皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.69点 | 書評数: 1357件 |
No.497 | 7点 | 婦人科選手- 佐野洋 | 2016/02/18 11:29 |
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タッチは軽くとも、しっかりした筋骨を感じる信頼の短篇集。
ある証拠 /噂の夫婦 /蛇の卵 /婦人科選手 /五十三分の一 /馬券を拾う女 /チタマゴチブサ /違法駐車 /陽の当る椅子 (講談社文庫) 表題作。。ミステリの骨格は初めから見え透くようだが、、物語は最後にまさかの深みを突き付け。。 五十三分の一。。なる若き日の行き過ぎた過ち談らしき話も、最終コーナー前から予想外に濃ゅい方向へ。。でもオチはちょっと安易。”マジック”を期待していたからね。 馬券を買う女 。。日常の謎のような滑り出しから犯罪露呈へという佐野洋得意の枠組み。この話、実は骨格が日常の謎、そこに犯罪ストーリーをごってりコーティングした形だろうか。落語のオチのようなエンディングと言い、味付け濃い目の小噺のよう。そういや氏は実際’ちょいエロ日常の謎’短篇、よく書いてたよなあ。 ちょっとした機転のアリバイトリック、だけどちょぃと危ないサイコ小噺の。。違法駐車 色事擦れした鮎哲みたいな恐喝小噺。。陽の当たる椅子 なんかやたら’小噺’って使っちゃったけど、実際後半はそんな触感のストーリーが目立つ。浅いんじゃないよ、切れ味と引き際の問題だよ。上に記さなかった各作も悪くないよ。軽エロSFもあるぞ(笑)。 |
No.496 | 7点 | ひとたび人を殺さば- ルース・レンデル | 2016/02/17 12:09 |
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重い腰上げ初めてのレンデルはまさかのユモーォミェストゥォリ、とうっかり油断していたら。。。 貧しい一角に住む若い娘が殺され、墓地で発見された事件。 終盤近く、警部と老婆の語らい、やり取りが凄くいい、心に温かく残ります。 ところが、そこから思慮有る〆までの限られたページ間にまさかの連続反転が襲う!!物語の大方を占めるユーモア微風地帯から打って変わり、暗く湿った真相の投射舞台へ。。。。
さて‘この角度’からの犯人意外性だから、ジャンルはやはり警察小説。HB(Hardboiled)ともHKK(Honkaku)とも違う。あはは、何なんだろねえ、されどジャンル分けの機微ってか。 前述の老婆とやり取りの所まで堂々の6点候補だったけど、やっぱり最後のドラマチックな決め技にやられてね、1点upしましたよ。 真犯人、最後の台詞は泣けたねえ。(鈍いもんで最初その意味に思い当たらず、後から読み返してハッとしたわけですが) ところで、ブラックベリー・ポンチョとは何だ!? |
No.495 | 7点 | 轢き逃げ- 佐野洋 | 2016/02/16 13:13 |
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力も入った事だろう、稀代の短篇名手が二部構成の大長編を完遂。愛人を伴っての轢き逃げ事件を巡り、第一部は犯人側視点で犯罪隠匿のサスペンス、第二部は被害者側視点で犯罪暴露の謎解き。ところが、犯人側と被害者側、それぞれ一枚岩で単純に追われる者と追う者の立場とだけは言えないものになっており。。 登場人物割と多く、人間関係何気に錯綜。 言ってみりゃ堂々の社会派本格ミステリ。社会派要素はどちらかと言うと物語の核心より表層寄りに位置しているが、作品の快い緊張感をキープするには不可欠な助演級スパイスだ。
さてこの力作、必ずしも作者のベスト・オヴ・ベスト級にならなかった(ように私には思える)のは、紙面に余裕がありどうしても幾ばくかの構造の緩みが生じてしまった所為かしら。昔はいざ知らず今や本作が「佐野洋の代表作と言えば何を措いてもコレ!」的な存在になっていないのは、短篇巧者の称号を掲げる作者にとってイメージが混濁せずラッキーなのかも。余計なこと言い過ぎましたが、かなりよく出来た面白い小説ですよ。昭和ミステリ好きなら必読クラスでしょうね。 |
No.494 | 6点 | 発信人は死者- 西村京太郎 | 2016/02/16 12:28 |
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先の大戦で撃沈された艦船からのSOSを定期受信せり!! まさかオカルト小説の筈は無いよなと京さんを信頼しつつ、往時の海軍将校謎の死も絡み臨場感たっぷりの南洋冒険譚を堪能し終わると。。そこには意外性の薄い結末が待っていた。だが決して詰まらなくない。本作はやはり、謎と因縁多めの冒険小説と思って行くのがイカした読み方でしょう。海洋期京太郎なら「消えたタンカー」等に較べて確かに謎・冒険の双方からの圧倒的迫力を誇ると言った風情ではないが、かと言って熱心なファン向けの小粒作品とは言えません、まだ広く読まれて然るべきと思います。(でもやっぱ「タンカー」を先にトライして欲しいなあ、その余韻のうちに本作に来るとすごくいいよ) |
No.493 | 6点 | 予告殺人- アガサ・クリスティー | 2016/02/15 15:48 |
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幸いこれは相性の良いクリスティ。犯人”だけ”は瞬殺で見えてしまったけど、それでも充分に楽しい”追い詰め読み”が出来ました。言い間違えの伏線はちょっと際どいモンだったスけど、動機、事件の背景は最後まで上手に隠蔽されましたねえ。連続殺人の中に一つ、その動機を単純に「●●じ」と呼ぶのが憚られる微妙な経緯のものがありますね、記憶に残ります。
(以下音楽ネタ) それにしても主要登場人物の「ブラックロック」なる姓はバッドブレインズあたりを連想させずにはいられませんでした。ROCKじゃなくてLOCKだけど。あと、その人のファーストネーム「レティシア」が井上鑑の凄く好きだった同名曲を思い出させずにいらりょうか。。(ほんとはそっちの方は旧いフランス映画『冒険者たち』のヒロインから取ってます) |
No.492 | 3点 | メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー | 2016/02/15 15:07 |
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どうしてなんだろうなあ、ホントウにおもしろくなかった。作者が色々面白いこと繰り出して来るのは感じ取れるんだけど、ビニールシートの向こう側で空回りってとこでね。エキゾティックな舞台設定の妙だとかも、おかしなほど心に入り込んで来ない。
どうしてこう、クリスティさんとは作品によって相性良し悪しの格差がすさまじく不安定に大きいのか、本当に謎だ。他人様にはどうでもいい事でございますが。(とは言え平均点下げちゃってごめんなさい) |
No.491 | 5点 | 5分間ミステリー - ケン・ウェバー | 2016/02/13 02:31 |
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多くの日本語書評で指摘される通り、純粋な推理や知恵比べと言うより雑学知識(それも北米での)が決め手となる問題が多く、あまり国際的でないというか北米人向けというか、少なくとも普通の日本人にとっては肩透かしの連続かも。それでも何だかワクワクするんだなあ、こういう短い文章問題がいっぱい並んでるのって。そんな中で貴重なピュア・ミステリー・クイズとして胸に残るのが、いちばん最初の"耳が不自由なふりをする老女"の一篇。なんだか妙にドラマチックでね、どきどきしちゃうの。老女の嘘を見破る一点がまた、絶妙に際どい所でねぇ~。佐村河内さんはこれ読んだ事あるかなあ。 |
No.490 | 10点 | アブナー伯父の事件簿- M・D・ポースト | 2016/02/12 16:13 |
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我が新約聖書。 ミステリと文学との、更にはキリスト教との清らなる三位一体。
(実はもう一つ、法の精神も分かちがたく結束している。更には民主主義精神も少しく。) 天の使い/悪魔の道具/私刑/地の掟/不可抗力/ナボテの葡萄園/海賊の宝物/養女/藁人形/偶然の恩恵/悪魔の足跡/アベルの血/闇夜の光/〈ヒルハウス〉の謎 (創元推理文庫) ‘戻り川心中’(連城三紀彦)に脈流する恋愛要素を神の愛に置き換えたような、敬虔さと、大胆にトリッキーな趣向(ドキリとする様な反転も多い)と、土台のしっかりした質実な文学性とを兼ね備えた、しかも読みやすい、奇蹟の様な短篇作品集です。ただ、恋愛にも当然ダークサイドがある様に、本作にも全能の神が支配していながらも起きてしまう人間界(開拓時代の米国東部)ダークサイドでの罪深い出来事が、どこまでも真摯で敬虔な口調で語られる。ブラウン神父の様に挑戦的ユーモアを前面に出さず、飽くまで穏やかに静かな空気を保ち続ける分、知的な愉しさを上回って心が揺さぶられる場面も多い。 なんて書いときながら評者はキリスト教徒でもユダヤ教徒でも全共闘でもキョードー東京でもまして京都の恋(渚ゆう子)でもないんですけどね。 それでも、私にとっては何物にも代え難い、命の水のような一冊です。(一冊と言えば、ハヤカワの方まだ読んでなかった!) |
No.489 | 5点 | 星降り山荘の殺人- 倉知淳 | 2016/02/12 12:21 |
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野暮ったく稚拙な割に読みやすい文章、おかげで嫌な思いをせずサクサク行けてラッキー。
おお、この解決編ロジック構築は’オランダ靴’に萌えない様な私でもなかなかイケるぞ。アリバイの必要性を消した(!!)犯人、その企図に探偵は気付いたってが!! しかし、いつまでたっても驚愕の叙述トリックらしき痕跡が見つからないぞ。あの一点を除いては・・ と緊張のラストに向けて待機していたらユルユルのどんでん返しに椅子からずり落ち。。 振り返ってみれば、「ワトソン」の方は疑って読み返してもみたのだが、そこで安心してアッチの方まできっちり目視点検すべき労を省いてしまったのだな。。たぶん作者もそこは計算に入れているだろう。それもあってあのギミック・オマージュを。。 だけどこの作品、犯人特定のロジックには(強引で綻びも多そうにしろ)かなりの労力を割いている割に、肝心の(?)叙述トリックの方が、苦労してな過ぎって言うか、いやもちろん苦労したしないは関係無く結果面白ければいいんだけど、流石に(文字通り?)紙ペラ一枚で済ますには無理があったと言うか、中心アイディアの閃きにしろ執筆実務にしろ相当に浅いものを感じ取ってしまって、期待ほどに堪能する事は出来ませんでしたねえ、残念。 spam-musubiさんの書かれている 十角館の動機も十分に唐突かつ陳腐なんですけどね、 それを気にさせないエネルギーがあるかどうかの差というか。 にも同感至極です。 でもまぁね「この人が犯人だったら嫌だなあ。でも(普通だったら有力容疑者リスト入り確定だけど)この小説の場合それは無いか。。」とうっかり油断させてくれた手腕は見事。あまり低い点は付けられませんよ。 【ネタバレ】 あの「付箋」が実は作家女史のメモで。。という叙述トリックなのかと途中から疑いましたが(伏線も堂々とあったし)、違いましたね。って事は、やはりあれは楽しいギミック引用兼叙述トリック上の手段兼ミスディレクションの一環でもあったのか。。 【ネタバレここまで】 「弁護側」やら「十角館」やら「交叉点」やら諸作と並べて“叙述トリックの代表”に数えるのは個人的に大いなる抵抗がありますが、読みやすいし(これで読みにくかったら罵倒対象だ)、軽い読み物として悪くはないと思います。 だけど最後の、豹変した真犯人の目を疑う悪態ぶり、あれぁ気持ち悪かったなあ。。会話文はおろか地の文の領域さえ超えて作者本人視点の鬱憤奔出させてる様にしか見えなくて。。作者の人格疑っちゃったよ。ある種の人たちへの偏見を助長しやしないかともちょっと心配。 |
No.488 | 6点 | 御手洗潔の挨拶- 島田荘司 | 2016/02/10 12:18 |
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その昔はじめて「あぁ、これがしまそうバカトリックですか」とのけぞった『疾走する死者』。何らかの心理トリックだと思い込み読んでたもんで、あのまさかのアレにはショックを受けましたよ。
御手洗が『数字錠』で見せる優しさとハッタリかまし(○○日掛かる云々)の噛み合せの妙は綺麗です。何ともやるせない哀しみが敷きつめられてもいるし。 他の二作も小粒感ありありながら良い出来。 でもやっぱ、しまそうの真髄は長篇だよな。(その真髄が『数字錠』にかなり沁み込んでいるとは思う) |
No.487 | 5点 | 宛先不明- 鮎川哲也 | 2016/02/09 18:06 |
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こりゃちょっと浅過ぎるでしょう、長篇ミステリとして。長めの短篇に凝縮すりゃあ良かったのに。表題と内容の繋がらなさっぷりも残念。(短篇集の題名が「宛先不明」だったら魅力的だし、その中に本作をギュッと縮めたのが入ってたら素敵だ。) ファンなので、読んでて詰まらなくはありませんでしたがね。ファンなので、読んでよかったとは思うけれど、ファンなので、人には薦めない。 |
No.486 | 7点 | 風の証言- 鮎川哲也 | 2016/02/09 17:57 |
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鮎川さんの短篇には「わるい風」「にくい風」と言った風の系譜がありますがね、こちらは長篇の風です。
トリックもストーリーも小ぶりですけどね、ファンにとっては安定した良さがありますよ。 社会派の塩をちょぃと嘗めてみたような趣向もまあ、気安いお遊びでね、奇抜さ派手さの無い地道なアリバイ崩しがいいんですよ。 わたしゃ悪魔の様に大胆なアリバイトリックも堪らないけど、人間らしく細やかで優しい(?)それも愛おしいからね。まあそういうのが読みたい人向けでしょうね。 |
No.485 | 7点 | 溺死人- イーデン・フィルポッツ | 2016/02/09 16:12 |
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何たる凄み、終わりの一文。 この結末、更に一ひっくり返しを求める人には肩透かしかも知れない。私にはこの終わりが衝撃だ。 今の不穏な時代背景あればこそ、かも知れない。
それにしても演説に満ちている。熟考を良しとする進歩的保守派のそれだろうか。語り手と友人の会話文に、地の文(作者の主張)としか見えない所が多過ぎて笑う! 知的でリーダビリティの高い 要点とユーモアだけの饒舌は本当に素敵だ!まるでディベート中継を浴び聴いているような、激しくも論理と感性に忠実な陳述の応酬よ! かと思うと‘朝日には冷笑的な傾向があり云々’なんてチャンドラーもどきの警句や皮肉、それらをすり抜けると、癒しの心地よい水圧が充満だ。 ラスプーチン暗殺が数年前の出来事って!! 第二次世界大戦の不可避を1931年に語る!! さて犯罪物語は、発見された溺死人が誰か、という当初の大前提が呆気にとられるほど早い段階で軽やかにひっくり返る。嗚呼。 何気なく容疑者のラインナップが豊かなのは愉しきこと。そして真犯人の立ち位置の意外なこと(十戒だか何かに触れている?)。何なら被害者の扱われ方も驚きの大胆さだ。 登場人物表にも出てこないウィルソン夫人の何たる深い癒しよ。。。。 やはりこの作品は、フィルポッツの饒舌な優しさを思い切り浴びるためにあるのだと思います。そして、気持ちよく浴びるためにはやはり適量の本格ミステリ興味が必要。 1931年の作品に”LSD”が登場したのはびっくらこきました。 しかし「ベートーヴェン・スミス」って!! 世界のどこかのミステリサイトで誰かがこっそりハンドル名にしている事を期待します。 ところで「デキシニン」ってちょっと「ロキソニン」とか「ブロバリン」の仲間の、薬の名前みたいですよね。 だけど語り手の医師がね、どことなく胡散臭い所あるんだよね。それがまた人間らしい味でね。 |
No.484 | 7点 | ブラウン神父の不信- G・K・チェスタトン | 2016/02/08 13:18 |
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ブラウン神父と符合を見せる音楽家と言えばジミ・ヘンドリクスだ。右利きであるにも関わらず、右利き用のギターをわざわざ上下(当然だが左右も!)逆さまにして左手で弾く(※)。この逆転の逆転が必ずしもそのまま元に戻っては来ない不思議なねじれの逆説性はミステリの世界で喩えれば間違いなくかの神父領域の味わいでしょう。ましてあの革新性と完成度のマリアージュぶりです。
※但し弦は普通に弾けるよう逆張りにしていました。やろうと思えば弦そのまま(つまり上下逆)でも弾けたって説もある。 さて有名作も揃って派手目なイメージの纏わる本短篇集。幾つかの類似性からホームズの「復活」と並び語られる事も多いですが、わたくしの感想は、ホームズ「復活」と似てシリーズ先行作に較べると少なからず色褪せているかな、と言った所。それでなお充分「かなり面白い」の範疇に記憶を留めさすGKCの底力には感服しきりでございます。 個人的に感慨深いのは最後の二作「ダーナウェイ家の呪い」「ギデオン・ワイズの亡霊」でしょうか。 |
No.483 | 8点 | 猟人日記- 戸川昌子 | 2016/02/08 12:22 |
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はじまりは都会の夜の軽い読み物という感触でしたが、、徐々にダークなトーンに染まり行き、最後は意志の強い心理トリックに刺されて果てます。 慄然とさせてくれますねえ。。
『講談社大衆文学館』でOG(Old Girls=大いなる幻影)と一緒になった本を読んだものですが、読了してみれば一見して派手なOGより渋目のこちらに軍配が上がっていました。僅差でした。 しかし現代の感覚で「外国人の様な濠りの深い容貌」の好男子が夜な夜な。。とか言われると平井●が新宿某エリアで●漁りに精を出している図が浮かんで仕方ありませんて。(彼はそういう事しなさそうだが?) |
No.482 | 7点 | 春から夏、やがて冬- 歌野晶午 | 2016/02/03 12:19 |
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予想外 。。。。 結末も 幕引き人(探偵役?裏主人公??)も 真犯人(?)も 真相(??)も ネタバラシ。。。を言うと 少しは明るい終わりなのか そうでないのか モヤモヤしたままなのが本当に 予想外 反転。。はさほど強烈でない だが物語の構成 不思議な終わらせ方が 救いの無い中にも 謎めいた感動を招き入れている |
No.481 | 9点 | 長いお別れ- レイモンド・チャンドラー | 2016/02/03 12:08 |
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酒もだが、コーヒーの薫りが染み込んだ名作。 第二十二章、滑り出しの数頁がとても好きだ。 ギムレット? エメラルド? このあたり、ストーリーがミステリ流儀で蠢き始める十字路だろうか。
長い小説の終わり間近でもう一度ギアが上がる作りが頼もしい。ここが最終コーナーかと見えた地点から、本当の終結地点までストーリーの激しい起伏が持続。 ラストシーンは。。 反転、感動ともどもやられました。アンコールピースの様な、日常に戻る合図の様な最後の一文も良い。 大事な亡き(行きずりの)友を偲びながら夥しい数と存在感の主要登場人物群。味方も敵もグレイゾーンも躍動豊かに、上手に書き分けられている。 時々皮肉たっぷりの妄想で暴走するのも最高だ。あわや森村誠一もどきのヒッピー演説になりかけるじゃないか。 今さらながらフィリップ・マーロウというのは不思議な良い奴です。それにしても同じL.A.上流犯罪捜査の後輩フランク・コロンボとは、敵(時に好敵手)を見下ろすタイミングと容赦無さの発揮場所が正反対だな。 さてこの小説がどうしてこんなに心地よいのかと追憶を巡らせば、要するに松本清張の長篇良作と程近い感覚なのでしょう。但し清張の場合は会話文さえ無駄口を排除するものだから余計にストイックでサスペンス度合いも強い。 TBSやFMLにはのめり込まなかったが、TLGBには深い所を掴まれた。 |
No.480 | 4点 | パーフェクト・ブルー- 宮部みゆき | 2016/01/28 18:21 |
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確かに読んだんだけど、忘れちゃってんだよねえ、まぁまぁイマイチかな、って思ったこと以外。
(同様の感想書かれてる方がいらっしゃったんで、笑ってしまいました) でもE-BANKERさんの評を見てちょっと思い出したのですが、確かに「犬」であるミステリ的必然性が無いですよね、「長い長い殺人」に於ける「財布」が如し、、いやアレの場合はちょっと違うけど、どちらも結末で何らかの「化け」が無かったという意味で。赤緑色盲(赤は血の色。。)だとか、色々引っ掛けられるフックは有ったと惜しまれるのですが。。 でも3点って事もない。 宮部みゆき処女説、もとい、処女作。 |
No.479 | 5点 | 金色の喪章- 佐野洋 | 2016/01/28 18:11 |
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佐野洋平均的サスペンス。 いや、本当は平均ちょぃ下かな。本格の謎に近い不可能興味(人物系)は魅力だが、明かされる真相がちょぃと「チャンチャン」なんだな。。 読んでる間は楽しいんだけどね、再読ぁするわきゃ無いでしょうそんな暇じゃないよ、ってなくらい。熱心なファン以外には薦めませんが、イマイチとまでは落ちず。 |
No.478 | 7点 | ミニ・ミステリ傑作選- アンソロジー(海外編集者) | 2016/01/28 13:07 |
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目次の題名眺めるだけで興味津々。幼い私には「文法で気付かれる」話と「小人が騙される」話が印象的だった。一発アイデアでノックアウトされる類のやつ。今振り返れば「誘拐されていた」話がなかなかのものと思う。定番「二十年後に再会」の話はやはりぐっと来る.。他にも、驚いたり、泣けたり、唖然としたり、ニヤリと来たり、不安になったり、感心したり、指を鳴らしたり、狐につままれたり、作者も有名無名、語りつくせぬ魅力を放って止まない、小さなお菓子がいっぱい詰まった箱の様な掌編集。EQGJ(エラリー・クイーン・グッド・ジョブ)です。
ところで例の、創元さんの悪い癖”重複排除”の犠牲になっているのが三篇もある(ブラウン、ウールリッチ、シムノン)のは悲しい! その一方で唯一人、特別に二篇収録されているのがかのモーパッサン、というのが何とも! |