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[ 本格/新本格 ] 高木家の惨劇 加賀美捜査課長/旧題「銃口に笑ふ男」 |
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角田喜久雄 | 出版月: 1954年01月 | 平均: 7.14点 | 書評数: 7件 |
春陽堂書店 1954年01月 |
東都書房 1961年01月 |
講談社 1971年01月 |
講談社 1972年01月 |
東京創元社 1985年07月 |
No.7 | 7点 | 雪 | 2021/03/16 07:57 |
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「な、なんだ、こりゃァ! え、こりゃァ一体どうしたんだ!」
昭和二十年十一月七日――大気がまるで針を含んだように底冷えする終戦の年の初冬、警視庁からほど近い日比谷の喫茶兼酒場『リベラル』で、紅茶の中から一匹の蜘蛛をすくいあげ、大声をふりしぼって給仕女に喚きつづける奇妙な青年がいた。 だが彼に時間を尋ねられた黒外套の男――警視庁捜査一課長・加賀美敬介だけは、青年が先ず自分のポケットからつまみ出した蜘蛛をコップの中へ落とし、それから立ち上がって女に喰ってかかった一部始終を見逃さなかった。この男、注文した紅茶には手もふれず、なぜこんな茶番をやるのか? 青年がばたんと入口の扉を閉めて出ていったその直後、加賀美は部下の峰刑事から殺人事件突発の電話を受ける。正三時――それはまさにあの青年が、『リベラル』で奇妙な芝居を始めた時刻だった。日比谷の喫茶店と鷺ノ宮の一角、十五キロはなれた場所で同時に起こった二つの出来事。これがあの怪奇を極めた、高木家の惨劇の序幕であった・・・ 昭和二十二(1947)年五月、『銃口に笑ふ男』のタイトルで雑誌「小説」誌に一挙掲載。前年「宝石」誌連載の横溝正史『本陣殺人事件』と共に、〈本格ミステリ第一の波〉の一翼を担った作品とされます。発表のアテも無く二十日余りで勢いのまま書き上げられた長篇で、『本陣~』同様200Pにも満たない長さながらその内容は濃密至極。 射殺された吝嗇漢で虐待者の当主・高木孝平を取り巻く一族は、『リベラル』で騒ぎを起こしたただ一人の息子・吾郎を筆頭に、どいつもこいつも濃い奴ばかり。終始加賀美を嘲弄する興信所所員の丹羽登や、事ある毎に煙草をくすねる孝平以上の守銭奴・大沢為三、冷たくて、静かで、石のように動かない女・青島勝枝など、加賀美をして「まるで狂人の巣だ!」と言わしめた連中が揃っています。そして事件に影を投げ掛ける蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛のモチーフ。果たして傲慢にして過酷な暴君を殺したのは誰か? 中途で明らかになる柱時計の仕掛けを巡り、二転三転するアリバイトリック。真犯人が身を隠す〈あの手〉がメインで使われたのは、これが初ではないのかな。意味ありげな〈蜘蛛〉のガジェットが、事件に有機的に絡んでればもっと良かったんだけど。そういう意味でムダの無い『本陣~』に比べると明らかに落ちる出来。とはいえ全篇緊張感に溢れた戦後初期の名作なのは確かで、採点は7点。旧題も良いミスディレクションになってますね。 |
No.6 | 8点 | 斎藤警部 | 2016/01/27 13:30 |
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よいこのみんなには「発狂」でおなじみ角田喜久雄おじさんの健筆が、退屈弛緩を排除した滑り出しの勢いそのままに終結まで颯爽と駆け抜ける快作! 時折のアクセントに煙草。
果たしてこれはアリバイトリックのお話なのか、それとも。。思いの外早い時点で”装置”の存在が露呈するや予想外の安っぽさが湧き上がるが、それに抗してバランス取るかの様に、事件背景が実はこちらの憶測よりずっと複雑であるとの暗示物件が次々と忍び入る。 されどやはり物理トリック満開な雰囲気に苦笑するも、先走り癖のある読書を宥める様に作者は更に先走り、優しい解説と共に更なる謎の泥沼まで提示してみせるってんだから、そのしたり顔ぶりは見事だ。 終結が呆気なく来たなと思えば、、まさかの”トリック反転”ですか!こりゃ参りました。ストーリーが反転するのでなく、トリックが反転するってどういう事よ!こういう事だよ。。それと表裏一体なのが、クリスティ再読さんご指摘の際立って格別な「犯人像」ですよね。。そして蟷螂の斧さんの言及される(第一)被害者の、結局は自らを死に至らしめたその企図たるや。 さて事件の隠された全景も晒され、題名の本当の意味は、そういう事なんですね、と納得し、刑事ドラマの様にちょっとくだけたシーンで〆。 むかし祖父の書棚に何処かの叢書と思しき本作が置いてあり、ずっと気になっていたのでありますが、幼い頃は題名が怖いのと、後には何故か読むのを遠慮し、時のはずみで生前ないし遺品として貰い受け損なったこのクラシックな本格推理、何処と無く梗概を聞きかじったつもりで重い腰を上げ読んでみますると、これがアナタこっちの憶測を豪快にぶち破る大きなヒネリと機動性に満ちた作品で存分にシビレさせていただきました。音楽に喩えれば意外とジョージィ・フェイムの様な味わい、かも。 【ネタバレ】 第二の探偵にして有力容疑者、且つ証人でもある人物が終盤に来て第二の被害者となる錯綜急展開(軽くシンデレラの罠状態!?)には参ったよ |
No.5 | 8点 | クリスティ再読 | 2015/07/05 22:04 |
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実は再読したときに非常に気に入って、思わず角田喜久雄のミステリから時代小説までいろいろ読み漁った経歴がある作品。
どこが、というと実は犯人像なんだよね。ミステリの犯人というと、いろいろと策謀し、仕掛け、手数を弄し...というものなんだけど、この犯人はほとんど何もしないんだ。周囲が全部いろいろとやっていることをうまく利用して最小限のアクションで、絶大なる効果を収めているわけだ。...かっこいい、でしょ。今風に言えば決定力抜群、ということか。 それから時計が動き出して、関係者全員がソレを知り、「時が動き出した..」と待ち構えるその時間というのが、実に演劇的だなと感心したわけである。本当に芝居に仕組みたいくらいの詩的な瞬間だと思う。 とはいえ、ミステリだと角田作品の他のものは、高木家の佳さには遠く及ばない。時代小説がやはり、高木家同様に、いくつもの勢力が相互に角逐や協力をしあいながらプロットが錯綜していく...というのがお得意パターンのようで、要するに時代小説でのやり口をミステリに応用した、というのがこの作品のキモの部分のようだ。だから高木家を読んだら「奇蹟のボレロ」を読むよりも、「髑髏銭」とか「妖棋伝」とか「風雲将棋谷」とか読んだほうが楽しめると思うよ。 |
No.4 | 7点 | 蟷螂の斧 | 2015/06/24 15:21 |
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あらすじ~『青年が喫茶店で飲物に蜘蛛が入っていると騒ぎ出した。隣の席にいた男は、青年が蜘蛛を飲物に入れるところを目撃した。青年は何の目的で?・・・。 同時刻に高木家の当主・孝平が自宅で射殺された。容疑者は少数の人間に絞られた。誰もが強い動機を持っている。しかし、全員に確固としたアリバイが存在する・・・。』~
「本陣」「不連続」「獄門島」「刺青」(1946~1948)に並ぶ名作とのことで拝読。知名度は前記4作と比べると劣っているようですが、予想以上に楽しめました。心理的トリックと、被害者の生前の意図が本書の読みどころですね。 |
No.3 | 7点 | ボナンザ | 2014/04/08 01:09 |
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今読むと甘い部分もあるが、全体的には流石と思わされる。
本陣殺人事件や刺青殺人事件と並ぶ戦後の名作の一つである。 |
No.2 | 7点 | 空 | 2012/02/10 21:32 |
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『蜘蛛を飼ふ男』の別題も持つ本作は、まさにその蜘蛛のエピソードを加賀美捜査課長が目撃するシーンから始まります。シムノンのメグレ警視をモデルとした加賀美課長は、同じように部屋を煙草の煙で充満させることもありますが、メグレと違い、吸うのはパイプではなくシガレットです。煙草もすぐには手に入れることができない終戦直後の時代的雰囲気は、文学派シムノンの影響もあってか、同時期の横溝正史などより強く感じられます。しかし内容的には完全にパズラー。
機械仕掛のトリックは中盤であっさりと明かされますが、それだけでは犯人が簡単にわからないような構成になっています。最大の謎は、被害者が何を考えていたのかというところ。中期クリスティーの地味系佳作をも思わせるような真相は、きれいにまとまっていると思いました。事件解説後のラスト1ページぐらいも、気持ち良い印象を残します。 |
No.1 | 6点 | nukkam | 2009/04/17 16:59 |
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(ネタバレなしです) 角田喜久雄(1906-1994)は戦時中は伝奇小説、時代小説作家として有名でしたが戦後はミステリーにも力を注ぎました(それでも時代小説の方が主要でしたが)。その代表作とされるのが1947年に(当時は)「銃口に笑ふ男」というタイトルで発表された本書(加賀美捜査一課長シリーズ第1作)で、横溝正史の「本陣殺人事件」(1946年)、高木彬光の「刺青殺人事件」(1948年)と共に戦後の国内本格派推理小説黄金時代の幕開けを飾る作品と評価されています。プロットには甘いと思われる箇所がありますしトリックも今となっては子供だまし的です。まあ登場人物の1人がアリバイという言葉を知らなかったような時代の作品ですから堂々と通用したのでしょうが。とはいえこの作品の優れているところはトリックに全面依存していないことで、終盤のどんでん返しの見事さは戦後間もなくの本格派推理小説としては高水準だったのではと思います。随所で挿入される、タバコを巡る悲喜劇的なやり取りが物語のいいアクセントになっています。 |