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ALFAさん
平均点: 6.65点 書評数: 193件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.193 6点 時間の習俗- 松本清張 2025/01/24 09:08
同じ30年代でも「ALWAYS 三丁目の夕日」は昭和のほのぼのファンタジーだが、松本清張の作品群は昭和のダークファンタジー。
アリバイ崩しの本格に振ったこの作品では、いつもの清張節は控えめで淡々とした描写が続く。

清張作品を味わうためのちょっとしたコツ・・・金額は0を一つ足して、年齢は10歳足すと馴染みやすい。
作中でコーヒーは30円。深い皺の目立つお馴染みの老刑事、鳥飼重太郎はなんと52歳でキムタクと同い年。現在のアラフィフは青年の面影を残す人もけっこういるというのに。
そういえばサザエさんの波平さんも確か54歳の設定だった。

No.192 5点 跳ぶ男- 青山文平 2025/01/15 09:27
けっこう飛躍のあるプロットを圧倒的な筆力で読ませるのが青山作品の魅力だが、ここではちと跳びすぎた。
このエンディングはどうにも収まりが悪い。
いわゆる影武者ものとしてのストーリーは充分楽しめるのだが・・・

No.191 5点 火神被殺- 松本清張 2024/12/28 09:56
さすがに昭和ミステリーの巨人、作品数も膨大なんだろう。これも未読だった。
5編からなる短編集。
ネタバレします。


楽しめたのは「奇妙な被告」。シンプルな一事不再理ものだが展開がスリリング。
表題作「火神被殺」はトリックは面白いが、長々と解説される古代史が本筋の犯罪には関係なくてガッカリ。蘊蓄がプロットによく馴染んだ「陸行水行」や「万葉翡翠」に及ばない。
「神の里事件」は新興宗教の闇を描いて、さては「神々の乱心」の下絵かと期待したが結局は卑小な殺人でガッカリ。
それぞれに他の名作や大作と共通のモチーフが見られて、清張ファンなら楽しめる。

No.190 6点 自殺の部屋- 島田一男 2024/11/08 16:31
7編からなる短編集。

表題作を初めとして、ロジックは精緻だしテンポもいい。しかしイマイチものたりないのはなぜだろう。
考えてみると、ここには「刑事部屋」や「社会部記者」では感じた仕事場の匂いがない。刑事や記者達の連帯感やいさかい、タバコや汗の匂い。昭和という濃い時代を背景にした風俗小説風味もこの作者の魅力だったんだ。
なかでは「部長刑事物語」の人情ミステリーが楽しめた。

それにしてもあのコテコテの庄司部長刑事が銀座で私立探偵開業だなんて(笑)

No.189 8点 幻戯- 中井英夫 2024/10/20 21:26
代表作「とらんぷ譚」の最後にジョーカーとして添えられた短編。

孤独に暮らす落魄の老マジシャン。その前に現れたのは亡き妻の生れ変りのような少女。
やがてロマンチックな幻想というより妄想は消えてあまりにも卑小な現実があらわに・・・
「認知」のズレを底意地悪く描き出す作者の筆はスリリング。
う~ん他人事ではないな。

マニエリズムの粋を極めた連作短編集の最後にふさわしい余韻。

No.188 7点 社会部記者- 島田一男 2024/08/30 08:00
伯父が新聞記者だった。定年後は紳士然としたナリで飲み歩いていたが中身は結構ラフだった。現役時代はきっと生きのいい「ブン屋」だったんだろう。ちょうど作中の記者たちと同時期になる。

4話の連作短編からなる、第3回推理作家協会賞受賞作。
ミステリー色はやや薄いが記者の風俗小説としても面白く読める。
そういえば「事件記者」という人気ドラマもあったなあ・・

No.187 8点 蝶として死す 平家物語推理抄- 羽生飛鳥 2024/08/28 08:15
平安末期から鎌倉へ、激動の時代を舞台にした歴史ミステリー。
ミステリーズ!新人賞の「屍実盛」を含む五話の連作短編だが、ひと続きの長編としても完結している。

主人公は平清盛の異母弟、平頼盛。平家滅亡後も源頼朝の信頼を得て宮中で重きをなした複雑な人物である。
ここでの頼盛は、優雅でしたたかで検視に長けた面白い人物像。

第二話以降は清盛の死後なので、翌年に刊行された「揺籃の都」とは時系列が逆になっている。初めて読む場合はそちらからの方が馴染みがいいかもしれない。
精緻な時代考証にロジカルな謎解きを織り込んだ傑作。

No.186 8点 刑事部屋(デカべや)1- 島田一男 2024/08/24 08:40
「昭和」は長いから、その時代イメージは人によって様々だろう。
私にとっては昭和30年代こそがまさに「the昭和」。猥雑で活気があって妙にユルい30年代こそは、昭和の大トリ、バブル絶頂への長い一本道の始まりなのだ。
このあたりの気分は「ALWAYS 三丁目の夕日」などではなく「本当は怖い昭和30年代」の方が的確。
この連作短編にはその30年代の匂いが濃厚に漂っている。
時代背景と文体とプロットが一体になって、ミステリーを超えた全体小説としても味わえる。
作者島田一男は人気作家だったが今となっては影が薄い。巨大な松本清張とぴったり時期がカブったことや、平成以降は同様の作風と経歴(記者出身)を持つ横山秀夫の活躍があったせいかもしれない。

No.185 7点 揺籃の都 平家物語推理抄- 羽生飛鳥 2024/08/20 08:46
舞台は平安末期の都(福原)、清盛邸。
厳重に警備されたクローズドサークルで起こる事件や怪異。
探偵役は清盛の弟、平頼盛。兄との確執を抱えていて謎を解かねば立場が危うくなる。
魅力的な設定と精緻なロジックで、歴史ミステリーとして楽しめる。
頼盛は、平家滅亡後も源頼朝の信頼を得て宮中で重職にあった複雑な人物で、この役柄によく合う。

人物が何だか現代的な印象なのと、謎の一部に無自覚の行動が絡むのが残念。

No.184 5点 冬のオペラ- 北村薫 2024/08/01 09:59
短編二編と表題作の中編。
短編はどちらも日常の謎レベル。浮世離れした名探偵とOL兼務の助手によるのどかな世界観によく合っている。
一方表題作は悲劇的な本格ミステリー。世界観が分裂してしまって、楽しめない。

No.183 8点 バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵- 真門浩平 2024/07/31 08:52
なかなかにアバンギャルドな連作短編集。
読みはじめて、うん! 背伸びした高校生の独白体ね・・・と思ったら小学3年生だった。キョーレツな違和感だがここは一種の特殊設定と割りきる。

ロジカルなアリバイ崩しが得意な兄と、心理を読んでホワイダニットを追求する双子の弟が主人公。
作者の意図だろう、薄い物語性のなかに精緻なロジックがくっきりと浮かぶパズラーである。人物も記号化しかねないところだが、年齢の特殊設定が効いて妙なリアリティがある。

お気に入りは第5話「誰が金魚を殺したのか」。軽い日常の謎が終盤の反転で一気に血生臭くなる。そして最終話は読者の困惑をも誘うなかなかの問題作。

作者の実験精神に敬意を表して1点オマケ。

No.182 7点 ぼくらは回収しない- 真門浩平 2024/07/22 09:10
本格、青春ミステリー、日常の謎など、多彩な5短編。

お気に入りはまず「街頭インタビュー」。一件落着のあとに本当の主題が立ち現れる鮮やかなプロットで、社会派の味わいもある良作。
そして「追想の家」。ごくささやかな日常の謎だが、骨格は本格ミステリー。読後感もいい。
「カエル殺し」はホワイダニットの問題作だが、動機が動機だけに更なる説得力が欲しかった。そこが補強されていれば名作になったはず。
敏感すぎる名探偵速水士郎君はシリーズで活躍してほしいなあ。一ノ瀬をワトソン役にして。

どれも精妙なプロットと整理された文体で楽しめる。
ただわずかな雑味もエグ味もないミネラルウォーターのような文章は、リアリティを少し希薄にする。
「カエル殺し」と「ルナティック・レトリーバー」はいずれも高度なホワイダニットを問う作品。フーダニットやハウダニットに比べて、より深く人間の持つ醜さや矛盾を描かねばならない、とすればもう少し違うアプローチが必要かもしれない。

No.181 5点 りら荘事件- 鮎川哲也 2024/07/19 08:20
新版で再読。猛烈に殺されて、「誰もいなくなり」そうな展開。これだけたくさんの殺人につじつまを合わせて着地しているので、パズラーとしては楽しめる。

一方、小説としては評価できない。
まず構成。犯行はクローズドサークルスタイルだが設定は閉ざされていない。だから「なぜ逃げない?」となる。そもそも極端に仲の悪い同士が合宿する必然性は? 人物造形は外見中心でキャラクターは立ってこない。
そして文体。ユーモアは空回り、修飾や比喩表現は時代性を差し引いても不適切。「醜女」「白豚」「ホッテントット」等、読む方が居心地悪くなる。これはもう作品の品格に関わるだろう。
そしてあの「美白」。古い都市伝説めいたものはあるがエビデンスは全くない。重要なトリックに使うのはルール違反。

作者は本格の大家とされているが、むしろ「ミステリーパズルの名手」とすべきではないか。

No.180 10点 春にして君を離れ- アガサ・クリスティー 2024/07/15 09:07
「終わりなき夜に生まれつく」と並ぶ最上のクライム・フィクション。

実はずっと以前に読んでいたのだが、どう評しても言い尽くせない気がして今に至った次第。
二編ともに、自己意識の歪みを描ききった名作である。

No.179 6点 下り”はつかり”―鮎川哲也短編傑作集〈2〉- 鮎川哲也 2024/07/14 09:25
本格ありファンタジーあり、バラエティに富んだ11編。
トリックも緻密なもの、大胆なもの、ちょっと笑えるものなど多彩で作者のミステリー愛を感じる。
ただ残念なことに構成は単調で、事件の記録とトリックの解説をそのままノベライズしたかのよう。地の文もセリフもひたすら「説明」に忙しい。結果として人物も記号的になる。文体も洗練にはほど遠く、一編の小説として味わうには至らない。

なかでは「赤い密室」の緻密なトリックや「達也が嗤う」の大胆な叙述が面白い。
「碑文谷事件」は「点と線」の向こうを張った列車トリックだが、こちらにも大きな欠陥がある。そもそもこの証人自体が犯人にとって致命的ではないか。それとも、そんなことはさておいて二つの地名の妙を楽しめと言うことか。
同じ鉄道ものなら「下り"はつかり"」の笑えるトリックが楽しい。
「死が二人を別つまで」の悪魔的なネタは現代の作家で読み直してみたいものだ。

No.178 6点 陰獣- 江戸川乱歩 2024/07/07 09:00
乱歩らしからぬ?本格のプロット。
構成や文体にはさすがに時代を感じてしまう。
動機面は丁寧に整合がとれているが、犯人のキャラや犯行の偶然性は気にはなる。
モヤッとしたエンディングはいい。

No.177 6点 歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理- 三津田信三 2024/07/06 09:04
刀城言耶シリーズのスピンオフ短編集。
刀城の助手である天弓馬人が無類の怖がりで、持ち込まれる怪異話に必死に合理的な解決を見い出すという趣向。

正編のような緻密なミステリーとホラーのハイブリッドを期待してはいけない。気楽にスピンオフを楽しむのがいい。作者お得意の妙な人名、地名の当て漢字も笑える。
中では表題作がホラーファンタジーとしていい。黄昏の「亡者道」を思い浮かべると納涼になる。

No.176 7点 黒牢城- 米澤穂信 2024/07/05 17:47
「折れた竜骨」と並ぶエンタメ大作。「イングランド辺境の島」となると私にはファンタジーの世界だが、こちらの有岡城址は実に徒歩の距離。今や快速電車の止まる駅前となり、かつて天守を支えた石垣は明るいショッピングモールの足元でひっそり。

連作ミステリー短編を組み込んだ歴史小説。城主荒木村重が持ち込む謎を、囚われの黒田官兵衛が解くという趣向はユニーク。
ただ残念なことにミステリーより歴史小説としての出来の方が圧倒的にいい。それぞれの話はミステリーとしては小ぶりで、「謎を解かねば城が落ちる」ほどのものとは思えない。
終盤に明かされる企みや黒田官兵衛の深意はドラマチックではあるが。

歴史小説としては楽しく読みごたえ十分だが、このサイト的にはやや控えめにこの評点。

No.175 7点 日の名残り- カズオ・イシグロ 2024/06/15 12:29
作家カズオ・イシグロの名を不動のものにした作品。無論ミステリーとして書かれたものではない。

由緒ある屋敷の執事スティーブンスは、再雇用のために元の女中頭ミス・ケントン(現ミセス・ベン)を訪ねる。6日間のドライブ旅行が独白体で綴られるが、過去30年に及ぶ屋敷での想い出が挿入されるから物語の奥行きは深い。
内省的な独白の中に精妙な詐術が仕掛けられている。スティーブンスの自己欺瞞や巧みな言い訳が初読時にはかすかな違和感として、再読時にはレース編みのように透けて見える。最後に主人公は、自身の頑なさのために幸せを逃していたことに気づいて涙する。

旅の終わりに浜辺で出会った元同業者に励まされ、新しいアメリカ人のご主人のためにジョークを「練習」しようと決意するエンディングが可笑しい。

身につかないジョークを練習する老執事にも、まもなく孫に恵まれるミセス・ベンにもしばしの残光が射すだろう。こうして表題を回収して物語は閉じる。
スティーブンス個人の物語であると同時に、執事として仕えた対ナチス融和派ダーリントン卿の破滅を通して大英帝国の衰退を描く全体小説にもなっている。

小説としては満点だがミステリーとしては控えめにこの評点。

No.174 5点 名探偵に甘美なる死を- 方丈貴恵 2024/05/25 07:21
特殊設定そのものは精緻で面白い。一方ミステリーとしては密室トリックを含めて驚きはない。謎解きが、特殊設定の妙を味わう単なる道具になっている。
まあ、ファンならシリーズとしての楽しみはあるかもしれないが。

この作者では「アミュレット・ホテル」あたりがミステリーと特殊設定の馴染みがよく楽しめた。

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ALFAさん
ひとこと
物理的な合理性、心理的な整合性、生き生きとした情景描写などがバランスした作品が好きです。
好きな作家
アガサ クリスティー、クリスティアナ ブランド、連城三紀彦、G.K.チェスタトン
採点傾向
平均点: 6.65点   採点数: 193件
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