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パメルさん
平均点: 6.11点 書評数: 788件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.788 5点 船上にて- 若竹七海 2026/09/17 08:06
悪意をテーマにした作者らしい毒が随所に感じられる8編からなる短編集。その中から6編の感想を。
「時間」川村静馬は学生時代に好きだった五十嵐洋子の死を知る。彼女は数年前の交通事故で母を亡くし、自身も半身不随となって車椅子生活だったという。車椅子を活かしたトリックが巧み。
「タッチアウト」林田ゆかりに付きまとい、家にまで忍び込んだが反撃されて失神し、病院のベッドで目覚めた橋爪雪彦。彼は再び襲撃を試みるが。ラスト一行の切れ味が抜群。
「優しい水」会社の屋上から突き落とされ、ビルとビルの境目で意識を取り戻した主人公。救助を待つ間、犯人の名前を書き記そうとするのだが。ダイイング・メッセージの皮肉の行方。救いのなさが味わえる。
「手紙嫌い」志逗子は病的な手紙嫌いだった。ある日、友人の蒔絵が志逗子が憧れている写真家の五十嵐満昭を紹介してもらうことになった。しかし五十嵐は電話が嫌いなため、手紙を書かざるを得なかった。思いがけない衝撃的なラスト。皮肉な結末に唖然。これもラスト一行が光る。
「黒い水滴」主人公の「私」の元夫である斎藤が死んだ。「私」は5番目の妻だが、その前の4人の妻は次々と事故死していた。これを機に義理の親として斎藤の娘・渚を引き取ろうと考えるが、現在の愛人が転落死し、渚は殺人容疑が掛かっているらしい。一旦解決したと見せかけての捻りのある構成で哀しいミステリに仕上がっている。
「船上にて」元宝石商のハッターは、若い頃に宝石盗難事件で疑われたことがあるという。オー・ヘンリーに対するオマージュに満ちた作品。謎そのものに目新しさはない。

No.787 6点 明智恭介の奔走- 今村昌弘 2026/09/14 10:56
神紅大学ミステリ愛好会会長・明智恭介と唯一の会員・葉村譲が、さまざまな事件に挑む5編からなる連作短編集。
「最初でも最後でもない事件」コスプレ研究部に侵入した空き巣が、何者かに殴られて気絶している間に、なぜか衣服をすべて剥ぎ取られていた。限られた状況から真相を組み立てていく本格推理が楽しめる。葉村との軽妙な掛け合いも魅力的。
「とある日常の謎について」商店街にあるボロボロのビルが、なぜか破格の高値で売れたという謎に挑む。論理だけでなく、情緒的な面でも心地良く読後感も爽やか。
「泥酔肌着引き裂き事件」ある朝、泥酔から目覚めた明智は、なぜかズボンは穿いているのに下着はつけていないことに気付く。その下着は破られていた。コミカルな設定ながら、推理は意外なほど本格的。
「宗教学試験問題漏洩事件」神紅大学の教授の部屋の金庫が破られ、期末試験問題が入ったUSBメモリが盗まれる。容疑者の絞り込みや論理の積み重ねが巧み。
「手紙ばら捲きハイツ事件」あるハイツに不気味な手紙がばら撒かれるという奇妙な事件が起きる。人間ドラマと謎解きのバランスが良く、読後に温かい気持ちになる。

No.786 5点 暗黒童話- 乙一 2026/09/10 10:28
女子高生の白木菜深は、不慮の事故で左眼と記憶を失ってしまう。彼女は亡くなった人の眼球を移植すると、左眼を通して見たことのない風景や人物が、まるで映像のように脳裏に浮かんでくるようになる。
物語が進むにつれて、自分は何なのか、記憶が無くなった自分は、本当に事故以前の自分と同じ人間なのか、という問題も浮かび上がる。
陰惨な物語でありながら、記憶喪失によって居場所を失った主人公の孤独や、人との心の触れ合い、誰かを想う切ない心情が描かれており、読後には単なる不気味な話だけでなく、不思議な抒情や温かみが残る作品となっている。

No.785 6点 マスカレード・ゲーム- 東野圭吾 2026/09/07 09:14
ネタバレあります。


都内で短期間のうちに殺人事件が3件発生する。被害者となった3人は過去に死に追いやる犯罪を犯しながらも、極刑を免れ社会復帰したという共通点があった。捜査線上に浮かんだのは、大切な家族を奪われた被害者遺族たち。そんな中、遺族たちがクリスマスイブにホテル・コルテシア東京に集まることが判明する。
加害者が軽い刑罰や心神喪失による不起訴で社会復帰するという現代の社会問題や司法システムの理不尽さに踏み込んだテーマが強く印象に残る。本当の贖罪とは何かを深く考えさせられる展開となっている。
遺族たちの復讐劇と思わせながら、終盤で二転三転する作者ならではの伏線回収が見事。ホテルを舞台にした潜入ミステリとしてのドキドキ感と爽快感を併せ持ちつつ、加害者と被害者遺族の切実な心情を描く社会派ミステリとしての奥行きが深い作品。

No.784 5点 午後の恐竜- 星新一 2026/09/03 09:36
皮肉やユーモアに加え、社会の風刺が色濃く表れた11編からなるショートショート集。その中から5編の感想を。
「エデン改造計画」人間の理想郷を人工的に作ろうとする発想を描いた作品。文明が「理想」を追求するほど、かえって自由を失っていくという皮肉が印象的。
「午後の恐竜」突然、恐竜が街に現れても、人々はやがて日常として受け入れてしまう。異常な出来事にも慣れてしまう人間心理を描いた傑作。
「幸運のベル」幸運をもたらすというベルを巡る話。人は「幸運」という言葉だけで冷静な判断を失うことがあるという皮肉が利いている。
「華やかな三つの願い」願いを叶える機会を得た人物の顛末を描いている。欲望には際限がなく、願いが必ずしも幸福に繋がらないことを巧みに表現している。
「戦う人」常に敵を求める人間の性質をテーマにしている。争いの理由は案外、些細なものだという風刺が印象的。
表題作をはじめ、文明、欲望、戦争、消費社会などを鋭く風刺した作品が多く、現代にも通じるところが驚き。

No.783 6点 夫の骨- 矢樹純 2026/09/01 09:13
家族を共通のテーマにした9編からなる短編集。その中から6編の感想を。
「夫の骨」夫の孝之を事故で亡くした「私」は、遺品を整理していると、桐箱の中から乳児の骨を見つける。情報の出し方が絶妙。家族の愛情と執着の歪みが浮かび上がり、読後に怖さが増すタイプの作品。
「朽ちない花」姉は強く支配的な性格で、妹はそんな姉に不満を抱きながらも、自分の意思を表に出せない。妹は姉に支配されているという単純な構図を崩していくところが巧い。しかし結末はこれで、本当に妹は幸せなのだろうかという苦い感覚が残る。
「柔らかな背」高齢者を狙った振り込め詐欺に遭いかけている不穏な空気と、同居する家族の出来事が描かれる。認知症を患う人物の危うい主観(信頼できない語り手)が見事に活かされている。予想もしない真相へ着地する構造が秀逸。
「ひずんだ鏡」一卵性双生児の姉妹は性格や境遇が異なり、二人の間には長年の嫉妬や歪んだ感情が溜まっていた。互いの執着や自尊心の醜い部分が浮き彫りになり、後味の悪さが際立っている。
「絵馬の赦し」夫の母親の意見で中学受験をすることになった娘の楓花は、友達と遊ぶ時間を減らし勉強してきた。楓花は合格祈願の絵馬に家族への感謝の気持ちを書いたのだが。ラスト一行のオチに巧さを感じる。残酷で切ない。
「かけがえのないあなた」主人公の夫の職場は、会社の業績悪化によって給料を減らされるなど、経済的にも追い詰められていく。さらに夫はFXにも手を出し、借金を抱えることになる。そこで妻はあることに目をつける。見事な仕掛けと叙述トリックが冴え渡る一編。愛情と憎悪が同居しているところがこの作品の面白いところ。

No.782 7点 出版禁止- 長江俊和 2026/08/28 09:02
映像作家としても知られる作者が、モキュメンタリーの手法で小説として成立させた異色のミステリ。実際に存在する禁断の原稿を読んでいるような読書体験が特徴で、読者自身が真相を読み取る構造となっている。
物語は「長江俊和」という著者本人が、ある出版できなかった原稿を入手したところから始まる。原稿のタイトルは「カミュの刺客」。それはフリーライター・若橋呉成によるルポルタージュで、有名ドキュメンタリー作家と愛人の心中事件を追った内容だった。事件は男女が心中を図り、男性だけ死亡。女性・新藤七緒だけ生還する。
この作品の最大の魅力は、騙される感覚そのものを楽しむことができる点にある。探偵が真相を説明するのではなく、断片的な資料だけが提示されるため、なんとなく不気味で妙に引っかかるが、何が変なのか分からないという感覚で読み進めることになる。そして最後に真相に気付くと、序盤の会話や描写が別の意味を持ち始め、二度読みしたくなる構造が実に巧妙。結末は純愛の成れの果ての狂気が描かれ、徹底した後味の悪さを感じることができる。

No.781 6点 invert II 覗き窓の死角- 相沢沙呼 2026/08/24 09:26
城塚翡翠がトリックを解明する倒叙ミステリが2編収録されている。
「生者の言伝」夏木蒼汰は、ある目的を果たすため友人の別荘に潜入していたが、予期せず訪れた友人の母親に見つかり、もみ合いの末に包丁で刺してしまう。隠蔽工作を行おうとした矢先、城塚翡翠とその助手の千和崎真が訪ねてくる。
少年が圧倒的な観察眼を持つ翡翠に、じわじわと追い詰められていく緊張感が秀逸。その一方で翡翠のあざとく可愛らしい振る舞いに少年が翻弄されるコミカルな描写もあり、軽快な掛け合いとサスペンスが楽しめる。ただし、真犯人の存在を示唆する伏線が弱く感じる。
「覗き窓(ファインダー)の死角」写真家の江刺詢子は、妹を自殺に追い込んだモデルの藤島花音に復讐するため、綿密な計画のもと殺人を実行する。詢子は自身のアリバイ工作として、友人となった翡翠を利用する。翡翠は初めてできた心許せる友人が犯人であるという運命に直面するが、正義感を持ってロジックを積み重ねて追い詰めていく。翡翠の生い立ちが明らかになり、仕掛よりも翡翠の人となりに重点が置かれている作品で、苦悩の中で彼女の人間味や孤独が深く描かれている。

No.780 7点 倒錯のロンド- 折原一 2026/08/20 09:22
完成版で読みました。
山本安雄は、推理小説新人賞への応募作として長編ミステリを書き上げる。それをワープロで清書してもらうため友人に原稿を預けるが、友人の不注意からその原稿を紛失してしまう。しばらくして、新人賞を受賞したと発表された作品は、タイトルも内容も自分が書いた「幻の女」そのものだった。作者名は白鳥翔。山本は盗作者・白鳥翔の正体を突き止めようと動き出す。
物語が進むにつれ、単純な原作者対盗作者という構図は次第に崩れていく。誰が本当の作者なのか、誰が誰を騙しているのかと、作中作と現実の物語が複雑に絡み合い、読者の認識そのものが何度も覆されていく。原作者と盗作者の駆け引きを軸に巧妙な仕掛けが全編に張り巡らされている。一度真相が明かされた直後で、さらなる仕掛けが提示されるため最後まで油断できない。
このどんでん返しに次ぐどんでん返しに翻弄されることを快感と感じるか、くどいと感じるかで評価が分かれるでしょう。極限まで詰め込まれた叙述トリックと構成美を堪能することができた。

No.779 5点 華麗なる誘拐- 西村京太郎 2026/08/16 09:17
首相官邸に蒼き獅子たち(ブルーライオンズ)と名乗る男から、「日本国民1億2千万人を誘拐した。身代金5000億円を支払え」と脅迫電話が入る。悪質ないたずらと思われていたが、喫茶店で無差別毒殺事件が起き、その脅迫が現実味を帯びる。
本作の最大の魅力は、「日本国民全員を誘拐した」という大胆な発想でしょう。一見すると荒唐無稽だが、非常に独創的で惹きつけられた。犯人グループの狙いは何なのか、そして姿なき犯人をどうやって追い詰めるのか、警察の裏をかく知能犯と私立探偵左文字の壮絶な知恵比べが読みどころで、左文字の地道な推理によって真相へ近づいていく構成は読み応えがある。
1977年という、まだプロファイリングた一般的でなかった時代に、その手法を取り入れている点が驚き。警察の足を使った泥臭い捜査と、左文字のスマートな心理分析の対比が見事。これまでの誘拐捜査のセオリーが一切通用せず、犯人グループに翻弄されていく警察組織の焦燥感やリアルな描写が緊迫感を高めている。
一方で、終盤の犯人像や動機については、壮大な導入部に比べて小さくまとまった感は否めない。一番残念に思ったのがブルーライオンズを罠にはめるために警察がとったある行動。あり得なさ過ぎて興醒め。絶対にやってはいけないでしょう。

No.778 7点 聖母- 秋吉理香子 2026/08/11 09:08
東京都藍出市で、幼稚園児の男の子が殺害される事件が起こる。しかも被害者には、死後に性的暴行を受けた痕跡があった。事件を知った主婦の保奈美は、不妊治療の末に授かった一人娘を持つ母親。保奈美は「自分の娘も被害に遭うのでは」という不安に駆られていた。
物語は娘を守ろうとする母親、事件を追う刑事、そして犯人など、複数の人物の視点を交錯させながら進んでいく。早々に犯人が明かされた状態で進むサスペンスかと思いきや、終盤で読者が信じていた前提がガラリと覆されることになる。作中では不妊治療の過酷さや葛藤、性被害トラウマといった重いテーマも丁寧に描かれいている。
「ラスト200ページで世界が一変する」という謳い文句の通り、巧妙な叙述トリックが最大の魅力。登場人物の立場や性別、時系列など読者が無意識に抱く先入観が見事に利用されており、ラストで事実が繋がった瞬間の衝撃とカタルシスは圧倒的。
タイトルの「聖母」という言葉が示す通り、本作の中心にあるのは「子供を守りたい」という母親の無償の愛と執着。しかしその愛情が極限に強くなった時、正義と狂気の境界線が曖昧になる。恐ろしくもありながら、どこか切ない母性を描き切っており、深い余韻を残す。

No.777 7点 神の光- 北山猛邦 2026/08/07 08:15
建造物の消失をテーマにした5編からなる短編集。
「一九四一年のモーゼル」戦時下のロシア。監視下にある館が、一夜にして跡形もなく消失する事件が起きる。極限状況の中で誰も侵入、搬出できないはずの建物が消えた謎に挑む。心理の盲点を突いた消失もので、物理トリックと同時に「見るとは何か」という認識論テーマが絡んでいる。
「神の光」ジョージは砂漠の違法カジノで大金を稼ぎ、追跡を逃れるためにその場を離れる。しかし翌朝、カジノがあった街そのものが忽然と消失していた。幻想的な雰囲気の中で、街ごと消えるという圧倒的スケール。読者の現実感覚を根底から揺さぶるインパクトがある。
「未完成月光 Unfinished moonshine」ポーの未発表原稿とされる作品の中で、小屋が消失する謎が描かれている。その続きを書かなければならないという強迫観念に取り憑かれていた。現実と虚構が交錯する中で、消失の真相に迫る。作中作というメタ構造にポー的怪奇趣味を融合させ、ホラーテイストの強い作品で不気味さが際立っている。
「藤色の鶴」時代や場所を超えて、社や建物、車両などが消失する複数の事件が描かれる。それらは一見無関係に見えるが、ある共通の仕組みによって結びついていく。一種の構造美を楽しむ作品となっており、ファンタジー色の強い一編。
「シンクロニシティ・セレナーデ」夢の中で館が消える光景を何度も見る主人公。やがて同じ夢を見る人たちと出会い、その夢と現実の消失事件の関係が明らかになっていく。夢を共有する人々、消失する白い館、偶然と必然の境界を組み合わせた観念的・哲学的なミステリ。

No.776 6点 ぼくと、ぼくらの夏- 樋口有介 2026/08/03 08:07
高校生の戸川春一はある朝、刑事である父から同級生の岩沢訓子が自殺したと聞かされる。やがて同様の死が続き、春一は友人の死に疑惑を抱く。そして同級生の酒井麻子と聞き込みを行い真相に迫っていく。
調査が進むにつれて、亡くなった少女たちの知られざる側面や人間関係が浮かび上がり、少年たちはひと夏の中で事件と向き合いながら、少しずつ大人へと近づいていく。シニカルな主人公ととぼけた父親、小悪魔的な麻子の組み合わせが絶妙で、事件の追求よりも彼らの人間関係の進展ぶりで読ませる作品。
ミステリというよりも、青春小説としての比重が大きい作品で、登場人物たちの心理の変化が丁寧に描かれており、夏の空気感と成長が物語の中心にある。特に気だるく乾いた雰囲気や、どこか達観した主人公の語りは、いわゆるハードボイルド調の軽妙さを感じさせる。読後は爽やかで少し切ない余韻が残る。

No.775 4点 殺人!ザ・東京ドーム- 岡嶋二人 2026/07/30 08:39
東京ドームで開催された巨人対阪神の伝統の一戦で、一人の観客が突如倒れ死亡する。死因は南米産の猛毒「クラーレ」を塗った毒矢による刺殺だった。5万6千人もの観客がいる衆人環境でありながら、犯行の目撃者はいなかった。捜査が難航する中、同様の凶行が繰り返され緊迫感を増していく。
犯人の暴走した行動を中心としたパニックサスペンスとして読み応えはあるが、プロットはそれほど凝ったものではなく、トリックや構成の緻密さに物足りなさを感じた。

No.774 7点 赤い糸の呻き- 西澤保彦 2026/07/26 09:16
バラエティに富んだ謎と論理が楽しめる5編からなる短編集。
「お弁当ぐるぐる」自宅で男性が新聞紙を握りしめたまま、死亡しているのを発見される。ぬいぐるみ警部の初登場作で、突飛でユーモラスな設定でありながら、ロジカルな謎解きが展開されるギャップが絶妙。
「墓標の庭」自宅の庭に幽霊が出ると相談を持ち込んだ女性。都築道夫氏の「物部太郎シリーズ」のオマージュ・パスティーシュ作品。思わぬ真相へ導かれるプロセスが鮮やか。
「カモはネギと鍋のなか」憧れの女性から誘いを受け、嬉しくなる男子高校生。しかし部屋で彼を待ち受けていたのは、彼女の死体だった。登場人物たちの思惑が複雑に絡み合い、互いに利用し合う構図が面白い。動機の組み立てが巧妙。
「対の住処」事件現場を捜査していた刑事が、窓の外に見える建物に対し、既視感を覚える。人間の生々しさや気味悪さが味わえる。
「赤い糸の呻き」結婚式場へ向かうエレベーターが停電で緊急停止した。明かりが戻ると乗客の一人が殺害されていた。密室トリックとフーダニットが高いレベルで融合しており、読者への先入観を巧みに利用したミスリードが印象的。人間関係の糸を解き明かしていくロジックも見事だが、何よりもラストのオチが素晴らしい。鳥肌が立った。

No.773 5点 その意図は見えなくて- 藤つかさ 2026/07/22 08:20
八津丘高校を舞台にした日常の謎をベースにした思春期ならではのほろ苦い感情に深く踏み込んだ5編からなる連作短編集。
「その意図は見えなくて」生徒会長選挙において、大量の白票が投じられた事件を清瀬諒一が解決に導く。人間のエゴや他者と比べてしまう高校生特有の心理が痛々しく描かれている。
「合っているけど、合っていない」陸上部の部屋が何者かによって荒らされる事件が発生。陸上部一年の染谷が謎を追う。真相は合っていても、動機やその背景にある感情を読み違えてしまえば、誰かを救うことは出来ないという少しビターな切なさが残る。
「ルビコン川を渡る」地域の陸上部の合同合宿において、他校の部員の一人が突然姿を消してしまう。自分の限界を感じて苦悩する様が丁寧に描かれており胸が締め付けられる。
「その訳を知りたい」中学時代にクラス内で起きた対立の本当の原因を2年の歳月を経て知ることになる。十代の頃の人間関係の危うさや言葉に出来なかった本音などが描かれ、ヒリヒリとした読後感をもたらす。
「真相は闇の中」文化祭実行委員室にあったパンフレットが、なぜかゴミの集積場に捨てられていた事件を追う。ある人物に対する清瀬の厳しい姿勢と、同様に自身に対する容赦ない姿勢が印象深い。
本作は地の文が説明的なので読みづらさを感じる。また登場人物それぞれに個性が感じられないため、誰視点なのか掴みにくい場面がいくつかあったのが残念。

No.772 6点 密閉山脈- 森村誠一 2026/07/17 07:57
冬の八ヶ岳で失恋を苦に自殺しようとしていた湯浅貴久子を、登山家の影山隼人と真柄慎二が救う。その後、影山と付き合うことになった二人は、婚前旅行としてK岳に出掛ける。「山頂から灯火を愛の信号にして送る」と麓で待つ貴久子と約束した影山だが、送られてきたのはSOSの信号だった。
まず作者が登山愛好家らしく、冬の北アルプスの峻嶮さや恐怖の描写がリアル。密室を建物ではなく、雪山そのものに成立させた発想が独創的。厳しい自然環境がそのままトリックの一部となっており、山岳小説と本格推理小説が見事に融合している。
心理戦と密室の裏に隠された罠。主要な登場人物が絞られているため、物語の早い段階で犯人の目星はついてしまうのは残念だが、追い詰められていく犯人とヒロインの心理の揺れ動きが見事。アリバイトリックの解明はもちろん読み応えがあるが、友情と恋愛、嫉妬、登山家としての名誉や野心が複雑に絡み合い、登場人物の心理描写にも厚みがある。雪山の美しさと恐ろしさが対照的に描かれ、人間の欲望の危うさを際立たせている。

No.771 7点 終章からの女- 連城三紀彦 2026/07/13 09:05
夫殺しの容疑を受けた主人公の小幡斐子は、かつての恋人だった彩木弁護士に弁護を依頼する。しかし彼女は無罪を主張するわけではなく、むしろ重い刑を受けたがっているようだった。彩木は彼女の態度に不審を抱きつつも、法廷闘争に挑む。
本作は単なるフーダニットに止まらず、斐子の幼少期の火災事故や複雑な家庭環境など、斐子の過去が明らかにされていくにつれ、予想もつかない反転を重ねる。この作品の魅力は犯人捜しよりも、ホワイダニットに重点が置かれている点。人間関係の感情のもつれが事件の核心にあるが、「なぜ斐子は自ら追い詰めるのか」という一点に読者の関心を集中させる構成が非常に巧み。
夫殺しの一件が片付いた後半、かつての事件とそっくりの事件が再び起こる辺りは、作者の独壇場というべき展開。妄想と脅迫観念ともつかぬトラウマを背負ったヒロインのキャラクターや日時表示へのこだわりが、やがて事件の反復に立ち現れていくサスペンスなど、そうした仕掛けはサイコスリラー趣向を増幅させるだけでなく、トリックの伏線ともなっている。
人間の心の闇と愛情の歪みを描く筆力はさすがで、謎解き以上の余韻が残る。濃密な心理描写と予測不能な展開が楽しめる本格的な心理サスペンス。

No.770 5点 死者が飲む水- 島田荘司 2026/07/10 08:59
札幌の実業家・赤渡雄造の自宅に2つのトランクが届く。その中に詰められていたのは、バラバラに切断された赤渡本人の死体だった。牛越刑事が捜査に乗り出すが、有力な容疑者たちには鉄壁のアリバイがあった。
刑事による粘り強い捜査を中心に描いており、牛越刑事が現場を訪れ関係者と出会い、少しずつ真実へ近づいていく。タイトルが事件の核心と結びつく構成は巧みで、医学的知識を伏線として生かした謎解きも読み応えがある。
とはいえ、聞き込みや移動を繰り返しながら少しずつ真相に迫るため、物語のテンポはかなりゆっくりで冗長に感じてしまう。牛越刑事も御手洗潔のような強烈な個性がないため、キャラクター性という点でも印象が弱い。時刻表トリックも好みではない。
事件の真相には強い哀しみがあり、派手さより人間の悲劇と執念深い捜査を味わいたい人にはお薦めできる。

No.769 4点 ずっとあなたが好きでした- 歌野晶午 2026/07/06 09:00
恋愛をテーマにした13編からなる短編集。
「ずっとあなたが好きでした」中学生の大和は年齢を偽ってスーパーでアルバイトをしている。そこで知り合った三千穂と親しくなるが売り場の主任が二人の仲を妨害する。
「黄泉路より」事業の失敗と家庭崩壊で人生に絶望した五十嵐は、自殺サイトで知り合った男女と富士の樹海へ向かうが、同行者の智子に恋愛感情を抱く。
「遠い初恋」弓木は転校してきた弥生に憧れを抱く。そして弥生のネックレスが盗まれる事件が起きた。
「別れの刃」板橋継世は演劇サークルの先輩と恋に落ちる。
「ドレスと留袖」永嶌は妻の佐和子をストーカーの魔の手から必死に奮闘する。
「マドンナと王子のキューピッド」主人公のDJはラジオ番組へのネタ投稿を趣味にしている高校生。ある日、学校一イケメンの王子から美少女マドンナとの二人の恋の架け橋役を引き受ける。
「まどろみ」大学四年生の大輔は、就職が決まっていないことを理由に、友里の将来設計から逃げる。
「幻の女」主人公は街で見かけた女性に惹かれ、その後を追い酒場へ入る。やがて女性と言い争いになり、彼女を追跡するうちに見失ってしまう。その後、近くで発生した殺人事件の容疑者として疑われてしまう。
「匿名で恋して」主人公はインターネットの掲示板を通じて、ある女性と知り合い、やがて現実世界で会う約束をする。
「舞姫」十條は恋人のフランソワーズから紹介してもらったレストランで働いていたが、そのレストランで事件が起きる。
11話目の「女!」、12話目の「綿の袋はタイムカプセル」、13話目の「散る花、咲く花」で全貌が明らかになる。
甘酸っぱい恋、泥沼の愛、人生の終わりの恋など、多少ミステリ要素のある恋愛小説が続く。オチが読めてしまったり、「何これ」ぐらいの酷いオチだったりと途中で投げ出したくなった。だがこの作者のことだから、何か特別な仕掛けがあるだろうと読み進めていった。13話あるうち、11話目で「?」となり12話目から「そういうことだったのか」と巧さを感じたが、特別驚いたわけではなく、作者らしいなと思ったぐらいであった。

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パメルさん
ひとこと
7点以上をつけた作品は、ほとんど差はありません。再読すればガラリと順位が変わるかもしれません。
好きな作家
岡嶋二人 東野圭吾 
採点傾向
平均点: 6.11点   採点数: 788件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(34)
岡嶋二人(22)
有栖川有栖(20)
西澤保彦(19)
綾辻行人(19)
歌野晶午(18)
松本清張(18)
米澤穂信(18)
道尾秀介(17)
貫井徳郎(16)