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ALFAさん
平均点: 6.70点 書評数: 160件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.100 4点 蒼ざめた馬- アガサ・クリスティー 2023/01/20 09:25
霧のロンドン、臨終の信者の告白を聞き取った神父が殺される。残されたメモには9人の名前が・・・
申し分ない導入部だ。
しかし謎の犯罪組織がちらつきはじめて何やら悪い予感が・・・
ポアロもミス・マープルも「犯罪組織」が出てくる作品は駄作凡作揃い。そして残念なことに予感は大当たり。
突っ込みどころはたくさんあるがなんと言ってもラスボスがショボイ。あの人物の器で精緻な犯罪組織を統括できるわけがない。クリスティの傑作には欠かせない「名犯人」の対極にある。
おそらく、捜査小説形式にして嘱託殺人システムの暴露を最後に持ってきたらマシになったのかも知れないが、それはクリスティの得意とするところではないのだろう。

あえての読みどころは若い探偵役二人の活躍ぶり。トミーとタペンスばりで楽しいが、これもダークな主題と妙にチグハグ。冒頭のバナナ・ベーコンサンドイッチみたい(食べたくない!)

まあクリスティ研究でもしないかぎりスルーしていい作品だと思います。

No.99 5点 シタフォードの秘密- アガサ・クリスティー 2023/01/17 15:45
冒頭から降霊会という魅力的なモチーフが出てくる。
しかしクリスティはオカルト方向には向かわないことがわかっているから、その時点で犯人の見当がついてしまってガッカリ。

トリックは日本の風土からすればショボイが英国ではレアだというならまずまず。
でもクリスティ作品に求めたいのは濃密な人間関係の描写やその反転なので、これはものたりない作品だった。
八つ当たり気味に言うと何だか昭和日本のいわゆる「本格」を読んだ気持ち。

でも若い探偵役二人の活躍はトミーとタペンスみたいで楽しい。

No.98 4点 凶鳥の如き忌むもの - 三津田信三 2023/01/17 15:08
トリックが強烈なだけに、それを支える土台つまり「お話」がしっかりしていないとリアリティが出ない。
名作「首無」や「忌名」に比べるとこの作品は動機、人物描写、時代感といったお話部分が物足りない。

たとえば時代感。ここは横溝流の濃い昭和感が欲しいところだが、真知子巻きをわざわざ現代人向きに解説したり、Gパンがジーンズになってたりと平成感が丸出しになっている。
「とある昭和の卯月」の手記のはずが、平成の視点になっていて興ざめ。 
ディテールに神が宿っていないのだ。

余談だけどファッションアイテム名って時代性がよく出るよね。
昭和のGパン、平成のジーンズ、令和ではデニム。チョッキ、ベストまあジレは特殊かな。
ズボン、スラックス、パンツ等々。
「今日はスカートをやめてパンツで街に出た・・・」なんてことのない文だが、昭和の記述ならとんでもないことに・・・

No.97 7点 ポケットにライ麦を- アガサ・クリスティー 2023/01/06 09:53
列車での登場シーンから手紙を読むエンディングまで、とにかくミス・マープルがカッコいい。
唯一残念なのは犯人との直接対決がなかったこと。ポアロと違って描きにくいだろうが、ここはやはり一騎討ちで犯人を破滅させてほしかった。

犯罪の真相を把握しながらも自らは動かないある登場人物を描くことで、ストーリーに奥行きが出ている。
過去の因縁話は結構重要なのだが関係する人物の描写が淡白なのは残念。

No.96 6点 厭魅の如き憑くもの - 三津田信三 2022/07/15 10:18
「首無」や「忌名」といった名作を先に読んでいるため、どうしても辛口になる。
シリーズの第一作だが、作者が創りたい世界観が早くも現れている。
この世界観や構成上の個性は最新作「忌名」に至るまで変わらない。

文体はまだ生硬で、一人称三人称ともに説明的。同じ世界観を持つ横溝正史の饒舌にして滑らか、芳醇な文体には及ばない。

叙述の「視点」による違いは非常に面白い。



No.95 6点 ビブリア古書堂の事件手帖- 三上延 2022/06/28 11:49
ささやかな日常の謎解き短編集かと思いきや、終盤になってダークな犯罪に収れんする構成はとても面白い。
マニアックなビブリオファイルの生態もなかなかツボです。
ただ文章は読みやすいが平板で、情景や心理の機微を味わうには至らない。

No.94 9点 虚無への供物- 中井英夫 2022/05/31 13:14
数十年ぶりに再読

作家の顔と作品との関係はなかなかに面白い。松本清張の総髪とタラコ唇は作品の重苦しい昭和の雰囲気に釣り合っているし、連城三紀彦の端正な風貌は精緻を極めたプロットに似つかわしい。
さて中井英夫だが、ポートレートを見る限り謹厳な大学教授か法律家のようだ。ところがその代表作「虚無への供物」はいきなりゲイバーのショータイムから始まり、美少年たちのチャラいおしゃべりへと続く。文章は会話体も多く、時代特有の文物や風俗を今風に読み替えるとBLノベルのようにスラスラ読める。
一方、随所にちりばめられたペダントリーは作者の風貌にふさわしくとても深い。まずミステリーの古典は押さえていないと楽しめない。品種名や作出者名が出てくるバラや戦前から戦後にかけてのシャンソンも結構大事なキーになる。したがって厭味な言い方をすれば人を選ぶ作品でもある。

ネタバレします



初読のときは作者のアンチミステリという解説を真に受けて、ミステリーの体裁で人間の死の意味を問う哲学的な純文学であると理解した。まあそれでも間違いではないのだろうが、数十年たって再読すると、まずはごくまっとうな読みごたえのあるミステリーという感じがする。
哲学的な動機や社会的な問題提起がミステリーの枠の中に巧みに落とし込んである。安直に「トラウマ」を動機にしたミステリーが横行する今となっては奇書どころか「哲学派ミステリー」の名作と呼べるのではないか。
そのうえで「戦後」という奇怪な時代の全体小説にもなっているのがすごいところ。

途中出てくるダミーの謎解きがあまりに多いこと、唯一の女性である久生がウザいこと、塚本邦夫が監修した八田の大阪弁があまりにオーセンティックで上方落語のようであることを減点してこの評価。
冒頭、ショータイムの黒いカーテンが開いて物語が始まり、最後は屋敷の辛子色のカーテンが閉じて(完)となる、この様式美も中井英夫の真骨頂。

No.93 8点 悪夢の骨牌- 中井英夫 2022/05/29 08:55
「悪夢の骨牌」はマニエリスムを極めた中井英夫の連作短編集四部作「とらんぷ譚」の第二作。四作の中ではミステリー的味わいがあるほうだが本質は「時間」をモチーフにした幻想小説である。

中でもお気に入りは「緑の時間」で、昭和48年の夏、謎めいた優雅な女性が新婚当時の自分に会いに行く話。戦後まもなくと高度成長期、二つの時代の風俗と心理をディテール細かに描くことでタイムトリップのリアリティを出している。
出版からおよそ半世紀たった今、この本を手に取るとテキストの『現在』である昭和48年がはるかな記憶として甦り、主人公のさらに二倍近い年月をタイムトリップする思いにとらわれる。とすれば美しく装丁されたこの一冊は小さなタイムマシンに他ならないのか。

もし愛書趣味をお持ちなら平凡社の初版がおすすめ(たいして高くない)。限定本ならぬ通常出版にもかかわらず、スリップケースに収められたハードカバーはサテンクロス装、箔押し、本文二色刷り。外箱、口絵、トビラ、さらには各短編のタイトルページにも建石修志の挿絵が入るという凝りに凝った装丁で、この時代の出版文化の高さを感じます。
四部作それぞれに黒、深緑、ワイン、赤のクロス装が見事。




No.92 6点 堪忍箱- 宮部みゆき 2022/04/19 08:28
8編からなるノンシリーズ短編集。茂七親分は出てこない。
ミステリー風味やホラー風味のものもあるが基本は素の人情噺。
筆は滑らかで読みやすいが切れ味はさほどでも・・・

中では「敵持ち」がミステリー的解決を伴っていて面白い。
エンディングも味がある。

No.91 7点 香菜里屋を知っていますか- 北森鴻 2022/04/14 17:15
お気に入りのバーは自分の財産だと思っているので、この世界観は大好き。香菜里屋にも香月にも行ってみたいなあ。
シリーズ最終巻というのは承知でこれを先に読んでしまった。そのうちさかのぼって第一巻から読んでいくか。

本格的な謎解きではなく、謎を肴に酒を飲むといった風情。

お気に入りは「ラストマティーニ」。老バーテンダーが作る完璧なクラシックマティーニがその日に限って不出来だったのは?・・・
マティーニだけあって辛口で逆説に満ちた動機がいい。
私はひとひねり前のケレン味たっぷりな動機でもいいとは思うが・・・

ただし谷川への香月の「頼むよ、爺さん。少し濃いめに」はあり得ない。
客として入っても同業者にこんな言葉遣いはしない。まして相手が先輩バーマンなら尚更。

シリーズ最終巻としてのエンディングも味わい深い。

No.90 7点 虚栄の肖像- 北森鴻 2022/04/13 13:32
「深淵のガランス」に続く、天才的な絵画修復師五月恭壱(さつききょういち)を主人公とする第二作。
主人公のキャラも、絵画修復や絵画取引、贋作問題といったほの暗い世界観も大変に魅力的。

中編三篇の構成だが、それぞれにプロットの工夫があって変化はついている。
それでも同工異曲に見えてしまうのは、登場人物が重なるためだろう。主人公とその相棒はいいが、周辺人物や仕事の依頼人まで同じでは世界が拡がらない。
謎の中国人富豪や大物政治家などはごくたまに登場させてこそ効果的だったと思うが・・・

作者が若くして亡くなったのは残念。ダークで独特の輝きを放つ世界をもっと見せてほしかったなあ。

No.89 5点 おまえさん- 宮部みゆき 2022/04/12 09:58
作家の個性は失敗作にもよくあらわれる。宮部みゆきは筆がよく走る。湧いて出るような表現は心に刺さる名文にもなるが、時にはあふれかえって過剰になる。この作品ではすべてが過剰である。

過剰その1.   
長い!ひたすら長い!シリーズ第一作「ぼんくら」が上下合わせて600ページ余り。一方この「おまえさん」はなんと上下合わせて1200ページ。しかも前作のような連作短編+長編ではなく、まんま長編。
とくに、弓之介によるエルキュール・ポワロばりの謎解きシーンや終盤の捕り物場面が冗長で興をそぐ。ここはキリっと引き締まった緊迫感が欲しいのに。
過剰その2.  
作者は男の顔の美醜にフェティッシュな興味でもあるのだろうか。言及があまりにも過剰で辟易する。弓之介の美しさに関しては「ひいきの引き倒し」レベル。一方、若手の同心間島信之輔の醜さについてはイジりすぎ。生真面目なキャラはさわやかなのだから無骨な青年くらいでいいではないか。
過剰その3.  
キャラが増えすぎた。間島信之輔と傷の太刀筋を見抜いた本宮源右衛門はいいとしても、弓之介の兄淳三郎は中途半端。キャラは魅力的だが行動は大店の三男坊としては不自然。

さて、ストーリーだが、一見関連のない三人が同じ太刀筋で殺される。調べてみるとそのうち二人には過去に関連が・・・
ミステリーとしてはなかなか魅力的なプロットだが途中であまりにも都合のいい告白が飛び出して・・・ 

とはいうものの人情噺としては十分に楽しめる。なんといってもキャラは立っているし筆は滑らかだ。

スピンオフでいいから、代替わりした美形同心井筒弓之介の活躍を書いてくれないかな。くれぐれも短編で。


No.88 8点 深淵のガランス- 北森鴻 2022/04/09 11:14
表題作のみの評価

天才的な絵画修復師を主人公にしたサスペンス3編。美術や絵画修復の蘊蓄がたっぷりで独特の世界観が楽しい。(興味があれば)
画商たちによる怪しげな絵画取引や贋作問題などは松本清張の作品を思い起こさせる。
主人公のキャラや物言いはハードボイルド風でいささか非日常的だが、濃い設定のためか不自然にはならない。
お気に入りは表題作「深淵のガランス」、辛口のエンディングが効いた上質のサスペンス。サスペンスに村山槐多が出てくるなんて世の中も変わったものだ。「血色夢」はハードボイルド風味、「凍月」は薄味だが読後感すっきり。

それにしてもこれだけの知識、作者もお勉強大変だろうなあ

No.87 8点 けものみち- 松本清張 2022/04/07 15:00
数十年ぶりに再読した。
重厚なクライムノベルで謎解き要素はあまりない。
善人は一人もいないから何が起きても安心して楽しめる。

「社会派」の代表作だが、知られる通りこの「社会派」という区分は清張人気の高まりに伴ってあとから作られたもの。だから清張自身はそんなことは意識せず、単に人間社会の生々しい実態をモチーフにしてリアリティを出そうとしたのだろう。一方、清張以降の作家は既存の「社会派」なるレッテルを否応なく意識しながら書くことになる。そのため時にはプロパガンダのような異形の社会派ミステリーが出てきたりする。私はカードローンをモチーフにした有名ミステリーの巻末に、多重債務者救済窓口が案内されているような実態に非常に違和感を覚える。

海外作品には存在しない「本格」「社会派」などという区分けはそろそろやめたほうが日本のミステリー界のためにもいいと思うのだが。

起伏に富んだストーリーなので何回かドラマ化されている。民子は池内淳子も名取裕子もアリだが、小滝は一流ホテルの支配人で、洗練されたエゴイストというなら池部良しかないだろう。髭を生やした山崎努や佐藤浩市ではマンマ悪党だよ。
近年のドラマは昭和の匂いがないからノーコメント。

No.86 6点 日暮らし- 宮部みゆき 2022/04/06 08:36
短編四作と長編「日暮らし」+ エピローグの構成。
「ぼんくら」の続編で、登場人物も話もつながっているので順に読むほうがいい。

短編はミステリー風味の人情噺として楽しめる。
表題作「日暮らし」は「ぼんくら」のメインテーマである湊屋の因縁話の続編。重要人物が殺されて湊屋の深い闇が明らかになるかと思いきや、意外な犯人というよりは唐突な犯人で肩透かし。
捕物シーンもドラマチックにはならずお祭り騒ぎのようで興をそぐ。

ミステリーではなく起伏のある人情噺として読む分には楽しい。筆は滑らかだし人物のキャラは立っている。
弓之助は出来すぎだが、あざといほどのお利口ぶりがかえって井筒平四郎の大人の知恵の深さを引き立てている。
今回印象に残るキャラは、無口な同心佐伯錠之介と機微をわきまえながらも情に厚いお徳
反対にがっかりキャラは湊屋総右衛門。闇を抱えたラスボスかと思いきや、勿体つけても所詮は身から出たサビに振り回される色好みオヤジだった。

No.85 6点 きたきた捕物帖- 宮部みゆき 2022/04/04 22:20
宮部みゆき最新の時代物ミステリー4編。
定評の「初ものがたり」などに比べるとミステリー風味も文章も軽く薄味である。

薄味その1.主人公がまだ若くプロの十手持ちではないため、社会のダークサイドに切り込むにはどうしても迫力不足。そのため謎解きもいささか締まりのないものになる。

薄味その2.宮部の人気作には心に刺さる言い回しがいくつかあるものだが、この作品には見当たらない。文章は読みやすくなめらかではあるが。
例えば「・・・こうした封印話は、こっちがいくら蓋をしようと思っても、蓋のほうから開きたがることがある。蓋は蓋の身で、長く口をつぐんできたことに疲れているのだろう。」( ばんば憑き「お文の影」)。古い秘密が漏れてしまうたとえとして見事な表現で、これだけでも作品を読んだ価値がある。
一冊の中で二、三か所はこれくらいの表現にめぐり合いたいものだ。

シリーズ化されるようなので、北一の成長とともに迫力が増すことを期待する。
なお、帯の「謎の稲荷寿司屋の正体が明らかに⁉」は誇大広告。すでに推測していること以上のものはない。



No.84 8点 八つ墓村- 横溝正史 2022/04/01 08:45
横溝作品は数多く映画化されていて、おどろおどろしいビジュアルが記憶に残るが、原作にはホラー要素はあまりない。骨格は本格ミステリーだ。

この作品も、有名な懐中電灯の鬼姿で殺しまくるのは導入部の因縁話で、本編では粛々と毒殺が進む。
そのわりに前半やや盛り上がりに欠けるのは読者側に情報が少ないためだろう。どう興奮していいかわからないのだ。
殺しの手掛かりやダミーの容疑者などがもっと提示されていればいいのだが。

文体は読みやすいし、キャラはしっかりと造形されている。特に横溝にしては珍しく女性三人が魅力的。
金田一が、殺人メモに便乗した犯人のミスを指摘するところなど、ミステリー的感興をそそるディテールもある。
ただ、モーレツなスピードで次々殺されていく割に手掛かりは少なく、金田一は最後まで脳天気だから、まあ謎解きミステリーというよりはサービス満点のエンタメスリラーと見るのが正解だろう。
その視点からするとなかなかの名作。

No.83 9点 ぼんくら- 宮部みゆき 2022/03/29 16:16
ミステリーの読書歴は長いが自分の好みを認識したのはわりあい最近のこと。
それまであまり手を付けなかった「本格、新本格」の有名作を読んでほとんど楽しめなかったことに我ながら驚いた。ロジックやトリックは精緻でも文章は平板、キャラ造形は浅くてげんなりさせられるものが多かった。
逆に言うと起伏のあるストーリーを練達の文体と深い人物造形で読めれば、別に犯罪なんか起こらなくてもいいなーと思ってしまうのだ。

ネタバレします。



この作品はまさにそれ。周辺部分で殺人は起きるが、大仕掛けの謎そのものは結果的に犯罪には結びつかない。
短編と見せかけて、次第にそれらが関連し謎が深まっていく構成は見事。
よくこなれた文体も楽しい。ときに興が乗って書きすぎるのはこの作家の癖だが。
人物の造形もいい。大人たちは心の綾がしみじみとするし、子供たちはかわいい。弓之助とおでこの異能ぶりは結構シュールなのだが妙になじんでしまう。

そうはいってもせっかくこれだけの謎を仕掛けたんだから、その根底にダークな犯罪が存在してほしかったとは思う。湊屋総右衛門はもっと心に深い闇を抱えた人物でもいい。

他の作品でも見かけたが、作者は夕暮れを「彼誰時(かわたれどき)」としているが今は明け方に限るのでは? 江戸の話だからいいか・・・

No.82 7点 犬神家の一族- 横溝正史 2022/03/26 15:21
タイトに引き締まった「獄門島」とは対照的。とはいっても骨格は意外にちゃんとしている。

すべての始まりは遺言状。翻訳物を含め、これほど精緻で悪意に満ちた遺言状はないだろう。それを引き金に息つくひまもなく事件が起こる。

ご都合主義?そんなことは横溝自身が作品中で述べている。「すべてが偶然であった。なにもかもが偶然の集積であった。」(角川文庫P.384)・・・
細かいことは気にせずサービス満点の横溝ワールドを楽しむ作品である。

ネタバレ注意




この作品、過去に数多く映画、ドラマ化されている。もっとも存在感のある犯人役は、妖怪感が半端ない超美女京マチ子と大仏顔の高峰三枝子だろう。やはり超然としたところがないとね。栗原小巻や富司純子ではあまりにも普通の悪女でものたりない。
当主の犬神佐兵衛は少年時代BLというからには平幹二朗一択だろうね。

No.81 10点 忌名の如き贄るもの- 三津田信三 2022/03/24 14:39
シンプルなプロット、逆説に満ちた禍々しい動機、意外過ぎる犯人。世評高い「首無の如き祟るもの」をしのぐオールタイム級の名作だろう。

少しネタバレします。



本格ミステリーであったはずが、最後の一行でホラーのロジックが通ってしまい、それにあわせて冒頭第三章までの怪異体験がきれいに回収されるという構造は見事。
あえての難は殺人手法と凶器の隠滅に偶然性が残ること。ここが確実で強烈なものであったら文句なしだった。
ところで「先輩」の二度目の結婚はなぜ可能になったのだろう。事情が判明した今回は母親は猛反対したはず。本筋と関係無いようだが、この意識がすべての発端だから何らかの補足は欲しいところ。

初期の作品に比べて文体は格段に読みやすい。なお、民俗学の蘊蓄はいささか詳しすぎて読み飛ばしたが、ここは好きずき。周辺キャラのドタバタはもうやめたらどうだろう。せっかくの世界観を損なっているように思えるのだが。

文庫化にあたっては例によって地図をつけてほしい。

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ALFAさん
ひとこと
物理的な合理性、心理的な整合性、生き生きとした情景描写などがバランスした作品が好きです。
好きな作家
アガサ クリスティー、クリスティアナ ブランド、連城三紀彦、G.K.チェスタトン
採点傾向
平均点: 6.70点   採点数: 160件
採点の多い作家(TOP10)
宮部みゆき(23)
アガサ・クリスティー(19)
松本清張(15)
連城三紀彦(14)
三津田信三(12)
横溝正史(7)
青山文平(7)
G・K・チェスタトン(5)
北森鴻(4)
東野圭吾(3)