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いいちこさん
平均点: 5.69点 書評数: 527件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.107 9点 神のロジック 人間のマジック- 西澤保彦 2014/08/20 17:34
ある超有名作品と類似点があり、出版時期が近く、かつ版元まで同じということで相当に割りを食っているが、反転する構図の鮮烈さと完成度の高さからして本作の方が上と評価したい。
(以下ネタバレを含みます)
通常の叙述トリックは、作品の外側にいる読者に対してのみ仕掛けられるが、本作のトリックは直接的には作品の内側にいる生徒たちに対して仕掛けられており、読者は巻き添えを食う構造となっている。
従って、主人公の一人称による叙述には何も仕掛けられておらず、その意味では狭義の叙述トリックにはカテゴライズされないと思われる(たぶん)。
両者は一見類似しているように思えるが、効果は全く異なる。
前者は読者を驚かせる効果しかないが、後者は作品世界自体を全く異なる様相に変えてしまう。
本作は発生する事件自体にはさして見どころがない。
しかし、超高齢社会が抱える家族関係の希薄化、認知症患者の増加など、多くの社会問題を想起させるプロット、殺人の動機を共同体幻想の維持・防衛とすることで、メイントリックと完全に連結させ、クローズド・サークルものの急所ともいうべきホワイダニットを鮮やかに処理した点が極めて秀逸。
ラストの後味の悪さが指摘されるが、犯人の動機からして最終的には共同体自体の破壊に向かうのは必然。
本作の最大の泣き所は舞台設定のリアリティの弱さにあるが、生徒数を共同体幻想の維持に最適な水準に設定し、新入生の登場を最大の危機として描く等、合理性確保に向けて最大限努力。
母親とのやり取りの回想が真相を示唆する伏線として強烈に機能しているほか、スナック菓子の消失という一見日常的な謎に隠された皮肉極まりない意図が見事。
先生と生徒たちの対峙を「宗教戦争」と説明するくだりは、現実社会における認識の相対性と、それを巡る諸国・諸民族の争いを強く想起させるもので天晴の一語

No.106 7点 交換殺人には向かない夜- 東川篤哉 2014/08/18 14:13
メイントリックの破壊力は十分。
ただ読者が真相に迫り得る材料はなく、犯行現場の地理関係はじめ仕掛けが不発に終わっている。
細かな伏線は丁寧に拾っているものの、消化不良感が否めない。
著者の実力の一端は示しているが、作品の完成度が不十分なのが惜しい

No.105 6点 虚構推理 鋼人七瀬- 城平京 2014/08/18 14:13
ミステリのありように対する問題認識はわかる。
著者の試みがミステリとして意味があることも認める。
しかし設定がアクロバティックすぎるのが難点。
主人公たちの特殊能力や超常現象をもっと限定的にすべきだったように思う。
作品世界が現実世界から遊離しすぎていて、作品の主題が散漫になっている。
ライトノベル風の作風もこうしたファンタジー感覚を助長している。
将来のメディアミックス展開が念頭にあるのかもしれないが。
想像以上にロジカルな骨格の力作だけに残念

No.104 6点 写楽 閉じた国の幻- 島田荘司 2014/08/11 18:46
読了した当時、本作が指摘した東洲斎写楽の正体が著者独自のアイデアであると誤認し、プロットには顕著な破綻が見られるものの、その奇想は突出していると極めて高く評価した。
しかし、それは私の勉強不足であり、その真相には多数の前例があることを知った。
それをふまえて、再度本作を評価するならば、着眼点以外に評価すべき点がなく、プロットの破綻ばかりが目に着く印象。
本題に無関係の導入部が延々と続き、肝心の重要な伏線が回収されず、それを後書きで紙幅が足りなかったとエクスキューズしている点。
現代編だけで読者を説得できる材料が十分に整っていたにもかかわらず、蛇足と言うべき江戸編が存在している点。
読書時点で前例があることを知っていれば、さらに評価が低くなったであろうことは明白だが、読了当時の興奮を考慮して6点とする
数多い読了作品のなかで、とりわけ評価が難しく、ほろ苦い印象の残る作品となった

No.103 5点 しらみつぶしの時計- 法月綸太郎 2014/08/11 18:43
表題作は短編のオールタイムベスト上位にランクインする世評の高い作品。
大いに期待して手に取ったのだが、ハードルは超えられなかった。
着想としては面白いものの、ある1点に着目すれば解けるパズルで、最大の難所である二者択一もお茶を濁して終了。
1,440の必然性もなし。
10編掲載されている短編のうち3~4編は水準以上であり、したがって短編集としても水準以上ではあるが、飛び抜けた作品はなく必読の域には達していない

No.102 9点 神様ゲーム- 麻耶雄嵩 2014/08/01 17:23
どんなに緻密に構成されたミステリでも、ロジックの不備は存在するし、提示された真相以上に蓋然性の高い真相は存在し得る。
それでも提示された真相を「真実」として扱うことができるのは、探偵が「真実」と断定するからである。
探偵は作品世界の中で「神様」として君臨する。
この探偵の無謬性の問題を徹底的に追求した作品が「メルカトルかく語りき」であり、それをベースにした変化球が本作であると理解している。
本作ではもはや「無謬の銘探偵」どころか、文字どおり「神様」が登場する。
本作では2つの仮説が提示されるが、いずれも合理的に成立する余地があり、いずれに立つかによって犯人が変わる。
ひとえに読者が「神様」を信じるか否かで「真実」が決定する。
ミステリにおける「真実」の相対性を抉り出すことで、現実社会においても所詮「真実」は相対的な概念でしかないことを突き付けてみせたのだと思う。
本作はこども向けとして相応しくないと評価する向きが多いようである。
その心情は一定程度理解できるものの、果たしてそうなのだろうか(こどもが本作を理解できるかどうかは別として)。
「真実」の危うさ・いかがわしさ、人生や社会の残酷さや不条理が、まぎれもない真実である以上、こどもに一本道の美談や、紋切り型の勧善懲悪ばかり読ませることが望ましいことなのだろうか。
こども向けという舞台設定を逆用し、敢えて放たれた悪辣な企み。
私はじめナメてかかった大人たちをも完膚なきまでに叩きのめす野心的試みを最大限評価

No.101 6点 姑獲鳥の夏- 京極夏彦 2014/07/31 09:34
京極堂が延々と語る薀蓄が単なるペダンティズムではなく、作品世界の説明や真相の伏線として必要不可欠である点等、想定以上に緻密に構成されている印象。
確かに乱暴な点はあるものの、許容できないほどアンフェアだとは思わない。
冒頭の認識論における心と脳の共犯関係は真相を強く示唆するものだし、榎木津の「見たままじゃないか。謎なんかない。馬鹿馬鹿しい。帰る」はミスディレクションとして強烈に機能しており鮮やかな印象。
ただ、使用されている複数のトリックはことごとく、夢オチ同然とまでは言わないまでも、それを持ち出したらどんな不可能犯罪でも説明可能という類のもの。
事態の不可解さが圧倒的であるだけに、それとは裏腹に解決がチープに感じられる点は否めない

No.100 6点 聖女の救済- 東野圭吾 2014/07/23 12:00
Xと同様、倒叙形式のハウダニット。
メイントリックの着想は見事。
ただ現実性に乏しい弱点を補強するために話を膨らませた分、拡散して密度が低下しているのが難点。
それでも長編として破綻なく持たせきる構成力、読ませきるリーダビリティはさすがだが。
「虚数解」も素晴らしい。
Xの「幾何の問題に見せかけて実は関数の問題」には及ばないにしても、作品の本質を一語で言い当てている。
一方、タイトルは疑問。
「聖女」にはかなりの違和感があるし、(他の方も指摘されているように)この真相を「救済」とは言わないと思う。
この著者、あまりに上手すぎるため何を書いてもヒットにしてしまう。
本作もインハイの速球を華麗なテクニックでヒットにしたが、外野の間を割る長打という印象はない

No.99 5点 Another- 綾辻行人 2014/07/22 18:07
「霧越亭殺人事件」以上に説明されない謎が多すぎて消化不良。
伏線を丁寧に回収しつつ真相解明に向かっていく手際は見事だが、解決・説明されるのは目の前の事件だけ。
特定の学校の、特定のクラスで26年間にわたって断続的に死亡事件が発生し続けてきて、それでも学校が存続し運営されているという、最大の謎に説明が付けられる訳ではない。
「本格+ホラ-」というより、「ホラー(部分的に本格)」と評価すべき。
本格の核は小さく、その割にボリュームが多すぎる印象。
ホラ-と割り切って楽しめる人には、リーダビリティも高く受け入れられると思う。
世評が非常に高い点から鑑みると、自分にはあわないということなんでしょう。
部分的な解決を評価してもこの点数

No.98 7点 アルファベット・パズラーズ- 大山誠一郎 2014/07/14 17:52
シーマスターさんの感想に極めて近い。
冒頭の3作はパズラーに徹するため、読物としての装飾を徹底的に廃し、敢えて推理クイズのような作りにしたと思われる。ただ、解決に至るプロセスは一見ロジカルに見えて、「状況証拠からこのような解釈としても一応反証はなさそう」という程度の強引なもの。このテの趣向が相当に好きな人でないと付いていけないレベル。
「Yの誘拐」は一変してサスペンス色の強い読物になっており、真相の意外性は秀逸で、誘拐モノでこの手が残されていたかという衝撃的な着眼点。連作短編集らしい趣向も凝らされているが、正直この点は蛇足に映った。
毀誉褒貶の激しい作品だが、オリジナリティを評価してこの点数

No.97 8点 折れた竜骨- 米澤穂信 2014/07/10 17:23
「インシテミル」が自分にはあわず、敬遠してきた著者だが、本作はスマッシュヒット。
特殊設定を活かしつつも、魔法の効果を限定的にしてみせることで、ロジカルなフーダニットとして成功。
謎解きのプロセスはオーソドックスだが、各所に巧妙に配された伏線を余すところなく回収する手際のよさは圧巻。
探偵の誤導の後に示された真相はありがちだし、伏線が丁寧すぎることもあり正直想定の範囲内なのだが、誤導させたこと自体がプロットと連結しており、必然性がある点が見事。
未来に希望を持たせたラストも好印象。
語り口が平易でリーダビリティが高いため、各局面の状況が明瞭である反面、難易度が低く食い足りない向きもあろうが、それが広くヒットした要因であるのは間違いない。
コンパクトでも完成度は高く、キレイな右打ちでスリーベースといったところか。

No.96 9点 メルカトルかく語りき- 麻耶雄嵩 2014/07/07 16:36
あとがきによると「答えのない絵本」のプロットを最初に思い付いたらしい。
これ自体が奇想なのだが、この作品を発表するにあたり、中途半端に中長編に増量せず、かといって短編集に混ぜる遊びの変化球ともせず、手を変え品を変え魔球を投げ続ける短編集にしてしまう。
このあたりが余人の追随を許さない、著者ならではのド奇想と言える。
「答えのない絵本」の徹底した論理性もさることながら、本作の白眉は「収束」。
アイデアとしては思い付くのかもしれないが、ミステリとして昇華し切った巧みなプロットと、高い構成力には脱帽。
ミステリに対する相当な問題意識と深い洞察がなければこのような作品は出てこない。
本作はアンチミステリのある分野における極北というべき作品であり、同様の趣向のミステリで本作を超える余地はまずないのではないか。
評価がわかれる作品であるのは間違いないが、その存在価値に鑑みて9点を献上

No.95 6点 セカンド・ラブ- 乾くるみ 2014/06/30 19:34
叙述トリックの気配を濃厚に漂わせるプロローグからの二段底。
上手さはあるのだが、見えないところからのハイキックとでも言うべきイニ・ラブの衝撃には遠く及ばない。
致命的なのは主人公の心情変化が急激すぎること、行動が合理的でない、場当たり的に感じられる局面が多すぎることで、読者としては途中からついていけなくなってしまった。
敢えて描ききっていないプロットであることは承知しているが、あれだけの大仕掛けを演じきったヒロインの動機も明かされず。
読者が「セカンド・ラブ」という高いハードルに求めるカタルシスやサプライズはなかった。
局所的なテクニックを認めても、それ以上の評価はあげられない。

No.94 6点 厭魅の如き憑くもの - 三津田信三 2014/06/09 20:01
力作ではあるが微妙・・・
作風からしてリーダビリティの低さはある程度やむを得ないが、このプロット・真相ならもう少しボリュームダウンできたと思う。
メイントリックは既に有名作品に前例のあるもの。
巧妙な伏線が張り巡らされており、使用方法の完成度は高いが、それだけでは評価することはできない。
最終盤では恒例のどんでん返しが連発されるが、最初に示された真相の方が却って衝撃は大きかったように思う。
6点の上位  

No.93 7点 向日葵の咲かない夏- 道尾秀介 2014/05/26 14:00
特異な設定である時点で読者を選ぶ作品であるのは間違いない。
にしても、本サイトでの評価がここまで低くなるのは、本格ミステリ読みが集まっているからだろう。
確かにアンフェアな部分があるうえ、全体に荒削りな印象は否めないが、著者の後日の飛躍に通じる伏線のうまさ、騙しのテクニック、解法のロジックは存分に発揮されている。
救いのなさ過ぎるラストの残す印象も強烈。
プロットの稚気や野心を堪能する作品

No.92 7点 OUT- 桐野夏生 2014/05/26 13:44
犯罪小説の佳作。
全編を通じて、主人公の心情を赤裸々に描き出し、粘度の高い空気を吸っているかのような息詰まる展開。
筆力の高さは疑い得ない。
それだけに主人公たちを待ち受けるラストは、もっと破局的なものが似つかわしかったように思う。
無難な着地に思えて残念

No.91 5点 ジョーカー・ゲーム- 柳広司 2014/04/30 14:24
合理性を重んじるスパイの論理と、第2次世界大戦前夜の日本陸軍の葛藤がプロットの機軸。
この点では舞台設定が見事に機能。
ただご都合主義というか、登場人物がスーパースターすぎるというか・・・
リーダビリティは高いが、リアリティや緊迫感の点で今ひとつ。
世評ほどの満足は得られなかった

No.90 8点 隻眼の少女- 麻耶雄嵩 2014/04/28 14:34
この著者、ミステリのあり方や限界に対して非常に自覚的で、その問題意識を作品の主題とすることが多い。
ただ決して声高に主義主張するのではなく、作品を提示し読者の評価に委ねてくる。
本作ではいわゆる「後期クイーン問題」がテーマ。
散りばめられた「偽の手がかり」と「本物の手がかり」を峻別するため、再三にわたってロジカルなアプローチが試みられる。
それでいて、犯人による誤導の後に示される、この問題に対する回答としての真相は、問題自体を無効にするような、皮肉極まりないもので実に秀逸。
確かに物語のクライマックスでは、荒唐無稽なトリックや無理筋と言わざるを得ない真相が明らかになるが、敢えて無難な落とし処を選ばなかった点を、作者ならではの稚気と解したい。
以上、他の作品とは異なる評価軸から採点してこの結果

No.89 7点 半落ち- 横山秀夫 2014/04/22 15:27
本作の評価が世評と比較しても異様に辛いと感じる。
やはり投稿者の多くがミステリ読みであり、ミステリとして評価されているからなのだろう。
確かにミステリとしては脆弱な構造で、致命的な欠陥も存在しているのだが、1個の読物としては出色のデキ。
犯人を取り巻く人々を描き、犯行の筋を追いながらも、警察と検察の立場と利害や、職業倫理と組織の論理のコンフリクト・葛藤を抉り出す筆致は見事。
一本道のプロットと美しいラストは、素直すぎる、キレイすぎる印象は否めないが、抜群のストーリーテリングで爽やかな読後感を残すのも確か。
一言で言うとミステリ初心者向けの佳作ということだろう。
中級者以上には食い足りないかもしれない

No.88 7点 ユージニア- 恩田陸 2014/04/21 13:47
存在するのは登場人物の人数分の主観的事実であり、客観的事実など存在しないという主題自体はありふれたもの。
しかし、物語のほぼすべてが手記風に語られるプロットが斬新。
読者に少しずつ見せていく真相が、事実なのか虚偽なのか幻惑しつつ、ミスリードの罠に嵌めていく手腕は見事。
ただ惜しむらくはラスト。
最終的にはぼかされるとしても、一旦キレイに着地してくれれば8・9点も望みえたのだが。
残念

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いいちこさん
ひとこと
評価にあたっては真相とトリックの意外性・納得性を最重視しつつ、プロットの構想力・完成度、犯行のフィージビリティ・合理性に重点を置いています。
採点結果が平均6.0点前後となるよう意識して採点するととも...
好きな作家
東野圭吾、麻耶雄嵩、京極夏彦、倉知淳、奥田英朗。次点として島田荘司、有栖川有栖、法...
採点傾向
平均点: 5.69点   採点数: 527件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(30)
麻耶雄嵩(20)
島田荘司(20)
宮部みゆき(15)
倉知淳(15)
奥田英朗(15)
京極夏彦(14)
有栖川有栖(13)
アガサ・クリスティー(13)
貴志祐介(11)