皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.69点 | 書評数: 1357件 |
No.977 | 8点 | 高い砦- デズモンド・バグリイ | 2020/08/14 00:25 |
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アンデス急峻の小さな滑走路へ墜ちるように不時着したハイジャック機。 生存者の中には南米某国を追われた元大統領がいる。 諸々の悪条件をかわして万年雪の中を移動しサヴァイヴしようとする生存者たちは山中の「砦」に滞在中、下方に陣を取っていた謎の軍勢から攻撃を受け始める。 軍勢は彼我を隔てる峡谷激流に橋を架け一気に「砦」側への攻勢を掛けんとするが。。。。
“大きな羽根ぶとんのベッドにゆったりと嬉しくも沈みこんで眠っているのだ。ベッドは柔らかく優しくかれをつつみ、疲れきった体を支えると同時に沈んでいくように思えた。かれとベッドの両方がゆっくりと大きな裂け目の中を落下しており、下へ下へと舞いおりており、とつぜんかれは恐怖とともに、これは死の安らぎなのだ、穴の底に達したときに死ぬのだと気づいた。“ 雪山の中ただ移動すりゃいいってもんじゃなく、高山病を避けるため分隊で工夫し高度変化に慣れながら歩行、まともな登山道具など無い、もちろん軍勢を避け、時に激しく退けながら(この手造り武器が凄い!)、某国軍も一枚岩ではない(これが事を複雑にする)、ある者は体調が悪かったり大怪我をしていたり、割り切って見ればパズルの様でもあるその移動劇は全て極寒大自然の中。 こりゃあ真夏に読みたい。 「ちょっとやってみたかったんでね」 懸念される政治環境の風化は、元々そこマジで書いてないから心配ご無用、というのは真っ赤な戯言で、軟派コミュニストに限らず人々の不満不安カクテルにつけ込んでうまいことやるセクシークソ野郎共一般を敵として指弾しているのだから古くなりようがない。 冒頭から中盤からいっときも緊張の途切れないストーリーと細部描写だが、何より最後、絶体絶命の味方側が二手、いや協力者を入れて三手に分かれてのちょっと危うい複雑な生存への立体闘争パノラマは、、、心理的盛り上げがあっさりしたままにサドゥンエンドを迎えるにしても、、、最高の臨場感!!! 理系、文系、まとめ役、経験者、知見者、冒険者、政界アイコン。。 突出したヒーローに主役や裏主役を任せなくとも生まれる有機的チーム感。 豪快にドライヴするご都合主義(!!!)は最高にエンタテインメントの役に立つ!! ! 「射程が決まったようだな」 「そのまま続けてくれよ」 何気にラテンの人たちをディスってる感はある。ロシア人だけは敵ながら立派、って。。 まいっか(??) 【こっからネタバレ】 あの人が裏切ったとか、スパイだったとか、偽者だったとか、意外な人間関係が明かさるとか、そういうのいっさい無いんだけど、まーーー、気になりまへんわ! |
No.976 | 8点 | 一族自刃、八百七十名- 南條範夫 | 2020/08/07 14:50 |
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一族自刃、八百七十名/燈台鬼/右大将暁に死す/悪源太奮戦/遊女地蔵/花の色は (旺文社文庫)
燃え上がる残酷、持続する残酷、工夫ある残酷、豪快な残酷、静かなる残酷、ミステリファンの心情に訴える残酷絵巻の数々。。。。 なんたって『燈台鬼』! 以前クリスティ再読さんが夢野久作『瓶詰地獄』をミステリファン必修の非ミステリみたいに(言い方ちょっと違うけど)呼んでおられましたが、本作もそれに近い位置付け(久生十蘭『母子像』等と並び)、かも、知れません。 タイトルにインパクトあり過ぎの表題作も最高にヤバイです。全体的にとにかくヤバいです。夏の夜に沁みると思います。 |
No.975 | 6点 | 華やかな死体- 佐賀潜 | 2020/08/04 19:30 |
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最後の数頁で心拍数上げてくれるぜ思ったら、、、モヤモヤが止まらない急襲型エンド! 表題の由来が”その詩”にあり、その書かれていた場所がズバリ、、ってのも微妙過ぎますよ。 おぼこい少壮検事が、大物実業家殺人事件を相手に活躍するのか、しないのか、どっちだ、、の物語です。 唐突な証言翻し(ところが、突くに突けないハウダニットがそこに!)や、笑っちゃうバカ証言(笑)も地味に華を添える法廷シーンは地味ながらなかなか読ませるもの。 昭和30年代丸出しのセクハラナニハラ上等で、酒席で「ヨカチン」を踊る検事が出て来たのは大笑いww 少壮検事と叩き上げ部長刑事のコンビは良かった。
空さんご指摘の > 法律的には再度のどんでん返しもできそうな アレのことですよね。。私もそれ、期待してしまいます。(そんだけのめり込んだんだなあ、物語に) > 「やはり『意外な解決』になった」 木々さんの言葉ですが、私もその通りと感じました。 この方は何気に弟さんもミステリ作家で、その筆名が「佐賀蒼(さがそう)」と言うんですね。 ちょっと笑います。 さて、ここからはネタバレになると思いますが 社会派付け足しの法廷本格ミステリかと思ったら、最後の最後でその付け足しっぽい社会派主張みたいなのが前面に半歩しゃしゃり出て終わるもんだから、急~に矮小な作品になっちゃった感が・・ 「フミオ」の存在も、大化けするか、意外性を込めたそのまんま、のどちらかと思ったら、どちらでもない小化けでシュンと去って行った。。 それと、結局事件内幕全貌が晒されないまま終わってるもんだから、なんだか続篇がありそうでムズムズする。。 |
No.974 | 7点 | 狙った獣- マーガレット・ミラー | 2020/07/31 11:52 |
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読み終わって、すぐ冒頭に返ってみましたよ。 そしたら、まあ、堂々と書いてあるじゃないの。。!! 何がって? そ、それは、何でしょうねえ。。 不思議な旅をさせられました。。 一気に読めて、スカッと爽快イヤサスペンスでした。 人によっては、気分最悪になるかも知れませんが。。 記憶に鮮やかなチョイ役、ベラ。 脳内映画(日本版)では天地真理さんが堂々演じてくれました。。。 ラストシーンが衝撃的で、哀れで、だけど鮮やかで。。。。 |
No.973 | 7点 | 夜歩く- 横溝正史 | 2020/07/28 19:10 |
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最後、一気に暴露され迸(ほとばし)る犯罪動機大絵巻、そこに全てのトリック経緯まで凝縮された有無を言わせぬ濁流ぶりが圧巻。ご都合、偶然、綱渡りの露悪的黒光りさえ魅力的。表題も単に夢遊病の件のみならず、そいつが如何に犯罪とその背景要因に絡みついているのかを一撃に突いており、異様な哀れを誘う。 首無し屍体の拡がりある機微は本当に素晴らしいし、振り返れば何たる”苦しい”伏線だらけの水泳大会な事か、こりゃおりも政夫も溺れます。なんとなくネタ知ってるって人も、読んでみたほうがいいです。小説の締まりも良い。金田一さんがちょうど後半分くらいから登場してさっさと大活躍するのは最近の小林悠(川崎フロンターレ)を思わせる、と思ったけどやっぱり余計な犠牲者も複数出してるか。
【ネタバレ】 日本刀を隠した金庫のパスコードの件、フォーシング或いはそれを逆手に取ったトリック(特に後者)かと思ってしまいました。金庫の件は全体的にマジックっぽい不可能興味横溢って事もあった。それより何より、そこで無理して作って捜査を混乱もさせた折角の(?)不可能状況が、アリバイ破り、ひいては真犯人特定まであっさり一気通貫でパス切られてチェックメイトって、ここでは俄然偶然が犯人にとってネガティヴな方向に働いちまったってのが趣き深い。 あ、「蜂谷」って名前はミスディレクション兼目くらましなのか。。 【ネタバレ&逆ネタバレ】 もしかしてだけど、島田某氏『某高評価代表作』のメイントリックって、本作の「実は××二人が両方とも首斬られてた」って部分からパーーンとインスパイアされてたりしないか。。。(妄想) |
No.972 | 5点 | ポアロ登場- アガサ・クリスティー | 2020/07/25 20:50 |
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「すぐにこの問題を僕に任せたことによって、機転が利くということと、女性が高等教育を受けることの価値を証明したんだからね。」
国際色豊か、冒険味も目立つ、第一短篇集。 コージーな風合いも強く、時々あくびが出るが、軽い気分で試せるミステリ入門書として悪くないかも。 「素人はなんて馬鹿なことをするんだろう。」 いちばん思い入れあるのは『消えた廃坑』。 『チョコレートの箱』で締めるのと、そのエンディングがニクい。 ※弾十六さんの註釈を味わうために再読してみました。 |
No.971 | 7点 | 追憶の殺意- 中町信 | 2020/07/22 18:25 |
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複数の殺人動機に纏わる複雑な背景と、真相奥座敷までが深いアリバイトリック(交通系+郵便系+α)、この二つの分厚さで最後一気に熱くなりました。較べて密室トリックの方は、ちょっとした生活の知恵めいたもの(よく考えたら非現実的!)がキーだが、アリバイが問題となる方の事件との(時系列含む)関わり合いを思えば全体から見てなかなかの趣き。自動車教習所(とその●●●●―●)ならではの事件発生、という舞台装置の必然性も素晴らしい。トリック含め全体的に鮎川哲也を彷彿とさせる良作長篇。叙述トリックとまで言わないが、ちょっとした叙述欺瞞がアリバイトリック一番の鍵を握ってるってのがまた、ニクいぜ。微妙な旅情もOKだ(笑)! TVの『刑事コロンボ』がちょっとした時刻の証明になるのも良かった(ある人の説によると「攻撃命令」の回だとか)。春日部駅前「エーカドー」には笑いました(クレヨンしんちゃん。。) 改題の「追憶」が決して伊達じゃないのも良し。無理矢理「殺意」シリーズに入れられた感はありますが、個人的には結果オーライ。酒のアテに譬えればヒマワリの種のような、良い地味さがありまする。 |
No.970 | 9点 | アトポス- 島田荘司 | 2020/07/20 18:10 |
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ベイビイ、流石にやり過ぎだ! デカ過ぎる! 次もまた頼む!
「きっと同じこと、やると思う」 巨大なミスディレクション、ありましたねえ。 何しろ、イスラエル。。。 周到な、或る種の叙述欺瞞(大胆伏線、思いも寄りませんでした)もあった。。すげえなあこれ。 「だから、君はやれ!」 「了解!」 分かり易い構成の妙に包まれて抜群の面白さながらも、それだけに大バカ結末の雪崩打ちで締めるのかと半ば覚悟していたら、そんな事は無かった。。。。(??) 決して一点に収束しない或る種のリアリズム溢れ落ちる悩ましい結末。そして希望はじけ飛ぶ、涙のエンド。 (( 薬のせいにし過ぎだろ、って感じる所もあるにはあったが。。。 )) “こう言った時私は、殺せる、と確認した。大丈夫だ。私は奴を殺せるぞ。” 本篇(?)部分、スピード,グルー&シンキの聴こえて来るシーンがモザイクの様に現れては去りを繰り返します。 キヨシ登場の遅さとその機敏は鮎川さんへのオマージュかと疼くレベルでした。 読み返せば、実は冒頭シーンこそ激烈にヤバイんだっつうね。。 流石だ、マイベイビイ島荘。 |
No.969 | 7点 | 鬼子母の末裔- 森村誠一 | 2020/07/14 19:17 |
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鬼子母の末裔/蜜葬/禁じられた墓標/高燥の墳墓/神風の殉愛/ラストファミリー (光文社文庫)
短篇集表題が匂わせるほどの地獄絵図でもありませんが、やはりキツい、ニガい、面白い、ぐいぐい読ませる推進力が光る、内向き社会派サスペンスの快作集です。 |
No.968 | 5点 | 赤外線男- 海野十三 | 2020/07/09 11:40 |
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春陽文庫の短篇集。
盗まれた脳髄: 理化学というよりSFトリック(かなり雑)。 しかし、ひでえなあ、やる事が。 電気看板の神経: 虚を付く奇想サドゥンエンドに、茫然たる余韻。 本書の中ではいちばん良い。 幸運の黒子(ほくろ): 冴えないショート・ショート。 夜泣き鉄骨: 物理トリックに心理の怖さも少し被さり、動きのあるドラマ。 三角形の恐怖: 一味違う不道徳奇譚。エンディングで無理に味わい演出した感もあるが、まあよか。 西湖の屍人(しびと): それなりにドラマチックな舞台装置。微妙に「時計●の殺●」を思い出すシーンあり。人間ドラマまで至ってないが、話に奥行きはある。 赤外線男: 題名が昔の仮面ライダーみたい。荒唐無稽はいいが、どこかしら突き抜けてない。有名作ネタバレ複数、こともあろうに”陰獣”まで。。色々ひどいもんだが。。。何気に記憶には残る中篇、いや長い短篇かな。 でもまあ、よく考えたら真相はけっこう複雑で面白い構造ですね。透けて見える伏線だらけにしても。 現代の感覚では引いてしまう設定、叙述も多い。物理トリックというより理化学トリック中心の、大味と言うのも違う、情緒の薄いちょっとカサついた読後感のものばかり。でもこれが十三さんの味わい(の一部)。決して好みではない筈なんですが、妙に読みたくなる作家さんです。(この人の処女出版?『麻雀の遊び方』ってどんなんだろ) |
No.967 | 7点 | 贖罪の奏鳴曲- 中山七里 | 2020/07/06 09:47 |
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流石のピアノ演奏描写はさておき、微妙にキメが粗くリアリティ上滑りな展開の末、遂に(!)躍動する裁判シーン(+α)迄で終わっていたら、はーん、まあそうだよねー って予想内の結末でしたが、その後が。。。 三つある内の二つはともかく、もう一つの動機の狂おしさは、刺さりました。。 そこで倒れ込んでゆっくりしていたら、 まだ 奥が あったのか 。。。。 忘れた頃にやって来た更にもう一つのアレが合わせ技に加わり、勝負あり。 (御子柴があの動機に気付かなかったのは、●●への愛憎という気持ちが欠落しているためか)
特殊少年院時代の回想部分、やはり筆致の粗さに現場感の薄さは目立つものの、魅力ある重鎮、哀れな末路の少年達やその家族と、ピンポイントの人物造形は心に残る。 構成の妙的な視点で言うと、オープニングはどうせ見え透いたギミックだろって感じだけど、エンディングの方はちょっとやばいね。 真の●●●が実は●●●(だけ)じゃなかった、って。。 |
No.966 | 7点 | 貴婦人として死す- カーター・ディクスン | 2020/07/03 18:30 |
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“だが、そこまで行ったらアドルフ・ヒトラーと変わらなくなる。”
本作のフーダニットは、○○トリックに纏わる複雑なものと、●●ギミックで目眩しされるシンプルに盲点を衝くものと、どちらも一筋縄では行かない堂々たる飛車角の競演と言った体の豪華版であります。そしてこの二つの大血脈が戦時下という状況で交差する点から、最後には意外性豊かな人間ドラマが滲み出て来て止まらない。。。という実に興味深く感慨深いフーダニット。よくぞやってくれました。 犯人特定ロジックが何気にしっかりしているのも、地味に魅力的。 ■■が二つあった(そっちの意味じゃなくあっちの意味で)だなんて。。。。 「手記」使いの可能性、「信用できない語り手」の可能性の広さに想いを馳せる作品です。 この犯人の意外さ、隠匿の巧みさには参ったなあ。 身勝手に見える「アレ」の動機も、欧州での戦争がとうとうヤバくなって来ている時期だと考えると、その気持ちは理解出来る。 HMの人情派にして豪快な超法規解決には開いた口が塞がりませんが。。 それにしてもあの、「読者への挑戦」かと思いきや。。。。のページ!! 犯人バラしてるやないか!!ww 驚いたなああの仕掛けには。 それと、「貴婦人」てのは「淑女」の誤訳とは思いますが、こっちの邦題が訴求力あって良いかもね。 創元推理文庫、扉頁の方の惹句、笑っちゃう巧さでした。 8点に肉薄の7.47点です。 |
No.965 | 6点 | 夢野久作全集 10- 夢野久作 | 2020/07/02 11:38 |
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老巡査
オチだかなんだか分からんが妙に温かいラストに向かってやわらかな陽だまりの犯罪抒情。 衝突心理 交通系奇妙な味。奇妙に味わい深い、ほんと。 或る怨念醸造の旅程をバッサリ略するハードボイルド的抑制の爆発よ!! 京浜国道で子安か。。既に諸星酒店も在った街の事件なわけか。。 無系統虎列刺(コレラ) 政党要不要。。! 斎藤くん登場も嬉しからいでか!!(←文法合ってる?) 「内科医が、獣医の家へ行ってお酒を飲んではいけませぬ。生命にかかわります」 バカソーンダイクというか、バカ本格ですかね。 近眼芸者と迷宮事件 重要人物の強度近眼が鍵を握った犯罪人情物語。泣かせます。 S岬西洋婦人絞殺事件 ミステリの興味が有りそうで意外と無いが、実に味わい深い犯罪実話もどき? 二重心臓 劇場主にして怪奇探偵邪妖劇(!)の興行王が刺殺された。作中作と作中劇の並ぶ趣向が絶妙の絢爛無惨感で浸し尽くす極彩色の中篇。「シバイダ… シバイダ… 」 継子 仄暗い豪邸の雰囲気が良い。 え、●●あるの?無いの?そうか、ポイントは、そこか。。微妙にミステリになり切ってないのが良い。可愛げありつサイコパスの薫り。 人間レコード 現代に応用効きそなSFスパイ。 やはり微妙にミステリになり切ってないのが妙に良い。 だが、どこかにサイコパスがいる。。(わかるかな?) 芝居狂冒険 パラミステリとも言えない犯罪阻止冒険物語だが、面白い。 ”見るからに丸柿庄六と名乗りそうな面構え”って何 笑 冥土行進曲 余命二週間を告げられた男の復讐譚は、色鮮やかに目眩く展開の末、業の深過ぎるハッピーエンドへ?! 夢久でこれだと本格ミステリに見えて来るが、、さて。 題名が匂わすほどガチャガチャしてない、奇想展開ながらも綺麗に纏まった一篇。 風太郎的テイスト有り。 オンチ 雰囲気いいなあ。 製鉄所敷地内の通称”ツンボ・コート”(それが何かは書きません)で起きた白昼の強盗殺人事件。目撃者は三人いたが、或る特殊な事情により、犯人はみすみす見逃された。。 タイトルは一見オンナに見えるが実はオンチ。読了してみるとその意味が沁みる。。。 そして犯人は意外! 斬られたさに 問題の一篇。情緒溢れて味深いが、難しい! 不可能興味に、仇討ち、なりすまし、若い恋、思惑、⚫️⚫️、、真相?! 真相を知る者は!? 原点に返り、表題にこそ最大のヒントがあるのか!? 何なんだ!?!? 白くれない このバランス悪さは。。。わ・ざ・と・だ・な! .. 中に挟まれる文語体の手記というか半生記が(読むのに骨は折れるが)エキサイティング過ぎて、、そこへこの唐突な謎明かしはいったい何なのよと。そういや手記最後の「歌」にゃ苦笑で噴き出しちゃったな。色々言いましたが、面白いんですよ。やっぱり夢久さんは、頭がおかしいや! 名娼名月 足蹴にされた花魁への地獄の復讐を誓う若い二人と、かつての共通の恋敵だった老人。色々あって最後はしみじみ。。 巻末の解説「未完成の魔人・久作」by高橋克彦、解題by西原和海、どちらも何気に隠しきれないディスりが染み出していて大笑い。 私も、声を大にして人に薦めるのはちょっと躊躇う所が無くはないが、、 好きなんですよ、この作家の肌触りというか舌触りというか。 でも誰か、物語構成をビシと締められるデザイナ-というかプロデューサーというか、そういう人と組んで書いてたら、こりゃとてつもない傑作短篇集になってたんじゃないかな(全集の一冊ですが)。 でもそうはされたくない様な作も結構ある。やはりこれはこれで良しですな。 |
No.964 | 7点 | 失はれる物語- 乙一 | 2020/06/30 11:40 |
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Calling You
“最後の一時間”をシンプルなファンタジーの切なさで締めるのかと思ったら。。SFにミステリの要素が相次ぎ参戦、更に胸キュンwの結末になりました。そういや、“もう一人” 登場人物がいたんだったな。。 失はれる物語 このラストを含む最終章に救いの明るさを感じる私は、既に若くないのだな、と確認します。 忘れ得ぬ愛の一篇。 傷 グリーンマイル(キング)を思わせる設定の、優しい残酷ファンタジー。父親の遺品の件や、去って行った人達の後日談に、もう一捻りあればとは思うが、この広がり行くエンドは良い。 手を握る泥棒の物語 こりゃあ楽しいドタバタ犯罪未遂(?!)。 本格ミステリの体にしてたらバカにもならない弱いトリックだけど、こういう話ならグッド。恋愛方面に行かないのも意外と好印象。 しあわせは子猫のかたち ファンタジーと本格ミステリの融合。特殊設定とは微妙に違う。ノンケ男女の友情が眩しい。ある人物の掘り下げが意外と浅く終わるところに作者の人苦手ぶりが赤裸々だが、それもまた愛おしい。 ボクの賢いパンツくん 最高にいい意味でノーコメンツ。成人オムツくんに想いを馳せるのが、正しい読み方か?! マリアの指 やられた。。。。。。。。。本格流儀でもこんだけ決められるのか! しかもこの心理の深み。叙述ミスディレクションに「おお!」と思った矢先、まさかの。。 「なーんだ○○かよ」と鼻白んじゃう事象が次々に覆される快感と、それに伴う残酷なツイスト。。。 じんわり沁みます。最高です。やばい、立ち直れない。 ウソカノ 密度が高い! バカ話かと油断したら、油断しただけの甲斐がある、創作秘話めいたスペシャルな味だった。 |
No.963 | 6点 | 動く標的- ロス・マクドナルド | 2020/06/29 12:50 |
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「わたしをロマンチックな気持にさせないでもらいたいな。」
HB的魅力の面では、チャンドラーからシビレの感覚を少し差し引いたようで特筆も出来ないが、それより何気にクリスティ的な、そしてドラマチックな犯人隠匿術にやられる。 「友情のために。質の違う友情のために。」 リュウ・アーチャー、手探りのデビュー作。 個性は薄いが、悪かあない。 「ほかの男の仕事を継いでやってるんだ」 「お父さんの?」 「ほかの男と言っても、若いころの自分自身のことさ。若いころは。。。。」 |
No.962 | 6点 | 銀座殺人事件- 島田一男 | 2020/06/26 12:14 |
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第三の顔/白い通り魔/血を盗む女/たそがれ慕情/運命の罠/黒い虹/白夜の決闘/銀座殺人事件 (廣済堂文庫)
人情譚と呼ぶには少しばかり熱過ぎる友情の混じる、泣ける話だとか。。 「たそがれ慕情」、「黒い虹」それぞれの自首ホワイダニットはチクショウ堪らなく泣けるなァ。。。。 ジェンダーの微妙な線を突いてくる話もちょっと目立った。 目方は無いが底は深めの、謂わば軽社会派めいた作品も目立つ。 庄司部長刑事(デカチョウ)の味わい深さで勝負あり。 |
No.961 | 8点 | グリーン・マイル- スティーヴン・キング | 2020/06/24 14:10 |
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コロナが世界の中心になる少し前、今年の一月から毎月一冊ペースを崩さず読みました。初めてのキングです。第六巻の折返しあたりから、読了する寂しさの予感が押し寄せて怖くなりました。初めはゆったりと、徐々に展開を速めながらも、余裕たっぷりの巨大な運動エネルギーで旋回し続けるストーリーテリングの力量は流石です。フラッシュバック群と力を張り合うかの様に現れる時折の強烈なフラッシュフォワードで、何事か?!と幻惑させられた後の節々の違和感、それにより増す推進力も素晴らしい。本格推理とは違うがフーダニット的興味もあり。ある種の⚫️⚫️誤認⚫️⚫️トリックが深い感慨をもたらす最終コーナー。ある人物の処刑シーンに前後して他の登場人物のその後の死にざまを冷静に羅列する所にも、深く遠い感慨がある。語り手の妻が或る「作戦会議」に加わり熱弁を振るうシーンは、終結間際のあの回想シーンで、一気に涙を誘う起爆剤に化けましたねえ。。。。 このラスト、わたしには良しの方角を向いていました。○○○○たことはそれだけで素晴らしい。だが締めの一文もまた素晴らしい。 まさか、生きていたとは。。。振り返れば、タイトルの重みが尋常でありません。。。。 “あのときのコーフィは、夕方の沐浴をおえたあとの赤ん坊のように清潔で、さっぱりとしていた。” |
No.960 | 8点 | 双頭の悪魔- 有栖川有栖 | 2020/06/18 19:50 |
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悪いことをして、考えられる限りの物的証拠を抹殺し、状況証拠を払拭しても、犯罪を取り巻く大きな場には、目に見えないウィルスのような何かが疎在し、同じく目には見えないロジックという太さの無い糸でそのサムシングが達人の手に拠り正しく紡ぎ合わせられたが最後、悪いことは露見してしまう!それはつまり、スリリングなロジック展開で追い詰められる愉しさ。。。殺人の舞台が二手に分割され片方にはもう片方の状況が分からないという趣向と、だからこそ三度も挿入される「読者への挑戦」、この二つの適度な見栄え、見得切りに刺激されてこその、ロジックの輝き。 天才探偵が事件(A)を解決、凡人探偵群が事件(B)を解決、ところが天才探偵が更に事件(A+B)を解決!という構造も素晴らしい。 たしかに、そのロジックの奥深さ華麗さに較べると、動機ってやつがいまいちドキドキさせてくれない恨みはチラつきますが、、丁度良い緊張感が最後の最後まで持続するんだから、良しとしましょう。 真犯人、現実世界ならともかく、本格ミステリの中で悪魔呼ばわりするほどか?なんて思うけど、二人の先輩が区別付かなかったけど、あほらしい茶番もヘンてなもんだけど、そういう微妙な突きの弱さの諸々が気にならないのは、やはりトリックやプロットの派手さ豪快さではなく、ロジックの精妙さ美しさで勝負している作品であるがゆえでしょうか。 淡い恋愛要素も邪魔をせず、むしろ小説を心地よくしてくれる。江神氏いいねえ。エピローグのさりげなさも素敵。 頭に残る物語全体風景の美しさは、個人的に「獄門島」に近いものがあります。
「月光」「孤島」がまったく響かなかった私ですが、シリーズ第三作「悪魔」はお気に入り。 「ローマ」「オランダ」が響かず(「フランス」はちょっと好き)「ギリシャ」「エジプト」でいきなりガツガツンと来たEQと、個人的にやはり通じるものがあります。 本作の表題、「お主も相当の悪よのう」的な言い草に掛けてあるのかと思ったら、そうでもないみたいですね。 そうそう、本作の真相全体構造(●●殺人に一ひねり半?)はデジタルビジネスの栄え始めた今こそ心に沁みる、その犯罪ビジネスモデルの拡がりの予感に胸が震えるってえもんです。 |
No.959 | 7点 | アデスタを吹く冷たい風- トマス・フラナガン | 2020/06/01 18:00 |
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謂わば金田一さんとは正反対の実力派問題解決職人。事件の真相だけ晒してサヨウナラなんて無意味な事はしませんし出来ません。 しかしだからと言って、仮に彼が老後の世界旅行でジャパンの八ツ墓村を訪れたとしたら、事が連続殺人に発展する前に真犯人を捕縛しただろうかと言うと。。。金田一さんとは全く別の視点から、しばらくは犯人のなすがままに放っておいたかも知れない。そんな危ない懐深さを覗かせる名探偵、それが下記4篇に登場する、地中海に面する東欧某国(地理的にはスロヴェニア、クロアチアあたり?)のテナント少佐なる警察官です。
アデスタを吹く冷たい風 The Cold Winds of Adesta 国の革命史に関わる密輸事件。妙に推理クイズっぽいセコさへの予感もチラツいたけど、最後までシブミは持ち堪えた。 7点 獅子のたてがみ The Lion's Mane スパイ容疑で、テナントの部下により射殺された医師。。途中から晒される大きな逆説には読者の悪い心を刺激しワクワクさせるものがあるが、最後に明かされる小さな逆説は、、ちょィとギャフンな劣化版ブラウン神父が唐突にお茶を濁したみたいで、どうかなあ。でも真相自体はちょっと凄い、怖いんだ。 6点 良心の問題 The Point of Honor これぞ逆説。 4篇中では抜群のミステリ深度を感じます。ナチスの亡霊に絡んだ、動機不明の殺人案件がハードに躍動。 8点 国のしきたり The Customs of the Country 奥行きのある密輸トリック顛末に起因し、急襲する激しい暴力と、表裏一体の爽やかな後輩指導、そのシーン展開に打たれる一篇。 “その夜はじめて、テナントは腹の底から、ほがらかな笑い声を立てた。そして、手をのばして、バドランの太い猪首をたたきながら、「大尉」といった。「きみも相当、のみこみのわるい男だな。」” 7点 4篇どれを取っても、テナントと複雑な思いで相対する人物の心理描写が際立っています。 テナントの目的は真相を暴く事には無い、では何処にそれがあるかと言うと、、、 国のため、とは言い切れない。 国への反逆でもない。 人民のため、と言うのはおそらく違う。 自らの保身のため、、もあるだろうがその分量は控えめか。(単純に目的は正義と言ってしまっていいのかも?) 革命前は王政側の大佐で革命後も”党員”ではない片脚義足の強面の狼。 こんな激渋設定の探偵が捌く事件が、時々(ミステリ文脈的に)安易な道に迷いかける微妙さも少しあるが、、とにかく退屈とは無縁の面白さ。‘幻の名作’みたく喧伝されるのを受けて気張って読むことも無いと思うけど、シリーズがこの4作しか無いというのは、相当に惜しまれる!!(パスティーシュでいいから、誰か引き継いで書いてる人いないのか。。) 以下3篇はノン・シリーズ もし君が陪審員なら Suppose You Were on the Jury 落語調の掛け合いで進む小噺。 個人的にはグッと来ないダール流儀のオチだが、好きな人も多いでしょう。 6点 うまくいったようだわね This will Do Nicely 同じ小噺ならこっちが味わい深い。 「わたしがこのひとを殺したのも、やはりそういったところに、理由があるのよ」 6点 玉を懐いて罪あり The Fine Italian Hand これは。。。。沁みる。 ブラウン神父の衣鉢をしっかり継いだ、偉大なる歴史小品。乱暴なようで繊細な外交の駆け引きにも、あの聾唖者尋問の名シーンにも、とにかく痺れました。。 蟷螂の斧さんが伏字で疑問を呈せられた部分、気付きませんでしたが仰る通り。まして相手もあった事ですし。。(実は相手はいなかった可能性も有り?!だとしたら。。) とは言え相手は地域の独裁者、あらゆる可能性は闇の中なのでしょう。。。 最後の大オチは、、全く気付かなかった!!(笑!) 8点 |
No.958 | 8点 | ゼンダ城の虜- アンソニー・ホープ | 2020/05/28 11:50 |
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幼少の頃ジュヴナイル翻訳で拾い読みして数十年ぶりです。 当時、おそらく父が子供のころ買い与えられた既に”黒い本”を譲り受けたもので、「あゝ無情」なんかと一緒に本棚に並んでいたものでした。「とりこ」という不思議な言葉に出遭ったのはこの背表紙だったと思います。あらためて通読してみると、こんなにもカラフルでポジティヴな力に溢れた明るい冒険物語だったのか、と感動。 ストーリーの力点が明瞭に絞り込まれている事もあってか、恋愛や友情、忠義にかかわる直接心理描写がこんなにも濃厚(!)でありながら、展開も文章も実によく締まっており、むしろ’もう少し一服しながらでもいいんだよ~’などと、あまりに早く過ぎ去ってしまう物語の俊足振りを恨みに思うほどです。それだけに終結に押し寄せる、惜しまれる気持ちもひとしおでした。 こんだけやっといて、主人公が実は生来の怠け者(?)って設定も面白い。準主、姫、悪役、脇役、みんな造形が迫る魅力のラインナップ。 クリスティ再読さんおっしゃる様に、ミステリ読者の視界からも漏れて欲しくない、素晴らしく楽しい必読書ですね。 続篇のタイトルロールが本篇のあの名悪役!というのも想像を掻き立ててたまりません。でも律儀に四年後まで待とうかなw 9点に大きく迫る8点です。 |