皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.69点 | 書評数: 1409件 |
No.489 | 5点 | 星降り山荘の殺人- 倉知淳 | 2016/02/12 12:21 |
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野暮ったく稚拙な割に読みやすい文章、おかげで嫌な思いをせずサクサク行けてラッキー。
おお、この解決編ロジック構築は’オランダ靴’に萌えない様な私でもなかなかイケるぞ。アリバイの必要性を消した(!!)犯人、その企図に探偵は気付いたってが!! しかし、いつまでたっても驚愕の叙述トリックらしき痕跡が見つからないぞ。あの一点を除いては・・ と緊張のラストに向けて待機していたらユルユルのどんでん返しに椅子からずり落ち。。 振り返ってみれば、「ワトソン」の方は疑って読み返してもみたのだが、そこで安心してアッチの方まできっちり目視点検すべき労を省いてしまったのだな。。たぶん作者もそこは計算に入れているだろう。それもあってあのギミック・オマージュを。。 だけどこの作品、犯人特定のロジックには(強引で綻びも多そうにしろ)かなりの労力を割いている割に、肝心の(?)叙述トリックの方が、苦労してな過ぎって言うか、いやもちろん苦労したしないは関係無く結果面白ければいいんだけど、流石に(文字通り?)紙ペラ一枚で済ますには無理があったと言うか、中心アイディアの閃きにしろ執筆実務にしろ相当に浅いものを感じ取ってしまって、期待ほどに堪能する事は出来ませんでしたねえ、残念。 spam-musubiさんの書かれている 十角館の動機も十分に唐突かつ陳腐なんですけどね、 それを気にさせないエネルギーがあるかどうかの差というか。 にも同感至極です。 でもまぁね「この人が犯人だったら嫌だなあ。でも(普通だったら有力容疑者リスト入り確定だけど)この小説の場合それは無いか。。」とうっかり油断させてくれた手腕は見事。あまり低い点は付けられませんよ。 【ネタバレ】 あの「付箋」が実は作家女史のメモで。。という叙述トリックなのかと途中から疑いましたが(伏線も堂々とあったし)、違いましたね。って事は、やはりあれは楽しいギミック引用兼叙述トリック上の手段兼ミスディレクションの一環でもあったのか。。 【ネタバレここまで】 「弁護側」やら「十角館」やら「交叉点」やら諸作と並べて“叙述トリックの代表”に数えるのは個人的に大いなる抵抗がありますが、読みやすいし(これで読みにくかったら罵倒対象だ)、軽い読み物として悪くはないと思います。 だけど最後の、豹変した真犯人の目を疑う悪態ぶり、あれぁ気持ち悪かったなあ。。会話文はおろか地の文の領域さえ超えて作者本人視点の鬱憤奔出させてる様にしか見えなくて。。作者の人格疑っちゃったよ。ある種の人たちへの偏見を助長しやしないかともちょっと心配。 |
No.488 | 6点 | 御手洗潔の挨拶- 島田荘司 | 2016/02/10 12:18 |
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その昔はじめて「あぁ、これがしまそうバカトリックですか」とのけぞった『疾走する死者』。何らかの心理トリックだと思い込み読んでたもんで、あのまさかのアレにはショックを受けましたよ。
御手洗が『数字錠』で見せる優しさとハッタリかまし(○○日掛かる云々)の噛み合せの妙は綺麗です。何ともやるせない哀しみが敷きつめられてもいるし。 他の二作も小粒感ありありながら良い出来。 でもやっぱ、しまそうの真髄は長篇だよな。(その真髄が『数字錠』にかなり沁み込んでいるとは思う) |
No.487 | 5点 | 宛先不明- 鮎川哲也 | 2016/02/09 18:06 |
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こりゃちょっと浅過ぎるでしょう、長篇ミステリとして。長めの短篇に凝縮すりゃあ良かったのに。表題と内容の繋がらなさっぷりも残念。(短篇集の題名が「宛先不明」だったら魅力的だし、その中に本作をギュッと縮めたのが入ってたら素敵だ。) ファンなので、読んでて詰まらなくはありませんでしたがね。ファンなので、読んでよかったとは思うけれど、ファンなので、人には薦めない。 |
No.486 | 7点 | 風の証言- 鮎川哲也 | 2016/02/09 17:57 |
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鮎川さんの短篇には「わるい風」「にくい風」と言った風の系譜がありますがね、こちらは長篇の風です。
トリックもストーリーも小ぶりですけどね、ファンにとっては安定した良さがありますよ。 社会派の塩をちょぃと嘗めてみたような趣向もまあ、気安いお遊びでね、奇抜さ派手さの無い地道なアリバイ崩しがいいんですよ。 わたしゃ悪魔の様に大胆なアリバイトリックも堪らないけど、人間らしく細やかで優しい(?)それも愛おしいからね。まあそういうのが読みたい人向けでしょうね。 |
No.485 | 7点 | 溺死人- イーデン・フィルポッツ | 2016/02/09 16:12 |
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何たる凄み、終わりの一文。 この結末、更に一ひっくり返しを求める人には肩透かしかも知れない。私にはこの終わりが衝撃だ。 今の不穏な時代背景あればこそ、かも知れない。
それにしても演説に満ちている。熟考を良しとする進歩的保守派のそれだろうか。語り手と友人の会話文に、地の文(作者の主張)としか見えない所が多過ぎて笑う! 知的でリーダビリティの高い 要点とユーモアだけの饒舌は本当に素敵だ!まるでディベート中継を浴び聴いているような、激しくも論理と感性に忠実な陳述の応酬よ! かと思うと‘朝日には冷笑的な傾向があり云々’なんてチャンドラーもどきの警句や皮肉、それらをすり抜けると、癒しの心地よい水圧が充満だ。 ラスプーチン暗殺が数年前の出来事って!! 第二次世界大戦の不可避を1931年に語る!! さて犯罪物語は、発見された溺死人が誰か、という当初の大前提が呆気にとられるほど早い段階で軽やかにひっくり返る。嗚呼。 何気なく容疑者のラインナップが豊かなのは愉しきこと。そして真犯人の立ち位置の意外なこと(十戒だか何かに触れている?)。何なら被害者の扱われ方も驚きの大胆さだ。 登場人物表にも出てこないウィルソン夫人の何たる深い癒しよ。。。。 やはりこの作品は、フィルポッツの饒舌な優しさを思い切り浴びるためにあるのだと思います。そして、気持ちよく浴びるためにはやはり適量の本格ミステリ興味が必要。 1931年の作品に”LSD”が登場したのはびっくらこきました。 しかし「ベートーヴェン・スミス」って!! 世界のどこかのミステリサイトで誰かがこっそりハンドル名にしている事を期待します。 ところで「デキシニン」ってちょっと「ロキソニン」とか「ブロバリン」の仲間の、薬の名前みたいですよね。 だけど語り手の医師がね、どことなく胡散臭い所あるんだよね。それがまた人間らしい味でね。 |
No.484 | 7点 | ブラウン神父の不信- G・K・チェスタトン | 2016/02/08 13:18 |
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ブラウン神父と符合を見せる音楽家と言えばジミ・ヘンドリクスだ。右利きであるにも関わらず、右利き用のギターをわざわざ上下(当然だが左右も!)逆さまにして左手で弾く(※)。この逆転の逆転が必ずしもそのまま元に戻っては来ない不思議なねじれの逆説性はミステリの世界で喩えれば間違いなくかの神父領域の味わいでしょう。ましてあの革新性と完成度のマリアージュぶりです。
※但し弦は普通に弾けるよう逆張りにしていました。やろうと思えば弦そのまま(つまり上下逆)でも弾けたって説もある。 さて有名作も揃って派手目なイメージの纏わる本短篇集。幾つかの類似性からホームズの「復活」と並び語られる事も多いですが、わたくしの感想は、ホームズ「復活」と似てシリーズ先行作に較べると少なからず色褪せているかな、と言った所。それでなお充分「かなり面白い」の範疇に記憶を留めさすGKCの底力には感服しきりでございます。 個人的に感慨深いのは最後の二作「ダーナウェイ家の呪い」「ギデオン・ワイズの亡霊」でしょうか。 |
No.483 | 8点 | 猟人日記- 戸川昌子 | 2016/02/08 12:22 |
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はじまりは都会の夜の軽い読み物という感触でしたが、、徐々にダークなトーンに染まり行き、最後は意志の強い心理トリックに刺されて果てます。 慄然とさせてくれますねえ。。
『講談社大衆文学館』でOG(Old Girls=大いなる幻影)と一緒になった本を読んだものですが、読了してみれば一見して派手なOGより渋目のこちらに軍配が上がっていました。僅差でした。 しかし現代の感覚で「外国人の様な濠りの深い容貌」の好男子が夜な夜な。。とか言われると平井●が新宿某エリアで●漁りに精を出している図が浮かんで仕方ありませんて。(彼はそういう事しなさそうだが?) |
No.482 | 7点 | 春から夏、やがて冬- 歌野晶午 | 2016/02/03 12:19 |
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予想外 。。。。 結末も 幕引き人(探偵役?裏主人公??)も 真犯人(?)も 真相(??)も ネタバラシ。。。を言うと 少しは明るい終わりなのか そうでないのか モヤモヤしたままなのが本当に 予想外 反転。。はさほど強烈でない だが物語の構成 不思議な終わらせ方が 救いの無い中にも 謎めいた感動を招き入れている |
No.481 | 9点 | 長いお別れ- レイモンド・チャンドラー | 2016/02/03 12:08 |
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酒もだが、コーヒーの薫りが染み込んだ名作。 第二十二章、滑り出しの数頁がとても好きだ。 ギムレット? エメラルド? このあたり、ストーリーがミステリ流儀で蠢き始める十字路だろうか。
長い小説の終わり間近でもう一度ギアが上がる作りが頼もしい。ここが最終コーナーかと見えた地点から、本当の終結地点までストーリーの激しい起伏が持続。 ラストシーンは。。 反転、感動ともどもやられました。アンコールピースの様な、日常に戻る合図の様な最後の一文も良い。 大事な亡き(行きずりの)友を偲びながら夥しい数と存在感の主要登場人物群。味方も敵もグレイゾーンも躍動豊かに、上手に書き分けられている。 時々皮肉たっぷりの妄想で暴走するのも最高だ。あわや森村誠一もどきのヒッピー演説になりかけるじゃないか。 今さらながらフィリップ・マーロウというのは不思議な良い奴です。それにしても同じL.A.上流犯罪捜査の後輩フランク・コロンボとは、敵(時に好敵手)を見下ろすタイミングと容赦無さの発揮場所が正反対だな。 さてこの小説がどうしてこんなに心地よいのかと追憶を巡らせば、要するに松本清張の長篇良作と程近い感覚なのでしょう。但し清張の場合は会話文さえ無駄口を排除するものだから余計にストイックでサスペンス度合いも強い。 TBSやFMLにはのめり込まなかったが、TLGBには深い所を掴まれた。 |
No.480 | 4点 | パーフェクト・ブルー- 宮部みゆき | 2016/01/28 18:21 |
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確かに読んだんだけど、忘れちゃってんだよねえ、まぁまぁイマイチかな、って思ったこと以外。
(同様の感想書かれてる方がいらっしゃったんで、笑ってしまいました) でもE-BANKERさんの評を見てちょっと思い出したのですが、確かに「犬」であるミステリ的必然性が無いですよね、「長い長い殺人」に於ける「財布」が如し、、いやアレの場合はちょっと違うけど、どちらも結末で何らかの「化け」が無かったという意味で。赤緑色盲(赤は血の色。。)だとか、色々引っ掛けられるフックは有ったと惜しまれるのですが。。 でも3点って事もない。 宮部みゆき処女説、もとい、処女作。 |
No.479 | 5点 | 金色の喪章- 佐野洋 | 2016/01/28 18:11 |
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佐野洋平均的サスペンス。 いや、本当は平均ちょぃ下かな。本格の謎に近い不可能興味(人物系)は魅力だが、明かされる真相がちょぃと「チャンチャン」なんだな。。 読んでる間は楽しいんだけどね、再読ぁするわきゃ無いでしょうそんな暇じゃないよ、ってなくらい。熱心なファン以外には薦めませんが、イマイチとまでは落ちず。 |
No.478 | 7点 | ミニ・ミステリ傑作選- アンソロジー(海外編集者) | 2016/01/28 13:07 |
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目次の題名眺めるだけで興味津々。幼い私には「文法で気付かれる」話と「小人が騙される」話が印象的だった。一発アイデアでノックアウトされる類のやつ。今振り返れば「誘拐されていた」話がなかなかのものと思う。定番「二十年後に再会」の話はやはりぐっと来る.。他にも、驚いたり、泣けたり、唖然としたり、ニヤリと来たり、不安になったり、感心したり、指を鳴らしたり、狐につままれたり、作者も有名無名、語りつくせぬ魅力を放って止まない、小さなお菓子がいっぱい詰まった箱の様な掌編集。EQGJ(エラリー・クイーン・グッド・ジョブ)です。
ところで例の、創元さんの悪い癖”重複排除”の犠牲になっているのが三篇もある(ブラウン、ウールリッチ、シムノン)のは悲しい! その一方で唯一人、特別に二篇収録されているのがかのモーパッサン、というのが何とも! |
No.477 | 9点 | 仮面山荘殺人事件- 東野圭吾 | 2016/01/28 12:27 |
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すっかり忘れていましたが、私が初めて読んだ東野圭吾は確か本作。
花も実もある本格ギミックス圧縮てんこ盛りで、最高の面白さでした。 ま~~設定からしてびっくり、展開にどっくんどっくん、結末にぶっひゃーー、てなもんです。 深夜の首都高を盗んだ大型満載キャリアカーでぶっ飛ばした挙句八丈島までぶっ飛んで行きたい時は、本格ミステリ好きだったら、代わりにこの本を読むと良いでしょう。 |
No.476 | 8点 | 砂の器- 松本清張 | 2016/01/27 18:27 |
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‘蒲田’と言やぁむかし乗換え駅でよく途中下車したもんです。どこぞの呑み屋行ったんだろ、例の二人は。ひょっとして「鳥万」かな?と思って原典確認したら”トリスバー”だった! しかし蒲田如きでもう場末と呼ばれるとは、時代を感じますねえ。
構築美に少しく皹(ひび)が見られるのは承知ですが、破綻する程の破格でもなく、適宜の余裕を湛えた準大河小説として併せ呑む許容内ではないでしょうか。そんな人間臭い蟠(わだかま)りの萌芽も含め素晴らしい味わいを端から端まで並べ尽くした作品と思います。日本列島を股に掛ける遠望ゆたかな旅情は目鼻に眩しく、人情と社会の歪ませ合いがひりひり痛い。謎伏せの深さがいつにも増して雄大な渾身の力作だ。躊躇無く「社会派推理小説」と呼びたい。生前の祖父と、本作について少しでも語り合いたかったなァ。 例の音楽ですが、例のバカトリックですが、、いいんですよ小説の場合はアレで。逆に映画版の様な佐村河内さんもかくやの絢爛悶絶恩讐交響詩を清張文章で表現された日にゃ、ちょいと違うものに捩れてしまいまさあねえ。そういうのはまぁ中山七里さんに託したい所で。 |
No.475 | 8点 | 高木家の惨劇- 角田喜久雄 | 2016/01/27 13:30 |
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よいこのみんなには「発狂」でおなじみ角田喜久雄おじさんの健筆が、退屈弛緩を排除した滑り出しの勢いそのままに終結まで颯爽と駆け抜ける快作! 時折のアクセントに煙草。
果たしてこれはアリバイトリックのお話なのか、それとも。。思いの外早い時点で”装置”の存在が露呈するや予想外の安っぽさが湧き上がるが、それに抗してバランス取るかの様に、事件背景が実はこちらの憶測よりずっと複雑であるとの暗示物件が次々と忍び入る。 されどやはり物理トリック満開な雰囲気に苦笑するも、先走り癖のある読書を宥める様に作者は更に先走り、優しい解説と共に更なる謎の泥沼まで提示してみせるってんだから、そのしたり顔ぶりは見事だ。 終結が呆気なく来たなと思えば、、まさかの”トリック反転”ですか!こりゃ参りました。ストーリーが反転するのでなく、トリックが反転するってどういう事よ!こういう事だよ。。それと表裏一体なのが、クリスティ再読さんご指摘の際立って格別な「犯人像」ですよね。。そして蟷螂の斧さんの言及される(第一)被害者の、結局は自らを死に至らしめたその企図たるや。 さて事件の隠された全景も晒され、題名の本当の意味は、そういう事なんですね、と納得し、刑事ドラマの様にちょっとくだけたシーンで〆。 むかし祖父の書棚に何処かの叢書と思しき本作が置いてあり、ずっと気になっていたのでありますが、幼い頃は題名が怖いのと、後には何故か読むのを遠慮し、時のはずみで生前ないし遺品として貰い受け損なったこのクラシックな本格推理、何処と無く梗概を聞きかじったつもりで重い腰を上げ読んでみますると、これがアナタこっちの憶測を豪快にぶち破る大きなヒネリと機動性に満ちた作品で存分にシビレさせていただきました。音楽に喩えれば意外とジョージィ・フェイムの様な味わい、かも。 【ネタバレ】 第二の探偵にして有力容疑者、且つ証人でもある人物が終盤に来て第二の被害者となる錯綜急展開(軽くシンデレラの罠状態!?)には参ったよ |
No.474 | 7点 | 地獄から来た天使- 土屋隆夫 | 2016/01/26 18:52 |
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氷の椅子 /潜在証拠 /絆 /老後の楽しみ /私は今日消えてゆく /わがままな死体 /地獄から来た天使
(角川文庫) エロかったりドタバタだったり、なんかネジ具合のおかしい土屋さんが目立つ短篇集だが、ミステリとして水準は高い。そうそう「絆」は中でも異質の(普段の土屋さんらしい)涙を誘い背筋を伸ばす文芸推理の佳品。アクの強い倒叙「潜在証拠」は浸食力抜群。 |
No.473 | 8点 | 泥の文学碑- 土屋隆夫 | 2016/01/26 18:37 |
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空中階段 /りんご裁判 /ある偶然 /虚実の夜 /盲目物語 /夜行列車 /穴の穴 /泥の文学碑
(角川文庫) これは充実の短篇集ですね。創意ある復讐譚の表題作からして本腰が入っている感じ。言うだけ野暮ですが文芸作としても(勿論ミステリとしても)抜群の冴えと味わいの作品群です。日本に生まれて良かった! |
No.472 | 6点 | 企画殺人- 鮎川哲也 | 2016/01/25 18:10 |
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錯誤 /偽りの過去 /蟻 /墓穴 /憎い風 /尾のないねずみ /てんてこてん
(集英社文庫) 魅力ある題名が体を表し損なった感のある小粒な倒叙ミステリ集。ギザじゅうさん、測量ボーイさんおっしゃる通り犯行の露呈や犯人特定の決め手が偶然頼りな作品ばかりで、では倒叙本格は棄てて倒叙サスペンスに専念したのかと言うとそこまで腹を括っちゃいない。まぁそんな清張流儀を鮎川さんにお願いしても仕方ありません、これはこれで悪くもありません。「TTT」を最後に持ってくるのはちょぃと粋だね。(どうして粋かは言えないよ) |
No.471 | 6点 | 謎解きの醍醐味- 鮎川哲也 | 2016/01/25 17:19 |
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寄せ集めでもファンには嬉しいもの。フーダニット中心、良作も何気にちらほら。謎が興味を引く「塗りつぶされたページ」の論理展開は鮮やか。三本のエッセイも見逃せません! “南区南太田”なるタイトルには思わず「暗闇坂」を思い出してしまいましたがあっちは同じ京急沿線でも”西区戸部”だったか。
離魂病患者/夜の断崖/矛盾する足跡/エッセイ 日記/プラスチックの塔/エッセイ 南区南太田/塗りつぶされたページ/緑色の扉/霧笛/エッセイ ペテン術の研鑽 (光文社文庫) |
No.470 | 7点 | 晩餐後の物語- ウィリアム・アイリッシュ | 2016/01/25 16:41 |
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サスペンスだとか雰囲気よりも面白い物語集として、ストーリーを追いオチを探って読むのがいい感じの一冊。酒に合う。名作の誉れ高い表題作は、フーダニットの風薫る中間部にスリルがあって良いですね、そうしておいて実は父子愛の泣かせる物語でもある。最後の見え見えなアレはオマケ。他も手を替え品を替え実に美味。「ヨシワラ」はアンコールピース。
晩餐後の物語/遺贈/階下で待ってて/金髪ごろし/射的の名手/三文作家/盛装した死体/ヨシワラ殺人事件 (創元推理文庫) |