皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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HORNETさん |
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| 平均点: 6.33点 | 書評数: 1208件 |
| No.508 | 6点 | ソウル・コレクター- ジェフリー・ディーヴァー | 2018/03/11 11:49 |
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| こういうサイバー系の話は、正直あまり入って来ず、本シリーズにしては珍しくノれなかった。ある人間のプロフィールを購入品のレベルまで把握して、それによって証拠を捏造し、その人間を犯人に仕立て上げるように犯罪を犯す―というコンセプトは面白かった。微細な証拠物件を調べ上げる犯罪捜査の逆手をとった秀逸な発想で、その犯人像には期待が高まった。そのうえで示された真犯人は確かに意外だった。
ただいかんせん、コンピュータやネットを介した犯罪とそれに纏わる捜査は、言葉で説明されてもあまりピンと来ず、正直読み流してしまう。どうせ理解できないのだからと、結末を急ぐ気持ちで読んでしまった。 その点、完璧なセキュリティの中からどうやって情報を持ち出したのか、ということに関する真相は完全なアナログで、盲点としても「なるほど」と思えた。出入りに探知機を通過させるというところまで徹底していると、逆に原始的な方法が盲点になるという面白さがあった。 |
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| No.507 | 8点 | 棲月- 今野敏 | 2018/03/11 11:30 |
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| 近隣の私鉄と銀行のシステムが次々にダウンする妙な事案が発生。万一、ハッカーによるシステム攻撃のことも考え、念のため署員を向かわせる竜崎だが、管轄外での事案に口を出すことになるその動きに、警視庁生安部長から横槍が入る。
時を同じくして、管内で少年の殺人事件が発生。一見関連のない二つの事案だったが、関わった少年グループたちが「ルナリアン」と呼ばれるカリスマハッカーを恐れているらしいことが分かってくると、竜崎は二つを結び付けて考えようとする。突飛に思える発想だったが、結果的にその読みが事件を解決へと導いていく― ・・・と、「関係があるのではないか」「気がする」というような感覚的な、曖昧なスジ読みで捜査を進め、結果的にドンピシャという一足飛びの捜査過程は相変わらずだが、本シリーズに地道で精緻な捜査やロジックは期待していないので問題ない。それよりも原理原則を崩さない竜崎の一貫性と、始めはそれに戸惑いながらも次第に強く惹かれていく周囲の人間とのドラマが醍醐味。 本作でも、捜査会議で「署長はキャリアなので、現場の捜査は分からないのでは…」というニュアンスの言葉が他部署から出た時に、戸高が「何もわかっちゃいないのはそっちのほう。署長がこれまでどれだけの事件を解決してきたかも知らないくせに」というようなことをボソッと言う場面がある。普段は反抗的ともとれる態度の戸高のこの一言は、シリーズを読んできた者にとって「最高!」と拍手したくなるものだった。 シリーズ2作目から続いていた大森署長も本作が最後。ついにキャリアに復帰する。馴染みの大森署メンバーと別れるのは読者も寂しいが、新しい場でまた信頼ある人間関係を築いていくであろう竜崎の今後も、楽しみにしたい。 |
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| No.506 | 6点 | 悪いものが、来ませんように- 芦沢央 | 2018/03/05 20:51 |
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| 作品に施された仕掛けは、正直特段目を見張るものではないと思った。「何」と分かっていたわけではないが、「何となくそんな感じのようなもの」は感じていたので、仕掛けが明かされた時も「ああ…そういうことね」という感じだった。
ただ、ラストのもうひと仕掛けがよかった。正直、こっちの方が「分かっていた」んだけど、過保護母と親離れできない娘の、救いようのない話のラストとしては、申し分のない落としどころだったと思う。 |
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| No.505 | 6点 | 祈りの幕が下りる時- 東野圭吾 | 2018/02/11 16:26 |
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| <ネタバレです>
基本的にクオリティが高い筆者の作品としては、平均的な完成度という感想。 地道な聞き込み捜査によって、バラバラに見えるピースが次第につながっていき、全体像が見えてくるという基本的な展開は十分に面白い。 また、父娘の絆、何を犠牲にしてでも娘の人生を守ろうとする父親の愛情、という点は素直に胸を打たれるものだった。ただ、いくらそのためとはいえ、人を殺めることに対してあまりにも良心の呵責が欠けていると思う。最初の入れ替わりの事件はまだしも、善意の第三者である押谷道子を何のためらいもなく手にかける忠雄や、そのことを聞いてもすぐに受け入れられてしまう博美の姿は、父娘の絆という言葉だけで片付けることにはできない。 ダミーの伏線として描かれていた苗村についても、「子ども思いの熱心な先生」というキャラクターが真相解明の段になってあっさり覆されて、「嫉妬心の強いストーカー気質の男」に急になり下がっており、都合よく書き換えられている感じがする。 映画化の派手な宣伝文句に知らず知らずのうちに影響され、勝手にハードルを上げてしまっていたかもしれないが、良作であることは間違いないが、突出した傑作という評価にはならなかった。 |
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| No.504 | 8点 | 屍人荘の殺人- 今村昌弘 | 2018/02/11 15:50 |
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| C.Cの本格ミステリに、パンデミック・ホラーを材料として絶妙に組み込んでいる秀作。ゾンビ世界の設定が、アリバイやトリックにも論理的に絡んでいて素晴らしい。建物の見取り図が掲載され、その構造が重要になってくる点では「館もの」の雰囲気も備えていて、「一粒で何度もおいしい」類の作品だと思う。
冒頭探偵役と目された男が早々に犠牲者になってしまったのは驚いたが、それだからこそ後々の展開に絡んでくるのかと身構えていたが、そうでなかったのは少々肩透かしだった。むしろ、再登場の場面はあまりにも切ない… ちっちゃな疑問なのだが、最後の最後に右足をゾンビに「噛まれた」男は、その後のエピローグでなぜ普通の生活に戻れているのか??と思った。 |
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| No.503 | 8点 | ジェリーフィッシュは凍らない- 市川憂人 | 2018/02/04 19:29 |
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| 航空工学やら、化学やらが出てきたり、舞台が外国だったりで、「難しい感じなのかな?」と構えて読み出したのだが、まったくそんな心配はなく、引き込まれて一気に読めた。純粋に面白かった。
雪山に遭難した航空艇「ジェリーフィッシュ」内で、一人、また一人と殺されていくいわゆるクローズドサークルはベタなのだが、こういうのが好きな人たち(もちろん私も)は何作読んでもそのこと自体に飽きることはないので、非常に面白かった。そして何より本作は「最後の一人」も殺されてしまうという「そして誰もいなくなった」スタイルで、そのからくりが非常に斬新、よく考えられた仕掛けでよかった。 物語は閉じ込められたジェリーフィッシュ内の恐慌と、その後の捜査が交互に描かれる構成だが、捜査過程で描かれて伏線が、最後の真相で見事に回収されているとともに、ジェリーフィッシュ内の描写ともきちんと結び付いていて本当によく考えられていると感じた。 |
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| No.502 | 4点 | 祝言島- 真梨幸子 | 2018/02/04 19:13 |
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| (前の)東京オリンピック時に、突如噴火して島民の多くがその島を追われるも、東京オリンピックに盛り上がる世情を考慮して歴史上から消去され、地図上にも示されていないという都市伝説の「祝言島」。時を経た2006年、東京で一晩に3人の人間が殺害される事件が起こる。その真相をたどっていくと、そこには「祝言島」から東京へ逃れた子孫の影がちらほらと見えてきた―
都市伝説を題材とし、東京の芸能界を舞台としたホラーテイスト(?)のミステリ。お蔵入りとなった祝言島のドキュメンタリー映画の謎を追うような展開はなかなかに面白かったのだが、いかんせんめまぐるしく入れ替わる視点人物に少々疲れてしまったのと、最後に示される真相が「ここまで読ませといてそれ?なんだかなぁ…」という思いだったのとでこの点数。 |
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| No.501 | 8点 | 許されようとは思いません- 芦沢央 | 2018/01/21 22:47 |
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| どの作品も押並べてクオリティが高く、非常に読み応えのある短編集。3作品はホワイダニット、2作品は倒叙型(?1つはそうでもないかもしれないが)といった体だが、2作品の方も仕掛けが施してあって、非常に面白い。
追い詰められる緊張感を味わってしまう「目撃者はいなかった」、読者自身が自分の邪悪さに気付いてしまうようなダークさをもつ「ありがとう、ばあば」、そういうことか!と思わず読み返してしまう「姉のように」と、さまざまなアプローチで読者を楽しませてくれる。 腕が立ち、カードを多く持つ作家の典型的な良質短編集。 |
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| No.500 | 3点 | 東の果て、夜へ- ビル・ビバリー | 2018/01/21 12:45 |
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| 2016年英国推理作家協会賞受賞作。
ヤクを売る組織で、売り場となる「家」の見張りを任されていたイーストだったが、ある日突然警察の手が及び、這う這うの体で逃げてきた。組織のボス・フィンは、そんなイーストに「一人の男を殺しに行ってきてほしい」と命ずる。フィンのもとで生きるほか選択肢のないイーストは命じられるままに、引き合わせられた3人のメンバーと共に2千マイル離れた地へ旅立つ。 正直、合わなかった。なぜこの作品が世に高評価を受けているのか、私には理解できない。主人公のイースト視点での、行く先行く先での出来事や風景、心象の描写が延々と続き、退屈で仕方がない。遠すぎる世界観での勿体をつけた展開に、ほとんど共感も感動もできないまま終わった。第三部の「オハイオ」の章が一番面白かった。 ハマる人には、何というか、「スタンド・バイ・ミー」のような説明のしにくい感動があるのだろうか。うーん。 |
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| No.499 | 7点 | Y駅発深夜バス- 青木知己 | 2018/01/20 16:54 |
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| 粒ぞろいの良質短編集。
トリックと偶然が巧みに織り込まれた表題作「Y駅発深夜バス」、同じ日に同じ人間の殺人を企てた2人の倒叙型作品「特急富士」が面白かった。「猫矢来」は日常の謎タイプの作品で、こちらは最終的にはイイ話(防ぐ方法はいくらでもあった気はするが)。 先行書評のお二方と挙げる作品がほとんど同じだなぁと思った。そう思うとこれらの作品は手堅いといえるかもしれない。 |
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| No.498 | 5点 | ノーマンズランド- 誉田哲也 | 2018/01/20 16:38 |
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| 今回の作品は、からくりに拉致問題が絡んできて、ちょっと政治色も出ている。面白いには面白いのだが、シリーズを追うごとに、凝るあまりに仕組みや背景が複雑になっていく感じがして、理解しながら読もうと思うとトントン拍子にページを繰ることができないぐらいになっている。
今回も姫川玲子のわがままぶり、暴走っぷりは相変わらずで、好きな人には喜ばれるだろうが、私はどうも鼻につく。しかも最後は完全にはじめに取り掛かった事件と別件の話で終わっていて、尻切れトンボのような感じもした。 |
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| No.497 | 4点 | インデックス- 誉田哲也 | 2018/01/20 16:19 |
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| エピソード的な、浅い話もあり、読み易くはあるが歯応えはない。その割に、姫川シリーズとしての状況は確実に進行し、最後は捜一復帰という道筋になる。
他作家の多くのシリーズ物は、短編では状況を動かさずに、長編で展開させていくものがほとんどだと思うのだが、誉田氏のこのシリーズはこうやって短編でも普通に進行していく。それもどうなんかなぁ…と思う部分もあり、やっぱり長編の方がよいなぁというのが結論。 |
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| No.496 | 7点 | ブルーマーダー- 誉田哲也 | 2018/01/08 22:01 |
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| これは、シリーズの中でも秀作ではないだろうか。
「これでもか」というぐらい、バタバタと人が抹殺されていく勢い、異常さは第一作「ストロベリーナイト」に通ずるものがあり、「どういう枠組みの事件なのか?」という大きな謎への興味も後半まで褪せずに続いた。このシリーズの魅力は入り組んだ謎の解明と、その謎の魅力を支える劇的な犯罪様相にあると思うので、その両者が備わった作品だと感じ、非常に面白かった。 やはり基本的に本シリーズは、真相についての意外なひっくり返しはなく、犯人の犯行に至る経緯や背負っている背景を解き明かすことに主眼がある。前半の伏線に真相(真犯人)が隠れているということは確かにあるが、読者がするのは「推理」ではなく「ああ、ひょっとしたらあの人かな?」という「推測」である。ただ、もともと主人公姫川の捜査過程、その途上でのあれこれを描くことが主軸のような作品なので、そのくらいでちょうどよい感じはある。 「インビジブル・レイン」で姫川の事情が急展開したのだが、うまく次の展開を描いているのもよかった。ただ、このシリーズはちょっと「これまで読んできている人」を想定しすぎた書き方で、新規参入がしづらいシリーズじゃないかな…。 |
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| No.495 | 7点 | 遠縁の女- 青山文平 | 2018/01/06 17:56 |
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| ①「機折る武家」…武家の婿養子の後妻に入った女が、生活のために機を織ることに。ふがいない夫と聞き分けのない義母に不満を抱いていた女の気持ちが変わっていく。
②「沼尻新田」…領地借り上げの代償として御国が薦める新田開発に乗り出し、成功を収めた武家当主。そこにあった、本当の思惑は? ③「遠縁の女」…武威よりも学問が重宝され始めていた寛政の世に、父親に勧められて武者修行にでた武士。5年の修業を経て帰ってきた男に、本当の事情が明かされる。 表題作の③がミステリの要素はいちばん強い。やや冗長な部分はあるが、急展開するラストは面白かった。 ミステリ要素は薄いが、①はえもいわれぬ良さがあった。とりたてて劇的な展開はない話なのに、なんだか引き込まれた。 このジャンルはライバルが少ないからかもしれないが、読み出すと好きになる人も多い作家さんではないかと思う。 |
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| No.494 | 7点 | 果つる底なき- 池井戸潤 | 2018/01/06 17:36 |
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| 超売れっ子の原点を見るような気がして嬉しい(といっても、売れ作品はミステリじゃないのでほとんど読んでないが…)。そしてそれがミステリであること、江戸川乱歩賞受賞作であることがなおニンマリ。現在の池井戸作品ファンに、「彼、乱歩賞作家で、今では乱歩賞の審査員もやってるミステリ作家なんだよ」と教えると結構驚かれる。デビュー作であるからこの人なりに多少の拙さはあるのかもしれないが、私に言わせれば最初からこのクオリティは大したもの、だと思う。
銀行の仕組みや、「手形」とやらの仕組みに明るくないので、そもそもの事件の構造を理解するのに労を要したのがやや難だったが、真相を探ろうとする主人公に次第に魔の手が伸びていく展開や、それでも独力で真相に迫ろうとする過程には力があり、読み応えがあった。 典型的な社会派ミステリのような気がして、これが乱歩賞を受賞したということに意外性を感じた(作品のレベルとして足りないという意味ではなく、ジャンルの意味で)。 |
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| No.493 | 6点 | インビジブルレイン- 誉田哲也 | 2018/01/06 17:10 |
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| 姫川玲子シリーズの長編。
暴力団関係のチンピラが惨殺された。当然組対四課も交えての捜査となるのだが、暴力団の抗争がらみというスジで捜査しようとする組対四課と、それとは関係なく捜査を進めようとする玲子ら捜査一課との綱の引き合いが始まる。 そんな中、重要な事件関係者として「柳井健斗」という男が捜査線上に浮かぶ。しかし、そこで上層部から「ヤツには触るな」との指示が。あとは予想通り、その方針に従わずに独力で捜査しようとする玲子、それを泳がせる今泉係長ら同僚。そしてやがてはそれがバレるが、最終的に真相に一番にたどり着くのは玲子たち— とまあ、本シリーズのある意味お決まりのパターン。ただ今回は、作品の複線となっている玲子の男性事情にも変化があり、それもなかなか読ませた(安っぽい所もあったが)。 真犯人が誰かということはそれほど重要ではなく、事件の背景と、それによって合点がいく犯行手口という展開が主で、ハウダニットの色が濃いかな?(ジャンルで「本格/新本格」に分けられているけど・・・それはないような気が) 相変わらずある意味わがままで、共感できる部分も反発を感じる部分もある主人公・玲子だが、それもこれもひっくるめて疾走感あるストーリーは好感がもてる。 |
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| No.492 | 5点 | ソウルケイジ- 誉田哲也 | 2018/01/06 15:42 |
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| ここまでの投稿者の方々とは対照的に、小生の出来の良くない頭脳では、人間関係の把握が難しく、何度も頭の中で整理したり見返したりして読み進め、少々疲れた。(間を置きながら読んだからかもしれないが)
バラバラ死体でのこうした真相は一つのパターンではあるが、背後の人間関係と絡めたトリックとしては想定外で確かに面白かった。 |
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| No.491 | 7点 | 顔 FACE- 横山秀夫 | 2017/12/23 12:58 |
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| 私の中では一番の短編の名手。無駄なく、無理なく、謎を絡ませながらまとめ上げる手管はさすが。今回も楽しませてもらった。
「共犯者」「心の銃口」が秀逸。特に後者は、失敗や裏切りなどのひっくり返しにより真相にたどり着く過程は非常によかった。婦警間の人間模様、という点では「疑惑の似顔絵」も心に残った。 女性蔑視に耐え、立ち向かう警察内での婦警の葛藤が本編の一つのテーマだが、主人公・瑞穂は常にそのことが頭にあり続ける。どんな社会もいまだに男性優位の風潮は残り続けているが、特に警察という社会はその色が濃いのだろうな、としみじみ感じた。 |
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| No.490 | 5点 | ゼロの激震- 安生正 | 2017/12/23 12:13 |
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| ハリウッド映画張りの仰々しいスケールの話。大きな失敗により今は業界を追われたプロフェッショナルにトップからお呼びがかかり、世界的な危機を救うという骨組みもよくあるパターン。読み進めるのはそれなりに面白いが、そういう「SF的な危機」「天才肌のヒーロー」「国家世界のために命を賭す美学」といった演出があまりにもあざとく、鼻白んでしまうところも強い。推敲された原稿を読むような、「立て板に水」の会話も、カッコいいかもしれないが行き過ぎな感じ。これはこの作者の作品全体に言える特徴だが、作品を重ねるごとに傾向が強くなってきている気がする。
地震に関する薀蓄もほとんど理解できないし、そういう科学的な内容が理解できなくともストーリーの理解に支障はないので、ただうるさいだけになってしまう。 題材、発想は他に類を見ないもので面白いと思うが、男たちの矜持を感動的に描こうとする意気込みが強すぎるので、白けてしまう人も多いのではないだろうか。 |
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| No.489 | 7点 | 半席- 青山文平 | 2017/12/16 15:47 |
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| 江戸時代、幕府のお膝元で徒目付を務める片岡直人は、この役職を踏み台として旗本の勘定へと駆け上がることをめざしていた。というのも、片岡の家は直人の父、直十郎が御目見以上まで務めたのだが一役のみで、家として「旗本」と認められるためには、少なくとも二つのお役目に就かなくてはならないからだ。父親が一役だけ御目見以上を務めた状態の直人は、一代御目見「半席」であり、直人が勘定に上がることで晴れて旗本となることができる。そのためにも、お上の覚えをよくするべく、横道にはそれずに日々の任務に邁進する必要があった。
しかし、上役の組頭・内藤雅之は、そんな直人にしばしば「頼まれ御用」の話をもってくる。「頼まれ御用」とは、見知った筋から個人的に依頼を受ける裏仕事で、速やかな昇進を目指す直人にとっては顧みる必要のない案件である。だが、そこには表の仕事にない「人臭さ」が漂い、内藤の人柄と共に、少しずつその魅力に惹きつけられていく直人がいた。 物語は、内藤が持ち込んでくる「頼まれ御用」を受け、真相を解き明かす短編集。依頼は主に江戸界隈で起きた刃傷沙汰の「わけ」を探ること。罪を犯した者もはっきりし、本人もそれを認めているが、「なぜ」そのことが起きたのわからないままの事件について、被害者も含めた関係者がそれを知りたいと依頼をしてくるのだ。いわゆる、江戸を舞台としたホワイダニットの短編集である。 息子のために立身出世を旨としている直人の心を、飄然と頼まれ御用を引き受け、人々の心の綾を解きほぐす組頭・内藤の在り様が乱す。いわゆるグルメの内藤は、直人と話すときはいつも行きつけの居酒屋で酒肴を共にするのだが、その料理に関する描写、薀蓄も話に彩を添えていて面白い。 解明される事件の動機は、時代の価値観があってこそのものであり、時代物のミステリとして非常に興味深い作品だった。 |
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