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斎藤警部さん
平均点: 6.68点 書評数: 1243件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.23 9点 宿命- 東野圭吾 2015/05/19 19:55
現代の巨匠東野圭吾がキャリア初期に早くも打ち立てた金字塔ではないでしょうか。
彼ならではの軽くて深い文体で、深くて重い主題(さて、それは果たして何か?)に取り組んでいますが、最後にとても爽快な気分で〆る粋な計らいが眩しく、又そのラストシーンまで質感たっぷりに持って行ける文章の安定感に心から感服します。

No.22 9点 緑のカプセルの謎- ジョン・ディクスン・カー 2015/05/19 19:08
意味ありげな題名に惹かれて若かりし頃手にした一冊。
最初から最後までテンションキープで期待を裏切らなかったけど、特にやっぱり謎解き部分が面白くて面白くて、ハラハラドキドキしたなあ。謎解き自体にあれほどエモーショナルなスリルを感じられて幸せだった。毒殺といういやらしい手段の事件相手に「トリック再現」「フィルム撮影」なんていかにも大きな心理の落とし穴がありそうなギミックの存在感も最高。全体的にざわざわした雰囲気の文章も凄くいいです。

No.21 9点 銅婚式- 佐野洋 2015/05/19 18:28
素晴らしく充実した本格ミステリー短編集。意外性の宝庫。
海外ミステリばかり読んでいる人(今時いないかも知れませんが)が「たまには(乃至はじめて)日本のミステリも読んでみたい」なんて言うならこの第一級短編集を薦めてあげたいかな。

後年のあっさりした短編群も嫌いじゃないですが、敢えて人に薦めたいのはやっぱり初期の、洒脱ながらも何気にこってり濃厚な作品達かな。

不運な旅館 /赤いすずらん /さらば厭わしきものよ /二度目の手術 /銅婚式 /離婚作戦 /不貞調査 /カメラに御用心
(講談社文庫)

No.20 5点 陸橋殺人事件- ロナルド・A・ノックス 2015/05/19 16:33
なんだかよく分かりませんでした。企画意図は分かりますが。。

頭のいい人が面白い企画を実行に移しても、うまく行くとは限らないんですかねえ。

でもエンディング近くまでは「何か想像を絶する展開が待ち受けているに違いない」と結構わくわくしながら読めたし(ある意味待ち受けていたんですが)、旧き英国風景を感じさせる流石の文章力も手伝って、決して捨てたもんじゃない読書体験をさせてくれました。
年とってから再読するために長生きしようっと。

No.19 6点 ガラスの絆- 夏樹静子 2015/05/19 12:10
短編集。「天使が消えて行く」との連関を思わす題名(人工授精を象徴)につられ、同様の重厚路線を期待して読みましたが、かの作品ほどの深い感動は来なかった。。 とは言え面白く読めました。比較的重い過去に現在の強姦/脅迫/殺人事件を絡める表題作のほかは割りと軽めのサスペンス中心(出来は悪くない)で、佐野洋の短編集を思わせた、かも。

No.18 7点 深夜プラス1- ギャビン・ライアル 2015/05/18 20:11
氏の作品では先に読んでいた「ちがった空」ほどの圧倒感は無かったが、やはり面白かった。冒険小説よりハードボイルドミステリの感触。主人公の相棒がアル中のガンマン(酒が切れると手が震える!)って設定が何とも言えませんが。。 さて、むふふ  先の戦争の陰も色濃く投影されている作品ですね。。
最後に明かされる真犯人(黒幕)は睨んだ通りの人物でしたが、それでも面白い結末。ただ"MIDNIGHT PLUS ONE(零時一分)"というタイトルが最後にもっと大化けするのかと思ったら。。 そうでもなかった(読みが浅いだけか?)のが残念。 

No.17 10点 ちがった空- ギャビン・ライアル 2015/05/18 19:09
「深夜プラス1」で有名なアドヴェンチャー・ミステリー作家ギャビン・ライアルの処女長篇「ちがった空 "THE WRONG SIDE OF THE SKY"」。 氏の作品で初めて読んだのは当作品でしたが、こちらの勝手な予想を遥かに上回る心を掴む文章力で参ってしまいました。 ほぼ全ての行間からいちいち芳醇な野菜ジュースが溢れ出て来る様な感触で、地の文でも会話や"思い"の文にしてもそれぞれ何かしらとてつもなく有り難い教えを内含している。又そいつが実にしゃらくさくない。 ハヤカワミステリ文庫の翻訳を読んだのですが、原文でないとは言えその超絶的素晴らしさは充分にぎゅんぎゅん伝わって来ます。(もちろん訳者、松谷健二氏の力量も見逃せません) 

また、個人的に風景描写の多い小説はかったるくて好きじゃない場合が多いんだけどこの人の風景描写は実にヴィヴィッドで動きがあって(それがたとえ静止しているはずの砂漠でも、地球や人間の営みという動的なものを感じさせるのが立派)、きっと日常から「万物は流転する」という鉄則を感じながら生活しているんだろうなあ、という人となりを体感。 
明るい性悪説(ほとんどの人間は基本が悪い奴だが、愛や友情が時々救ってくれる仕掛けになってるから捨てたもんでもない、みたいな)を取る様な態度が文章の底に感じられるのも最高にウェルカムです。 

著者は元英国空軍のパイロット。その経験+他の諸々の経験+筆力のせいなんだろうけど小型飛行機が飛んでいる内部のシーンでは文章の間から常に飛行機のエンジン音や振動が伝わって来る、もちろんそれなりの距離を移動しているという感覚も伝わる、そのへんにも大いに感動させられ、また驚かせてもらいました。

などと言いつつストーリーは見事に忘れておりますが。。 結構なツイストやサプライズもいくつかあった気が。

邦題は、ちょっと下手かな。

No.16 8点 カナリヤ殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2015/05/18 18:53
中一の時「グリーン家」と合わせて、初めて自分で買った創元推理文庫を読んだ作品(「カナリヤ」が先です)。
「カナリヤ」も「グリーン家」も、当時の感覚ではちょっと手強い存在だった「大人向け推理小説」とは思えないほど読みやすく、面白く、当時の感覚で一気読み(と言っても一週間くらい掛かったかな)した覚えがあります。今思うと、あんな気取った文体なのにどうして? と不思議ですが、外見はともかく中身はそれだけエンタテインメント性に富んでいたという事でしょうか。どちらも実に素晴らしい旧き良き推理小説でしたが、採点するなら結構差が付きますね。「グリーン家」が特別過ぎたので仕方無いです。旧き良きアメリカの華やいだ世界にざわめくムードの描写が素敵です。トリックの古さもスパイスに。愉しいスリルと香るサスペンスに満ちた名作。

No.15 10点 グリーン家殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2015/05/18 12:41
中学に入った頃、ちょっと背伸びで創元推理文庫の本作(緑の手の美しい表紙)に手を伸ばしました。
犯人も、あのトリックもかなり早い段階でピンと来てしまいましたが、そんな事より物語のあの独特な暗闇の中で白光りするようなムードが強烈で、一種のサスペンスというか恐怖小説としてすっかり魅了されてしまいました。今でもあの屋敷の中のイメージはしっかり頭の中に残っています。もしグリーン家を再現したテーマパーク乃至アトラクションがあったら是非訪れてみたいですね。

さて中学に入ったばかりの当時、家にあったりした大人向けの推理小説を(小学校の図書館で借りた子供向けの延長で)何冊か読んでいましたがなんだか小難しくて、惰性でゆっくり斜め読み(!)する感じで結局ストーリーもよく分からないままおしまい、という消化不良が多かったのですが、、初めて自分で選んで買った二冊(もう片方はカナリヤ)は実に読みやすく面白く、読んで大満足だった事をよく憶えています。

美しい記憶頼りの高評価の様で恐縮ですが、やはり10点(9.8超)を付けざるを得ません。
(カナリヤはもうちょっと低いけど)

No.14 7点 二つの密室- F・W・クロフツ 2015/05/18 12:06
ネタばれの核心突きそうな事を書きますと、この小説は「あのアリバイ破りのクロフツが密室トリックに挑戦(しかも一気に二つ)」と思わせておいて実はアリバイも密室でもない、クロフツにとっては密室以上にあるまじき(?)「意外な犯人」こそトリックの主眼という、売り文句の密室を隠れ蓑にした高等戦術こそがその肝かと思われます。犯人の意外性にしても、ややもすれば「ひょっとして、まさかアノ手の叙述トリックか?」と疑わせるシーンをちょいちょい挟んで来るし、実に抜け目が無い。
さて真犯人は、私が一番最初に疑った人物でした。しかし物語のその後の展開のムードで「やっぱり意外な犯人って事は無いか。。」とすっかり「犯人は決まってる、問題は密室トリックをどう解くかだ。」と思い込まされてしまった。。最後の最後の解決篇を読むと、私が冒頭近くで犯人に疑いを持つヒントとなったある行動(第二被害者とのやり取り)の他にも一杯伏線が張られていたんですね~ 上手いことやるもんです、クロフツ。
正直な所、中盤から最終盤まではちょっと退屈だなあと思って読んだのですが(犯人は分かってるつもりだったし、第二密室のトリックは詰まらなそうだったので)、、 最後の最後に大幅加点で7.45点(四捨五入で7点)に!

No.13 8点 終着駅殺人事件- 西村京太郎 2015/05/15 22:05
最後、手紙で終わるという小説は割と見かける気がしますが、この『終着駅(ターミナル)殺人事件』の最後の最後で明かされる手紙の内容、というか物語の中での立ち位置に、愕然。
作者のトリッキーな頓知ぶりに脱帽笑いすべきなのか、それとも手紙を読んだ犯人の心情に思いを巡らせ涙するべきなのか、それまでに味わった事の無い感情が押し寄せました。 これぞ本格ミステリならではの、独特な感動の形。

京太郎さん黄金期(?)の長編と言うと、出だしの謎の強烈さがピカ一なのに較べ、物語も半分くらい進むと少しずつテンションが弱まって行き最後は緩めに着地してしまうきらいがあると思うのですが、この作品は最後の最後に一番のクライマックスが来て強烈な印象を残してくれました。

アリバイトリックも密室もさっぱり記憶に残っていない体たらくぶりなのですが、、 素晴らしく鮮明に記憶しておりますよ、このエンディングの衝撃は。

No.12 8点 21人の視点- 石沢英太郎 2015/05/15 20:56
非常に凝った構成の本格推理小説。

思わせぶりなプロローグが終わると 、、 その後は全体が21の章(短いのと長いのとバラバラ)から成り立っているのですが、それぞれの章ごとに「視点」つまりその章の主人公、言ってみれば「私」が切り替わります。
「私」は殺人事件の被害者であったり目撃者であったり重要な鍵を握る人物であったり ..  様々。  内何人かはその行動の意味が読者にもはっきりと分かり(乃至分かった気にさせられ)、他の何人かは一体何をしているのかその真意が掴めなかったり微妙に引っ掛かる所があったりします。

「私」がころころと替わって行きながらなお事件捜査は徐々に核心に迫り、最後に明かされる事件の真相と背景、は社会小説として充分に重みがあり、
またそれとは別次元で最後に判明する犯人が 。。 100%やられました。まさかあいつだとは想像もしなかった 

No.11 8点 悪意- 東野圭吾 2015/05/15 19:43
叙述の鬼でした。。。。 

再読するにはちょっと、物語の風圧が強すぎて気が引けるけど、やはり傑作でしょう。

実人生への教訓にしたくなるエンディング、というかお話ですよね。

No.10 6点 斜め屋敷の犯罪- 島田荘司 2015/05/15 12:12
この大バカトリックは、、、 何ですかねえ、動物にたとえると。 物語の筋もすっぱりと忘れてしまった。 動機が結構ドラマチックなんでしたっけ? 本当?? 「占星術」と並び賞する事は、私の嗜好では出来ません。でも読んでいてつまらなくはなかった。ドタバタしてて面白かったかな。 しかし本当にこの大仕掛けで攻められたら、それも意識があるところでやられたら、途中で事に気付いたら、その怖ろしさは半端じゃないですよねえ。。

No.9 9点 天使が消えていく- 夏樹静子 2015/05/14 12:08
これは素晴らしい、心理的大トリック+感動的な結末、こういうミステリーを自分でも書いてみたい、と時々思ったりするその理想形の一つ。
タイトルの持つ色合いが 読前・読中・読後 でそれぞれ違って来るのがまた泣けます。 


基本的に二つの物語が並行して進む形式で

a: 先天性心臓疾患のある赤ん坊が寄付金を得て手術に成功し、生き残る。 しかし売春婦であるその母親は赤ん坊を邪魔者扱いし、隙を見て殺そうと考えている節が。 一連の関係者である女性記者(第一の探偵役)は危惧のあまり親子の住む貧民アパートを頻繁に訪れては世話を焼くが 。。   ある日母親は自殺と思われる状況で死んでいるのを発見される。 しかし女性記者(第一の探偵役)はある事情によりそれが自殺に偽装された他殺であるとの疑いを持つ 。。  暗いムードで進行するストーリーa

b: ホテルの客、そしてそのホテルオーナーが相次いで殺される。 オーナーの方はどうも身内の犯行が怪しまれるのだが、客の方はオーナーの殺害と果たして無関係なのか 。。  目撃者達の証言により正体不明の参考人が何人も現れる中、刑事(第二の探偵役)を中心に捜査が進められる.。  サスペンスフルに、しかし淡々と進行するストーリーb

二つのストーリーは微妙に接点らしきものをちらつかせながら徐々に近付き、終結近くで一つになり、事件はひとまず解決を見ます。

ところが ・・・


「ひとまずの解決」で終わっていたら昔流行った「社会派ミステリーもどきのチャラぃやつ」みたぃかと思うんだけど、
更に進んだ結末を用意した事で社会派ストーリーとしてもより深く人間の○○○な所を抉る事になり、同時に純粋にミステリーとしてもより深い謎とその深い解決、何より強い驚きを読者の目の前に提示してくれる結果となりました。


尚、私はこの物語のラストをどちらかと言えばハッピーエンドに感じましたが、もしかしたらそれは少数派かも。
少なくとも、物語の大半を占めるムードとはうって変って、最後の最後でとても爽やかな読後感を残して終わった、と感じる人が私以外にもいらっしゃったら嬉しいです。

No.8 8点 白馬山荘殺人事件- 東野圭吾 2015/05/13 12:48
かなり終盤近くまで「こりゃまさかありきたりな山荘密室殺人モンかァ?」なんて思ってたんだけど、不思議と飽きさせない何かがあって
とうとう最後の最後の最後のドラマティックな結末に辿り着く事が出来ました。

このミステリーの何が画期的(と私には思えた)って、
まず本当の○○○が誰だか最後まで分からない、と言うよりむしろ物語を見る角度や次元によって○○○が誰なのか様々な解釈が可能という事。。 そこまでなら古い作品にも類例があったと思いましたが、
のみならず○○だって単純に誰かを特定するのに躊躇しそうなストーリーの重層ぶりですし、
更には○○○ですら実は誰や誰がそれに当たるのかちょっと考えさせられてしまう、
その三方向からの重層感覚が一つに噛み合ったところに生まれたのは本当に4D万華鏡の様な、ミステリーの意外性に裏打ちされたミステリーならではの人間ドラマでした。

なんかおかしな書き方をしてしまいましたが、決してわけのわからない錯綜したお話ではありません。
ストーリーテリングそのものは、いたってシンプルです。

やはり彼らしく「軽い文体で深い内容を」描き切る事に見事に成功しています。 
極初期の、若い頃の作品で既にこんな感じ。流石ですよ。

No.7 10点 戻り川心中- 連城三紀彦 2015/05/11 11:49
これには参りました。
完璧に構築された本格推理小説群です。腑に落ちる大胆な伏線、腑に落ちるまさかのトリック、腑に落ちる意外な動機。そして誰もが口にする美しい文章、且つ読みやすい文章。骨のある人物描写、スリルとサスペンス。どれもこれも推理小説、小説に求められる様々な要素を優しく兼ね備えた一級品ばかり。
よくぞここまで文芸とミステリーの勘所をシームレスに融合させたものだと感心します。それもトリック重視の本格ミステリーの形式で。
敢えて喩えれば、山田風太郎の本格短編をよりフェミニンな文体で書き直した様な感触を受けましたかね。
9.85点、四捨五入で10点です。

No.6 9点 占星術殺人事件- 島田荘司 2015/05/08 12:15
有名なメイントリック、原理だけ取れば昔からあるシンプルな数学パズルの様なものだが(だからこそ某所であっさり剽窃されたのかも?)それを連続殺人ミステリー小説の枠組みにしっかりと嵌め込み、伏線やら手掛かりやらで補強してシラッとミスディレクションの粉を振り掛け、人間を中心に据えたストーリーで八方包み込むとこれだけ驚天動地、空前絶後の新古典大作に仕上がるのだなあ、参った、こりゃあ凄いぜ。
メイントリックは先に知ってしまっていたものの「最後に○○が真犯人として登場する筈だ!」とハラハラしながら読み進めるスリルは相当なもので、全くタレる所が無かった。だが文章は意外と弱い所もある(シリアス部分とオチャラケ部分のツギハギ感など)。そこで0.55点減点、9.45点は四捨五入で9点だ。

No.5 8点 人生の阿呆- 木々高太郎 2015/04/27 11:58
内田有紀の3rdアルバム『愛のバカ』を彷彿とさせるタイトルだが、木々高太郎の『人生の阿呆』は昭和十一(1936)年に発表された古典的推理小説、但し実際読まれた事のある人はかなり少ないと思われます。

よく「簡単に犯人が分かってしまう」と言われるらしいのですが、私は探偵役の青年が警察に捕らえられ『獄中推理』なる思索を行う、もう終盤もいい所まで行ってやっと「え!まさかあの人が!」とひらめいたのでした。 際立って純文学的な文体や雰囲気が当時犯人当て勝率9割6分だった私の目を曇らせたのでしょう。 ストーリーが単調という人もいる様だけど、私にとっては非常に記憶に鮮明に残る作品でした。 感動します。 あと、これ言っちゃぅと微妙にネタバレになるかも知れないけど 。。 「犯人の●●が●●●●●●●い」ってのは初めて見た! 斬新だ!! 

後から考えると小説として色々アンバランスな所が目立ってたかもなあ。 

No.4 7点 絢爛たる流離- 松本清張 2015/04/24 18:56
高価なダイヤモンド指輪の持ち主の変遷を軸とした連作短編集。昭和の戦前から高度成長期まで、時が流れます。
第α話で一応のオチを見せたストーリーに第α+1話で新たな展開が待っていたり、なかなか一筋縄で行かない。
また、それぞれの話のスタイルというか持ち味が、意識的なのか結構ばらけていて、文学性の高いシリアスな犯罪小説で最後まで通すのかと思いきや本格パズラーがひょっこり出て来たりする。びっくりしたのは「これはまさか藤原宰太郎のパロディか?」と思わせる様な清張らしくもない安直な”手掛かり”の登場する話があったこと。「何、○○が××だと!? 分かった!犯人はアイツだ!」みたいな。それよりもっと凄いのが、まさかのバカトリックが出て来る某ストーリーで、その絵面を想像したらもう笑っちゃってしようがない。これ実際にやられたら被害者の苦痛はもう地獄絵図なんだと思うけど、だけどヴィジュアル的にもう反則でしょうってくらいのバカさ加減で、それをよりによって渋いトリック使いの清張が文章化しているというギャップがまた何とも。とは言え、全体を通して見るとやっぱり男女の機微を丁寧に描いた美しい犯罪物語がその中心にある。だけど所々おかしな点も見つかる。文章にしても、清張には稀な”速く読んでると何の事を言ってんのか一瞬分からなくなる”様な言葉運びの下手な文が少し見つかったりする。色んなギャップを含んだ連作集だと思う。

最後の一遍のエンディング、連作全体を締める大オチを一回見せておきながら。。 あの終わり方は”時代が軽くなった”って事を暗示しているのかなあ、分からないや。

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.68点   採点数: 1243件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(54)
松本清張(52)
鮎川哲也(50)
佐野洋(38)
島田荘司(36)
西村京太郎(34)
アガサ・クリスティー(33)
エラリイ・クイーン(25)
島田一男(24)
F・W・クロフツ(23)