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[ ホラー ]
化物園
恒川光太郎 出版月: 2022年05月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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中央公論新社
2022年05月

中央公論新社
2025年05月

No.2 6点 パメル 2025/11/08 19:39
ケシヨウという謎の存在を共通項に様々な時代や場所で繰り広げられる7つの怪異を納めた短編集。
「猫どろぼう猫」空き巣を繰り返す羽矢子は、ある家でサバトラ猫に引っかかれ、逃げ込んだ雑木林でケシヨウという魔物を追う老人に捕まってしまう。人間の行動や早合点が連鎖し、コメディタッチでありながらもホラーとしての緊張感がある。人間関係の欺瞞や歪んだ感情が浮き彫りにされている。
「窮鼠の旅」王司は死んだ父の遺体を家に放置するが、ケシヨウが現れ恐怖で家を飛び出す。旅先である女性に拾われるが、犯罪に巻き込まれていく。現実逃避と自尊心の狭間で引き起こされる主人公の破壊的な行動が胸に迫る。行き場のない不安な心情が、不気味な怪異と相まって強い印象を残す。
「十字路の蛇」子供の頃、十字路でギターを弾く男がいた。友人が彼にちょっかいを出した後、その家族に不幸が連続して訪れる。子供時代の根拠のない噂や妄想が、現実に災厄として跳ね返ってくる不気味さが印象的。わずかなきっかけで傷つけてしまう人間の心理や、噂が独り歩きする怖さが、ホラーとして見事に昇華されている。
「風のない夕暮れ、狐たちと」たえは、田舎の屋敷に住み込みのお手伝いとして雇われ、内気な息子の世話をする。この屋敷には狐たちの不気味な噂がつきまとっていた。一見平和で優雅な環境に潜む禍々しさが、じわりと迫ってくるような不気味さを持ち、読後に不安の残る物語。
「胡乱の山犬」幼い頃から生き物を殺すことに快感を覚える少年が、弟を殺そうとしたところで村を追われ、人買いによって陰間茶屋に売り飛ばされる。生来的な残虐性と、それを受け入れ利用する周囲の人間たちの描写が暗くも切ない感動を呼ぶ。
「日陰の鳥」浮浪児のリュクは、妖魔ダウォンから老女を助けたことをきっかけに、神性のある子供として寺院に引き取られる。寺院では「鳥丸」という安楽死の薬が作られており、人々の運命が大きく動いていく。言語や立場が不安定な少年が翻弄される様は、歴史ファンタジーの趣がある。人間と妖魔、信仰と現実が交錯する壮大な物語。
「音楽の子供たち」高い塀に囲まれたブロックで、12人の子供たちが妖精国の女王・風媧のために音楽を奏でる日々を送る。主人公の陽鍵はこの世界に疑問を抱き始める。閉鎖された環境で才能を磨くことの危うさ、そして外の世界への憧れが切ない筆致で描かれている。保護と支配、才能の育成と自由の剥奪というテーマを強く投げかけており、深い余韻を残す。
人間の内面の闇や愚かさ、社会や環境に飼い慣らされ、時に翻弄される人間の姿が通底しており、「自由」と「安全」の意味について考えさせられる作品。

No.1 5点 猫サーカス 2022/09/28 18:34
この世界には何やら得体のしれぬモノがいて、それに出会ってしまった人間たちの物語ではある。とはいえ、そのことがいわゆる共通した世界観としてあからさまに全作を貫いているのかと問われれば、どこか違和感がある。例えば前半の三篇は、私たちの暮らす「今」を舞台としたホラー作品としてとりあえずは読める。なにせ、空き巣に目覚めた女やひきこもりの男、新興住宅地の「異人」の物語が続くのだ。だが、残酷酷薄な描写にコミカルな味を漂わせたりと、いささかオフビートに「読み」をさらりとかわす。そうした「読み」の違和感をてこに、続く四編で、ここではないどこかへと見事に蹴り飛ばして見せる。戦後だろうか、ある屋敷のお手伝いとして雇われた女の物語があれば、幕末のある村に端を発する物語、あるいはいにしえのアジアを舞台とする物語があり、ちょっとSF的なファンタジックな物語もある。あれよあれよと迷宮じみた異界の夢幻へと連れ去って、そしてそこにはえもいわれぬ通奏低音として「ケショウ」という怪異の存在がある。


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