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愛と疑惑の間に |
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ヴェラ・キャスパリ | 出版月: 2000年11月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
![]() 小学館 2000年11月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2024/11/24 16:07 |
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(ネタバレなし)
1960年代のニューヨーク。当年47歳のフレッチャー(フレッチ)・ストロートは、一代で巨万の富を築いた億万長者だ。莫大な資産と男性的な容姿に恵まれた彼は5年前に19歳も年下の美人モデル、エレイン・ガーディーノに一目ぼれ。古女房ケイトを金の力で強引に離縁させ、エレインを後妻に迎えた身だった。だがそんなフレッチャーも喉に悪性の腫瘍ができたたため、患部を除去。その結果、健常な発声が不能になった彼は一線を引退し、同時に完璧な男性としての自信を失っていた。現在のフレッチャーは、劣等感の暴走から妻エレインが非健常者の自分を見捨ててひそかな不貞を働いてるのでは? という妄執に憑りつかれ、その想いを日記に書き連ねるが……。 1966年のアメリカ作品。『ローラ殺人事件』の作者ヴェラ・キャスパリの、長編ミステリ第11弾。邦訳がある三冊のうち、本書のみ本サイトに登録があってレビューが無いので、しばらく前に気になってネットで古書を入手。一昨日から読み始めて、今朝読了。 名前の出る登場人物は一応20人以上いるが、メインキャラといえるのはフレッチャーとエレイン、それにフレッチャーの娘で22歳のシンディーと彼女の29歳の夫ドン(ドニー)・ハスティングスと、エレインの主治医で独身の二枚目ラルフ・ジュリアンの5人だけ。ほとんどストロート家の邸内をステージにした、舞台劇を観るような流れ。こういう話で設定だからフレッチャー本人の、さらには疑惑を持たれたエレイン側、双方のあれこれの疑心暗鬼、さらには娘夫婦たちの心象、生活描写が綿々と書き込まれ、じわじわと緊張感を高めていく。それはいいが、大きな出来事が起きるのは中盤以降なので、そこに行くまでがちょ~っとだけキツイ。いやそのジワジワ感のテンションをじっくり楽しむのが正しい読者の立ち位置だが、もうちょっと話を転がすネタを用意してほしかったのも正直なところ。 (ただし決してダラダラとかではなく、ストーリーにはそれなりのベクトル感はある。) ミステリの決着としてはそれなりのクセ球を放って来た感じで、主要人物の内面描写を全編、密にしながら、実は読者に明かすところとそうでないところを描き分けていた作者の筆遣いが効果をあげている(ネタバレにはならないと思うが)。 たぶん翻訳家や編集部がソの辺を評価して、邦訳発掘(2000年当時)したのだろう。決して記号的なポイントでミステリ史上に残るようなものではないとも思う。たぶんこれって、読解の深度の下駄を受け手に預けたようなところもあるよね? トータルとしては佳作、か。 キャスパリは十数冊の長編ミステリがありながら、邦訳はまだ3作のみ。もしかしたら未訳のなかにまだちょっとした佳作~秀作が残ってるかもしれない気配もないではないので(実際はどうかわからないが)、もし何かアルのでしたら今からでもどこかで発掘をお願いしたい。 2024年の現状、海外クラシックの発掘翻訳にまったく勢いがないので、望み薄ではあるが。そういえば、この本作を邦訳してくれた小学館文庫も、ラインナップはあれこれとステキだったよねえ。 |