皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.69点 | 書評数: 1357件 |
No.657 | 7点 | 空飛ぶ馬- 北村薫 | 2016/12/26 20:32 |
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‘日常の謎’と呼ばれるが、実際は犯罪乃至悪い事の絡むお話がけっこうな比重。だから従来型の”必ずしもおどろおどろしい事件が直接起こるわけではない”短篇ミステリの一群とさほどかけ離れてはいない。独立サブジャンルの草創期はそういうものでしょう。推理小説自体もそうですし。
主人公(女子大生)と探偵役(落語家)の出会い話を普通小説然と絡め、主人公の先生(老教授)が抱える幼き日の謎をきれいに解き明かす『織部の霊』。文章の良さもあって、読ませますねえ。謎と解明の構造はいたって単純ですが、幼少期の先生を取り巻く環境要因群との響き合いがちょうど心地よいくらいのダークサイド感を醸し出し、コクと締まりのある物語に仕上がっています。最後にネタバレ寸前の軽口を叩くと、これだけシンプルな真相なのに一ページでは収まらず、二ページも必要だったとはね。。なんちゃって。 世評の高い『砂糖合戦』。’日常の謎’なる枠組みが確立された現在から見ると、むしろ”日常の謎に見せかけた犯罪(未遂?)物語”っぽいです。それゆえ当時の一般的ミステリ読みに取っ付きが良くって、それも高評価の一因だったりしないかしら。それにしても、まぁこれ言ってもネタバレじゃぁないでしょうが、ブラウン神父直系ど真ん中。 『胡桃の中の鳥』。。これは響いたなぁ。。。ず~っと緩ぅい旅行小説風に進んで、おしまいあたりで急に”事が迫る”んだけど、そのクライマックスに辿りつくまでのそれなりに質感ある話運びぶり、そこにはたまらなく巧みな伏線が潜んでいます。”あること”の冷たさを永久に包み込もうとする”別のあること”の凛とした温かさ、その奥行きの俯瞰が今にも旋回し始めそうな山頂からの眺望に被さって、、感慨を誘いましたね。 どうにも中途半端な後日談(次に並ぶ作に出て来る)は無くて良かったと感じますが、、んーーだけどその物語構造の、攻め弱く守り強いメンタルの雰囲気も女子らしさ全開で(発表当時でも女子”大生”が書いたとは思わないだろうが)短篇集全体を通して見るとその後日談のバランスも必要なのかな、って思わなくもない。 ブラウン神父某人気作を思わす趣向の『赤頭巾』。佐野洋がサラッと書きそうな題材を幻のメルヘンタッチで。。これも一般ミステリファンに受けが良いのは納得。てか普通にミステリですね(って言うとネタバレになるのか??) ただ、最後の『表題作』だけは、やんわり包まれる優しさがあるものの、ミステリとしてはその枠を踏み外しちゃうほど緩々のカックン作。これだけは’非ミステリ’のエピローグだと思えばいいのかも知れない。何しろ後味は最高に柔らかい。うん、決して悪い話ではない。むしろ普通小説の一篇として接したら’あれ、これミステリーちゃうん、じぶんミステリーちゃうん?’って思ってまうやろなあ。 苦々しいシーンも多いけど、繊細極まりない語尾の力や、決定機を逃さない表情の力に通じる温かい逸話のきらめきに癒される箇所も多い。純粋なミステリ要素の弱さをそのあたりで補っているとは思うが、総合力はなかなかのもの。 |
No.656 | 7点 | まるで天使のような- マーガレット・ミラー | 2016/12/21 01:48 |
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「裸で転がる鮎川哲也」とか「まるで天使のようなマーガレット・ミラー」とか「マラッカの海に消えた山村美紗」とか「人を動かすデール・カーネギー」とか。
ピリッと締まらない探偵役がちょっとした偶然の経緯で、失踪でも殺人でも無い(若しくは無さそうな)一見フニャラモコ然とした事件、でさえもない「ある人物の現況調査」を依頼される。その報酬がまた何とも中途半端。せぁっけどな、コレがあんさん滅法オモロい推理小説と来とるんよ、退屈はさせんとよ。涼しく暖かく滑り出しから最高ですとよ。ハードボイルド流儀に繋がる面白い言葉遣いがコロコロいっばいで思わずキョロキョ愉しんじゃいましたよ。不思議と不在の長い或る重要人物の行く末ないし企みが気になったり、現実逃避とは言いますがその逃避先だって現実に存在するには変わり無いんだしねえって思ったり、そこでその登場人物に早くもその仕打ちが!?ってビクッとしたりするんですよ。 「昔からあるからと言って油断は出来ない。(中略) そういうのは余計に危険なんだ。」 いよいよ物語がミステリフレイヴァ濃厚地域へキッパリ足を踏み入れる頃は、華麗な言葉遣いのフラーティングも抑え目に、終結への痛いような推進力こそがいつしか優雅に主導権を握っていました。 最後のストロークは、確認または再確認の作業促しではあるが、、襲撃の一発クラッカーが湿った代わりに穏やかな諦めの感動がミストシャワーを浴びせてくれた。そして物語の裏の真相に、読者はじんわりと包み込まれるのさ。。。。 |
No.655 | 6点 | 悪魔の降誕祭- 横溝正史 | 2016/12/21 01:28 |
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『表題作』。。中篇。序盤から終盤近くまで何とも探偵興味が収斂せず漫然と進行。憎めない語り口なんだけど、憎めないだけに何が「悪魔」やねんと退屈顔を決めこんでたんだが、最後一気に、いや微妙に段階を踏んで明かされる真相の悪魔度高さにオイラ仰天! 心理の隠し場所めいた趣向に拍手! だから、だからだからもっと早いうちから”この物語には何かある”とじんわり予感させ続けていてくれればもっともっと充実した読書時間提供になったと思うんだけど、惜しいね! 終結部で一気に跳ね上がって6点留まり。
『女の怪』。。短篇。(終盤手前まで)始めから犯人は見えている感じだが雰囲気勝負でまずまずかな、(終盤の前半)殺害トリックはなかなか凄まじいね。。とドキリとしながら半ば安心してたら(終盤後半)一撃ドスンと来ました。こりゃァなかなか。。ギリだが切り上げて8点。 『霧の山荘』。。短い中篇。消えた邸宅の酒肴ぃや趣向。。。の秘密はあっさり暴露。目立ち過ぎた伏線は。。早くに回収。こりゃおかしいぞ。そしたらさ、最後まで作者がとっておいたのは思いがけず複雑な事件の全体像だったんだが。。その割に「はぁそうですか」と安易に呑み込めちゃったな。5点だね。 小説の本筋とは関係ありませんが、ジョニーのソーダ割を呑みながら読んでたらジョニーのソーダ割の一くさりにぶち当たった偶然には萌えたものですよ。 |
No.654 | 6点 | 金属音病事件(角川文庫版)- 佐野洋 | 2016/12/18 11:41 |
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金属音病事件 /人脳培養事件 /かたつむり計画 /F氏の時計 /匂う肌 /チタマゴチブサ /異臭の時代
(角川文庫) 軽SFミステリ集。SF濃度はまあまあ、ミステリ濃度もまあまあなのでバランスが取れている。 中では際立ってハードな表題作、は飽くまでミステリベースで、SFがミステリの味付け&香辛料として機能する事に従事。後の方になるにつれSF濃度が高くなる、と共にエロスさんがかなりの調味料として活躍。 佐野ファン、昭和三四十年代ミステリ好きならひとまず読んでおきたい。 |
No.653 | 5点 | 韓国新幹線を追え- 西村京太郎 | 2016/12/15 01:01 |
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初めて韓国新幹線(ソウル⇒釜山)に乗る機会を前にし、出発前の日本で読んでみました。実際乗車してみると、京太郎さんの正確な描写説明力には舌を巻きます。車輌前半分と後半分の座席群がまるで英国議会の様に対峙するというか向かい合う、日本人から見たら何とも斬新なスタイルで、なーんとなく乗客全体でサッカーゲーム(バーをくるくる回して戦うやつ)をしている様な気になって来なくもありません。
ソウル駅の次の停車駅(東京で言えば品川駅の様な?)から乗れると京さんは書いているのですが、現地の友達の一人が「紛らわしい別の駅(新橋の様な?)」から乗れる筈だと(いくら京さんの本を見せても信用せず)言い張り、実際その駅に行ってみたら駅員から「ここには停まりません」だと。現地人より京太郎さんが正解だったのは今も良い思い出です。 ミステリ濃度は低く、派手派手しくも薄っぺらいストーリーなんですが、やっぱりサスペンスは強く、読ませる魅力があるんです。ところでどんな話だったかな? たしかテロを阻止せよとかそういうんだったかな。個人的に4点には落とせない5点(合格)作ですが、人には無理に薦めません。 |
No.652 | 9点 | 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件- 麻耶雄嵩 | 2016/12/12 21:51 |
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出だしの単語がこれほど刺さる推理小説も在り難い。大きな器に盛られた大きな物語の予感が即座に昇り立つ。黒死館を想わせる時々の趣向も、疼くじゃないか。
メルカトルなる名前には如何にも薄ら怖ろしい数学的隠喩が吹き付けられてありそうで。。しかしその人はなかなか登場しない。そればかりか。。。 特異点。軍隊蟻の行進。。。。 教会のオルガンへ、バッハを奏でに出掛ける容疑者。なんて魅力的なんだ!! 「あなたが神なのですか?」 いかにも取っ掛かりになりそうな違和感が露骨過ぎたり、真犯人が或る探偵に誤った推理の結論を出させたという重要なポイントの言外の部分にどうにも拭えない、稚拙な駆け足のような’本格リアリティ’空気感の薄さを感じる故、大きく減点し、なお9.4点越えの9点。何しろ構想のパノラマが壮大過ぎて無闇に自分の言葉じゃ語れない。それでも、密室事件のダミー解決にはフラフラになりましたよってつい言わずにいられますかってね! 前代未聞感満載の異様な(のみならず)壮大な(そして作者の●●等によっては即出版禁止になりかねない?)人道上の大問題に瞬殺で発展し得る、何しろあまりに業の深い、驚かせ過ぎの殺人動機。そしてそれを許さなかった探偵役の。。。。 。。 世評がアンチミステリと名指す気持ちが良く分かった。しかし本作はやはり本格ミステリの大傑作ではないでしょうか。 後年作「隻眼の少女」に強く感じた文章の青臭さ野暮ったさはこの処女作にはむしろ感じず、スイスイ愉しく読めましたよ。 野崎六助の、文庫解説と言うよりカーテンコール、やばいよ。 あと、これ言っちまうと絶望的にネタバレのごく一部になるかも知れないけど 副題が匂い立つほどのミスディレクションを放っているのが最高にニクいですね。 |
No.651 | 7点 | 大いなる殺人- ミッキー・スピレイン | 2016/12/09 19:05 |
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格調は普通だがよく書けてて読ませるわ、グイグイ来るわ、泣かせるわ(子供の件)。 陰の悪者は。。見通した通りだ。しかしそのちょっと喜劇的でガッツリ皮肉な経緯、まさかの立ち位置はハレーションを起こすくらい予想外で上等な山椒の様にシビレさせてくれた。西村京太郎の某有名作が頭を掠めるその経緯の意外さにはトリッキィな本格興味もたっぷり。マイクは観察も推理も死闘もきちんとキメてくれたな。。意外と青臭い所もあった(笑)。 最後、まさかの子供の役割! 一瞬じゃなく一秒って、そういうことか。。落雷のようなサドゥンエンドに両肩しっかり掴まれたよ。
「その帰途」の酒のアテにサンドウィッチか。参考にするぜ。 「刑事コロンボ」某作の被害者役(通俗からシリアスに転向しようとして殺られる人気小説家!)で出演した事のあるミッキー・スピレインさん。ハヤカワミステリポケットブック、ナンバー101(実質一冊目)として知られる本作。あゝ痛快だ。 |
No.650 | 9点 | 殺人交叉点- フレッド・カサック | 2016/12/08 00:59 |
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ラスト、性質の違う二つの叙述トリックが凄まじい音圧でぶつかり合う、圧死は免れ得ない覚悟の突撃作です。衝撃のあまりページの間から土煙の匂いさえ立ち昇りました。こりゃ『肉体派叙述トリック』って呼びたいサ。物語そのものがスリル&サスペンス充満だし、そいつと表裏一体の叙述のナニだし、とにかく読んで最高ヤラれて最高、肚の座った充実の逸品だ! |
No.649 | 5点 | ユリ迷宮- 二階堂黎人 | 2016/12/06 22:06 |
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「ロシア館の謎」・・物語は悪くない。ミステリ要素は。。壮大だが何故か感動しない館消失トリック。やっぱ舞台が舞台だし真相は「そっちの方向」なんだろうな。。となんとなく予想できちゃうのが半分以上当たっちゃう感覚で、意外性が足りないんだろうかな。勿体無い!(5点)
「密室のユリ」・・こりゃ詰まらん。(2点)でも本全体の評価には大きく響かず。 「劇薬」・・物語、特に前半はなかなか良い。真相は、ブリッジ中継とココアの機微に絡めて奥行きあり気な予感をこんだけふりまいといてからに。。なかなかに凡庸。(5点) 割と独特の硬質な文章は記憶に残る。探偵役の個性などは特に感じん。 |
No.648 | 5点 | 裸で転がる- 鮎川哲也 | 2016/12/05 23:03 |
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さて昔日の角川文庫で「名作選」と銘打たれていた鮎川短篇集は元来第一巻から堂々第十三巻までの全短篇網羅を目論んでいた。ところが折からのセックスピストルズ解散(1978)が影でも落としたか、文字通りの名作群が集まる筈だったであろう第一巻から第六巻は計画頓挫、どちらかと言うと拾遺集であろう第七巻以降のみ無事刊行された。後世から見ると、レア作品網羅という意味では案外結果オーライだったのかもなァ。
死に急ぐもの/笹島局九九〇九番/女優の鼻/裸で転がる/わるい風/南の旅、北の旅/虚ろな情事/暗い穽(あな). (角川文庫) 速い展開を見事に凝縮「女優の鼻」。百ベージの中篇は読み応えの表題作「裸で転がる」。締まった推理クイズに人情からんで「わるい風」。犯人の意外性が緩いだけに突然のエンディングが響き渡る「南の旅、北の旅」。世知辛い話が何故だかじんわり味わい残す「虚ろな情事」。推理クイズをスリリングに仕上げた「暗い穽」。他二作も、特筆はしないがまァそこそこ悪かない。 ウナ電、トテシャン、黒眼鏡、スケコマシの容疑で逮捕。。イカした昭和死語の数々も彩りを添える。 それにしてもこの本の表紙「裸で転がる鮎川哲也」と目に入るもんでその絵面を想像すると何だか可笑しッくって。 |
No.647 | 8点 | 二つの陰画- 仁木悦子 | 2016/12/02 00:13 |
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そーれにしても、悦ッちゃんの昭和アパート話は魅力があって本当になごむ。殺人が起きてるってのに!
んで話の発端のアパート住民描写もなんだか柔いしね、全体の七分の六くらい行くまでは、人生と同じで楽しきゃいいと思ってたんですよ、ところがねアナタ、こっちが勝手に決め付けた緩い基準値をベリーロールで遥かに上回っちゃたのはまるで優し過ぎる連城のような厚みある重層反転でした。「優し過ぎる」って形容は時々密かに最高の賛辞の隠れ蓑になったりするもの。こんな爽やかで小気味明るい大団円に迎えられるんだね。プロローグと最終局面の最高に冴えた共鳴関係もイカしてるよ。全くノーマークだったくせに実はしっかり印象残ってたあの人物が鍵となる存在とはね。。9点に迫った8点。8点とは言え最高です。 そしてそして、講談社文庫桑原茂夫さんの解説にあった探偵役機能論がまた素晴らしい冴え! 考察としても、キラキラの雰囲気作りとしても、正鵠を穿ちまくりだ。参った! |
No.646 | 8点 | ブラウン神父の知恵- G・K・チェスタトン | 2016/11/30 23:33 |
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「童心」の時も同じ意味のこと書きましたが、ブラウン神父物語の基本発想は後続のミステリ小説群に本当に深ァァい影響の爪痕を残し、現在も様々な作家が持つ創意工夫の力を得てストレートな方向からあらぬ方向にまで進化増殖を続けるばかりである事よのう晴天なり、と実感させられる機会のなんと多い事か。
しかしながら、それ故にこそ、根幹アイディアだけを取ると陳腐な遺物のようなものに見えてしまう事も屡(しばしば)なわけですが、何しろキースの野郎には洞察力に文章力に文学力という三位一体の必殺ギャラクティック・ボンバーが備わっているわけで、そうそう作品自体が陳腐化する事は無いとかのドナルド・トランプ氏も共和党大会で明言していた様です。というのは口からでまかせです。 で、この高水準の短篇集、当たり前の様にすごォく面白いんだけど「童心」に較べるとちょっと落ちる、それでも大いなる傑作快作。ホームズ「冒険」と「回想」の関係にやはり似ている(私の中では。おそらく多くのミステリファンにとっても)。でも「童心」「知恵」の方がその落差はより少ないように思える。(同じ8点相当でも「回想」は7.6点、「知恵」は8.3点くらいの感覚。) |
No.645 | 6点 | セブン殺人事件- 笹沢左保 | 2016/11/30 00:35 |
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最近シャレオツな新刊で気になってたんだけど、おっとコレかなり前に読んだヤツじゃん、とE-BANKERさんの書評を読んでやっと気付きました! リパッケージされちゃってねえ。でも昔の、やたら美化された二人の主人公刑事が表紙の、平成初期っぽいのも味わい深かったっすね。 まァ読み捨て連作短篇でしたけど、百円で買って五円くらいで売っちゃいましたけど、面白かったですよ。いい意味でほどほどの面白さ。ライヴァルと呼ぶには信頼し合い過ぎの二人の刑事像が絶妙に良く描けています。その人物描写に絞って言えばかなりの高得点。ほんと、歴史のあるシリーズ物みたいです。 |
No.644 | 4点 | イレブン殺人事件- 西村京太郎 | 2016/11/30 00:27 |
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孤島の廃館で合宿に勤しむサッカーチームのメンバーが次々に殺される物語でないのは良いとして、てっきり十一篇の連作企画と思いきや、十年越えの長きに渡って雑誌掲載された作品達の寄せ集めと来た。アンバランスな関係の乃至バランス崩した男女の思惑サスペンスが大勢。中途半端に無理のある設定が多い上、どれもガツンとは来ない反転結末で読み捨て向けだが、4.48の四捨五入で4点に落ちるのが惜しまれる程度の魅力は有る。これも京太郎の底力。
しかしながら、イカす京太郎、良い京太郎、強い京太郎を読んで欲しいファンとしては、人には薦められない。 ホテルの鍵は死への鍵/歌を忘れたカナリヤは/ピンクカード/仮面の欲望/優しい悪魔たち/裸のアリバイ/危険なサイドビジネス/水の上の殺人/危険な道づれ/モーツァルトの罠/死体の値段. (角川文庫) |
No.643 | 6点 | クイーンのフルハウス- エラリイ・クイーン | 2016/11/27 11:42 |
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軽いね、まぁまず悪くないね。
【三篇のノヴェレット】 ドン・ファンの死/ライツヴィルの遺産/キャロル事件/ 【二篇のショート・ショート】 Eの殺人/パラダイスのダイヤモンド(ノヴェレットの幕間其々に入る) ショート・ショートの方は、空耳・空目ネタで済ましちゃってて、何故だかちょっとホンヮカするけど、切れが甘いな。 ノヴェレットの方は「流石クイーン、これくらいはやる」って所かな。 |
No.642 | 9点 | ジャッカルの日- フレデリック・フォーサイス | 2016/11/24 17:00 |
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「わしもだんだんジャッカルの人柄がつかめてきたような気がするよ。」
長い長い物語を走馬灯のように駆け抜ける、著者の人間力爆発の大快作。「噂に違わぬ」なんて陳腐な形容がこれほどどストレートにはまるエン書(エンタテインメント書籍)が他にどれだけ有ることか。 あまりに面白過ぎて、もしも本作の様な最高の謀略サスペンスに孤島の館連続殺人とまさかの叙述トリックまで絡めて「ジャッ角館の殺人の日」みたいなのを人工知能に書かせてみたらその罰としてどんな過酷な天変地異に祟られる事やら、とあらぬ杞憂に囚われてしまうといった有様の今日この頃です。 ジャッカルと言いドゴールと言い、その造形に絶妙な所でリミッターを効かせているのも最高です。と言うかむしろ探偵役筆頭ルベル警視を始めとした準主役、多くの脇役陣を適度にこってりした心理描写のグレイヴィソースに浸したが故の相対的なナニかも知れません。とにかく至る所、バランスの良さが光っていますね。それをこの爆発的面白さとボリュームの大きさと、嗚呼、兼ね備えているってんですから参っちゃう。(おまけにかなりの早書きだったらしいな、本作は) 地位vs権力の逆転水路突破は劇的に沁みました。或る邂逅シーンの、読者にしか分かり得ない限りなき味わいを堪能しました。逆不確定性原理かよ。。と脳が嬉しがる箇所もありました。微妙な謙虚さが混じるさり気ない美食の光景も、私の好きな鮎川哲也のそれと異なるようで似たようで。。 それにしても、、昨日の川崎vs鹿島チャンピオンシップ第一戦を思わせる、思わず「●●●!」と叫んでしまう結末ですな。こりゃ○○○○! 嗚呼、■■の■■(または□□)。 |
No.641 | 7点 | 消えた奇術師- 鮎川哲也 | 2016/11/23 22:02 |
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密室の星影龍三篇。
「赤」「白」と並べられると「青い密室」は少し落ちよう。創元推理文庫の超弩級アンソロジー「北村薫セレクションx2」から漏れたのは頷ける。とは言え詰まらない代物では無い。つっても全体通して見ると「赤」「白」が突出してるかな。。いやいや「黄色」もなかなかどうして。 赤い密室/白い密室/青い密室/黄色い悪魔/消えた奇術師/妖塔記 (光文社文庫) |
No.640 | 8点 | 沙高樓綺譚- 浅田次郎 | 2016/11/22 23:24 |
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都心某所にて、各界の成功者達の会合。 一人ずつ、秘密厳守で過去のヤバい話を告白し合う。
小鍛冶 / 糸電話 / 立花新兵衛只今罷越候 / 百年の庭 / 雨の夜の刺客 の五篇。 「某作品」こんな反転ザマ見たことが無い。内や外からひっくり返すんでなく傍から追い越す一瞬の旋風。息が甘く詰まります。 「某作品」二つの歴史物語の分厚い重なりに、清水義範かと思う滑稽な趣向が炸裂。こりゃ面白い! 「某作品」ミステリと思えば軽い。人間の話と思ってもさほど。しかし時代の話と見ればなかなか。 「某作品」燻し銀の文章の果て、むむむむう、と困惑させる嫌らしい終わり方。 「某作品」重い活劇。面白さが人間ドラマへの感銘を上回ったり、また逆転されたり。こりゃァ。。 ミステリと呼べないのが一つ、ミステリ性の薄いのが一つ、ミステリ性の高めなのが二つ、ミステリそのものが一つ。どれを取っても一般的ミステリファンへの訴求力万全な円熟の力作揃い。何しろ気合いが入ってますよ、言葉選びのペイヴメントに、外さず適量に。 |
No.639 | 8点 | ダリの繭- 有栖川有栖 | 2016/11/16 23:18 |
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クィーン。。 俺とは何処かが合わないようで、やっぱり好きなクィーン。。。クィーン性の良いところばかり心地良く襲い掛かって来るよ。アリスアリスいいよ。
探偵側脇役の鋭さ流星級の一瞬コメントには背筋が直立!そしてその脇役探偵の着実剛腕フォローアップ! しかもその、実直眩しすぎる助言の花束。 嗚呼、この物語はあたたかい。 いいよねえ、何気な構成の妙もあるよ。もう目がパッチリよ。ほらそこでまたクィーン流絨毯攻撃よ。泣きますよ。 なのに一見「いかにもクィーン」な趣向を反転してみせたり、後年の手練れらしい素敵な古巣への恩返しもちらほらとね。 やがて探偵側では主役ばかりいい所を見せる局面に入っても物語のあたたかなスリルは持続。適度に入り組んだ立体的真相は魅力的。大胆でスケールの大きな、なのにやってる事自体はせせこましいという摩訶不思議な指紋捏造(!)トリックにはやられました。。恋愛側要素の真相が意外とシンプルで当たり前なのもまた良し。(そのぶん、ちょっとした変わった性癖譚が花を添えたね、ってが) さてこれから書くことはネタバレ領域を低空飛行しますが、本作、こう見えて実はアリバイ物のかなりトリッキーな上級応用篇ってとこですかね、どうですかね。 |
No.638 | 6点 | ミステリーの系譜- 松本清張 | 2016/11/15 00:39 |
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本の表題から受ける先入見とは大きくずれ、実際に起きた事件x3をクールな目線で語り尽くした内容。そこに敢えてこの題名を付したとあれば、何らかの創意工夫的「意図」の存在を感じずにはいられない。
闇に駆ける猟銃 / 肉鍋を食う女 / 二人の真犯人 冒頭作は、題名から察せられるかも知れぬが「八つ墓村」のモチーフというかインスパイア元となった「津山三十人殺し」の背景から後日談迄を冷静沈着、丁寧に敷衍したもの。余計な脚色は無し。記録文書の様なものだが清張の文章だから怖いこと苦いこと、ほとんどイヤミスです。 しかしね、こういう敢えて自論で踏み込まないドキュメンタリータッチでは意外とハッタリが効かないってか、むしろ(小説と同様)ハッタリ無しの横綱相撲で圧倒してやろうって企図なのかも知れないが、、もうちょっと味付けて欲しかったかもな。 他二作も程近い感触の力作イヤドキュメンタリー。いや最後の作だけちょっとあっさり味かな、内容は全く薄かァないんだが。 まあ、清張の長短篇をそれなりに数読んだ人向けでしょうなあ。 |