皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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パメルさん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 654件 |
No.15 | 7点 | 宿命と真実の炎- 貫井徳郎 | 2025/03/14 19:22 |
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「後悔と真実の色」の続編で、前作の主人公・西條輝司が登場するが、警察を辞めた西條は安楽椅子探偵的役割に留まり、新たな主人公として所轄署の女性刑事・高城理那が中心に据えられている。高城は関連がない思われた警察官の連続死に意外な繋がりを見つけ出し、連続殺人事件ではないかと独自に捜査をする。
物語は警察側の捜査と、犯人側の復讐劇の二つの視点から展開される。冒頭で犯人の素性が明かされる倒叙形式でありながら、動機や真の目的は最後まで伏せられるため、ホワイダニットを追う緊張感に引き込まれる。警察官連続殺人事件の背景に隠された冤罪と組織の隠蔽体質が、社会派的テーマとして重くのしかかる。冤罪を扱いながらも、単なる批判に留まらず正義感と組織の矛盾を描き出している。 ラストは救いのない展開だが、高城と西條の成長、そして犯人たちの哀しみが交錯する様子に深い余韻を残す。警察組織の闇と個人の正義をテーマに、複雑な人間模様を緻密なプロットを組み合わせ「真実とは何か」を問いかけた力作。 |
No.14 | 5点 | 夜想- 貫井徳郎 | 2024/12/19 19:44 |
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妻子を事故で亡くし、絶望中の男・雪藤と不思議な力でその悲しみを感じ取った少女・遥。不幸という名の引力に誘われて二人は出会う。
遥の能力は何人もの人々を癒し、やがて信奉者が集まり教団を形作るまでになる。新興宗教を題材にした小説は多いが、中でもこの作品は人を救おうとする者が引き受けなければならない傷みがとても丁寧に描かれている。ヒロインを教祖に仕立て上げる宗教集団の顛末を追う部分で、極めてオーソドックスに語られこの物語の半分以上を占める。さらに二人の愛の間には「救いとは何か」という問いが常にある。 ある種の妄想に取りつかれた人物が、その妄想の逆転に立ち会わされる。雪藤はひたすら教団を維持し、教祖を盛り立てようとする。この不自然なまでの献身ぶりは何なのか。エンターテインメントとしての面白さと、傷ついた人間の再生のドラマが融合した後半の衝撃的な展開は圧巻。ミステリ的カタルシスをもって閉じられる結末には、本当の救いが訪れるため絶望の果ての希望が最も尊いのだという作者の思いが伝わってくる。題材としては悪くはないが、ミステリとしては弱い。 |
No.13 | 6点 | 紙の梟 ハーシュソサエティ- 貫井徳郎 | 2024/09/30 19:39 |
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人を一人殺せば死刑になることが決まっている、架空の日本を舞台にした5編からなる短編集。
「見ざる、書かざる、言わざる」あるデザイナーが指を切り取られ、舌を切り落とされ、さらには両目も潰されるという凄惨な傷害事件。犯人は、なぜ彼をこんな酷い目に遭わせたのか。架空の設定と意外な動機を結び付けたロジカルなミステリ。 「籠のなかの鳥たち」外界から隔絶された山間の別荘で起きる連続殺人事件。外部からの侵入経路がないため内部犯行ではないかと疑心暗鬼になる。特殊設定を生かした、この世界でしか成立し得ない動機が描かれている。 「レミングの群れ」いじめによる自殺者が絶えない中、いじめの首謀者を突き止め、第三者が復讐する事件が続発する。こうした風潮に乗り、ある男が立てたおぞましい計画とは。意外な真相に背筋が寒くなる。 「猫は忘れない」殺された姉の復讐を果たすため、主人公は姉の元恋人をつけ狙うという、犯人の視点で綴られる倒叙ミステリ。周到な計画の綻びにハラハラする。自分勝手な思い込みが自分に跳ね返ってくる男の末路。 「紙の梟」笠間の恋人・紗弥が殺された。容疑者は逮捕されたが、それと同時に笠間は思いがけない事実を知る。彼女について調べる中、笠間が下した決断は。それまでの4編は「こういう社会に成ったら何が起きる?」と問題提起し、それを踏まえた上で、テーマ性の高いこの作品に繋がっている。一度罪を犯した者は許されないのか、人生をやり直せないのか、死刑制度の根幹に関わる問題が提示される。 SNSで誰かを叩く人は、それが悪いことだと思わず、むしろ良いことをしていると思っている。だから叩くのが気持ちよくてやめられないのだろう。自分が正しいと思い込んでいるスタンスを客観視することが必要だと訴えている作品集。 |
No.12 | 5点 | 愚行録- 貫井徳郎 | 2024/07/07 19:26 |
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第135回直木賞候補にもなり、映画化もされた作品。
静かな住宅街で起きた一家四人惨殺事件。被害者となったのは、エリートの夫、美しい妻に二人の子供。幸福を絵に描いたような家族が、なぜ無残にも殺されなくてはならなかったのか。 取材を受ける関係者の証言と、兄と会話する妹の告白が交互に繰り返される。初めは被害者を悼んでいた証言者たちが、インタビューが進むにつれて徐々に心に潜む悪意がむき出しになっていく。被害者たちにまつわるエピソードも、それを語る証言者たちも、自分のことは棚に上げて他人を陥れるように話そうとする愚かなものばかり。幼児虐待やスクールカースト問題についても触れていて、人間の嫌な部分が多く描かれている。 もう一つのポイントとなるのが少女の独白。この少女の暮らしぶりが悲惨で、読むのが辛いと感じる読者も多いのではないか。少女自身が自分の生活を普通に受け入れてしまっているところが、いっそう哀れで仕方がない。彼女の独白が、本筋である殺人事件と思いがけないところで結びついていく過程は見事。 |
No.11 | 6点 | 追憶のかけら- 貫井徳郎 | 2024/04/14 19:23 |
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主人公である大学講師の松嶋は、上司である教授の娘と結婚していたが、自分の浮気が原因で喧嘩をし、妻は実家に戻っている時に事故で亡くなってしまう。そのため義父・麻生教授との関係も良くない。
そんな失意の日々を送る松嶋のところに、戦後間もなく自殺した作家・佐脇依彦の未発表手記が持ち込まれる。その手記は、自分がどうして死を選択することになったのか、ということが綴られているのだが、その内容がミステリとしか形容しようがないものだった。 謎めいた内容もさることながら、旧字旧仮名で書かれているのが、得体の知れない不安を覚えさせる。その不安感は、手記の謎を探る松嶋が何者かに追い詰められたり、数々の不可解な出来事で一層、増幅されていく。複数視点で物語を二転三転する展開は、作者の真骨頂と言える。最後に明らかになる黒幕の悪意、残酷さ、理不尽さには恐ろしいものがあった。それども読後感は爽やか。それは、松嶋の人の良さと、妻子に対する深い愛情がなせる業でしょう。ミステリであるとともに、家族や夫婦の愛の物語でもある。 |
No.10 | 6点 | 光と影の誘惑- 貫井徳郎 | 2024/01/18 06:58 |
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重厚な語り口でトリッキーな仕掛けを炸裂させる、誘拐、密室、倒叙、出生の秘密とバラエティに富んだ4編からなる中編集。
「長く孤独な誘拐」森脇耕一の息子が誘拐された。しかし、誘拐犯は身代金を要求せず、森脇に他の子供を誘拐するように要求する。子供を誘拐しておいて、第三者に誘拐させるといった操り構造は、山田風太郎作品を想起させる。森脇の奮闘に胸を打つ。 「二十四羽の目撃者」サンフランシスコ動物園で起きたペンギンの前での殺人事件。第一発見者の証言によると、密室だとしか言いようがない。話自体は面白いが、軽めのタッチで作者らしい作品とは言いかねる。真相も残念。 「光と影の誘惑」競馬場で小林と知り合った銀行員の西村は、小林から現金強奪の話を持ち掛けられ、些細なきっかけからその手引きをする。このトリックは巧妙で、すっかり騙されてしまった。切れ味鋭い傑作。 「我が母の教えたまいし歌」父親の葬儀のために実家に帰省した皓一は、父親が勤めていた会社の同僚から、自分に初音という姉がいた事実を知らされる。連城三紀彦のある短編を想起させる。真相は途中で気付いてしまったが、結末へのプロセスはよく出来ている。 |
No.9 | 7点 | 女が死んでいる- 貫井徳郎 | 2023/10/24 07:21 |
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ライトなミステリからサスペンス、社会派ミステリまで様々な味わいが楽しめる、どんでん返しが鮮やかな8編からなる短編集。
「女が死んでいる」お酒を飲んで酔った翌日、目が覚めたら部屋に見知らぬ女性が死んでいた。女が死んでいた理由には唖然とさせられた。 「殺意のかたち」公園のベンチで発見された男の遺体。その男が生前、お金を送っていた相手はすでに死んでいた。どういう関係だったのか。シンプルな中に意外性がある。途中で気付いたが、それまでは上手くミスリードさせられた。 「二十露出」ホームレスの臭いに悩まされる飲食店の店主二人が、ホームレスを殺そうとする。オチはあっと言わされた。 「憎悪」愛人契約を結んだ男の正体を探ろうとする女の話。主人公のラストに、ただただ哀れ。背筋が寒くなった。 「殺人は難しい」大好きな夫の浮気相手を憎み、今の生活を守ろうとして殺すことを決意する。NHKドラマ企画でコラボした作品。ネタは見抜くことが出来る人が多いのでは。 「病んだ水」浄水場を作ろうとしている会社の社長令嬢が誘拐された。犯人の指名で秘書が身代金を運ぶことになったが、その金額はたったの30万円だった。動機に繋がるある問題は、他人事ではないと思わされた。 「母という名の狂気」幼い娘に手をあげてしまう母親、それを疑い確信していく父親。最後に祖母の見た光景は、衝撃的なものだった。虐待者の狂気にゾッとし、やりきれない気持ちになる。読後感は相当悪い。 「レッツゴー」恋に奔放で、一喜一憂する姉を冷めた目で見ていた妹が、初めての恋に四苦八苦する。ほろ苦い青春の一ページという感じの心温まる物語。ミステリとしては薄味な恋愛小説。 |
No.8 | 5点 | ミハスの落日- 貫井徳郎 | 2023/07/19 06:42 |
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海外を旅しているように思わせてくれる世界の都市を舞台にした5編からなる短編集。
「ミハスの落日」スペイン有数の製薬会社の会長からベニートは、突如呼び出しを受ける。訪れると母親の昔話を聞くことになる。旅情あふれる雰囲気は好きだが、密室トリックは無理がある。動機は切なくやるせない。 「ストックホルムの埋み火」レンタルビデオショップに勤めるブランクセンは、客にストーカー行為をし、挙句の果てに殺そうと決意する。しかし、すでに誰かに殺されていた。淡々と物語が進むところは好みではないが、最後に意外な事実が判明するという驚きがある。 「サンフランシスコの深い闇」保険調査員の「おれ」は、旧知の刑事から知り合いの保険金が早く下りるように段取りしろと言われる。その事件に興味を持ち、調べを進めるとその知り合いは、過去に二度夫が死んで保険金を受け取っていることが判明する。恐怖小説になりそうなテーマを軽い文体で描いている。真相は先が読めてしまった。 「ジャカルタの黎明」ジャカルタの娼窟でディタの元夫が殺され、悪徳刑事に付きまとわれていた。一方、彼女には日本人の上客がつき満たされていたのだが。悪徳刑事や娼窟というノワール素材を使いながら、最終的に世界を反転させるトリッキーな作品。 「カイロの残照」旅行社でガイドを務めるマムフードは観光客から、夫がエジプトで失踪した手掛かりをつかみたいと相談を受ける。連城三紀彦作品を想起するような反転で、後味は悪いが印象に残る作品。 |
No.7 | 8点 | 後悔と真実の色- 貫井徳郎 | 2023/04/09 07:19 |
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若い女性を襲い、殺して指を切り取るという連続殺人事件が発生。犯人は「指蒐集家」と名乗り、警察の大向こうを張って犯行を重ねていく。この事件の捜査に当たった刑事の中に警視庁の名探偵の異名を持つ西條がいた。西條は独自の視点から「指蒐集家」の正体に迫っていく。
序盤は、事件の発生の報から実際に刑事たちが捜査に着手するまでの段取りが現実に即して丁寧に描かれており、警察小説に改めて真正面から挑もうとする作者の意気込みが感じられる。周囲との軋轢も気にせず、使える手をすべて使って捜査情報を得ようとする西條、西條に反感を覚え周辺で功を焦る同僚たちなど、所属や立場が異なる刑事たちも個性的に描かれている。 警察小説の面白さと本格ミステリとしての面白さが両立しており、作者らしいユニークなアプローチがされている。刑事同士の内紛や足の引っ張り合いのあたりは警察小説的な面白さがあるが、それ以上に面白いのが西條の人物造形。名探偵然としているのだが、その扱いが物語が進むにつれて面白いことになっていく。家庭内別居中で若い愛人がいるなど清廉潔白ではないまでも、中盤以降の西條の転落は想像を超える。ただ、その状況下でも己の矜持を保つ西條の姿は、堕ちたヒーローとして強烈な印象を残す。 劇場型犯罪と捜査小説の演出に隠されているが、真犯人の行動原理や動機には本格ミステリらしい意外性がある。警察小説の常識や自身の作風を含め、様々な予断を裏切る作品となっている。本格ミステリファンが読むべき、警察小説ものと言えるかもしれない。 |
No.6 | 6点 | 崩れる 結婚にまつわる八つの風景- 貫井徳郎 | 2022/12/11 08:22 |
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家族崩壊、ストーカー、DV、公園デビューなど、現代の社会問題を「結婚」というテーマで描き出す、狂気と企みに満ちた8編からなる短編集。
「崩れる」仕事をしない夫と身勝手な息子に追い詰められていく主婦の心理を活写している。最後の一言に後味の悪さを感じるとともに、カタルシスも感じることが出来る。 「怯える」貫井版「危険な情事」。だが、それだけでは終わらない暗鬼の点描、嬉しい不意打ち。男性が抱く恐怖心をうまいこと表現している。 「憑かれる」思いがけない旧友たちの結婚と招待。甘酸っぱい悔恨に、恐怖は冷たく忍び寄る。笑いと恐怖を交互に繰り出した奇妙な味わい物語。 「追われる」自立した女の仕事は、冴えない男をストーカーに仕立て上げる。描写の技巧は光るが、話の展開はありきたり。 「壊れる」偶然の事故が不倫の二重奏を狂わせる。スピーディーな展開や頭脳戦。短編として完成度が高い。 「誘われる」公園デビューを主題に、若い母親にありがちな悩みや心理を的確に暴いていく。孤独な母娘はたちは、お互いに癒し、そして傷つけ合う。叙述の妙が光るサスペンス。 「腐れる」悪臭ネタの世にも奇妙な物語風。得体の知れない物への恐怖を煽り立てた内容で、ホラーテイストが強め。 「見られる」見えないストーカーの恐怖を描いている。トリックは読みやすいが、もう一段の仕掛けが巧い。 |
No.5 | 6点 | 微笑む人- 貫井徳郎 | 2022/07/08 07:47 |
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エリート銀行員の仁藤俊実が、蔵書を置く場所を確保するために妻と娘を殺害した。異様な動機で世間の注目を集めた仁藤に興味を持った小説家の「私」は、事件をノンフィクションにまとめたる関係者を訪ね、証言を集めていく。やがて「私」は、仁藤の同僚や大学の同級生が不可解な死を遂げていた事実を知る。
常識では理解できない猟奇事件が発生すると、マスコミではすぐに幼少期のトラウマや、不況が生み出す閉塞感といった分かりやすい動機を探し出そうとする。ところが本書は、物語が進めば進むほど、仁藤の人物像や動機が見えにくくなる迷宮のような構造になっている。 作者が、実際に起きた事件をモデルにしたようなエピソードや、仁藤を取材する「私」に、知人が「あんな良い人」と答えるなど、どこかで見たことのある場面を並べながらも、ラストに意表を突くどんでん返しを用意したのは、週刊誌やワイドショーが報じる分かりやすい動機は、犯人や社会の闇に到達していないとの想いがあったからではないだろうか。 本書は、一般的なミステリとは異なる展開をたどるため、モヤモヤが溜まるかもしれない。だがミステリのお約束を拒否したことが、逆に現代の不条理な犯罪をどのように向き合うべきかを考えるきっかけになっている。 この作品は、いわゆるミステリ的な解決がない。人は誰も不可解なものに無理やり理屈をつけ、納得しようとする。それが事実かどうかは、誰にも分らない。作者は、そうした人の心の闇に目を向けようと訴えかけいるかのようだ。 |
No.4 | 6点 | 被害者は誰?- 貫井徳郎 | 2021/11/15 08:24 |
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容姿端麗でモデル並のスタイル、そのうえ頭脳明晰な超人気小説家の吉祥院慶彦先輩。そして吉祥院先輩の大学の後輩の「ぼく」こと警視庁捜査一課の刑事・桂島のコンビが推理を繰り広げる4編からなる連作短編集。
「被害者は誰?」自宅の庭から白骨死体が見つかった男は、自分の犯行であることは認めるが、誰の死体なのかは話さない。少々納得できない部分がある。 「目撃者は誰?」大学時代の片想いの女性と不倫関係となった男。しかし何者かが不倫に気付き、脅迫状が送られてくることに。巧みなミスディレクション、意外なオチに驚かされた。 「探偵は誰?」吉祥院先輩の新作は、先輩が学生時代に遭遇したという事件。桂島はそれを読み、どの人物が先輩なのか当てることに。意外な動機に思いがけない犯人とお見事。 「名探偵は誰?」朝起きてみると自室に見知らぬ女性の死体があったと通報。通報した丸山は知らない女性だと言うが、彼女の行動範囲で丸山は何度も目撃されていた。叙述トリックに慣れている人はピンとくる人も多いのでは。 作者特有のどんよりとした重い雰囲気は全くなく、というよりも軽妙でテンポが良い作品ばかりが並んでいる。吉祥院と桂島のキャラクターもいい味を出している。男前なのに汚部屋の吉祥院先輩にいいように扱われ、部屋の掃除などこき使われる桂島。しかし桂島の持ち込む謎を吉祥院先輩は鮮やかに解決していく。この間の二人の掛け合いはコミカルで楽しい。 |
No.3 | 6点 | プリズム- 貫井徳郎 | 2021/04/22 08:44 |
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太陽の光を三角柱のプリズムに当てると虹のような光の帯が現れる。そんな実験を小学校の理科の授業で見た覚えがある。プリズムとは光を分散、屈折させるための光学素子である。この作品は幾重にも繰り返される仮説の構築と崩壊。一筋の推理の光が屈折、分散し到達する実験的本格ミステリ。
小学校教師が変死体となって発見された事件をめぐって、教え子の四人が章ごとの語り手として登場し、それぞれに真相を探ろうとする。一歩間違えば本格ミステリの基盤も揺るがしかねない要素を積極的に取り入れた多重解決形式を採用している。 この作品の特徴は、前の語り手が構築した推理が、その次の語り手によってリレー式に覆されていくという点にある。四人の語り手は、それぞれの動機から真相を知ろうとするが、それらの動機は語り手自身が自分を納得させるためという点では共通している。従って語り手たちは、せいぜい自分の探偵能力で知り得る範囲の手掛かりから組み立てた推理で満足し、それ以外の可能性が存在するなどとは考えもしない様子。 さまざまな方向へ展開される仮説は魅力的で、それなりの説得力を持っているが、いずれも決め手を欠いている。結局、真相は登場人物それぞれが真相を知ったつもりで納得しているだけ。知り得るのは、語り手たちの視点を重ね合わせることが出来る読者のみ。これが作者の狙いなのだろう。 |
No.2 | 4点 | 灰色の虹- 貫井徳郎 | 2020/11/01 10:10 |
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身に覚えのない殺人の罪に着せられ服役した主人公の江木は、刑期を終えた後、復讐を誓う。やがて、裁判の関係者たちが次々と変死した。警察は江木に疑いを向けるが、警戒の隙をつくように犯行は続く...。
この作品は冤罪というテーマを真正面から扱ったミステリ。現実には、強引な捜査をした警察官や検事、誤った判決を下した裁判官などは、形ばかりか謝罪することはあっても自分の人生で償いをすることはない。その意味で、本書の展開は殺されて当然といったカタルシスを感じるかもしれない。 しかし、復讐のための殺人なら許されるのかという問いが、結末に近づくにつれて重くのしかかってくるため、読み心地は痛快さからは程遠い。人間の罪の罰について真摯な考察を重ねてきた作者ならではの力作といえるでしょう。 現実の司法の闇は一般人の想像を超えて深い。その前では本書における司法の歪みの描写すら、まだ甘いように感じてしまう。また、先が読めてしまう展開に、最後の真相も予想通りでミステリとしては今ひとつ。そして、このストーリーにしては冗長に感じる。 |
No.1 | 7点 | 慟哭- 貫井徳郎 | 2019/01/23 13:15 |
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第4回鮎川哲也賞の最終選考に残り、受賞は逃したがデビュー作とは思えない出来栄え。
連続幼女誘拐殺人事件の犯人を追う捜査一課長の佐伯と、救いを求め新興宗教にはまっていく松本という人物のパートが交互に描かれている。 佐伯は捜査が一向に進展しないことや、家庭内の問題で世論や警察内部の批判を浴び、またマスコミまで執拗に追われ苦悩する。その様子が丁寧に描かれ好印象。 2つのストーリーが、どのように絡み合うのか、どのように着地するのかが読みどころ。 ●●トリックと知っていて読むのと、知らないで読むのとでは大きな差があるのではと感じさせる作品。結末は重く悲しく、何故タイトルが「慟哭」なのかが明らかになり衝撃的。タイトルは秀逸。 |