皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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蟷螂の斧さん |
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平均点: 6.10点 | 書評数: 1679件 |
No.759 | 6点 | 赤い館の秘密- A・A・ミルン | 2015/06/06 20:56 |
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1921年の作品なので、トリックの古さ云々より、私的には先駆的であるかどうかの方に興味があります。トリックは、黄金期の前(1890年代~1910年代)の短篇時代の作品にあるのかもしれません。「黄色い部屋の謎」のガストン・ルルー氏、「不連続殺人事件」の坂口安吾氏に引き続く、”まさか、この作家がミステリーを?”の1冊でした。ワトソン役のビルの存在が際立っていました。 |
No.758 | 5点 | 帽子収集狂事件- ジョン・ディクスン・カー | 2015/06/03 09:20 |
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乱歩氏のいう「『密室』以上の不可能興味が創案されている」ということは、本トリックが先駆的であったということでしょう。その点は評価したいと思います。著者らしさがないという点では、オカルト趣味に興味のない私にとっては逆に良かったですね。減点対象は、①地図があっても判りにくい物語、➁ランポールの存在意義がない、③偶然によるトリック(作為的であれば、もっと高評価なのですが、物語の結末から云えば無理ですね)。ロンドンの霧のようにモヤモヤ感が残ってしまいました。 |
No.757 | 6点 | 二重螺旋の誘拐- 喜多喜久 | 2015/06/01 08:08 |
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本来であれば、もっと高評価としても良いかなと思いますが・・・う~ん微妙(苦笑)。少し欲張ってしまったことにより、サプライズが分散し弱まってしまったようですね。二重螺旋というアイデアが良かっただけに、あるトリック(一人称の物語)一点集中の方がインパクトが強かったかも。作風がやや軽めのため、誘拐ものとしての緊迫感が希薄であったことが残念な点です。 |
No.756 | 5点 | 矢の家- A・E・W・メイスン | 2015/05/31 11:21 |
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裏表紙より~『ジャンヌ=マリー・ハーロウ夫人がなくなって、その遺産は養女のベティに残されることになった。ところが、夫人の義弟ワベルスキーなる怪人物が登場して、恐喝に失敗するや、ベティが夫人を毒殺したのだと警察へ告発した。孤立無援の少女ベティはハーロウ家の顧問弁護士に救いを求め、いっぽう、パリ警視庁からはアノー探偵が現地に急行する。執拗な悪念をいだく犯人と、これに対する探偵の火花を散らす心理闘争は本書の圧巻で、犯罪心理小説の変型としても、サスペンスの横溢している点では類例のすくない傑作!』
本作(1924)は「グリーン家殺人事件(1928)」の先駆け的な作品であるとのことで手にしたものです。あるプロットやディテールで共通項は7~8点ありますね。そのうちの特徴的な3点が「Yの悲劇(1933)」へと引き継がれていました。もっとも3作品とも受ける印象は全く違っています。なお、ヴァン・ダイン氏は本書をベスト7に選びリスペクトしていますので、影響を受けていたことが覗えますね。内容的には、本来フーダニットであるはずですが、裏表紙の「犯人」と探偵の心理戦とあるように、どちらかといえば倒叙的な面が強い。つまり、犯人がバレバレ?(まあ2人のうちどちらかですから~苦笑)。 本作にはその後の「十戒」や「二十則」(1928)で指摘されているような項目が3点ほどありますので、現在視点で読むのは相応しくなく、黄金時代の過渡的な作品として捉えた方が良いのかも。 |
No.755 | 9点 | グリーン家殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2015/05/27 10:13 |
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国内外の作品に多大な影響を与えた古典の名作(1928)。国内では「殺人鬼1931」「黒死館殺人事件1934」「本陣殺人事件1946」「犬神家の一族1951」、海外では「Yの悲劇1933」「そして誰もいなくなった1939」などへの影響。最近では、影響とは言えないが、十角館でのヴァンの登場やガリレオの口癖「実に面白い」など(これは探偵ヴァンスの口癖)。
本作は、「東西ミステリーベスト100(1985版)」で22位にランクインしていたが、「同2012版」ではランク外となってしまっている。もはや歴史的価値さえも評価されなくなってきたのか?・・・。本作に対抗?して書かれたとされる「Yの悲劇」は相変わらず人気が高いのだが。しかし、ヴァン・ダインもエラリー・クインも英米では全く人気がないのは残念なこと。「史上最高の推理小説100冊」(英1990)、「史上最高のミステリー小説100冊}(米1995)では2人のランクイン作品はゼロです(涙)。 本作を高評価とするのは歴史的意義(館もの、連続殺人など)はもちろんですが、犯人設定の巧みさですね。序盤でかなりヒントを与え、犯人であろうと予想される人物を中盤で犯人ではないのでは?と覆す方法(現在では常套手段となっている)。前に読んでいるので、なんとなく犯人は見当がついていたのですが、それでも迷わされました(苦笑)。事件を絵になぞらえ「この絵には『狂った同族主義』という題をつける」などと表現したりし、美術への造詣が深いところを垣間見せています。この辺の薀蓄は趣味と一致していたので許せる!(笑)。 トリックについては、『予審判事便覧』(ハンス・グロス)~実際に起こった事件集~からとっている。この方法はフェアでリスペクトしたい。なお、コナン・ドイルの短編「○○橋」もこの便覧を参考にしている。 二人の評論を見つけたので参考に。「・・・最上級の作家と見られるのはアガサ・クリスチイ、次にヴァン・ダイン、次にクイーンというような順で、クリスチイは諸作概して全部フェアであり、ヴァン・ダインでは「グリーン家」が頭抜けており、クイーンでは「Yの悲劇」が彼の作なら(江戸川氏からおうかがいした)これは探偵小説史の最高峰たる名作だ。・・・」(坂口安吾氏) 「・・・『Yの悲劇』『ブラウン神父の童心』『グリーン家殺人事件』『曲った蝶番』『毒入りチョコレート事件』これらの五作品はすべて、私が中学生の時に読んだものだ。ミステリを読むのが面白くてならなかった蜜月時代のなつかしさが、選択の際にいくらか影響していることは否定しはしない。だけど、どの作品もまぎれもなく傑作である。・・・」(有栖川有栖氏) |
No.754 | 4点 | 谷崎潤一郎 犯罪小説集- 谷崎潤一郎 | 2015/05/25 09:06 |
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日本ミステリー小説史(堀啓子氏)に『谷崎は、<明治期の涙香>から<大正末期の乱歩>まで間隙を埋めた存在とされ、「探偵小説の中興の祖」とも呼ばれているのである。』とありましたので、手にしてみました。
『途上』(1920)は”プロバビリティの犯罪”(直接手を下さず、何らかの仕掛けで死ぬ確率を高め、結果的に死に至らせしめる)として、江戸川乱歩氏により評価されたようです。しかし、ミステリーとして面白いかと問われれば、つまらないと答えるしかないし、その後発展したわけでもない。本作の内容は証言のある事象以外は、探偵の根拠のない推論でしかなく、納得性に欠けますね。偶然性や蓋然性については主人公の言う通り「論理的遊戯」であるしかないと思いました。 『私』(1921)は「アクロイド」と比較されているようですが、「アクロイド」はトリックであり『私』はトリックではありませんので、先駆性云々の対象とはならないような気がします。もしトリックと捉えるならば、アンフェアでかつ瑕疵があることになりますね。「潤一郎ラビリンス」の解説者千葉俊二氏によれば、「話法という小説的な技法への関心によって書かれたとの印象が強く、後年の谷崎が『痴人の愛』『卍』などの一人称告白体の小説によって新境地を切り拓いたということを考え合わせれば、むしろその点において論じられるべき作品だろう」が的を得ていると思います。著者本人も探偵小説扱いされることを嫌っていた節もありますし、本人の趣旨と違うところで乱歩氏や後世の人に評価されてしまっているという気がします。 時代的な面からすれば、私的には芥川龍之介氏の「藪の中」(1921)の方がよっぽどミステリーらしいと思うのですが・・・。 |
No.753 | 5点 | 日本ミステリー小説史- 評論・エッセイ | 2015/05/23 21:13 |
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裏表紙より~『江戸後期、大岡越前の裁判小説が人気だったように、日本人は元来、謎解きが大好きだった。だが、ポーの「モルグ街の殺人」にはじまるミステリーが受容され、国産の推理小説が定着するためには長い茨の道が必要だった。黒岩涙香による本邦初のミステリー、探偵小説でデビューした泉鏡花、『新青年』と横溝正史、社会派という新ジャンルを切り開いた松本清張や「日本のクリスティー」仁木悦子まで、オールスターで描く通史。』~
序章では、シェークスピア「ヴェニスの商人」に登場する裁判官名ダニエルは、旧約聖書外典の裁判物語にあるなど、ミステリーのルーツ的な話題から始まります。また「大岡政談」の子争いなど一部の話は中国の裁判小説「棠陰比事」が原典であるなど、目から鱗が落ちるような話もありました。黒岩涙香氏の翻訳苦労話などは今では笑えるような話です。「ドグラ・マグラ」を読んだ横溝正史氏が頭がおかしくなっちゃたという逸話など楽しめます。ヴァン・ダイン氏に影響を受けた甲賀三郎氏が本格について論争(1931)を引き起こしたことなどは、2005年の「X論争」に通じるものがありますね。そういえば、二階堂黎人氏もヴァン・ダイン氏のファンだと思います。なお、一部有名作品の完全ネタバレをしていることが難点です。 |
No.752 | 7点 | 川は静かに流れ- ジョン・ハート | 2015/05/22 17:06 |
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2008年度アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞(エドガー賞)受賞作品。謝辞には、「わたしが書くものはスリラーもしくはミステリの範疇に入るのだろうが、同時に家族をめぐる物語でもある。・・・」とあります。サスペンス作品ですが、複雑な人間模様(葛藤)が描かれており深みを感じる作品ですね。ミステリー的な観点からすれば、ミスリードはあるものの犯人は推測しやすいかもしれません。処女作の「キングの死」に続く作品ですが、「あくの強さ」はやや薄くなったかなという印象です。 |
No.751 | 6点 | 女には向かない職業- P・D・ジェイムズ | 2015/05/19 19:56 |
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独特の文章でやや読みにくいところもありましたが、22歳の世間知らずの娘のひた向きさ(ハードボイルドタッチ)は良く伝わってきました。 |
No.750 | 6点 | 貴婦人として死す- カーター・ディクスン | 2015/05/16 20:28 |
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2つのトリックは評価したいと思いますが、リーダビリティや物語の展開に難があるような気がします。また、H.M卿の存在がやや邪魔(浮いている)に感じられた。 |
No.749 | 5点 | ケンネル殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2015/05/13 11:52 |
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薀蓄不要派なので、中国陶器と犬の話は邪魔になってしまいました(苦笑)。真相にはかなりの無理があり、さらに複雑化したため、その結果、すべてのトリックが中途半端になってしまったという感じです。題名や薀蓄からしても、犬のかかわり方はいま一つでした。 |
No.748 | 7点 | 殺人鬼- 浜尾四郎 | 2015/05/10 21:21 |
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1931年の作品ですが、古臭い感じは全くしません。当時、かなり斬新なスタイルだったのではと思います。どっぶりと本格に浸った作品ですね。この時代にこんな作品が発表されていたことに驚き。丁寧な作りで意外性も充分ありました。 |
No.747 | 8点 | 船富家の惨劇- 蒼井雄 | 2015/05/08 10:03 |
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1936年の作品。「赤毛のレドメイン家」(1922)との共通点は、’死体のない殺人’’○○に盲目となる’’第2の探偵が現れる’などありますが、物語の内容はまったく別物で楽しめます。同書をうまくミスディレクション(読者にではなく、探偵に対して)に利用しているところが非常にユニークです。高評価とするのは、やはりいろいろな面で先駆的な作品であるという点です。時刻表トリック(知る限り、鮎川哲也氏の作品<1950年代>が先駆的との情報が多かった。)、アリバイトリック(大御所の1958年の作品で扱われた有名なトリック)、ユニークな動機(1946年○○殺人事件)など印象に残っている大作に先行していました。古典の中にいいものを発見する喜びを味わえました。 |
No.746 | 5点 | ミステリ・ハンドブック- 事典・ガイド | 2015/05/04 18:10 |
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「読者が選ぶ海外ミステリ・ベスト100」~これまで行われてきた評論家や作家、一部ファン・クラブによる内外のベストテンとは異なり、”私たちの”ベストテンの性格を強く帯びています。したがって、読者によって作られたページといえるでしょう。~とあります。
前段の「東西ミステリーベスト100」とは違い、一般読者620人による人気投票ですよということでしょう。しかし、集計方法に問題があり、読者の意見(好み)を反映したものとは言えないのでは?。ジャンル別(9部門)に投票したものを、集計して上位100を選んでも意味がないと思うのですが・・・。ジャンル別のランクのみとするならば意義がある。つまり、好きな作品を5冊投票し、ベスト100が出来上がり、その結果をジャンル別に再集計してみたということならば理解できるのですが(どうもそうではないみたいです)。ジャンル別も10位までではなく30位くらいまで記載してくれても良いような気がしました。 |
No.745 | 7点 | キングの死- ジョン・ハート | 2015/05/03 17:42 |
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裏表紙より~『失踪中の辣腕弁護士が射殺死体で発見された。被害者の息子ワークは、傲慢で暴力的だった父の死に深い悲しみを覚えることは無かったが、ただ一点の不安が。父と不仲だった妹が、まさか…。愛する妹を護るため、ワークは捜査への協力を拒んだ。だがその結果、警察は莫大な遺産の相続人である彼を犯人だと疑う。アリバイを証明できないワークは、次第に追いつめられ…。』~
デビュー作とは思えないほど良くできていますね。物語で明らかになってくる、ある題材があまりにもアメリカ的であり、日本では中々受け入れにくいのかも。また、登場人物全員に癖があり、あくが強い。全体の雰囲気も重く暗い。この辺も一般受けがしなかったのかもしれません。しかし、内容は密で濃い600ページでした。 |
No.744 | 6点 | 愚かものの失楽園- パトリック・クェンティン | 2015/04/29 20:08 |
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「わが子は殺人者」(1954・ホイラー単独作品)の2年後の作品ですが、前作品には及ばなかったですね。プロットはなんとなく似ているのですが、二転三転という意味では物足りなかった。なお、裏表紙は、犯人像を特定してしまっているので、それ以外の登場人物を犯人から排除してしまうという罪づくりなものです。 |
No.743 | 5点 | 雷鳴の館- ディーン・クーンツ | 2015/04/28 17:56 |
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ホラー・サスペンス。入院中の主人公の身の回りの起こる怪奇現象。夢、幻想、それとも精神異常?と前半は引っ張っていきます。後半、残り3分の1で、がらりと展開が変わります。この展開について行けるかどうかで評価は分かれてしまいそう。私の場合は、ついて行けない派でした。 |
No.742 | 5点 | 叔母殺人事件 偽りの館- 折原一 | 2015/04/24 21:40 |
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叔母の殺人計画は、本家のリチャード・ハルも同様でしたが見るべきものがなかったですね。その点では、やはりサスペンスとしての面白味に欠けると思います。叙述は、それほど複雑ではなく理解しやすい基本形?・・・といっても結局騙されたわけですが(笑)。もっとコンパクトでもよかったかなという印象です。 |
No.741 | 7点 | ウォッチメイカー- ジェフリー・ディーヴァー | 2015/04/20 18:15 |
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(東西ベスト73位)裏表紙より~『ウォッチメイカーと名乗る殺人者あらわる。その報がリンカーン・ライムのもとに届いた。手口は残忍で、いずれの現場にもアンティークの時計が残されていた。やがて犯人が同じ時計を十個、買っていることが判明した―被害者候補はあと八人いる!だが、いつ、どこで?尋問の天才キャサリン・ダンスとともに、ライムはウォッチメイカー阻止に奔走する。一方、刑事アメリア・サックスは別の事件を抱えていた。会計士が自殺を擬装して殺された―事件にはニューヨーク市警の腐敗警官が噛んでいるようだった。捜査を続けるアメリアの身に危険が迫る。二つの事件はどう交差するのか?史上最強の敵、登場!時計じかけのごとく緻密な犯罪計画をひっさげてライムとアメリアを翻弄するウォッチメイカー。熾烈な頭脳戦に勝利するのはライムか殺人者か?ドンデン返しに次ぐドンデン返し。あまりに緻密な犯罪計画で読者を驚愕の淵に叩き込む現代最高のミステリー・シリーズ最新作!』~(2006年シリーズ7作目)
途中で、話(事件)がちょっと出来過ぎではないの?との思いもしましたが、ラストでは強制的に納得させられてしまいました(笑)。このシリーズを読むのは4冊目ですが、全編長いようなので、あと1冊ぐらいで打ち止めにしようかな・・・(苦笑)。本作は、マンネリ化を避けるため、サックスの父親の事件を挟むなど憎い演出がありました。 |
No.740 | 4点 | バグダッドの秘密- アガサ・クリスティー | 2015/04/16 07:37 |
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裏表紙より~『おしゃべり好きが災いして会社を馘になったヴィクトリアは、一目惚れした美青年を追いかけて一路バグダッドへ。やっとのことで彼の勤め先を探しあて、タイピストとして潜り込んだものの、とたんに不可解な事件に巻き込まれてしまった。さらに犯人の魔手は彼女にものびて…中東を舞台に展開するスパイ・スリラー。』~
ロマンチックな冒険談といったところですね。とてもスパイ・スリラーとは言えないような、まとまりのない作品です。誰がどういう目的で動いているのかが良くわかりません。著者の私生活(若き頃)をだぶらせて読めば楽しめるかも?。イギリスの秘密諜報部員が登場します。007・ジェームス・ボンドより2年早い登場ということが分かった作品です(苦笑)。 |