皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
人並由真さん |
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平均点: 6.34点 | 書評数: 2190件 |
No.11 | 5点 | 死者はまだ眠れない- 西村京太郎 | 2025/03/15 18:21 |
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(ネタバレなし)
その年の11月5日の夜。調布市内の45歳の電気店主人・佐々木努が、多摩川の土手の周辺で偶然に死体を見つけた。だが佐々木が慌てて警官を呼びに行くと、死体は痕跡もなく消えていた。佐々木の通報は何かの勘違いとして処理される。その一週間後、今度は板橋区の周辺でスーパー勤務の仕入れ主任・伊藤賢二が、自宅のアパートで弾みで25歳の妻かおるを殺してしまったと自首してきた。だが警官がアパートに赴くとどこにも死体はなく、その後のかおるの行方も不明だった。伊藤はテレビの人探し番組に出て、無事に生きており? 失踪した? 妻の行方を捜し求める。その番組を観た十津川警部の新妻・直子は、それを契機に不可解な連続死体消失事件に関心を深めていく。 元版のフタバノベルス版で読了。 <ミッシングリンク的な流れで続発する、連続死体消失事件>という、謎解きミステリとしてはなかなか攻めた趣向。これは面白そうだと、久々に十津川ものを読んでみた。 だが導入部というか発端の謎こそ惹かれるものの、内容の方は途中から悪い意味で「ああ、そっちの方に行くのか」という流れになだれ込み、だんだんと気が抜けて来る。 でもって最後に作者が、<またもあの手>を使ったため、全体の事件の構造もいまひとつ明かされず、送り手に振り回されてキツネにつままれたような気分で終わる。 後半、部分的にちょっとしたトリックの創意(みたいなもの)があり、その辺はまた印象に残ったが。 (備忘用のキーワードは、ア〇〇〇〇〇〇だな。) 十津川夫人の直子さんにしっかり付き合うのは、もしかしたら今回が初めて? かもしれん。 ネットで調べたら初登場作品は『夜間飛行殺人事件』らしいが、たぶんその辺になるともうリアルタイムでは読んでないや。すでにシリーズ内の人気キャラみたいで、テレビドラマでも浅野ゆう子、池上季実子、萬田久子、坂口良子……と世代人には錚々たる女優たちが歴代で演じてるのを初めて知った。またそのうち、お会いすることもあるだろう。 |
No.10 | 8点 | 幻奇島- 西村京太郎 | 2024/04/23 04:55 |
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(ネタバレなし)
その年の初夏の東京(たぶん)。「わたし」こと34歳の大手総合病院の内科医・西崎は、六本木のバーで友人と飲んだ帰りに運転し、若い女性をはねてしまう。病院に駆け込んで女性は一命をとりとめたが、西崎は警察の聴取を受けるなか、飲酒運転の事実はごまかそうとした。だが負傷した女性は素性不明のまま、西崎の車を盗んで姿を消す。その行方は杳として知れなかった。飲酒運転の件での逮捕こそ免れたものの、恩師かつ院長から疎んじられた西崎は、南海の石垣島からさらに離れた孤島「御神(おがん)島」で二年間、地元の診察医を務めるように命じられた。やむなく指示に従う西崎だが、そこで彼を待っていたのは殺人劇と、そして思いもよらぬ体験だった。 元版は1975年5月の毎日新聞社の書籍(ただし現在、Amazonに書誌データなし)。 評者は今回、ブックオフの100円棚で見つけた徳間文庫の新装版で読了(解説もなく、本文が終わるとそのまま奥付という仕様)。 本サイトで先のお方が、だいぶ前に4点とかなり低めの採点をしてるので、こちらもややお気楽な気分で期待せずに読み出したら、意外にも結構、面白かった。 あわててTwitter(現Ⅹ)で本作の感想を探ると、マイナーだけどこれは面白い、出来のいい西村作品という声ばっかしで、なんだ隠れた秀作だったんじゃないか、と姿勢を正す。 一人称主人公・西崎が出会った謎のヒロインもはかなげで幻惑的だが、それ以上に物語の本筋の舞台となる御神島のロケーションが、独特の因習やら妖しい雰囲気やらでとても際立っている。他の作家でいちばん誰に近いかといえば、マッハの速さで三津田信三の名をあげるだろう。それくらい、西村作品としてはかなりとんがっている。 和製フランスミステリ風に展開してゆく作劇のハラハラ具合も、初期の連城長編か、そのフランスミステリ系にずぶずぶはまっていく時期の泡坂作品、という感じ。 フーダニットパズラーの興味にはまともな推理小説としては応えていないものの、一応の伏線はいくつか張ってあるし、その上での意外性がなかなか。 いやもしも幻影城ノベルスで出されていたら、非常によく似合っていたんじゃないかな、この作品(いろんな意味で、絶対にありえんけど)。 余韻のあるクロージングもいい。カミサマ(名探偵)不在のノンシリーズ作品だからこそ語れた、そんな味わいが最高。 やっぱ初期の西村京太郎、かなり面白いものが埋もれているねえ。今後の良作との出会いを、楽しみにしよう。 教訓:作品の現物は、自分の目で最後まで読んで確かめなきゃダメ。 (もちろん、以前の方のレビューを拝見し、参考にするのはまた別の次元の話ですが。) つまり、このレビューを読んで本書を期待して読んで、その上で「……」もアリ、ということでもありますが(笑)。 |
No.9 | 6点 | 聖夜に死を- 西村京太郎 | 2024/01/31 04:59 |
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(ネタバレなし)
その年の10月26日。千代田区の地方裁判所では、昨年のクリスマス・イブの当日、初対面の相手を口論の末に刺殺したとされる35歳の元弁護士・岡崎功一郎の公判が開かれていた。一年前に殺された男の素性は、いまだ不明である。だがそこに二人の男が乱入し、催涙ガスを使って岡崎を法廷から連れ去った。一方で、都内では、被害者が不可解なダイイングメッセージを遺した新たな殺人事件が発生。かつて岡崎とライバル関係だった地方検事・山本は、検察庁の特別執行課職員・佐伯とともに岡崎の行方を追うが。 ノンシリーズのクライムノベル。元版は1975年に徳間書店から刊行。 この数年後に書かれた同系列の西村作品『ダービーを狙え』が結構なエロミステリだったので、本作も……と少し(?)思ったが、最後までそっちの要素は微塵もない(トルコ風呂~現在のソープランドなどの描写はあるが)きわめて健全な作品であった。 早々に、某メインキャラが企てる犯罪計画が話の軸になる一方で、相応に比重の大きいサイドストーリーとして、佐伯の捜査(調査)が進む。 後半にはそれなりのサプライズもあり、作者が一本調子のケイパーものにせず、ツイストを用意してミステリ度を高めようとしている工夫は好感が持てる。それでも作中人物の思考がところどころ詰めが甘いのは、まあアマチュアの犯罪計画ということで、作劇的には破綻はない……のだろうな。 第15章後半の某場面とか、細部が面白いのは、良い意味で職人作家である作者の長所が出た感じ。 終盤で対峙した男たちの掛け合いというか物言いの応酬も、うむ、確かに徳間文庫版の解説で権田萬治(←どーでもいいが、最近、さる事由から、この評論家への好感度がかなり下がった)が語る通り、和製ハドリイ・チェイスの雰囲気ではある。 お話の作りの甘さが許せないヒトはたぶん減点しちゃいそうだが、良さげな話術で話を転がし、それでそれなりのものにまとめた感じは買う。 ラストシーンというか、最後のクロージングに至る流れも、まあなかなか。 佳作、ではある。 |
No.8 | 6点 | 下り特急「富士」(ラブ・トレイン)殺人事件- 西村京太郎 | 2022/09/26 05:56 |
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(ネタバレなし)
十津川省三警部の部下だった元刑事で、さる事情から網走刑務所に服役していた青年・橋本豊は、一年の刑期を務めあげた。所内で橋本は凶悪な囚人に殺されかけ、その窮地を60歳前後の同房の囚人・宇野晋平に救われたが、当の宇野はその橋本を庇った際に生じた傷がもとで、獄死していた。網走刑務所の所長から、宇野の遺品を彼の友人の小田切正のもとに届けてくれないかと頼まれた橋本。橋本は、旧知の女性雑誌記者で彼に好意を抱く青木亜木子とともに、小田切のいる東京に向かうが。 光文社文庫版で読了。十津川シリーズの一本だが、同時に『北帰行殺人事件』でデビューした刑事(本作以降は元刑事)橋本豊が完全に主人公を務めるスピンオフ路線の第一弾でもある(前作『北帰行』を橋本ものの初弾と見てもいいかもしれないけど)。 本サイトでも結構、評判がいいので期待していたが、う~ん……。 つまらなくはないが、思ったよりは楽しめなかった、という感じ。これはこの作品の責任じゃないと思うが、実は本作のプロットの大仕掛けに関しては、似たようなものをこの5年前後くらいの新本格のなかで読んだ印象がある(具体的な作品名がぱっと頭に浮かばないので、もしかしたらデジャビューの可能性も皆無ではないが)。それゆえ、反転のサプライズとインパクトがたぶん本来の本作の効果ほど、心に響かなかった。残念。 あと、素性不明のキャラクターが多すぎて、この辺は作者が最後の方でなんとか帳尻を合わせればいいだろ、と思っていたような感じである。で、実際に、真相解明の時点になって、実は(中略)までが(中略)って……。それだったら、なんでもできるじゃないの? とプロットの安い組み立てぶりに不満を覚える。 まあ一番最後に明かされる、あの登場人物に関しての真相だけは良かった。 後半の橋本と亜木子の(中略)のためのあれやこれやの奮闘ぶりはほほえましいし、そこら辺での作者のちっこいネタをなるべく盛り込もうという、そういうサービス精神は認める。 0.2~0,3点くらいオマケしてこの評点かな。 いやたぶん、過剰期待したこちらが悪いのであろう。きっと(汗)。 |
No.7 | 6点 | 伊豆七島殺人事件- 西村京太郎 | 2022/07/10 07:02 |
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(ネタバレなし)
人類の未来の海中文明を展望し、そのための海洋開発実験を続ける大企業、新日本重工。同社は伊豆七島の一角・神津島の海中40メートルに居住空間「海の家」を沈め、海中生活の研究に勤しんでいた。だがその深さ40メートルの海中の施設内で、殺人が発生。しかも現場は広義の密室といえる状況だった? 業界誌「海洋ジャーナル」の青年記者・瀬沼は、成り行きそしてとある人物の請願を受けて、この事件の調査を独自に進めるが。 先日、刊行されたムック「西村京太郎の推理世界」をつまみ食い読みしていたら、本書の高評に遭遇。何より、海中の密室という特殊な趣向が良いとのこと。うん、ソレにはまったく同感。大いに気を惹かれる。 で、本作は、しばし気になる初期の西村作品の一本(それも完全なノンシリーズもの)で、まだ本サイトでも誰もレビューがない。じゃあ、と思い、読んでみる。評者は先日、ブックオフの100円棚で入手した光文社文庫版で読了。 本作の大設定といえる、海洋開発プロジェクト。これには相応の人間が関わっているみたいなので、それじゃ、かなりの頭数の登場人物が出て来るなと覚悟したが、実際にはそんなでもない。 同時に容疑者の方も物語の中盤には、片手の指で数えられるくらいに頭数が絞られる。そういう意味ではかなり読みやすい。 探偵役の瀬沼がトリックを暴いては、また次の障害や不可能性が沸き起こってくるその繰り返しで、このしつこさはなかなか良い。 一方で本作の弱点として、トリックに凝るのは良いのだけれど、作中のリアリティで言うなら、犯人はここまで(あれこれトリックの労を費やした)殺人をしないだろ、とツッコミたくなるところ。あまりに犯罪のコストパフォーマンスが悪すぎる。もっとシンプルに目的を果たすこともできたよね? その辺はホントに、リアリズムだのアクチュアリティだのに目をつぶった、お話フィクションの世界という感じであった。 そういったある種のウソ臭さをミステリの様式美として割り切れる人なら、それなり以上に面白い力作で佳作~秀作だとは思う。 ただ一方で、西村作品を百冊単位ですでに読んでいる人が、本書を初期作品ワースト10の一角に入れてたりする。もちろんその実際のところの判断基準は余人にはわからないんだけれど、本作の評価がヨロシクない人もいるという現実は、まあ理解できるような気もしないでもない。 評価は7点あげようか迷ったけれど、ギリギリのところでこの数字で。 前述のように、ミステリなんて(いい意味で)ウソ臭くていいじゃん、という向きの方なら、もうちょっとストレスを感じずに楽しめるかも。 |
No.6 | 6点 | 太陽と砂- 西村京太郎 | 2021/09/16 15:27 |
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(ネタバレなし)
21世紀を直前に控えた時代の日本。26歳の才能ある技師・沢木哲也は、アフリカの砂漠に大規模な太陽発電所を建造する国連のプロジェクトに参加した。沢木は、恋人の女子大生・井崎加代子と大学時代からの友人で若手能楽師の前島世良(セーラ)に送り出される。高名な能楽師・前島徳太郎(観世新栄)の息子で、亡き母ヴェラがアメリカ人だった出自の前島は21世紀が迫る時代にあって能のありようを模索して苦悩。一方で沢木は前島には友情の絆を感じながら能はもはや衰退する文化だと諦観していた。やがて3人の若者は、20世紀の最後の日々のなか、おのおのの現実に向かい合う。 1967年作品。西村京太郎の第四長編で、当時の総理府が主催した懸賞企画「二十一世紀の日本」の作品募集(創作の部)で総理大臣賞(最優秀賞)を受賞した作品。 すでに『四つの終止符』『天使の傷痕』などごく初期の秀作ミステリを刊行していた作者だが、懸賞の趣旨は21世紀の日本を展望した内容の小説ということだったようで、特にミステリ要素を意識しないまったくの普通小説(当時の時点での近未来設定)ではある。 ただしこのあとさらに加速的にミステリ界で大成してゆく西村の作家性はすでに随所に感じられ、その意味では西村ファンや作者の名前を意識して諸作に接するミステリ好きの読者にも、やはり重要な作品といえるだろう。 評者は今回、昭和46年8月に刊行の春陽文庫の初版で読了。この版は現状のAmazonの登録にない。 アフリカに渡り大自然の脅威と葛藤、その一方で母国の文化を鑑みる沢木の描写は悪い意味で余裕がありすぎる気もしないでもないが、読んでいる間はこれがそんなに気にならない。加代子が外地で読んでくださいと託した松尾芭蕉の俳句集も小道具として効果を上げている。現地で沢木が接する技師仲間たちの言動を介して語られる、諸国と日本文化の比較も意味がある。 とはいえ本当に切実なのは、日本人の能楽への関心が薄れて観客が外人(外国人)ばかり、しかも表層の物珍しさでしか接していないことに危機感を覚えるもう一人の主人公・前島の方で、彼の見せる苦闘と逆境からの反転のドラマはかなり読み手の心を捉える。本作の軸のドラマは前島の方に比重がある。 そして沢木の恋人ながら、日本で彼氏の友人として縁ができた前島に接するうちに、次第に彼にも惹かれていき、そんな心の分断に純粋に苦悩する加代子の描写はやや図式的だが、のちのちの諸作のなかで広がりを見せていく西村の女性観の原石のひとつをうかがうようで興味深い。 沢木と前島の学友で今は新聞紙の学芸記者のレズ女性・市橋雅子や、日本の文化を相対化しながら見やる役割で登場するサブヒロインたちなどの脇役の使い方もうまく、(昭和風俗的な意味もこめて)すらすら読めるが、後半で予想を外れた展開が生じる。そこでその現実に対するある主要人物の内面の叙述は、いささかショッキングだ(というか、ある種のハードボイルドといっていい)。さらにそれをまた相対化し、緩和するアフリカ現地の無名の警部がいい味の芝居を見せている。 ラストは非常に絵になる感じで、しかもこれ以上なく余韻のある終わり方を見せる。良い意味で、よくまとめた、という感慨が湧き上がる。 一部の登場人物のものの考え方が20世紀とか昭和的というのではなく(いや、そういう面もやはりあるかもしれないが)、あまりに古風なところもあり、それに21世紀の今接すると摩擦感を覚えないでもない。だがそれはそういう選択肢を取った当該の人物の心の決着でもあろう。 いずれにしろ、のちの量産作家という印象を改めて初期化させる、創作者としての黎明期の力作ではある。 |
No.5 | 6点 | 消えたタンカー- 西村京太郎 | 2020/08/21 13:26 |
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(ネタバレなし)
少し前からそろそろ読みたいと思い、大昔に購入したはずのカッパ・ノベルス版を家の中から探していたが、見つからない。 それで一昨日、たまたま足を向けた大型の中古雑貨屋で、まあまあ状態のよい講談社文庫版を見つけ、他の本とのまとめ買いで安く(一冊税抜き60円)入手した。 それで早速読んでみたが、期待がそれなりに大きかったためか、フツー以上に楽しめた反面、いまひとつの部分もないではない。 なぜ夫婦ものの奥さんの方まで丹念に殺していくのかという大きな謎の解法などはよかったが、ここまで目立つやり方というのは……まあ、それも一応のイクスキューズはあるとはいえるのか。 得点要素が豊富な反面、他にもツッコミどころは多々ある感じがするし。ウン十年前に、期待値がそんなに高まらないころに読んでいたら、もっと評価は上がったかもしれない。 あと題名について。5分くらい、すでに読み終えた方を相手に、モノを言いたい。 最後に講談社文庫版の解説の香山二三郎さん、『ある朝、海に』は十津川ものじゃないですよ。 |
No.4 | 7点 | ある朝 海に- 西村京太郎 | 2019/09/18 19:21 |
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(ネタバレなし)
1970年前後の南アフリカ共和国。そこは人口の約2割の白人にのみ社会的な特権と優先権が保証され、残り8割の黒人を主とした有色人種が虐げられる暗黒世界だった。「名誉白人」の日本人として同国を訪れた28歳のカメラマン、田沢利夫は警官から理不尽な暴行を受ける黒人少年を庇った結果、窮地に陥りかけるが、英国系の元弁護士の白人青年ロイ・ハギンズに救われた。ハギンズは黒人の政治運動家エンダパニンギ・シトレのもと、この国の惨状を嘆く各国出身の若者たちとともにさる計画を練っており、そこに田沢を誘う。その計画とは、南ア共和国の現状解決にいつまでも本腰を入れない国連に嘆きの声を響かせるための、アメリカの大型客船の無血シージャック作戦だった。 元版は1971年3月20日にカッパ・ノベルスから書下ろし刊行された作品。内容的にはいろいろな意味を込めて完全にミステリの範疇の一冊だが、推理小説と言い切って売るのには当時は逡巡があったのか「長編小説 書下ろし」の肩書で発売された。 60年代~70年代半ばの躍動期~安定期に気合の入った作品を多数書いていた西村京太郎だが、本書は正にそんな感じの一冊。読後にTwitterでヒトの感想を覗くと「生まれてから読んだ小説の中でいちばん面白かった」とか「西村作品のベストワン」とか絶賛の声も乱れとんでいる(!)。 個人的には流石にソコまで褒める気はないが(笑)、昔からいつか読もうと思い続けてウン十年、そんな何となく温めていた期待は裏切らなかった一作。スピーディな展開の中にサスペンスクライムストーリーとしての、またポリティカルフィクションの妙味をからめた社会派メッセージ作品としての、多様なエンターテインメント要素が盛り込まれていて実に面白い。 さらに終盤、客船内を事件の場にした、フーダニットのパズラーの趣向まで飛び出すのには度肝を抜かれた。ジージャック計画全体に仕掛けられた(中略)にもうならされる。 これまであまり考えたことはないが、たぶん評者の場合、西村作品は30~50冊前後は読んでると思うが、これがその中のトップということはないにせよ、5本の指に入れてもいいような感触はある。 主人公チームのメンバーがややコマ(駒)的だとかの不満はあるし、なにより21世紀のいま、若手の作家が同じようなネタで新規に書いていたらこのプロットの枝葉のあちこちを大きく膨らませて、倍ぐらいの分量にするだろうなあ、そういうボリュームで書かれても良かったのに、コンデンスにスマートにまとまってしまうのが勿体ないなあ、という思いもある。特に後者のそんな残念感は正直な気分で、評点は8点にしようか迷ったところ、7点にとどめた。 ただまあ、こんなほどほどの長さで、秀作・優秀作を続発していた当時の作者はやっぱ只者ではなかったのだなと思うし、この一冊が当時の相応にハイレベルな西村作品群の中のワンノブゼムでしかないのも、逆説的にスゴイところでもある。 この時期の西村作品は、タイミングを見ながら時たま読むのがとても楽しみだ。 |
No.3 | 6点 | 殺意の設計- 西村京太郎 | 2019/07/08 03:04 |
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(ネタバレなし)
世評の高い31歳の新鋭画家・田島幸平。その妻で27歳の麻里子は、匿名の密告状を契機に、夫が20歳の美人モデル・桑原ユミと浮気している秘密を知った。親族がいない麻里子は、仙台在住の旅館の若主人・井関一彦を手紙で東京に呼び出し、苦しい胸の内を打ち明ける。井関は幸平の親友で、かつては東京で同じように画家を志した身であり、そして麻里子と幸平と三角関係にあった。麻里子の訴えを聞いた井関は幸平とも対面し、良い結果を求めて尽力するが、やがてある夜、田島家の中で突然の死が……。 作者の(比較的)初期長編。 途中で、いかにも、これ見よがしっぽい仕掛けが覗くので、この時期の西村作品はこんなレベルで読者を引っかけようとしていたのか? と一瞬興が醒めた。しかしそのまま読み進めると、作者はしっかりと物語のその奥まで読み手に晒し、そんな上でさらに謎解きミステリとしての興味を煽ってくる。 安易にプロの作家を舐めてはいけないと、少し反省。 とはいえ事実上、物語の中盤には、犯人は絞られてしまうのでフーダニットとしてはそこで崩壊。あとに残る最大の興味は、動機の謎のホワイダニットとなる。 それでこちら読者としてもミステリファンの欲目があるので、ここはひとつ連城の「花葬シリーズ」レベルのスゴイのが来ればいいな、と期待したが、残念ながら結末は意外に地味な感じであった。 ただし容疑者が中盤で狭まった分、探偵役である警視庁の矢部警部補(十津川シリーズや左文字シリーズにも客演する、作者の地味な? レギュラーキャラクター)と犯人役の対決の構図は際立ったけれど。 それでも犯罪計画の組み立てを暴いていく流れは全体的に丁寧で、その辺は好感。物語の後半、脇役として登場して矢部警部補を支援する雑誌ライター(記者)・伊集院晋吉の妙に人間臭いキャラクターも、ちょっと印象に残る。 西村作品の初期の単発ものには結構面白いものがあるので期待したのだが、これはそこまでの思いには応えてくれなかったものの、それなりには楽しめた一冊であった。佳作。 |
No.2 | 6点 | 殺人者はオーロラを見た- 西村京太郎 | 2018/11/18 20:21 |
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(ネタバレなし)
沖縄出身という触れ込みの若手人気歌手・南田ユキが自宅で絞殺され、その胸には銀色の矢が刺さっていた。ユキの本名は野板志摩子、実際には北海道のアイヌの出自であった。捜査本部には犯行声明と思われるアイヌのユーカリの詩が届き、さらに新たな殺人事件が発生する。志摩子の元恩師で民族&民俗学を研究する城西大学の助教授・若杉徹は、捜査一課の吉川刑事の要請で事件の捜査に協力。やがて真犯人と思しきアイヌの若者が捜査線上に浮かぶが、彼には二重の鉄壁のアリバイがあった。 1973年にサンケイ出版のサンケイ・ノベルスの一冊として刊行された作品。当人がアイヌと本州の人間のハーフであるアマチュア探偵、若杉徹を主人公にした連作二部作の二冊目である(シリーズ第一作は、同じ叢書から72年に刊行された『ハイビスカス殺人事件』)。 フーダニットの興味はほぼ切り捨てて、その分、完全なアリバイ崩しに絞った内容で、趣向の違う二つの中規模の不可能犯罪トリックが用意されている。探偵VS当人なりの主張と正義を備えた犯人との対決という構図だけにえらくメッセージ性の強い作品で、初期の社会派パズラー路線を打ち出していた西村京太郎のひとつの成果という感じさえする(まだそんなにしっかり初期の西村作品を大系的に読んではいないけど~汗~)。 探偵役の若杉は32~33歳の体格の良い青年学者。アイヌの民族問題に向かい合い、事件のなかで自分の考えを見定めつつ突き進んでいくキャラクターはなかなか魅力的だが、この作品のなかで、事件の真実を暴く通常の名探偵以上の立ち位置まで獲得してしまう(謎解きミステリ的な意味で犯人になったり、共犯関係になったりするのでは決してない)。確かにここでキャラクターを燃焼させきった感もあり、シリーズはもうこれ以上続けにくかったであろう(とはいいながら、その後どっかの西村京太郎作品ワールドで彼が再登場していたらウレシイけれど。たとえば十津川ものなどにちょっとだけカメオ出演とか)。佳作~秀作。 |
No.1 | 6点 | 恐怖の金曜日- 西村京太郎 | 2018/07/09 04:02 |
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(ネタバレなし)
カドカワノベルズの旧版で読了。 本作のキモとなるミッシングリンクの謎(どのように被害者は選定されたか)の真相が序盤から予想がついてしまうのはアレだが、連続殺人を止められない捜査陣と検察側が世間への対応に苦慮しながら真犯人を追う図、終盤のちょっとしたツイストなどは面白い。 最後に明かされる、凶行に走った真犯人の身勝手で自己中心的ながらそれでもどっか切ない心情に関しては、マット・スカダーものの某作品を想起した。 『メグレ罠を張る』と作者・西村自身の本作以前の優秀作『華麗なる誘拐』の二作を足して、それを3~2・5の除数で割ったような出来。ひと息に読ませる作品の勢いは、確かにある。 しかしこれフーダニットじゃないでしょう。どっちかというとホワットダニットの警察小説だね。 |