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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1843件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1183 6点 一九八四年- ジョージ・オーウェル 2022/04/23 12:46
 作者は訴える “こういう社会はひどいね!”。
 私は応える “そんなの判っとるわ!”。

 普遍的な価値観に則った小説は、しばしばその価値観に過剰に寄り掛かっている気がしない? いや、必ずしも “普遍的” ではないのかな。現代日本の或る程度標準的な立ち位置で読む限りに於いて、と言うことで。
 大雑把な言い方だが、社会の悪い部分なんて似通っているものだから、それを描けば、あとはちょっとした運次第でタイムレスな作品として高評価されるのではないか。
 意地悪く言えば、それは作家にとって “楽な道” だと私は思ってしまうのだ。

 本作は、ディストピア小説としてはあまり飛躍が無くて普通(アングッドな意味で)。作者の物凄い想像力による予言の書、とか言う感じではない。
 途中で長々と挿入されるゴールドスタイン哲学の妙な説得力には要注目。統治して転向させる為の様々な手法もアナログで楽しい。あれじゃ責める側も大変だ。

No.1182 5点 気まぐれスターダスト- 星新一 2022/04/23 12:45
 ジュヴナイルは別として、一貫した “時代性の無さ” が、まさに星新一。初出情報が無いのは手抜きだな~と思っていたが、読むうちにどうでもよくなった。中には “えっ、星新一がコレを?” な短編もあって、逆説的に “星新一とは何か” を照らし出しているあたり興味深い。土着的ホラーになりそうなのをサラッとまとめた「珍しい客」が私には印象的だった。
 しかし物凄く面白い作品集と言うわけではまぁない。【星】の【屑】とは言い得て妙。いや、逆かな。最低ラインがコレって凄い、と言うべき?

No.1181 6点 フランケンシュタイン- メアリ・シェリー 2022/04/16 12:25
 イメージと全然違うな! これは見た目が醜いと言うだけで差別された者の哀話。

 意外や怪物のヴィジュアルについての記述は僅かしかない。“身の丈八フィート”で “均衡を欠いた姿”だけど “髪は黒くつややかに伸び、歯は真珠のように真っ白” だって。包帯を巻いたり釘が刺さったりの記述はありません。あとはひたすら醜い醜い醜い、だから、中身も恐ろしい怪物に違いない、と決め付けられた。
 同じことが小説の外でも起こっている。実は彼、頭は冴えていて饒舌だし、本質的には素直だし、運動神経も抜群。ところが、総身に知恵が回りかねみたいな、コミュニケーション不全のメタファーみたいなキャラクターが、二次創作三次創作で捏造されてしまった。

 つまり怪物は小説の中でも外でも、“醜い大男” に相応しい(と思われがちな)内面だと誤解されたのである。因みにそこまで暴れまくり殺しまくったわけでもない。
 “判り易い表層的なイメージが、正しい情報よりも、如何に一人歩きするか” と言う作中のテーマを見事に実世界でも体現してみせた。天晴れである。風評に囚われていた私は伏して怪物に許しを請わねばならない。

 小説としては、真ん中あたりに位置する怪物の自分語りがめっちゃ面白い。その前後は、物語成立の手続きをきちんきちんと踏んでいるところが堅苦しい。ここにもっとメリハリがあればなぁ。夫の詩を引用しているのは御愛嬌。

No.1180 6点 モーツァルトは子守唄を歌わない- 森雅裕 2022/04/16 12:25
 クラシック音楽には詳しくないので小説として読んでも楽しめる。ポップ・ミュージックだと突っ込みどころが多くてそうは行かないんだよね。
 ユーモアのタイプとしても好みだし、見せ場の連続でだれずに読めたが、さて振り返ってみると物語はふにゃふにゃしている。特に、注目されると差し障りがあるなら「子守唄」を握り潰せばいいのに、そうせずに別名義で出版させた、と言うくだりが腑に落ちない。

No.1179 6点 法廷遊戯- 五十嵐律人 2022/04/16 12:24
 上手く出来ているのは判るが、私にとって法律論はメイン・ディッシュにならないな~と思った。頭いい人の一人称形式は匙加減が難しい? その内面が反映されている筈の地の文からはそこまで優秀なものが読み取れない。背伸びしながら喋っている感じ。何でも屋のキャラクターはナイス。

No.1178 6点 鬼女の鱗- 泡坂妻夫 2022/04/16 12:24
 泡坂妻夫の時代物は、以前読んだ時にまるで楽しめなかったので途中で止めてしまった。此度再び手に取ってそれなりの味わいを感じられたのは “これは同作者の現代ミステリとは別物” と割り切ったおかげか。とはいえ「江戸桜小紋」の真相が亜愛一郎シリーズみたいで一番良かった、と思ってしまうあたり修行が足りんな~。

No.1177 6点 家守- 歌野晶午 2022/04/16 12:23
 「人形師の家で」、ラストの台詞のような事情があるなら、共犯者を呼び出す必要は無いよね。
 「転居先不明」、偶然をどこまで許容するかは悩ましいところだが、人を殺した夜に偶然もう一人の人殺しがやって来た? うーむ……。

No.1176 8点 マザー・マーダー- 矢樹純 2022/04/13 12:42
 相変わらず、生活感のある悪意や欠点のある人物を描くのが抜群に上手い。腹の底に残る読後感の適度な重さ。神経の行き届いた見せ方と隠し方。第三話の二人の意外な転身がナイス。
 但し、その出来の良さが皮肉にも作品の限界になっている感がある。このハードウェアではこれ以上のソフトウェアを走らせられないと言うか。飽和状態を突破して大傑作を物するには、現状維持以上の一歩が必要なのではないか。

No.1175 7点 そして名探偵は生まれた- 歌野晶午 2022/04/13 12:41
 表題作と「夏の雪、冬のサンバ」の密室トリックは、同じもののヴァリエーション。更にそれを作中作(映画)でも暗示している。
 つまりこれは『安達ヶ原の鬼密室』と同じ仕掛けで、但しあちらではそのことを明示したのに対して、こちらでは “どーだ、分散させたら気付かないだろ” と言いたげ。『安達ヶ原の鬼密室』で叩かれた意趣返し?

No.1174 7点 名探偵 木更津悠也- 麻耶雄嵩 2022/04/13 12:41
 本書の主人公達がこだわるような、“探偵” ではなく “名探偵” と言う概念は、日本語独特のものだろうか。単なる good とか famous とは違う感じだよね。中国語ならアリ? ガラパゴス的に拗らせて進化した “名探偵” と付き合えるのは日本語人の特権かも。
 「禁区」の手掛かりが秀逸だと思う。

No.1173 7点 ルピナス探偵団の憂愁- 津原泰水 2022/04/13 12:40
 シリーズ前巻でも思ったが、謎の解きほぐし方が上手くない。
 ○○の理由は?→××だから! と言う割とシンプルな軸を設定しておきながら、その周りに色々絡み付かせるせいで、ズバッと決めて欲しい話なのに説明がくだくだしくなってしまうのだと思う。ミステリ要素以外の部分は高評価出来るんだけどな~。

No.1172 6点 倒錯のロンド- 折原一 2022/04/13 12:39
 ミステリに於いて、種明かしを如何にストレス無く読めるか、は重要であって、特に叙述トリックは基本的に探偵役が解説出来ないわけで、作者の筆力も読者の理解力も問われる。本作はその点で今一つ。オチにオチを重ねたのも煩わしい。問題編は面白かったけどね。今一つなのは私か?
 ウィリアム・アイリッシュ作品のタイトル借用は、“偶然の一致” に説得力を与える方便であると同時に、“そういう海外作品のタイトルのパクりってよくあるよね~” と皮肉としても機能していると思う。

No.1171 5点 聖シュテファン寺院の鐘の音は- 荒巻義雄 2022/04/06 15:06
 『白き日旅立てば不死』の続編。
 『異邦人』と『不思議の国のアリス』を無理矢理接木したような作品。特に後半は、世界構築が逸脱しつつ加速する一方、物語の展開はゆったりしており、絶妙な静謐さを感じさせるものの、これでは続編の意味があまり無いのではないか。その意味の無さこそがこの作品世界の意味なのだと言う気もするが、もう少し速やかに収めても良かった。

No.1170 4点 日光霊ラインの謎を追え!- 荒巻義雄 2022/04/06 15:05
 随分無理が感じられる真相も、ニューヨークとかポストモダンとかいってないで、“一族の血の歴史” みたいなおどろおどろしい、もしくは幻想的な書き方なら、伝説との絡みも含めてもっと説得力を得られたのではないか。と言うか、“伝奇” と “ミステリ” の世界観をミスマッチなまま上手く重ねることを意図しているような気がするが、成功していない。

No.1169 5点 九度目の十八歳を迎えた君と- 浅倉秋成 2022/04/06 15:04
 不思議な設定はあっさり許容出来たし、最後に色々嵌まって行く様は巧みで心地良かったが、何か今一つ乗り切れなかった。歳のせいかな。絶妙と言うか大胆なタイトル。

No.1168 6点 館という名の楽園で- 歌野晶午 2022/04/06 15:03
 息子の復讐劇で館が炎上するものだと思っていた。はっきり書かれてはいないけど、保険金も使い尽くしたと言う含みだよね。
 いかにもミステリ・マニアがやりたがりそうなトリックの為のトリックをミステリ・マニアが実践している、と言う意味での説得力はある反面、自分も同類ゆえ勘で何となく気付いてしまったのが残念。

No.1167 4点 幸福の密室- 平野俊彦 2022/04/06 15:03
 下手だな~。密室トリックは簡単だし、諸々の考察は浅いし、何より主人公の行動原理がさっぱり判らん。陰謀論に飛び付いて謎の使命感で突撃したら何故か都合良く真実を突いてしまった話?
 読者を苦笑させる狙いで意図的にこのキャラクターを造形したなら凄いけど、そう考えるには世界観があまりに同調し過ぎている。
 あっでも、これを島田荘司が第13回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞に選んだのは何となく納得。

No.1166 8点 獣たちの海- 上田早夕里 2022/03/29 13:52
 メインの中編「カレイドスコープ・キッス」の柱は二つ。カレイドスコープ:立場による世界の違い、異なる視点ゆえの摩擦。これについては結末で作者が語り過ぎかな~と言う気もする。ラスト3ページは無くても良かった。
 で、キッスのほうは中心人物二人の関係性。早川書房は百合SFアンソロジー『アステリズムに花束を』を出したり、そこから派生した小川一水『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』をシリーズ化したりしていて、それに呼応したのかな~と邪推。少なくとも出版社サイドはそういう流れが生まれたと捉えているのでは(もっとやって)。

No.1165 5点 木製の王子- 麻耶雄嵩 2022/03/29 13:50
 素材を鑑みれば、もっともっと楽しめた筈なのに……アリバイ問題で消耗し過ぎたか。精緻な状況が存在する必要はあるけどその内容自体はどうでもいい、って困るよね。そこで読み疲れたら読者にとっても本末転倒だし。

 やっと気付いた。“舞奈桐璃” と言う名前は “MY納豆売り” って洒落なんだな。

No.1164 6点 多重人格探偵サイコ 雨宮一彦の帰還- 大塚英志 2022/03/29 13:50
 ……ってことで、まとめて読めば勢いでプラス・アルファくらいはあるかも。
 登場人物達の表層を積み重ねることで、読者に勝手にその内面を構築させるような、(必ずしも悪い意味でなく)表面的な作風。コミックのノヴェライズと言う出自は当然大いに関係あるだろう。しかし風呂敷を広げっぱなしで “夢の跡” って感じは哀しい。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1843件
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