皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1953件 |
No.1033 | 7点 | 正月十一日、鏡殺し- 歌野晶午 | 2021/08/12 11:32 |
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前半は“リミッター装着済み”って感じで、特に「盗聴」は物足りない。後半はそれを解除、「美神崩壊」は十年後も夢に見そう。
“作風のヴァリエーション”ってことではあるが、こんな風に明確に並べてしまうと、後半を引き立たせる為に前半を捨て駒にしたように思えてしまう。と言うか、私に対してはそのように機能した。 |
No.1032 | 6点 | レッド・ドラゴン- トマス・ハリス | 2021/08/05 10:03 |
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例えばジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムは、ハンディキャップがあっても取替えが利かないんだなあと思わせる能力を具えているが、こちらのウィル・グレアムは? 組織がぼんくらだから相対的に有能、と言う程度に見える。爪を隠しているのか。寧ろ、身軽に動けるポジションを彼に与えたクロフォードの采配の勝利か。
中だるみ、と言うより全体的にたるんだ感じで、勿体振った書き方がスピード感を損ねていると思った。雑誌の配送スケジュールの件とか、色々と面白いアイデアが盛り込まれてはいる。 |
No.1031 | 10点 | さよなら妖精- 米澤穂信 | 2021/08/03 13:05 |
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大好き。三読目。
墓地や白河さんの名前についての件は、謎解きとして納得感が無く、物語の中で据わりが悪い気はする。消去法推理の最後の決め手に、調べれば判ることを推理で求めようと言うのも奇妙。 でもそのへんは本作の本質ではないし、ケチを付けても評価は揺らがない。 新装版に追加された短編は、無難であまり意味がないと私は思う。 |
No.1030 | 7点 | さらわれたい女- 歌野晶午 | 2021/08/03 13:02 |
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ネタバレしつつ揚げ足取り。
部屋の借主である会社A。その関係者Bさん。Aと契約している会社C。そこに勤めるDさん。 しかし、Dさんの本作品に於ける役割は、Cの社員ではなく“Bさんの愛人である”ことだ。 Dさんが別の仕事をしていれば、便利屋が糸を辿ってもDさんに出会うことはなかった。この出会いで真相に気付いた。 つまり、結末から逆算して、手掛かりになるように作者が人物を配置しているのである。ちょっと露骨じゃないかなぁ。確かに、手掛かりをきちんと用意するのは大事だけど。 |
No.1029 | 6点 | 幻惑密室- 西澤保彦 | 2021/08/03 13:01 |
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再読。神麻さんのキャラクターしか覚えていなかった。
『幻惑密室』と言っても、いわゆる密室モノじゃないね。寧ろクローズド・サークル? 超能力に関する、妙にキッチリしたルール。これは“作品世界全体が仮想現実。人類が意識をデジタル・データ化して巨大なサーバーの中へ移住した未来の話”と言うメタ設定があるに違いない。 |
No.1028 | 6点 | 無関係な死・時の崖- 安部公房 | 2021/08/03 12:59 |
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この人の短編は言うほど鋭くなくて玉石混交に感じるな。
ミステリ的なオチでは「誘惑者」「なわ」。SF的展開の「人魚伝」。 安部公房は戯画的に描かれる諸々の“営み”が肝だと思っていたが、特に面白い前記の作品は、顔のある人物のキャラクター的な深み(褒め過ぎ?)がポイント。自分がそのポイントに惹かれたのも意外だ。 |
No.1027 | 6点 | 極上の罠をあなたに- 深木章子 | 2021/08/03 12:58 |
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登場人物が少なくて、捻るならこの人しかいない、って人がやっぱり鍵になっている。そういう意味での遊びの無さが気になった。葬儀社の諸々は面白い。 |
No.1026 | 6点 | 実験的経験- 森博嗣 | 2021/07/31 13:07 |
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手抜きのようなミステリよりはこっちのほうがまし。一種のミステリ論・文化論のようなものではある。外来語の語尾にーを付けない問題の答も此処に。 |
No.1025 | 8点 | 三体- 劉慈欣 | 2021/07/30 10:41 |
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物語の基盤はさほど珍しくもないファースト・コンタクトのヴァリエーション? しかしその上に盛ったトッピングが美味珍味全部乗せ!
小林泰三もびっくりの人列コンピュータやら、西尾維新も顔負けの巨船攻略やら、長編数冊分のネタを惜しげもなく投入。“中国”と言う偏見まで味方に付けて、そのくせちょっといい話もそれはそれで泣ける。 そして、それらの配置が整然としていて、混沌としたイメージになっていないのが、迫力不足どころか、本作に於いてはプラスに作用しているところが面白い。作者がエンジニアだからね(偏見?)。 |
No.1024 | 5点 | ボーンヤードは語らない- 市川憂人 | 2021/07/29 10:22 |
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事件関係者(犯人に限らない)の心情が妙に入り組んでいて、しかしそれが解きほぐされてもさほどスッキリ納得出来るわけではなく、謎を複雑化させる為に心理的裏付けをでっちあげている感じ。良くない意味で都筑道夫みたい。表題作は比較的シンプルで良かった。
あと、私はこのシリーズをキャラクター小説として楽しんではいないなぁと気付いた。各人にクローズアップした短編集だけど、そのへんはどうでもいいや。 |
No.1023 | 7点 | ヨハネの剣- 山田正紀 | 2021/07/27 12:33 |
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全体的にあっけない結末で、まぁそこが短編である意義でもあるのだろう。ユーモラスなアイデアが光る「アナクロニズム」、曖昧なアイデアを雰囲気で描き出した「優しい町」が良い。表題作のテーマは短編で使い尽くすのはちょっと勿体無いか。登場人物が過激派と言う設定は展開上結構有効? |
No.1022 | 6点 | 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 蝶は聖夜に羽ばたく- 太田紫織 | 2021/07/27 12:31 |
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今更ながら、シリーズ・キャラクターのトラウマをこんなにガンガン積み上げて、それを燃料にして走る、しかもジャンルがミステリ、とは一体何なんだろう。
本書は前後の巻を結ぶツナギに過ぎず、開き直るにも程があるだろとは思うが、蘭香の視点が新鮮で意義はある。 |
No.1021 | 7点 | 砂の女- 安部公房 | 2021/07/25 10:17 |
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俯瞰的に見ているうちは、集落が砂に埋もれていくメカニズム等、具体的なヴィジュアルとしてはイメージしづらい設定が,言葉で無理矢理頭の中に捩じ込まれる。
物語に或る程度以上没入すると、暑さやじゃりじゃりした砂の感触と言った皮膚感覚がやけに鮮明。 “左肩が、割箸を割るような音をたてた”とか“トンボの羽に火をつけたようなあっけなさ”とか、文芸っぽいくせにエグい表現が散見されて、痛過ぎて笑っちゃう感じが持続する。総じて、瘦せ細った足腰で心許なく踊り続けたような読後感。 |
No.1020 | 8点 | うらんぼんの夜- 川瀬七緒 | 2021/07/21 10:13 |
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ミステリの目眩ましにホラーを用いたとも、ホラーの捻りにミステリを取り込んだとも言えそう。こういうタイプの作品にはあまり耐性が無いので、私はかなり驚いたぞ。そこに謎が在ったことにすら気付かなかった。前半は話がどっち方向に進むか摑めず微調整を繰り返している感があったが、それも広い意味で伏線(主人公の軸が割とぶれやすい点とか)。
田舎の閉塞感みたいなものは、上手く書くほど却ってパターン通りになってしまって、オリジナリティの観点では不利かな~と言う気がした。 私はこの結末、或る意味“健気で爽やか”と感じたことも特記しておこう。 |
No.1019 | 8点 | 目を擦る女- 小林泰三 | 2021/07/20 12:22 |
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私にとって、小林泰三作品で最も忘れがたいのは「予め決定されている明日」であるようだ。“好き”とはちょっと違う。初読から十数年。世界の向こう側で忙しなく蠢く算盤人たちの朧な影は、私の頭の中にくっきりと刻み込まれたままである。嗚呼イヤだイヤだ。 |
No.1018 | 7点 | 馬疫- 茜灯里 | 2021/07/20 12:20 |
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獣医学ミステリの力作。説明が上手いので、最初は珍紛漢だった感染症や馬業界のネタも判ったような気になれた。新しい要素を逐次投入して引っ張る計算も的確に機能していると思う。ラストは悪ノリ気味だが、エンタテインメントだし此処はやらなきゃね。
2021年の現実を一部引き継いでの2024年が舞台。独特の臨場感を伴って読めるのは今だけかも? これはやはり、馬に託したコロナ禍の批評なのである。 |
No.1017 | 7点 | 欺瞞の殺意 - 深木章子 | 2021/07/20 12:18 |
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本作に限らず、往復書簡による小説に対しては、つい苦笑してしまうのだ。
そういう“形式”なのだから突っ込むのは野暮だと知りつつ、延々と長い手紙を送り付け合う登場人物の精神性に引っ掛かってしまう。私信特有の大仰な表現、更に本作の場合は彼等の年齢も相俟って、どうにも気持悪い。 と思っていたところが、読み進むにつれて話の展開と気持悪さが絶妙にリンクし始めた。こういう風にこじれた奴がこういう犯行、非常に説得力がある。深木章子史上屈指のキャラクター小説に仕上がったのではないか。 |
No.1016 | 5点 | 狂風世界- J・G・バラード | 2021/07/20 12:17 |
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この“狂風世界”と言う魅力的な設定を、自然科学的にハードSFとして処理しないのは、そういう作風だとはいえ勿体無い。
その点を別にしても、個々のエピソードがなかなか走り出さず、後半の3章で急にスピード・アップ、しかし時機を逸したか、ようやく気分が乗った途端に終わってしまった。R・Hについてはもっと掘り下げて欲しかったなぁ。 |
No.1015 | 6点 | 殺人は容易だ- アガサ・クリスティー | 2021/07/18 13:18 |
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ラスト4分の1くらいで表面化する、某氏の異様な自己認識(『 DEATH NOTE 』みたい)について、もっと読みたかった。
因みに私は、真犯人は秘かに某氏を愛していて、某氏の視線から“この者を殺せ”とのメッセージを(勝手に)読み取って実行しているのかな、ディープなラヴ・ストーリーだな、と推理したのだが……。 |
No.1014 | 5点 | ガーデン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2021/07/16 13:37 |
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この動機。犯人は随分と自信家だこと! EQの1943年の長編と似た構図である。
事件に関わる面々のキャラクターや、ザルのように思える賭博システム(あんな方法で大丈夫なの?)は面白かった。 解決編でヴァンスは“同じ条件のもとで実験してみたと想像します”と語るが、“とある場所での銃声が他の場所で聞こえるかどうか”を独力で調べるのは大変。勿論必要とあらばそういう仕掛けは作れるが、一言も言及していないのはつまり作者がその点に気付いていなかったのだろう。 |