ないと感じてしまう。 物理的にはともかく心理的には受け入れがたい「解」である。 「菊の塵」にはわからないところがある。何のために死者の服を着替えさせたのか? どなたか解説してくれませんか? 「陽だまり課事件簿」はミステリとしてはともかく、ドタバタぶりがイタい。「どうです面白いでしょう?」と言われながら読んでるようで困ってしまう。 ドタバタはこの作者のキャラではないということか。 |
No.3 | 5点 | 恋文- 連城三紀彦 | 2017/03/06 10:17 |
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連城三紀彦「恋文」・・・字面を見るといささか気恥ずかしいが、中身は上質でやや薄味の人情噺5編。ミステリではない。
評点は「恋文」5、「紅き唇」6、「十三年目の子守唄」4、「ピエロ」5、「私の叔父さん」5 フェイバリットは「紅き唇」。謎解き(らしきもの)もあって後味はいい。 いずれにも読み手の予想を超えた「無私」の人物が登場する。 世の中に100%「無私で善意の塊」という人間はいないのだから、彼、彼女らを「無私」たらしめている「何か」がキモになると思うのだが、「紅き唇」以外はそれが希薄であるか、または無理がある。 「ピエロ」に至ってはそれが全く描かれていない。したがって読後はただむなしさだけが残る。 その「何か」が描かれれば深い話になると思うのだが。 ピエロもメイクを落とせば生身の人間になるはずだから。 |
No.2 | 8点 | 変調二人羽織- 連城三紀彦 | 2017/03/05 10:42 |
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作者自身のあとがきにもある通り、ぎりぎりまで犯人がわからない五つの短編。
評点は「変調二人羽織」8、「ある東京の扉」6、「六花の印」10、「メビウスの環」6、「依子の日記」8 フェイバリットは「六花の印」。明治と現代のカットバック構成が最後に辻褄が合うのが見事。トリックは物理的にきわどいが。 他は「メビウスの環」は怒涛の反転攻勢、「ある東京の扉」はミステリ風味のコメディ、とそれぞれ持ち味が違うのは楽しいが表題作を含めてやや「とっちらかった」印象は否めない。 表題作の美文調に名作「花葬」シリーズの予兆を見ることができるが。 |
No.1 | 10点 | 戻り川心中- 連城三紀彦 | 2017/03/05 09:53 |
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連城三紀彦はそのケレン味たっぷりなペンネームに恐れをなして敬遠していた。
もっと早く読めばよかった。 大正から昭和初期の時代設定、花をモチーフにした抒情的な五つの短編は、いずれも大仕掛けな構図の反転によって見事なミステリーになっている。 お気に入りは「戻り川心中」「藤の香」「桔梗の宿」。 表題作は、真の動機が明かされた瞬間、犯人の才能と肥大化した自我のありようが腑に落ちて、謎解きだけではなく文学創作の本質をも問う作品である。 「桐の棺」はチェスタトン張りの逆説的なトリック、「白蓮の寺」は構図の反転がともに見事だが、心理的にしっくりこない。 つまりこのような犯人がこの動機でこの犯罪をするか?と思わされる。 ディテールが美しいだけに残念。 |