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人並由真さん
平均点: 6.35点 書評数: 2257件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2097 7点 少女には向かない完全犯罪- 方丈貴恵 2024/11/05 12:39
(ネタバレなし)
 2014年3月14日の伏木県。「私」こと当年30歳の黒羽烏由宇(くろば うゆう)は「完全犯罪請負人」として、法律の網の目を逃れる多くの悪党をひそかに破滅させてきた。だが黒羽はその夜、何者かにビルの屋上から突き落とされる。やがて7月、黒羽は重傷で意識のないまま病院で昏睡する己の肉体から幽体離脱して「幽霊」となっている自分を認識した。4カ月前に請け負った依頼の件を思い出した黒羽の幽霊は、とりあえず、同夜に依頼人と落ちあうはずだった約束の場所に向かうが、そこで彼は思わぬ人物と出会う。

 方丈作品は今回が初読み。
(「竜泉家の一族」シリーズに乗り遅れたモンで・汗。)
 でもって本作は単発作品、もしくは新シリーズらしい? しかも本サイトでは先に読まれた方お二人が9点の高得点。さらにSRの会のメーリングでは「今年のベスト1候補」という声も聞こえてくる。
 ……じゃあ、と思ってかなりの期待値を込めて読んでみた。

 約460ページの大部の紙幅(本文は一段組だが)をスラスラ読ませるリーダビリティ、話の転がし方、登場人物の描き分け(&読者への印象の刻み方)、さらにミステリとしての手数の多さなど、確かに出来のいい作品だとは思うし、総体的には十分、面白かった。

 ただ一方で作品の構造上、一種の息継ぎ的な転調の箇所があり、そこでそのあとの大雑把な流れが見えてしまう。この辺は作りこんだ作品ゆえに生じる構造矛盾的な弱点を感じた(まだこれくらいの紙幅が残ってるなら、たぶん、このキャラにはこういう役割があって……と察してしまうようなアレだ。なるべくネタバレにならないように書きたいので、あんまりくどくは言わないが)。
 あと、真犯人の(中略)計画は微細に練ったものだが、その分、そこでそんなに構想した側の思い通りに相手が動くものだろうか……という違和感を感じた。
 この辺も、細部まで工芸的に組み立てた作品に感じる、アクチュアリティの有無の問題である。こんなことを考える自分は、もしかしたら本作のあまりよくない読み手なのかもしれないが。

 力作で秀作なのは存分に認めるし、すでに定評の作者の力量はたっぷり実感させてもらったが、優秀作、傑作とまでいくとちょっと、自分の感触とはズレてしまう、というのが現時点の正直なところ。
 メインキャラの面々の動機に(中略)という基本的な大きな軸の文芸があるところなんかはとても好みなんだけど。
 
 結論:前評判が高く、自然と期待値が高くなってしまったのが、自分の場合、災いしたようです。
 これから本作を読む人が、当方の(部分的に)ケチめいた感想を先に読んでその反動で「なんだやっぱり傑作じゃんん」と思われるなら、正にソレはソレで大いに喜ばしい。

No.2096 6点 第二の男- エドワード・グリアスン 2024/11/04 03:57
(ネタバレなし)
 1950年代半ば(たぶん)の、英国ヨーク州。中規模の弁護士事務所「ヘスケス法律事務所」に勤務する「わたし」こと青年弁護士ミカエル・アーヴィンは、ロンドン出身の30歳前後の女性弁護士マリオン・ケリソンを新たな同僚に迎えた。そんなマリオンは土地の金持ちの老嬢シャーロット・モーズリーの殺人事件を担当。シャーロット殺害の容疑を掛けられた甥ジョン青年の依頼を受ける形で彼の弁護に当たる。アーヴィンを相棒に調査を進めるマリオンは、ジョンに不利な証言や状況証拠が集まるなかで、それでも依頼人の無実を確信。殺害の時間前後に現場で姿を目撃されたジョンのほかにもうひとり「第二の男」がいたはずだと、考える。

 1956年の英国作品。弁護士作家グリアスン(グリアソン)の長編第4作で、二冊目のミステリ。同年度のCWAゴールドダガー受賞作。
 グリアスンの邦訳作品は、ほかにもう一冊、処女作『夜明けの舗道』(1952年)が1970年の映画化にあわせて角川文庫から出ており(作者名は~グリアソン標記)、こっちも評者は持ってはいるが、まだ未読。

 このサイトに来てから、まだ本サイトにレビューのない創元の「現代推理小説全集」を気の向くまま少しずつ読んできて『血まみれの鋏』『ベアトリスの死』を消化したが、これがその流れでの3冊目。残るのはあと一冊ドイツの犯罪実話小説らしい『楽園の殺人』だけになった。まあこれもそのうち、読むだろう(もちろん、どなたか先に読まれてもいいですよ)。

 で、本作『第二の男』だが、ガチガチの法廷ミステリで、しかも内容は王道の冤罪? 容疑者の命がかかったタイムリミットサスペンス。
 まあ正直、途中まではマジメで丁寧な筆致が仇となり、いまひとつリーダビリティがよくない(でもツマラないわけではない)が、二度目の裁判辺りになると話の起伏が豊かになって、俄然面白くなってくる。
 ただまあ読者の推理の余地はほとんどない作劇で、読者は主人公の二人とその協力者の捜査の軌跡に付き合わされ、あとからあとから劇中に露見してくる事実や真実に振り回されるだけ。それでもさすがに終盤のサスペンスはかなり強烈で、クロージングにもある種の余韻はたっぷりとあるが。
(ちなみに翻訳は、中村&福田の創元版ブラウン神父コンビ。特に引っかかる箇所などは無かった。)
 
 ゴールデンダガー賞受賞という栄誉の事実に対し、あまり気負って読む必要はまったくないけれど、誰も読まずにこのまま埋もれさせるにはちょ~とだけ、惜しい感じもする佳作~秀作。
 中盤の加速感がイマイチ弱いので読了まで三日かかった(少しまた忙しいこともあったけど)けど、決してツマラン作品ではない。
 植草が解説で書いてる通り、この時代、世代の英国若手(当時の)ミステリ作家にしてはユーモア味が皆無なのはちょっとキツイかもしれんが、それもまた作風で味ではある。容疑者の青年ジョンのキャラクターが、妙にいい味を出している。

【2024年11月5日追記】本文を一部、改訂しました。自分が読む前に本サイトにまだレビューがない「現代推理小説全集」の一冊にカーニッツの『殺人シナリオ』を加えていたので(再確認したら、実際にはnukkamさんのご講評が先にありました)。nukkamさん、誠に失礼しました。お許しください。

No.2095 6点 密偵- ジョゼフ・コンラッド 2024/10/28 20:54
(ネタバレなし)
 20世紀初頭。ロンドンの一角のブレット街。そこで文具屋を開く40歳代の紳士アドルフ・ヴァーロックは、美貌の若い妻ウィニーと、彼女の母の未亡人、そしてウィニーの弟で少し知恵遅れだが純真な若者スティーヴン(スティーヴィー)とともに日々の生活を過ごしていた。だがヴァーロックには、某大国の大使館から仕事を請け負う諜報工作員という裏の顔があった。そんなある日、大使館の若手書記官ウラジミルはヴァーロックを呼び寄せ、グリニッジ天文台の爆破を指示した。

 1907年の英国作品。
 近代の欧米エスピオナージュ小説の系譜を少し探求すれば、たぶん確実にどこかで名前が出て来るはずの名作だが、まだ本サイトにもレビューはない。
 自分自身もそのうち読みたいと思って今世紀の初め辺りに岩波文庫版を古書で購入していたが、このたび思いついて読んでみる。

 くだんの岩波文庫版は1990年当時(80年代末)の新訳で日本語としては平易だが、原文のくどくて緻密な言い回しをしごく丁寧に翻訳しているため、読むのにそれなりのカロリーを消費した。
 とはいえこの手の古典名作にはよくあることだが、一度波に乗ってくるとスラスラ話が進む。

 前半のあるタイミングで省略法で話がいっきに進み、そこからしばらく劇中人物の視点が分散する辺りでちょっとストーリーの流れがもたつくが、後半の山場でふたたび特定のメインキャラたちに焦点が絞られると以降の加速感は並々ならぬものがある。
 最後は、どういう形で物語が決着するか、作者が描こうとする人間模様に黙って付き合うしかない(終盤、ちょっと忘れられてしまった気配のメインキャラも、いないではないのだが……)。

 大枠では確かにエスピオナージュなんだけど、どっちかというとその文芸設定を背景においた群像劇という感じ。
 作者はのちに本作を自ら戯曲化したようだが、なるほど確かにヒトケタの頭数のメインキャラで実質進行するような舞台劇っぽい趣もある。

 19世紀末~20世紀初頭の時代の、後半になって物語性を浮かび上がらせてくる英国の小説。
 作者的にはベストセラーを狙いたかったようだが、暗くて重いので売れなかったらしい。でも、そんな作風が
本作の魅力で味なのは間違いない。
 もうちょっと後のバカンよりは、のちのちのグレアム・グリーンの方に繋がっていく流れだな。

No.2094 7点 死が二人を別つまで- ルース・レンデル 2024/10/26 23:27
(ネタバレなし)
 1960年代半ばの英国。40歳代末の教区牧師ヘンリー・アーチェリーとその妻メアリは、オックスフォード大学に通う現役学生で21歳の息子チャールズから、恋人テリーサ・カーショウを結婚希望の相手だと紹介された。だがそのテリーサは、実は自分の実父は16年前に殺人罪で絞首刑になっているのだと、驚くべき事実を打ち明けた。とはいえ、テリーサの実母で、今はテリーサの現在の父でもあるトム・カーショウと再婚したアイリーンは、実は私の娘の父は無実なのだと語ってもいるようだ? ヘンリーは息子の婚約者の血筋が無実であることを願い、16年前の殺人事件を担当したレジナルド・ウェクスフォード主席警部に会いに行くが。

 1967年の英国作品。ウェクスフォードシリーズの第二弾。
 創元文庫の解説で都筑道夫も書いているが、シリーズ第二作からレギュラー名探偵の過去の実績に物言いがつけられるという趣向が何ともはや。
 だってこの手の<過去の事件掘り起こしもの>って、レギュラー名探偵がほかの杜撰な捜査陣の雑な仕事を見直すものだしねえ。主役探偵の過去の栄光にケチをつけるという、ある意味でアナーキーな文芸がなんとも面白い。

 まあそれだけに決着はアレコレ見えてしまうのではないか? と思いながら読み進んだ。物語の実質的な主人公はアマチュア探偵として動き回る父親ヘンリーで、準主人公的に、恋人の周辺の真実を探る息子チャールズの動向も描かれる。
 適度に重厚感はある作品だが、一方で話はサクサク進み、リーダビリティも好調でなかなか面白い。あまり詳しくは書かないが、え? そっちの方向に行くの? というキャラクタードラマの妙味も豊かであった。

 で、結末は、半分こっちの予想のアタリで、半分、意表を突かれた感じ。ちょっと古い作りの作劇のような気もするが、その分、まとまりの良さも感じる。もちろんウェクスフォードの過去の仕事が結局は正しかったのかそーでなかったのかは、ここでは書かない。
(なお、誠に恐縮ながら、Tetchyさんのレビューはネタバレになっているので、未読の方は注意された方がよいです。)

 で、また都筑の解説に同調することになるのだけれど、とにかくシリーズ二作目にこんなネタ持ってきたレンデルに、改めてこっちも惚れ込んだ。

 ただ気になったのは、ウェクスフォードは現在55歳で、16年前の事件が自分が初めて担当して解決した殺人事件だと言ってるんだけど、つまり39歳で初めてそっちの方面の初手柄ってことになるんだよね? これってかなり遅くないか? 遅咲きの名探偵だったということか。

 何はともあれ、初期レンデル、期待通りになかなか面白かった。またそのうち、このシリーズを楽しみたい。

No.2093 7点 迷走パズル- パトリック・クェンティン 2024/10/25 13:37
(ネタバレなし)
 消費税5%の頃にブックオフの100円棚で買っておいた、帯付き・販促パンフ込みの創元文庫版の完本美本の古書を、ようやく読む。思い起こせば少年時代に「別冊宝石」の『癲狂院殺人事件』も読んでいるので、ウン十年ぶりの再読である。
 
 中身は大設定と最後の一行(高橋泰邦訳の、決めのピーターの内心での述懐が忘れ難い)以外の全てを忘れていたので、ほぼ初読のようなものだが、読んでいる間はフツー以上に面白かった。ストーリーテリングの巧妙な、読み手を飽きさせない一級半のパズラーとしてはお手本のような作品であろう。くっきり感の明瞭な、個々の登場人物の描写の過不足の少なさも良い(まあ弾十六さんの言う、ピーター、前の奥さんのこと、もうちょっと思い出せよ、という文句はよ~く分かるが……)。

 最後の謎解きがいくぶん駆け足になったかなと思いきや、その反面でサービス精神豊かな趣向を用意してあり、その辺も結構。トリックのひとつはさすがに単純に今の目で読むと古いと思うが、まあほとんど90年前の1930年代作品だもんね。設定の(当時としてはの)新しさと新訳の良さ(読みやすさ)で忘れそうになるけど、確実に新古典作品なのであった。
 でもまあ、アイリス&ピーターコンビの馴れ初め編、それだけでシンプルに愛おしい。

 次は『俳優パズル』か。旧版が稀覯本の時代に大喜びで入手しておきながら、とうとう新訳が出るまで読まなかった(いまだ読んでない)そんな種類の一冊である。楽しみにしよう。

No.2092 7点 暗殺- 柴田哲孝 2024/10/24 11:27
(ネタバレなし)
 二年前の狙撃暗殺事件をモチーフにした、セミドキュメンタリーフィクション。
 読む前はもうちょっと重厚なものを予想していたが、エンターテインメント寄りでスラスラ読める。たぶん確実に『ジャッカルの日』を意識したであろう箇所もあるが。
 
 いろいろとお勉強になる一方、どこか隔靴搔痒の感もあり、そこは物足りない。まあこの手のミステリ一冊から得られるものに期待しすぎるのも、受け手としてはいささかアレ過ぎるが。

 それなりに楽しめたが、本気で面白い時の作者の本域には、とても届いていない感じではあった。

No.2091 6点 牢獄学舎の殺人 未完図書委員会の事件簿- 市川憂人 2024/10/23 12:43
(ネタバレなし)
 安定の実力派・市川憂人先生の新シリーズ、黙っていてもレビューが集まるハズなのに、ふた月前後経っても誰も書かない。 
 じゃあ読んで感想書くか、と思って昨日からページをめくりメモを取っていたら、読了直前に文生さんのレビューが上がった(笑)。いや、人生はドラマチックでオモシロイ。

 中身に関しては、イカれた? 大設定に直に触れてもらい、わははははは、こんなことあるかい!? と実写映画版『ビッグマグナム黒岩先生』公開時の横山やすしみたいに笑ってもらいたいので、あらすじは省略。
 いや『金田一少年』の「地獄の傀儡師」シリーズの拡大版みたいで外連味たっぷりです。
 主人公がミステリマニアで、あれこれ読書体験の中からウンチクを引っ張り出す趣向も楽しい(当人はネタバレには気を使ってるので、読者にもやさしい)。

 で、先行レビューの文生さんのおっしゃる肝心の事件がツマラんというご指摘はまったくごもっともとも思うが、ただまあ個人的には、イカれた歪んだ一部の登場人物の思考など、それはアリか? ……あるのかな? というせめぎ合いのグレイゾーンでなかなか楽しかった。
 謎の解法が込み入って、ロジックが均質化され、ダイナミズムを失ってしまった(少なくとも私にはそう見える)分だけ、パズラーとしての構造矛盾が生じてしまったのはアレだが。

 なんにしろ、やや強引な部分も含めて個人的にはそれなりに面白かった。読んでいて、ここはこういう解釈もできるんじゃないかな? と思った箇所が、あとでちゃんと推理の輪のなかでフォローされるのは、改めて気持ちいいとも思った。
 7点に近いこの点数で。

No.2090 7点 悪魔のような女- ボアロー&ナルスジャック 2024/10/21 21:42
(ネタバレなし)
 30代のセールスマン、フェルナン・ラヴィネルは、5年間連れ添った29歳のブロンドの妻ミレイユの殺害を考えた。ラヴィネルは情人である女医リュシエーヌ・モガールの協力を得てアリバイを偽装し、うまく計画を進めたつもりだった。だが……。

 1952年のフランス作品で、おなじみコンビの公式合作第一弾。
(ただし1951年に別名義で「L'ombre et la proie」なる実質的な初の合作長編があるらしい。いま、初めて知った・笑。)

 文庫は持ってたかどうかわからないし、家の中のどっかにある世界ミステリ全集版を探すのも面倒くさいので、ネットで古書のポケミス初版を安く買った。訳者はどれも同じ北村太郎だから、問題はない(まあフィアリングの『大時計』みたいに同じ訳文でも、文庫化の際に編集部が大きく手を入れてある可能性もあるが)。

 大ネタは昔どっかでバラされたような気がするが、うまい具合に忘却したので、これはヨイと思って読み出す。

 保険金目当ての妻殺しのクライムストーリーだが、むしろ物語の形質はウールリッチのノワールサスペンスものに驚くほど近い。
 70年以上も前の旧作で先が読めるとかどうとかいうより、オチは落ち着くところに収まったという印象。
 しかしそれでも、ハイテンションでグイグイ読ませる作品なのは間違いない。
 ポケミス100番台のごく初期の時期(通し番号の順不同に出たとはいえ)、この強烈なリーダビリティはさぞかし反響を呼んだのでは、と思わせる。
 まあ最後まで読むと、あれこれ引っかかる点はないでもないのだが(もし主人公があーしてこーしていたら、どーなったとか)、これだけ読んでる間オモシロければ、70年前の翻訳ミステリファンには大ウケだったんじゃないかってね。
 
 良い意味で作者コンビの直球・剛球ぶりを実感させられた初期作であった。

No.2089 6点 クラーク・アンド・ディヴィジョン- 平原直美 2024/09/08 11:00
(ネタバレなし)
 1944年5月。かつて1941年まではロサンゼルスで大型青果店経営を営む実業家だった日系のイトウ家は、太平洋戦争の勃発とともに財産やいくつもの市民権を奪われて収容所送りになったのち、ようやくシカゴへの再定住が認められる。「わたし」こと20歳のアキ・イトウは両親とともに、先にシカゴで暮らす3歳年上の姉ローズのもとに向かう予定だったが、現地に着く直前に知らされたのは、思いがけない悲報であった。

 カリフォルニア州出身のアメリカ人で日系三世のミステリ作家・平原直美の存在は以前にどこかで見かけ、すでに別のシリーズの邦訳も数冊あるのでちょっと読みたいと思っていた。
 そしたら今年、本作が新シリーズで始まったので、手に取ってみる。なお作品は、原文が英語で書かれている、れっきとした海外・翻訳作品である。

 500ページの厚みの文庫本で、文章そのものは読みやすいのだが、小学館文庫のこの本は書体も印刷もくっきり度が弱く、いささか目が疲れる。
 特殊な時代設定、シチュエーションで、(たまには)そういう変わった趣向のものを読みたいというこちらの興味には十分応えてくれた内容。キャラクターも結構、多めだが、この時代設定と紙幅からすればそんなにはネームドキャラが登場するわけではない。
 若い女性主人公の一人称視点で綴る、特殊な時代のなかの群像劇的な見方をするなら、フツーに悪くない出来だろう。よくいう、細部が面白い作品ではある(特に第22章の某キャラの、あ~あ……という状況に読んでいて泣き笑い、の気分)。

 ただしミステリとしては、話の構造から最後のサプライズが読めてしまった。ただ素直な決着にせず、ある意味でひとつふたつひねってあるのは、まあまあよろしい。
 すでにシリーズ第二弾が出ているそうで、いろいろとラストで気になる次作に向けたフックは仕掛けてあるので、いずれ翻訳が出れば7割くらいの確率でたぶん読むと思う。

 最後に、本当に久々にミステリを読めて良かった。
 さっさと早くまた、元の生活ペースに戻りたい(涙)。

No.2088 7点 難問の多い料理店- 結城真一郎 2024/08/25 16:08
(ネタバレなし)
 全6編の連作短編。

 探偵役は同じで、毎回のワトスン役の方が交代する趣向というのがちょっと面白く 適度に話のバリエーションを感じさせた。
(名前未詳の探偵役というのは、隅の老人や三番館シリーズなど同様、この手の一種の安楽椅子探偵もののトラディッショナルという印象だが。)

 各話は日常の謎と犯罪事件とのグレイゾーンのようなものが多く、その辺は「ブラックウィドワーズ・クラブ」などを想起させるが、個人的にはなかなかオモシロイ(読み手の興味を刺激する)謎のネタがあって楽しい(切断されていた指の件や、置き配の件など)。
 最終的には、あくまで真相の仮設であり思考実験的な決着に至る解決も多いが、その上で作者らしいロジカルさが随所に伺え、心地よかった。

 連作短編集としては最後のエピソードで一区切りを迎えたので、続きはないかもしれないけれど、もう一二冊くらい、同じパターンでの続刊があってもいいかとも思う。

No.2087 7点 なんで死体がスタジオに!?- 森バジル 2024/08/18 10:57
(ネタバレなし)
 昨年の連作短編集(広義の長編)『ノウイットオール あなただけが知っている』が結構良かったので、私的に注目している新鋭の作者の著書第二冊目。今回は、完全に長編仕様の書き下ろし。

 テレビ局内の生放送番組の最中に死体が見つかり、いっときだけ、事を荒立てたくないメインキャラの局スタッフ(若い女性)はその事実を秘匿しようとする。
 読後にAmazonのレビューを見ると、序盤~前半のこの流れだけで、リアリティがないと放り出した人も少なくないようだが、かなりもったいない。まあ否定派のこだわりもわからないことはないが、その辺はフィクションの大枠の許容範囲。結城昌治の言う「大きなひとつのウソの上に、小さな多くのホントを」の、その前半部分である。

 随所にちょっとずつジワっとくる毒を感じさせる<ミステリ・ファルス(一種の戯作)>かと読みながら思っていたが、後半にいくつもの仕掛けがあってなかなか面白くなる。そのなかの大技のひとつは、ちょっと使い方がアレじゃないか? とあとから思わないでもないが、一方でその趣向でもたらされたものは確かに大きいので、まあいいや。
 まあ、ヒトによっては、こんなの以前にどっかで読んだ、とおっしゃられるかもしれないが(苦笑)。
 あと、真相の解明時に後出しの情報が多め? なのはちょっと弱点。

 どんなものが二冊目に来るかな? とそれとなく期待していたら、なかなか悪くないレベルのものを読ませてもらった感じ。あまり詳しく言えない内容だが、某・登場人物の役割の転調ぶりが、順当に(作者のたぶん思惑通りの効果が上がったという意味で)なかなか良い。ただし犯人は、このキャラかな……と見当をつけて当たった。まあそれで終わる作品ではなかったが。

 次作にもまた期待します。

No.2086 7点 奇岩館の殺人- 高野結史 2024/08/15 09:36
(ネタバレなし)
 面白かった。素直なフーダニットのパズラーじゃ全然ないんだけど、誰が……の興味を織り込みながら、舞台劇のような、いささかイカれてやや悪趣味なサスペンスミステリを展開していく。

 いちばん近い作風で言うなら、1950年代のポケミスの中にありそうな、ひねった趣向で勝負の技巧派系。トマス・スターリングとかパット・マガーとかあっちの傾向か。

 作者はセンス的に、ミステリが「わかってる」人だと思う。
 次作に期待。既刊作もそのうち、読んでみよう。

No.2085 7点 密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック- 鴨崎暖炉 2024/08/13 16:25
(ネタバレなし)
 解明不能なトリックの密室殺人の完遂によって、本命の容疑者すら捕縛を免れる世界。「僕」こと高校三年生の男子・葛白香澄は、幼なじみで大学三年生の女性・朝比奈夜月の誘いで、奥多摩の内地に出現するというニューネッシーを探しに現地に向かう。そこで葛白たちは、巨大なトンネルの向こうの広域の鍾乳洞の中にある辺鄙な村落「八つ箱村」に紛れ込んだ。そこはかつて昭和二十年代に、新鋭気鋭の若手ミステリ作家八人「昭和密室八傑」が不可解な死を遂げた惨劇の場でもあった……。そしてまた現在、当時の惨状を甦らせるような、謎の犯人による連続密室殺人事件が巻き起こる。

 「密室黄金時代シリーズ」(←作者ご本人公認の公称ね)の第三弾。
 待ってました! という気分の、二年ぶりの新作登場である。

 お笑いの大設定は一定以上のレベルで愉快なものの、正直なんか、30年前の新本格黎明期にはやったパロディものパズラーの焼き直しという感じ。とりあえずそこら辺の戯作性に、さほど寄りかかっただけの作品ではない。

 期待通りのイカれたトリックの連発は今回も相当に楽しく、特に和風密室のバカミス度加減はハイレベルだが、作品全体を俯瞰するとよくもわるくもネタをぶっこんで並べただけの感じがしないでもない。
 料理に例えるなら具の種類の多い、ひとつひとつは栄養価の高い野菜をいくつも使いながら、もうちょっと煮込んで溶け合わせたらいいのにな、というクリームシチューみたいな食感? ただし一方で、この料理はそのシチューの中の具の野菜ひとつひとつに旨味と歯応えもあるので、決して悪い仕上がりではない。ある意味で、煮込みをほどほどにしたところが魅力の料理でもあった。

 あんまり書いちゃいけないけれど、最後の大技とさらにそのあとの……も作者なりのサービス精神の発露。送り手がこういう形で具現した深いミステリ愛をそこら辺に感じて、ちょっと胸が熱くなった。
(未読の方の興味を削がないように書きたいけれど、中盤の、あっちを優先すると、こっちが……のあたりのくだりも、本作ならではの文芸設定の活用で楽しい。)

 最後に文生さんのレビューの「社会派パズラー舐めんな!(大意)」は読んでいてまさに自分もそう思った箇所で(笑)、さすが文生さん、よくわかってらっしゃる! 
 ただまあ、この作者・鴨崎先生クラスにとんがった作家の場合、その程度にはスキがあった方が人間臭くて良い。これでもし鴨崎先生が、社会科とパズラーの分水嶺まで冷徹に知悉していたら、なんかもう若いくせに可愛げないもんねえ。そのくらいに油断があってイイのよ。
(まあもしかしたら御当人、すべて承知の上で、自己演出しておられるのかも知れませんが?)
 
 何はともあれ今回も、しっかり楽しませていただきました。シリーズ第四弾も楽しみにしております。(次は最低でもトリック9個がノルマなのですか……。)

No.2084 6点 この謎が解けるか?鮎川哲也からの挑戦状1- 鮎川哲也 2024/08/08 20:59
(ネタバレなし)
 数時間ほど、自宅以外の屋内で機械を操作して作業する流れだったので、その操作の合間にと、持ち出して読む。
 本そのものは、半年くらい前にブックオフの100円棚で見つけて購入したもの。

 シナリオ形式なのはこの作品(作品集)の場合、読みやすいような、そうでないような……という感じだが、完成されて放送された番組の枠の関係か、登場人物の頭数が総じてそんなに多くないのはリーダビリティが高い。

 何本か犯人や真相を当てようと思って読むと、こちらの思いついた段階は、そう思うでしょ? 実は違うんですよ、とそこからさらにひねってあることも多く、その辺はさすが作者。
(単純にこちらの読み込みが浅い、張られた伏線を見落としている、などということもままあったが・汗)

 映像としてはたぶんもう再見が叶わない番組の面白さに触れられる、貴重な一冊。資料的な価値としても高い一冊である。
 
 新規に作画のイラストが、編集側の思惑をあれこれ感じさせてちょっとオモシロイ。

No.2083 6点 カルチャーセンター殺人講座- 池田雄一 2024/08/03 16:29
(ネタバレなし)
 渋谷の繁華街の一角にある「マルフク・カルチャーセンター」。そこで48歳の現役脚本家・飛池克久は、ミステリーものののシナリオ執筆の講師を務めていた。だが彼の講座の最中に、背中にナイフを刺された男がとびこんできてそのまま死亡する。男は同じカルチャーセンターのカラオケ教室の講師で、作曲家の歌川啓輔だった。警視庁捜査一課の巡査部長で、たまたま克久と中学時代の友人だった網田一が渋谷署の若手刑事・若山とともに捜査を続けるが、カルチャーセンターの周辺ではまもなくまた新たな事件が。

 毎夜の就寝前に、戸川安宣の15年分のミステリ書評を集めた「ぼくのミステリ・コンパス」をちびちび読んでいたら、未知の面白そうなタイトルが目につく。
 紹介の仕方に妙な関心の惹き方があり、どうやら何らかの曲者っぽい? 作品みたいなので、近所の図書館にあるのを確認してから借りてきた。それが本書。

 主人公の名前はヒッチコックのもじりで、ほかの登場人物のネーミングも立場や役割に応じたイメージの漢字が用いられたり、メタっぽい要素が目立つ。
 その辺のメタミステリとしての面白さは、なにか事件が起きるごとに、主人公の克久がその話題を、自分のカルチャーセンター講座での講義や話のネタに持ち込むことで、さらに炸裂。
(作中作風に、ミステリもののシナリオ描写の断片が、随所に挿入される。)
 同時に作者の投影か、小説や映画のミステリファンでもある克久やほかの一部の登場人物は既存のミステリの話題を【具体的なタイトル名もあげずに】(←ココが重要)語りまくる。この辺の趣向もなかなか楽しい。

 最後の二重三重のオチはまあ読めるが、全体にわたって1950~60年代あたりのアメリカのちょっとだけ技巧派の軽パズラーというか、フーダニットの要素の濃厚な適度にひねったサスペンスミステリという感じで、相応に楽しめた。
 仕事で忙しいので読了まで三日もかかったけど、本当なら数時間で一気読みだったろう。
 終盤の方でとってつけたように、カルチャーセンターという社会文化についての文明批評めいたものが出て来るのも、昭和ミステリのお約束という感じでゆかしいことしきり。

 そんなに大騒ぎするほどの秀作~優秀作ではないけれど、読んでおいて自分のなかのミステリファン度がちょっとだけまた上がるのを実感できるような、そんな一冊。

No.2082 5点 列をなす棺- エドマンド・クリスピン 2024/07/28 07:30
(ネタバレなし)
 第二次世界大戦が終わって数年後。その年の3月の英国。オックスフォードの英文学教授でアマチュア名探偵のジャーヴァス・フェンは、「ロング・フルトン」撮影所で新作史劇映画「ポープの一生」のため、文学面の監修役を務めていた。そんななか、撮影所に出入りしていたハイティーンの女優グロリア・スコットが謎の身投げ自殺をして、騒ぎになる。フェンと旧知のスコットランドヤードの警部ハンブルビーが、グロリアの秘められた事情を調査するが、やがて事件はさらなる広がりを見せていった。

 1950年の英国作品。フェンシリーズの第7長編。
 『お楽しみの埋葬』の後日譚で、ワトスン役(みたい)のハンブルビーはそこで初登場だそうだが、評者は未読。『お楽しみ』は、HM文庫版でなぜか美本の新刊を二冊も持っているので、これを読む前にそっちを先に……とも思っていたのだが(汗)。

 ドタバタが皆無なのはまあいいし、後半で急に存在感を増す某女性キャラのビビッドな描写なんか、悪くはない。ただし真相に関しては、え? そういう形で叙述!? しかもその人が犯人と言われても……結局、ほかの人でも何人か該当範囲にいるような? あと、そんな理由で(中略)とか、違和感バリバリであった。

 面白いときのクリスピン作品を基準にすれば、たぶん確実にシリーズの中でも下位になるであろう出来で、これまで放っておかれたのもむべなるかな。まあそれでも、発掘翻訳してもらってウレシイから、ほぼすぐとびついて読んじゃったのだが。
 記号的には面白いはずのことをやってはいるのだが、イマイチいや二つ三つ、その効果が上がらないのが何とももどかしい。

No.2081 6点 天狗屋敷の殺人- 大神晃 2024/07/21 08:28
(ネタバレなし)
 悪くはない……とは思う。
 イヤミとかの意はまったくないつもりで言うけれど、これが昭和30年代の旧作パズラーだったなら、おお、なかなか拾い物だねえ! 的にトキメいたという感じがする。

 ただまぁ、2020年代のあんな作品もある、こんな作品も出てる、新本格ミステリ円熟時代にあっては、あまりにフツーすぎる印象。
(大トリックも、実際の決行時をイメージするとなかなかのインパクトなのだが、似たのをしばらく前にどっかで読んだような……。)

 ヒロインのヤンデレ設定と、主人公の自覚的な美形イケメン設定も、もうひとつ踏み込んで栄えなかったのも残念。お話はよくまとめてあるとは思うが、全体的に小説的な演出にワサビが効いてない(©仁木悦子)という感慨を抱く。後半はうっすら眠かった(汗)。

 とはいえ作品はシリーズ化されそうなので、次が出ればまたたぶん読むでしょう。

No.2080 7点 黄土館の殺人- 阿津川辰海 2024/07/20 17:14
(ネタバレなし)
 レビューを書くため「黄土」のキーワードで、本サイト内の本項を検索したら、出てきたのは本作と生島治郎の『黄土の奔流』のみ。なんかエエなあ(笑)。

 ちなみに「館四重奏」シリーズは、「カラーの館」シリーズでもあると思うが、今回は劇中の正式名称「荒土館」が一向に「黄土館」の別称に転じないのに軽く戸惑った(特にネタバレの類とかには関係ない)。前二作もこんなんだっけ?

 第一部から第二部へのあまりにも鮮やかな転調のくだりまでで、ほぼお腹いっぱいになってしまい(笑)、そのあとの大部のページは良くも悪くも「普通の館もの」の気分で読み進めた。

 先行のレビューを拝見すると、真犯人の予想はついた方も少なくないようだが、私には隙を突かれた思いでかなり意外であった(汗・笑・涙)。
 なるほどあとから考えれば(中略)からも確かにそうなるだろうし、伏線もしつこく張ってあったので、これは気づかないこっちの方が悪い(大泣)。大部の一冊の情報量の多さに、幻惑された面もある。そういう意味でも、作者の作りが見事だったのであろう。

 とはいえスナオに楽しめたかというと、満腹感が強過ぎていささか消化不良を起こした面もある。その点では、作者が<この作品でどんな新規のミステリをやりたいかのテーゼ>が当初から明確だったシリーズ前二冊の方が、受け止めやすい部分もある。

 いや大トリックの強烈さをふくめて、よくできた作品なのは間違いないのだが、前作ではほぼ同じページ数ながらまったく苦にならなかった本の厚さが、今回はちょっとだけタルかったんだよなあ。ゼータクな物言いなのは百も承知しているが(汗)。

No.2079 7点 ぼくらは回収しない- 真門浩平 2024/07/18 04:41
(ネタバレなし)
 前著『サンタクロース』の評で
「この作者、これ一冊で消えそうな気もしないでもない。」
 などと失敬なことを書いたら、その翌月に本書が出た(汗)。
 真門先生、すみません。

 全5編の中短編のうち4つまでが書き下ろしというのにも軽く驚いたが、それらを含めて全部がノンシリーズだというのにも、さらにいささかビックリ。
 新人作家がこういう形質の著作を紡ぐ場合、なんとなく、5編のうち少なくとも2本くらいは、同じ主人公の連作にしそうな気配があるんだけどね。評者の勝手な予断かもしれんが。

 ほとんどの作品が、二世代若い連城の初期短編みたいな「心のいびつさ」がモチーフにからむ話で興味深かった。
 「追想の家」のみがもっともスタンダードなミステリだと思ったが、これはこれで胸を打つ。
 皆さんに評判のよい(自分も面白く読めたが)『カエル殺し』にしても、最後の『ルナティック・レトリーバー』にしても、雑な生き方をしている自分からすれば(中略)じゃんとも思ったが、読み手の心の中でそういうイクスキューズを手繰り寄せる分、やはり犯人の行動の原動には、ある種の説得力が逆説的にあるのだろう。
 
 ノンシリーズ編ながら一本一本に歯応えがあるので、最初の1~2本を読んだ時点では、これは胃にもたれて、一冊読み終えるまでに時間がかかるだろうな、と思った。
 しかし実際には、リーダビリティの異常に高い文章のサクサク感、そして次の話はどんなだろ? という興味に引っ張られてあっという間に通読してしまった。
 
 こんなレベルの作品、そうそう量産できるわけないとは思うので、作者には良いペースで、今後も執筆活動を続けていっていただきたい。

No.2078 8点 永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした- 南海遊 2024/07/17 05:07
(ネタバレなし)
 その作品独自の特殊設定のもとにロジックが築かれるその手のパズラーは、どうも苦手な方である。
 しかし本作はどうにか最後まで何とか理解が及び、二つの密室殺人の解決もかなり面白く読めた。
(まあ万が一、ロジックや推理の組み立てに瑕疵があったとしても、そこに突っ込めるほどの読解ができている自信はないが。)

 真犯人の意外性、サブストーリーの手繰り寄せ方(伏線の回収)、ああ……と思わされる「なぜそうだったか」のイクスキューズの数々……それらの質の高さと物量感との相乗で、非常に楽しい。終盤の展開が、ちゃんとまとまりの良い<物語>になっているのも評価。
(とはいえ作者がこの作品に込めた最大の課題は、いかにあの某メジャーゲームコンテンツを超えるか、だろうね。もし書き手から、意識してない、とか聞かされたら「嘘だっ!」と中原麻衣の声で言いたくなる。)

 クセがある作品なのは事実だから、ヒトにムセキニンにはお勧めはしませんが、個人的には結構高い評価をしておきたい一冊であった。

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人並由真さん
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以前は別のミステリ書評サイト「ミステリタウン」さんに参加させていただいておりました。(旧ペンネームは古畑弘三です。)改めまして本サイトでは、どうぞよろしくお願いいたします。基本的にはリアルタイムで読んだ...
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