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斎藤警部さん
平均点: 6.68点 書評数: 1246件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.33 7点 鷗外の婢- 松本清張 2016/09/11 09:51
鷗外の婢/書道教授 .. の二篇  (新潮文庫)

薄昏い魅力。燻した薫り。時折の激しい動き。

しかし清張作というだけで『書道教授』なるごく普通の四文字表題にとてつもなく深い悪行の謎と暴露への妄想が掻き立てられてしまいます。 唯一無二の魂気(オーラ)畏るべし。

No.32 9点 けものみち- 松本清張 2016/05/06 12:28
清張は通俗でも充分殺せる。
割烹旅館に住み込む不遇美女に纏わった後ろ暗い手探りの蠢きから始まって、、突然或る事件が起きるタイミングの衝撃波の煌めき!同種のショックは忘れた頃ふたたび襲う。そしてみたび。。。 「まるで往来と同じだ」 「遠近法の計算」。。心理戦のリアルタイムカットバック描写にシビれる場面もある。展開の意外性にヤられた咄嗟の指紋抹消シーン!まさかの疑惑まみれ展開が終盤でもない中盤でもない絶妙無比なその瞬間に急襲!

エログロとは異なるキモエロシーンのしつこさには辟易したが、悔しい事に途中から慣れてしまった。

古の某氏を思わせる闇のフィクサーを中心に据え。。ながらも社会派の色は背景に薄く塗る程度かな、と思えばなかなかどうして、と思わせておきながら。。ストーリーの駒をタイミング良く動かすのが本当に上手いねえ、清張さんは。或る人物の「真実は曲げられませんからね」なる平凡な台詞に込められた或る強靭な意図、いや思い過ごしか。。と保留していたら、かなり後になってその真意を思い知らされた。

終盤に入ると言うには微妙に早い頃合い、それは無いでしょうと言いたくなる、キリキリ来る違和感のすれ違いシーンが、いやいやその外枠にはもう一つまた相当に巨大そうなすれ違いの構図、この外限が見えない感覚に読み手は圧倒される。 しかし。。。。。。。清張さんってのはよほど、言外の屈辱をやり過ごして嘗めまくって昇華させ尽くして最高無比の栄養にまんまと変容させ続けた人なんだな。 

いやいやこの本は東野圭吾ファンに受けが良さそうだ。圭吾さんがこの本大好きなんじゃなかろうか。物語と犯罪の構造こそ全く違えど「白夜行」に大いに通じる何かが底にある。しかし準主役級の刑事が途中から予想外に気持ち悪いメタモルフォーゼを見せる所は大いに違う。白夜行の笹垣刑事はけものみちの久恒刑事(字面ちょっと似てるが響きは違う)を外観はほぼそのままで内面というか全体像を、物語の機微を曇らさない限界まで極力格好良く仕立て直したある種理想の存在だったのではあるまいか?

出て来るんだよねえ「黒革の手帳」なる言葉が、メタ絶妙と名付けたくなる深淵のタイミングで。 疑心暗鬼の独りよがりな応酬を乱反射させる清張の罪無き悪意。。 「世の中は不思議なものだ」だってさ。どの悪党(?)の台詞だったか。

最終局面で意外性を大いに含むバイオレンスアクション展開(!)となるが、その末に明らかになる、真の黒幕、ではなく真犯人、でもなく’最後に残る者’が実に意外! いかにも終盤の前半終わりあたりで’意外にも’あっさり抹消されそうな人物が、まさかあんな悪どさを道連れに、、残るとは! 最後まで生き残ると思われた或る人物のまさかのいきなりの最期、と対になった残酷な意外性には柔らかな心理の盲点を衝かれる。 と前後して別の或る人物がチョイ役と見えて実は黒幕、とまでは言えんが意外と’分かっていた’側の人物である事が露呈、ところがその露呈の直後に。。 と目を瞠らざるを得ない意外意外の急展開に唖然としているうち物語は瞬殺のエンド! この最後の最後にぶん殴られる衝撃の構図は果たして清張当初の構想通りか、それとも。。。

さて本篇、「わるいやつら」の巨悪版とも見えましょうが、この物語内で展開される犯罪は決して巨悪ではなく、巨悪の前々々準備段階(という意味でやはり糾弾すべき?巨悪の構成部分)とは言えても飽くまで、殺人を含むとは言え、小規模の悪行に留めて描写敷衍されたもの。その特徴にこそ通俗的手触りが強く残るが、冒頭で触れた通りそれでもじゅうぶん重厚な殺人的快感をくれるのが清張余裕の底力。 8.6強の9点。

No.31 8点 砂の器- 松本清張 2016/01/27 18:27
‘蒲田’と言やぁむかし乗換え駅でよく途中下車したもんです。どこぞの呑み屋行ったんだろ、例の二人は。ひょっとして「鳥万」かな?と思って原典確認したら”トリスバー”だった! しかし蒲田如きでもう場末と呼ばれるとは、時代を感じますねえ。

構築美に少しく皹(ひび)が見られるのは承知ですが、破綻する程の破格でもなく、適宜の余裕を湛えた準大河小説として併せ呑む許容内ではないでしょうか。そんな人間臭い蟠(わだかま)りの萌芽も含め素晴らしい味わいを端から端まで並べ尽くした作品と思います。日本列島を股に掛ける遠望ゆたかな旅情は目鼻に眩しく、人情と社会の歪ませ合いがひりひり痛い。謎伏せの深さがいつにも増して雄大な渾身の力作だ。躊躇無く「社会派推理小説」と呼びたい。生前の祖父と、本作について少しでも語り合いたかったなァ。

例の音楽ですが、例のバカトリックですが、、いいんですよ小説の場合はアレで。逆に映画版の様な佐村河内さんもかくやの絢爛悶絶恩讐交響詩を清張文章で表現された日にゃ、ちょいと違うものに捩れてしまいまさあねえ。そういうのはまぁ中山七里さんに託したい所で。

No.30 8点 黒い樹海- 松本清張 2016/01/08 12:10
こりゃぁ滅法いい、真実(マジ)面白い。目次に見える各章のシンプルな題名から一々魅力的だ。如何にも含蓄の吹き込まれたオープニングの失踪顛末を経るとそこには、厳格の著者にして意外なゲーム性が拡がる。誠実感あるロジック考察も適時現れ、存外な迄の遊戯興味を唆す。物語が進んで朧気に全体像も見えかける辺りから堰を切って「或る人物」への抵抗感ある疑惑が微量ずつ静かに噴出するのだが。。 古(いにしへ)の南武線沿線、多摩川沿いの惡暗いムードも昭和30年代ノスタルジーを誘う、作者初期の好篇です。 さて、これは清張流の、厚み有る通俗小説トライアルなのだろうか?  ともあれ、エンディングには幾つかの意味でホッとしましたよ。。
或る人物の「握手です。」云々には笑ったなぁ。キャバレーだかクラブの一節でキン・シオタニ(イラストレーター)の得意芸を思わす漫画家が出て来るのは面白い。実際の樹海が舞台にならないのが若干寂しかったかな。でも満足。祖父の遺品にて読了。



【逆ネタバレ、というかネタバレ】

わたしゃ途中から「まさか『幻の女』じゃないだろうなぁ」とハラハラし通しでしたよ。

No.29 9点 或る「小倉日記」伝- 松本清張 2015/12/09 06:51
新潮文庫が誇る文化遺産「松本清張 傑作短編集」現代小説篇の第一巻。
二巻の推理小説篇とは別箇に編まれた作品集だが、作家の性質を反映し、結果としてどれも否応なしに息詰まるサスペンスを(時に謎追い/謎解き要素をも)湛えた重厚な社会告発小説として仕上がっており、ミステリファンへの潜在訴求力は極めて強い。「火の記憶」「赤いくじ」を始めとして「推理小説篇」に入れておかしくない様な作品も多い。

表題作は芥川賞受賞作。坂口安吾選者の「小倉日記の追跡だからこのように静寂で感傷的だけれども、この文章は実は殺人犯人をも追跡しうる自在な力があり、その時はまたこれと趣きが変りながらも同じように達意巧者に行き届いた仕上げのできる作者であると思った。」は後年の清張を予知する名言として有名だが、佐藤春夫選者の「描写式でなくこの叙述の間に情景のあざやかなこの作の真価を知ることも少しは手間がとれるものがあろう。母子の愛情もあまり縷説しないところがいい。こ奴なかなか心得ているわいという感じがした。」も無駄口を嫌う清張文体の真髄を言い当て痛快。川端康成選者の「私は終始これを推した」も忘れ難い一言。

或る「小倉日記」伝/菊枕/火の記憶/断碑/笛壷/赤いくじ/父系の指/石の骨/青のある断層/喪失/弱味/箱根心中
(新潮文庫)

No.28 7点 共犯者- 松本清張 2015/12/09 01:44
清張にしちゃあチャラいちゃチャラい小品集。。とうっかり記憶してたんだがよく考えると表題作が際立って通俗的なだけで別に全体がチャラいわけじゃない、ちょっと小粒な短篇集と言ったところ。っつっても世間標準で見たら相当重い大粒群。捨て作品は無いねえ。

共犯者/恐喝者/愛と空白の共謀/発作/青春の彷徨/点/潜在光景/剥製/典雅な姉弟/距離の女囚
(新潮文庫)

色んなアンソロジーで見掛ける気がする「洗剤口径」は水鉄砲に詰めた強力な洗剤を相手に向けて撃ち溶かし殺してしまう話、ではなく色んなアンソロジーで見掛ける気がする「潜在光景」は相当の筆力が無いとただの結末見え見え怖い話で終わりそうな際どさ爆発の素材を丁寧に扱い、キリキリ音がしそうな緊張バランスの細い絹糸の上に斜めに立たせた酒枡の様な作品。他に、どことなく安部公房を思わす残酷喜劇「発作」、悪者ではなく哀れ者の奇妙にして暗ぁい話「点」(題名付けの妙!)、奇妙と言うより不気味な味の「剥製」、ロスマク的(?)本格推理「典雅な姉弟」、女の半生の雄大な哀しみが拡がる「距離の女囚」、どうしようもねえ人間の醜さに吐き気がする「恐喝者」等、見逃すわけに行かない清張渾身の熱い小品が並ぶ。

No.27 6点 失踪の果て- 松本清張 2015/12/09 00:43
失踪の果て/額と歯/やさしい地方/繁昌するメス/春田氏の講演/速記録
(角川文庫)

清張にしては軽やかな作品集。時の流れの重さが迫る「額と歯」がちょっと異質で噛み応え有り。他の軽いのも悪くない、が内容は忘れる。そういう清張もいいじゃないか。

No.26 8点 霧の旗- 松本清張 2015/12/08 19:34
終始押しの強い冷気が吹き荒びました。終わってみれば、書き切ったな清張、ってな心象風景です。上流の人間が必ずしも悪どかったり非情だったりするわけじゃないんだと大いなる理解の温風を吹き込ませつつ、この結末。清張氏が本篇を最愛作と公言したことを合わせ思えば氏の脳髄に刻まれた怨嗟執着の底知れぬ深みに思い至らずにはいられません。主人公女子が、自らに甚大な犠牲を強いる事を通すまでして復讐対象を致命的弱みで永久に縛り付ける、その地獄の覚悟振りに戦慄鳴り止まず。最後まで言及されずに終わった題名の意味探りにも心は動きます。ピンポイントで光る本格推理要素もよく溶けている。8.48点。

No.25 6点 証明- 松本清張 2015/11/24 14:24
本格系3篇に異質の歴史エロ1篇。

谷山さん書かれたと同じく私も「密宗律仙教」のグダグダには音を上げました。本作があるせいでこんな薄い本を読破するのに二週間くらい掛かった(その間に別な本何冊か読んじゃった)。重厚且つ機敏な筆致が魅力の清張歴史諸作にはまず無い愚図な退屈ばかり目立つ困った怪作です。ミステリ要素は事実上皆無。本全体のバランスも大きく崩してますね。清張作品でここまでボロクソに思ったのは今んとこ他に無いんじゃないかな。
でもね、あとの3篇はどれも悪くない清張本格ですよ。

証明/新開地の事件/密宗律仙教/留守宅の事件
(文春文庫)

No.24 7点 憎悪の依頼- 松本清張 2015/11/24 12:41
憎悪の依頼/美の虚像/すずらん/女囚/文字のない初登攀/絵はがきの少女/大臣の恋/金環食/流れの中に/壁の青草
(新潮文庫)

本格推理、犯罪小説、歴史証言から恋愛小説めいたものまで、ヴァラエティに富んだ興味津々の短篇集です。柔らかなセンチメンタリズムが底に流れていそうな作品がちょっと目立つ。

あまり話題にならない様ですが「絵はがきの少女」の抒情とも旅情とも割り切れない微かな哀感は心の映像と共に永く残ります。“水曜どうでしょう”の”絵ハガキの旅”再放送を観るたびこの話を思い出します。 「女囚」の虚を突かれる反転、考えてみれば尤もな事ですが、、これは教訓にしたい一篇ですね。。「美の虚像」や「文字のない初登攀」で展開される丁々発止の人間攻守劇は緊張感抜群でこれぞクラシック清張節。題名力の強い表題作は。。清張にしちゃチャンチャン終わりかな。でも面白い。うん、この表題作だけは文学的物思いに耽らずともストレートに楽しめる通俗の味わいで、中でも一番の異色かも。しかし、とある作品で男色心情をつらつらと書き連ねているのには(乱歩じゃあるまいし)驚いた。意外とリアリティあるのが何とも言えねえ!

No.23 10点 死の枝- 松本清張 2015/11/05 01:07
数ある清張作品の中でもワン・アンド・オンリーの存在。極度にパンチ力を強化したショート・ショート群の様な味わい(各作そこまで短かないが)。”悪事や偽装はいったい何がきっかけで .. 相応の時を経て .. バレるのか”を当てる心積りで、異様に文学的な倒叙推理クイズ集として読む事も可能。清張にしては軽いタッチと言えるが、されど深い(まるで陰気な東野圭吾の様)!加速する追い詰められ感は半端で無く、スリル満点という言葉が最高に似合う。清張にしか書けない冷気も哀感も充満。最後まで首元を掴まれっ放し。堂々の満点作!絶版不可!!

交通事故死亡1名/偽狂人の犯罪/家紋/史疑/年下の男/古本/ペルシアの測天儀/不法建築/入江の記憶/不在宴会/土偶
(新潮文庫)

No.22 8点 影の車- 松本清張 2015/11/04 16:15
どれも謎解き要素が強い、しかし暗黒人間ドラマの圧力でそっちは後ろに追いやられて見える、とは言え精細に見直すとやはり謎解決(論理<勘)の根幹がそこにある事に気付く、そんなニクい短篇集。ファンなら必読度強。

潜在光景/典雅な姉弟/万葉翡翠/鉢植を買う女/薄化粧の男/確証/田舎医師
(中公文庫)

今さら言う事でもないですが、清張のタイトル付けセンスは突出した味わいがありますね。それは氏の長篇について言及される場合が多い気がしますが、短篇の方も相当なものです。もう読む前から題名だけで落とされている感じ。

No.21 9点 駅路- 松本清張 2015/11/03 19:04
新潮文庫のキラーコンテンツ「松本清張 傑作短編集」推理小説篇の第二巻。
第一巻「張込み」と較べたら多少は息の詰まる緊迫も緩まるが、だからと言って。。。。
清張のハードな短篇が好きなら必読。

白い闇/捜査圏外の条件/ある小官僚の抹殺/巻頭句の女/駅路/誤差/万葉翡翠/薄化粧の男/偶数/陸行水行
(新潮文庫)

No.20 9点 黒い画集- 松本清張 2015/09/28 22:23
ずっしり重い、清張渾身の巨大な中・短篇集。 政界官界財界等社会の大きな構成要素よりも、社会の元になる個人個人という小さな構成要素の中の悪(意)に怜悧なメスを入れ、そういった個々の小悪が最後は社会の巨悪を築き上げているんだ、なんて事を諭されるような、俺を単純左翼だと思ったら大間違いだぞ、なんて太声の呟きが行間から零れて来るような、そんな気がする魅力のミステリ文芸作品群に、あなたも是非圧倒されたし。

遭難/証言/天城越え/寒流/凶器/紐/坂道の家
(新潮文庫)

No.19 5点 蒼ざめた礼服- 松本清張 2015/09/01 12:13
そのむかし祖父の本を借りて読みましたが、高校生の身にはちょっと地味過ぎたかな。。 いや、他の地味な作品をいくつも愉しんで読んでいたし、やはりこの作品が微妙に合わなかったのでしょう。清張では初めて「いまひとつ」と思った作品かな。延々と重苦しいムードで続く物語は今ならもう少しイケるかも知れない、という予感を込めて一点追加。そういや「海苔」のくだりがやけに印象深い。

No.18 6点 聞かなかった場所- 松本清張 2015/09/01 12:06
サクサク読めちゃう本ですね、短く、軽く。 高校生の私にはずいぶん大人さんの物語でしたが、それでもあっという間に読了でした。 詳しい内容は憶えてないなあ。。 名作として人に薦める程じゃあないけど、一人でこっそり愉しむ分にはそりゃやっぱ悪くないですよ。良い意味でサスペンスドラマにぴったり。 実際何度かドラマ化されり(清張にはいつもの事だが)。 略称は「キカナカ」で決まり!

No.17 7点 十万分の一の偶然- 松本清張 2015/09/01 11:55
犬がナニする話じゃないんですよ。 アマチュア向け報道写真コンクールで大賞を獲ったのは、見るも無残に生々しい東名高速の大規模玉突き事故大炎上シーン。ところが、この” 十万分の一のチャンス”を捕らえた写真が実は人命を犠牲に演出されたものだとしたら。。疑いを抱くのは当の事故で亡くなった若い女性の婚約者だった青年。そこから始まった”二重構造の”復讐劇はやはり”効果抜群の報道写真”を餌に使ったものだったが。。。。 

狂った野心を抱く芸術家達、報道の暴走を背景に、愛に生きる者の悲劇をサスペンスたっぷりに描いた社会派推理小説。 規模の大きな物理トリックも炸裂します。
鮎川哲也の「人それを情死と呼ぶ」を彷彿とさせるラストシーンも印象的。

余談ながら、極めて題名を間違えやすい作品でもありますね。「十万に一つの~」とか「百万分の一の~」とか。いっそ「ジュマイチ」とでも略せば忘れないかも。

No.16 8点 遠い接近- 松本清張 2015/07/10 02:22
(ネタバレ有り)
戦争、というより徴兵、というよりその両者内部に息づく不誠実な実態への憤り響き止まぬ、魂こもったサスペンスドラマ。 不当なきっかけで自分を戦地に送り、最終的には家族全滅のきっかけを作った張本人を終戦直後の日本で捜し出し復讐を遂げるまで、主人公は諦めません。 ただ、本当にその張本人に全ての罪を被せたものかと言うと、そいつは最初のドミノを倒しただけの役回りなんだからかなり違う気がするんですけど、罪に対応する罰を与える相手は実際のところそいつしかいないわけでね、主人公がそのへんの齟齬に気付いているのかどうか、葛藤の描写はありませんけれど、国家さえ超えた巨大人間社会の蠢きが一個人に偶然もたらした甚大過ぎる悲劇、やり場の無い怒りの空回りは絶望的に切ない、切な過ぎて無茶な個人的制裁を研ぎ澄ますのに歯止めの効かせようも無いなんて。。

終結部、主人公があっと言う間に当局から追い詰められる数ページの、じりじり喰い込んで来るスリルは清張さんの真骨頂、毎度のことながら目を瞠ります。
しかし、安川って悪役というか憎まれ役が妙に魅力的で困った(笑)。 が、こいつも最後はあっさり殺されちまうんだもんなぁ~

「廣島なら、都会と違って爆撃も無いし安全じゃろ。」
「朝鮮は内地と違って戦争のセの地も無いわ。」

No.15 8点 渡された場面- 松本清張 2015/07/07 06:57
旅荘にて、中堅の小説家が残した捨て原稿。小説家はその後死亡し、原稿の中身は作家志望の青年にちゃっかり盗用される。 青年の小説は同人誌に載り、盗まれた部分の内容が、ある疑惑を呼び、ある手掛かりを紡ぎだし、物語は大いに躍動する。。
文壇の生態をちらりと絡め、旅情たっぷりに展開する魅惑的サスペンス。 過去犯罪と現在の犯罪の立体交差ぶり、そのインターチェンジぶりが見事。 短い小説だが充実の噛み応え。

No.14 7点 不安な演奏- 松本清張 2015/07/07 06:39
エロテープと来たか。。 悪くない権力筋覗き見サスペンス。 愉しく読める一冊。

ところでこの本の題名を見るといつもファン・ダリエンソというアルゼンチンタンゴのアーティストを連想します。その人の演奏が不安定なのではなく、語呂が似ているので。 

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.68点   採点数: 1246件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(55)
松本清張(53)
鮎川哲也(50)
佐野洋(38)
島田荘司(36)
西村京太郎(34)
アガサ・クリスティー(33)
エラリイ・クイーン(25)
島田一男(24)
F・W・クロフツ(23)