皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ サスペンス ] 猟人日記 |
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戸川昌子 | 出版月: 1963年01月 | 平均: 5.75点 | 書評数: 8件 |
講談社 1963年01月 |
講談社 1965年01月 |
講談社 1966年01月 |
講談社 1982年01月 |
講談社 1997年01月 |
講談社 2015年08月 |
No.8 | 3点 | 虫暮部 | 2022/05/03 12:14 |
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何か変だ。
ネタバレするけれども、ドンファン本田一郎が罠に掛けられ有罪判決、二審の弁護士が調べ直すと、背後に怪しい人物が浮かび、しかしそれはダミー犯人で真犯人は別にいた、と言う話。 さてそれでは、ダミー犯人は誰に対するカムフラージュなのか? 警察の見解は “殺人犯=本田一郎” で、ダミー犯人を認識すらしていない。 素直に読めば、冤罪だと信じて調べる人間が現れ、血液型の関係者に辿り着くことまで見越して、予め彼に対するミスディレクションとして背後にホクロの女をちらつかせたことになる。でもその結果、弁護士は “この事件には裏がある” と思ったのだから本末転倒である。それだとまるで “本田一郎に濡れ衣を着せる計画を露見させて、その犯人としてホクロの女を警察に差し出すこと” が真犯人の真の目的だったみたいだ。 記述に曖昧な部分があり、それも含めた好意的な解釈として、“復讐の動機を持ったこの女が羨しくなり、果ては私がこの女になり変ったらと考えはじめていた” と書かれているように、真犯人の思い込みによる精神的融合、カムフラージュではなく変身願望の発露、みたいな考え方も可能だが、それならそこをもっと読者に強調すべきでやはり苦しい。 だからこう言うしかない。本作では、読者のメタ視線に対する偽装工作を真犯人が非メタなまま行っている。 読者が “冤罪” を前提に読み進めることを利用した、意図的な引っ掛け――だったら面白いけど、それは無いよね。作者のミスだ。 |
No.7 | 5点 | パメル | 2017/02/03 00:58 |
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主人公のプレイボーイ(死語?)はナンパした女性との性交渉の模様を赤裸々に日記につけている
主人公に恨みを持つ人物は主人公を●●の罪に着せようと企んでいく 後半に入ると逮捕された彼を救うべく弁護士が真相を追及し暴いていく展開 巧妙な罠に嵌り心理的にも追い詰められていく様は引き込まれるが犯人や動機に意外性は少ないし人工的トリックは今一つピンと来ない |
No.6 | 5点 | クリスティ再読 | 2016/09/19 19:52 |
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本作とか言ってみれば「ウラ」の作品だ。何に対してウラか、というと本作だと「大いなる幻影」にである。新人作家の出世作で古典的名作に定着した作品に対して、同時期に書かれたけども「出世作のウラに隠れた作品」というわけで、黒岩重吾なら「背徳のメス」に対して「休日の断崖」、松本清張なら「点と線」に対して「眼の壁」、高木彬光なら刺青に対して能面、鮎哲なら黒いトランクにペトロフ事件..というように、今一つ作品的注目度が低いけども、作家理解には絶対外せない作品になるタイプの作品だ。
カサノヴァ的漁色家が、自分がガールハントした女性の記録を「猟人日記」としてつけているのだが、この男が、新しい女性をオトした夜に、その前の相手がなぜか殺されているのに気がつく..これはワナだ、男は殺人の現場に閉じ込められて....というはなはだサスペンシフルな話。ツカミはオッケー。 まあ本作「幻の女」の変形だな。漁色家が捕まるまでの前半と、その後弁護士グループがこれが冤罪と気がついて真相を調べる後半とでは、前半の方が描写にもオモムキがあってずっといい。後半はミステリとしては必要だけど、調査員と漁色家が以前ハントした女性と、個人的な関係があって..というあたりはともかく、ミステリの部分で損している感じが強くする。まあ、真相は何となく気がつく気もするが、そこまでヤルか、という少しムリの多い真相だと思う。なので、ヒネって考えすぎて、ヒネった割に効果があるか..というくらいの感じで、悪いとまではいわないが面白いとは思わない。 本作の最高の箇所は、残念なことにプロローグだ。これが本当に秀逸。「流浪の民」ってのがイイ。バーとかでふとで感じる孤独感の描写としてベストの部類。風俗ミステリとして「六本木心中」とかと比較してもいいかもね。 |
No.5 | 5点 | 蟷螂の斧 | 2016/07/28 21:45 |
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時代(1963年)を考慮しても、ミステリー(サスペンス)としては弱い感じがします。まず、目次を見て結末がおおよそ判ってしまうのは、いかがなものか?。トリックも、大御所の作品(1958年・未読)にあるらしいので、先駆的とも言えず・・・。ドンファンが追いつめられていく心理をもう少し描いてくれたらなあと思いました。 |
No.4 | 8点 | あびびび | 2016/07/01 00:47 |
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油断していたと言ったら失礼になるが、先に「大いなる幻影」を読んでいたから、脇が甘くなったのかも知れない。
彫りの深いマスクをした男が外人風を演じ、夜な夜な女を漁り歩く。自身は玉の輿と言うべき状態で、仕事も安定している。しかも妻の実家が芦屋の豪邸なので、東京ではずっとホテル暮らし。週末に芦屋に帰る生活だ。 ホテルの他に、アパートを借り、そこを拠点として夜は街に出る。そしてモノにした女性の詳細を「猟人日記」にして記しておく。そんな男が過去の女性らしき犯人に復讐される。殺人犯として、警察に逮捕されるのだ。 しかし、彼の義父に雇われた弁護団が地道に捜査し、彼の無実を証明するのだが、本当に油断していた。その結末に、「あっ」と、声をあげてしまった。時代背景的なアンフェアはあるが、自分は心地良い驚きを感じた。 |
No.3 | 8点 | 斎藤警部 | 2016/02/08 12:22 |
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はじまりは都会の夜の軽い読み物という感触でしたが、、徐々にダークなトーンに染まり行き、最後は意志の強い心理トリックに刺されて果てます。 慄然とさせてくれますねえ。。
『講談社大衆文学館』でOG(Old Girls=大いなる幻影)と一緒になった本を読んだものですが、読了してみれば一見して派手なOGより渋目のこちらに軍配が上がっていました。僅差でした。 しかし現代の感覚で「外国人の様な濠りの深い容貌」の好男子が夜な夜な。。とか言われると平井●が新宿某エリアで●漁りに精を出している図が浮かんで仕方ありませんて。(彼はそういう事しなさそうだが?) |
No.2 | 5点 | 江守森江 | 2010/08/19 13:31 |
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ミステリとしての記憶は全くと言える程に忘却しているが別方面では強烈に記憶に焼き付いている作品。
大学時代に読み触発され、社会人になったのを期に「情事日記」を克明に綴りだした。 流石にヤバい代物なので結婚を前に完全に焼却処分したが、一時期の遊び人的生活には必需品だった。 スポンサーとして援助してくれた方々、口説き方からベッドまで女性の扱い方を身を持って御教示頂いた方々には今でも感謝の気持ちで一杯です。 この手の記録は焼却処分出来るアナログ(紙に手書き)が良いとつくづく思う(嫁には包み隠さず女性体験を話しているが、それでも読まれたくはない) 嫁に関しては今までに培った総力を挙げて誑し込んだ程に惚れているので結婚以来「嫁一筋」で浮気は一切した事がない! ※要注意!!! この手の自体験を晒した書評には数多の独白ミステリ等で使用された技法を駆使しているので、書かれた内容を鵜呑みにしないで下さい(このコメントも技巧の一部かも?) |
No.1 | 7点 | こう | 2008/09/07 04:15 |
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戸川昌子第二長編の作品です。昭和38年作と古さはどうしようもないですが昭和の風俗をよく現わしていると思います。
プロローグでまず男女の出会い、そして一人の若い女性の自殺が描かれ、彼女が妊娠していたことがわかる。唯一の身寄りの姉がそれを知らされ相手の男への怒りをみせる。その後第一部で夜な夜な若い女性をひっかけ、その成果を「猟人日記」と名付けた日記に詳細に記録をつけている本田一郎が描かれています。そのうち若い女性の連続殺人が起こるがその被害者は彼の獲物ばかりだった。被害者から彼の血液、精液が検出されそして彼は逮捕、死刑宣告される。 一転して第二部で弁護士が彼を救うため動き出し、真相をつきとめる、というストーリーです。 だれが可能だったかということを考えれば犯人は簡単にわかりますし動機も簡単にわかります。またミステリとしてはアンフェアな部分もありますし昭和38年当時でも「血液」の扱われ方としては間違っているところがあります。本田一郎という人物像は現在ではありきたりでしょうが当時では非常に珍しかったのではないかと思います。作品の雰囲気、展開も悪くなく長さも手頃で一気に読ませます。ミステリとしては現在では通用しないと思いますが、かなり楽しめました。ただあまり現代作品を読みなれていない時期に読むのをお薦めする作品です。 |