皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.69点 | 書評数: 1304件 |
No.624 | 7点 | 儚い羊たちの祝宴- 米澤穂信 | 2016/10/13 01:15 |
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ブラックなオチ話を必死の文章抵抗で一端の暗黒ミステリ短篇に飾り上げようとするが素養ないし人生経験が追い付かず。。といった感触、だいたいどれもこれも。特に「チャンチャン終わりの典型」にしか見えない一作めは小学生の作り話的出自を小説構成や言葉遣いの工夫で隠し切れなかった舞台裏が透け過ぎ。
それでも奇妙なことに、かなりの深さでそれぞれの物語に浸ることは出来た。ひとつ読み終えてからしばらく冷却ないし解凍の間を置きたくなったのは一作毎にそれなりの重みがあった証。不思議なものです。それなりの高得点になってしまいますね。 雰囲気づくりの骨格アイディアはしっかりしていそうだから、文章の襞の粗さがどうにか優しくこなれて、もっと業の深さを覗かせる作品を書いてくれるようになれば(既にあるのかも知れませんが)ちょっと期待出来そうな作家さん、今回初体験でした。 |
No.623 | 8点 | 無実はさいなむ- アガサ・クリスティー | 2016/10/12 06:01 |
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離れ島の邸宅に住む、血の繋がらない子供達(みな養子)だらけの大家族。家長である「お母さん」が殺害されたのは一年前。子供達の中でも一番の問題児が犯人として挙げられ、やがて獄中で病死。。。 そこへ「犯人は実は●●では無かったんです。」とアリバイ証言を手土産にやって来た、一人の著名な探検家。ところが、大家族を喜ばせる筈のこの無実の証言が彼等を苛(さいな)み始める。「では、いったい家族の中の誰が真犯人だったのか」と。。。。
こんな舞台背景で、苟(いやしく)もクリスティなら、犯人の設定に一定以上の切なさと幻惑のダイアモンドダストを期待するはずだ。まして本作の様な如何にもモノありげな書きっぷりの長篇なら尚更。その上、誰が(どちらが)探偵役か直ぐには分からない状況、まして探偵役候補の片方(探検家)はひょっとすると真犯人かも知れない、とかなりの深さまで疑えそうな物語の雰囲気だ。 ある時点での恋愛感情云々、そして動機と機会云々、そいつらが絶妙のタイミングと角度でクロスし反射する。これがアガサクオリティ、と膝を叩くこと六、七回。 メアリーがポリーと呼ばれるあたりではキンクスの「ポリー」が頭を流れた。 ♪ポリーはお母さんの言うこと聞かない~(和訳) しかし終盤もいい辺りから「お父さん」の台詞が大沢悠里の声で聴こえて来るのには参ったな。 「夢の中では、どんなふうに殺しました?」 「ときどきはピストルで撃った。」 で、犯人設定はどうだったかと言うと、、 ムフフ、言えませんよ。 流石ですね! としか言えません。 |
No.622 | 9点 | 黒地の絵- 松本清張 | 2016/10/07 23:23 |
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同集では現代小説篇の第一巻「或る『小倉日記』伝」以上にミステリ要素の濃厚な現代小説篇第二巻。題名だけ眺めてもその雰囲気は伝わると思います。それはそれとしても胆力が尋常でない、読む者を片っ端から吹っ飛ばさずにいない様な、内なる何かを振り切ってしまった小説の群れ。表題作の激烈さは世に知れた通り。
二階/拐帯行/黒地の絵/装飾評伝/真贋の森/紙の牙/空白の意匠/草笛/確証 (新潮文庫) 氏の他書評でも似たようなこと書いてますが「二階」なんて当たり前過ぎる漢字二文字単語で胸が苦しくなるほど素早い暗黒予感の奔走を強いるこの表題オーラの眼力、これが怖いんですよ。 |
No.621 | 8点 | 重力ピエロ- 伊坂幸太郎 | 2016/10/06 00:37 |
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ミステリの遠近法で振り返れば緩々の構造なんだが何しろ面白くて困った。やはり拙者こういう広義のミステリが好きだねえ。病床の父、想い出の母の描写がどちらも温かく動きがあって美しい。矛盾を抱え混乱した才気ある弟、その弟が頼りに縋る平凡な兄。魅力的な黒澤探偵。哀れな大小悪党。何人かの女たち。強面の管理人さん。。ラストシーンの「行け、行け!」は泣けたねえ。
「人生はあまり長くないんだから、あまり深いことまで考えないほうがいいよ。」 だとよ。参った。 |
No.620 | 7点 | 殺人ダイヤルを捜せ- 島田荘司 | 2016/10/05 00:38 |
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「確率2/2の死」が痛快B級サスペンスなら、「殺人ダイヤルを捜せ」は力作A級サスペンスと言ったところ。しまそうの資質じゃB級よりA級が面白い。主人公女性の造形に時々リアリティを野暮に逸するアンバランスな所は感じるけど、悪人側の意図に怖さを損なう底の浅さは見えたけれど、そんなことお構いなしに中盤のサスペンスは十分! 都会の怖さがどうしたとかはあまり感じませんが。。捩(ねじ)れた性的要素をモチーフに扱ったあたり、もしも佐野洋が洒脱の代わりに拗(こじ)らせの味わいで魅せたら、なんて喩えを言ってみたくなる。んであの電話トリックはね、まぁいいじゃないの他の諸々との噛み合わせでもあるんだし。
さて最後の台詞はちょっと、ブラックユーモアなんでしょうが、ゾッとさせるよりプッと噴き出しちゃいそな唐突のエイティーズ・コメディ・タッチ。ナウいぜ。。。。 |
No.619 | 6点 | 大いなる手がかり- エド・マクベイン | 2016/10/04 00:39 |
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バス停に置き去られたエアライン・バッグの中から発見されたのは、手首から切断された人間の大きな右手。文字通りの「大いなる手がかり」。。。原題も「GIVE THE BOYS A GREAT BIG HAND(ボーイズ(刑事達)に大いなる拍手を)」と若干悪趣味ながらも洒落ている。まずは上手に訳した所か。。。えぇっ、犯人その人でいいんですか!? 確かに、本格ともハードボイルドとも違う警察小説ならではの角度からの意外性攻めだけれど、それにしてもそんな伏線あったっけ。。他ならぬ(?)その人物が犯人ならもう少し濃ゆぅい伏線を用意しても良いのでは? なんて結末では思いましたけどね、やはり文章は読ませますよ。心の大きな年配家政婦の件だとか、「大都会は女である」の大演説だとか、それ以外にも心に残るパッセージがいっぱいです。マーロウの台詞のように洒落ちゃいないんだけど、一篇の小説と見ればバランス崩しの領域にも走ってるんだけど、そこが味。量産家ならではの特権かも。えぇっ、左手も見つかったって。。。 |
No.618 | 5点 | フレンチ警部とチェインの謎- F・W・クロフツ | 2016/09/30 00:25 |
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軽い冒険ミステリ。ヴィジュアル的に魅力ある暗号の図が記憶に鮮やか。それくらいかな。 |
No.617 | 5点 | シグナルは消えた- アンソロジー(国内編集者) | 2016/09/29 23:55 |
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編者は鮎川哲也。
本田緒生「蒔かれし種」 行ったり来たり、独りよがりのおっちょこちょいな多重解決イン大正末期、みたいな不思議な一作。犯人設定と言い何と言い、草創期ならではの探偵小説風情が噎せ返るほど。文は拙い。。3点。 葛山二郎「股から覗く」 折悪しく、イグノーベル賞日本人受賞「股のぞき」と重なってしまった読書は変な奇妙なケッタイな味の昔日作、昭和初期。ブラウン神父と乱歩の味を不恰好に継ぎ合わせたような全体像。文章は読みづらいところ多々有り。犯人はまずまず意外の域か。或る人物が或る行為に耽るあまり命を落とすシーンは唖然度バリ高。4点。 海野十三「省線電車の射撃手」 作者らしい科学的解決は「アメリカ銃」を思い出さす要素もあったりして少しは興味も引くが、何だか全体通してすっきりしないなあ、もやもやだ。惹かれん。海野サーティーン、御免! 3点。 大阪圭吉「狂った機関車(気狂い機関車)」 この辺から文章が練れて来た。戦前日本に於ける本格推理の先駆の様に謂われる圭吉っツぁんだがトリックやロジックの扱いのみならず小説力も確かなもの。鮎川さんの添書きに「殺人トリックを理解するため是非腰を据えて読んでいただきたい。」とか何とか書いてあるのがなんだか良い。謎解明の論理プロセスはなかなか読ませてくれるが、物理に寄ったトリックはちょっと大味。犯人設定の唐突さとか、八っ張り古いなァって感じはするね(他作品も皆そうなんではないが)。でも雰囲気がいい。 5点。 夏樹静子「山陽新幹線殺人事件」 流石に文章はしっかりしており読み応えがある。しかしネタがモロに推理クイズ、それも豆知識系の。。とうっかり安心してると最後に一瞬で明かされる「トリック反転」、いや「偽装の反転」がなかなか熱いぜ。。。如何にも鮎川さん好み。私も大好き。 7点 山田風太郎「吹雪心中」 イヤミスならぬイヤサス(生きるのが嫌になる類のサスペンス)か。。。。。。。。。。こりゃ酷い、男と女の最悪物語。 8点。 ※大まかに、旧い時代から新しい時代へ、下手な小説から上手い小説へ、と並んでいます。 それと、出版社が勝手に銘打ったのかも知れんが「トラベル」ってわけじゃない話が目立つ。どれも鉄道は絡むのだがね。 |
No.616 | 6点 | 第三の男- グレアム・グリーン | 2016/09/27 06:50 |
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文章がいいんですよ。硬くて暗くて冷たい情感。適当なページを捲ってたまたま目に入った文を少し読んで悦に入ったり気を引き締めるのに最適でした。物語としては特にどうと思いません。先に観た映画も似たような印象。でも本作のちょっとした「歴史の証人」感は素敵です。 |
No.615 | 8点 | 忘れゆく男- ピーター・メイ | 2016/09/27 01:33 |
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スコットランド西方のへブリディーズ諸島(時に都エディンバラ)が舞台、陰鬱な情感たっぷりに、重度の認知症を患う主人公の混乱したモノローグを挟みながら、特殊保存状況下で発見された半世紀前の他殺屍体を巡る霧の向こうの残酷な過去を掘り起こす重厚なモダンミステリー(2011年もの)。 DNA鑑定の結果、前述屍体の主と主人公の認知症老夫は血縁関係にあることが判明。一瞬にして濃厚な疑惑がおそるおそる彼に向けられるが、痴呆老人センターに入所させられたばかりの主人公から事を聞き出すのは不可能。エディンバラ市警を早期退職してへブリディーズの故郷に戻ったばかりの元刑事は、やはり警察を引退した元上司や現職医務官、そして遥か遠い日の恋人だった主人公老人の娘等の協力を得て、少しずつ真実に近づくが。。。。過去と現在に跨り、フェリーで哀しみの海を渉る各シーンにはMUTE BEATの’DUB IN THE FOG’がよく似合う。映画化するなら使ってくれないか。暴かれる過去には予想外.. の反転ポイントが複数含まれ、内いくつかは早い段階に、いくつかは終結近くでやっと明かされる。それら真実たちの絡み合いに過去と現在のしがらみ合いが被さり、周りで何が起こっているのかまるで分からない主人公を中心に、大きな意外性と小さな希望の灯を抱きかかえて息を切らしながらのストーリーは終了します。。 こりゃぁ重い。
当初は(ミステリ上)個人的な事件に属するかと思えた出来事が、読みすすめるに連れ社会派めいた強い背景を見せつける、のだが、最後やはり個人的な出来事に収束して消えて行く。そんな苦しく愛おしい長篇小説。 ジャケ買い成功。 実は「ルイス・トリロジー(ルイス島三部作)」なる連作の第二作目ですが、単品としてこれを最初に読んでも充分楽しめます。 |
No.614 | 6点 | 灰色の動機- 鮎川哲也 | 2016/09/22 18:03 |
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人買い伊平治/死に急ぐもの/蝶を盗んだ女/結婚/灰色の動機/ポロさん
(光文社文庫) 割と気軽い作品が並ぶ「其の他」系短篇集。鮎川ファンなら読んでみたいところ。「結婚」はレアなSFです。 推理小説ではないけど、氏の処女作でしたっけ掌編「ポロさん」。ちょっと泣けるサドゥン・エンドにはうっすらとミステリの薫りも漂います。言ってみりゃ日常のホヮットダニット。 |
No.613 | 8点 | 下り特急「富士」(ラブ・トレイン)殺人事件- 西村京太郎 | 2016/09/22 12:49 |
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京太郎の鉄道モノにはアリバイ本格/非アリバイ本格/非アリバイサスペンスとあるが本作は三番目に属する技巧と情感たっぷり変格サスペンスの快作。「北帰行殺人事件」で初登場した橋本豊元刑事が網走刑務所での刑期を終えて出所、その際、所長から、ある経緯により獄死した老人の所持品を東京在住のある人物に届けるよう託されるが。。
粗筋はここまで書くに留めますが、最初から最後まで謎と精気が充実した、子持ちシシャモの卵も肉もびっしり詰まった上物を思わせずにいない密度高の逸品です(その割にサラッと書いてそうな筆致がニクい)。京太郎悪癖のアンチクライマックスは見られません。実は、最終章の直前で、ストーリーの根幹を覆す、スケールの大きなドンデン返しが露わになるのですが。。それはきちんと理由あっての事で、また決して興味がそこでシュンと萎んじゃう類のものではない上に人間ドラマ的にカァっと一気に熱くなるポイントなんですよね。 一見ちょっとしたお飾り趣向かと思われた「暗号」がなかなかどうして!作成した人物の心理の綾を読み解きながらその真意を明らかにする過程は本格ミステリ領域に大きく踏み込んで、一つの大きなハイライト・シーンを形成していました(清張の「陸行水行」を思わす趣向も面白い)。「逃亡」方法とそれを取り囲むシンプルながらちょっと分厚めのトリック集積群もかなりの本格興味を唆ります。ある人物の印象がガラッと変わるのも存外に深い心理トリック。そして、前述した「或る大反転」。これだけの強力な本格推理要素をがっつり備えていながらも、やはり本作の精髄、その本籍地はサスペンスにあると見るのが正解でしょう。サスペンス色豊かな本格ではなく、本格要素を贅沢なスパイスに遣いまくったサスペンス小説。おまけに瑞々しい旅情も格別だ。今さら言うことでもないですが、京太郎の底力は本当に凄いなあ。(こんなチャラそうな題名付けといてからに!) 重要な脇役の口から出る、最後の台詞。 ミステリらしからぬその微笑ましい切り口が、心に残ります。 |
No.612 | 6点 | 殺意の重奏- 森村誠一 | 2016/09/22 11:24 |
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世知辛い社会を抑えた左翼魂で駆け抜ける、苦さ炸裂の短篇本格推理エンタテインメント。悪くない。中でも最後の山のヤツが出色か。
稚い殺意/虚構の家族/殺意の重奏/静かなる発狂/垂直の陥穽/北ア山荘失踪事件 (中公文庫) |
No.611 | 6点 | 死の軌跡- 森村誠一 | 2016/09/22 09:45 |
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剥がされた仮面/殺意の接点/浜名湖東方十五キロの地点/歪んだ空白
(集英社文庫) アリバイ本格短篇集。社会派風味付け有り。苦味キツめの京太郎みたいな。 |
No.610 | 6点 | 復讐の女神- フレドリック・ブラウン | 2016/09/22 09:30 |
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基本的に「真っ白な嘘」と同じようなテイストの変格/本格ミステリ短篇集。こっちの方がやや話がスッキリ明快な印象があるが、たぶん私の気のせい。
復讐の女神/毛むくじゃらの犬/生命保険と火災保険/すりの名人/名優/猛犬にご注意/不良少年/姿なき殺人者/黒猫の謎/象と道化師/踊るサンドイッチ |
No.609 | 8点 | 数学の国のミステリー- マーカス・デュ・ソートイ | 2016/09/21 23:07 |
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ソートイの本は相当いいね! 数学者と物理学者のぶつかり合う場所は。。コッホ雪片をランダムに散らせた結果の図形とか、泣け過ぎて不気味だぜ!!!!!、、
パーフェクトシャッフルの魅惑よ(そこに素数か素数でないかが掛ってくるとは)。。。懐かしのまやかしのマーチンゲール!四面サイコロと六面サイコロの決定的違いってあるんですか??! いやいやそれどころの拡がりっぷりじゃないよギャーアーァー 双対か!! アシンメトリーにして公平なサイコロの深淵地獄はいまだ覗き切れず、ですって!!! もし地球が球体でなくドーナツ型だったら。。。。 やっぱりね、「まさか!」と「納得!」の切実過ぎる甘いマリアージュがね、一瞬で目の前に辿り着きやがるショック感覚がね、ミステリのソコのソレそのものだよねえ~ って思うわけですよ。 SF叙述ミステリの様なセンス・オヴ・ワンダーでいっぱいの素敵な素人向け数学本です。題名の通り頗(すこぶ)る推理小説心をくすぐるヤヴァい一冊! ISBNミスタイプの自浄トリック、それはコンピュータのエラー修正コードに繋がるってか。。慣性モーメントなる鉄壁のアリバイ。歳差運動の叙述トリックよ。規則的だった動きが閾値を越えると一気にカオスに雪崩れ込む悪魔の運動方程式!! 何度も何度も目が眩む。これほどブラウン神父に近い素人数学本はなかなか無い、かも。 いや他にも色々ある。 済みません、反則技でした。 |
No.608 | 7点 | メグストン計画- アンドリュウ・ガーヴ | 2016/09/20 09:56 |
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“それは、私にとっても、空前絶後のモノローグだった。”
ちょいワルのクロフツみたいな。。海洋(近海)をマタにかけた、悪女に唆されての名誉毀損詐欺サスペンス。昔「ロス疑惑(三浦和義事件)」が世間を賑わせ始めた頃、この作品(粗筋だけ知ってた)が脳裏を掠めたものである。。。 読後振り返りゃ色んな所が随分甘いんだけど、読んでる間、特に主人公が無人島で過ごす一つのハイライトシーン(孤独な営為の描写はなかなか)の間は、読者にも見えない「対岸側」の経緯がふんだんに溢れている様に思えてしまうが故に、主人公を待ち受けるありとあらゆる陥穽の可能性が妄想花吹雪ファストクルージング状態、なわけで中盤のサスペンスは充分。だからこそ面白い。「ヒルダ」と違ってこれは好みだ。 エンディングは意外や意外ですね。。。ミステリ的にグッと来る類のとはちょっと違いますが、飽くまで小説として、なかなか。 【ちょいとネタバレ】 タイトル”THE MEGSTONE PLOT”は見え見えのダブル・ミーニング(それ以上の深い踏み込みはこの作家には無さそう)に違いない、とずっと思っていたら、、まさかそこすら行かないまんまのシングル・ミーニングだったとは!あらためてガーヴさんの心地よい甘さを実感。しかしサスペンスは充分だったから文句は無い。 関係ないけどMEGって歌手かなり好きだったなあ懐かしや、、 というか中田ヤスタカの楽曲が良かったんだけど。ガーヴの作風じゃないけど「甘い贅沢」なんてのが代表曲。 |
No.607 | 7点 | 妖魔の森の家- ジョン・ディクスン・カー | 2016/09/16 23:51 |
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妖魔の森の家/軽率だった夜盗/ある密室/赤いカツラの手がかり/第三の銃弾
(創元推理文庫) 何と言っても美しきおぞましき重みと反転の表題作が圧巻(単体で8.4点)。他の作品もみな締まり良く魅力的。物語もカラフルで読みやすい面白い。 全体的にチマチマカサカサした「不可能犯罪捜査課」よりずぅ~っと好きよ。 |
No.606 | 7点 | 暗色コメディ- 連城三紀彦 | 2016/09/15 00:01 |
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よくもまァ。。。。。ァクションペインティングされた巨大な壁紙をランダムに切り崩しているのかと思ったらしっかりジグソーパズルが構成されていた!(ピースのサイズはまちまちだ!!) そこまでして連城君は一体何を爆発させたかったんだ!!! 短い最終章の前、見えない「読書への挑戦」を手渡されたのはゾクゾク来たゼ。
きちがい幻想タペストリーの取っ散らかりに現実的トリックや伏線がいちいち嵌ったりして凄く面白いし感心もするんダけド、、 終盤追い上げのドタバタがちょっとなあ、美しさを微妙に損なうよ。惜しくモ7.4八。 しかし本作に「本格/新本格」のジャンルを一票投じる事になるなんてね、読み始めのあたりじゃまさかまったく思いも寄らなかったわけでね、落とし前なら俺に任せろってか、やっぱり凄い作者ですよね。 |
No.605 | 4点 | サム・ホーソーンの事件簿Ⅱ- エドワード・D・ホック | 2016/09/12 11:52 |
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べつに不可能興味でズドンと来るわけじゃない。むしろ最初の何作かはなかなかの犯人意外性で押してる感じ。でも緊張は長続きしないね。。ちょっとした構成ギミックやちょっとした活劇やらで目を引くバラエティ趣向も有るが、、全体通しゃちょっと退屈。若き日のサム爺さんの人柄に絆(ほだ)されても、まぁこの点数。
最後のレオポルド警部もんのごく短い一篇、サドゥンエンドが意外過ぎて。。「あいつが真犯人」なんてありきたりのショート・ショートにはしたくなかったのだろうか、的な?(てっきり犯人はあいつしか無いと思ったよ) |