皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
蟷螂の斧さん |
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平均点: 6.09点 | 書評数: 1668件 |
No.668 | 6点 | 眼の壁- マーガレット・ミラー | 2014/10/02 09:01 |
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裏表紙より~『交通事故で視力を失い、ボーイフレンドとの婚約を自ら一方的に解消しながら、なぜか屋敷から彼を離さない富豪の娘ケルジー。眼の壁は彼女の心の傷が生み出した幻覚か?それとも本当に誰かが彼女の命を狙っているのか?バラバラな家族の絆が彼女のモルヒネ服用事件でにわかに、見えない緊張の糸でからめ取られ始めた。そしてついに不可解な死が…。』~
著者の作品に魅かれるのは、心理描写とトリッキーな結末がある点です。本作は初期(1943~20代)の作品なので、まだ心理描写が作品全体(特に後半)に生かされていないような気がしました。前半は、盲目の女性心理と、その家族の関係(軋轢)が描かれますが、著者の文学的表現?(例えば比喩など)やアメリカ的ユーモア(皮肉)が翻訳のせいなのかよく判りませんけれど、やや読みにくい。後半はがらりと展開が変わってしまいフーダニットものになります。トリッキーな結末は控えていますが・・・。本筋がいいので、組立次第でという感じがします。非常にもったいない作品ですね。 |
No.667 | 7点 | 能面殺人事件- 高木彬光 | 2014/09/27 10:53 |
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(再読~ネタバレがあります)かなり評価の分かれている作品ですね。第一点は作中での海外作品のネタバレ、第二点は殺害方法。ネタバレは若気の至りだったのでしょうか?(苦笑)。殺害方法は発表当時(1949)、検死でわからないはずはないというものだったようです。しかし、現在では殺害方法自体に?。「点と線」を今読むのと同様、時代の変遷を感じます。複数の海外有名作品(アクロイド、Yの悲劇)を彷彿させる内容ですが、構成(二重三重の罠)はよくできていると思います。機械的な密室はおまけとしてよいと思います(わかりにくいし・・・)。著者は次のように述べています。「描きたかったのは法律と正義の相克であった」「最初の題名は千鶴井家の悲劇」・・・その点は重厚な雰囲気で良く伝わってきました。 |
No.666 | 7点 | 赤い右手- ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ | 2014/09/26 09:07 |
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裏表紙より~『結婚式を挙げに行く途中のカップルが拾ったヒッチハイカーは、赤い眼に裂けた耳、犬のように尖った歯をしていた…。やがてコネティカット州山中の脇道で繰り広げられる恐怖の連続殺人劇。狂気の殺人鬼の魔手にかかり、次々に血祭りに上げられていく人々―悪夢のような夜に果して終りは来るのか?熱に憑かれたような文体で不可能を可能にした、探偵小説におけるコペルニクス的転回ともいうべきカルト的名作』~ ミスリードのオンパレードで強引に騙されてしまったという印象です(笑)。色々問題点はあるのですが、その点は解説で非常に詳しく説明されています(これも珍しい~怪作だからか?)。解説では指摘されていない部分ですが、同一人物を「細くて肌の白い腕」→「顔も手と同様に日に焼け・・・」「体は堅固そのもので筋肉も隆々」と表現しています。これは語り部の表現なので、果たしてこの語り部は信用できるのか?という疑問を持ってしまいます。これは著者の作戦の一部であったのか?・・・。あと、題名のことには触れていませんでしたが、右手切断の意味もうまく収まっていると思います。不思議な気持ちにさせられる作品でした。 |
No.665 | 7点 | 硝子細工のマトリョーシカ- 黒田研二 | 2014/09/25 09:37 |
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裏表紙より~『生放送のテレビドラマ本番中に、スタジオ内で次々と勃発する事故。毒は本物にすり替えられ、脅迫電話は真実の声音となり、脚本に秘められた真実は、慟哭と贖罪の扉を開く。「完全なる虚構」と「不完全な虚構」という二つの世界が交錯する、入れ子トリックの博覧会。この物語は、著者自らが奏でる鎮魂歌でもある。』~ よく練られたメタ・ミステリーです。作中作でありますが、TVドラマという設定なので判り易い。といっても混乱させられますが・・・(苦笑)。TVドラマ中に毒を盛られるという事件が起きるのですが、その点はやや複雑すぎるきらいがありました。自殺と処理された事件が実は・・・という方がインパクトがありました(前例のない密室?)。題名の「マトリョーシカ(入れ子構造のロシア民芸品)」の扱いがうまく、恋愛小説としても読めると思います。レオ(オタクなフリター)がいい味をでしていました。 |
No.664 | 5点 | 阿弥陀ヶ滝の雪密室- 黒田研二 | 2014/09/23 13:59 |
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読みやすいし展開も早いので楽しめました。しかし、評価としては、リアリティ(主に動機面)を考慮するとこの点数になってしまいますね。奇しくもエピローグで「・・・だなんて、リアリティーなさすぎるよね?・・・」と言っています。作者もわかって書いているのかも?(笑)。 |
No.663 | 8点 | 明治断頭台- 山田風太郎 | 2014/09/20 09:21 |
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著者の東西ミステリーベスト100のランクイン作品は、妖異金瓶梅(30位)、太陽黒点(48位)、本書(90位)とありますが、本書が一番インパクトがありました。裏表紙に「驚天動地のラストが待ち受ける異色作」とありますが、納得。惜しくは、川路(探偵役)が真相解明にもっと絡んでくれればと思う次第です。 |
No.662 | 7点 | 河原町ルヴォワール- 円居挽 | 2014/09/15 08:52 |
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シリーズ4の最終章。少なくとも第1作目を読んでいないと背景がわからない。落花の死というシリーズを読んでいる人にとってはショッキングな場面からスタート。撫子(主人公)は元恋人と兄を敵に回し、私的裁判で孤軍奮闘する。裁判での違和感、落花の死の真相はラストで判明する。伏線の妙であった。アンフェアと思われる点もありますが、完全に騙されました(苦笑)。 |
No.661 | 7点 | ボディ・メッセージ- 安萬純一 | 2014/09/12 13:35 |
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真相への伏線は、サービス過剰と思えるほど提示されていましたがたどり着けませんでした(笑)。惜しいところは、犯人の手掛かり(伏線)がほとんどないと言ってよい点でしょうか。もう少し絡んでほしかった気がします。しかし、大胆な発想で楽しめました。 |
No.660 | 6点 | 見知らぬ乗客- パトリシア・ハイスミス | 2014/09/10 20:58 |
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(英ベスト100の38位)著者の処女長編(1950年)。著者は、「アガサ・クリスティもコナン・ドイルも読んだことはない。ミステリもサスペンス小説も書いているつもりはない」旨発言しています(解説より)。人間の心理行動を描いた文芸作品と言えるのかも。「罪と罰」を意識して書かれたのかもしれません。主人公の崩れてゆく心理描写はさすがと思います。本書は翌年(1951)にヒッチコックにより映画化されました。「太陽がいっぱい」も同様で翻訳より映画の方が先行して有名になってしまったようですね。交換殺人というテーマとしては本書が元祖になるみたいです。 |
No.659 | 6点 | 読み出したら止まらない! 海外ミステリー マストリード100 - 事典・ガイド | 2014/09/08 17:49 |
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紹介中(作品100冊、著者100名)、既読は作品20、別の作品を読んだことのある著者は35名でした。マストリードとありますが、本格とサスペンスを中心に読んでいますので、少ないのはやむを得ないところがありますね(苦笑)。東西ミステリーベスト100のうち、19作品はかぶっていましたが、代表作品の紹介だけでないところが良いと思います。代表作品は、「さらに興味を持った読者へ」でも紹介されています。「古本屋で探してでも読んでもらいたい作家たち」でマーガレット・ミラー、リチャード・ニーリイが取り上げられていますが、完全に意見一致しました(笑)。
なお、一番に参考とさせてもらっている本サイトでも、やはり海外作品の書評数は少ないのでは?との印象。ちなみに、採点者数ランクではベスト100のうち海外作品は「そして誰もいなくなった」(30位74名)、「Yの悲劇」(90位42名)の2作品だけです。評価順ベスト100(高評価順~10件以上書評)では21作品が海外作品と健闘しています。また、書評数上位50人(125件以上書評)の方が10点満点をつけた作品(2人以上)は45作品ありますが、そのうち海外作品は10作品でした。「そして誰もいなくなった」(12名)「アクロイド殺し」(7名)「Xの悲劇」(6名)「オリエント急行の殺人」(5名)「Yの悲劇」(4名)「幻の女」(3名)「ビッグ・ボウの殺人」(2名)「ナイルに死す」(2名)「薔薇の名前」(2名)「ケインとアビル」(2名)。結果、海外作品は国内作品よりかなり書評数は少ないのですが、評価は相対的に高いということが覗えます。 |
No.658 | 7点 | 死の相続- セオドア・ロスコー | 2014/09/08 17:43 |
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アガサ・クリスティ氏の某作(1939)を彷彿させますが、本作は1935年の発表です。その点を大いに評価したいと思います。動機もユニーク(今まで読んだ中では初物)です。ゾンビの取り扱いがうまいし、それにひっかけた犯人の末路も笑えます。怪作と呼ぶにふさわしいのか?。解説(森英俊氏)で、超弩級の密室ミステリと紹介されていますが、その点はどうかなと思います。 |
No.657 | 8点 | さむけ- ロス・マクドナルド | 2014/09/05 11:54 |
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(再読)東西ミステリーベスト100(2013版)では15位にランクアップ。さすが名作の感。本格色の濃い探偵小説ですね。ラストも好みです。捨てずに書庫に残してあったのがうなずけた(笑)。 |
No.656 | 5点 | 暗黒女子- 秋吉理香子 | 2014/09/02 11:54 |
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「告白」張りの衝撃度を期待していたので、やや期待外れでした。闇鍋に期待し過ぎたか(笑)。「藪の中」(芥川龍之介氏)や「毒入りチョコレート事件」(アントニイ・バークリー氏)を彷彿させる点は楽しめました。ミステリー的には予想しやすいのが弱点かもしれません。 |
No.655 | 5点 | マーメイド- マーガレット・ミラー | 2014/08/31 17:59 |
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弁護士トム・アラゴンシリーズの3作目。裏表紙より~『娘の名はクリーオウ、自称22歳。とある風の強い午後、スメドラー法律事務所を訪れた被女は、謎めいた台詞を残して帰途についた。そして数日後、ひとつの報せがもたらされる。娘が失踪した、という。捜索に駆り出されたアラゴンだったが、澱んだ池に投じられたこの一石は、人々のあいだに意外な波紋を描き出していく…。心に弱点を負った男女の軌跡を辿る、異色のサスペンス。』~ ミステリー度、サスペンス度は低く、一般小説に近い。目次は、①少女②女③人魚となっており、パーソナリティ障害を持つ少女の精神的変化の過程、行動を描いたものです。アメリカでのマーメイドの意味は破壊へ導くものということでいいのか?(ドイツのローレライ伝説は、確か船乗りを惑わすだった)ラストはそれに近いものでした。著者60代後半の作品で、アメリカ社会を風刺するような意図があったのかもしれません。 |
No.654 | 5点 | ミランダ殺し- マーガレット・ミラー | 2014/08/30 10:10 |
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弁護士トム・アラゴンシリーズの2作目。裏表紙より~『匿名の中傷文の執筆にいそしむ偏屈な老人、マフィアにコネがあると称する9歳の悪ガキ、寄る年波に必死の抵抗を試みる美貌の未亡人―。こうした登場人物の入り乱れるなか、ある日2人の男女が失踪する。駆け出し弁護士アラゴンをも巻きこんで、物語は予想外の方向へ…。カリフォルニアのとあるビーチ・クラブに展開する恐ろしくもユーモラスな悲劇の顛末。鬼才の異色サスペンス。』~ 異色サスペンスと謳われていますが、前半は昔のテレビでよく見たようなアメリカ的喜劇でした。後半4分の3を過ぎてから事件が起こります。なので、ミステリー好きには退屈な展開だと思います。著者60代の作品ということで、若かりし頃と比べ、いま一つ切れがないように感じます。ラストは三大○○ものの一作品と同様なモチーフでした。シリーズは3までなので、もう一息です(苦笑)。 |
No.653 | 5点 | 明日訪ねてくるがいい- マーガレット・ミラー | 2014/08/28 21:18 |
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弁護士トム・アラゴンシリーズの第1作目。裏表紙の要約~『前夫B・Jを探してほしい、老婦人ギリーの依頼を受けた弁護士トムは、カリフォルニア半島の海辺の小村にたどりついた。B・Jは8年前、当時妻だったギリーとの生活を捨て、この村に新天地を求めてメキシコ娘と駆け落ちしたのだ。だが開発事業に手を出したB・Jは、不動産詐欺で投獄されたという。事業の片棒を担いだハリーというやくざ者の情報に望みを託した。だが何者かに薬を盛られたハリーは、介抱するトムを振り切り、狂ったように干上がった河に飛び込んで無残な墜死を遂げたのだ。次々に殺されるB・Jの過去の関係者たち。老婦人の一徹な願いが招いた戦慄の連続殺人とその意外な真相は?』~ 皮肉な会話のあるハードボイルドタッチの小説です。著者の得意な心理描写は影をひそめ、淡々とした調査状況が語られます。緊迫感がないのでやや辛い感じがします。エンディングの衝撃度は、他の作品ほどではなかったのが残念です。 |
No.652 | 7点 | 耳をすます壁- マーガレット・ミラー | 2014/08/26 09:25 |
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裏表紙より~『思いたってメキシコ旅行に出かけたエイミーとウィルマ。ありふれた旅路となるはずだったが、滞在なかばウィルマがホテルのバルコニーから墜ちて死んでしまう。居合わせたエイミーも、そのときの記憶を欠いたまま失踪。一体そこで何があったというのか?調査の依頼をうけた私立探偵ドッドは失踪人の身辺を探るが…。鬼才が放つ緊迫のサスペンス。』~ プロットは既視感はあるものの、著者の心理描写、謎の提示などの巧みな筆さばきで飽きさせません。著者の作品はこれで4冊目ですが、みな水準以上の出来で、お好みの作家になりそうです。しばらく残りの作品も読んでいこうと思っています。本作も「最後の一行」にサプライズが用意されています。感謝感激(笑)。 |
No.651 | 5点 | 神のロジック 人間のマジック- 西澤保彦 | 2014/08/24 08:44 |
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(ネタバレあり)作品の「肝となる事象」に説得力があるかどうかで評価が分かれると思います。本作の肝は有名作品の「ある○○が○○ない」と同様であるのですが、これについてはミステリーとしては否の立場ですね。SF、オカルト、ホラー系であればよいのでしょうが・・・。なお、「ぼく」の地文に虚偽がないようにする、つまりアンフェアにならないようにするという設定に無理があるように思います。著者の苦労(フェア精神)は分かるような気がしますが、そのため伏線があからさまになり過ぎたように感じます。序盤で真相そのものに触れてしまっていました。比較される同時期の作品は、読者にある違和感を感じさせ、その違和感がラストで判明するという強烈なインパクトがあります。しかし本作の場合、前記のとおりでもったいない気がしました。著者の特徴がでている作品ではあると思います。 |
No.650 | 6点 | 過去を運ぶ足- 阿刀田高 | 2014/08/23 10:28 |
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(再読)著者のデビュー作(1978単行本)と同時期の短編集(1972~1977の作品集)。今思えば、当時は星新一氏のショートショートを読み漁っていた頃で、阿刀田氏のちょっとエロティックな大人の世界にぶち当たり、とても新鮮に感じて、それにハマってしまったのでしょう(笑)。その路線では、「蠢く夜」がいいですね。ある人妻は年一度だけアバンチュールをしてみたくなる。知り合った男は肩から三角巾を垂れていた。怪我でもないらしい。さて、そのわけとは・・・。全編に共通しているテーマは「死」です。基本はブラックユーモアなのですが、数編推理小説らしき展開のものもあります。表題作「過去を運ぶ足」はテレビドラマになったようです。~夫が帰宅すると、実母は倒れており、妻は浴槽(水)に浸けられていた。押し入り強盗が牛乳に睡眠薬をまぜたらしい。妻はそれが原因で流産する。その後実母は交通事故死。義父も心筋梗塞で死亡する。義父の葬儀のとき、義父の足が夫の弟(二卵性双生児・既に死亡)にそっくりなことを発見する・・・。~その他「記号の惨殺」・・・図書館のハイミスが自分を弄んだ後輩を殺害するアリバイトリックもの。「不在証明」・・・妻を殺害しようとし、ホテルの電話を利用しアリバイ工作する。しかし偶然愛人が同ホテルにおり、共犯扱いされる。などがミステリー風味があり楽しめました。 |
No.649 | 7点 | これよりさき怪物領域- マーガレット・ミラー | 2014/08/21 19:57 |
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~若い農園主ロバートは突然姿を消した。食堂にはおびただしい量の血痕があった。そして次の日、十人のメキシコ人労働者がいなくなった。死体は見つからず、数か月後、妻は死亡認定の訴訟を起こした。しかし、ロバートの母親は、息子の死を絶対に認めようとしなかった。~ 死亡認定訴訟の裁判を通して、徐々に明らかになっていく真相。しかし、息子は絶対に帰ってくるという揺るぎない母親の確信により、本当に死亡したのか?母親は何か真相を知っているのか?という謎を残しながら・・・。この辺りは、さすがにうまいと感心しました。真相自体は単純なものですが、ラストでは心理的サスペンスの第一人者と言われるだけのものは用意されています。 |