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虫暮部さん
平均点: 6.21点 書評数: 2006件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1086 8点 八月のくず- 平山夢明 2021/11/27 13:06
 相変わらず、予め一線を越えちゃったような短編集。
 揃いも揃って獣の王で比較しづらいが「箸魔」が最も高カロリーか。一方、蜘蛛の糸一本分だけは此岸とつながり理屈をギリギリ通すのがこの人のやり口であって、その点完全に不条理なところへ行ってしまう表題作はちょっと違和感があった。初出一覧(=各作品がどのへんから産み落とされたか)も興味深い。

No.1085 7点 invert 城塚翡翠倒叙集- 相沢沙呼 2021/11/23 12:45
 個人的には、非待望の続編。
 あんな大ネタのキャラクターをシリーズ化するのはなんだかなぁ。“ノンシリーズのオンリーワンの強さ”とでも言うべきものが確かにあって、シリーズ化はせっかくのインパクトを水で薄めてしまうような行為だと私は思う。探偵役が必要ならまた作ればいいじゃないか。『 medium 』の孤高の存在感は失われてしまった。勿体無い。とは言ってもまぁ読むんだけど。

 しかし実は、私には倒叙ものの的確な評価が出来ない。
 犯人達は上手くやっているし、ミスもわざとらしくはない。とりあえず指摘すべきアラは見付からなかった。犯人側の心理描写は読ませるし、倒叙スタイルから更に捻った某作は見事。
 その上で、“良い倒叙もの”と“物凄く良い倒叙もの”との線の引き具合が判らない、と言うのが正直なところだ。この煮え切らない評価基準を超えて迫って来る傑作、とまでは行かなかった。

No.1084 6点 雷神- 道尾秀介 2021/11/23 12:44
 作者が仕掛けたトリックよりも、それを通じて描かれた“心の絆”みたいなものがキモなのだろう。しかしそう読むには“動機付けの軽さ”が仇になった。
 つまり、本気で正体を隠すつもりなら、人目が無い場所でも偽名で呼び合うべき。語り手達がその点を全然配慮していないので、軽い好奇心から過去をほじくり返しているように見えてしまうのだ。安易な行動のせいで人死にまで出た話に思えてしまうのだ。
 どうも最近は“昔のことはそっと葬ったままにしておきたい事件関係者”に共感しがちな私である。

No.1083 4点 生贄を抱く夜- 西澤保彦 2021/11/23 12:42
 これぞと言う名品が見当たらない短編集。パターンとは違うことをしてみようとの心意気は評価したいが、これではあまり意味が無い。

No.1082 8点 警視庁草紙- 山田風太郎 2021/11/21 12:43
 ミステリ的な捻りは乏しく、物凄く面白い話と言うわけではない。結構悲惨なエピソードも含む。
 しかしそれでも尚、行間のそこここに“碌でもないことばかりでも、どうにかやって行くしかないのヨ”と嘯いているような、浮世に対する清濁併呑の肯定性が感じられて、それがとても良い。出しゃばり過ぎないユーモアも効いている。
 個人的偏見だが、それは横溝正史『悪魔の手毬唄』で感じたムードに似ている。
 
 ただ、俄に納得しがたい結末には暫し呆然……。

No.1081 5点 N・Aの扉- 飛鳥部勝則 2021/11/18 10:30
 “言葉”とは要するに記号である。人間の頭から生じるが、外へ出た途端にその発信元からは切り離される。故に、コレは本心、コレは嘘、と他者が言葉の内容から判定することは、突き詰めれば、不可能と言うことになる。
 本書は“どのように書けば、その言葉が筆者の本心のように感じられるか”の実験(練習?)のように思えた。まぁ少なくとも前半は。

No.1080 8点 安達ヶ原の鬼密室- 歌野晶午 2021/11/18 10:25
 再読なり。ストーリー、何となく覚えていた。トリック、それなりに覚えていた。欠点、はっきり覚えていた!
 と言うわけで「こうへいくんとナノレンジャーきゅうしゅつだいさくせん」「 The Ripper with Edouard 」は飛ばして読んだ。エクセレント! これでいいのだ。個人的にこの密室トリックは五指に入る。

No.1079 5点 密会- 安部公房 2021/11/16 12:37
 突然やって来た救急車が妻を連れ去った……ミステリとして書かれたわけではないが、私には本作、江戸川乱歩のエロティックで奇妙な話(「人間椅子」「パノラマ島奇談」等)のアップデート版のように思えた。
 そして幾つかの叙述上の企み。考えてみれば“作者が読者に言葉を使って仕掛けるトリック”と言うのは必ずしもミステリの専売特許じゃないわな。

No.1078 5点 神と野獣の日- 松本清張 2021/11/11 10:25
 評価に迷う。しっかり書かれた作品ではある。しかし主題がアレならこの内容はありきたりだ。
 “みんなできるだけ生きていてくれ”と言う課長の叫びはストレートで印象的。刑務所に着目したのは上手い。或る意味最も残酷な結末で、その点は唸らされた。
 (ラスト数行のアレは無しにして、そこからの“復興”を描くのはどうかな? と思った)

No.1077 5点 人形幻戯- 西澤保彦 2021/11/10 12:01
 このシリーズに対して“ミステリと言うよりキャラクター小説だ”との感想は当然あっただろうが、だからと言ってキャラ味を減退させては意味が無いのである。作者が萎縮してシリーズ・キャラクターの活躍を手控えている感じ。
 その上で色々工夫しているのは判るが、それがなんだかチマチマした印象につながってしまう。特に、ホワイダニットについて、物理トリック解明と同じような理詰めの文法で語ってしまうのはちょっと勿体無いのでは?

No.1076 4点 月の落とし子- 穂波了 2021/11/06 10:17
 危険を承知で遺体を回収し、地球に持ち帰りたがる。なんと感傷的な。この事故は人災でしょう。
 更に――志願して現場に出たのに感情的になり暴走。
 タクシーの中で無防備にペラペラ話す。
 特定の個人に固執して封鎖から出損ねる。
 何が出来るわけでもないのに、フラフラ出歩き封鎖ラインを確認しに行く。
 など、登場人物たちの愚かしさ、が言い過ぎなら心の弱さにイライラした。勿論それがドラマを生むわけだが、いちいち分かれ道で悪い方に進む感じがどうにも……。
 結末はやけに甘く、アレは被害を拡大させただろう。大の虫を生かして小の虫を殺すしかない時は、そうするべきだと私は思う。霧島補佐官が一番共感出来た。

 アガサ・クリスティー賞受賞作だが、あくまでパニック小説。極限状況の中でパズラーに展開するわけではない。

No.1075 6点 転・送・密・室- 西澤保彦 2021/11/04 13:04
 探偵側の新しいキャラクターや設定に目が行ってしまい、パズラーとしての印象が薄くなってしまうなぁ。犯人(に限らず、事件関係者)の心情にも、ストンと得心しがたい部分がチラホラ見受けられる。あ、でも表題作の殺人の動機には意表を突かれつつ説得力を感じた。

No.1074 7点 メルカトル悪人狩り- 麻耶雄嵩 2021/11/03 15:25
 突出した傑作は見当たらないものの、シリーズに期待されているものをきちんと引き受けた作品集。それはつまり、奇想を“いい塩梅”でまとめずに、行くところまで行くぜ、と言うことだ。
 
 伝聞の“~らしい”が頻出するのは気に障った。しかし、カギカッコの台詞なら嘘もあり得るが、地の文の“~らしい”は事実、ってことで情報の正確さを担保している?
「水曜日と金曜日が嫌い」は、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』で“四重奏団”があまり生かされていない、との私の不満に応えてくれたかのよう。で、アンソロジー本『7人の名探偵』での初出から“大鏡→大栗”と名前が変更されてるんだよね。元ネタがあまりにも通じなかったか。
 “イケメン”と“ハンサム”はどう違う? “ドリカム編成”なんて今も言うのだろうか(伏線かと疑ってしまった→男1人は不祥事で脱退してるじゃないですか)。題名を使った駄洒落はいらないと思う。

No.1073 7点 開城賭博- 山田正紀 2021/11/03 15:24
 広義の“時代物”作品集。SF要素はありません。
 表題作。“史実”と言うアドヴァンテージはあれど、短い描写で賭けの場に見事引きずり込まれた。「恋と、うどんの、本能寺」。もっと紙幅を割いて、うどんの真相を追求して欲しかった。「独立馬喰隊、西へ」。作者十八番のはぐれ異能集団もの。幾度も読んだパターンだけどグッと来ちゃうね。私には判らないけど、岡本喜八監督へのオマージュとの由。

No.1072 6点 時は乱れて- フィリップ・K・ディック 2021/11/03 15:21
 サンリオSF文庫の表紙はやり過ぎ。そこまで壮大な宇宙ドラマではない。SFではあるが、なんだかパラノイアやアムネジアを扱ったアメリカのスリラーのような感触も強い。原版の出版社は本作をSFではなくサスペンス小説として買ったそうな。P・K・ディックにしてはきちんと“真相”が示されて、その内容はミステリでもこのパターン読んだことあるぞ、そしてその時も思ったことだが、1人の為にここまで大掛かりなことをする必要あるのか? いや、SFしかもディックだと思えば寧ろ受け入れ易いかも。

No.1071 8点 兇人邸の殺人- 今村昌弘 2021/10/31 13:46
 特殊設定サヴァイヴァルが面白過ぎてフーダニット部分が埋もれちゃったなぁ。
 “あの子”の実体がアレなら、“生け贄”は無意味だったかもしれない?
 雑賀の来歴は一応提示されたが、女性のほうのソレは不明のままで気になる。

No.1070 6点 黒牢城- 米澤穂信 2021/10/28 14:44
 歴史小説にも時代劇にもあまり縁が無い私にとって、天正年間に関する最も身近な資料は重野なおき『信長の忍び』なのである。しかも本書を読んだ時にちょうど雑誌連載が荒木村重の謀叛の真っ最中。種々の予習になったのは良くもあり悪くもあり(史実なのでネタバレは如何ともしがたい)。折に触れてぎゃぐまんがのきゃらくたぁが頭に浮かび参ったでござる。
 歴史小説としての重厚なりありてぃは、みすてり的にあまり凝れないと言う弱点でもあって、第三章までは物足りなくあったが、くらいまっくすのかたるしすは流石と申すほかなく感嘆致し候。

No.1069 8点 - 麻耶雄嵩 2021/10/26 13:10
 魅力的な世界設定(変な宗教大好き)。“珂允”を始めとする突飛な命名が効いている。結末のぶん投げ方もまさに麻耶雄嵩。
 ただ、その“世界”の有様の描写にフーダニットが埋もれてしまった感はある。犯人の意外性とかロジックでも驚ければ最強だったのに。

No.1068 6点 解体諸因- 西澤保彦 2021/10/26 13:03
 この頃はまだ登場人物の名前が普通だ。なんだか西澤保彦を読んでいる気がしないなぁ。
 おかしなコンセプトは評価するが、テーマが共通だから出来のバラツキが目立つのかも。「解体昇降」のエレベーターの真相には驚いた。

No.1067 7点 廃遊園地の殺人- 斜線堂有紀 2021/10/24 17:11
 クローズド・サークルだけどあまりサスペンスは感じられない。それこそ台詞にあるように“遊園地は広過ぎる”からだろうか。明らかになる裏事情には目を瞠ったし、そこに至る諸々も上手く示されていたと思う。

 ただ、これは単なるイチャモンになるが、ちょっと上手過ぎて“今時の優れた本格ミステリ作品はこうだ!”と言う枠に綺麗に嵌まり過ぎな感はある。悪役も含めてみんな“いい子”でスッキリ読み終えてしまった。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.21点   採点数: 2006件
採点の多い作家(TOP10)
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アガサ・クリスティー(75)
西尾維新(73)
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