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[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ]
半七捕物帳 巻の二
半七
岡本綺堂 出版月: 1998年07月 平均: 9.50点 書評数: 2件

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筑摩書房
1998年07月

光文社
2001年11月

No.2 10点 クリスティ再読 2020/09/08 17:07
何かと騒がしい今日この頃の、その発火点を評者が作ってしまい恐縮しているところです。しかし逆にここでたくさんの良い書評が投稿されることが、管理者さまを応援することになるのだろうと思いますので、積極的に書いていこうと思います。まあ憎まれついででもありますけどね...うん、本作なんて悪口を言ったら確実にバチがあたる大名作です。

「半七」は最初から名作連発で、長い連載期間の後半でもそう力が落ちない印象があるが、それでも頂点というのはこの2巻収録のあたりだと思う。
怪談仕立ての「津の国屋」は、半七が「昔の人は気が長い」と振り返るように、実に大がかりな「怪談」の仕掛けで商家を乗っ取ろうという陰謀を暴く話。この「気の長さ」が「陰謀のスケール感」につながって、それこそパズラー風ではなく社会派っぽい「大掛かりさ」が面白い。因縁話なんて...と文明開化に毒された(苦笑)世代では、「江戸の闇」の深さを体感していないから、「江戸の怪談」のホントの恐ろしさをリアルに感じれないのかもしれないが、そのギャップも含めて面白い。
「鷹のゆくえ」は将軍お手飼いのお鷹が飛び去ったのを、半七が内々に頼まれて探す話。鷹のゆくえなんてホント雲をつかむような話なのだが、内々に済まさないと「一羽の鳥のために、四人の人間が命を捨てなければならない」状況を、半七も黙視できずに....で、単に自然現象ではない裏のカラクリを半七は暴く。半七はリアルだから、こういう将軍からみの依頼も、あっさりと八丁堀の同心に頼まれるだけ。のちの捕物帳みたいに征夷大将軍とご対面、とかあるわけはない(いや、結構そういうのあるからね。実際、警察関連の与力・同心だって「不浄役人」扱いでひどく差別されていたことを鳶魚老人が書いているよ)。
「筆屋の娘」は、看板姉妹が売る筆をなめて、筆先を揃えてくれるサービスで大人気の「なめ筆」の店で、姉娘が毒死した。その翌朝、近所の寺の若僧も毒死しているのが見つかった。心中として落着しかけたのだが、半七の推理は... とこれが結構モダン・ディテクティヴな真相。
半七が扱った事件ではないが、地方での事件例をまとめた「御仕置例書」から半七が紹介してくれた「小女郎狐」。この事件はムラ社会の陰湿な「噂」を巡る悲劇で、なかなか今に通じる「閉塞した空気感」があって、面白いと思う。
半七というと地味な事件が多い...なんて思っていると、「勤皇討幕の議論が沸騰している今の時節」を背景に、公家のご落胤を装って祈祷所を開いた女行者を、何か政治的な陰謀が陰にあるのでは?と同心から調査を依頼されるのが「女行者」。それでも派手な立ち回りがある半七ではちょっと珍しい話。捕物シーンではさすがに半七、ハッタリが効いててかっこいい。「槍突き」も連続通り魔事件で、腕に覚えの道場の若様が介入し...とこれもまた派手な事件。だから半七でも派手目の事件って、結構あるものだ。

とどれを読んでも名作がぎっしり詰まった、1冊で傑作選になるような名作集です。江戸人の「のんびり」した心持を、こんな時期ですから心掛けたいものですね。

No.1 9点 tider-tiger 2016/11/23 17:42
うおっ! 甲賀忍法帖が国内部門で一位になってる!
ちょっと笑ってしまいました(甲賀忍法帖及び、これを推した方々を腐すつもりはまったくありません)。
甲賀忍法帖と半七捕物帳で一位二位を占める日が来るかもしれません。
そうなると、なんのサイトだかよくわからなくなりそうですが。

そんなわけで、半七の巻の二の書評を。
二巻に入ってもまるで緩みなし。むしろ物語の作りはさらに良くなっているように感じました。
毎晩一篇ずつ大切に読むお約束が、なんかついつい二篇、三篇読んでしまう夜もあったりで三巻までは読破。ちなみに三巻もレベルはほぼ変わりません。一、二巻と比較するとほんの僅か落ちるような気がしないでもありませんが、大勢に影響なし。

半七はシャーロック・ホームズを日本でやってみようという試みらしいのですが、ホームズを取り入れつつも完全に日本でしか有り得ない推理小説になっております。上手いパクリは高等テクニックであり、また、パクリは芸術の必然でありますから問題はありません。
自分はミステリの読み方が浅いので(このサイトに来るまではけっこう読んでいる方だと思っていたのですがとんでもない自惚れでした)、なにも知らずに読んでいたらホームズの影響を受けていることなぞまるで気付かなかったでしょう。
言われてみれば、確かに設定やトリックを拝借しています(二巻には『ぶな屋敷』や『ボスコム谷の秘密』がありました)。
半七の推理にもホームズの影響が見られます。これは読者おいてけぼりの飛躍も含みます。半七は「それで大抵はわかった」みたいなことをしばしば口にしますが、読者にはそれでなにがわかるのか、さっぱりわかりません(自身も推理を愉しみたい読者には大きな減点ポイントかも)。
また、岡本綺堂はいわゆる掴みのうまさがドイルに比肩する、いや、ドイルを凌ぐかもしれません。
それでいて、半七にはホームズとの明らかな違いもあります。
『シャーロック・ホームズの冒険』というタイトルに違和感はありません。ですが、『半七の冒険』などと言われるとなにかおかしい。両者は根本的な何かが違うのです。半七捕物帳というタイトルがあまりにもフィットし過ぎなだけかもしれませんが。
あの魅力的なホームズというキャラをぱくらず、人間的には真逆とも言えそうな半七を生み出した点も大きいでしょう。人々に対する洞察や理解、江戸時代の常識や生活を知悉していることが半七の推理に大きく役立っています(人間に対する眼差し、事件の関係者との距離の置き方なども含めて、メグレ警視を思わせます)。
日本ならではの要素として怪談じみた話が結構多い点も個人的にはプラス評価。不可解な発端が(基本的には)合理的な解決をみる。素晴らしい。
文学的な価値、民俗学的な価値も充分にあるように思えます。

いくつか適当に作品を紹介しておきます。
『鷹のゆくえ』逃げてしまった将軍のお鷹(人名ではなく鳥です)を捜索する話。地道な捜査の末、お鷹は無事に発見されますが、話はここで終わらない。お鷹発見後にわざわざ一行空けてから「これを表向きにすれば、大変である」という一文が来ます。確かに大変なことが待っています。江戸時代だねえ。
『津の国屋』個人的にはこの作品が特別に好きなわけではありませんが、もし半七捕物帳名作選を編むことになれば、この作品は絶対に入れると思います。怪談からミステリへと移行していくさまがたまらない。クイーンのボヘミアンラプソディみたい。
『三河万歳』鎌倉河岸に倒れていた男は牙の二本ある赤子(鬼っ子)を抱いたまま息絶えていた。これも名編でせう。
『小女郎狐』大好きな作品です。現代日本なら大した罪にならないような(民事では大変なことになりそうだが)ことで死罪になる者いれば、現代なら死刑は免れないであろう者が無罪となる。江戸時代だなあ。江戸時代なら「にちゃんねる」の住人から遠島や処払いになる人続出でしょう。
一巻に続いて本作も駄作なし。誰がどの作品を気に入るのか、まるで予想できない珠玉の短編集でした。
「大勢に真似された筒井康隆と真似しようのない星新一」
岡本綺堂は同じような文体で淡々と質の良い半七ものを生み出し続けました。こういうことをされると真似しようがないと思うのです。捕物小説は書けても半七は真似ようがない。

唯一気になったのは森村誠一氏の解説が一部なにを言いたいのかよくわからないこと。
~人権を尊重しない権力者(体制側)の手先である岡っ引きが、人権を尊重して合理的に犯人を割り出していくプロセスがなんとも皮肉であり、面白いのである。~
半七にこういう愉しみ方があるとは気付きませんでした。
森村氏の想像する江戸時代と半七で描かれる江戸時代があまりにも違うため、このような妙な解説になったのではないかと推測しております。

最後に にわかファンがいろいろと偉そうなことを言ってしまってすみません。


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岡本綺堂
2009年06月
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2009年05月
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2001年02月
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1998年11月
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1998年07月
半七捕物帳 巻の二
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1997年03月
半七捕物帳【続】
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1950年01月
半七捕物帳
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